説明

線順次駆動型ディスプレイ

【課題】ディスプレイの選択時間内の点灯輝度を落とさずに、非選択時間のパネルの拡散反射による反射光を低下させ、コントラストを向上させる。
【解決手段】フェイスプレート3の裏面に配置された蛍光体6を励起し、励起された蛍光体6から発せられた光をフェイスプレート3を透過させてフェイスプレート3の表面から出射させることによって画像を表示する線順次駆動型ディスプレイ99であって、蛍光体6よりもフェイスプレート3の表面側に配置され、該表面からの光の出射、非出射を電気信号に基づいて制御可能なパネル98を有し、当該線順次駆動型ディスプレイ99の駆動時に、液晶パネル98のうち、選択されているラインの直上にある領域が光透過状態とされ、選択されていないラインの直上にある領域の少なくとも一部が光遮蔽状態とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線順次駆動型ディスプレイに関するものであり、特に、ディスプレイのコントラストの向上を図るための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外光よるコントラスト低下を防ぐために、放電により生じる短波長、熱の少なくとも一方により光学定数が変化するマスク層を前面基板側に形成することが記載されている。具体的には、マスク層を含む前面側基板は、パネルが発光していない状態では透過率が低く、パネルを発光させることで、マスク層を含む前面側基板の透過率が増大する。これにより、発光していない部分の外光反射光量が少なくなり、光蛍光体からの発光を効率よく出射させることができる旨が特許文献1に開示されている。
【0003】
また、特許文献2には光学フィルタ層により外光の波長領域の一部の反射を抑制し、内部からの出射する光を透過させ、フィルターの透過率の波長依存性を利用して、効率よく、内部の光を透過して、外部の光を遮光する旨が記載されている。
【特許文献1】特開2000−228151号公報
【特許文献2】特開平10−106450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術は、明所コントラストの向上を目的として、放電による、短波長光、熱の少なくとも一方を利用して光学定数を変化させることを本質とするものであった。よって、特許文献1に開示されている光学定数を変える手段は、放電を伴うディスプレイにのみ利用可能な手段である。さらに、外光が光学定数を変化させる波長の光を含む場合や、外部から同等の熱が加わった場合にもマスク層を含む前面側基板の光学定数が低下する。
【0005】
さらに、蛍光体は材料固有の残光特性、劣化特性をもつため、これらの特性の変化に応じた遮光層の透過、遮光状態の時間的制御が必要となってくる。 特許文献2に開示されている技術は、コントラストは向上するものの、非点灯時の画素は外光による反射を常に行い続けるため、大きななコントラストの向上は困難であった。
【0006】
本発明は、特許文献1、2に開示されている技術とは異なる新規技術によって、線順次駆動型画像表示装置のコントラストの向上を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
透光性プレートの第1の面に配置された蛍光体を励起し、励起された蛍光体から発せられた光を透光性プレートを透過させて第1の面とは反対側の第2の面から出射させることによって画像を表示する線順次駆動型ディスプレイである。このディスプレイは、前記蛍光体よりも前記透光性プレートの前記第2の面側に配置され、前記第2の面からの光の出射、非出射を電気信号に基づいて制御可能な遮光層を有する。当該線順次駆動型ディスプレイの駆動時に、前記遮光層のうち、選択されているラインの直上にある領域は光透過状態とされ、選択されていないラインの直上にある領域の少なくとも一部は光遮蔽状態とされる。
【0008】
ここで透過状態とは相対的に透過率の高い状態を指し、遮光とは相対的に透過率が低い状態を指す。
【発明の効果】
【0009】
ディスプレイの選択時間内の点灯輝度を落とさずに、非選択時間のパネルの拡散反射による反射光を低下させ、コントラストを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の線順次駆動型ディスプレイの実施形態の一例について説明する。本実施形態に係る線順次駆動型ディスプレイは、電子線照射型FPD(Flat Panel Display)である。本実施形態に係る電子線照射型FPDの概略構造を図1に示す。図1は、電子線照射型FPD99の断面図である。この電子線照射型FPD99では、透光性プレートであるリアプレート2と、同じく透光性プレートであるフェイスプレート3との間に、真空保持部材として隔壁材1が配置されている。さらに、リアプレート2とフェイスプレート3との間の空間4は真空シールされている。
【0011】
空間に面しているフェイスプレート3の第1の面(裏面)には蛍光体がマトリックス状に配置されている。一方、空間4に面しているリアプレート2の表面には電子放出源5が配置され、電子放出源5から電子が放出される。さらに、電源7によりリアプレート2とフェイスプレート3との間に印加される電圧により電界が形成され、その電界によって電子が加速される。
【0012】
また、リアプレート2には、走査配線、信号配線からなる駆動用配線がマトリックス状に形成されており、電子放出源5および信号源8に接続されている。電子の射出、非射出は信号源8から出力される信号により制御される。走査配線、信号配線からなるマトリックスの交点は、フェイスプレート3上に形成された各画素に対応している。駆動時には、選択されたラインの電子放出源5から電子が射出され、射出された電子は加速されて、フェイスプレート3および蛍光体6へ衝突し、各画素に配置された蛍光体6を励起させる。励起された蛍光体から発せられる光(発光光)は、フェイスプレート3を透過して該プレーと3の第1の面とは反対側の第2の面(表面)から出射し、画像が表示される。さらに、蛍光体6とフェイスプレート3との間には、外光の入射を遮って、拡散反射を低減させる効果と、発光色の色を調整する効果とを同時に満たす効果を備えたカラーフィルタ9が配置されている。
【0013】
本実施形態に係る電子線照射型FPDでは、フェイスプレート3の第1の面に配置されている蛍光体6よりもフェイスプレート3の第2の面側に、該第2の面からの光の出射、非出射を電気信号に基づいて制御可能な遮光層が設けられている。この遮光層は、駆動時に選択されているラインの直上にある領域が光透過状態となり、選択されていないラインの直上にある領域の少なくとも一部が光遮蔽状態となることで、当該電子線照射型FPDにおける光の出射、非出射を制御するものである。ここで、ラインの直上とは、第2の面からの光の出射方向における直上である。
【0014】
上記遮光層には、液晶層または遮蔽板を層内で開閉させる層が用いられる。図2は、遮光層として液晶層(液晶パネル)を利用した場合の例である。図示されている液晶パネル98は、液晶を挟持するための対向する液晶用リアプレート10と液晶用フェイスプレート11とを有し、これらプレートの間に、液晶層の光透過状態と光遮蔽状態とを制御するための一対の透明電極12が配置されている。さらに、一対の透明電極12の間に、透過型液晶13が封入されている。透明電極12は、信号源8と接続されている。液晶パネル98と電子線照射型FPD99とは、前者の液晶用リアプレート10と後者のフェイスプレート3とが面するように積層されて配置されている。特に、光学的に界面の透過率を下げるために、液晶用リアプレート10とフェイスプレート3とを接着剤により接合することが好ましい。
【0015】
また、フェイスプレート3と液晶用リアプレート10を共用し、共用プレート14として作成することで、接着材による貼り合わせを不要として、透過光の輝度の低下を防ぐことも出来る。図3に、図2に示すフェイスプレート3と液晶用リアプレート10とを共用した例を示す。
【0016】
また、フェイスプレートと蛍光体との間に液晶を形成することにより、遮光領域を最小限に縮め、コントラストの向上と視野角の向上を同時に満たすこともできる。
【0017】
また、図4のように、遮光層の透過、遮光のスキャン信号と、線順次駆動ディスプレイのスキャン信号とが、ディスプレイ用信号源15と、遮光用信号源16とに分けて独立して制御することにより、コントラストと輝度の最適化を図ることも可能である。さらに、調整により、カラーフィルタを省略することも可能となる。
【0018】
以下、本発明について、具体的な実施例を挙げてさらに詳しく説明する。
(実施例1)
本実施例は透過、遮光を制御可能な遮光層を持つ線順次駆動型画像表示装置により、コントラストの向上を行った例である。はじめに線順次駆動型FPDの実施例を示す。
【0019】
本実施例では、リアプレートとして、旭硝子製PD200を用いた。リアプレートの上に、銅をスパッタリングして銅膜を形成し、パターニングにより、走査配線を形成した。走査配線の本数は1080本とした。さらに、表面導電型電子源を形成し、その上に信号配線を形成した。一方、フェイスプレート3として、旭硝子製PD200を用いた。フェイスプレート3の上に、強電界を印加するための電極としてITOを成膜し、パターニングを施した。その上に、化成オプトニクス社製蛍光体P22を配置した。このようにして作成された、フェイスプレートとリアプレートを10-5[[Pa]で真空排気したチャンバーの中で接合し、線順次駆動型FPDを形成した。こうして作成した、線順次駆動型FPDは、遮光層を設ける前の状態で、輝度660[cd/m2]であった。
【0020】
次に、遮光層について説明する。本実施例では、遮光層として液晶を用いた。液晶用リアプレート、液晶用フェイスプレートとしては青板ガラスを用いた。各プレート上にITOを成膜し、パターニングにより走査配線を形成した。走査配線の本数は1080本とした。こうして作成された液晶用リアプレートと液晶用フェイスプレートとの間に、間隔規定用のビーズを配置し、周囲を封止した上で、液晶を注入した。
【0021】
こうして作成した液晶層を、上記線順次駆動型FPDに接着剤で接合した。さらに、正反射の抑制と、最終的な輝度を調整するために、偏向板とND(Neutral Density)フィルタを用いた。偏向板の透過率は50%、偏向板とNDフィルタを合わせた透過率が30%となるようにした。偏向板とNDフィルタにおける拡散反射率は0.2%であった。輝度は200[cd/m2]になるように偏向板とNDフィルタを設定した。こうして透過、遮光を制御可能な遮光層を備えた線順次駆動型FPDを形成した。こうして作成した線順次駆動型FPDは、遮光時の拡散反射率が0.25%、透過時の拡散反射率が0.66%となった。
【0022】
次に、駆動方式について説明する。線順次駆動型FPD側の駆動周波数は60[Hz]とし、透過、遮光を施す遮光層も同駆動周波数で駆動した。透過信号は、点灯信号に対し、2[ms]のオフセットを与え、トータルで3[us]の透過のOn信号となるように設定した。この駆動により、コントラストは100[lx]の照度下で2倍向上した。上記駆動条件を図5に示す。
(実施例2)
本実施例では、遮光層の透過、遮光を発光の駆動とは独立に駆動できるようにした。線順次駆動型FPDの構成および遮光層の構成は、実施例1と基本的に同一である。但し、本実施例では、偏向板とNDフィルタを合わせた透過率を45%とした。また、遮光層を独立して駆動制御できるように、信号源を遮光用信号源と、ディスプレイ用信号源とに分離した。さらに、ディスプレイ用信号源の発光開始のタイミング信号を送ることができるようにした。遮光用信号源が行う具体的な内容は、発光タイミングと、遮光層を透過状態にする信号のタイミングのオフセット時間を独立に制御することとした。
【0023】
初期駆動状態では、オフセット時間を3[ms]、劣化として500[hr]の駆動を行った後のオフセット時間は2[ms]とした。
【0024】
偏向板およびNDフィルタを通す前の初期輝度は660[cd/m2]となり、劣化後の輝度は440[cd/m2]となった。
【0025】
偏向板とNDフィルタを合わせた透過率を45%とすることで、線順次駆動型FPDの輝度は200[cd/m2]となり、初期と劣化後の輝度およびコントラストをほぼ同じ値にすることができた。本実施例の線順次駆動型FPDは、遮光時の拡散反射率が0.30%、透過時の拡散反射率が1.23%であった。
【0026】
透過、遮光の制御を実施しない場合に比べても、100[lx]の照度下で1.5倍以上のコントラストの向上を実現できた。
【0027】
本実施例のように、遮光層の透過、遮光を発光の駆動とは独立に制御すれば、On信号に対する、透過、遮光のタイミングを変化させることができる。これにより、蛍光体の劣化時の、輝度の低下を抑制し、コントラストの低下を、抑制することができる。さらに、この効果を実現する際に、蛍光体の劣化の前後で、消費電力の変化を伴わない。
【0028】
これまで説明した実施例1、2の具体的な内容を示す表を図6に示す。
【0029】
これまでは、電子線照射型FPDを例にとって本発明の線順次駆動型画像表示装置の実施形態および実施例について説明してきた。しかし、本発明の線順次駆動型画像表示装置は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、プラズマ照射型ディスプレイを含む。特に、プラズマ照射型ディスプレイ、電子線照射型ディスプレイは画像を表示する上での発光機構に蛍光体の励起発光を用いている。そして、蛍光体はサブミクロン〜数ミクロンの蛍光体粒子を利用しているため、外光が画素へ入射した場合の散乱光が大きく、上記課題が顕著になる。さらに、プラズマ照射型ディスプレイ、電子線照射型ディスプレイは、光の透過時間に対して遮蔽時間が長く取れるという特徴がある。よって、本発明によるコントラスト向上効果や輝度低下抑制効果がより一層大きい。
【0030】
また、本発明における遮光層は、液晶による遮光層、遮蔽板を層内で開閉させる遮光層を含み、特に、液晶による遮光層は、薄型化が容易で、目的に添った電気的応答をする材料が選択しやすいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態の一例である電子線照射型FPDの概略構造を示す断面図である。
【図2】遮光層として液晶層(液晶パネル)を利用した形態を示す断面図である。
【図3】図2に示すフェイスプレートと液晶用リアプレートとを共用した形態を示す断面図である。
【図4】信号源を遮光用信号源とディスプレイ用信号源とに分離した形態を示す断面図である。
【図5】実施例1に示した駆動条件を示す図である。
【図6】実施例1、2の具体的な内容を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 隔壁材 2 リアプレート
3 フェイスプレート
4 空間
5 電子放出源
6 蛍光体
7 電源
8 信号源
9 カラーフィルタ
10 液晶用リアプレート
11 液晶用フェイスプレート
12 透明電極
13 透過型液晶
14 共用プレート
15 ディスプレイ用信号源
16 遮光用信号源
98 液晶パネル
99 電子線照射型FPD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性プレートの第1の面に配置された蛍光体を励起し、励起された前記蛍光体から発せられた光を前記透光性プレートを透過させて前記透光性プレートの前記第1の面とは反対側の第2の面から出射させることによって画像を表示する線順次駆動型ディスプレイであって、
前記蛍光体よりも前記透光性プレートの前記第2の面側に配置され、前記第2の面からの光の出射、非出射を電気信号に基づいて制御可能な遮光層を有し、
当該線順次駆動型ディスプレイの駆動時に、前記遮光層のうち、選択されているラインの直上にある領域が光透過状態とされ、選択されていないラインの直上にある領域の少なくとも一部が光遮蔽状態とされることを特徴とする線順次駆動型ディスプレイ。
【請求項2】
前記遮光層が前記透光性プレートの前記第2の面の上に設けられた液晶層であることを特徴とする請求項1に記載の線順次駆動型ディスプレイ。
【請求項3】
前記液晶層を形成している液晶が、前記透光性プレートに積層された液晶用リアプレートと、前記液晶用リアプレートに対向する液晶用フェイスプレートとの間に挟持されていることを特徴とする請求項2に記載の線順次駆動型ディスプレイ。
【請求項4】
前記液晶層を形成している液晶が、前記透光性プレートと、前記透光性プレートに対向する液晶用フェイスプレートとの間に挟持されていることを特徴とする請求項2に記載の線順次駆動型ディスプレイ。
【請求項5】
前記遮光層の光透過状態および光遮蔽状態の制御と、線順次駆動の制御とが、独立に制御されることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の線順次駆動型ディスプレイ。
【請求項6】
線順次駆動のための信号が出力される信号源と、前記遮光層の光透過状態および光遮蔽状態を制御するための信号が出力される信号源とが独立して設けられていることを特徴とする請求項5に記載の線順次駆動型ディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−145734(P2010−145734A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322682(P2008−322682)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】