説明

緑色蛍光ガラス

【課題】蛍光媒体の励起効率を向上させることで蛍光特性を向上させ、それによりエキシマレーザー等の紫外域のレーザー光を蛍光ガラスに照射して生じる緑色蛍光を計測する光学系を有する光軸調整用光学部品やビームプロファイラー等のレーザービーム計測装置等に好適に使用することが可能な蛍光ガラスを提供すること。
【解決手段】蛍光ガラスを、Tb3+を蛍光媒体として紫外光励起によって緑色蛍光を呈する蛍光ガラスとし、該蛍光ガラスの陰イオンをF-からなるものとし、ガラス中の全陽イオンに対してTb3+が5〜25mol%、Ce3+が0.05〜10mol%とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光の励起により可視光発光を生じせしめる蛍光ガラスに関し、特に、エキシマレーザー等の紫外線照射によって可視光発光を行うことに適した蛍光ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ用やランプ用として実用化されている蛍光体は一般的に、主に硫化物や酸硫化物あるいはハロ燐酸塩を母体材料とし、希土類元素を発光中心とするものである。緑色光を発光する蛍光体としては、ディスプレイ用にZnS:Cu、Alが実用化され、またランプ用にはLaPO4:Ce3+、Tb3+などが実用化されている。しかし、これらの蛍光体は不透明な粉体であり、その粉体を基板の上に塗布して利用されているため、用途が蛍光体の表面から発光する蛍光を利用する場合だけに限られている(非特許文献1)。
【0003】
この問題を解決する手段として、表面のみならず内部からも緑色発光する透明な蛍光ガラスが知られている(例えば、特許文献1乃至3)。これらの文献に記載の蛍光ガラスは、Tb3+を蛍光媒体とする酸化物ガラス系、又はフツ燐酸塩ガラス系の蛍光ガラスである。そして、これら蛍光ガラスは、エキシマレーザー等の紫外域のレーザー光を蛍光ガラスに照射して生じる緑色蛍光を計測する光学系を有する光軸調整用光学部品やビームプロファイラー等のレーザービーム計測装置等に使用することができる。
【0004】
紫外光励起によって緑色蛍光を呈する蛍光ガラスは、励起光源が紫外領域であるため、Tb3+が導入される母ガラスの紫外波長域に光吸収があると、紫外光を長時間照射した場合に、ガラスが着色する等して蛍光効率が低下する等の不具合が生じやすい。従って、使用される母ガラスは紫外波長域の光吸収係数の小さなガラスを使用することが好ましい。
【0005】
そして、紫外波長域で光吸収係数の小さなガラスとしては、弗化物ガラスが知られている。そして、本発明とは別の目的で作製されたものではあるが、弗化物ガラスを母ガラスとして、Tb3+が導入されたガラスが、特許文献4、非特許文献2で開示されている。
【0006】
【特許文献1】特公昭57−27048号公報
【特許文献2】特開平8−133780号公報
【特許文献3】特開平10−167755号公報
【特許文献4】特開平11−302638号公報
【非特許文献1】蛍光体ハンドブック、オーム社、1987年、3編:実用蛍光体、165
【非特許文献2】Jianrong Qiu等,“Faradye effect in Tb-containing borate, fluoride and fluorophosphates glasses”、Journal of Non-Crystalline Solids, 213&214、(1997年)、193乃至198頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、Tb3+を蛍光媒体として紫外光励起によって緑色蛍光を呈する蛍光ガラスであって、紫外波長域で光吸収係数の小さなガラスを母ガラスとし、そして蛍光媒体の励起効率を向上させることで蛍光特性を向上させ、それによりエキシマレーザー等の紫外域のレーザー光を蛍光ガラスに照射して生じる緑色蛍光を計測する光学系を有する光軸調整用光学部品やビームプロファイラー等のレーザービーム計測装置等に好適に使用することが可能な蛍光ガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明の蛍光ガラスは、Tb3+を蛍光媒体として紫外光励起によって緑色蛍光を呈する蛍光ガラスであり、該蛍光ガラスの陰イオンはF-からなり、ガラス中の全陽イオンに対してTb3+が5〜25mol%、Ce3+が0.05〜10mol%であることを特徴とする。
【0009】
Tb3+が導入される母ガラスとして、陰イオンがF-からなるもの、すなわち弗化物ガラスとすることにより、紫外波長域に光吸収の少ないガラスとしやすい。弗化物材料は、酸化物材料や硫化物材料と比較してバンドギャップエネルギーが大きいため、紫外側の吸収端の波長が短く、そのため紫外波長域でより光吸収を小さくしやすい。
【0010】
光吸収が小さいと、エキシマレーザーに代表される強い紫外光を照射したときに光吸収にともなうガラスの発熱が小さく、この発熱によるガラスの破損が起こりにくくなる。又、紫外光吸収を原因とする構造欠陥が生じにくいので、構造欠陥によるガラスの着色も生じにくくなる。
【0011】
Tb3+は、紫外光励起により緑の蛍光を生じせしめる蛍光媒体であり、その含有量は、ガラス中の全陽イオンに対して5〜25mol%とする必要がある。5mol%未満では、十分な蛍光強度を得難く、25mol%超では、濃度消光が生じ、蛍光強度が低下する、又は、ガラス化が困難になる等の不具合が生じる。本発明のガラスに存在するTb3+は、励起光として、波長170〜390nmの光を照射することにより、波長470〜630nmの緑色の蛍光を生じせしめる。
【0012】
本発明では、蛍光媒体であるTb3+の紫外光励起による蛍光発生の効率化を検討したところ、ガラス中にCe3+とTb3+とが共存すると、Ce3+が吸収したエネルギーをTb3+へ効率よく受け渡すことにより、Tb3+からの緑色蛍光に対する励起効率が波長220〜320、特には波長230〜310nmの波長領域において顕著に改善され、蛍光効率の向上に奏功することを明らかにした。
【0013】
上記蛍光効率の改善には、Ce3+の量がガラス中の全陽イオンに対して0.05〜10mol%の場合に特に効果を奏する。Ce3+が少量であっても効果があるが、十分な効果を発揮さしめるためには、その量は、0.05mol%以上は必要で、好ましくは、0.5mol%以上必要である。他方、その量が10mol%超では、ガラス製造時の結晶化傾向が大きくなることや、ガラス原料の溶解性が悪くなり、ガラスの形成が著しく困難になる。そして、ガラス製造時のガラスの形成しやすさを考慮すると、Ce3+の量はガラス中の全陽イオンに対して7mol%以下とすることが好ましい。
【0014】
そして、本発明の蛍光ガラスは、全陽イオンに対してAl3+を15〜55mol%有することが好ましい。陰イオンがF-からなるガラス、すなわち弗化物ガラスでは、Al3+はガラス形成能を有する成分である。弗化物ガラスでガラス形成能を有する陽イオンの中で、Al3+は紫外波長域の吸収係数を増加せせる傾向が少ないので、本発明に好適なガラス形成のための陽イオンである。そしてガラス製造時の結晶化傾向、ガラス原料の溶解性を考慮すると、その量は、ガラス中の全陽イオンに対して、15〜55mol%、好ましくは20〜50mol%、より好ましくは、30〜40mol%とすることが好ましい。
【0015】
又、本発明の蛍光ガラスは、陰イオンに前記F-に加え、陰イオンにCl-、Br-、I-から選ばれる少なくとも1種をガラス中の全陰イオンに対して0.1〜15mol%有するようにしてもよい。陰イオンにこれらハロゲンイオンを導入することにより、Ce3+の電子状態に影響が生じ、励起帯が長波長側へと拡大する。その結果、波長300〜330nm、特には波長310〜330nmにおける励起効率が改善され、これら波長光で励起した場合の蛍光効率を向上させることに奏功する。
【0016】
ガラス中の全陰イオンに対して0.1mol未満では、励起帯の拡大幅がわずかであり、上記波長域での励起効率の改善効果が少なく、15mol%超では、紫外波長域での光吸収が増加しやすくなり、また、ガラス化が困難になる傾向がある。これを考慮すると、上記ハロゲンイオンは、好ましくは1mol〜12mol%、より好ましくは、2〜10mol%とできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光ガラスは、紫外波長域の光を励起光として緑色の蛍光を効率良く生じせしめるので、紫外域のレーザー光を蛍光ガラスに照射して生じる緑色蛍光を計測する光学系を有する光軸調整用光学部品やビームプロファイラー等のレーザービーム計測装置への使用の好適である。そして、本発明の蛍光ガラスは、励起のための波長が230〜320nm、又は、230〜330nmの場合に特に蛍光を効率良く生じせしめるので、励起のためレーザー光の波長がこれら波長域の場合、本発明の蛍光ガラスの使用が特に効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の蛍光ガラスは、Tb3+を蛍光媒体として紫外光励起によって緑色蛍光を呈する蛍光ガラスであり、該蛍光ガラスの陰イオンはF-からなり、ガラス中の全陽イオンに対してTb3+が5〜25mol%、Ce3+が0.05〜10mol%であることを特徴とする。そして、各種陽イオンとF-との弗化物、各種陽イオンとF-を除くハロゲン化物等をガラス原料とする混合物を酸素量が1ppm以下の不活性雰囲気下で融液とし、これを急冷することでガラス化される。
【0019】
前記不活性雰囲気とするためには、前記混合物が溶融される環境をN2、Ar、He、Ne、Xe、Kr、又はこれらの混合ガス等の不活性ガスで充足させる。そして前記不活性ガスには、F2、Cl2、Br2、I2等のハロゲンガス、CCl4, SF6, CF4等の反応性ガスが、ガラス融液に含まれる微量の水分を除去するために、0.1〜5体積%導入されてもよい。そして、混合物が溶融される環境に不活性ガスが導入される前に、一旦該環境を真空状態とし、その後不活性ガスを導入することで、不活性雰囲気としてもよい。
【0020】
又、前記混合物には、ガラス原料中の酸化物や水酸化物等の不純物をフッ素化するために、酸性弗化アンモニウム(NH4F・HF)等のフッ素化剤をガラス原料の混合物の全量に対して、0.2〜3重量%導入してもよい。
【0021】
ガラス原料の混合物を不活性雰囲気下で、例えば、前記混合物を900〜1200℃で加熱することで溶融して融液とし、これを得られるガラスのガラス転移温度よりも低い温度まで急冷する。この急冷の過程で得られる過冷却液体状態物を板状に成形することが好ましい。そして得られたガラスは、所望とするサイズに切断加工され、そして、表面の少なくとも一面に光学研磨がなされる。
【0022】
本発明の蛍光ガラスに導入されるTb3+、Ce3+、又はAl3+以外の陽イオンには、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のアルカリ土類イオン金属イオン、Y3+、La3+、Gd3+、Yb3+、Lu3+、Dy3+のランタノイドイオン等があげられる。
【0023】
こられ陽イオンの中で、特には、Ca2+及びBa2+を使用することが好ましい。これら化学種は、ガラス製造時の結晶化傾向を低下させ、ガラス原料の溶解性を向上させる成分であり、ガラスの製造効率を向上させることが好ましい。この観点から、Ca2+はガラス中の全陽イオンに対して10〜25mol%、Ba2+はガラス中の全陽イオンに対して5〜27mol%となるように導入させることが好ましい。
【0024】
又、Mg2+、Sr2+は、前記ガラス原料の溶解性を向上させるために導入させることができる。この観点から、これら化学種は、ガラス中の全陽イオンに対して5〜15mol%となるように導入させることが好ましい。
【0025】
さらに上記ランタノイドイオンは、ガラス形成時の結晶化を抑制させるために導入させてもよい。この観点から、これら化学種は、ガラス中の全陽イオンに対して5〜15mol%となるように導入させることが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。表1は、実施例及び比較例で検討されたガラス組成を示している。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示された組成となるようにハロゲン化物原料を混合し、各実施例及び比較例に対して20g量の混合物を得た。そしてこれら混合物に対して酸性フッ化アンモニウム(NHF・HF)を0.1g量混入し、ガラス形成のためのバッチとした。このバッチをグラッシーカーボン製の坩堝に入れ、塩素の濃度が1%の塩素と窒素のガス雰囲気中で、1000℃で30分間、加熱溶融した後、窒素雰囲気中で急冷することによって、ガラスを得た。ガラスの形成は目視で確認を行い、透光性のあるものをガラス化したものとした。このガラス化については、表1中に、ガラス化した例を(○)、ガラス化しなかった例を(×)と表記し説明している。得られたガラスを、20mm×20mm×3mm(厚み)のサイズの板状に切断加工し、そして両面を光学研磨した。
【0029】
実施例1乃至10、及び比較例1乃至2で得られ、光学研磨がなされたガラスを、波長248nmの紫外光で励起すると、強い緑色光を発光することが目視によって確認した。図1は、実施例1で得られたガラスの蛍光スペクトルを示すものである。実施例2乃至10及び比較例1乃至2のガラスでも同様の波形のスペクトルが得られた。図1中実線の緑色蛍光に関する542nmのピークは、Tb3+遷移による発光を示すものである。
【0030】
次に、蛍光スペクトルでの542nmのピークに対する(Tb3+遷移)励起スペクトルを測定した。その結果を図2中に示した。図2は、実施例1乃至5及び比較例1乃至2に対するもので、Ce3+が0.5mol%〜10mol%添加された実施例は、Ce3+の添加量が0.5mol%未満の比較例と比べて、波長230nm〜300nm付近での励起効率が向上することがわかる。
【0031】
図3は、蛍光スペクトルでの542nmのピークに対する実施例6乃至10の(Tb3+遷移)励起スペクトルを示す図である。Cl-又はBr-が添加された実施例6乃至9は、波長310nm〜330nm付近での励起効率が向上することが確認され、それら化学種の添加量が多いほどこの波長域での励起効率が向上する傾向が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1の蛍光ガラスを波長248nmの紫外光で励起したときの蛍光スペクトルを示す図である。
【図2】蛍光スペクトルでの542nmのピークに対する実施例1乃至5及び比較例1乃至2の(Tb3+遷移)励起スペクトルを示す図である。
【図3】蛍光スペクトルでの542nmのピークに対する実施例6乃至10の(Tb3+遷移)励起スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tb3+を蛍光媒体として紫外光励起によって緑色蛍光を呈する蛍光ガラスであり、該蛍光ガラスの陰イオンはF-からなり、ガラス中の全陽イオンに対してTb3+が5〜25mol%、Ce3+が0.05〜10mol%であることを特徴とする蛍光ガラス。
【請求項2】
全陽イオンに対してAl3+を15〜55mol%有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光ガラス。
【請求項3】
前記F-に加え、陰イオンにCl-、Br-、I-から選ばれる少なくとも1種をガラス中の全陰イオンに対して0.1〜15mol%有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蛍光ガラス。
【請求項4】
蛍光ガラスに照射して生じる緑色蛍光を計測する光学系を有するレーザービーム計測装置に使用される請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の蛍光ガラス。
【請求項5】
照射される光の波長が230〜320nmであることを特徴とする請求項4に記載の蛍光ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−298743(P2006−298743A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174437(P2005−174437)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】