説明

線維芽細胞増殖因子受容体およびそのドッキングタンパク質を共発現させた細胞ベースアッセイ法

【課題】本発明の目的は、評価対象のFGFRとFGFに起因した反応シグナルを増強させ、正確かつ安定した計測結果を実現させ、十分な統計学的安定性を確保することができる、FGFRを用いた細胞ベースアッセイ法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、解析すべき細胞内に、線維芽細胞増殖因子受容体をコードする第1の遺伝子と、前記受容体に結合するドッキングタンパク質をコードする第2の遺伝子とを導入し、前記第1および第2の遺伝子を前記細胞内で共発現させるステップと、前記細胞内で発現した線維芽細胞増殖因子受容体を活性化させるステップと、前記活性化された受容体の前記細胞内における分布を表わす画像を解析するステップと、を含む、細胞ベースアッセイ方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維芽細胞増殖因子受容体をターゲットにした細胞ベースアッセイ法に関する。
【背景技術】
【0002】
生きた細胞を含む生体由来試料の一つである培養細胞に内在的に発現する、あるいは人為的に発現させた細胞表面受容体の前記細胞内における分布を、顕微鏡画像取得・解析システムによって撮像および解析することによって、前記受容体の活性因子の作用強度を定量的に評価することができる。このような培養細胞を用いた活性因子の定量的評価は、細胞ベースアッセイ(cell-based assay)と呼ばれており、現在、様々な活性因子の定量的評価が細胞ベースアッセイによって行われている。
【0003】
活性因子のターゲットの1つである、線維芽細胞増殖因子受容体(Fibroblast Growth Factor Receptor; 以下、FGFRともいう)は、細胞の増殖、分化、神経伝達など、生体の様々な生理作用において重要な役割を果たす。したがって、該受容体をターゲットにした新規化合物の探求は、医薬分野において非常に重要であり、様々の方法が開発されてきた。
【0004】
例えば、非特許文献1では、ある種の線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor;以下、FGFともいう)が、神経細胞の分化を誘導することを利用して、その活性化状態を定量することを開示している。また、非特許文献2では、リンパ球細胞系培養細胞株BaFを用いて新規DNA合成量または細胞数増加量を測定し、FGFのDNA合成促進活性および細胞増殖活性を測定することが開示されている。また、FGFRは活性化に伴って、細胞核(非特許文献3)あるいは細胞内小胞(非特許文献4)に局在移行することが報告されており、蛍光性色素等を使って受容体分子を標識し、顕微鏡で観察することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 273: 29262-29271 (1998)
【非特許文献2】J. Biol. Chem. 277: 42815-42820 (2002)
【非特許文献3】J. Biol. Chem. 16: 14-23 (2005)
【非特許文献4】J. Cell. Science. 111: 3517-3527 (1998)
【非特許文献5】Mol Cell Biol. 13: 2203-2213 (1993)
【非特許文献6】Mol Cell Biol. 18: 3966-3973 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)を用いた細胞ベースアッセイ法では、評価対象となるFGFRとこれに作用する線維芽細胞増殖因子(FGF)に起因した反応シグナルを正確に抽出する必要がある。しかしながら、従来の細胞ベースアッセイ法では、培養細胞に内在的に発現する評価対象外のFGFRに由来する反応シグナルが混在し、計測結果の正確性および安定性を損なう恐れがある。
【0007】
また、評価対象のFGFRとFGFに起因した反応シグナルは、一般に緩慢かつ微弱であり、十分な統計学的安定性が得られないことがある。
【0008】
本発明の目的は、FGFRを用いた細胞ベースアッセイ法における上記諸課題を解決することにあり、評価対象のFGFRとFGFに起因した反応シグナルを増強させ、正確かつ安定した計測結果を実現させ、十分な統計学的安定性を確保することができる、FGFRを用いた細胞ベースアッセイ法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
FGFRの活性化の度合いは、様々な手法によって評価することができる。本発明者は、これら様々な手法のうち、FGFRの細胞内移行の程度を定量化する手法によって、該FGFRの活性化の度合いを評価することを試みた。FGFRの細胞内移行の程度は、FGFR活性化処理によって細胞内に移行したFGFRを蛍光色素等を用いて標識し、顕微鏡画像解析を行うことによって定量化することができる。
【0010】
本発明者は、鋭意研究の結果、FGFRとこれに結合するドッキングタンパク質とを共発現させ、FGFRの細胞内移行の程度を増強させることにより、上記諸課題を解決した細胞ベースアッセイ法を提供することに成功した。
【0011】
すなわち、本発明は、解析すべき細胞内に、線維芽細胞増殖因子受容体をコードする第1の遺伝子と、前記受容体に結合するドッキングタンパク質をコードする第2の遺伝子とを導入し、前記第1および第2の遺伝子を前記培養細胞内で共発現させるステップと、前記細胞内で発現した線維芽細胞増殖因子受容体を活性化させるステップと、前記活性化された受容体の前記細胞内における分布を表わす画像を解析するステップと、を含む、細胞ベースアッセイ方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞ベースアッセイ法は、FGFRの細胞内移行の程度が増強されているので、評価対象の反応シグナルが、他の内在的に発生する反応シグナル(バックグラウンド)と比較して十分に強い。したがって、評価対象の反応シグナルがバックグラウンドに埋もれてしまうことがなく、正確かつ安定した計測結果を実現させ、十分な統計学的安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態における細胞ベースアッセイ法のフローチャート
【図2】線維芽細胞増殖因子-8(FGF)を添加する前および添加した後(添加後90分)のヒト骨肉芽腫細胞株U-2OSの顕微鏡画像
【図3】線維芽細胞増殖因子-8(FGF)を添加する前および添加した後(添加後90分)のヒト骨肉芽腫細胞株U-2OSにおけるFGFRの活性化量を相対値として表わした棒グラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、本発明の構成を詳細に説明するために例示的に示したものに過ぎない。従って、本発明は、以下の各実施形態に記載された説明に基づいて限定解釈されるべきではない。本発明の範囲には、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内にある限り、以下の各実施形態の種々の変形、改良形態を含む全ての実施形態が含まれる。
【0015】
<第1の実施形態>
図1
図1は、第1の実施形態における細胞ベースアッセイ法のフローチャートである。
【0016】
(1)共発現ステップ
先ず、培養細胞内に、線維芽細胞増殖因子受容体をコードする第1の遺伝子と、前記受容体に結合するドッキングタンパク質をコードする第2の遺伝子とを導入し、前記第1および第2の遺伝子を前記培養細胞内で共発現させる(10)。
【0017】
細胞ベースアッセイに用いる培養細胞は、特に制限されることなく、例えば、線維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、グリア細胞、神経細胞など、生物体を構成する任意の細胞を使用することができる。また、細胞の由来生物種は、特に制限されることなく、例えば、ヒト、ヒト以外の動物、植物、ウイルス、細菌、酵母、マイクロプラズマなど、任意の生物種を選択することができる。また、培養細胞は、正常細胞に限らず、各種変異細胞、病変細胞、例えば、各種新生物細胞などを使用することができる。特に、病変細胞は、病変組織・器官におけるFGFRの活性を評価するための極めて重要なツールとなる。
【0018】
さらにまた、本発明が顕微鏡画像解析システムを用いて計測を行うことを考慮し、任意の接着性細胞が好ましい。接着性細胞は単層を形成する傾向があるとともに、スライドガラスやシャーレ、マイクロプレートのような観察用支持体に扁平に接着して細胞が不動化されるため、顕微鏡での検出に特に適している。接着性細胞には内在的にFGFRを発現するものが多く、さらに表面に多種類のFGFR以外の受容体を有している場合がある。これらの多種多様な受容体は、評価対象のFGFRと識別することができないために、従来、FGFRを用いた細胞ベースアッセイを実現可能な接着性細胞は限られていた。しかしながら、本発明の方法によれば、FGFRに結合するドッキングタンパク質によってFGFRの細胞内移行が促進されるために、該細胞内移行のシグナルは、その他の内在する因子に起因したシグナルと比較して非常に大きいため、評価対象のFGFRの活性化の程度がバックグラウンドに埋もれることなく、正確かつ安定的に特異的シグナルを検出することができる。したがって、従来法と比較して、多種多様な任意の接着性細胞を使用した細胞ベースアッセイを実現することができる。
【0019】
次に、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)をコードする第1の遺伝子、および前記受容体に結合するドッキングタンパク質をコードする第2の遺伝子は、当業者に既知の任意の遺伝子組換え技術によって培養細胞内に導入して共発現させる。例えば、プラスミドなどの発現ベクターに第1および第2の遺伝子を組み込み、該発現ベクターを、リン酸カルシウム法、エレクトロポーレーション法、マイクロインジェクション法などを用いて培養細胞内に導入してもよい。また、アデノウイルスやレトロウイルスベクターの感染力を利用して、第1および第2の遺伝子を培養細胞内に導入してもよい。第1および第2の遺伝子は、同一のベクターに組み込まれてもよいし、それぞれ別個のベクターに組み込まれてもよい。その他、遺伝子の細胞内への導入および該細胞内での共発現は、当該技術分野における周知の方法に基づいて行うことができる。
【0020】
FGFRに結合するドッキングタンパク質は、FRS2(FGFR substrate)(あるいはSNT1; suc-associated neurotrophic factor-induced tyrosine-phosphorylated target)と称され、ファルネシル化翻訳後修飾を受けることで細胞内直下にアンカーされ、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)と特異的に会合する(非特許文献5)。ドッキングタンパク質(FRS2)は、これら受容体が活性化した際にその特定のリン酸化部位に特異的に結合し、自身もリン酸化修飾を受ける。リン酸化修飾を受けたFRS2は、さらに下流の細胞内シグナルの発生を媒介する。このようにFRS2の存在は、FGFRの活性化に始まり表現形質の発現に至る細胞内シグナル伝達経路を量的かつ質的に調節するボトルネックとなっており、FRS2の状態を人為的にコントロールすることで、FGFRから誘導される表現形質の程度を任意にコントロールすることができる(非特許文献6)。
【0021】
ここで、活性化されたFGFRは、下流の細胞内シグナルを活性化させるとともに、細胞内に移行する。FRS2は、前記下流の細胞内シグナルの活性化作用とともに、このFGFRの細胞内移行を促進する働きを有しており、FRS2をFGFRと共発現させることによって、FGFRの細胞内移行を促進させることができる。
【0022】
(2)受容体活性化ステップ
続いて、前記培養細胞内で発現した線維芽細胞増殖因子受容体を活性化させる(20)。
【0023】
FGFRの活性化には、特に制限はなく、公知の全ての活性化手法が含まれる。例えば、FGFRを活性化させる物質を、前記第1および第2の遺伝子を共発現させた培養細胞に添加することによって、FGFRを活性させることができる。また、前記共発現させた培養細胞に対して任意の物理的処理、例えば、放射線、紫外線、光刺激などの電磁波ストレス、加熱処理などの熱ストレスなど、各種物理的ストレスを加えることによってFGFRを活性化することもできる。
【0024】
FGFRを活性化させる物質には、特に制限はなく、FGFファミリーを構成する各種線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む、任意の各種活性因子(化学物質)が含まれる。FGFファミリーは20数種の分子によって構成され、例えば、酸性FGF(FGF1)、塩基性FGF(FGF2)、int-2(FGF3)、hst-1(FGF4)、FGF5、hst-2(FGF6)、ケラチノサイト増殖因子(FGF7)、アンドロゲン誘導性増殖因子(FGF8)などが含まれる。
【0025】
(3)画像解析ステップ
最後に、前記活性化された受容体の前記細胞内における分布を表わす画像を解析する(30)。
【0026】
活性化された線維芽細胞増殖因子(FGFR)は、細胞内に移行する。このとき、FGFRとともに発現したドッキングタンパク質(FRS2)の作用により、FGFRの細胞内移行が促進される。したがって、細胞内移行した前記線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)および/または前記ドッキングタンパク質(FRS2)(以下、FGFR等ともいう)を免疫抗体染色または蛍光標識によって標識し、顕微鏡画像を撮像することによって、FGFR等の細胞内移行の程度を定量化することができる。
【0027】
より具体的には、先ず、培養細胞中で発現したFGFR等を、光シグナルを発生し得る光シグナル発生型の標識物質で標識するようにする。かかる標識物質は、具体的には、蛍光抗体法、酵素抗体法などにより染色または蛍光標識によって標識し、顕微鏡で検出(または撮像)可能な状態にしたものが挙げられる。蛍光物質による標識の代わりにルシフェリン等の発光基質により発光する発光物質により標識することにより、生物発光または化学発光させて検出してもよい。例えば、第1および/または第2の遺伝子の転写調節ユニットと、蛍光もしくは発光タンパク質等を発現するレポーター遺伝子との融合遺伝子を、上述した遺伝子組換え技術によって細胞内に予め導入しておき、その融合遺伝子の発現を検出してもよい。また、前記第1および/または第2の遺伝子に、タグ配列と称される特定のアミノ酸配列を挿入してもよい。該アミノ酸タグ配列はFGFR等の一部に出現し、これに該タグ配列を認識する標識された抗体を反応させることにより、FGFR等の細胞内における分布を検出することができる。その他、透過光像、微分干渉像、光位相差像などを利用して検出を行ってもよい。
【0028】
次に、顕微鏡画像取得・解析システムを使用して、免疫抗体染色または蛍光標識によって標識されたFGFR等の動きのテクスチャー(模様)を取得する。第1の実施態様において用いられる顕微鏡画像取得・解析システムは、顕微鏡撮像装置と、画像解析ソフトウェアを備え、標識プローブの挙動をテクスチャーとして検出し、これを所定のアルゴリズムに基づいて解析することができる。使用する顕微鏡画像取得・解析システムに特に制限はなく、公知の任意のシステムを使用することができる。例えば、オリンパス社の製品である細胞イメージ解析システムCelaview RS100が好適に用いられる。なお、顕微鏡画像を取得可能な光学機器としては、卓上型の光学顕微鏡に限らず、顕微鏡的観察が可能な内視鏡や、小動物等を生きたまま観察するいわゆるin vivoイメージング装置が含まれる。
【0029】
FGFR等の動きのテクスチャーは、任意の観察領域を設定した後、該観察領域内に存在する各培養細胞内に分布するFGFR等を光学的に走査することによって検出される。得られたテクスチャーは、予め設定されたアルゴリズムに基づいて数値化される。例えば、FGFRの活性前後において、前記設定した観察領域を光学走査し、FGFR等の分布のテクスチャーを取得する。得られた各テクスチャーは、FGFR等の分布に特異的なものであり、諸般のソフトウェアを用いて数値化することができる。得られた数値は、例えば、FGFR等の細胞内移行の程度を示す相対値として表わされ、FGFR等の細胞内移行の程度を客観的に評価することができる。
【0030】
また、好ましい実施態様として、FGFR等の細胞内移行を示す数値は、前記培養細胞内の細胞核領域内に移行したFGFR等に基づいて算出される。具体的には、先ず、培養細胞の細胞核を染色し、染色された細胞核の顕微鏡画像を撮像する。細胞核の染色は、公知のいずれの手法を用いてもよく、例えば、細胞核内のDNAに結合する蛍光色素であるDAPIなどによる染色が好ましい。励起されたDAPIは青色を発するため、FGFR等の標識(例えば、緑色や赤色)との識別が容易であり、イメージングに適している。
【0031】
染色された細胞核の顕微鏡画像を撮像後、所定の閾値以上の光量が得られた領域を、細胞核領域として特定する(第1の画像)。このとき、各培養細胞の細胞質および細胞膜の位置情報は排除され、観察領域に存在する各培養細胞の細胞核のみが認識された状態となる。
【0032】
一方、FGFRの活性化処理前に撮像を行い、標識されたFGFRの分布画像を得る(第2の画像)。FGFRの活性化処理前では、FGFRは各細胞の細胞膜周辺に分布しているので、前記第1の画像と第2の画像とを重ね合わせると、FGFRは、予め特定した細胞核の周囲を取り囲むように分布している。
【0033】
次に、FGFRの活性化処理後に再び撮像を行い、標識されたFGFRの分布画像を得る(第3の画像)。FGFRの活性化処理後では、ドッキングタンパク質(FRS2)の作用によって細胞内に移行したFGFRが細胞核周辺まで移動し、その一部は細胞核内に集積する。このとき、前記第1の画像と第3の画像とを重ね合わせると、第1の画像によって特定された細胞核領域と、第3の画像によって特定されたFGFRの分布領域とが一部重複する。この重複した領域に位置するFGFRの光量を計測し、得られた計測値に基づいてFGFR等の細胞内移行を示す数値を算出することができる。
【0034】
すなわち、本発明は、
(i)染色された細胞核の顕微鏡画像を撮像後、所定の閾値以上の光量が得られた領域を、細胞核領域として特定する第1のステップと、
(ii)活性化された線維芽細胞増殖因子受容体の顕微鏡画像を撮像し、前記受容体の分布領域を特定する第2のステップと、
(iii)第1のステップで特定された細胞核領域と、第2のステップで特定された前記受容体の分布領域とを重ね合わせ、重複する領域内に位置する前記受容体の光量を計測する第3のステップと、
(iv)前記得られた計測値に基づいて前記受容体の細胞内移行を示す数値を算出する第4のステップと、を含む、細胞ベースアッセイ法を提供する。
【0035】
上記細胞ベースアッセイ法は、画像解析ステップが比較的単純であるため、FGFR活性化の指標となる細胞内移行を示す数値の算出に必要な計算量を抑制することができる。結果として、第1の実施態様において用いられる顕微鏡画像取得・解析システムに対する負荷が少なく、短時間で結果を取得することができる。また、細胞核は安定した領域指定であり、該細胞核領域に基づいたシグナル評価は、安定的かつ信頼性の高い結果を提供することができる。
【0036】
その他、FGFR等の細胞内移行を示す数値は、顆粒球の数および/または輝度に基づいて算出してもよい。例えば、細胞内に移行したFGFRは顆粒球(顆粒状構造物)を形成する。したがって、先ず、顕微鏡画像取得・解析システムを用いて培養細胞内に存在する顆粒状構造物を認識し、次いで、認識した顆粒状構造物を、例えば真円度、凝集度、蛍光強度および面積などから選択される少なくとも一つの性質によって分類する。この分類した顆粒状構造物のうち、所望の性質を有する顆粒状構造物の細胞あたりの数量を計数することによって、FGFR等の細胞内移行を示す数値を算出することができる。
【0037】
また、撮像のタイミングは、FGFRの活性化の前後に任意に設定することができる。例えば、活性化前に少なくとも1回撮像後、活性化後に所定の時間間隔で撮像を繰り返してもよいし、予め変化が観察される時間帯が明らかな場合、その時間帯のみ集中的に撮像解析してもよい。所定の時間間隔で撮像する場合、例えば、1秒、10秒、1分、10分、30分、60分、90分、2時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、1週間、または1ヶ月ごとに撮像してもよい。
【実施例】
【0038】
(実験手順)
ヒト骨肉芽腫細胞株U-2OS(ECACC)を顕微鏡撮影が可能な培養容器で培養した。培養液には5%ウシ胎児血清を添加したMEM培地(Invitrogen社)を用い、培養環境は37℃、5%CO2に設定した。この培養細胞内に、ヒト線維芽細胞増殖因子受容体の発現遺伝子およびドッキングタンパク質FRS2の発現遺伝子を混合したものを、遺伝子導入用試薬FuGeneHD(ロッシュ・ダイアグノスティクス)を用いて導入した。一晩、培養を続けた後、線維芽細胞増殖因子-8(和光純薬)を段階希釈して加え、さらに2時間保温を続けた。続いて、バラホルムアルデヒド溶液を培養液に加えて30分間保持し、細胞を固定した。固定後、パラホルムアルデヒドをリン酸緩衝液による洗浄で除去した後、線維芽細胞増殖因子受容体に対する抗体(一次抗体、SantaCruz社)を加え、特異的タンパク質に結合させた。過剰の一次抗体を洗浄し、残った一次抗体に対する抗体(二次抗体、AlexaFluor488標識、Invitrogen社)を加えて洗浄した。この細胞にさらにDAPI(同仁化学)を添加して細胞核を蛍光染色した。蛍光色素で染色された線維芽細胞増殖因子受容体分子および細胞核をそれぞれ、青色および紫外の励起波長で蛍光を発生させ、発生した蛍光を別々のチャンネルで撮影し、デジタルデータとして保存した。線維芽細胞増殖因子受容体分子は活性化されると細胞表面より細胞核へ移動あるいは細胞質中で顆粒状の集積パターンを形成するので、DAPI染色した細胞核を基準位置として、基準位置に集積した線維芽細胞増殖因子受容体分子の量を画像解析により推定し、受容体の活性化の度合いの指標とした。
【0039】
(実験結果)
図2
図2は、線維芽細胞増殖因子-8(FGF)を添加する前および添加した後(添加後90分)のヒト骨肉芽腫細胞株U-2OSの顕微鏡画像である。図2(a)は、ドッキングタンパク質(FRS2)を共発現させていない比較例の顕微鏡画像である。FGFの添加によるFGFRの刺激後(刺激後90分)、FGFRの細胞内移行が認められるが、細胞内移行の強度は比較的弱く、中心部に位置する細胞核周辺にその多くが分布しているのが確認できる。一方、図2(b)は、ドッキングタンパク質(FRS2)を共発現させた実施例の顕微鏡画像である。FGFの添加によるFGFRの刺激後(刺激後90分)、比較例と比較してFGFRの強い細胞内移行が認められ、細胞内移行したFGFRが中止部に位置する細胞核領域に集積しているのが確認できる。
【0040】
図3
図3は、線維芽細胞増殖因子-8(FGF)を添加する前および添加した後(添加後90分)のヒト骨肉芽腫細胞株U-2OSにおけるFGFRの活性化量を相対値として表わした棒グラフである。
【0041】
FGFRの活性化量は、上述したように細胞核領域内に移行したFGFR分子量、すなわち、細胞核領域内のFGFR標識蛍光量に基づいて算出される。標識蛍光量は、複数の培養細胞が存在する任意の観察領域から検出される。倍率を下げて観察領域を広く設定し、観察領域内に存在する複数の培養細胞から標識蛍光量を検出することで、結果の恣意性が排除され、客観的なデータを得ることができる。図3の棒グラフ内のa(相対活性0.2)およびc(相対活性1.0)は、ドッキングタンパク質(FRS2)を共発現させていない比較例のFGF刺激前後の結果である。一方、棒グラフ内のb(相対活性0.205)およびd(相対活性1.2)は、ドッキングタンパク質(FRS2)を共発現させた実施例のFGF刺激前後の結果である。比較例のFGF刺激後(刺激後90分)のFGFRの活性化量を1.0としたとき、実施例のFGF刺激後(刺激後90分)のFGFRの活性化量は1.2と算出された。この結果より、ドッキングタンパク質(FRS2)を共発現させることで、FGFRの活性化が促進されることが明らかになった。
【符号の説明】
【0042】
10・・・共発現ステップ、20・・・受容体活性化ステップ、30・・・画像解析ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析すべき細胞内に、線維芽細胞増殖因子受容体をコードする第1の遺伝子と、前記受容体に結合するドッキングタンパク質をコードする第2の遺伝子とを導入し、前記第1および第2の遺伝子を前記細胞内で共発現させるステップと、
前記細胞内で発現した線維芽細胞増殖因子受容体を活性化させるステップと、
前記活性化された受容体の前記細胞内における分布を表わす画像を解析するステップと、
を含む、細胞ベースアッセイ方法。
【請求項2】
前記受容体を活性化させるステップは、前記共発現させた細胞に前記受容体を活性化させる物質を添加することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記画像を解析するステップは、前記線維芽細胞増殖因子受容体および/または前記ドッキングタンパク質を顕微鏡画像を撮像することによって行われ、前記受容体および/または前記タンパク質の前記細胞内への移行のテクスチャーを取得し、前記テクスチャーから前記受容体および/または前記タンパク質の移行による挙動を示す数値を算出することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記受容体および/または前記タンパク質の移行による挙動を示す数値は、前記線維芽細胞増殖因子受容体および/または前記ドッキングタンパク質を光シグナルを発生し得る標識物質によって標識して撮像した顕微鏡画像を画像解析し、前記細胞内の細胞核領域内に移行した前記受容体および/または前記タンパク質に基づいて算出される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞内の細胞核領域は、標識された細胞核の顕微鏡画像を撮像後、所定の閾値以上の光量が得られた領域である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記受容体および/または前記タンパク質の移行による挙動を示す数値は、顆粒球の数および/または輝度に基づいて算出される、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−213659(P2010−213659A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66713(P2009−66713)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】