説明

線材の製造方法および伸線設備

【課題】中間パテンティング処理を省略しても、二次伸線工程におけるボラックスの乾燥を良好とし、焼き付きや断線の生じない伸線加工を可能とする線材の製造方法及び設備を提供する。
【解決手段】線材表面の酸化物を除去する脱スケール工程と、前記線材表面に被膜液を付着させる被膜液付着工程と、前記線材に潤滑剤を付着させた後に前記線材を減面加工する伸線工程と、前記線材を加工昇温させる工程と、前記線材表面に更に被膜液を付着させる被膜液付着工程と、前記線材に潤滑剤を付着させた後に前記線材を減面加工する伸線工程とをこの順番で含むことを特徴とする線材の製造方法を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコードやビードワイヤー等に用いられる金属線材の製造方法及び伸線設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炭素鋼線は、熱間圧延によって製造された高炭素鋼線材を所定の線径まで伸線加工することによって製造される。
特許文献1には、サプライスタンドから伸線加工されるべき線材が供給され、ベンディング加工、ブラッシング加工を経ることによりデスケーリングされ、更に酸洗処理、乾燥機付きのボラックス被膜液付着装置を経た後、連続伸線機によって所定の線径になるまで加工される方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、従来の伸線設備の他の一例が記載されている。図12は、特許文献2の図1を示すものである。図12において、金属線材6の表面に乾式潤滑剤を付着させる乾式潤滑剤付着部7(不図示)と、この乾式潤滑剤付着部7の下流側に設けられたダイス8(不図示)とからなるダイス装置3を複数個直列に配置した連続乾式伸線装置により、金属線材6を所定の径に伸線する伸線設備が記載されている。
【0004】
この設備を用いた伸線方法において、相隣接するダイス装置3,3間の少なくとも一つの間において、中間皮膜処理装置5が記載されている。中間皮膜処理装置5の例としては、ボラックス装置が記載されている。ボラックスは、ホウ酸ナトリウムの水溶液である。このボラックス装置により、次に続くダイス加工のための乾式潤滑剤の付着を良好にするための皮膜を金属線表面に形成させることが記載されている。
【0005】
また、近年、より細い鋼線が求められている中で、熱間圧延によって製造された高炭素鋼線材を一気に所定の線径となるまで伸線加工を施すのではなく、例えば、線径が2mm程度となるまで一次の伸線加工が施され、線材を一旦リール等に巻き取った後、次に、所定の線径となるまで二次の伸線加工が施される二段階、或いは、三段階以上の伸線加工方法が採られている。
【特許文献1】特開昭63−174719号公報
【特許文献2】特開平7−195116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一次の伸線加工が終了した線材の温度は、一旦リールに巻き取られる等して室温付近まで低下している。そのため、線材に再度、被膜液の被覆処理を施そうとしても、被膜液(ボラックス)の付着後、被膜液の乾燥が十分ではない。被膜液は、ある程度乾燥しなければ、線材の表面に乾式潤滑剤が付着し難くなる。そうなるとダイスにおける線材の潤滑性が悪くなり、伸線途中で焼き付きが生じたり、断線が生じたりしてしまう。
【0007】
このような問題は、鋼線の生産性向上が求められている中、伸線加工中の線速が高まっていることにより特に顕著になっている。本発明者らの調査では、図1に示すように、線速が高まるにつれ、ダイスによる加工で線材の温度が上昇し、焼き付きの原因となる。なお、伸線中の線材の温度を直接測定することは困難であるので、伸線直後の線材を巻き取るドラム(ブロック)の温度を示している。温度の測定には、放射温度計(YOKOGAWA社製)を使用した。
【0008】
また、本発明者らの調査では、図2に示すように、線速が上昇すると、乾式潤滑剤被膜の付着量が減少している。そのため、上述のように、ダイスにおける線材の潤滑性が悪くなり、伸線途中で焼き付きが生じたり、断線が生じたりしてしまう。
【0009】
このような問題を解決するために、ボラックス液の温度を上げておくことや、ボラックスの付着後の乾燥機を別途追加する方法も考えられるが、それでもなお、近年の線速の増大には追従できず、また装置構成が大がかりとなりやすい。
【0010】
一方、二次伸線加工前に中間パテンティング処理を施す場合は、酸洗による脱スケール処理を行った後、リン酸亜鉛被膜処理を行なうことが一般的であるが、鋼線の生産性向上が求められている中、中間パテンティング処理自体が省略される傾向にある。
【0011】
本発明の目的は、中間パテンティング処理を省略しても、二次伸線工程におけるボラックスの乾燥を良好とし、焼き付きや断線の生じない伸線加工を可能とする方法及び設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決できた線材または鋼線の製造方法は、線材表面の酸化物を除去する脱スケール工程と、前記線材表面に被膜液を付着させる被膜液付着工程と、前記線材に潤滑剤を付着させた後に前記線材を減面加工する伸線工程と、前記線材を加工昇温させる工程と、前記線材表面に更に被膜液を付着させる被膜液付着工程と、前記線材に潤滑剤を付着させた後に前記線材を減面加工する伸線工程とをこの順番で含むものである。
【0013】
上記製造方法において、前記線材を加工昇温させる工程の前に、前記線材を一旦巻き取り機で巻き取ることができる。
【0014】
上記製造方法において、前記伸線工程が、複数のダイスで減面加工を繰り返す連続伸線工程である態様が推奨される。
【0015】
また、上記課題を解決できた伸線設備は、線材表面の酸化物を除去する脱スケール装置と、線材に被膜液を付着させる被膜液付着装置と、線材に潤滑剤を付着させてダイスにより線材を減面加工する少なくとも2つの伸線装置とを備えた伸線設備であって、第一の伸線装置と第二の伸線装置との間に、加工昇温装置と被膜液付着装置を更に有するものである。
【0016】
なお、本明細書において、「加工昇温」とは、鋼材に機械的外力を加えて変形させることにより、鋼材の温度を上昇させるものである。加工の種類としては、例えば、圧延加工、引抜き加工、曲げ加工等が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機械的加工により線材自体を加熱することができるため、二次伸線工程におけるボラックスの乾燥が良好となり、焼き付きや断線の生じない二次伸線が可能となる。その結果、設備を大型化することなく、線径の小さい鋼線を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態にかかる線材の製造方法及び伸線設備、並びに実験例について説明する。
図3は、本発明の実施の形態における伸線設備のレイアウトを示すブロックチャートである。まずは、このブロックチャートに基づいて伸線設備の概要を説明する。
【0019】
図3において、上段のラインは、伸線設備の一次伸線ラインを示し、下段のラインは二次伸線ラインを示すものである。
【0020】
伸線設備の一次伸線ラインにおいて、サプライスタンド11から供給される線材23は、脱スケール装置12により表面の酸化膜が除去される。次に被膜液付着装置であるボラックス装置13の中を通ることにより、線材23の表面に被膜液(ボラックス)が付着する。ボラックス装置13の後には、乾燥路14が設けられており、熱風によりボラックスを乾燥させる。上述のように、ボラックスの乾燥が良好であると、次に説明する固形潤滑剤が線材23に付着し易くなる。
【0021】
続いて、線材23がダイス(図示せず)を含む乾式伸線装置15により減面される。乾式伸線装置15は、連続配置されており、線材23は所定の中間線径にまで減面される。伸線された線材23は、巻き取り機16により一旦コイル状に巻き取られる。
【0022】
伸線設備の二次伸線ラインにおいて、サプライスタンド17から供給される線材23は、曲げ加工装置18により曲げ加工を加えられ、塑性変形により線材23自体の温度が上昇する。次に、線材23が被膜液付着装置であるボラックス装置19の中を通ることにより、線材23の表面に被膜液(ボラックス)が付着する。ボラックス装置19の後には、乾燥路20が設けられており、熱風によりボラックスを乾燥させる。
【0023】
続いて、線材23がダイス(図示せず)を含む乾式伸線装置21により減面される。乾式伸線装置21は、連続配置されており、線材23は所定の線径にまで減面される。伸線された線材23は、巻き取り機22によりコイル状に巻き取られる。
【0024】
本実施の形態における伸線設備では、一次伸線の開始時における線材23の線径(直径)は5.5mm、線速は30m/分、一次伸線の終了時における線径は1.98mm、線速は250m/分、二次伸線の開始時における線径は1.98mm、線速は300m/分、二次伸線の終了時における線径は0.9mm、線速は1000m/分である。なお、伸線設備に供給した直径5.5mmの線材は、炭素濃度0.82質量%の高炭素鋼を転炉で溶製し、その鋼塊を分解圧延して155mm角のビレットを作製し、1150℃程度に加熱した後、熱間圧延を行い、衝風冷却を行うことにより得たものである。
【0025】
次に、ボラックス装置13及び19、乾式伸線装置15及び21、曲げ加工装置18について各々図4〜図6を用いて説明する。
【0026】
図4は、一次伸線ライン及び二次伸線ラインに設けられた被膜液付着装置であるボラックス装置13(又は19)の概略構成を示す図である。図4において、ボラックス装置13内には、ボラックス液24(Na・10HOで表される10水塩の化合物)が貯留されている。ボラックス液24は、40〜95度、好ましくは80〜90度に加熱されている。線材23がこのボラックス液24中を走行することにより、線材23の表面にボラックスが付着する。ボラックス装置13の後には、200度の温風を供給する乾燥路14(又は20)が設けられており、ボラックスの乾燥が行われる。一般的には、2〜3水塩程度にまで乾燥させると、後に説明する固形潤滑剤を付着させ易くなる。
【0027】
このような被膜液付着装置で用いる被膜液としては、ボラックスの他にも、例えば、硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)等のナトリウム塩を主成分とする水溶液や、硫酸カリウム(KSO)、テトラホウ酸カリウム(K)、ペンタホウ酸カリウム(KB)、メタホウ酸カリウム(KB)、メタケイ酸カリウム(KSiO)、テトラケイ酸カリウム(KSi)、ケイ酸水素カリウム(KHSi)等のカリウム塩を主成分とする水溶液、又は、ナトリウム塩とカリウム塩との混合水溶液、または、石灰液等を選択することもできる。これらの被膜液は、予め40〜95度に加熱されていることが好ましい。
【0028】
本実施の形態では、一次又は二次伸線ライン方向の長さLが810mmのボラックス装置13(19)を用い、一次又は二次伸線ライン方向の長さLが1880mmの乾燥路14(20)を用いた。
【0029】
図5は、一次伸線ライン及び二次伸線ラインに設けられた乾式伸線装置15(21)を9台並べた状態を示す図である。乾式伸線装置15は、ダイスを用いて連続的に減面し、また、加工硬化により鋼線を強化することができるものである。
【0030】
図5において、一つの乾式伸線装置15に着目してその構成を説明する。固形潤滑剤付着装置25において線材23に固形潤滑剤が付着され、ダイス26により引き抜き加工され、ドラム27に巻き取られる。これが乾式伸線装置15の一台当たりの工程である。伸線23を複数の乾式伸線装置15に連続して通すことにより、伸線23が所定の線径となるまで減面される。
【0031】
図6は、二次伸線ラインに設けられた加工昇温装置の例である曲げ加工装置18の概略図である。図6において、曲げ加工装置18の内部には、線材23の走行方向に直交する方向に回転軸を有するベンディングローラー28が配置されている。線材23は、ベンディングローラー28に沿って蛇行して走行することにより塑性変形を受け、これが繰り返されることにより、線材23自身の温度が上昇する。
【0032】
本実施の形態では、二次伸線ライン方向の長さLが590mmの曲げ加工装置18を使用し、ベンディングローラー28を5本配置した結果、室温(約25度)であった線材23の温度は、約40度上昇し、65度となった。なお線材23の線速は、約300m/分である。
【0033】
一定の昇温幅を得るためには、ベンディングローラー28は、3本以上、好ましくは5本以上配置する。ベンディングローラー28の本数に特に上限はないが、過剰な加熱や、設備の大型化を防ぐため、10本以下、好ましくは7本以下とする。
【0034】
本実施の形態にかかる伸線設備では、線材23の温度が65度となってボラックス液24に浸漬されるので、その後ボラックス液24は、非常に乾きが早い。
【0035】
さて、上述したように、ボラックス装置19の後の乾燥路20を単純に長くすることによりボラックスを十分に乾燥させることも考えられるが、実際には十分ではない。本実施の形態における曲げ加工装置18の長さLは僅か590mmであるが、仮に、曲げ加工装置18を用いずに、乾燥路20を大型化することにより、曲げ加工装置18を用いた場合と同程度にボラックス液24を乾燥させようとすると、乾燥路20の長さは、後述するように約13m必要となってしてしまう。
【0036】
仮に曲げ加工装置18を用いなかった場合、ボラックス液24を十分に乾燥させるためには、どの程度の長さの乾燥路20が必要となるかを検討した。具体的には、曲げ加工装置18を使用せず、ボラックス装置24及び乾燥炉20のみ使用し、線速を様々な条件としてボラックス液24の乾燥度合いを調べた。
【0037】
但し、ボラックス液24の乾燥度合いを直接測定することは難しいため、線径が1.98mmから1.80mmとなる1パス伸線(乾式伸線装置21による)した後の固形潤滑剤被膜の付着量を調べ、固形潤滑剤の付着量が多い場合には、ボラックス液24の乾燥が十分であると判断した。図7は、線速と、固形潤滑剤の付着量との関係を示す図である。但し、乾燥路20の長さLは、上述の通り1880mmである。
【0038】
図7に示すように、線速が上がるにつれて、固形潤滑剤付着量が減少する傾向にある。固形潤滑剤付着量が2.5g/m以上を合格の基準とすると、線速を25m/分以下とする必要があるが、例えば、乾式伸線装置21の入り側で184m/分の線速でも同等の固形潤滑剤付着量を得るためには、乾燥路20の長さを13.8m以上とする必要がある。
【0039】
以上のことから、本実施の形態における伸線設備は、装置を大型化することなく、ボラックス液24の乾燥を良好にしたものであることがわかる。
【0040】
本実施の形態では、加工昇温装置の一例として曲げ加工装置18を説明したが、加工昇温装置としては、既存のメカニカルデスケラーを使用することもできる。メカニカルデスケラーは、上記の曲げ加工装置18と同様に、ベンディングローラー28により線材23に対して曲げ加工を行うことができるものであるが、メカニカルデスケラー本来の脱スケールという目的で使用するのではないので、デスケールのために通常用いられるブラシは使用する必要がない。
【0041】
メカニカルデスケラーは、一次伸線においては通常用いられるものである。従って、一次伸線の設備を用いて二次伸線を行なえば、既存の設備を無駄なく活用することができる。もちろん、この場合は、二次伸線加工を行なうことが前提であるので、脱スケールは行わない。また、サプライスタンド17に供給される伸線23は、既に脱スケール工程を終えたものである。
【0042】
加工昇温装置としては、上記のように線材23に対して曲げ加工を施すことにより線材23の発熱を促すものの他、線材23に対してスキンパスのような軽い圧下を施すことによっても、線材23を発熱させる装置とすることも可能である。
【0043】
実際に、線径1.98mmの線材23を線径1.96mmへと減面率2.0%程度のスキンパスで伸線を行い、温度の上昇を測定した。線速は180m/min程度で行った。
図8は、その結果を示すものである。図8から明らかなように、線材23にスキンパスを施した場合、線材23の温度が約5度上昇した。上昇温度は、減面率を上げることにより大きくすることができる。従って、スキンパスを用いても、線材23を加工昇温できることが分かった。この場合の減面率は、1.5%以上、好ましくは2%以上である。減面率の上限には特に制限はないが、線材23の割れを防止するため7%以下、好ましくは5%以下である。
【0044】
図9は、本実施の形態における曲げ加工装置18による固形潤滑剤付着量の改善効果を示す図である。図9は、横軸に線速(乾式伸線装置21の出側)、縦軸に固形潤滑剤付着量を取り、曲げ加工装置18無しで伸線加工を施した場合(下側の曲線(a))、曲げ加工装置18を稼働させて伸線加工を施した場合(上側の曲線(b))の固形潤滑剤付着量をそれぞれ示すものである。なお、試験に使用した線材23は、スチールコード用線材(株式会社神戸製鋼所製 KSC82)である。
【0045】
図9から分かるように、曲線(a)の場合に比べて、曲げ加工装置18を稼働させた場合(曲線(b))は、固形潤滑剤付着量の効果が見られる。また、この効果は、線速が上がるにつれて顕著であることが分かる。
【0046】
本実施の形態において用いる線材の化学成分や組織は特に制限されないが、線材の耐断線性を更に向上するためには、鋼の化学成分や組織等を以下の通りとすることが望ましい。
化学成分
C:0.6〜1.1質量%、Si:0.05〜1.2質量%、Mn:0.2〜1.0質量%、P:0.02質量%以下(0質量%を含まない)、S:0.03質量%以下(0質量%を含まない)、N:0.005質量%以下、残部:鉄および不可避的不純物とする。
組織等
95面積%以上のパーライトを有し、パーライトの平均ノジュール径Pが30μm以下、平均ラメラ間隔Sが100nm以上とする。
【0047】
なお、本実施の形態における曲げ加工装置18を使用した場合と、参考例として、曲げ加工装置18、ボラックス装置24共に使用しなかった場合についての固形潤滑剤付着量、及び、伸線限界(真ひずみ)を調べた。
【0048】
固形潤滑剤付着量を調べるに当たっては、線径0.95mm、長さ100mmのサンプルをランダムに5本採取し、試薬(イソプロピルアルコール、n−ヘプタン、エチルセルゾルブの混合液)によりサンプル表面に付着したボラックス及び固形潤滑剤を除去し、固形潤滑剤等の除去前後における線材質量の変化量を計算により求めた。従って、本明細書で説明する図2、図7、図9、及び、後に説明する図10においては、固形潤滑剤付着量は、厳密にはボラックスの質量を含んだ値となっている。
【0049】
伸線限界εを調べるに当たっては、二次伸線により供試材を9種類の線径(1.80mm、1.64mm、1.50mm、1.38mm、1.27mm、1.17mm、1.08mm、1.00mm、0.95mm、)になるまで伸線し、供試材各々について2ln(d/d)の値を求めた(d:一次伸線前の線材の線径(5.5mm)、d:二次伸線後の線径)。二次伸線後、捻回試験と言われる静的ねじり試験を行ない、縦割れが発生しなかった供試材の2ln(d/d)の値のうち、最高値を伸線限界εとした。
なお、サンプルは、供試材から長さ350mmの線材をランダムに5本採取したものを使用した。
【0050】
供試材の化学成分は、以下の通りである。
<A材>
C:0.816質量%
Si:0.19質量%
Mn:0.50質量%
P:0.006質量%
S:0.004質量%
<B材>
C:0.805質量%
Si:0.17質量%
Mn:0.46質量%
P:0.005質量%
S:0.005質量%
【0051】
以上の試験条件の元で調べた固形潤滑剤付着量を図10に、伸線限界εを図11にそれぞれ示す。なお、図10、図11に示した伸線速度は、二次伸線の出側の速度である。
【0052】
図10から分かるように、本実施の形態における伸線方法を用いれば、固形潤滑剤の付着量は、二次伸線工程において曲げ加工装置18もボラックス装置24も用いなかった場合に比べて増えていることが分かる。
また、図11から分かるように、本実施の形態における伸線加工方法を用いれば、伸線限界が改善されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、伸線加工における線速とドラム温度との関係を示す図である。
【図2】図2は、伸線加工における線速と固形潤滑剤付着量との関係を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態における伸線設備のレイアウトを示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態におけるボラックス装置を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態における乾式伸線装置を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態における加工昇温装置を示す図である。
【図7】図7は、線速と、固形潤滑剤付着量との関係を示す図である。
【図8】図8は、スキンパスによる伸線の温度上昇を示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態における曲げ加工装置による固形潤滑剤付着量の改善効果を示す図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態における固形潤滑剤付着量と、参考例における固形潤滑剤付着量を示す図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態における伸線限界と、参考例における伸線限界を示す図である。
【図12】図12は、従来の伸線設備の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
11 サプライスタンド
12 脱スケール装置
13 ボラックス装置
14 乾燥路
15 乾式伸線装置
16 巻き取り機
17 サプライスタンド
18 曲げ加工装置
19 ボラックス装置
20 乾燥路
21 乾式伸線装置
22 最終巻き取り機
23 線材
24 ボラックス液
25 固形潤滑剤付着装置
26 ダイス
27 ドラム
28 ベンディングローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材表面の酸化物を除去する脱スケール工程と、前記線材表面に被膜液を付着させる被膜液付着工程と、前記線材に潤滑剤を付着させた後に前記線材を減面加工する伸線工程と、前記線材を加工昇温させる工程と、前記線材表面に更に被膜液を付着させる被膜液付着工程と、前記線材に潤滑剤を付着させた後に前記線材を減面加工する伸線工程とをこの順番で含むことを特徴とする線材の製造方法。
【請求項2】
前記線材を加工昇温させる工程の前に、前記線材を一旦巻き取り機で巻き取る請求項1に記載の線材の製造方法。
【請求項3】
前記伸線工程が、複数のダイスで減面加工を繰り返す連続伸線工程である請求項1または請求項2に記載の線材の製造方法。
【請求項4】
線材表面の酸化物を除去する脱スケール装置と、線材に被膜液を付着させる被膜液付着装置と、線材に潤滑剤を付着させてダイスにより線材を減面加工する少なくとも2つの伸線装置とを備えた伸線設備であって、第一の伸線装置と第二の伸線装置との間に、加工昇温装置と被膜液付着装置を更に有することを特徴とする伸線設備。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図12】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate