説明

線引き装置

【課題】一対のローラダイスの軸線方向と径方向との各位置調整を容易に行えるとともに、発熱元に対する冷却効果に優れたる線引き装置を提供すること。
【解決手段】枠体10と、軸内部に冷却媒体流路を有する第1、第2の偏心軸部付き支持軸20,30と、第1の偏心軸部付き支持軸20の偏心軸部に固定され、かつ、一方のローラダイス1Aを回転自在に支持する第1の軸受40と、第2の偏心軸部付き支持軸30の偏心軸部に固定され、かつ、他方のローラダイス1Bを回転自在に支持する第2の軸受50と、枠体10に各偏心軸部付き支持軸20,30を、それぞれ、その軸方向にスライド変位可能に保持するための第1、第2のローラダイス軸線方向位置調整機構と、枠体10に各偏心軸部付き支持軸20,30を、それぞれ、その軸線を中心に回転変位可能に保持するための第1、第2のローラダイス径方向位置調整機構と、を備えた線引き装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接用ワイヤなどを製造する際に用いられ、外周に型溝を有する一対のローラダイスによって形成される型孔に線材を通して、該線材を伸線加工する線引き装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の線引き装置として特開2005−34873号公報(特許文献1)に示されているようなものがあり、これを図7〜図10を用いて説明する。
【0003】
図7は従来の線引き装置の一実施形態を示す正面図である。
【0004】
図7に示すように、この線引き装置104aは、基本的に、ローラダイス101、ベアリングボックス 107a〜107d、ベアリング固定用梁108a,108b、及び、一体型枠体を構成する枠体109a〜109dなどから構成されている。
【0005】
ローラダイス101は、一対のローラ102a,102bからなる。各ローラ102a,102bのローラ軸(シャフト)106a,106bは、ベアリングボックス107a〜107d内の図示しないベアリング(軸受) によって各々回転自在に軸支されている。ベアリングボックス107a,107cは、ベアリング固定用梁108aに結合、固定され、このベアリング固定用梁108aを介して一体型枠体の枠体109d部分に固定されている。また、ベアリングボックス107b,107dは、ベアリング固定用梁108bに結合、固定され、このベアリング固定用梁108bを介して一体型枠体の枠体109b部分に固定されている。前記ベアリング固定用梁108a,108bは、それぞれ、ローラギャップ(ローラ間距離)調整用ボルトを介して枠体109d,109bに固定されている。
【0006】
図7 において、111a〜111dは、ローラダイス101のローラ軸方向(図における上下方向)における位置を調整するためのローラ軸方向位置調整用ボルトであり、113a〜113dは、ローラダイス101の径方向における位置を調整するためのローラギャップ調整用ボルトである。これら調整用のボルトは、押しネジや引きネジなどから構成されている。
【0007】
図8は従来の線引き装置の別の実施形態を示す正面図である。ここで、この図8においてはローラ102a,102bを図示省略してある。
【0008】
ローラ間距離の調整(ローラの径方向位置の調整)について説明する。図8において、2本の113a,2本の113bは、ロックナットを有する鋼製押しボルトからなるローラギャップ調整用ボルトであり、112a,112bは鋼製引きボルトからなるローラギャップ調整用ボルトである。ボルト113a,113a,112aは、枠体109dとベアリング固定用梁108aとに各々穿たれた雌ネジ125を介して、枠体外側から挿入され、ベアリング固定用梁108aに係合されている。また、ボルト113b,113b,112bは、枠体9bとベアリング固定用梁108bとに各々穿たれた雌ネジ125を介して、枠体外側から挿入され、ベアリング固定用梁108bに係合されている。これらの押しボルトと引きボルトからなるローラギャップ調整用ボルトを回転してベアリング固定用梁108a,108bを接近・離間させることによってローラ(102a,102b)間距離を調整するようにしている。
【0009】
図9は図8の要部を示す図であって、その(a)は要部断面正面図、その(b)は(a)の要部拡大図である。
【0010】
ローラの軸方向位置の調整について説明する。図9(a)に示すように、ローラ(102a)のローラ回転軸106a,106aには、それぞれ、軸径を変化させることで段差126が設けられている。そして、これらの段差126によって、2個のベアリング114の内輪114aをそれぞれ支持させている。一方、各ベアリング114の外輪114b側には、それぞれ、キャップ117が当接している。図9(a)における上側のキャップ117は、枠体109aに穿たれた雌ネジ125を介して挿入されたローラ軸方向位置調整用ボルト111aの先端部に固定されている。また、図9(a)における下側のキャップ117は、枠体109cに穿たれた雌ネジ125を介して挿入されたローラ軸方向位置調整用ボルト111cの先端部に固定されている。
【0011】
このように構成することで、ローラ軸方向位置調整用ボルト111aを例えば前進させて、キャップ117を介して上側のベアリング114の外輪114bを下方へ押し、同時に、もう一方のローラ軸方向位置調整用ボルト111cを後退させることにより、ローラ102aを下方へ移動させて位置決めするようにしている。もう一方のローラ102bについても同様にして、ローラ軸方向位置を調整するようにしている。
【0012】
図9の(b)に要部を拡大して示す通り、より詳細には、ベアリング114は、例えば、単列円錐ころ軸受型ベアリング114cと外側ケース114dを備え、ベアリング114の外側ケース114d は、ベアリング114の前記外輪114bを形成している。したがって、ローラ軸方向位置調整用ボルト111cを例えば前進させて、キャップ117を介してベアリング114の外側ケース114d(外輪114b)を上方へ押し、同時に、もう一方のローラ軸方向位置調整用ボルト111aを後退させることにより、ローラ102aを上方へ移動させて位置決めするようにしている。
【0013】
図10は従来の線引き装置の冷却構造を説明するための図である。
【0014】
ローラ102a,102bが温度上昇して膨張すると、伸線加工された線材は、その線径が目標線径範囲より細くなってしまい、また、その真円度合いが悪くなってしまうことになる。そのため、伸線加工して得られる線材の線径・形状精度の低下を防ぐことを目的として、図10の(a)〜(e)に示すように、ベアリング固定用梁108a内、ベアリング固定用梁108a内及びベアリングボックス107a,107c内に冷却媒体流路としての冷却水流路119を設けている。これにより発熱元であるところの、ローラにおける線材との摩擦面や、ベアリングの温度上昇を抑制するようにしている。
【特許文献1】特開2005−34873号公報(第1図、第8図、第10図、第12図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし前述した従来の線引き装置では、ローラ102aの軸方向位置を調整するに際し、ローラ102aのローラ回転軸106a,106aを支持するベアリング114,114の各外輪114bを、ローラ軸方向位置調整用ボルト111a,111cの回転によって進退するキャップ117,117によって押圧して進退させるようにしたものであるから、押圧力のかけ具合によりベアリング114,114の回転抵抗が変動し、ローラ102aの回転に悪影響を与えるおそれがあった。
【0016】
また、前記従来の線引き装置では、ローラ102aの径方向位置を調整するに際し、枠体109dに取り付けられたローラギャップ調整用ボルト113a,113a,112aを回転させることにより、ローラ102aを間接的に支持するベアリング固定用梁108aを進退させるようにしたものであるから、これら多数の調整用ボルトを回転操作し、しかも2本のローラギャップ調整用ボルト113a,113aを同時に回転操作する必要があり、調整に手間がかかるという欠点があった。
【0017】
また、前記従来の線引き装置では、ローラ102aを間接的に支持するベアリング固定用梁108a内に、又は、ベアリング固定用梁108a内及びベアリングボックス107a,107c内に冷却水流路119を設けた間接冷却方式によるものであるから、冷却水流路119からローラ102aにおける線材との摩擦面(最も大きな発熱元)まで距離を短くすることに限界があり、冷却効果が十分でなかった。なお、前記図10の(f)には、ローラ102a及びそのローラ軸106a,106aの軸中心を通る冷却水流路119を設けるようにしたものが示されているものの、このような高速回転体に設けた冷却水流路への冷却水の導入・導出を可能とする冷却構造は、その実現が容易でなく相当に困難であると思われる。
【0018】
そこで本発明の課題は、外周に型溝を有する一対のローラダイスによって形成される型孔に線材を通して、該線材を伸線加工するに際し、ローラダイスの軸線方向と径方向との各位置調整を容易に短時間で行うことができるとともに、発熱元に対する冷却効果に優れ、これにより生産性良く、また、線径・形状精度良く線材を伸線加工することができる線引き装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0020】
請求項1の発明は、外周に型溝を有する一対のローラダイスによって形成される型孔に線材を通して、該線材を伸線加工する線引き装置において、枠体と、一端側軸部、この一端側軸部と互いに軸線の延長線が一致する他端側軸部、及びこれら軸部の間に形成され該一端側及び他端側軸部の軸心に対して偏心させた偏心軸部を有するとともに、軸内部に冷却媒体流路を有する第1、第2の偏心軸部付き支持軸と、前記第1の偏心軸部付き支持軸の前記偏心軸部に固定され、かつ、前記一対のローラダイスうちの一方のローラダイスが外嵌装着され、該一方のローラダイスを回転自在に支持する第1の軸受と、前記第2の偏心軸部付き支持軸の前記偏心軸部に固定され、かつ、前記一対のローラダイスうちの他方のローラダイスが外嵌装着され、該他方のローラダイスを回転自在に支持する第2の軸受と、前記枠体に前記第1、第2の偏心軸部付き支持軸を、それぞれ、その軸方向にスライド変位可能に保持するための第1、第2のローラダイス軸線方向位置調整機構と、前記枠体に前記第1、第2の偏心軸部付き支持軸を、それぞれ、その前記一端側及び他端側軸部の軸線を中心に回転変位可能に保持するための第1、第2のローラダイス径方向位置調整機構と、を備えたことを特徴とする線引き装置である。
【0021】
請求項2の発明は、請求項1記載の線引き装置において、前記第1、第2のローラダイス軸線方向位置調整機構の各々は、当該偏心軸部付き支持軸の前記一端側及び他端側軸部に形成された段差部に先端部が当接する状態で該一端側及び他端側軸部にそれぞれ外嵌され、かつ、外周に前記枠体の雌ねじ部に螺合する雄ねじ部を有する一端側及び他端側調整駒を有し、これらの調整駒を回転させて当該偏心軸部付き支持軸をその軸方向にスライド変位させるものであり、前記第1、第2のローラダイス径方向位置調整機構の各々は、当該偏心軸部付き支持軸の一端に形成されたスパナかけ部を有し、このスパナかけ部に工具をかけ回すことによって当該偏心軸部付き支持軸を回転変位させるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の線引き装置は、外周に型溝を有する一対のローラダイスによって形成される型孔に線材を通して、該線材を伸線加工する線引き装置において、第1の偏心軸部付き支持軸の偏心軸部に、一方のローラダイスを回転自在に支持した第1の軸受が固定されており、第1のローラダイス軸線方向位置調整機構によって、枠体にこの第1の偏心軸部付き支持軸がその軸方向にスライド変位可能に保持されている。また、第2の偏心軸部付き支持軸の偏心軸部に、他方のローラダイスを回転自在に支持した第2の軸受が固定されており、第2のローラダイス軸線方向位置調整機構によって、前記枠体にこの第2の偏心軸部付き支持軸がその軸方向にスライド変位可能に保持されている。したがって、従来装置とは違って、第1、第2の偏心軸部付き支持軸を軸方向にスライド変位させて進退することにより、一対のローラダイスの型溝を最適位置へ位置決めできて、一対のローラダイスの軸線方向位置の調整を容易に行うことができる。
【0023】
また、本発明の線引き装置は、第1のローラダイス径方向位置調整機構により前記第1の偏心軸部付き支持軸が前記枠体に回転変位可能に保持されるとともに、第2のローラダイス径方向位置調整機構により前記第2の偏心軸部付き支持軸が前記枠体に回転変位可能に保持されている。したがって、従来装置とは違って、第1、第2の偏心軸部付き支持軸を回転変位させて、ローラダイスが装着された軸受が固定されている偏心軸部を偏心回転変位させることにより、一対のローラダイスの型溝同士を接近・離間させて最適位置へ位置決めでき、一対のローラダイスの径方向位置の調整を容易に行うことができる。よって、本発明の線引き装置は、ローラダイスの軸線方向と径方向との各位置調整を容易に短時間で行うことができて、ローラダイスの位置調整に手間がかからず、伸線加工の生産性の向上を図ることができる。
【0024】
また、本発明の線引き装置は、前記第1、第2の偏心軸部付き支持軸の内部に冷却媒体流路を設けている。したがって、この冷却媒体流路からローラダイスにおける線材との摩擦面(最も大きな発熱元)まで距離が従来装置での間接冷却方式に比べて短く冷却効果が高いので、一対のローラダイスの温度上昇による膨張を抑制でき、線径・形状精度の良い伸線加工品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態による線引き装置を示す平面図、図2は図1のA−A線断面図(正面図)、図3は図2の要部説明図、図4は図1のB矢視側面図、図5は図2における第1、第2の偏心軸部付き支持軸を説明するための正面図である。
【0026】
図1〜図5において、10は枠体である。枠体10は、四角柱状をなす2つの取付け用ブロック体11,11と、正面視矩形状をなす支持用枠体12とからなり、締結用ボルト17によって支持用枠体12の両側面に取付け用ブロック体11,11がそれぞれ固定されている。支持用枠体12には、後述する2つの偏心軸部付き支持軸20,30が貫通状態で嵌め入れられる軸通孔が設けられている。取付け用ブロック体11,11の四隅には、複数個の線引き装置を積み重ねてなる積重ね型線引き装置を組立てる際に、長尺の積重ね締結用ボルトが挿通されるボルト孔16が設けられている。また、支持用枠体12の内側から取付け用ブロック体11,11の外部へ連通する貫通孔15,15が設けられている。この貫通孔15,15は、後述するローラダイス1A,1Bによる伸線加工時に線材からの油などの飛散物を装置外部へ導出するためのものである。
【0027】
20は第1の偏心軸部付き支持軸である。この第1の偏心軸部付き支持軸20は、図5にも示すように、一端側軸部21、この一端側軸部21と互いに軸線の延長線が一致する他端側軸部23、及びこれら軸部21,23の間に形成され該軸部21,23の軸心に対して偏心させた偏心軸部22を有して構成されている。偏心軸部22は、前記軸部21,23の軸心線に対して例えば0.2〜0.4mm程度の範囲のうちの一定値でもって偏心させてある。また、第1の偏心軸部付き支持軸20の内部には、冷却媒体流路として長手方向に貫通する冷却水流路24が形成されており、第1の偏心軸部付き支持軸20の長手方向両端部の内側には、冷却水を流すための接続用継手を螺合装着するためのテーパ雌ねじ部が形成されている。
【0028】
また、一端側軸部21に隣り合う偏心軸部22の外径は、一端側軸部21の外径より小径になされており、また、偏心軸部22に隣り合う他端側軸部23の外径は、偏心軸部22の外径より小径になされている。そして、一端側軸部21には、偏心軸部22に向かう途中で径拡大することで段差部21aが形成されており、同様に、他端側軸部23には、偏心軸部22から遠ざかる途中で径縮小することで段差部23aが形成されている。また、一端側軸部21には、その一端にスパナかけ部21bが形成されている。
【0029】
第2の偏心軸部付き支持軸30も、第1の偏心軸部付き支持軸20と同一構成であり、一端側軸部31、偏心軸部32及び他端側軸部33を有するとともに、軸内部に冷却水流路34を有している。また、一端側軸部31には、偏心軸部32に向かう途中で径拡大することで段差部31aが形成されており、同様に、他端側軸部33には、偏心軸部32から遠ざかる途中で径縮小することで段差部33aが形成されている。また、一端側軸部31には、その一端にスパナかけ部31bが形成されている。
【0030】
このように構成される第1、第2の偏心軸部付き支持軸20,30が、それぞれ、支持用枠体12の前記軸通孔に嵌め入れられ、偏心軸部22,32にローラダイス1A,1Bを回転自在に支持した軸受40,50が固定された状態で、後述するローラダイス軸線方向位置調整機構とローラダイス径方向位置調整機構とにより、枠体10に保持されるようになっている。
【0031】
すなわち、前記第1の偏心軸部付き支持軸20の偏心軸部22に、一方のローラダイス1Aを回転自在に支持した第1の軸受40が固定されている。この第1の軸受40は、軸線方向に軸受単体を2個積層した形態のものであり、2個の外輪42にローラダイス1Aが外嵌装着されており、軸受固定用ナット44による締め付けにより、偏心軸部22から一端側軸部21への境に形成された段差部を利用して、2個の内輪41が偏心軸部22に固定されるようになっている。第1の軸受40は、2個の防塵用鍔型ガード43を有している。なお、ローラダイス1Aが装着された第1の軸受40を支持用枠体12の内側中空部に位置させておき、図2における上方から第1の偏心軸部付き支持軸20を前進させて内輪41,41の内側に偏心軸部22を嵌め入れて、偏心軸部22に第1の軸受40を装着するようにしている。
【0032】
また、第2の偏心軸部付き支持軸30の偏心軸部32に、前述した第1の偏心軸部付き支持軸20による場合と同一の構成により、他方のローラダイス1Bを回転自在に支持した第2の軸受50が固定されている。図2,図3において、51は第2の軸受50の内輪、52は第2の軸受50の外輪、53は第2の軸受50の防塵用鍔型ガード、54は軸受固定用ナットである。
【0033】
次に、第1のローラダイス軸線方向位置調整機構について説明する(図2,図3参照)。60は一端側調整駒であり、この一端側調整駒60は、第1の偏心軸部付き支持軸20の一端側軸部21の小径部に外嵌され、かつ、外周に形成された雄ねじ部によって支持用枠体12の雌ねじ部13aに螺合している。61は支持用枠体12に当接可能であって、一端側調整駒60の前記雄ねじ部に螺合する調整駒固定用ナットである。
【0034】
また、62は他端側調整駒であり、この他端側調整駒62は、第1の偏心軸部付き支持軸20の他端側軸部23の小径部に外嵌され、かつ、外周に形成された雄ねじ部によって支持用枠体12の雌ねじ部13bに螺合している。63は支持用枠体12に当接可能であって、他端側調整駒62の前記雄ねじ部に螺合する調整駒固定用ナットである。前記調整駒60,62及び前記調整駒固定用ナット61,63は、枠体10に第1の偏心軸部付き支持軸20をその軸方向にスライド変位可能に保持するための第1のローラダイス軸線方向位置調整機構を構成している。
【0035】
そして、枠体10に第2の偏心軸部付き支持軸30をその軸方向にスライド変位可能に保持するための第2のローラダイス軸線方向位置調整機構は、前述した第1のものと同一の構成であり、図2,図3に示すところの、一端側調整駒70、他端側調整駒72、及び調整駒固定用ナット71,73により構成されている。
【0036】
次に、第1のローラダイス径方向位置調整機構について説明する(図3,図5参照)。80は第1の偏心軸部付き支持軸20の一端側軸部21に形成された雄ねじ部21cに螺合装着され、前記一端側調整駒60に当接可能な固定用ナットである。この固定用ナット80及び一端側軸部21に形成された前記スパナかけ部21bは、枠体10に第1の偏心軸部付き支持軸20を、その一端側及び他端側軸部21,23の軸線を中心に回転変位可能に保持するための第1のローラダイス径方向位置調整機構を構成している。
【0037】
また、枠体10に第2の偏心軸部付き支持軸30を、その一端側及び他端側軸部31,33の軸線を中心に回転変位可能に保持するための第2のローラダイス径方向位置調整機構は、前述した第1のものと同一の構成であり、図3,図5に示すところの、固定用ナット90及び一端側軸部31に形成されたスパナかけ部31bにより構成されている。
【0038】
次に、このように構成される線引き装置において、伸線開始に先立って行われるローラダイス1A,1Bの位置調整について、図2を参照して説明する。
【0039】
径方向位置調整よりも先に、ローラダイス1A,1Bの軸線方向位置の調整が行われる。例えば、ローラダイス1Aを図2における下方へ移動させる場合、固定用ナット80を緩めた状態で、まず、調整駒固定用ナット63を緩めて他端側調整駒62を後退させておき、次に、調整駒固定用ナット61を緩めて一端側調整駒60を時計回りに回転させる。その結果、一端側調整駒60が、その一端側調整駒60の先端が一端側軸部21の段差部21aに当接した状態で前進することにより、第1の偏心軸部付き支持軸20が下方へスライド変位されて、ローラダイス1Aの型溝が線材走行ラインの高さ位置に位置決めされる。位置決め後、調整駒固定用ナット61によって一端側調整駒60を固定する一方、後退させてあった他端側調整駒62をその他端側調整駒62の先端が他端側軸部23の段差部23aに当接するまで前進させてから、調整駒固定用ナット63によってこの他端側調整駒62を固定する。
【0040】
また、ローラダイス1Aを図2における上方へ移動させる場合、固定用ナット80を緩めた状態で、まず、調整駒固定用ナット61を緩めて一端側調整駒60を後退させておき、次に、調整駒固定用ナット63を緩めて他端側調整駒62を時計回りに回転させる。その結果、他端側調整駒62が、その先端が他端側軸部23の段差部23aに当接した状態で前進することにより、第1の偏心軸部付き支持軸20が上方へスライド変位されて、ローラダイス1Aの型溝が線材走行ラインの高さ位置に位置決めされる。位置決め後、調整駒固定用ナット63によって他端側調整駒62を固定する一方、後退させてあった一端側調整駒60をその先端が一端側軸部21の段差部21aに当接するまで前進させてから、調整駒固定用ナット61によってこの一端側調整駒60を固定する。
【0041】
以上のようにしてローラダイス1Aの軸線方向位置の調整が行われる。もう一方のローラダイス1Bの軸線方向位置の調整手順については、前述したローラダイス1Aの場合の手順と同一であるので、その説明を省略する。
【0042】
このように、第1の偏心軸部付き支持軸20の偏心軸部22に、一方のローラダイス1Aを回転自在に支持した第1の軸受40が固定されており、調整駒60,62及び調整駒固定用ナット61,63により構成される第1のローラダイス軸線方向位置調整機構によって、枠体10にこの第1の偏心軸部付き支持軸20がその軸方向にスライド変位可能に保持されている。また、第2の偏心軸部付き支持軸30の偏心軸部32に、他方のローラダイス1Bを回転自在に支持した第2の軸受50が固定されており、調整駒70,72及び調整駒固定用ナット71,73により構成される第2のローラダイス軸線方向位置調整機構によって、枠体10にこの第2の偏心軸部付き支持軸30がその軸方向にスライド変位可能に保持されている。
【0043】
したがって、従来装置とは違って、第1、第2の偏心軸部付き支持軸20,30を軸方向にスライド変位させて進退することにより、一対のローラダイス1A,1Bの型溝を最適位置へ位置決めできて、一対のローラダイス1A,1Bの軸線方向位置の調整を容易に短時間で行うことができる。
【0044】
次に、前述したローラダイス1A,1Bの軸線方向位置の調整後に、ローラダイス1A,1Bの径方向位置の調整が行われる。その一例について説明する。まず、固定用ナット90を緩めた状態で、スパナかけ部31bに工具をかけ回すことによって第2の偏心軸部付き支持軸30を回転変位させることにより、ローラダイス1Aの型溝に対して、偏心軸部32に装着されているローラダイス1Bの型溝を線材走行ラインの高さ位置を保持した状態にて離間させておく。次いで、固定用ナット80を緩めた状態で、スパナかけ部21bに工具をかけ回すことによって第1の偏心軸部付き支持軸20を回転変位させることにより、偏心軸部22に装着されているローラダイス1Aの型溝を、線材走行ラインの位置に位置決めする。
【0045】
次いで、スパナかけ部31bに工具をかけ回すことによって第2の偏心軸部付き支持軸30を回転変位させることにより、ローラダイス1Aに対してローラダイス1Bを接近させて、ローラダイス1Bの型溝を線材走行ラインの位置に位置決めし、ローラダイス1A,1Bの型溝によって線材走行ラインに型孔を形成するようにする。そして、正確に位置決めできたことを確認してから、一端側調整駒60に固定用ナット80を締め付け、枠体10(支持用枠体12)に第1の偏心軸部付き支持軸20を固定するとともに、一端側調整駒70に固定用ナット90を締め付け、枠体10(支持用枠体12)に第2の偏心軸部付き支持軸30を固定する。
【0046】
このように、スパナかけ部21b及び固定用ナット80により構成される第1のローラダイス径方向位置調整機構により、第1の偏心軸部付き支持軸20が枠体10に回転変位可能に保持されるとともに、スパナかけ部31b及び固定用ナット90により構成される第2のローラダイス径方向位置調整機構により、第2の偏心軸部付き支持軸30が枠体10に回転変位可能に保持されている。
【0047】
したがって、従来装置とは違って、第1、第2の偏心軸部付き支持軸20,30を回転変位させて、ローラダイス1A,1Bが装着された軸受40,50が固定されている偏心軸部22,32を偏心回転変位させることにより、一対のローラダイス1A,1Bの型溝同士を接近・離間させて最適位置へ位置決めできて、一対のローラダイス1A,1Bの径方向位置の調整を容易に短時間で行うことができる。
【0048】
次に、この線引き装置の冷却構造について説明すると、前述したように、第1、第2の偏心軸部付き支持軸20,30の内部には、長手方向に貫通する冷却水流路24,34が形成されている。そして、例えば、冷却水供給源→第2の偏心軸部付き支持軸30の一端側軸部31→同偏心軸部32→同他端側軸部33→冷却水流路24,34同士を接続する外部管路→第1の偏心軸部付き支持軸20の他端側軸部23→同偏心軸部22→同一端側軸部21→冷却水供給源へ戻るという経路で冷却水が流される。
【0049】
したがって、ベアリング固定用梁内に、あるいはベアリング固定用梁内及びベアリングボックス内に冷却水流路を設けた間接冷却方式である従来装置に比べて、冷却水流路24(34)からローラダイス1A(1B)における線材との摩擦面(最も大きな発熱元)まで距離が短く冷却効果が高いので、一対のローラダイス1A,1Bの温度上昇による膨張を抑制でき、線径・形状精度の良い伸線加工品を得ることができる。
【0050】
図6は図2に示す線引き装置を複数個積み重ねてなる積重ね型線引き装置を示す側面図である。
【0051】
図6に示すように、一対のローラダイス1A,1Bを有する前記線引き装置が、この例では4個積み重ねられて、積重ね型線引き装置が構成されている。同図に示すように、隣接する線引き装置は、互いに角度を90度ずらせて配置されるとともに、線材の捻れを防ぐために隣接するローラダイス同士ができるだけ近接するようになされている。200はL字形の取付け基板であり、4本の積重ね締結用ボルト201により、取付け基板200に4個の線引き装置が積み重ねて締結された状態で固定されている。実際の伸線加工では、一般に積重ね型線引き装置が使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態による線引き装置を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図2の要部説明図である。
【図4】図1のB矢視側面図である。
【図5】図2における第1、第2の偏心軸部付き支持軸を説明するための正面図である。
【図6】図2に示す線引き装置を複数個積み重ねてなる積重ね型線引き装置を示す側面図である。
【図7】従来の線引き装置の一実施形態を示す正面図である。
【図8】従来の線引き装置の別の実施形態を示す正面図である。
【図9】図8の要部を示す図であって、その(a)は要部断面正面図、その(b)は(a)の要部拡大図である。
【図10】従来の線引き装置の冷却構造を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1A,1B…ローラダイス
10…枠体 11…取付け用ブロック体 12…支持用枠体
13a,13b,14a,14b…雌ねじ部
15…貫通孔 16…ボルト孔 17…締結用ボルト
20…第1の偏心軸部付き支持軸
21…一端側軸部
21a…段差部 21b…スパナかけ部 21c…雄ねじ部
23…他端側軸部 23a…段差部 22…偏心軸部 24…冷却水流路
30…第2の偏心軸部付き支持軸
31…一端側軸部
31a…段差部 31b…スパナかけ部 31c…雄ねじ部
33…他端側軸部 33a…段差部 32…偏心軸部 34…冷却水流路
40…第1の軸受 41…内輪 42…外輪
43…防塵用鍔型ガード 44…軸受固定用ナット
50…第2の軸受 51…内輪 52…外輪
53…防塵用鍔型ガード 54…軸受固定用ナット
60,70…一端側調整駒
61,71…調整駒固定用ナット
62,72…他端側調整駒
63,73…調整駒固定用ナット
80,90…固定用ナット
200…取付け基板 201…積重ね締結用ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に型溝を有する一対のローラダイスによって形成される型孔に線材を通して、該線材を伸線加工する線引き装置において、
枠体と、一端側軸部、この一端側軸部と互いに軸線の延長線が一致する他端側軸部、及びこれら軸部の間に形成され該一端側及び他端側軸部の軸心に対して偏心させた偏心軸部を有するとともに、軸内部に冷却媒体流路を有する第1、第2の偏心軸部付き支持軸と、前記第1の偏心軸部付き支持軸の前記偏心軸部に固定され、かつ、前記一対のローラダイスうちの一方のローラダイスが外嵌装着され、該一方のローラダイスを回転自在に支持する第1の軸受と、前記第2の偏心軸部付き支持軸の前記偏心軸部に固定され、かつ、前記一対のローラダイスうちの他方のローラダイスが外嵌装着され、該他方のローラダイスを回転自在に支持する第2の軸受と、前記枠体に前記第1、第2の偏心軸部付き支持軸を、それぞれ、その軸方向にスライド変位可能に保持するための第1、第2のローラダイス軸線方向位置調整機構と、前記枠体に前記第1、第2の偏心軸部付き支持軸を、それぞれ、その前記一端側及び他端側軸部の軸線を中心に回転変位可能に保持するための第1、第2のローラダイス径方向位置調整機構と、を備えたことを特徴とする線引き装置。
【請求項2】
前記第1、第2のローラダイス軸線方向位置調整機構の各々は、当該偏心軸部付き支持軸の前記一端側及び他端側軸部に形成された段差部に先端部が当接する状態で該一端側及び他端側軸部にそれぞれ外嵌され、かつ、外周に前記枠体の雌ねじ部に螺合する雄ねじ部を有する一端側及び他端側調整駒を有し、これらの調整駒を回転させて当該偏心軸部付き支持軸をその軸方向にスライド変位させるものであり、前記第1、第2のローラダイス径方向位置調整機構の各々は、当該偏心軸部付き支持軸の一端に形成されたスパナかけ部を有し、このスパナかけ部に工具をかけ回すことによって当該偏心軸部付き支持軸を回転変位させるものであることを特徴とする請求項1記載の線引き装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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