説明

線路上空建築物の基礎構造

【課題】有効入力動を低下し、逸散減衰を増加し、柱と杭との接合部に作用する曲げモーメントを小さくすることで、杭頭の破壊を抑制し且つ上部構造の応答を低減することができるようにした。
【解決手段】ホーム2の上空部分に構築される線路上空建築物の基礎構造1は、その線路上空建築物をなす建物3の建物支持柱31を支持する杭本体41と、杭本体41の杭頭4aの一部より部分的に外径方向外側に突出する羽根部材42とからなる杭基礎4を備え、ホーム2のホーム支持柱21が羽根部材42に一体的に接合している構造をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラットホームの上空部分に建物が構築されている線路上空建築物の基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の基礎構造として、その建築物の柱を支持する複数の杭が基礎梁により連結したものが知られている。これは、基礎梁の拘束により、地震時に杭頭部に発生する曲げモーメントを低減する効果を有している。杭の性能向上のため、杭径を大きくしたり、曲げモーメントが大きく作用する杭頭の剛性を高める方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1は、杭本体の外周面上に取り付けられ、杭本体上端から軸方向下方へ延在する4枚の羽根体が断面形状で十文字状に配置された構成であって、杭頭の結合を強化し、杭の水平抵抗を確保し、地盤反力を増加させるようにした杭基礎について開示したものである。
【0004】
ところで、建築物として、プラットホームの上空部分に構築される線路上空建築物がある。この線路上空建築物では、施工上などの理由から基礎梁が無い構造形式が多い。
図6は、このような線路上空建築物10の基礎部を示す図である。つまり、杭11上に建物10の支持柱10aが接合され、プラットホーム12を支持する複数の支持柱12a、12a、…が地盤Gに対して支持されている。つまり、この線路上空建築物10では、複数の杭11、11、…どうしが連結されず、1本の杭11によって1本の建築物10の支持柱10aを支持する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−193958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の線路上空建築物における基礎構造では、各杭が独立しているため基礎梁による杭頭の拘束が無く、上述したような基礎梁によって複数の杭が連結されて支持されている基礎構造に比べて、杭の有効入力動が大きく、また、柱と杭との接合部位置における曲げモーメントが増大することになる。さらに、地盤との接触面積が小さいことから逸散減衰が小さくなる。そのため、杭径を大きくしたり、曲げモーメントが大きくなる柱と杭との接合部の配筋を密にする等が行われているが、その施工性や経済性に問題があった。これに対しては特許文献1で開示したような杭頭に羽根体を備えるという対応だけでは確実ではなく、その点で改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、有効入力動を低減し、逸散減衰を増加し、柱と杭との接合部に作用する曲げモーメントを小さくすることで、杭頭の破壊を抑制し且つ上部構造の応答低減を図ることができるようにした線路上空建築物の基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る線路上空建築物の基礎構造では、プラットホームの上空部分に構築される線路上空建築物の基礎構造であって、線路上空建築物の第1の支持柱を支持する杭本体と、杭本体の杭頭に径方向外側に張り出す拡大部とからなる杭基礎を備え、プラットホームの第2の支持柱が拡大部に一体的に接合していることを特徴としている。
【0009】
本発明では、拡大部を設けたことで地盤との接触面積を増大させ、逸散減衰の効果を高めることができる。そして、杭頭より径方向外側に張り出した拡大部にプラットホームの第2の支持柱を一体的に接合しており、拡大部をプラットホームの基礎として機能させることができる。
【0010】
また、本発明に係る線路上空建築物の基礎構造では、拡大部は、杭頭の一部より部分的に外径方向外側に突出する羽根部材であることが好ましい。
【0011】
本発明では、例えば杭頭に設けられる拡大部を断面視で十字状となる羽根部材とする場合、断面視円形をなす拡大部に比べて部材量を低減することができるうえ、プラットホームの第2の支持柱の位置に合わせて羽根部材を配置することができる。
【0012】
また、本発明に係る線路上空建築物の基礎構造では、羽根部材は、プレキャストコンクリート部材から形成されていることがより好ましい。
【0013】
本発明では、杭本体と羽根部材との接合作業が容易であり、また拡大部がプラットホームの基礎の役割を有することから、現場施工によるコンクリート打設作業を軽減することができる。
【0014】
また、本発明に係る線路上空建築物の基礎構造では、杭頭と拡大部との接合部、および杭頭と第1の支持柱との接合部は、高強度材料により形成されていることが好ましい。
【0015】
本発明では、杭頭と拡大部との接合部、および杭頭と第1の支持柱との接合部において、例えば高強度繊維補強コンクリートなどの高強度材料により接合しているので、その接合部への損傷を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の線路上空建築物の基礎構造によれば、有効入力動を低減し、逸散減衰を増大し、杭頭と建物の支持柱との接合部に作用する曲げモーメントを小さくすることで、杭頭の破壊を抑制し且つ上部構造の応答低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態による線路上空建築物の基礎構造を示す側断面図である。
【図2】図1に示す基礎構造の平面図である。
【図3】図2に示すA−A線矢視図である。
【図4】図1に示す杭基礎の斜視図である。
【図5】図4に示す杭基礎の上面図である。
【図6】従来の線路上空建築物の基礎構造を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による線路上空建築物の基礎構造の実施の形態について、図1乃至図5に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施の形態による基礎構造1は、プラットホーム(以下、単に「ホーム2」という)の上空部分に構築される線路上空建築物をなす建物3に適用されている。線路階は、地盤G上に敷設された2車線の線路(図1、図2に示す鉄道軌道5)を挟んだ両側にホーム2A、2Bを設けた構成となっている。そして、線路階を含む建物3は、適宜な位置に建物支持柱31(第1支持柱)が設けられ、その建物支持柱31が後述する杭基礎4の杭本体41に接合している。ここで、図2に示すように、本建物3には、6本の建物支持柱31が設けられており、これら建物支持柱31のそれぞれに対応する6本(ホーム2あたり3本)の杭基礎4が設けられている。
【0019】
図2および図3に示すように、ホーム2A、2Bは、それぞれ複数のホーム支持柱21、21、…(第2の支持柱)によって下方より支持されており、それらホーム支持柱21、21、…のうち一部が後述する杭基礎4の羽根部材42に接合している。なお、以下の説明でのホーム支持柱21とは、杭基礎4の羽根部材42に接合したものをいう。
【0020】
図4および図5に示すように、杭基礎4は、建物3の建物支持柱31を支持する杭本体41と、杭本体41の杭頭4aから径方向外側に張り出す羽根部材42(拡大部)とからなる。羽根部材42は、杭頭4aの一部より部分的に外径方向外側に突出しており、断面視で略十字状に形成されている。そして、杭頭4aには建物3の建物支持柱31が接合されるとともに、羽根部材42にはホーム2のホーム支持柱21が一体的に接合されている。なお、羽根部材42の径方向への突出長は、任意に設定可能であるが、上述したようにホーム支持柱21が羽根部材42で支持することが可能な長さに設定されている。
【0021】
図5に示すように、羽根部材42は、杭頭4a寄りの一部42Aが杭本体41と同時にコンクリート打設により施工され、その他の突出先端側の部分42Bがプレキャストコンクリート部材により形成されている。
【0022】
そして、杭頭4aと建物支持柱31との接合部、すなわち杭本体41の杭頭4aと羽根部分42のコンクリート打設部分(前記一部42A)は、高強度繊維補強コンクリートなどの高強度材料により形成されている。
【0023】
次に、上述のように構成される線路上空建築物からなる建物3に用いた基礎構造1の作用について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本基礎構造1では、羽根部材42を設けたことで地盤Gとの接触面積が増大し、逸散減衰の効果を高めることができる。また羽根部材42による杭頭の拘束効果により、有効入力動を低減することができる。また、杭頭4aより径方向外側に張り出した羽根部材42にホーム2のホーム支持柱21を一体的に接合しており、羽根部材42をホーム2の基礎として機能させることができる。
【0024】
また、杭頭4aに設けられる拡大部が断面視で十字状となる羽根部材42であるので、断面視円形をなす拡大部に比べて部材量を低減することができるうえ、ホーム支持柱21の位置に合わせて羽根部材42を配置することができる。
【0025】
さらに、羽根部材42の一部がプレキャストコンクリート部材からなるので、杭本体41と羽根部材42との接合作業が容易となるうえ、現場施工によるコンクリート打設作業を行う場合のように施工不良箇所が生じるという不具合もないことから、ホーム2を基礎梁として杭基礎4どうしを連結する基礎構造を高い品質で実現することができる。
しかも、建物支持柱31と羽根部材42とが高強度繊維補強コンクリートなどの高強度材料により形成された接合構造となっているので、その接合部の損傷を抑制できる。
【0026】
上述した本実施の形態による線路上空建築物の基礎構造では、有効入力動を低減し、逸散減衰を増大し、杭頭4aと建物支持柱31との接合部に作用する曲げモーメントを小さくすることで、杭頭4aの破壊を抑制および上部構造の応答を低減することができる。
【0027】
以上、本発明による線路上空建築物の基礎構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では杭頭4aの断面視で略十字状に形成された羽根部材42をなす拡大部としているが、この形状に制限されることはなく、例えば断面視で円形、多角形などの形状をなす拡大部であってもかまわない。要は、杭頭4aにおける地盤Gとの接触面積が増え、さらに拡大部がホーム支持柱21に接合する構造となればよいのである。
【0028】
また、杭頭4aに対する拡大部(羽根部材42)の径方向の突出寸法、軸方向の寸法などは、杭径(杭本体41の径寸法)、支持力、地盤Gの地質条件などに応じて任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 基礎構造
2 ホーム(プラットホーム)
3 建物(線路上空建築物)
4 杭基礎
4a 杭頭
5 鉄道軌道
21 ホーム支持柱(第2の支持柱)
31 建物支持柱(第1の支持柱)
41 杭本体
42 羽根部材(拡大部)
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットホームの上空部分に構築される線路上空建築物の基礎構造であって、
前記線路上空建築物の第1の支持柱を支持する杭本体と、該杭本体の杭頭に径方向外側に張り出す拡大部とからなる杭基礎を備え、
前記プラットホームの第2の支持柱が前記拡大部に一体的に接合していることを特徴とする線路上空建築物の基礎構造。
【請求項2】
前記拡大部は、前記杭頭の一部より部分的に外径方向外側に突出する羽根部材であることを特徴とする請求項1に記載の線路上空建築物の基礎構造。
【請求項3】
前記羽根部材は、プレキャストコンクリート部材から形成されていることを特徴とする請求項2に記載の線路上空建築物の基礎構造。
【請求項4】
前記杭頭と前記拡大部との接合部、および前記杭頭と前記第1の支持柱との接合部は、高強度材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の線路上空建築物の基礎構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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