説明

線路異常監視方法及び装置

【課題】線路沿いに配設されている架線を利用して、所定の区間内の線路異常を監視する方法及び装置を提供する。
【解決手段】線路異常監視装置においては、架線1の末端に取り付けられたおもり7の位置を検出するセンサ40が取り付けられている。おもり7の位置が異常な高さ又は低さであるか否かを検知し、異常な高さ又は低さの場合に運転士への連絡・表示及び/又は送電遮断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震や土砂崩れなどによる線路異常(架線又は架線柱の異常)を監視する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行中に地震が発生した場合の対策としては、線路の沿線に所定の間隔で地震計を設置し、地震が検知された場合に、運転士に知らせたり、車両への送電を停止して、車両の脱線や横転を防ぐような対策がとられている。この方法では、地震計がピンポイントで設置されているため、地殻の揺れが局所的なものか広範囲のものかの判断がつきにくい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、線路沿いに配設されている架線を利用して、所定の区間内の地震の発生などによる線路異常を監視する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に関連する第1の線路異常監視方法は、 電気鉄道の架線の張力変動を検知し、 該張力変動中の地震起因の変動を判別・評価することにより、鉄道線路に危険を及ぼすおそれのある地震の発生を判定し、 判定した結果に基づいて運転士への連絡・表示及び/又は送電遮断を行うことを特徴とする。
【0005】
地震が発生した地域に立っている架線柱は、根元の揺れに伴って上端が振り子のように大きく揺れる。このように架線柱の上端が揺れると、架線柱間に張力をもって配設されている架線の張力が変化する。そこで、この張力変動を検出することにより、地震の発生を判定でき、報知することができる。この場合、一本の架線が掛け渡されている区間(例えば数Km)内の架線の変動を検知できるので、ある程度の広い範囲内の異常を、一つの検出手段を用いて検知できる。
【0006】
なお、架線とは、トロリー線と、このトロリー線を吊架する吊架線とを含み、両線とも架線長区間に張力を持って配設されている。なお、線路には信号通信用の電線や鉄道施設専用の電線も並列して配設されているが、これらの電線は電柱間で弛んだ状態で配設されており、地震の際には弛んだ部分が揺れるのみであるので、車両の横転に特に影響のある枕木方向の地震動検出には適さない。
【0007】
本発明に関連する第2の線路異常監視方法は、 電気鉄道の架線に張力を付与するおもりの位置変動を検知し、 該位置変動中の地震起因の変動を判別・評価することにより、鉄道線路に危険を及ぼすおそれのある地震の発生を判定し、 判定した結果に基づいて運転士への連絡・表示及び/又は送電遮断を行うことを特徴とする。
【0008】
前述のように、架線は、トロリー線と、このトロリー線を吊架する吊架線とを含み、これらの線は両端が、それぞれ一本のワイヤーロープに繋がっている。一方のワイヤーロープの端部にはおもりが取り付けられており、このおもりで架線を引っ張ることにより架線に張力が付与されている。地震で架線柱の上端が揺れると、架線があらゆる方向に引っ張られて、おもりの高さも変動する。そこで、この高さ変動を検出することにより地震の発生を判定でき、報知することができる。
【0009】
本発明の第3の線路異常監視方法は、 電気鉄道の架線に張力を付与するおもりの位置が異常な高さ又は低さであるか否かを検知し、 異常な高さ又は低さであるの場合に運転士への連絡・表示及び/又は送電遮断を行うことを特徴とする。
【0010】
おもりがある異常な高さ又は低さの場合は、架線又は架線柱に異常が発生したことになる。例えば、架線柱が線路と直交する方向に倒れた場合、架線が引っ張られて、おもりが上昇し、異常な高さ位置にあることになる。また、架線が切断された場合は、おもりが下降し、異常な低さ位置にあることになる。そこで、このようなおもりの位置を検出することにより、架線や架線柱に異常が発生したことを検知できる。
【0011】
本発明においては、 前記架線の張力変動の波長が0.1sec〜数secの変動を検出して地震の発生を判定することができる。
【0012】
架線の張力は、走行車両のパンタグラフによる押し上げ作用や、温度変化に応じても変化する。しかし、これらの場合の張力変動の波長は、地震の際の張力変動の波長に比べて長く、変動量も小さい。そこで、張力変動の波長が0.1sec〜数secと比較的短い場合には、パンタグラフの作用や温度変化によるものではなく、地震によるものと判定できる。
【0013】
本発明に関連する第1の線路異常監視装置は、 電気鉄道の架線の張力変動を検知することにより線路異常を監視する装置であって、 架線の張力を検出する手段と、 該手段で検出された張力が、地震起因のものであって線路に危険を及ぼすおそれがあるかどうかを判定する手段と、 該手段で判定した結果に基づいて運転士へ連絡・表示する手段、及び/又は、送電を遮断する手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本方法によれば、張力検出手段を既存の架線に設けることができるので、比較的簡単な構成とできる。また、一本の架線長区間(数百m〜数Km)に一つの検出手段を設ければよく、さらに、実際に列車の安全性に関連のある架線や架線柱の異常を検出できるので、的確かつ効率的に列車災害を防止できる。
【0015】
本発明に関連する第2の線路異常監視装置は、 電気鉄道の架線に張力を付与するおもりの位置変動を検知することにより線路異常を監視する装置であって、 おもりの位置変動を検出する手段と、 該手段で検出されたおもりの位置変動が、地震起因のものであって線路に危険を及ぼすおそれがあるかどうかを判定する手段と、 該手段で判定した結果に基づいて運転士へ連絡・表示する手段、及び/又は、送電を遮断する手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の線路異常監視装置は、 電気鉄道の架線に張力を付与するおもりの位置を検知することにより線路異常を監視する装置であって、 おもりの位置を検出する手段と、 該手段で検出されたおもりの位置が、異常な高さ又は低さであるか否かを判定する手段と、 該手段で判定した結果に基づいて運転士へ連絡・表示する手段、及び/又は、送電を遮断する手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、 前記架線が、架線柱にヒンジ手段により取り付けられていることが好ましい。
線路方向の揺れはヒンジ手段に許容されて架線の張力変動が少ないが、線路直交方向の揺れによる架線の張力変動は大きい。このため、列車の脱線や横転に影響を与える線路直交方向の揺れを選択的に検知できる。
【0018】
本発明においては、 前記連絡・表示手段が、列車や信号機への無線又は有線の通信手段及び/又は看板などの表示手段であることが好ましい。
この場合、走行中の列車が、運転停止や徐行運転などの安全対策を早急にとることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、線路沿いに配設されている架線を利用して、所定の区間内の地震の発生を監視する方法及び装置を提供できる。この方法によれば、一本の架線長区間(数百m〜数Km)に一つの検出手段を設ければよい。さらに、実際に列車の安全性に関連のある架線や架線柱の異常を検出して報知するので、的確かつ効率的に列車災害を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る線路異常監視装置及び方法を説明する図である。
まず、架線の配設状態について説明する。
図1に示すように、電気車両用の線路Rには、架線1が並列して配設されている。架線1は、パンタグラフと接触するトロリー線2と、同トロリー線2を吊下げている吊架線3とを含み、架線長は数Kmである。このような架線1は、架線長区間の両端に立っている支持柱10間を延びており、その途中は、線路Rの側方に所定の間隔(一例で30〜50m)を開けて立っている架線柱11に支持されている。架線柱11の上端付近には、線路方向に延びる支持部材12が、途中に碍子13を介して取り付けられている。吊架線3は、この支持部材12の先端付近に支持されている。そして、トロリー線2は、この吊架線3からハンガー4で吊下げられているとともに、支持部材12から延びる振止金具14によって支持されている。
【0021】
吊架線3及びトロリー線2は、末端で途中に碍子5を介して1本のワイヤーロープ6に接続している。一方のワイヤーロープ6は、支持柱10に取り付けられた滑車16に巻かれて、先端にはおもり7が取り付けられている。もう一方のワイヤーロープは、もう一方の支持柱に固定されている。このように、架線1の一端をおもり7で引っ張ることにより、架線1が張力をもった状態で架線長区間内に掛け渡されている。
また、架線長区間の途中には、トロリー線2への送電を遮断する送電遮断機19が設置されている。この送電遮断機19は、人手により機械的に送電を遮断することもでき、指令により自動的に送電を遮断することもできる。
【0022】
本発明においては、一方のワイヤーロープ6に、同ロープの張力を検知する張力センサ20(歪ゲージ、コイルばね式センサやホール素子を用いたセンサなど)が取り付けられている。また、ワイヤーロープ6の途中をバー状の検出部に引っ掛けたもので、ワイヤーロープ6に張力がかかると検出部にワイヤーロープ6がまっすぐになろうとする力がかかり、この力を検出するようなタイプのものでもよい。この張力センサ20は、支持柱10に隣接して設けられた制御装置21に電気的に接続している。制御装置21は、張力センサ20からの入力値から地震発生を判定する判定部、判定結果を信号機や走行中の車両に報知する無線手段などを備える。また、制御装置21は送電遮断機19に電気的に接続している。
【0023】
架線長区間に地震が発生すると、同区間内に立っている架線柱11は、根元の揺れに伴って上端が振り子のように大きく揺れる。すると、架線1はいろいろな方向に引っ張られることになる。この架線1の張力の変動は、末端のワイヤーロープ6にも伝わり、同ロープ6に取り付けられている張力センサ20で検知され、検知された値が制御装置21の判定部に送られる。
【0024】
次に、制御装置21の判定部において張力センサ20の検出値から地震発生を判定する方法を説明する。
図2は、張力センサの検出値の一例を示すグラフである。縦軸は張力の変位量、横軸は時間を示す。
架線1は、通常状態においても、車両の走行時にパンタグラフによって押し上げられるため、張力が変動する。しかし、この押し上げ力は軽度であるため、図2(A)に示すように、張力の変動(振幅A)は小さく、変動の周期(波長C)は大きい。また、気温の変動による架線の膨張・収縮により張力が変動するが、この変動量も小さく、変動の周期は大きい。
【0025】
一方、地震による張力変動の場合は、図2(B)に示すように、張力の変動(振幅A)が大きく、さらに変動の周期(波長C)も小さい。そこで、例えば、変動量(振幅)や、変動の周期(波長)を監視することにより、張力変動が地震によるものかそうでないものかを判定できる。例えば、張力変動の波長が0.1sec〜数secの場合や、変動量がある閾値を超えた場合に、地震発生と判定する。または、単位時間内の変動数をカウントし、同変動数と、通常状態のパンタグラフ押し上げや気温変化による変動数とを比較して地震を判定することもできる。
【0026】
また、パンタグラフが故障した場合には、パンタグラフの押し上げによる張力及び張力変動が正常な場合のものと異なるので、パンタグラフの異常を検知できる。例えば、ある一定の張力(<地震による変動量)や張力低下が長時間検出されるような場合は、パンタグラフの破損や架線切断を検知できる。
【0027】
地震発生と判定されると、制御装置21(図1参照)から走行中の車両に無線手段により地震発生を報知する。車両の運転士は、報知を受けて、徐行運転や列車停止の措置を取る。また、信号機を赤にするように信号を送ることもできる。さらに、制御装置21から送電遮断機19に信号が送られて、トロリー線2への送電を遮断して車両を停止させることもできる。このような対策をとることにより、列車の脱線や横転等の事故を防ぐことができる。
【0028】
この方法によると、1本の架線長区間内の地震を一つの検出手段で検知できるため、比較的広い範囲内での対策が可能となる。
【0029】
図3は、図1の変形例を示す図である。
図3(A)は、架線1がおもりではなく、バネにより張力が与えられたものである。このようなバネ式の張力付与手段は、一般に、架線長が短い場合(例えば数百m程度)に適用される。この場合、架線1の一方のワイヤーロープ6の途中に、スプリングテンショナー31が介されており、各ワイヤーロープ6の末端は支持柱10に固定されている。このスプリングテンショナー31は円筒状のカバー32で覆われている。そして、ワイヤー6の途中に張力センサ20が取り付けられている。この例においても、図1と同様に、地震による張力変動を検出できる。
【0030】
図3(B)は、張力センサ20の替わりに、おもり7の位置を検出するセンサ40を備える。このような位置センサ40としては、例えば、コイルばね式のものやホール素子式のものなどを使用できる。この例においては、架線1の張力が変動すると、おもり7の位置が変わる。そして、張力変動と同様に、地震によるおもり7の位置の変動周期や変動量が、パンタグラフによる押し上げや気温による架線の膨張・収縮によるものと異なる。そこで、おもり7の位置の変動量や変動の周期を監視することにより、地震発生を検知することができる。
【0031】
なお、以上の例においては、図1に示すように、架線1を支持する支持部材12が、架線柱11にヒンジ15により横方向(主に線路方向)に揺動可能に取り付けられていることが好ましい。これは以下の理由による。列車の脱線や横転に大きく影響するのは、線路Rと直交する方向への揺れである。これに対し、線路方向の揺れはこのような事故に大きな影響は及ぼさない。そこで、支持部材12が架線柱11にヒンジ15により取り付けられた場合、線路方向に揺れが発生すると、架線柱11自体も同方向に揺れる。この揺れはヒンジ15の作用により許容されるので、架線1の張力はさほど変動しない。しかし、線路直交方向の揺れの場合は、架線柱11も同方向に揺れるが、この揺れはヒンジ15の揺動方向ではないため、架線1の張力が変動する。このため、列車の脱線や横転に大きな影響のある揺れのみを選択して検出できる。
【0032】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る線路異常監視装置及び方法を説明する図である。
この例においては、図3(B)と同様におもり7の位置を検出するセンサ40を使用する。図1〜3の例においては、おもり7の位置変動を監視して、地震発生を判定していたが、この例では、おもり7の位置が、異常な高さ又は低さであるかどうかを監視する。これにより、例えば、地震発生などの災害の結果として、架線1又は架線柱11になんらかの異常が発生したことを判定できる。
【0033】
図4に示すように、地震発生や台風などによって土砂崩れが発生し、線路R沿いの架線柱11が倒れた場合、架線1はその架線柱11に向って引っ張られる。すると、ワイヤーロープ6の末端に取り付けられたおもり7は上昇し、異常な高さ位置となる。そこで、この異常な高さ位置を位置センサ40で検出し、報知することができる。この例では、支持柱10に、制御装置21と電気的に接続している表示装置50を設けている。おもり7の高さがセンサ40で検出されて、制御装置21で異常高さと判定されると、表示装置50に信号を送り「危険」などの表示を行い、運転士に報知する。また、送電遮断機19に信号を送り、トロリー線2への送電を遮断することもできる。
【0034】
また、橋梁が大雨で流された場合や線路に倒木があった場合も、架線柱11が倒れるので、同様に架線1が引っ張られ、おもり7が異常な高さ位置に上昇する。一方、踏み切りを自動車が通過する際に架線1を切断した場合には、おもり7が落下する。つまり、異常な低さ位置となる。このようにおもり7の位置が異常な高さ又は低さにあることを検知することにより、異常を判定、報知できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る線路異常監視装置及び方法を説明する図である。
【図2】張力センサの検出値の一例を示すグラフである。縦軸は張力の変位量、横軸は時間を示す。
【図3】図1の変形例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る線路異常監視装置及び方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0036】
1 架線 2 トロリー線
3 吊架線 4 ハンガー
5 碍子 6 ワイヤーロープ
7 おもり 10 支持柱
11 架線柱 12 支持部材
13 碍子 14 振止金具
15 ヒンジ 19 送電遮断機
20 張力センサ 21 制御装置
31 スプリングテンショナー 32 カバー
40 位置センサ 50 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気鉄道の架線に張力を付与するおもりの位置が異常な高さ又は低さであるか否かを検知し、
異常な高さ又は低さである場合に運転士への連絡・表示及び/又は送電遮断を行うことを特徴とする線路異常監視方法。
【請求項2】
電気鉄道の架線に張力を付与するおもりの位置を検知することにより線路異常を監視する装置であって、
おもりの位置を検出する手段と、
該手段で検出されたおもりの位置が、異常な高さ又は低さであるか否かを判定する手段と、
該手段で判定した結果に基づいて運転士へ連絡・表示する手段、及び/又は、送電を遮断する手段と、
を備えることを特徴とする線路異常監視装置。
【請求項3】
前記架線が、架線柱にヒンジ手段により取り付けられた支持部材に支持されていることを特徴とする請求項に記載の線路異常監視装置。
【請求項4】
前記連絡・表示手段が、列車や信号機への無線又は有線の通信手段及び/又は看板などの表示手段であることを特徴とする請求項2又は3に記載の線路異常監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−246119(P2011−246119A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153458(P2011−153458)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【分割の表示】特願2007−87335(P2007−87335)の分割
【原出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】