説明

線材の製造方法

【課題】その材質が難加工鋼からなる線材の製造方法の提供。
【解決手段】この製造方法は、(1)ビレットに圧延が施され、材質が難加工鋼である線状の母材26が得られる工程及び(2)この母材26に、その主成分が窒化チタンであるコーティング層をその表面に有するダイス24で、シェービングが施される工程を含む。この難加工鋼は、7質量%以上のNiを含む鋼である。好ましくは、この製造方法では、上記シェービングに施される母材26の加工速度は、100m/min以上120m/min以下である。このコーティング層34は、高い硬度を有する。このダイスは、その材質が難加工鋼である母材26にシェーピングを施しうる。このシェーピングにおいて、チッピング及びクラックは生じないので、この母材26のシェーピングで得られる線材28の表面に疵は形成されない。この製造方法では、高品質な線材28が得られうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線材の製造方法として、圧延による方法が広く知られている。この製造方法では、まず精錬、造塊、分塊圧延等の工程を経て、ビレットが得られる。このビレットは、加熱炉によって加熱される。次に、このビレットに熱間圧延が施される。通常は、粗列圧延機、中間列圧延機及び仕上列圧延機による連続圧延が施される。この熱間圧延によってビレットは徐々に細径化し且つ長尺化して、線状の母材が得られる。
【0003】
母材の表面には、ビレット段階での疵に起因した疵、圧延工程で生じた疵がある。さらには、熱間圧延により、母材の表面には酸化皮膜が生じる。疵及び酸化皮膜除去の目的で、この母材がダイスを通され、この母材にシェービングが施される。このシェービングにより、線材が得られる。この線材が、製品として出荷される。このシェービングに用いられるダイスの一例が、特昭開53−22684号公報に開示されている。
【特許文献1】特昭開53−22684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その材質が難加工鋼である母材に、シェービングが施されているとき、ダイスの刃先にチッピング又はクラックが生じる場合がある。このチッピング及びクラックは、線材の表面に疵を招来する。この疵は、線材の品質に影響を与える。なお、この難加工鋼は、7質量%以上のNiを含む鋼である。この難加工鋼としては、8.00質量%以上10.50質量%以下のNiを含むSUS304、12.00質量%以上15.00質量%以下のNiを含むSUS316L、19.00質量%以上22.00質量%以下のNiを含むSUH310、Fe−36Ni及びFe−42Niが例示される。
【0005】
本発明の目的は、その材質が難加工鋼からなる線材の製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る線材の製造方法は、
(1)ビレットに圧延が施され、材質が難加工鋼である線状の母材が得られる工程
及び
(2)この母材に、その主成分が窒化チタンであるコーティング層をその表面に有するダイスで、シェービングが施される工程
を含む。この難加工鋼は、7質量%以上のNiを含む鋼である。
【0007】
好ましくは、この製造方法では、上記シェービングに施される母材の加工速度は、100m/min以上120m/min以下である。
【発明の効果】
【0008】
この製造方法では、その材質が難加工鋼である母材から高品質な線材が得られうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る線材の製造方法のための製造設備2が示された概念図である。この製造設備2は、加熱炉4、粗列圧延機6、中間列圧延機8、仕上列圧延機10、サイジング圧延機12、レーイング装置14、シェービング装置16、巻き取り装置18、結束装置20及び検査装置22を備えている。
【0011】
図2は、図1の製造設備2による線材の製造方法が示されたフローチャートである。この製造方法では、まず精錬、造塊、分塊圧延等の工程を経てビレットが準備される(STEP1)。このビレットの材質は、難加工鋼である。このビレットは、一般的には円柱状である。次に、ビレットが加熱炉4に投入されて加熱される(STEP2)。ビレットは、熱間圧延に適した温度まで昇温する。次に、ビレットには、粗列圧延機6による圧延(STEP3)、中間列圧延機8による圧延(STEP4)、仕上列圧延機10による圧延(STEP5)及びサイジング圧延機12による圧延(STEP6)が施される。この母材には、粗列圧延機6、中間列圧延機8、仕上列圧延機10及びサイジング圧延機12により、いわゆる多段圧延が施される。この多段圧延によりビレットが段階的に細径化し、かつ段階的に長尺化する。このようにして、線状の母材が得られる。この母材は、レーイング装置14によってコイル状に巻き取られる(STEP7)。この母材は、シェービング装置16に供給される。
【0012】
図3は、シェービング装置16の一部が示された部分断面図である。この図3には、このシェービング装置16に設けられるダイス24が示されている。このダイス24は、筒状である。母材26は、このダイス24に通される。このダイス24は、この母材26の表層を剥ぎ取る。これにより、この母材26の表面疵及び酸化皮膜(黒皮)が除去される。このダイス24によるこの表層の剥ぎ取りは、シェービングと称される。なお、この図3において、母材26は左から右に移動する。
【0013】
この製造方法では、母材26がシェービング装置16に供給されると、この母材26にダイス24でシェービングが施される(STEP8)。このシェービングにより母材26の表層が剥ぎ取られるので、この母材26は細径化する。こうして、線材28が得られる。このシェービングの後、線材28は巻き取り装置18でコイル状に巻かれる(STEP9)。この巻き取り(STEP9)の後、この線材28は結束装置20で結束される(STEP10)。この結束(STEP10)の後、この線材28は検査装置22で検査されて(STEP11)、出荷される。
【0014】
図4は、図3のシェービング装置16に設けられるダイス24の一部が示された拡大断面図である。このダイス24は、本体30と、アンダーコーティング層32と、コーティング層34とを備えている。この本体30は、筒状である。この本体30の材質としては、超鋼が例示される。この超鋼としては、超硬工具協会規格(CIS019D−2005:耐摩耗・耐衝撃用超硬合金及び超微粒子超硬合金の材種選択基準の分類)に基づくVM−30が例示される。
【0015】
アンダーコーティング層32は、本体30の表面を覆う。このアンダーコーティング層32は、化学蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって形成される薄膜である。この製造方法では、このアンダーコーティング層32の化学成分には、多くの炭化チタンが含まれる。換言すれば、このアンダーコーティング層32の主成分は炭化チタンである。
【0016】
コーティング層34は、アンダーコーティング層32の表面を覆う。前述したように、このアンダーコーティング層32は本体30の表面を覆う。このコーティング層34は、このアンダーコーティング層32を介して本体30の表面を覆う。この製造方法では、シェービング(STEP8)において、このコーティング層34が母材26に当接する。このコーティング層34は、化学蒸着(CVD)によって形成される薄膜である。このコーティング層34を構成する化学成分には、多くの窒化チタンが含まれる。換言すれば、このコーティング層34の主成分は窒化チタンである。したがって、この製造方法では、その主成分が窒化チタンであるコーティング層34をその表面に有するダイス24で、この母材26にシェーピングが施される。
【0017】
前述したように、この製造方法では、ダイス24のコーティング層34の主成分は窒化チタンである。このコーティング層34は、耐熱性に優れる上に高い硬度を有する。このダイス24でその材質が難加工鋼である母材26にシェーピングが施されても、このダイス24にチッピング及びクラックは生じない。このダイス24は、耐久性に優れる。このダイス24は、その材質が難加工鋼である母材26にシェーピングを施しうる。このシェーピングにより得られる線材28の表面には、疵は形成されない。この製造方法では、その材質が難加工鋼である母材26から高品質な線材28が得られうる。
【0018】
図4に示されているように、ダイス24に設けられるアンダーコーティング層32は本体30とコーティング層34との間に位置している。前述したように、このアンダーコーティング層32の主成分は炭化チタンである。このアンダーコーティング層32は、このコーティング層34の剥離防止に寄与しうる。このダイス24は、このコーティング層34を安定に保持しうる。このダイス24は、耐久性に優れる。この製造方法では、その材質が難加工鋼である母材26から高品質な線材28が得られうる。
【0019】
この製造方法は、ダイス24が耐久性に優れるので、大きな加工速度で母材26にシェービングが施されうる。この製造方法は、生産性に寄与しうる。この観点から、この加工速度は、100m/min以上が好ましく、110m/min以上がより好ましい。このシェービングで得られる線材28の品質安定性の観点から、この加工速度は120m/min以下が好ましい。
【0020】
この製造方法では、ダイス24が耐久性に優れるので、一のダイス24がシェービングしうる母材26の長さは長い。この製造方法は、生産性に寄与しうる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0022】
[実施例1]
その材質がSUS304であるビレットを用意し、このビレットを用い、図1に示された製造設備にて、直径が8.4mmである線材を得た。シェービング装置に設けられるダイスには、その主成分が窒化チタンであるコーティング層が設けられている。表1中、このダイスは「X」として表されている。シェービングにおける加工速度は、100m/minである。
【0023】
[実施例2から4]
加工速度を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、線材を得た。
【0024】
[比較例1から4]
シェービング装置に従来のダイスを用いて、加工速度を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、線材を得た。このダイスには、その主成分が窒化チタンであるコーティング層は設けられていない。表1中、このダイスは「Y」として表されている。
【0025】
[比較例5から8及び実施例5から8]
ビレットの材質をSUS316Lとして、仕上げ工具の種類及び加工速度を下記の表2の通りとした他は実施例1と同様にして、線材を得た。
【0026】
[比較例9から12及び実施例9から12]
ビレットの材質をFe−36Niとして、仕上げ工具の種類及び加工速度を下記の表3の通りとした他は実施例1と同様にして、線材を得た。
【0027】
[評価]
シェービング装置に、試作ダイスが装着されて、ビレットに多段圧延が施されて得られた母材にシェービングが施されて、線材を得た。この母材の外径は、8.4mmである。このシェービングで得られた線材の外観が、目視で観察された。この結果が、下記表1、表2及び表3に示されている。表中、ダイスにチッピング及びクラックが生じることなく、全ての母材にシェービングが施された場合が「A」として表されている。準備された母材のうち、半分以上の母材にシェービングが施された場合が、「B」として表されている。このシェービングが開始されてすぐにチッピング及びクラックがダイスに生じて高品質な線材が得られなかった場合が、「C」として表されている。この外観観察以外に、この線材の製造におけるダイス欠け不良率が評価された。このダイス欠け不良率は、前述の目視観察の結果、「B」と判定された線材の数及び「C」と判定された線材の数との和を、全線材数(「A」と判定された線材の数、「B」と判定された線材の数及び「C」と判定された線材の数の総和)で除することにより得られる。この不良率は、数値が小さいほど優れていることを表す。この結果が、下記の表1、表2及び表3に示されている。なお、シェービングが開始されてすぐにチッピング及びクラックがダイスに生じて高品質な線材が得られなかった場合、このダイス欠け不良の計測は実施していない。この場合は、表中「ND」として表されている。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表1、表2及び表3に示されるように、実施例の製造方法では、その材質が難加工鋼である母材のシェービングの実施により線材が得られた。比較例の製造方法では、このシェービングが開始されてすぐにチッピング及びクラックがダイスに生じて高品質な線材が得られなかった。この実施例の製造方法は、比較例の製造方法に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、種々の難加工鋼からなる線材の製造方法に適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る線材の製造方法のための製造設備が示された概念図である。
【図2】図2は、図1の製造設備による線材の製造方法が示されたフローチャートである。
【図3】図3は、シェービング装置の一部が示された部分断面図である。
【図4】図4は、図3のシェービング装置に設けられるダイスの一部が示された拡大断面図である。
【符号の説明】
【0034】
2・・・製造設備
4・・・加熱炉
6・・・粗列圧延機
8・・・中間列圧延機
10・・・仕上列圧延機
12・・・サイジング圧延機
14・・・レーイング装置
16・・・シェービング装置
18・・・巻き取り装置
20・・・結束装置
22・・・検査装置
24・・・ダイス
26・・・母材
28・・・線材
30・・・本体
32・・・アンダーコーティング層
34・・・コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビレットに圧延が施され、材質が難加工鋼である線状の母材が得られる工程
及び
この母材に、その主成分が窒化チタンであるコーティング層をその表面に有するダイスで、シェービングが施される工程
を含んでおり、
この難加工鋼が、7質量%以上のNiを含む鋼である線材の製造方法。
【請求項2】
上記シェービングに施される母材の加工速度が、100m/min以上120m/min以下である請求項1に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate