説明

線材の皮膜剥離装置及び剥離方法

【課題】 線材の皮膜を容易に効率良く剥離することができる皮膜剥離装置、及びそれを用いた剥離方法を提供すること。
【解決手段】 線材1を支持する線材支持機構3と、切削具4を線材1の外側から中心に向かって移動させ皮膜35に対して切り込み36を加える切込付与機構5と、切削具4を線材1に対して線材長手方向に相対移動させるカッター相対移動機構6とを備え、切込付与機構5によって皮膜35の線材長手方向の所望の二箇所に対して切り込み36を加え、カッター相対移動機構6によって切削具4を一方の切り込み36から他方の切り込み36まで相対移動させ皮膜35を剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材の皮膜を剥離する皮膜剥離装置及び皮膜剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁皮膜等の皮膜に被覆された線材を用いて巻線を行う場合には、線材を絡げる端子との電気的接触を確保するために、又は直接電気的接触部とするために線材の皮膜を予め部分的に剥離する必要がある。
【0003】
断面形状が長方形である平角線材の絶縁皮膜を剥離する装置として、回転するローラやすりを絶縁皮膜に当接させその絶縁皮膜を剥離する装置がある(例えば、特許文献1)。このような装置の場合、ローラやすり又は線材を移動させることによって絶縁皮膜の剥離を行うが、最初にローラやすりを平角線材に押し付ける部分、つまり剥離部の端部に窪みができてしまうことがある。
【0004】
また、平角線材の絶縁皮膜を剥離する他の装置として、図4に示す断面図のように対向する2面が切削面41、42であるコの字形状の剥離カッター40を備える装置がある。この装置は、切削面41、42にて平角線材43を挟むように剥離カッター40を移動させることによって、平角線材43の絶縁皮膜44を剥離する。この装置を用いる場合には、上記したローラやすりを用いた装置のように平角線材に窪みができるということはない。
【特許文献1】特開平5−111122
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コの字形状の剥離カッター40を備える剥離装置の場合、切削面41と切削面42の間隔と、平角線材43の導線部45との厚みの調整が難しい。また、剥離部の線材長手方向の長さを長くするには、剥離カッター40の幅を長くする必要があるため、剥離部の長さに併せて複数種類の剥離カッター40を用意しなければならない。このため、所望の剥離部の長さに応じて剥離カッター40を交換する必要があり、作業効率が悪い。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、線材の皮膜を容易に効率良く剥離することができる皮膜剥離装置、及びそれを用いた剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、切削具にて線材の皮膜を剥離する皮膜剥離装置において、前記線材を支持する線材支持手段と、前記切削具を線材の外側から中心に向かって移動させ前記皮膜に対して切り込みを加える切り込み付与手段と、前記切削具を前記線材に対して線材長手方向に相対移動させる切削具移動手段とを備え、前記切り込み付与手段によって前記皮膜の線材長手方向の所望の二箇所に対して切り込みを加え、前記切削具移動手段によって前記切削具を一方の切り込みから他方の切り込みまで相対移動させ皮膜を剥離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、切削具を線材の外側から中心に向かって移動させることによって皮膜に切り込みを加えるため、皮膜の厚さに合わせて切削具による切り込み量を調節することができる。また、皮膜の線材長手方向の所望の二箇所に対して切り込みを加えるため、この二箇所の切り込みの間隔を調節することによって剥離部の長さを自由に設定することができる。したがって、皮膜の厚さ及び剥離部の長さに応じて切削具を変更する必要がなく作業効率が良い。さらに、切削具を線材に形成した二箇所の切り込みの間を相対的に移動させるだけで皮膜を除去することができるため、容易に皮膜を剥離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
図1、図2を参照して、本発明の実施の形態に係る皮膜剥離装置100について説明する。図1は皮膜剥離装置100の概略を示す側面図であり、図2は皮膜剥離装置100の概略を示す平面図である。
【0011】
皮膜剥離装置100は、絶縁皮膜等の皮膜に被覆された線材をボビンやステータコア等に巻線するにあたり、線材を絡げる端子との電気的接触を確保するために、又は直接電気的接触部とするために線材の皮膜を予め部分的に剥離する装置である。本実施の形態では、線材の種類として断面形状が長方形である平角線材の皮膜を剥離する場合について説明する。
【0012】
皮膜剥離装置100は、線材供給源(図示せず)から供給される平角線材1を皮膜剥離装置100に導く線材送り機構2と、平角線材1を支持する線材支持手段としての線材支持機構3と、平角線材1の皮膜を切削する切削具としてのカッター4と、カッター4を平角線材1の外側から中心に向かって移動させ皮膜に対して切り込みを加える切り込み付与手段としての切込付与機構5と、カッター4を平角線材1に対して線材長手方向に相対移動させる切削具移動手段としてのカッター相対移動機構6とを備える。
【0013】
線材送り機構2は、基台10上に立設する支柱11と、支柱11に回転可能に設けられた一対のローラ12と、一対のローラ12のそれぞれの回転軸に連結されローラ12を回転させるモータ13とを備える。線材供給源から供給される平角線材1は、回転する一対のローラ12にて挟まれ、基台10の平面10aと平行な方向へ送られ、平角線材1の皮膜を剥離する機構へと導かれる。なお、一対のローラ12は、それぞれ上下に移動可能に構成され、平角線材1の厚さに応じて一対のローラ間の間隔が調整される。
【0014】
線材支持機構3は、平角線材1の皮膜を剥離するにあたって、線材送り機構2から送られてきた平角線材1を支持するものであり、送られてきた平角線材1を載置する載置台15と、載置台15に対して平角線材1を押圧する押板16と、載置台15に連結部材19を介して連結されたシリンダ17と、空気供給源(図示せず)からシリンダ17内部へ供給される圧縮空気によってシリンダ17内を往復運動するピストン18とを備える。押板16はピストン18の先端に取り付けられ、ピストン18の駆動によって、平角線材1への押圧とその解除が行われる。このように、平角線材1は、載置台15と押板16にて挟まれ支持される。
【0015】
切込付与機構5は、基台10上に立設する支柱20と、支柱20に沿って取り付けられ平角線材1と垂直方向に延在するガイドレール21と、ガイドレール21に沿って移動する移動体22と、支柱20に固定されたシリンダ23と、空気供給源からシリンダ23内部へ供給される圧縮空気によってシリンダ23内を往復運動するピストン24と、ピストン24の先端と移動体22を連結する連結部材25とを備える。
【0016】
カッター4は、切込付与機構5の移動体22にカッター4の刃4aが平角線材1の外側面に対峙する向きに取り付けられる。したがって、カッター4は、移動体22の移動により、平角線材1の皮膜に対して平角線材1の外側から中心に向かう切り込みを加えることが可能となる。なお、カッター4は、移動体22に対して揺動可能に取り付けられているため、平角線材1外側に対するカッター4の刃4aの傾きを任意に設定することができる。
【0017】
なお、切込付与機構5は、皮膜剥離装置100に一対設けられ、一対の切込付与機構5は、それぞれのカッター4が、平角線材1の対向する長面1a、1bのそれぞれに対峙する態様で設けられる。ここで、対向する長面とは、平角線材1における二組の対向する面のうち幅方向の寸法の大きい面のことをいう。カッター4の幅方向の寸法は、平角線材1の長面1a、1bの幅方向の寸法よりも大きくするのが望ましい。
【0018】
カッター相対移動機構6は、基台10上に配置された土台27と、土台27上に固定されたシリンダ28と、空気供給源からシリンダ28内部へ供給される圧縮空気によってシリンダ28内を往復運動するピストン29と、ピストン29の先端と線材支持機構3の載置台15を連結する連結部材30と、平角線材1の長手方向に沿ってピストン29上に配置されたガイドレール31とを備える。線材支持機構3の載置台15の下面15aにはガイドレール31に係合する溝が形成されているため、載置台15はガイドレール31に沿って移動する。したがって、ピストン29の駆動によって、平角線材1は線材支持機構3にて支持された状態で線材長手方向に移動する。
【0019】
本実施の形態では、カッター相対移動機構6は、平角線材1をカッター4に対して移動させる構成としたが、切込付与機構5を移動させる機構を設け、カッター4を平角線材1に対して移動させる構成としてもよい。つまり、カッター4を平角線材1に対して線材長手方向に相対移動させる構成であればよい。
【0020】
次に、図1〜図3を参照して皮膜剥離装置100の動作について説明する。図3は、平角線材1の皮膜が剥離される状態を示す図である。なお、以下に示す皮膜剥離装置100の動作は、皮膜剥離装置100に搭載されたコントローラ(図示せず)によって、自動制御される。
【0021】
まず、線材送り機構2の一対のローラ12を回転し、そのローラ12間に平角線材1を案内することによって平角線材1をローラ12から送り出す。平角線材1は線材支持機構3の載置台15上に案内され、さらに一対の切込付与機構5の間に位置するまで送られる。この状態でローラ12の回転を止め、平角線材1の送りを止める。なお、平角線材1は、長面1a、1bがローラ12に当接する向きにてローラ12間に案内される。
【0022】
次に、線材支持機構3のピストン18を駆動することによって、ピストン18先端に連結された押板16は平角線材1に向かって移動する。そして、押板16は、平角線材1の長面1aに当接し平角線材1を載置台15に向かって押圧する。これにより、平角線材1は、載置台15と押板16の間にて支持される。
【0023】
平角線材1を線材支持機構3にて支持した状態で、一対の切込付与機構5のピストン24を駆動することによって、移動体22はガイドレール21に沿って平角線材1に向かって移動する。これにより、移動体22に設けられた一対のカッター4の刃4aは、それぞれ平角線材1の長面1a、1bに当接し、平角線材1の外側から中心に向かって皮膜35に食い込む。そして、皮膜35の厚さに相当する深さまで刃4aを食い込ませた後、ピストン24を逆側に動作し、カッター4を平角線材1から離す方向に移動させ、刃4aを皮膜35から抜き取る。これにより、平角線材1の長面1a、1bには、図3(a)に示すように、切り込み36が形成される。
【0024】
平角線材1に加える切り込み36の切り込み量は、切込付与機構5のシリンダ23に供給する空気圧力、及びカッター4の平角線材1に対する角度を調整することによって制御される。
【0025】
次に、カッター相対移動機構6のピストン29を駆動することによって、線材支持機構3は平角線材1を支持した状態でガイドレール31に沿って線材長手方向に移動する。これにより、カッター4の平角線材1に対する線材長手方向の相対位置が変化する。線材支持機構3の移動距離は、平角線材1に形成する剥離部の所望長さに相当する値に設定する。
【0026】
線材支持機構3を所定距離移動した後、図3(b)に示すように、一対の切込付与機構5のピストン24を駆動することによって、一対のカッター4の刃4aは、再び平角線材1の皮膜35に食い込む。このように、切込付与機構5によって、平角線材1の皮膜35には、線材長手方向の所望の二箇所に切り込み36が形成される。
【0027】
次に、カッター4の刃4aが平角線材1の皮膜35に食い込んだ状態(図3(b))から、カッター相対移動機構6のピストン29を駆動することによって、線材支持機構3に支持された平角線材1は移動し、図3(c)に示すように、カッター4の刃4aを最初に加えた切り込み36に向かって線材長手方向に相対移動させる。
【0028】
刃4aが最初に加えた切り込み36に到達することによって、図3(c)に示すように、平角線材1の長面1a、1bにおける皮膜35は所定長さ剥離され、平角線材1から除去される。このように、皮膜を除去したい部分の端部に予め切り込み36を入れておくことによって、容易に皮膜を剥離することが可能となる。
【0029】
皮膜35が除去された部分には、導線部37が露出した状態となるため、この導線部をボビンやステータコアに設けられた端子に絡げることによって平角線材1と端子との電気的接触が確保される。
【0030】
皮膜35を除去した後、一対のカッター4を平角線材1から遠ざけると共に、押板16を移動させ平角線材1の拘束を解除する。そして、一対のローラ12を回転し、平角線材1を図示しない巻線装置へと送り出す。
【0031】
以上の本実施の形態では、平角線材1の皮膜を剥離する場合について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、断面が丸い丸線等の場合でも、カッター4の形状を線材の形状に合わせるようにすることで皮膜を剥離することが可能である。
【0032】
また、本実施の形態では、一対の切込付与機構5を設ける構成としたが、平角線材1の対向する長面のうちの一方の長面側のみに切込付与機構5を設け、その一方の長面の皮膜のみを剥離するようにしてもよい。一方の長面の皮膜のみを除去した場合でも、平角線材1と端子との電気的接触は確保することが可能である。
【0033】
さらに、本実施の形態では、線材支持機構3、押板16、及び移動体22を移動する機構としてシリンダ及びピストンを用いる構成としたが、これに限るものではなく、例えば、モータとその出力軸に連結したボールねじを組合わせる構成とすることも可能である。
【0034】
以上の実施の形態に係る皮膜剥離装置100によれば、カッター4を平角線材1の外側から中心に向かって移動させることによって皮膜35に切り込み36を加えるため、皮膜35の厚さに合わせてカッター4による切り込み量を調節することができる。また、皮膜35の線材長手方向の所望の二箇所に対して切り込み36を加えるため、この二箇所の切り込み36の間隔を調節することによって剥離部の長さを自由に設定することができる。したがって、皮膜35の厚さ及び剥離部の長さに応じてカッター4を変更する必要がなく作業効率が良い。
【0035】
さらに、カッター4を平角線材1に形成した二箇所の切り込み36の間を相対的に移動させるだけで皮膜35を除去することができるため、皮膜35を容易に剥離することができる。
【0036】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、巻線装置に供給される線材の絶縁皮膜を剥離する装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態である皮膜剥離装置100の概略を示す側面図である。
【図2】同じく皮膜剥離装置100の概略を示す平面図である。
【図3】同じく皮膜剥離装置100の動作を示す図である。
【図4】従来の皮膜剥離方法を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
100 皮膜剥離装置
1 線材
2 線材送り機構
3 線材支持機構
4 カッター
5 切込付与機構
6 カッター相対移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削具にて線材の皮膜を剥離する皮膜剥離装置において、
前記線材を支持する線材支持手段と、
前記切削具を線材の外側から中心に向かって移動させ前記皮膜に対して切り込みを加える切り込み付与手段と、
前記切削具を前記線材に対して線材長手方向に相対移動させる切削具移動手段とを備え、
前記切り込み付与手段によって前記皮膜の線材長手方向の所望の二箇所に対して切り込みを加え、前記切削具移動手段によって前記切削具を一方の切り込みから他方の切り込みまで相対移動させ皮膜を剥離することを特徴とする皮膜剥離装置。
【請求項2】
前記切削具移動手段は、前記線材を前記線材支持手段と共に線材長手方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載の皮膜剥離装置。
【請求項3】
前記線材は平角線材であり、
前記切削具は、前記平角線材の対向する長面のそれぞれに対峙して設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の皮膜剥離装置。
【請求項4】
切削具にて線材の皮膜を剥離する皮膜剥離方法において、
前記皮膜の線材長手方向の所望の二箇所に対して前記切削具を線材の外側から中心に向かって移動させることによって切り込みを加え、
前記切削具を一方の切り込みから他方の切り込みまで前記線材に対して線材長手方向に相対移動させることによって前記皮膜を剥離することを特徴とする皮膜剥離方法。
【請求項5】
切削具にて線材の皮膜を剥離する皮膜剥離方法において、
前記皮膜に対して前記切削具を線材の外側から中心に向かって移動させることによって第一の切り込みを加え、
前記切削具を前記線材に対して線材長手方向に相対移動させ前記第一の切り込みから所望の位置に第二の切り込みを加え、
前記切削具を第二の切り込みから第一の切り込みまで前記線材に対して線材長手方向に相対移動させることによって前記皮膜を剥離することを特徴とする皮膜剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−82301(P2007−82301A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264919(P2005−264919)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】