説明

線分析機能を備える電子線装置

【課題】 試料に電子線を照射して線分析を行なうとき、同じ線分上で任意の間隔と任意の点数で分析点を簡易に設定する方法を提供する。
【解決手段】 マウス等のポインティングデバイスを用いてHAADF像上の線分析位置を指定する。たとえば結晶粒界に直角となるように線分析の始点P1と終点P6を指定し、キーボード等により分析点数6を指定する。例えばX線検出器13により粒界に直角な線分上に注目元素のX線強度を測定し分析結果をグラフに表す。X線強度の高い注目点を中心とした線上に、はじめに設定した間隔よりさらに細かく分割する分析点S1からS6を自動的に指定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細く絞った電子線を試料に照射して、該試料から発生する情報担体を検出し該試料の分析を行なう透過電子顕微鏡(TEM)や走査電子顕微鏡(SEM)等の電子線装置の分析方法に係わり、詳しくは試料を線状に分析するときの線分析位置を指定する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば走査電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)にエネルギー分散型X線分析装置(EDS)等の分析装置を取り付け、試料に細く絞った電子線を照射して発生するX線等を検出することにより結晶粒界などの分析を行なう方法がある。
【0003】
図2は、結晶粒界を含む領域の走査透過電子像を取り込み、画像上で結晶粒界に直角な線分上に多点の分析位置を設定する方法を模式的に示した図である。それぞれの分析点は線分上で等間隔に設定されている。
【0004】
特許文献1の特公平4−50698号公報には、試料上の分析始点,分析終点,分析点数を指定し、分析始点と分析終点とを結ぶ線分上に位置する分析点を自動的に設定して、設定された分析点に電子線を自動的に順次移動させる技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2の特開平5−296754号公報には、半導体に微細なパターンを測定する荷電粒子ビーム測長装置を用いてパターンのエッジを検出するとき、2次電子信号の微分信号値が負から正へ変化する区間内でその微分信号値が零となる位置をエッジとして検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平4−50698号公報
【特許文献2】特開平5−296754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
試料中の析出物の分析を行なうような場合は、特許文献1の特公平4−50698号公報に開示されている方法のように線分上に分析点を等間隔に並べても不都合は無い。しかし、例えば結晶粒界のように、周辺に比べて狭い範囲で急激に元素分布状態が変化する可能性がある場合、結晶粒界近傍では小さな間隔で分析点数を多くして測定を行ないたいことがある。この場合、広い範囲は比較的大きな間隔で分析行なわないと全体の分析時間が長くなりすぎてしまう。そのため、同じ線分上で、任意の間隔、任意の点数で分析位置を簡単に決める方法が必要とされる。
【0008】
また、試料上の微少な領域で分析位置を決める場合、電子線照射による試料損傷や汚染を軽減するため、分析前に試料に電子線を照射する時間を短くする必要がある。そのため、結晶粒界のような特異点を指定された線分上で自動的に決める方法が求められている。
【0009】
本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、その目的は、
試料に電子線を照射して線分析を行なうとき、同じ線分上で任意の間隔と任意の点数で分析点を簡易に設定する方法を提供することである。また本発明のもうひとつの目的は、指定され線分上で結晶粒界のような特異点を自動的に検出し、検出した特異点の近傍に自動的に非等間隔に分析点を決める方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、
(1)請求項1に記載の発明は、電子線を発生する電子源と、
該電子線を試料に照射し、二次元的に走査する走査手段と、
前記電子線と前記試料との相互作用により発生する情報担体を前記走査手段に同期して検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出した前記情報担体を信号強度に変換する信号処理手段と、
前記信号処理手段によって得られた信号強度変化を二次元画像として表示する表示手段と、
前記二次元画像上に線分析位置を指定する指定手段と
前記指定手段によって指定された前記線分析位置の中の分析点を非等間隔に設定する設定手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
(2)請求項2に記載の発明は、前記情報担体は、二次電子、反射電子、透過電子、特性X線、カソードルミネッセンスのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0012】
(3)請求項3に記載の発明は、前記設定手段は、前記線分析位置の中の特異点近傍における前記情報担体の信号強度変化がガウス分布で近似されると仮定するとき、前記信号強度の変化が略等間隔となるように前記分析点の間隔を非等間隔に設定することを特徴とする。
【0013】
(4)請求項4に記載の発明は、前記指定手段によって指定された前記線分析位置の中から前記特異点を抽出する抽出手段をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
(5)請求項5に記載の発明は、前記抽出手段は、前記線分析位置における前記情報担体の強度変化データの微分データを用いて、前記情報担体の強度変化が最も大きい変化を示す分析点を前記特異点として抽出することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電子線装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、広い線分析範囲の中に結晶粒界等の特異点を含む場合、注目する特異点近傍は細かく分析し、広い範囲は大まかな間隔で分析を行なうように分析点を非等間隔で簡単に設定することができる。また、結晶粒界等の特異点位置を線分上で自動的に検出し、非等間隔で分析点を設定できるので、分析前の電子線照射時間を短縮して、試料損傷や汚染を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施する走査透過型電子顕微鏡の概略構成例を示す図である。
【図2】画像上で結晶粒界に直角な線分上に多点の分析位置を設定する方法を模式的に示した図である。
【図3】分析目的部位を含むHAADF像上の線分析位置指定と測定データの表示例を示す図である。
【図4】はじめに設定した間隔をさらに細かく分割する線分析位置指定と測定データの表示例を示す図である。
【図5】ガウス分布に基づいて1つの粒界を横切る線上の分析点間隔を割り振る指定方法を説明するための図である。
【図6】ガウス分布に基づいて2つの粒内を横切る線上の分析点間隔を割り振る指定方法を説明するための図である。
【図7】分析を行なう注目箇所を含む視野のHAADF像と、注目箇所のHAADF信号強度データの表示例を示す図である。
【図8】注目箇所のHAADF信号の強度プロファイルから微分プロファイルを作成する手順を説明するための図である。
【図9】特異点周辺に細かい分割で分析点の間隔を決めた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。各図において、同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付し、詳しい説明の重複を避ける。
【0018】
図1は本発明を実施する走査透過電子顕微鏡の概略構成例を示す図である。1は鏡体、2は電子線3を発生する電子銃、4は電子銃2から放射される電子線3を集束するための照射レンズ系、5は試料上の任意の位置に電子線3の照射点を設定可能な偏向器、8は試料6を透過した電子線をCCDカメラ9に投影するための結像レンズ系である。7は試料6を載置する試料ホルダで図示しない試料ステージにより支持されている。10は偏向器5による電子線走査とCCDカメラ9による透過電子信号取り込みを同期させるために共通の偏向制御を行なうための偏向制御装置である。なお、CCDは電荷結合素子(Charge Coupled Devices)の略称である。鏡体1内の電子線3の通路は、図示しない真空排気装置により高真空が保たれている。
【0019】
11は試料により広角度散乱された電子を検出するための環状検出器、12は電子線3の二次元走査と同期させて環状検出器11から取り込んだ広角度散乱電子信号を処理するための電子信号処理装置である。なお、環状検出器11を用いて得られる走査透過像は高角度環状暗視野(HAADF:High-angle annular dark-field)像と呼ばれる。
【0020】
13は試料から発生する特性X線を検出するためのX線検出器、14はX線検出器13から取り込んだX線信号を処理するためのX線信号処理装置である。X線検出器としては通常EDSが装着される。
【0021】
15はパーソナルコンピュータ等の制御演算装置で、電子信号処理装置12及びX線信号処理装置14から取り込んだ信号の画像表示及び偏向制御装置10の制御を行なう装置である。操作者は、制御演算装置15に備えられたマウス、キーボード等の図示しない入力装置及び液晶ディスプレイ等の表示装置を用いて、STEMの制御及び得られたデータの処理と表示を行なうことができる。
【0022】
上記した構成のSTEMにおいて、本発明による線分析点を設定する方法の実施の形態を説明する。
【0023】
(実施例1)
偏向器5により電子線3を二次元的に走査し、環状検出器11を用いてHAADF像を取り込む。図3(a)はこのようにして得られた結晶粒界(以下、単に「粒界」と略称する)を含む視野を制御演算装置15に表示したHAADF像である。操作者は、マウス等のポインティングデバイスを用いてHAADF像上の線分析位置を指定する。粒界に直角となるように線分析の始点P1と終点P6を指定し、キーボード等により分析点数を6と指定する。粒界に直角な線分上にP1からP6までの6箇所が分析点位置として設定される。
【0024】
P1からP6までの6点について、例えばX線検出器13により注目元素のX線強度を測定する。その分析結果をグラフに表したものが図3(b)である。図3(b)において、横軸は線分析位置、縦軸は測定により得られた注目元素の信号強度(又は濃度変換された値)である。分析点P3の信号強度が他の分析点に比較して著しく高くなっていることが分かる。
【0025】
そこで、P3を注目点として指定し、注目点を中心とした線上に、例えばはじめに設定した間隔をさらに細かく分割する数(図4の例では4分割)を指定する。そうすると、P2とP3の間にS1からS3の3点、P3とP4の間にS4からS6の3点が自動的に追加され、S1からS6の分析が行なわれる。図4(b)は、P1からP6までとS1からS6までの全ての分析結果をプロットしたデータであるようにして測定データを表示したグラフの例である。以上のようにして、注目点の近傍(例えば粒界近傍)の信号強度の変化をより詳細に知るための分析点の設定を簡単に行なうことができる。
【0026】
(実施例2)
分析する線上の特定の分析点付近で急激な信号強度変化があることが、HAADF像によって予め予想できる場合がある。例えば図5(a)に示すように、粒界を横切って線分析を行なう場合、粒界付近はできるだけ急な変化を詳細に知りたいが、それ以外の広い範囲も分析したいという場合は多い。そのときは、急激な信号強度変化が予想される注目点を中心にして、ガウス分布に基づいて線上の分析点間隔を割り振ることが好ましい。
【0027】
図5(b)は、粒界である元素濃度が最大になると仮定したとき、最大信号強度を0.9として、ガウス分布で近似される信号強度の変化が0.2〜0.3程度となるように分析点の間隔を決める例を示している。
【0028】
もし注目すべき変化が粒界に偏析する元素ではなく、粒内における変化である場合、図6(a)、(b)に示すように、両側の結晶粒の中心にガウス分布の中心が一致するようにして、ガウス分布で近似される信号強度の変化が0.2〜0.3程度となるように分析点の間隔を決めればよい。
【0029】
(実施例3)
次に、試料の構造、組織、形態等を観察する走査透過像、反射電子像、二次電子像等を用いて、X線分析、電子エネルギー損失分析等を行なうための分析点を自動的に設定する方法について説明する。
【0030】
図7(a)は、分析を行なう注目箇所を含む視野のHAADF像である。図7(b)は注目箇所のHAADF信号を強度プロファイルとして表したグラフである。このグラフの横軸は図7(a)のHAADF像の注目箇所の長さ方向距離、縦軸は注目箇所のHAADF信号強度を幅方向に平均した値である。
【0031】
図8は、注目箇所のHAADF信号の強度プロファイルを一次微分して微分プロファイルを作成する手順を示している。得られた微分プロファイルにおいて、プラス側又はマイナス側に大きなピークが出現している場所が特異点である。図9は、この特異点周辺に細かい分割で分析点の間隔を決めた例を示している。
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、試料に電子線を照射して線分析を行なうとき、同じ線分上で任意の間隔と任意の点数で分析点を簡易に設定することができる。
【符号の説明】
【0033】
(同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付す。)
1…鏡体
2…電子銃
3…電子線
4…照射レンズ系
5…偏向器
6…試料
7…試料ホルダ
8…結像レンズ系
9…CCDカメラ
10…偏向制御装置
11…環状検出器
12…電子信号処理装置
13…X線検出器
14…X線信号処理装置
15…制御演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する電子源と、
該電子線を試料に照射し、二次元的に走査する走査手段と、
前記電子線と前記試料との相互作用により発生する情報担体を前記走査手段に同期して検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出した前記情報担体を信号強度に変換する信号処理手段と、
前記信号処理手段によって得られた信号強度変化を二次元画像として表示する表示手段と、
前記二次元画像上に線分析位置を指定する指定手段と
前記指定手段によって指定された前記線分析位置の中の分析点を非等間隔に設定する設定手段と
を備えることを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
前記情報担体は、二次電子、反射電子、透過電子、特性X線、カソードルミネッセンスのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の電子線装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記線分析位置の中の特異点近傍における前記情報担体の信号強度変化がガウス分布で近似されると仮定するとき、前記信号強度の変化が略等間隔となるように前記分析点の間隔を非等間隔に設定することを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載の電子線装置。
【請求項4】
前記指定手段によって指定された前記線分析位置の中から前記特異点を抽出する抽出手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電子線装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、前記線分析位置における前記情報担体の強度変化データの微分データを用いて、前記情報担体の強度変化が最も大きい変化を示す分析点を前記特異点として抽出することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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