説明

締結具及びこれを用いた締結方法

【課題】非鉄金属板と鉄鋼板とを締結する場合における腐食を抑制し、長期間にわたりその締結強度を維持する。
【解決手段】この締結具であるボルト、ナットの形状は、一般に用いられるボルト、ナットの形状と同一である。このボルト、ナットの母材は鉄鋼であり、例えば炭素鋼である。このボルト、ナットにおいては、その表面がアルマイト(酸化アルミニウム)コーティングされている。その厚さは例えば、1〜25μmの範囲である。このアルマイトコーティング層は、例えば、アルミニウムめっきを鉄鋼製のボルト、ナットに施してアルミニウムコーティング層を形成した後、陽極酸化法によってこのアルミニウムコーティング層を酸化することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に非鉄材料部品を締結するために用いられる締結具、及びこれを用いた締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、マグネシウム、チタン等の非鉄材料は、特に軽量であるため、自動車等、各種の機械部品に用いられている。この際、これらの材料の板を複数組み合わせて各種の形態のものが形成されて用いられる場合が多い。この場合、ボルト、ナット等の締結具を用いてこれらの板を締結することが一般に行われる。
【0003】
一般に、ボルト、ナットは、その機械的強度や価格の観点から鉄鋼を母材として形成されている。しかしながら、上記の非鉄材料と鉄鋼とでは電解質の液中での自然電位が異なるため、これらが直接接触した場合には電位差が発生し、電食が生ずる。この際、一般には鉄よりも腐食電位の低い非鉄金属側が腐食する。従って、これらの非鉄金属板をボルト、ナットで締結した場合には、非鉄金属板とボルト、ナットとの接触部分周辺で腐食を生じやすかった。
【0004】
このため、用いるボルト、ナットの母材は鉄鋼としながらも、その表面をアルミニウムでコーティングすることにより、自然電位の差を小さくし、腐食を抑制することが行われた(特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−126122
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際の機械部品においては、非鉄金属板同士をを締結する場合の他に、非鉄金属板と鉄鋼板とを締結する場合も多い。こうした場合にアルミニウムコーティングされたボルト、ナットを用いた場合には、これらと非鉄金属板との接触部(締結部)においては腐食は抑制されるが、これらと鉄鋼板との接触部(締結部)では、アルミニウムコーティング層に腐食が発生しやすくなった。特にこの締結部で腐食が発生すると、このボルト、ナットによる非鉄金属板と鉄鋼板との締結強度は小さくなった。
【0006】
従って、非鉄金属板と鉄鋼板とを締結する場合における腐食を抑制し、長期間にわたりその締結強度を維持することは困難であった。
【0007】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
請求項1記載の発明の要旨は、鉄または鋼材で形成され、その表面がアルマイト層でコーティングされたことを特徴とする締結具に存する。
請求項2記載の発明の要旨は、前記締結具はボルト及びナットであることを特徴とする請求項1に記載の締結具に存する。
請求項3記載の発明の要旨は、前記アルマイト層の厚さは1〜25μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の締結具に存する。
請求項4記載の発明の要旨は、前記アルマイト層は、アルミニウムめっき層を陽極酸化することによって形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の締結具に存する。
請求項5記載の発明の要旨は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の締結具を用いて、非鉄金属板と鉄板とを締結することを特徴とする締結方法に存する。
請求項6記載の発明の要旨は、前記非鉄金属板は少なくともアルミニウム、マグネシウム、チタンのうちのいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項5に記載の締結方法に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は以上のように構成されているので、非鉄金属板と鉄鋼板とを締結する場合における腐食を抑制し、長期間にわたりその締結強度を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0011】
本実施の形態となる締結具であるボルト、ナットの形状は、一般に用いられるボルト、ナットの形状と同一である。従って、その形状についての説明は省略する。
【0012】
このボルト、ナットの母材は鉄鋼であり、例えば炭素鋼である。この材料についても、一般的にボルト、ナットに使用される材料であるため、その詳細な説明は省略する。
【0013】
本実施の形態におけるボルト、ナットにおいては、その表面がアルマイト(酸化アルミニウム)コーティングされている。その厚さは例えば、1〜25μmの範囲である。
【0014】
このアルマイトコーティング層は、例えば、アルミニウムめっきを鉄鋼製のボルト、ナットに施してアルミニウムコーティング層を形成した後、陽極酸化法によってこのアルミニウムコーティング層を酸化することによって得られる。
【0015】
このためのアルミニウムめっき工程について説明する。この工程においては、前記のボルト、ナット(鉄鋼)上にアルミニウムを主成分としためっき層を形成する。このめっきとしては、電解めっきが好ましく用いられる。例えば、これに用いる液としては、ジメチルスルホン(DMSO)を溶媒とし、無水塩化アルミニウム(III)(AlCl)を溶質としたものを用いる。そのモル比はDMSO:AlClで5:1とする。これをビーカー内で混合し、50℃及び80℃で2時間ずつ加熱した後に110℃まで昇温することによりめっき液を作成する。その後、アルミニウム板を陽極とし、上記のボルト、ナットをこのめっき液の中に浸漬し、陰極側として通電することによってアルミニウムめっき層を形成する。このときの温度は110℃程度とし、このめっき時間によってAlめっき層の厚さを調整できる。このときの電流密度は、10A/dm程度が好ましい。なお、ボルト、ナットのような小型のものにアルミニウムめっきを行うためには、バレルめっきが特に好ましく用いられる。この場合、多数のボルト、ナットに対して同時にめっきを行うことが可能である。これにより、10〜25μmの厚さのアルミニウムコーティング層を一様に形成することができる。
【0016】
次に、これにより形成されたアルミニウムコーティング層を酸化する工程(陽極酸化工程)につき説明する。この工程は、例えば、硫酸と硫酸アルミニウムからなる溶液中で、前記のアルミニウムめっきの場合と同様に、このボルト、ナットを陽極として通電することにより行われる。このときの温度は25℃、電流密度は0.2A/dm程度が好ましい。通電時間によって、形成される酸化アルミニウムの膜厚を調整できる。この工程も、前記のアルミニウムめっきと同様に、バレルめっき装置を用いて行うことができる。ただし、アルミニウムめっきの場合にはボルト、ナットを陰極側としていたのに対し、この場合には陽極側とする必要がある。
【0017】
このとき、先に形成されたアルミニウムコーティング層が酸化されることによって酸化アルミニウム層(アルマイト層)が形成される。アルマイト層は、Alめっき層の表面から形成され、その厚さはこの酸化工程が進むに従って厚くなる。このため、最終的にはアルミニウムコーティング層の全ての厚さにわたって酸化することも可能であるが、表面の1〜25μmだけを酸化することも可能である。この場合、酸化されずに残るアルミニウム層の厚さは5〜10μm程度となる。
【0018】
このアルマイト層の厚さは1〜25μmの範囲とすることが好ましい。1μmよりも薄いと耐食性・耐傷性が不十分であり、25μmよりも厚いと締結時に割れや剥離を生じるためである。
【0019】
このボルト、ナットを用いて非鉄金属板と鉄板とを締結した場合の作用につき説明する。ここで、非鉄金属板とは、少なくともアルミニウム、マグネシウム、チタンのうちのいずれかを主成分とする板である。鉄板とは、鉄(鉄鋼)を主成分とする板である。
【0020】
このボルトを、非鉄金属板及び鉄板に設けられた開口部に挿通させ、このナットを締結することにより、通常のボルト、ナットとを用いた場合と同様にして、非鉄金属板と鉄板とが締結される。これらを構成する材料の標準電極電位(水素電極を基準とする)は、アルミニウム:−1.66V、マグネシウム:−1.55V、チタン:−1.87V、鉄:−0.447Vである。
【0021】
この際、このボルト、ナットの表面はアルマイトでコーティングされており、アルマイト(アルミニウム)の標準電極電位と、非鉄金属(アルミニウム、マグネシウム、チタン)の標準電極電位との差は小さい。更に、アルマイト層は絶縁性であるため、腐食電流は流れない。このため、このボルト、ナットと非鉄金属板との界面においては電食を生じにくい。
【0022】
一方、アルマイト(アルミニウム)の標準電極電位と、鉄板(鉄)の標準電極電位との差は大きい。このため、この間には自然電位差が発生するが、アルマイト層は絶縁性であるため、腐食電流は流れない。このため、このボルト、ナットと鉄板との界面においても電食を生じにくい。
【0023】
従って、非鉄金属板とこのボルト、ナットとの界面、及び鉄板とこのボルト、ナットとの界面のいずれにおいても、電食を生じにくい。
【0024】
このため、このボルト、ナットとを用いた場合には、非鉄金属板と鉄鋼板とを締結する場合における腐食が抑制され、長期間にわたりその締結強度を維持することができる
【0025】
なお、上記の例においては、締結具の一例としてボルト、ナットの組み合わせにつき説明したが、これに限られるものではなく、他の締結具も同様に構成できる。例えば、非鉄金属板又は鉄板にネジ切りが施され、ナットを用いずにボルトのみに前記と同様のアルマイト層が設けられ、このボルトによって締結される場合や、前記と同様のアルマイト層が設けられたネジ切りビスによって非鉄金属板と鉄板とが締結される場合も同様である。すなわち、非鉄金属板及び/又は鉄板と直接接する締結具の表面にアルマイト層を設けることにより、同様の効果が得られる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について述べる。炭素鋼製のボルト、ナットにアルミニウムコーティングを施した。
【0027】
このアルミニウムコーティングは、電解めっき法により形成した。めっき用電解液としては、ジメチルスルホン(DMSO)を溶媒とし、無水塩化アルミニウム(III)(AlCl)を溶質としたものを用いた。そのモル比はDMSO:AlClで5:1とした。これをビーカー内で混合し、50℃及び80℃で2時間ずつ加熱した後に110℃まで昇温することによりめっき液を作成した。その後、アルミニウム板を陽極とし、上記のボルト、ナットをこのめっき液の中に浸漬し、陰極側として通電することによってアルミニウムめっき層を形成した。このときの温度は110℃とし、ボルト、ナットの表面積で規格化した電流密度を10A/dmとし、めっき時間によってAlめっき層の厚さを調整した。これにより、厚さ40μmのアルミニウムコーティング層をボルト、ナットに形成した。なお、以上の工程は、バレルめっき装置において、多数のボルト、ナットについて同時に行った。
【0028】
次に、陽極酸化工程を、硫酸と硫酸アルミニウムからなる溶液中で、前記のアルミニウムめっきの場合と同様に、このボルト、ナットを陽極として同様のバレルめっき装置を用いて行った。このときの温度は25℃、電流密度は0.2A/dmとした。通電時間によって、形成される酸化アルミニウムの膜厚を調整した。その結果、前記の厚さ40μmのアルミニウムコーティング層に対して、厚さ20μmのアルマイト層が形成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄または鋼材で形成され、その表面がアルマイト層でコーティングされたことを特徴とする締結具。
【請求項2】
前記締結具はボルト及びナットであることを特徴とする請求項1に記載の締結具。
【請求項3】
前記アルマイト層の厚さは1〜25μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の締結具。
【請求項4】
前記アルマイト層は、アルミニウムめっき層を陽極酸化することによって形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の締結具。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の締結具を用いて、非鉄金属板と鉄板とを締結することを特徴とする締結方法。
【請求項6】
前記非鉄金属板は少なくともアルミニウム、マグネシウム、チタンのうちのいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項5に記載の締結方法。

【公開番号】特開2008−232366(P2008−232366A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75787(P2007−75787)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】