説明

線形電子トランスデューサ

【課題】
【解決手段】電子トランスデューサは、それ自体のコース及びウェールで定義される2つの次元において伸長可能なニット編み構造を備える。導電糸(4)は、前記構造内の非導電糸(2)に隣接する少なくとも1つのコースを画定するとともに、それ自体の電気的特性のインジケーションを提供する回路部分となる。どちらの方向でも伸長が与えられないときは、前記導電糸を含むステッチの連続するループは係合状態になる。前記構造のコース方向の伸長は前記ステッチを形成するループを分離させ、ウェール方向の伸長は、前記ループを互いに押し付ける。前記構造は、前記構造の前記コース方向及び前記ウェール方向のいずれか一方又は両方における伸長を登録する方法に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子トランスデューサに関し、特にニット編み構造(knitted structure)に組み込まれたトランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
このようなニットトランスデューサ装置は、参照によりその開示内容が本明細書に組み込まれる特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示されている装置は、導電性繊維が編み込まれた少なくとも1つの変換ゾーンを有するニット編み構造を備えている。ニット編み構造が変形すると、変換ゾーンの電気的特性に変化が生じる。これらの変化を監視することにより、ニット編み構造の変形を知ることが可能となる。このニット編み構造を衣服、特に密着して着用される衣服に組み込んだ場合は、身体運動を監視することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/100784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はまた、ニット編み構造を備える電子トランスデューサに関するものである。しかしながら、本発明のトランスデューサは、ニット編み構造の個々の糸(yarn)に焦点を当て、具体的には、ニット編み構造が伸長(extend)又は伸張(stretch)されたことによって生じる1つ又は複数の編みコースの電気的特性の変化に焦点を当てている。本発明によれば、トランスデューサは、コース及びウェールで定義される2つの次元において伸長してステッチの幾何形状を歪ませるような、コース内に配置されたステッチのニット編み構造を備える。コース次元の伸長は、ステッチのレッグ部分(leg)を分離させ、ウェール次元の伸長は、ステッチのレッグ部分を互いに押し付ける。少なくとも1本の電導糸は、他の箇所では非導電糸から作成されるニット編み構造内の単一のコースを画定し、それにより、非導電性ステッチに隣接する単一の導電性コース・ステッチを形成する。このコースは、それ自体の電気的特性を現わす回路の一部であってもよい。ニット編み構造は弛緩状態又は非伸長状態を有し、この状態では、導電糸を含むステッチの連続するループ部分が係合状態になっている。かかる係合によって導電糸の交互のステッチが短絡されると、その影響が導電糸・コースの抵抗又は他の特性に反映される。ここでの特性は典型的には抵抗であるが、圧電性であっても、容量性であっても、誘電性であってもよい。これにより、局所化された線形トランスデューサをニット編み織物構造(knitted fabric structure)内に作り出すことが可能となる。
【0006】
本発明を具現化する構造がコース方向に伸長又は伸張されると、1つ又は複数の導電糸の互いに接触するループがばらばらに離れ、その結果、それらの間の短絡がばらばらに切れてその電気的特性が変化する。本構造がウェール方向に伸張又は伸長されると、ループどうしの係合状態が維持され、接触程度が増大する。この場合も、1つ又は複数の糸の電気的特性が変化する。例えば、本構造がコース方向に伸張又は伸長されて隣接するループどうしがばらばらに分離すると、1つ又は複数の糸の電気抵抗が増加する。この電気抵抗は、ウェール方向へ伸張又は伸長してもそれによって電気抵抗は変化せず、あるいは減少する。この意味で、かかる織物はツー・ウェイ・ステッチとして機能することができる。
【0007】
本発明によるトランスデューサを形成するニット編み構造の非導電糸は、線形トランスデューサの性能特性を改善するために、通常は低弾性糸であり、典型的にはエラストマである。このような糸でニット編み構造を形成する場合、ニット編み構造は通常実質的に伸張され、その結果得られる構造においてはステッチのコースに沿った連続するループが係合状態又はジャム状態(jammed)になるようにステッチが収縮される。これにより上で概説した結果として導電性糸の連続するループも係合状態にされる。
【0008】
ニット編み構造の非導電糸が伸長できない場合は、その編み構造をもっと粗く形成することができ、導電糸の連続するループの係合又は他の状態がコース次元及びウェール次元のいずれかに編み構造が伸長することで確実に決定される。このような構造すなわちエラストマ糸を備える上述した構造は、対向端が互いに近付く側と離れる側の両側への移動によって連続するループ部分が係合状態になるかどうかが決定される正方形の、あるいは矩形の、あるいは成形された編成パネル・フレームに組み込むことも可能である。
【0009】
本発明のトランスデューサは、もちろん、導電糸の電気的特性の変化を監視する電気回路と組み合わせて使用される。この電気回路には、監視される変化を記録するディスプレイ及び/又はメモリを含むことができる。上でお気づきのように、この電気的特性は典型的には電気抵抗であるが、特にニット編み構造がコース内に互いに離間した導電糸を含む場合には他の特性を監視することもでき、コース方向とウェール方向のそれぞれにおける伸長を高い確度で監視することが可能である。
【0010】
本発明を具現化するトランスデューサは、身体運動又は呼吸運動の監視に使用されるトレーニング・ベストのような衣服に組み込むことが可能である。本トランスデューサが役立つ可能性がある別の具体的な衣服としては、身体の特定のエリア又は領域に焦点を当てる際に利用され得るベルトとかストラップがある。
【0011】
以下では単なる例示として、添付の概略図を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ニット編み構造のステッチの詳細を示す拡大図である。
【図2】コース内の糸の隣接ループどうしが接触した状態のニット編み構造の詳細を示す図1と同様の図である。
【図3】X方向の伸張によりコース内の糸の隣接ループ部分が分離された状態のニット編み構造の詳細を示す図1と同様の図である。
【図4】Y方向の伸張によりコース内の糸の隣接ループどうしが寄せ集められた状態のニット編み構造の詳細を示す図1と同様の図である。
【図5】エラストマ糸を備えるニット編み構造の詳細を示す同様の拡大図である。
【図6】本発明を具現化するニット編み構造がウエストバンド又はベルトにどのように組み込まれるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ニット編み構造は、行及び列に配列されるステッチで構成される。行は一般にコースと呼ばれ、図1のXで示される編み糸と同じ方向に延びる。列又はウェールは、図1のYで示される垂直方向に延びる。
【0014】
本発明によるトランスデューサのニット編み構造は、図1に示すように、いくつかの非導電糸2と、1つのコースに沿って延びる個別の導電糸4とで構成される。糸の相継ぐ連続するコースは、2つの特定結合エリア6と8が形成されているステッチを形成するループによって相互に連結されている。図1に示すように、上側の結合エリア6は、隣接する非導電糸2の下向きの隣り合うループを通って延びる糸4に形成されたループの先端に所在する。下側の結合エリア8も同様の構成であり、下方に延びるループが導電性糸4によって形成され、隣接する下側の非導電糸2から上方に延びるループによって保持されている。
【0015】
図1に示した織物構造は比較的目が粗く、糸は実質的に伸長できない。しかしながら、糸は十分柔軟である。したがって、この織物構造は、Y方向に伸長されるとX方向に収縮する。その結果、各糸の隣接するループどうし、特に導電糸4のループどうしの外側側面どうしが係合することになる。この係合により糸の交互の長さ部分の電気的短絡がもたらされ、それによって電気的特性、特に織物構造の両側で糸の端部間の電気抵抗が変化する。その後、この織物構造がX方向に伸長されると、逆の効果、即ち、ループの側面どうしが互いに引き離され、これによって短絡が除かれることになる。その後、導電糸を流れる電流は必然的に糸の全長にわたって流れることになり、その結果糸の有効抵抗は増加する。
【0016】
非伸長性の糸できつく編まれた織物は、図2に示したようなゆるい構造で製作することができる。図面から分かるように、各コースのステッチの糸の連続するループは接触している。これらの糸のうちの1本(4)は導電性として図示されており、その電気的特性は、連続するループ間の接触及び接触点の影響を受ける。例えば、この糸の測定抵抗は、それ自体の全長の抵抗に比べて、ループの接触点の位置によって決まる量だけ減少する。実際にはループ毎に短絡が存在する。
【0017】
図2の織物がコース方向(図1のX)に伸長されると、各ループは図3に示すように伸長される。図1に示した接触点は係脱され、導電性糸4の電流は必然的にすべてのループを含む導電糸4の全長を使用することになる。この糸の測定電気抵抗は、その分容易に監視可能な量だけ増加する。したがって、接触点を係脱させるのに十分な所定の量の織物の伸長を登録(register)することが可能となる。圧電性、容量性、誘電性のような他の電気的特性も監視することにより様々な伸長程度を登録できる。
【0018】
図2の織物がウェール方向(図1のY)に伸長されると、各ループは図4に示すように伸長される。その結果、電流を流す導電糸4の長さ、したがってその測定抵抗は全長の抵抗に比べて更に減少される。無論、この変化は漸進的で伸長量を監視することが可能となるが、所定の量を超えるものではない。図2の織物がコース方向とウェール方向の両方向に伸長されると、それらのうちの一方向の伸長が他方向の伸長の結果として導電糸の電気的特性の監視に影響を与えることが理解されるだろう。無論、監視回路はこれに対処可能であり、また、状況によっては、例えば糸の様々な電気的特性を同時に監視することにより両方向の伸長を監視することも可能となる。
【0019】
本発明を具現化するニット編み構造は、導電糸と、一重又は二重被覆エラストマ糸やモノフィラメント又はマルチフィラメント・エラストマ糸のような非導電性の低弾性糸と、を組み合わせて使用することによって作成することができる。かかる構造では、低弾性糸がニット編みプロセス中に伸張されるので、ニット編み構造は自然に収縮して各ステッチのループの隣接するフランクどうしを密接させる。こうしたステッチをジャム状態ステッチ(jammed stitch)と呼び、このような構造の一断面を図5に示す。この構造は、事実上X方向にのみ伸張あるいは伸長され得る。そのため、本構造が図示のような自然な状態又は弛緩状態にあるとき、本構造内のコースのうちの1つを画定する導電性4の電気的特性は、隣接するループの並置されたフランクどうしを緊密に係合させ、その結果、上述のように糸の交互の長さ部分の短絡を生じさせる。例えば、この糸の電気抵抗は、短絡がない場合のそれ自体の全長の抵抗に比べて減少する。図5の構造がコース方向Xに伸張されると、接触しているフランクが離され、導電糸4の両端間の合計抵抗が増加する。
【0020】
上記と同じ低弾性糸又はエラストマ糸を備える図5の編成構造は、均一且つ予測可能な伸長特性を有する。したがって、単一の導電糸4が上述のように本構造に組み込まれた場合は、接触しているフランクを離すことによってそれ自体の電気的特性が変化するポイントと、本構造のコース方向Xにおける特定の伸長とを正確に関連付けることが可能となる。
【0021】
本発明を具現化するトランスデューサは、運動の正確な監視が必要とされるいくつかの応用分野で使用することができる。このトランスデューサは、例えば呼吸運動又は関節周辺の身体的運動の監視が必要とされるスポーツ及び医療の応用分野で特に有益な性能を発揮する。また、機械構造物のサイクル試験の監視にも役立つ可能性がある。
【0022】
図6は、本発明を具現化するトランスデューサ10が組み込まれたベルト又はストラップを示す。トランスデューサはベルトの全体の幅を構成するため、必然的にベルトの長さのどのような伸長にも対応可能とされている。調整機構12は、ベルトが着用者の身体の各輪郭をしっかりと辿り、各輪郭の伸長及び収縮を監視することが可能となるように着用者にフィットし適合することを可能する。
【0023】
トランスデューサ10の内部では、非導電糸を備える構造内に単一の導電糸4が延在する。トランスデューサの両側端部において、糸4は、レコーダ・ボックス16まで延在する導体14に接続されている。レコーダ・ボックス16は、トランスデューサの導電糸4の1つ又は複数の電気的特性の変化を監視する。導電糸4は、トランスデューサ10から離れた位置にある実質的に伸長できないベルトのボディに固定される。コントロール・ボックス16は、この伸長できないベルト・セクションに取り付けられ、当該ベルト・セクションに対して摺動可能とされる。レコーダ・ボックス16は、必要な回路及び小型電池のような電源を含む。レコーダ・ボックス16は、ベルト全体の伸長及び収縮の視認可能なインジケーションを提示する表示パネルも含むことができる。レコーダ・ボックス16は、これらの変化を監視するリモート・レコーダと直接あるいは無線接続を介して結合させることもできる。
【0024】
上記では、非導電糸のニット編み構造において単一の導電糸が使用される場合について本発明を説明してきた。しかしながら、複数の導電性糸を個列に使用すること、並列に使用すること、あるいは直列に使用することも可能であることが理解されるだろう。
【0025】
本発明を具現化するニット編み構造では様々な糸素材が使用され得る。適切な非導電糸及び非伸長糸(図1参照)は、任意の天然繊維及び/又はコットン、ウール、PE、PP、PA、アラミド等の人工繊維でできたものである。非導電性の好ましい低弾性糸又はエラストマ糸は、モノフィラメント又はマルチフィラメントPU(ライクラ、スパンデックス等)や、一重又は二重被覆ライクラ又はスパンデックスである。適切な導電性糸は、ステンレス鋼糸、カーボン糸、すべての金属被覆糸等、プレーン金属糸である可能性がある。適切な被覆糸は、それぞれ銀、銅、ニッケル、又は金のナノ層で被覆されたポリエチレン・マルチフィラメントで構成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コース及びウェール内に配置されたステッチのニット編み構造を備えた電子トランスデューサであって、前記ニット編み構造は、前記コース及びウェールによって定義される2つの次元において前記ステッチを歪ませるように伸長可能であり、前記コース次元の伸長は前記ステッチを形成するループ分を分離させ、前記ウェール方向の伸長は、前記ループ部分を互いに押し付け、導電糸は、前記構造内の非導電糸に隣接する少なくとも1つのコースを画定し、どちらの次元でも伸長が与えられないときは、前記導電糸を含む前記ステッチの連続するループは係合状態になり、前記導電糸はそれ自体の電気的特性のインジケーションを提供する回路部分となるように構成されたことを特徴とする、電子トランスデューサ。
【請求項2】
前記非導電糸は低弾性糸である、請求項1に記載のトランスデューサ。
【請求項3】
前記非導電糸はエラストマ糸である、請求項2に記載のトランスデューサ。
【請求項4】
前記非導電糸はニット編みプロセス中に伸長され、それにより、前記導電糸を含むステッチの連続するループが互いに押し付けられて前記編み構造内のステッチがジャム状態になる、請求項2又は3に記載のトランスデューサ。
【請求項5】
前記導電糸の前記電気的特性は抵抗である、前記請求項のいずれか1項に記載のトランスデューサ。
【請求項6】
前記導電糸の前記電気的特性は圧電性である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトランスデューサ。
【請求項7】
前記導電糸の前記電気的特性は容量性である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトランスデューサ。
【請求項8】
前記導電糸の前記電気的特性は誘電性である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトランスデューサ。
【請求項9】
前記電気的特性の変化を監視する電気回路と組み合わせ、前記請求項のいずれか1項に記載のトランスデューサ。
【請求項10】
前記請求項のいずれか1項に記載のトランスデューサがそれ自体の一体部分として組み込まれた衣服。
【請求項11】
ベルトの形をとる請求項9に記載の衣服。
【請求項12】
ニット編み構造のコース方向の伸長を登録する方法であって、前記編み構造において、導電糸は、前記構造内の非導電糸に隣接する少なくとも1つのコースを画定するとともに、前記構造が基準状態にあるときに所定の電気的特性を有し、前記構造の前記コース方向の伸長は、前記導電糸のステッチ内の連続するループを分離させ、前記方法は、所与の前記伸長を指示する変化の有無について前記電気的特性を監視するステップを含む方法。
【請求項13】
前記基準状態において、前記導電糸の前記ステッチ内の連続するループは係合状態にある、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ニット編み構造のウェール方向の伸長を登録する方法であって、前記構造において、導電糸は、前記構造内の非導電糸に隣接する少なくとも1つのコースを画定するとともに、前記構造が基準状態にあるときに所定の電気的特性を有し、前記構造の前記ウェール方向の伸長は、前記導電糸のステッチ内の連続するループを寄せ集め、前記方法は所与の前記伸長を指示する変化の有無について前記電気的特性を監視するステップを含む、方法。
【請求項15】
前記基準状態において、前記導電糸の前記ステッチ内の連続するループは互いに離間される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電気的特性は抵抗であり、前記所与の伸長は、それによって前記導電糸の前記ステッチ内の連続するループがそれぞれ係脱される又は寄せ集められる伸長である、請求項13又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記所与の伸長は、それによって前記導電性の前記ステッチ内の事前設定された数の連続するループがそれぞれ係脱される又は寄せ集められる伸長である、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−510700(P2011−510700A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543569(P2010−543569)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000195
【国際公開番号】WO2009/093040
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(510203430)ロスネス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】