線状導体の絶縁欠陥位置標定装置
【課題】絶縁欠陥位置を高精度に標定可能な線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得る。
【解決手段】線状導体の一端に電圧を印加し、絶縁欠陥位置での放電により発生して線状導体中を伝搬する放電電流を検出するとともに、検出した放電電流に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2と、線状導体に対して所定の位置に配置された複数の放電検出素子を用いて、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出するとともに、検出した電磁波に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する空間的な絶縁欠陥範囲判定部4と、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された絶縁欠陥範囲と空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する標定部5とを備える。
【解決手段】線状導体の一端に電圧を印加し、絶縁欠陥位置での放電により発生して線状導体中を伝搬する放電電流を検出するとともに、検出した放電電流に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2と、線状導体に対して所定の位置に配置された複数の放電検出素子を用いて、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出するとともに、検出した電磁波に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する空間的な絶縁欠陥範囲判定部4と、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された絶縁欠陥範囲と空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する標定部5とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば変圧器等の静止誘導機器の巻線コイルの絶縁欠陥位置を標定する線状導体の絶縁欠陥位置標定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、線状導体の絶縁欠陥位置を標定する方法として、以下に示すケーブルの部分放電発生位置測定方法が知られている。この測定方法において、まず、被測定ケーブル(線状導体)の測定端にDC電圧を印加してこのケーブルの絶縁欠陥位置に部分放電を発生させ、続いて、DC電圧の印加を止めて任意に設定可能な放電回路で充電電圧を減衰させる。次に、減衰過程で部分放電の発生位置(絶縁欠陥位置)から測定端まで伝搬した放電パルスと、部分放電の発生位置から被測定ケーブルの遠方端で反射して測定端まで伝搬した放電パルスとの検出時間差に基づいて、部分放電の発生位置が測定(標定)される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、図11を参照しながら、上記の部分放電発生位置測定方法について説明する。
図11は、従来のケーブルの部分放電発生位置測定方法を示す説明図である。
図11(a)において、被測定ケーブル51の一方の端末A(測定端)には直流高電圧が印加され、他方の端末B(遠方端)は開放端になっている。ここで、例えばP点で部分放電が発生すると、その放電パルスは、P点から測定端Aおよび遠方端Bに向かってそれぞれ伝搬する。
【0004】
測定端Aに結合コンデンサ52とインピーダンス回路53とを有する放電回路を接続して、これらの放電パルスをシンクロスコープ54で観察すると、図11(b)のようになる。図11(b)において、P点から測定端Aまで伝搬した第1放電パルスP1とP点から遠方端Bで反射して測定端Aまで伝搬した第2放電パルスP2との時間差は、BP間の2倍を伝搬する時間に相当する。そのため、部分放電の発生位置Pまでの距離xは、放電パルスの検出時間差T、放電パルスの伝搬速度vpおよびケーブル長Lに基づいて、x=L−(vp×T)/2と表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−225071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来のケーブルの部分放電発生位置測定方法では、ケーブル長(導体長)が非常に長くなると、放電回路で検出される放電パルスが鈍って部分放電の発生位置の標定誤差が大きくなる。すなわち、線状導体の絶縁欠陥位置の標定精度が低下するという問題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、線状導体の絶縁欠陥位置を標定する装置であって、線状導体の一端に電圧を印加し、絶縁欠陥位置での放電により発生して線状導体中を伝搬する放電電流を検出するとともに、検出した放電電流に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する第1絶縁欠陥範囲判定手段と、線状導体に対して所定の位置に配置された複数の放電検出素子を用いて、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出するとともに、検出した電磁波に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する第2絶縁欠陥範囲判定手段と、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する標定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置によれば、第1絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により発生して線状導体中を伝搬する放電電流に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定し、第2絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定し、標定手段は、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する。
そのため、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図2】図1に示した放電検出回路の詳細な構成を巻線コイルとともに示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置による絶縁欠陥位置の標定結果を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置による絶縁欠陥位置の標定結果を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態3に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図7】図6の巻線コイルと放電検出器とを詳細に示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態4に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図9】この発明の実施の形態5に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図10】図9の巻線コイルの一部を抜粋し、AEセンサおよび短絡板とともに示す断面図である。
【図11】従来のケーブルの部分放電発生位置測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
なお、以下の実施の形態では、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置により、静止誘導機器の巻線コイルの絶縁欠陥位置を標定する場合を例に挙げて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
図1において、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、放電検出回路1、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2、4枚の導体板(放電検出素子)3、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4、標定部(標定手段)5および表示部6を備えている。
【0013】
ここで、放電検出回路1および長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2により、第1絶縁欠陥範囲判定手段が構成され、導体板3および空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、第2絶縁欠陥範囲判定手段が構成されている。また、絶縁欠陥位置の標定対象である線状導体は、複数の素線からなり、線状導体が巻回されて巻線コイル7を形成している。
【0014】
以下、この実施の形態1の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。
放電検出回路1は、巻線コイル7の一端に電圧を印加するとともに、絶縁欠陥位置での放電により発生して巻線コイル7中を伝搬する放電電流を検出する。放電検出回路1の詳細な構成を巻線コイル7とともに図2に示す。
【0015】
図2において、放電検出回路1は、電圧源11と、結合コンデンサ12と、RFCT(Radio Frequency Current Transformer)13(以下、「高周波CT13」と称する)とを有している。ここでは、巻線コイル7を構成する線状導体(コイル導体)は、3列×4層の12本の素線からなっている。
【0016】
まず、電圧源11の両端は、それぞれ巻線コイル7を構成する線状導体の素線7aおよび素線7bの一端(測定端)に接続され、素線7aおよび素線7bに電圧が印加される。なお、線状導体が単線である場合には、電圧源11の一端は接地される。高周波CT13は、例えば素線7aと素線7bとの間に絶縁欠陥があった場合に、絶縁欠陥位置での放電により発生して素線中を伝搬する放電電流を検出し、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2に出力する。
続いて、電圧源11の両端に接続される素線が逐次切り替えられて、素線間の絶縁耐圧試験が実施される。
【0017】
このとき、素線上の絶縁欠陥位置での放電により発生した放電電流は、2つの電流成分に分かれ、一方の放電電流は絶縁欠陥位置から測定端まで伝搬し、他方の放電電流は絶縁欠陥位置から素線の他端(遠方端)で反射して測定端まで伝搬する。
長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2は、絶縁欠陥位置から測定端まで伝搬した放電電流と絶縁欠陥位置から遠方端で反射して測定端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、巻線コイル7の長さ方向の絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0018】
ここで、巻線コイル7のコイル長が長くなると、放電検出回路1で検出される放電電流の波形が鈍るので、長さ方向の絶縁欠陥範囲は、巻線コイル7の数周にわたる。
そこで、放電電流を検出して巻線コイル7の長さ方向の絶縁欠陥範囲を判定する第1絶縁欠陥範囲判定手段に加えて、導体板3および空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定する第2絶縁欠陥範囲判定手段が設けられている。
【0019】
図1において、4枚の導体板3は、それぞれ巻線コイル7上の上下左右の位置に、巻線コイル7と対向して配置され、かつ互いに離隔している。導体板3は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各導体板3間での電磁波の検出強度差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0020】
具体的には、図1のように4枚の導体板3を配置した場合、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各導体板3間での電磁波の検出強度差に基づいて、巻線コイル7の絶縁欠陥範囲を、図3に示すように、A〜Dの範囲で判定することができる。ここで、範囲Aは0〜π/2の範囲、範囲Bはπ/2〜πの範囲、範囲Cはπ〜3π/2の範囲、範囲Dは3π/2〜2π(=0)の範囲を示している。
【0021】
標定部5は、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された巻線コイル7の絶縁欠陥範囲と、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された巻線コイル7の絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、巻線コイル7の絶縁欠陥位置として標定する。表示部6は、標定部5で標定された巻線コイル7の絶縁欠陥位置を表示する。
【0022】
以下、図3を参照しながら、この実施の形態1の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置による絶縁欠陥位置の標定結果について説明する。
図3において、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された長さ方向の絶縁欠陥範囲を一点鎖線で示す範囲とする。また、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された空間的な絶縁欠陥範囲を図中の範囲Cとする。このとき、標定部5で標定された絶縁欠陥位置は、図中の太線で示した箇所となる。
【0023】
静止誘導機器の巻線コイル7の絶縁耐圧試験において、絶縁欠陥による放電が生じた場合、その放電位置(絶縁欠陥位置)を標定することが重要となる。通常、巻線コイル7は固く巻回されているので、特定のコイル導体だけを取り出すことは、かなりの労力および時間を要する。また、コイル導体の取り出し量が多くなるほど、取り出し時間が長くなり、さらに取り出し工程において当該コイル導体周辺の健全なコイル導体を損傷する可能性が高くなる。そのため、コイル導体の取り出し量をできるだけ少なくする必要がある。
【0024】
この実施の形態1の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置では、標定部5が、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された絶縁欠陥範囲と空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、巻線コイル7の絶縁欠陥位置として標定する。これにより、長さ方向の絶縁欠陥範囲のみを判定する場合と比較して、コイル導体の取り出し量を1/4にすることができ、コイル導体を迅速に補修することができる。また、コイル導体の取り出し量が減ることにより、コイル導体の取り出し工程において健全なコイル導体を損傷する危険性が低減される。さらに補修工程の長時間化による製品納期遅れの発生を防止することもできる。
【0025】
以上のように、実施の形態1によれば、第1絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により発生し、絶縁欠陥位置からコイルの一端まで伝搬した放電電流と、絶縁欠陥位置からコイルの他端で反射して一端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、コイルの絶縁欠陥範囲を判定する。第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれがコイルに対向して配置され、かつ互いに離隔した複数の導体板を用いて、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、各導体板間での電磁波の検出強度差に基づいて、コイルの絶縁欠陥範囲を判定する。また、標定手段は、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する。
そのため、コイルの絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【0026】
実施の形態2.
図4は、この発明の実施の形態2に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
図4において、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、図1に示した4枚の導体板3に代えて、4つのアンテナ(放電検出素子)8を備えている。
ここで、アンテナ8および空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、第2絶縁欠陥範囲判定手段が構成されている。
なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0027】
以下、この実施の形態2の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。なお、実施の形態1と同様のものについては、説明を省略する。
4つのアンテナ8は、それぞれ巻線コイル7の四隅の近傍に配置され、かつ互いに離隔している。アンテナ8は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各アンテナ8間での電磁波の検出時間差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0028】
以下、図5を参照しながら、この実施の形態2の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置による絶縁欠陥位置の標定結果について説明する。
図5において、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された長さ方向の絶縁欠陥範囲を一点鎖線で示す範囲とする。また、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された空間的な絶縁欠陥範囲を図中の破線で囲まれた範囲とする。このとき、標定部5で標定された絶縁欠陥位置は、図中の太線で示した箇所となる。なお、この絶縁欠陥位置は、上記実施の形態1で標定された絶縁欠陥位置よりも狭い範囲とすることができる。
【0029】
以上のように、実施の形態2によれば、第1絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により発生し、絶縁欠陥位置から線状導体の一端まで伝搬した放電電流と、絶縁欠陥位置から線状導体の他端で反射して一端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれが線状導体の近傍に配置され、かつ互いに離隔した複数のアンテナを用いて、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、各アンテナ間での電磁波の検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。また、標定手段は、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する。
そのため、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【0030】
なお、上記実施の形態2では、線状導体が巻回されて巻線コイル7を形成している場合について説明したが、これに限定されず、線状導体は、任意の形状で配置されてよい。
この場合も、上記実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
【0031】
実施の形態3.
上記実施の形態1、2において、実際の巻線コイル7は、平板状のコイル(以下、「平板コイル」と称する。)が複数層に積層されるように巻回されることが多く、巻線コイル7の絶縁耐圧試験も複数の平板コイルが積層された状態で実施されることが多い。そのため、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で長さ方向の絶縁欠陥範囲を判定し、層間のわたり部分を含む範囲が判定された場合には、上下に重なった平板コイルのどちらで放電が発生したのかを判別することが困難になる。このとき、上記実施の形態2で示したように、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4がアンテナ8を用いて空間的な絶縁欠陥範囲を判定した場合であっても、平板コイルの上下方向に標定誤差が存在するので、上下に重なった平板コイルのどちらで放電が発生したのかを判別することができない。
【0032】
そこで、上記課題に鑑み、複数の平板コイルが積層された巻線コイルについて、上下に重なった平板コイルのどちらで放電が発生したのかを判別することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置について説明する。
図6は、この発明の実施の形態3に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。また、図7は、図6の巻線コイル7と放電検出器9とを詳細に示す構成図である。
【0033】
図6、7において、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、図1に示した4枚の導体板3に代えて、4つの放電検出器(放電検出素子)9を備えている。また、絶縁欠陥位置の標定対象である線状導体は、複数の素線からなり、平板状の上コイル71および下コイル72が積層されるように巻回されて巻線コイル7を形成している。
ここで、放電検出器9および空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、第2絶縁欠陥範囲判定手段が構成されている。
なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0034】
以下、この実施の形態3の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。なお、実施の形態1と同様のものについては、説明を省略する。
放電検出器9は、導体板を2枚重ねて構成されており、それぞれの導体板の検出面(第1検出面91および第2検出面92)が互いに外側を向いている。
4つの放電検出器9は、それぞれ上コイル71と下コイル72との間に、上コイル71と第1検出面91とが対向し、下コイル72と第2検出面92とが対向するように配置され、かつ互いに離隔している。
【0035】
放電検出器9は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。このとき、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4には、放電検出器9の第1検出面91からの出力と、第2検出面92からの出力とが入力される。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各放電検出器9間での電磁波の検出強度差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。このとき、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、上下に重なった上コイル71および下コイル72のどちらで放電が発生したのかを判別して出力する。
【0036】
以上のように、実施の形態3によれば、第2絶縁欠陥範囲判定手段は、複数の放電検出素子として、それぞれが導体板を2枚重ねて構成され、各導体板の検出面が互いに外側を向いている複数の放電検出器であって、それぞれがコイルの層間に配置され、かつ互いに離隔した複数の放電検出器を用い、各導体板間での電磁波の検出強度差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。
そのため、平板状のコイルが複数層に積層された場合であっても、どちらの平板コイルで放電が発生したのかを判別するとともに、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【0037】
なお、上記実施の形態3に示した第2絶縁欠陥範囲判定手段と、上記実施の形態2に示した第2絶縁欠陥範囲判定手段とを組み合わせて空間的な絶縁欠陥範囲を判定してもよい。
この場合には、より高精度に線状導体の絶縁欠陥位置を標定することができる。
【0038】
実施の形態4.
図8は、この発明の実施の形態4に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
図8において、絶縁欠陥位置の標定対象である線状導体は、3次元状に巻回されてスパイラル状の巻線コイル7を形成している。
なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0039】
以下、この実施の形態4の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。なお、実施の形態1と同様のものについては、説明を省略する。
4枚の導体板3は、それぞれ巻線コイル7の近傍に3次元的に配置され、かつ互いに離隔している。導体板3は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各導体板3間での電磁波の検出時間差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0040】
以上のように、実施の形態4によれば、第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれがコイルの近傍に3次元的に配置され、かつ互いに離隔した複数の放電検出素子を用いて、各放電検出素子間での電磁波の検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。
そのため、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【0041】
なお、上記実施の形態4では、放電検出素子として導体板3を例に挙げて説明したが、これに限定されず、放電検出素子は、アンテナ、超音波ホーン、圧電素子であってもよい。
この場合も、上記実施の形態4と同様の効果を得ることができる。
【0042】
実施の形態5.
図9は、この発明の実施の形態5に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。また、図10は、図9の巻線コイル7の一部を抜粋し拡大表示したもので、AEセンサ21および短絡板22とともに示す断面図である。なお、図9では、図1に示した放電検出回路1、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4、標定部5および表示部6は、図示を省略している。
【0043】
図9、10において、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、図1に示した4枚の導体板3に代えて、4つのAE(Acoustic Emission:音響放出)センサ(放電検出素子)21および4枚の短絡板22を備えている。
ここで、AEセンサ21および短絡板22、並びに空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、第2絶縁欠陥範囲判定手段が構成されている。
なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0044】
以下、図9、10を参照しながら、この実施の形態5の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。なお、実施の形態1と同様のものについては、説明を省略する。
4枚の短絡板22は、それぞれ巻線コイル7上の上下左右の位置に、絶縁層に覆われたコイル導体を径方向に全て短絡するように配置され、かつ互いに離隔している。また、4つのAEセンサ21は、それぞれ短絡板22上に配置されている。
【0045】
AEセンサ21は、巻線コイル7の絶縁欠陥位置から発生するAE信号を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各AEセンサ21間でのAE信号の検出時間差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0046】
具体的には、図9のように4つのAEセンサ21および4枚の短絡板22を配置し、図中上側のAEセンサ21から反時計回りに第1〜第4AEセンサ21とした場合、図中×印で示す絶縁欠陥位置から発生するAE信号は、当該コイル導体内を通って第1〜第3AEセンサ21に向かう経路A1〜A3、およびコイル導体間の絶縁層を通って隣接するコイル導体に向かう経路B1〜B2を伝搬するものと考えられる。
【0047】
このとき、拡大図10に示すコイル導体間の絶縁層Pは、一般にコイル導体よりも密度が低いので、経路Bを伝搬するAE信号は、経路Aを伝搬するAE信号よりも伝搬速度が遅く、伝搬中の減衰量も大きくなる。すなわち、図9の経路B1〜B2を伝搬するAE信号は、経路A1〜A3を伝搬するAE信号よりも伝搬速度が遅く、伝搬中の減衰量も大きい。そのため、経路A1〜A3を伝搬するAE信号は、他の経路を伝搬するAE信号と比較して、識別することが容易である。そこで、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、絶縁欠陥位置から発生し、経路A1〜A3を伝搬して第1〜第3AEセンサ21で検出されたAE信号の検出時間差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定する。
【0048】
図9の例では、絶縁欠陥位置からのAE信号の検出時間は、第2AEセンサ21および第3AEセンサ21で早く、AEセンサ21間の到達時間の早さだけで、第2AEセンサ21と第3AEセンサ21との間に絶縁欠陥位置が存在することが分かる。
また、AE信号の伝搬速度は、絶縁欠陥位置での放電により発生する放電電流や電磁波の伝搬速度よりも遅いので、第1〜第3AEセンサ21で検出されたAE信号の検出時間差の測定精度も高くなる。
【0049】
したがって、各AEセンサ21間の距離と各AEセンサ21間でのAE信号の検出時間差とに基づいてAE信号の伝搬速度を算出し、この伝搬速度を用いて、各AEセンサ21間でのAE信号の検出時間差を評価することにより、各AEセンサ21と絶縁欠陥位置との距離を高精度に算出することができる。
【0050】
なお、この方法では、短絡板22でコイル導体を径方向に全て短絡しているので、径方向に空間的な絶縁欠陥範囲を判定することはできないが、AE信号の検出時間差の識別精度が電磁波と比較して非常に高いので、AEセンサ21間での絶縁欠陥位置の識別精度は、非常に高い。
【0051】
一方、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2において、放電電流の検出時間差に基づいて判定された巻線コイル7の長さ方向の絶縁欠陥範囲は、巻線コイル7の全長が長いので識別精度が低いが、図3に示すように径方向の絶縁欠陥範囲を識別することができる。』』
そこで、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2による巻線コイル7の長さ方向の絶縁欠陥範囲の判定と、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4による巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定とを組み合わせることにより、非常に精度の高い絶縁欠陥位置判定を実現することができる。
【0052】
以上のように、実施の形態5によれば、第1絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により発生し、絶縁欠陥位置から線状導体の一端まで伝搬した放電電流と、絶縁欠陥位置から線状導体の他端で反射して一端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれがコイル上に互いに離隔して配置され、電磁波に代えて絶縁欠陥位置から発生するAE信号を検出する複数のAEセンサを用い、各AEセンサ間でのAE信号の検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。また、標定手段は、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する。
そのため、コイルの絶縁欠陥位置をより高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 放電検出回路(第1絶縁欠陥範囲判定手段)、2 長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部(第1絶縁欠陥範囲判定手段)、3 導体板(放電検出素子、第2絶縁欠陥範囲判定手段)、4 空間的な絶縁欠陥範囲判定部(第2絶縁欠陥範囲判定手段)、5 標定部(標定手段)、7 巻線コイル(線状導体)、8 アンテナ(放電検出素子、第2絶縁欠陥範囲判定手段)、9 放電検出器(放電検出素子、第2絶縁欠陥範囲判定手段)、21 AEセンサ(放電検出素子)、22 短絡板、71 上コイル、72 下コイル、91 第1検出面、92 第2検出面。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば変圧器等の静止誘導機器の巻線コイルの絶縁欠陥位置を標定する線状導体の絶縁欠陥位置標定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、線状導体の絶縁欠陥位置を標定する方法として、以下に示すケーブルの部分放電発生位置測定方法が知られている。この測定方法において、まず、被測定ケーブル(線状導体)の測定端にDC電圧を印加してこのケーブルの絶縁欠陥位置に部分放電を発生させ、続いて、DC電圧の印加を止めて任意に設定可能な放電回路で充電電圧を減衰させる。次に、減衰過程で部分放電の発生位置(絶縁欠陥位置)から測定端まで伝搬した放電パルスと、部分放電の発生位置から被測定ケーブルの遠方端で反射して測定端まで伝搬した放電パルスとの検出時間差に基づいて、部分放電の発生位置が測定(標定)される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、図11を参照しながら、上記の部分放電発生位置測定方法について説明する。
図11は、従来のケーブルの部分放電発生位置測定方法を示す説明図である。
図11(a)において、被測定ケーブル51の一方の端末A(測定端)には直流高電圧が印加され、他方の端末B(遠方端)は開放端になっている。ここで、例えばP点で部分放電が発生すると、その放電パルスは、P点から測定端Aおよび遠方端Bに向かってそれぞれ伝搬する。
【0004】
測定端Aに結合コンデンサ52とインピーダンス回路53とを有する放電回路を接続して、これらの放電パルスをシンクロスコープ54で観察すると、図11(b)のようになる。図11(b)において、P点から測定端Aまで伝搬した第1放電パルスP1とP点から遠方端Bで反射して測定端Aまで伝搬した第2放電パルスP2との時間差は、BP間の2倍を伝搬する時間に相当する。そのため、部分放電の発生位置Pまでの距離xは、放電パルスの検出時間差T、放電パルスの伝搬速度vpおよびケーブル長Lに基づいて、x=L−(vp×T)/2と表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−225071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来のケーブルの部分放電発生位置測定方法では、ケーブル長(導体長)が非常に長くなると、放電回路で検出される放電パルスが鈍って部分放電の発生位置の標定誤差が大きくなる。すなわち、線状導体の絶縁欠陥位置の標定精度が低下するという問題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、線状導体の絶縁欠陥位置を標定する装置であって、線状導体の一端に電圧を印加し、絶縁欠陥位置での放電により発生して線状導体中を伝搬する放電電流を検出するとともに、検出した放電電流に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する第1絶縁欠陥範囲判定手段と、線状導体に対して所定の位置に配置された複数の放電検出素子を用いて、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出するとともに、検出した電磁波に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する第2絶縁欠陥範囲判定手段と、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する標定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置によれば、第1絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により発生して線状導体中を伝搬する放電電流に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定し、第2絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定し、標定手段は、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する。
そのため、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図2】図1に示した放電検出回路の詳細な構成を巻線コイルとともに示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置による絶縁欠陥位置の標定結果を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置による絶縁欠陥位置の標定結果を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態3に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図7】図6の巻線コイルと放電検出器とを詳細に示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態4に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図9】この発明の実施の形態5に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
【図10】図9の巻線コイルの一部を抜粋し、AEセンサおよび短絡板とともに示す断面図である。
【図11】従来のケーブルの部分放電発生位置測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
なお、以下の実施の形態では、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置により、静止誘導機器の巻線コイルの絶縁欠陥位置を標定する場合を例に挙げて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
図1において、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、放電検出回路1、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2、4枚の導体板(放電検出素子)3、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4、標定部(標定手段)5および表示部6を備えている。
【0013】
ここで、放電検出回路1および長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2により、第1絶縁欠陥範囲判定手段が構成され、導体板3および空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、第2絶縁欠陥範囲判定手段が構成されている。また、絶縁欠陥位置の標定対象である線状導体は、複数の素線からなり、線状導体が巻回されて巻線コイル7を形成している。
【0014】
以下、この実施の形態1の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。
放電検出回路1は、巻線コイル7の一端に電圧を印加するとともに、絶縁欠陥位置での放電により発生して巻線コイル7中を伝搬する放電電流を検出する。放電検出回路1の詳細な構成を巻線コイル7とともに図2に示す。
【0015】
図2において、放電検出回路1は、電圧源11と、結合コンデンサ12と、RFCT(Radio Frequency Current Transformer)13(以下、「高周波CT13」と称する)とを有している。ここでは、巻線コイル7を構成する線状導体(コイル導体)は、3列×4層の12本の素線からなっている。
【0016】
まず、電圧源11の両端は、それぞれ巻線コイル7を構成する線状導体の素線7aおよび素線7bの一端(測定端)に接続され、素線7aおよび素線7bに電圧が印加される。なお、線状導体が単線である場合には、電圧源11の一端は接地される。高周波CT13は、例えば素線7aと素線7bとの間に絶縁欠陥があった場合に、絶縁欠陥位置での放電により発生して素線中を伝搬する放電電流を検出し、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2に出力する。
続いて、電圧源11の両端に接続される素線が逐次切り替えられて、素線間の絶縁耐圧試験が実施される。
【0017】
このとき、素線上の絶縁欠陥位置での放電により発生した放電電流は、2つの電流成分に分かれ、一方の放電電流は絶縁欠陥位置から測定端まで伝搬し、他方の放電電流は絶縁欠陥位置から素線の他端(遠方端)で反射して測定端まで伝搬する。
長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2は、絶縁欠陥位置から測定端まで伝搬した放電電流と絶縁欠陥位置から遠方端で反射して測定端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、巻線コイル7の長さ方向の絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0018】
ここで、巻線コイル7のコイル長が長くなると、放電検出回路1で検出される放電電流の波形が鈍るので、長さ方向の絶縁欠陥範囲は、巻線コイル7の数周にわたる。
そこで、放電電流を検出して巻線コイル7の長さ方向の絶縁欠陥範囲を判定する第1絶縁欠陥範囲判定手段に加えて、導体板3および空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定する第2絶縁欠陥範囲判定手段が設けられている。
【0019】
図1において、4枚の導体板3は、それぞれ巻線コイル7上の上下左右の位置に、巻線コイル7と対向して配置され、かつ互いに離隔している。導体板3は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各導体板3間での電磁波の検出強度差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0020】
具体的には、図1のように4枚の導体板3を配置した場合、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各導体板3間での電磁波の検出強度差に基づいて、巻線コイル7の絶縁欠陥範囲を、図3に示すように、A〜Dの範囲で判定することができる。ここで、範囲Aは0〜π/2の範囲、範囲Bはπ/2〜πの範囲、範囲Cはπ〜3π/2の範囲、範囲Dは3π/2〜2π(=0)の範囲を示している。
【0021】
標定部5は、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された巻線コイル7の絶縁欠陥範囲と、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された巻線コイル7の絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、巻線コイル7の絶縁欠陥位置として標定する。表示部6は、標定部5で標定された巻線コイル7の絶縁欠陥位置を表示する。
【0022】
以下、図3を参照しながら、この実施の形態1の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置による絶縁欠陥位置の標定結果について説明する。
図3において、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された長さ方向の絶縁欠陥範囲を一点鎖線で示す範囲とする。また、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された空間的な絶縁欠陥範囲を図中の範囲Cとする。このとき、標定部5で標定された絶縁欠陥位置は、図中の太線で示した箇所となる。
【0023】
静止誘導機器の巻線コイル7の絶縁耐圧試験において、絶縁欠陥による放電が生じた場合、その放電位置(絶縁欠陥位置)を標定することが重要となる。通常、巻線コイル7は固く巻回されているので、特定のコイル導体だけを取り出すことは、かなりの労力および時間を要する。また、コイル導体の取り出し量が多くなるほど、取り出し時間が長くなり、さらに取り出し工程において当該コイル導体周辺の健全なコイル導体を損傷する可能性が高くなる。そのため、コイル導体の取り出し量をできるだけ少なくする必要がある。
【0024】
この実施の形態1の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置では、標定部5が、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された絶縁欠陥範囲と空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、巻線コイル7の絶縁欠陥位置として標定する。これにより、長さ方向の絶縁欠陥範囲のみを判定する場合と比較して、コイル導体の取り出し量を1/4にすることができ、コイル導体を迅速に補修することができる。また、コイル導体の取り出し量が減ることにより、コイル導体の取り出し工程において健全なコイル導体を損傷する危険性が低減される。さらに補修工程の長時間化による製品納期遅れの発生を防止することもできる。
【0025】
以上のように、実施の形態1によれば、第1絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により発生し、絶縁欠陥位置からコイルの一端まで伝搬した放電電流と、絶縁欠陥位置からコイルの他端で反射して一端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、コイルの絶縁欠陥範囲を判定する。第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれがコイルに対向して配置され、かつ互いに離隔した複数の導体板を用いて、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、各導体板間での電磁波の検出強度差に基づいて、コイルの絶縁欠陥範囲を判定する。また、標定手段は、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する。
そのため、コイルの絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【0026】
実施の形態2.
図4は、この発明の実施の形態2に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
図4において、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、図1に示した4枚の導体板3に代えて、4つのアンテナ(放電検出素子)8を備えている。
ここで、アンテナ8および空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、第2絶縁欠陥範囲判定手段が構成されている。
なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0027】
以下、この実施の形態2の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。なお、実施の形態1と同様のものについては、説明を省略する。
4つのアンテナ8は、それぞれ巻線コイル7の四隅の近傍に配置され、かつ互いに離隔している。アンテナ8は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各アンテナ8間での電磁波の検出時間差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0028】
以下、図5を参照しながら、この実施の形態2の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置による絶縁欠陥位置の標定結果について説明する。
図5において、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で判定された長さ方向の絶縁欠陥範囲を一点鎖線で示す範囲とする。また、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4で判定された空間的な絶縁欠陥範囲を図中の破線で囲まれた範囲とする。このとき、標定部5で標定された絶縁欠陥位置は、図中の太線で示した箇所となる。なお、この絶縁欠陥位置は、上記実施の形態1で標定された絶縁欠陥位置よりも狭い範囲とすることができる。
【0029】
以上のように、実施の形態2によれば、第1絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により発生し、絶縁欠陥位置から線状導体の一端まで伝搬した放電電流と、絶縁欠陥位置から線状導体の他端で反射して一端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれが線状導体の近傍に配置され、かつ互いに離隔した複数のアンテナを用いて、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、各アンテナ間での電磁波の検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。また、標定手段は、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する。
そのため、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【0030】
なお、上記実施の形態2では、線状導体が巻回されて巻線コイル7を形成している場合について説明したが、これに限定されず、線状導体は、任意の形状で配置されてよい。
この場合も、上記実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
【0031】
実施の形態3.
上記実施の形態1、2において、実際の巻線コイル7は、平板状のコイル(以下、「平板コイル」と称する。)が複数層に積層されるように巻回されることが多く、巻線コイル7の絶縁耐圧試験も複数の平板コイルが積層された状態で実施されることが多い。そのため、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2で長さ方向の絶縁欠陥範囲を判定し、層間のわたり部分を含む範囲が判定された場合には、上下に重なった平板コイルのどちらで放電が発生したのかを判別することが困難になる。このとき、上記実施の形態2で示したように、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4がアンテナ8を用いて空間的な絶縁欠陥範囲を判定した場合であっても、平板コイルの上下方向に標定誤差が存在するので、上下に重なった平板コイルのどちらで放電が発生したのかを判別することができない。
【0032】
そこで、上記課題に鑑み、複数の平板コイルが積層された巻線コイルについて、上下に重なった平板コイルのどちらで放電が発生したのかを判別することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置について説明する。
図6は、この発明の実施の形態3に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。また、図7は、図6の巻線コイル7と放電検出器9とを詳細に示す構成図である。
【0033】
図6、7において、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、図1に示した4枚の導体板3に代えて、4つの放電検出器(放電検出素子)9を備えている。また、絶縁欠陥位置の標定対象である線状導体は、複数の素線からなり、平板状の上コイル71および下コイル72が積層されるように巻回されて巻線コイル7を形成している。
ここで、放電検出器9および空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、第2絶縁欠陥範囲判定手段が構成されている。
なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0034】
以下、この実施の形態3の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。なお、実施の形態1と同様のものについては、説明を省略する。
放電検出器9は、導体板を2枚重ねて構成されており、それぞれの導体板の検出面(第1検出面91および第2検出面92)が互いに外側を向いている。
4つの放電検出器9は、それぞれ上コイル71と下コイル72との間に、上コイル71と第1検出面91とが対向し、下コイル72と第2検出面92とが対向するように配置され、かつ互いに離隔している。
【0035】
放電検出器9は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。このとき、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4には、放電検出器9の第1検出面91からの出力と、第2検出面92からの出力とが入力される。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各放電検出器9間での電磁波の検出強度差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。このとき、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、上下に重なった上コイル71および下コイル72のどちらで放電が発生したのかを判別して出力する。
【0036】
以上のように、実施の形態3によれば、第2絶縁欠陥範囲判定手段は、複数の放電検出素子として、それぞれが導体板を2枚重ねて構成され、各導体板の検出面が互いに外側を向いている複数の放電検出器であって、それぞれがコイルの層間に配置され、かつ互いに離隔した複数の放電検出器を用い、各導体板間での電磁波の検出強度差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。
そのため、平板状のコイルが複数層に積層された場合であっても、どちらの平板コイルで放電が発生したのかを判別するとともに、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【0037】
なお、上記実施の形態3に示した第2絶縁欠陥範囲判定手段と、上記実施の形態2に示した第2絶縁欠陥範囲判定手段とを組み合わせて空間的な絶縁欠陥範囲を判定してもよい。
この場合には、より高精度に線状導体の絶縁欠陥位置を標定することができる。
【0038】
実施の形態4.
図8は、この発明の実施の形態4に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。
図8において、絶縁欠陥位置の標定対象である線状導体は、3次元状に巻回されてスパイラル状の巻線コイル7を形成している。
なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0039】
以下、この実施の形態4の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。なお、実施の形態1と同様のものについては、説明を省略する。
4枚の導体板3は、それぞれ巻線コイル7の近傍に3次元的に配置され、かつ互いに離隔している。導体板3は、絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各導体板3間での電磁波の検出時間差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0040】
以上のように、実施の形態4によれば、第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれがコイルの近傍に3次元的に配置され、かつ互いに離隔した複数の放電検出素子を用いて、各放電検出素子間での電磁波の検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。
そのため、線状導体の絶縁欠陥位置を高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【0041】
なお、上記実施の形態4では、放電検出素子として導体板3を例に挙げて説明したが、これに限定されず、放電検出素子は、アンテナ、超音波ホーン、圧電素子であってもよい。
この場合も、上記実施の形態4と同様の効果を得ることができる。
【0042】
実施の形態5.
図9は、この発明の実施の形態5に係る線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を示すブロック構成図である。また、図10は、図9の巻線コイル7の一部を抜粋し拡大表示したもので、AEセンサ21および短絡板22とともに示す断面図である。なお、図9では、図1に示した放電検出回路1、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4、標定部5および表示部6は、図示を省略している。
【0043】
図9、10において、この線状導体の絶縁欠陥位置標定装置は、図1に示した4枚の導体板3に代えて、4つのAE(Acoustic Emission:音響放出)センサ(放電検出素子)21および4枚の短絡板22を備えている。
ここで、AEセンサ21および短絡板22、並びに空間的な絶縁欠陥範囲判定部4により、第2絶縁欠陥範囲判定手段が構成されている。
なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0044】
以下、図9、10を参照しながら、この実施の形態5の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置の各部の詳細な構成および機能について説明する。なお、実施の形態1と同様のものについては、説明を省略する。
4枚の短絡板22は、それぞれ巻線コイル7上の上下左右の位置に、絶縁層に覆われたコイル導体を径方向に全て短絡するように配置され、かつ互いに離隔している。また、4つのAEセンサ21は、それぞれ短絡板22上に配置されている。
【0045】
AEセンサ21は、巻線コイル7の絶縁欠陥位置から発生するAE信号を検出し、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4に出力する。
空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、各AEセンサ21間でのAE信号の検出時間差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定し、標定部5に出力する。
【0046】
具体的には、図9のように4つのAEセンサ21および4枚の短絡板22を配置し、図中上側のAEセンサ21から反時計回りに第1〜第4AEセンサ21とした場合、図中×印で示す絶縁欠陥位置から発生するAE信号は、当該コイル導体内を通って第1〜第3AEセンサ21に向かう経路A1〜A3、およびコイル導体間の絶縁層を通って隣接するコイル導体に向かう経路B1〜B2を伝搬するものと考えられる。
【0047】
このとき、拡大図10に示すコイル導体間の絶縁層Pは、一般にコイル導体よりも密度が低いので、経路Bを伝搬するAE信号は、経路Aを伝搬するAE信号よりも伝搬速度が遅く、伝搬中の減衰量も大きくなる。すなわち、図9の経路B1〜B2を伝搬するAE信号は、経路A1〜A3を伝搬するAE信号よりも伝搬速度が遅く、伝搬中の減衰量も大きい。そのため、経路A1〜A3を伝搬するAE信号は、他の経路を伝搬するAE信号と比較して、識別することが容易である。そこで、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4は、絶縁欠陥位置から発生し、経路A1〜A3を伝搬して第1〜第3AEセンサ21で検出されたAE信号の検出時間差に基づいて、巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定する。
【0048】
図9の例では、絶縁欠陥位置からのAE信号の検出時間は、第2AEセンサ21および第3AEセンサ21で早く、AEセンサ21間の到達時間の早さだけで、第2AEセンサ21と第3AEセンサ21との間に絶縁欠陥位置が存在することが分かる。
また、AE信号の伝搬速度は、絶縁欠陥位置での放電により発生する放電電流や電磁波の伝搬速度よりも遅いので、第1〜第3AEセンサ21で検出されたAE信号の検出時間差の測定精度も高くなる。
【0049】
したがって、各AEセンサ21間の距離と各AEセンサ21間でのAE信号の検出時間差とに基づいてAE信号の伝搬速度を算出し、この伝搬速度を用いて、各AEセンサ21間でのAE信号の検出時間差を評価することにより、各AEセンサ21と絶縁欠陥位置との距離を高精度に算出することができる。
【0050】
なお、この方法では、短絡板22でコイル導体を径方向に全て短絡しているので、径方向に空間的な絶縁欠陥範囲を判定することはできないが、AE信号の検出時間差の識別精度が電磁波と比較して非常に高いので、AEセンサ21間での絶縁欠陥位置の識別精度は、非常に高い。
【0051】
一方、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2において、放電電流の検出時間差に基づいて判定された巻線コイル7の長さ方向の絶縁欠陥範囲は、巻線コイル7の全長が長いので識別精度が低いが、図3に示すように径方向の絶縁欠陥範囲を識別することができる。』』
そこで、長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部2による巻線コイル7の長さ方向の絶縁欠陥範囲の判定と、空間的な絶縁欠陥範囲判定部4による巻線コイル7の空間的な絶縁欠陥範囲を判定とを組み合わせることにより、非常に精度の高い絶縁欠陥位置判定を実現することができる。
【0052】
以上のように、実施の形態5によれば、第1絶縁欠陥範囲判定手段は、絶縁欠陥位置での放電により発生し、絶縁欠陥位置から線状導体の一端まで伝搬した放電電流と、絶縁欠陥位置から線状導体の他端で反射して一端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれがコイル上に互いに離隔して配置され、電磁波に代えて絶縁欠陥位置から発生するAE信号を検出する複数のAEセンサを用い、各AEセンサ間でのAE信号の検出時間差に基づいて、線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する。また、標定手段は、第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、絶縁欠陥位置と標定する。
そのため、コイルの絶縁欠陥位置をより高精度に標定することができる線状導体の絶縁欠陥位置標定装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 放電検出回路(第1絶縁欠陥範囲判定手段)、2 長さ方向の絶縁欠陥範囲判定部(第1絶縁欠陥範囲判定手段)、3 導体板(放電検出素子、第2絶縁欠陥範囲判定手段)、4 空間的な絶縁欠陥範囲判定部(第2絶縁欠陥範囲判定手段)、5 標定部(標定手段)、7 巻線コイル(線状導体)、8 アンテナ(放電検出素子、第2絶縁欠陥範囲判定手段)、9 放電検出器(放電検出素子、第2絶縁欠陥範囲判定手段)、21 AEセンサ(放電検出素子)、22 短絡板、71 上コイル、72 下コイル、91 第1検出面、92 第2検出面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状導体の絶縁欠陥位置を標定する装置であって、
前記線状導体の一端に電圧を印加し、前記絶縁欠陥位置での放電により発生して前記線状導体中を伝搬する放電電流を検出するとともに、検出した前記放電電流に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する第1絶縁欠陥範囲判定手段と、
前記線状導体に対して所定の位置に配置された複数の放電検出素子を用いて、前記絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出するとともに、検出した前記電磁波に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する第2絶縁欠陥範囲判定手段と、
前記第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と前記第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、前記絶縁欠陥位置と標定する標定手段と、
を備えたことを特徴とする線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項2】
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、前記複数の放電検出素子として、それぞれが前記線状導体の近傍に配置され、かつ互いに離隔した複数のアンテナを用い、各アンテナ間での前記電磁波の検出時間差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項3】
前記線状導体は、巻回されてコイルを形成し、
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、前記複数の放電検出素子として、それぞれが前記コイルに対向して配置され、かつ互いに離隔した複数の導体板を用い、各導体板間での前記電磁波の検出強度差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項4】
前記線状導体は、平板状のコイルが複数層に積層されるように巻回され、
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、前記複数の放電検出素子として、それぞれが導体板を2枚重ねて構成され、各導体板の検出面が互いに外側を向いている複数の放電検出器であって、それぞれが前記コイルの層間に配置され、かつ互いに離隔した複数の放電検出器を用い、各導体板間での前記電磁波の検出強度差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項5】
前記線状導体は、3次元状に巻回されてスパイラル状のコイルを形成し、
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれが前記コイルの近傍に3次元的に配置され、かつ互いに離隔した複数の放電検出素子を用いて、各放電検出素子間での前記電磁波の検出時間差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項6】
前記線状導体は、巻回されてコイルを形成し、
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、前記複数の放電検出素子として、それぞれが前記コイル上に互いに離隔して配置され、前記電磁波に代えて前記絶縁欠陥位置から発生するAE信号を検出する複数のAEセンサを用い、各AEセンサ間での前記AE信号の検出時間差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線状導体の絶縁欠陥位置評定装置。
【請求項7】
前記複数のAEセンサに対応して配置され、前記コイルを構成する前記線状導体を径方向に短絡する複数の短絡板をさらに備え、
前記AEセンサは、前記短絡板上に配置される
ことを特徴とする請求項6に記載の線状導体の絶縁欠陥位置評定装置。
【請求項8】
前記第1絶縁欠陥範囲判定手段は、前記絶縁欠陥位置から前記一端まで伝搬した放電電流と前記絶縁欠陥位置から前記線状導体の他端で反射して前記一端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1から請求項7までの何れか1項に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項1】
線状導体の絶縁欠陥位置を標定する装置であって、
前記線状導体の一端に電圧を印加し、前記絶縁欠陥位置での放電により発生して前記線状導体中を伝搬する放電電流を検出するとともに、検出した前記放電電流に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する第1絶縁欠陥範囲判定手段と、
前記線状導体に対して所定の位置に配置された複数の放電検出素子を用いて、前記絶縁欠陥位置での放電により空間中に放射される電磁波を検出するとともに、検出した前記電磁波に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する第2絶縁欠陥範囲判定手段と、
前記第1絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲と前記第2絶縁欠陥範囲判定手段で判定された絶縁欠陥範囲との重なり箇所を、前記絶縁欠陥位置と標定する標定手段と、
を備えたことを特徴とする線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項2】
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、前記複数の放電検出素子として、それぞれが前記線状導体の近傍に配置され、かつ互いに離隔した複数のアンテナを用い、各アンテナ間での前記電磁波の検出時間差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項3】
前記線状導体は、巻回されてコイルを形成し、
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、前記複数の放電検出素子として、それぞれが前記コイルに対向して配置され、かつ互いに離隔した複数の導体板を用い、各導体板間での前記電磁波の検出強度差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項4】
前記線状導体は、平板状のコイルが複数層に積層されるように巻回され、
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、前記複数の放電検出素子として、それぞれが導体板を2枚重ねて構成され、各導体板の検出面が互いに外側を向いている複数の放電検出器であって、それぞれが前記コイルの層間に配置され、かつ互いに離隔した複数の放電検出器を用い、各導体板間での前記電磁波の検出強度差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項5】
前記線状導体は、3次元状に巻回されてスパイラル状のコイルを形成し、
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、それぞれが前記コイルの近傍に3次元的に配置され、かつ互いに離隔した複数の放電検出素子を用いて、各放電検出素子間での前記電磁波の検出時間差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【請求項6】
前記線状導体は、巻回されてコイルを形成し、
前記第2絶縁欠陥範囲判定手段は、前記複数の放電検出素子として、それぞれが前記コイル上に互いに離隔して配置され、前記電磁波に代えて前記絶縁欠陥位置から発生するAE信号を検出する複数のAEセンサを用い、各AEセンサ間での前記AE信号の検出時間差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の線状導体の絶縁欠陥位置評定装置。
【請求項7】
前記複数のAEセンサに対応して配置され、前記コイルを構成する前記線状導体を径方向に短絡する複数の短絡板をさらに備え、
前記AEセンサは、前記短絡板上に配置される
ことを特徴とする請求項6に記載の線状導体の絶縁欠陥位置評定装置。
【請求項8】
前記第1絶縁欠陥範囲判定手段は、前記絶縁欠陥位置から前記一端まで伝搬した放電電流と前記絶縁欠陥位置から前記線状導体の他端で反射して前記一端まで伝搬した放電電流との検出時間差に基づいて、前記線状導体の絶縁欠陥範囲を判定する
ことを特徴とする請求項1から請求項7までの何れか1項に記載の線状導体の絶縁欠陥位置標定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−117931(P2011−117931A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166025(P2010−166025)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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