説明

線状部材およびその製造方法

【課題】
長さ方向に対する伸長性、直径方向に対する収縮性、折り曲げ方向に対する屈曲性あるいは復元力に優れた線状部材、線状型の光電変換素子に適用可能な線状部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
複数本のワイヤを配列した基本体を長さ方向に間隔を開けて螺旋巻きして内側に空間部を有する線状部材とする。線状部材は、複数本のワイヤを配列した基本体を、巻芯に対して、配列方向に間隔を開けて螺旋巻きにする螺旋巻き工程と、前記螺旋巻き工程ののち、前記基本体の形状維持処理をする形状維持処理工程と、前記形状維持処理工程ののち、前記巻芯を除去する除去工程とから製造する。基本体は導電性を有するワイヤ間に半導体を介在させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線状部材およびその製造方法に関し、特に長さ方向に対する伸長性、直径方向に対する収縮性、折り曲げ方向に対する屈曲性あるいは復元力に優れた線状部材、およびその製造方法に関する。また本発明は線状型の光電変換素子に適用可能な線状部材およびその製造方法に関する。
【0002】
近年、ワイヤの屈曲に対する復元力を改善する目的で芯線に超弾性形状記憶合金を用いることが検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1には、芯線として超弾性形状記憶合金のワイヤを用い、この芯線に超弾性形状記憶合金からなるコイルを遊びを持たせて被覆するようにした線状部材が記載されている。また、特許文献2には、超弾性形状記憶合金からなる芯線の外周に金、プラチナなどの貴金属素材による微細な装飾帯を螺旋状に密に巻きつけた線状部材が記載されている。しかしながら、上記従来のワイヤでは高い伸縮性(伸長性)が期待できないことに加えて経時的な伸びを防止することは困難であった。
【0003】
また近年の太陽電池では、集光構造を改善する線状型の光電変換素子が提案されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3の光電変換素子は屈曲等の変形自由度の高さを主張するが、屈曲等の変形に伴って光電変換素子の電極線を構成する導電線が破断したり、電極線を構成する導電線と半導体間に生じる隙間や剥離により光電変換効率の低下が生じる恐れがあった。
【特許文献1】特開2004−89589号公報
【特許文献2】特開2001−286313号公報
【特許文献3】特開平10−256579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題点に基づきなされたものであり、引っ張り強度が大きく、長さ方向に対する伸縮性、直径方向に対する収縮性、折り曲げ方向に対する屈曲性と復元性に優れた線状部材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
また本発明は、光電変換素子の屈曲等に伴う物理的損傷を防ぎ光電変換効率の低下を防止した線状型の光電変換素子に適用可能な線状部材およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1構成における線状部材は、複数本のワイヤを配列した基本体が、内側に空間部を有し、かつ、長さ方向に間隔を開けて螺旋巻きに形成されたことを特徴とする。
第1構成における線状部材は内側に空間部を有し、かつ、長さ方向に間隔を開けるようにしたので、螺旋の傾斜角を大きくすると共に外径を収縮して、長さ方向の間隔(隙間)がなくなるまで伸長するため、伸長性および収縮性が大幅に向上する。更に、第1構成における線状部材は内側に空間部を有するようにしたので屈曲変形が容易であることから屈曲性も向上する。
すなわち、1本のワイヤを螺旋巻きにした場合には、ワイヤの太さが細いと、伸長性には優れるが、引っ張り強度が小さくすぐに伸びきってしまい、ワイヤの太さが太いと、引っ張り強度は大きくなるが、伸長性に劣るのに対して、複数本のワイヤを配列した基本体を螺旋巻きとすれば、伸長性を得ることができると共に、引っ張り強度を大きくすることができるからである。
【0006】
基本体のワイヤは特に限定されないが、ばね材、例えば、ピアノ線材、ステンレス線材、非鉄系線材により構成することで引っ張り強度が大きく、伸長性、収縮性、屈曲性あるいは復元力に優れた線状部材を得ることができる。
特に、基本体のワイヤを超弾性形状記憶合金により構成した場合、長さ方向に伸長したり、外径が収縮したり、あるいは屈曲したのちであっても、元の形状に戻る復元性をさらに向上させることができる。超弾性形状記憶合金というのは、超弾性または形状記憶効果を有する合金を言い、例えば、ニッケル・チタン合金あるいはニッケル・チタン・コバルト合金などのニッケルおよびチタンを含む合金が挙げられる。
【0007】
本発明の第2構成では、第1構成の基本体が導電性を有するワイヤ間に半導体が介在した状態で配列されることを特徴とする。
導電性を有するワイヤ間に半導体を配置するには、導電性ワイヤ間に半導体線を配列するか、あるいは、導電性を有するワイヤの外周部に半導電層を形成することなどを採用可能である。
半導体は、導電性の高さと伸縮性を兼ね備えることが必要になるため、伸縮性を有する軟質樹脂などの有機基材を半導体化した有機半導体を採用することが好ましく、例えば、樹脂中に半導体型の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を分散させて線状に成形した有機半導体を採用可能である。
有機半導体とは半導体の特性を示す有機材料であり、有機p型半導体の代表的なものにペンタセンがある。ペンタセンは、真空蒸着法や塗布により簡単に有機半導体薄膜が得られる。
導電性を有するワイヤの外周部に半導電層を形成する場合の半導体としては、有機半導体をドーピングした軟質樹脂を採用可能である。有機半導体による線状の導電体の被覆は、蒸着、或いは半導体の溶融液、溶解液又はゲル状態のものを塗布することにより行なうことができる。
【0008】
本発明の第3構成における線状部材の製造方法では、複数本のワイヤを配列した基本体を、配列方向に間隔を開けて螺旋巻きにする螺旋巻き工程と、螺旋巻き工程ののち、基本体の形状維持処理をする形状維持処理工程とを含むことを特徴とする。螺旋巻き工程には巻芯を使用する方法と使用しない方法がある。
形状維持処理とは、螺旋巻き工程を経た基本体の螺旋巻き状態を維持するための処理である。具体的には、螺旋巻き状態の基本体を構成するワイヤ同士を軟質樹脂等で被覆して一体化、あるいは接着することで形状維持処理を行うことができる。また、基本体が金属線と熱可塑性樹脂の線材を交互に配列して基本体を構成した場合には螺旋巻き後の熱可塑性樹脂の線材を金属線と融着して接合することで形状維持処理を行うことができる。基本体を構成するワイヤの一部または全部が形状記憶合金の場合の形状維持処理工程としては、螺旋巻き状態の基本体を加熱して形状記憶合金を形状記憶処理することが出来る。
【0009】
本発明の第4構成では、第3構成の基本体が導電性を有するワイヤ間に半導体層が介在した状態で配列されることを特徴とする。本発明の第2構成と同様の意義がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の線状部材によれば、内側に空間部を有し、かつ、長さ方向に間隔を開けた状態で複数本のワイヤが配列された基本体を螺旋巻きしたので、螺旋の傾斜角を大きくすると共に外径を収縮して、間隔がなくなるまで長さ方向に伸長することができ、伸長性および収縮性を大幅に向上させることができ、かつ、引っ張り強度を大きくすることができる。更に、本発明の線状部材によれば、内側に空間部を有するようにしたので、屈曲変形が容易であり屈曲性も向上させることができる。
また本発明の線状部材の製造方法によれば、複数本のワイヤを配列した基本体を、巻芯に対して長さ方向に間隔を開けて螺旋巻きとし、形状維持処理をしたのち、巻芯を除去するようにしたので、本発明の線状部材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の線状部材を表す構成図である。
【図2】実施例1の線状部材の説明図である。
【図3】実施例1の線状部材の製造方法を表す説明図である。
【図4】実施例2の線状部材を表す構成図である。
【符号の説明】
【0012】
10・・線状部材
11・・ワイヤ
12・・基本体
13・・空間部
20・・線状部材
21a・・第1電極線(ワイヤ)
21b・・第2電極線(ワイヤ)
21c・・半導体線
21d・・絶縁線
22・・基本体
23・・空間部
Do1、Do1’、Do2・・外径
M・・巻芯
P1、P1’、P2・・ピッチ
S1、S1’、S2・・隙間
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
[実施例1]
図1は、実施例1に係る線状部材10の構成を表したものであり、図中(A)は正面から見た構成を表し、(B)は(A)に示したI−I線に沿った端面構造を表している。この線状部材10は、複数本のワイヤ11を配列した基本体12が螺旋巻きに形成されたものである。
【0015】
基本体12は、中心に空間部13を有し、かつ、長さ方向に間隔S1を開けて螺旋巻きされている。
【0016】
なお、図1における基本体12はワイヤ11を一列に配列した場合で示したが、ワイヤ11を複数列に配列してもよい。すなわち、この線状部材10は、1重の螺旋巻きでもよいが、2重以上に重ねて螺旋巻きとしてもよい。また、基本体12は、同一のワイヤ11を配列してもよいが、異なる種類または異なる太さのワイヤ11を配列するようにしてもよい。更に、基本体12において、ワイヤ11は密接して配列されていることが好ましいが、各ワイヤ11の間に若干の隙間が開いていても良い。
【0017】
本実施例1の線状部材10によれば、複数本のワイヤ11が配列された基本体12を螺旋巻きに形成するようにしたので、伸長性を確保しつつ、引っ張り強度を大きくすることができる。また、螺旋巻き後における基本体12の内側に空間部13を有し、かつ、長さ方向に間隔S1を開けるようにしている。
従って、線状部材10を伸長させると、図2に示すように、外径Do1が収縮してDo1’になるとともに、間隔S1も小さくなってS1’となり、間隔S1が0になるまで長さ方向に伸長することができるため、伸長性および収縮性を大幅に向上させた線状部材10を提供できる。
更に、内側に空間部13を有するようにしたので、線状部材10の屈曲性を向上させることができる。加えて、長さ方向への伸長や外径の収縮、あるいは屈曲したのちであっても、元の形状に復元することが容易な線状部材10を提供することができる。
本実施例1の線状部材10は、例えば、図3に示すようにして製造することができる。まず、複数本のワイヤ11を配列した基本体12を、巻芯Mに対して、長さ方向に間隔S1を開けて螺旋巻きにする(螺旋巻き工程)。次いで、螺旋巻き状態の基本体12に対して所定の形状維持処理をする(形状維持処理工程)。続いて、巻芯Mを、例えば、溶剤により溶解し除去する(巻芯除去工程)。これにより、線状部材10が得られる。
複数本のワイヤ11を配列した基本体12を、巻芯Mに対して長さ方向に間隔S1を開けて螺旋巻きとし、基本体12に対して形状維持処理をしたのち、巻芯Mを除去するようにしたので、本実施例に係る線状部材10を容易に製造することができる。
実施例1における基本体12の形状維持処理については、螺旋巻き状態の基本体12を構成するワイヤ11同士を軟質樹脂等で被覆して一体化、あるいは接着などにより接合することで形状維持処理を行うことができる(図示省略)。基本体を構成するワイヤの一部または全部が形状記憶合金の場合の形状維持処理工程としては、螺旋巻き状態の基本体を加熱して形状記憶合金を形状記憶処理することが出来る。
【0018】
[実施例2]
図4は、実施例2に係る線状部材20の構成を表したものであり、図中(A)は正面から見た構成を表し、(B)は(A)に示したI−I線に沿った端面構造を表している。
本実施例2の線状部材20は、ワイヤとしての第1電極線21aおよび第2電極線21b、半導体線21c、絶縁線21dとから基本体22を構成したものである。基本体22は、第1電極線21a、半導体線21c、第2電極線21b、絶縁線21dの順に配列している。
第1電極線21aは、例えばアルミニウムからなる導電線であり、第2電極線21bは第1電極線21aより大きな仕事関数を有する線状の導電体としている。
半導体線21cは、樹脂中に半導体特性を有する有機化合物を分散させることで導電性の高さと伸縮性を兼ね備えた線状の有機半導体を採用している。
絶縁線21dは、樹脂などからなる導電性を有しない線材としている。絶縁線21dについては、螺旋巻した状態の第1電極線21aと第2電極線21bとの導通を防止するためのものであり、必須構成要素ではない。
【0019】
本実施例2の線状部材20を伸長させると、外径Do2が収縮するとともに、間隔S2も小さくなって0になるまで長さ方向に伸長することができるため、伸長性および収縮性を大幅に向上させた線状部材20を提供できる。
また、本実施例2の線状部材20に光を照射すると、第1電極線21aと第2電極線21b間に生じる電位差により太陽電池の光電変換素子として機能する。第2電極線21bとして仕事関数が大きい金等をめっきした線状の導電体を用いれば、光電変換の効率を向上させることができる。
【0020】
さらに、本実施例2の線状部材20では、屈曲等による変形に伴って基本体22を構成する第1電極線21a、第2電極線21bを構成する導電線が破断したり、第1電極線21aや第2電極線21bと半導体線21cとの接合部に生じる隙間や剥離による光電変換効率の低下を防止できる。
したがって、本実施例2の線状部材20は長さ方向に対する伸長性、直径方向に対する収縮性、折り曲げ方向に対する屈曲性あるいは復元力に優れた光電変換素子として機能する。
【0021】
本実施例2の線状部材20は、線状であるために任意の形状を取ることができ、集光可能な光の角度が増加し、実質的に光電変換効率を向上することができる。加えて、本実施例2の線状部材20を複数並列配置すれば大面積の光電変換素子を容易に実現することができる。
【0022】
本実施例2の線状部材20の伸長性等については、実施例1で説明したように伸長性および収縮性ならびに屈曲性を大幅に向上させることができる。
また、本実施例2の線状部材20の製造方法については実施例1に準じた製造工程を採用することができる。すなわち、第1電極線21aと第2電極線21bは半導体線21cとの融着あるいは接着等により接合でき、第2電極線21bに絶縁線21dを融着あるいは接着等により接合することで形状維持処理を行うことができる。
また、螺旋巻き状態の基本体22を絶縁性で光透過性を有する軟質樹脂等で被覆して一体化する場合、絶縁線21dは省略可能である(図示省略)。すなわち、螺旋巻き状態の基本体22全体が被覆されるため第1電極線21aと第2電極線21bが導通する恐れがないからである。
第1電極線21a、第2電極線21bの一方または双方が形状記憶合金の場合の形状維持処理工程としては、螺旋巻き状態の基本体を加熱することによる形状記憶処理を追加することが出来る。
【0023】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のワイヤを配列した基本体が、内側に空間部を有し、かつ、長さ方向に間隔を開けて螺旋巻きに形成されたことを特徴とする線状部材。
【請求項2】
前記基本体は、導電性を有するワイヤ間に半導体を介在させたことを特徴とする請求項1記載の線状部材。
【請求項3】
複数本のワイヤを配列した基本体を、配列方向に間隔を開けて螺旋巻きにする螺旋巻き工程と、
前記螺旋巻き工程ののち、前記基本体の形状維持処理をする形状維持処理工程と、
を含むことを特徴とする線状部材の製造方法。
【請求項4】
前記基本体は、導電性を有するワイヤ間に半導体を介在させたことを特徴とする請求項3記載の線状部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−232009(P2010−232009A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78240(P2009−78240)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(503047869)株式会社シンテック (7)
【Fターム(参考)】