説明

締結具

【課題】H断面の木材を他の部材に取り付ける際、必要な強度を確保した上で、施工時の作業が容易でコストダウンの要求に応えることのできる締結具を提供する。
【解決手段】H断面の枝部材41の端面を幹部材31の側面に取り付けるため、金具11とボルト27などの固定手段と押圧釘21とからなる締結具を用いる。金具11は、幹部材31に接触する前板12と、枝部材41を挟み込む二枚の側板15と、枝部材41の下フランジ42を載置する底板17と、で構成する。また押圧釘21は、先端を尖らせた先方部22と、先方部22よりも大径の段差部23と、で構成する。側板15の横孔16から押圧釘21を打ち込むと、先方部22が枝部材41のウェブ43に突き刺さり、且つ段差部23の側面が下フランジ42の上面に食い込み、底板17と段差部23で下フランジ42を挟み込み、金具11を介して枝部材41を幹部材31に締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H断面の木材を他の部材に取り付ける際に用いる締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
国内の建築物は、耐震性の確保が必要不可欠で、木造建築物については、地盤からの浮き上がりを防止するため、ホールダウン金物などで柱を基礎と一体化して、さらに骨格を強化するため、隣接する柱の間に筋交いを配置するなどの対策を講じている。また建築物の軽量化も有効な対策で、特に屋根などの上部構造を軽量化すると大きな効果を期待でき、従来の瓦屋根に替わってスレート屋根や金属屋根を採用することもある。
【0003】
H形鋼は、上下二枚のフランジを板状のウェブで結んだ形状で、重量に対する強度に優れており、各種の大型構造物に広く使用されている。また木造建築物においても、軽量化を実現するため、横架材や斜材などとしてH断面の木材を使用することがある。このようなH断面の木材は、フランジとウェブを別途に製造して接着で一体化しており、具体的な製品例としては、米国ウェアーハウザー社のTJIジョイストが挙げられる。
【0004】
H断面の木材の端部を他の部材に取り付ける場合、従来のような仕口を加工することは困難で、釘やL字状の金具を使用することになるが、それでは剛性が低下する恐れがあり、下記特許文献のような技術が提案されている。特許文献1では、柱の側面にH断面の木材を接合する装置が開示されており、柱の側面に板状の鋼製貫を差し込み、柱から突出する鋼製貫にH断面の木材を差し込み、双方をボルトとナットで一体化している。また特許文献2では、H断面の木材を幹部材に接合するための連結具が開示されており、緩みを防止するため、金物の側面に板バネ状の舌片を設けたことなどを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−261028号公報
【特許文献2】特開2008−127798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、柱の側面から突出する鋼製貫を差し込むため、H断面の木材の端部中心にスリットを加工している。スリットは、フランジとウェブに跨っており、スリットの幅とウェブの厚さが同等の場合、端部付近のウェブが完全に削り落とされ、強度が低下する恐れがある。また特許文献2では、緩みを防止するため部品点数が多く、施工時の作業も多くなり、コストの面で課題が残る。
【0007】
H断面の木材は、建築物の軽量化を実現するため、床を支持する根太や、屋根を支持するタルキなどとして、多数を連続的に配置することが多い。そのため他の部材との接合部は、必要な強度を確保することを前提として、できるだけ構成を簡素化して、素早く施工作業を完了できることが好ましい。
【0008】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、H断面の木材を他の部材に取り付ける際、必要な強度を確保した上で、施工時の作業が容易でコストダウンの要求に応えることのできる締結具の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、幹部材の側面に枝部材の端面を取り付けるための締結具であって、前記枝部材は、平行に並ぶ下フランジと上フランジをウェブで一体化したH断面で、前記下フランジを載置する底板と、前記幹部材の側面に接触する前板と、前記両フランジの側面を挟み込む二枚の側板と、からなる金具と、前記幹部材と前記金具とを一体化する固定手段と、先端を尖らせた先方部と、該先方部の後方に位置し且つ先方部よりも外側に張り出した段差部と、からなる押圧釘と、を備え、前記側板には、前記押圧釘を差し込むための横孔を設けて、前記押圧釘の先方部が前記ウェブに打ち込まれ且つ前記段差部の側面が前記下フランジの上面を押圧することを特徴とする締結具である。
【0010】
本発明は、各種木構造において、幹部材および枝部材と称する二本の棒材をT字状またはL字状に連結するためのもので、幹部材の側面に枝部材の端面を突き合わせる。枝部材は、二枚のフランジが上下に離れて平行に並んでおり、両フランジの間をウェブで結んだH断面であることを前提とする。対する幹部材は、枝部材を支持するための部材で、矩形断面である。なお枝部材についての記載は、二枚のフランジが上下に並びウェブが直立した姿勢に基づく。
【0011】
金具は、幹部材の側面に密着する前板と、この前板の両側端から直角に突出して、枝部材の上下フランジの側面を挟み込む二枚の側板と、二枚の側板の間の底部を塞ぐ底板と、からなる箱状で、枝部材と同等の高さを有する。この金具に枝部材の端部を差し込むことで、底板で枝部材を支持して、さらに側板で枝部材の横変位や倒れを防止する。そのほか前板は、単純な平面状でも構わないが、幹部材に嵌まり込むホゾや突起などを設けて、幹部材と金具との変位を防止することもできる。
【0012】
固定手段は、金具を幹部材と一体化するためのもので、具体的にはボルトやネジ釘が挙げられる。ボルトを用いる場合、前板に孔を設けて、且つ幹部材の側面を貫通する孔を加工して、一方からボルトを差し込み、その先端にナットを螺合して締め上げる。またネジ釘を用いる場合も、前板に孔を設けて、そこから幹部材に向けてねじ込む。
【0013】
押圧釘は、枝部材を金具と一体化するためのもので、金具の側板から枝部材に向けて打ち込む。押圧釘は、太さの異なる先方部と段差部とからなり、先方部は、打ち込みの際に先端側となる部位で、その先端だけをクサビ状にした細長い棒状である。また段差部は、先方部の後方に位置する部位で、先方部よりも横断面を大形化して、側面が先方部よりも外側に張り出している。ただし、横断面の全域が外側に張り出している必要はなく、一部は先方部と同一面となっていても構わない。
【0014】
段差部の後端には、汎用の釘と同様、打撃のため円盤状の頭部を設ける。なお金具の側板には、押圧釘を差し込むため、横孔を設けておく。横孔は、二枚の側板の両方に設ける必要があり、さらに一枚の側板に複数を設けても構わない。
【0015】
押圧釘は、枝部材の二枚のフランジのうち、下フランジの上面を滑らせるように打ち込む。さらに先方部と段差部の長さを調整して、先方部がウェブに突き刺さった後、段差部が下フランジの上面に達するようにする。これによって、押圧釘を打ち込む際、段差部の側面が下フランジの上面を押圧して、下フランジが押圧釘と下板で挟み込まれる。しかも段差部が下フランジに食い込むことで、枝部材が金具と強固に一体化する。このような効果を得るため、押圧釘を差し込む横孔は、下フランジの上面とほぼ同じ高さに設ける。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明のように、H断面の枝部材を幹部材に取り付けるため、金具と固定手段と押圧釘とからなる締結具を用いて、押圧釘には、小断面の先方部と大断面の段差部を設けることで、段差部の側面が枝部材の下フランジに食い込み、枝部材を金具と強固に一体化することができる。そのため、枝部材を緩みなく幹部材に固定でき、締結部の強度に優れる。また枝部材にスリットなどを加工する必要がなく、製材時の手間を削減できるほか、断面欠損による強度の低下も防止できる。
【0017】
さらに施工時は、ボルトなどの固定手段を用いて金具を幹部材に取り付け、その後、金具に数本の押圧釘を打ち込むだけで枝部材を取り付けることができ、単純な作業で枝部材を幹部材に連結できる。そのため、使用数の多い根太やタルキにH断面の木材を用いて、その据え付けに本発明を利用するならば、据え付け作業を素早く完了することができ、コストダウンを実現できるほか、建築物の軽量化による耐震性の向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による締結具の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の締結具を用いて、枝部材を取り付ける過程を示す斜視図である。
【図3】押圧釘を打ち込む過程を順に示す斜視図である。
【図4】図3の過程を描いた断面図である。
【図5】押圧釘の形状例と、その使用状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明による締結具の構成を示している。この図の締結具は、木構造において、矩形断面の幹部材31の側面にH断面の枝部材41の端面を突き当てて、T字状の締結部を構成するもので、架空に延びる枝部材41が幹部材31で支持される。枝部材41はH断面だが、この図ではHを横倒しにした姿勢になっており、下フランジ42と上フランジ44が上下に並び、両フランジ42、44の中央を板状のウェブ43が結んでいる。なお両フランジ42、44の幅や厚さは同一であり、またウェブ43の両端は、接着で両フランジ42、44と一体化している。
【0020】
幹部材31と枝部材41との間に介在する金具11は、上部が開放した箱形で、幹部材31の側面に接触する前板12と、枝部材41を挟み込む二枚の側板15と、枝部材41を載せる底板17と、からなり、幹部材31および枝部材41と一体化して、枝部材41に作用する全荷重を幹部材31に伝達する。二枚の側板15の間隔は、両フランジ42、44の幅と同一で、枝部材41を隙間なく挟み込むことができ、また底板17は、二枚の側板15の間を完全に塞いでいる。そのほか金具11は、枝部材41の全体を収容できる高さを確保してある。
【0021】
幹部材31と金具11は、固定手段で一体化する。固定手段は自在に選択できるが、この図では上下に二本のボルト27を使用しており、金具11から幹部材31に差し込み、その先端にナット28を螺合する。なお、ボルト27の頭部が枝部材41と干渉しないよう、金具11の前板12には、円柱状に突出したホゾ13を形成してあり、その中にボルト27の頭部を収容する。さらにホゾ13の中心には、ボルト27の軸部を通すため中孔14を形成してある。
【0022】
ホゾ13を差し込むため、幹部材31の側面にはホゾ穴33を加工してあり、その奥にはボルト27の軸部を差し込むため、下孔34を加工してある。さらにホゾ穴33の反対側には、ナット28を収容するため、座グリ穴35を加工してある。このように、ホゾ13とホゾ穴33を嵌め合わせることで、金具11の正確な位置決めが可能になり、しかも垂直荷重やせん断荷重を確実に伝達できる。なお座グリ穴35の経年変形を防止するため、ナット28の先にワッシャ29を組み込んでいる。
【0023】
仮に、枝部材41に作用する荷重が比較的軽い場合、固定手段としてボルト27ではなく、より単純なネジ釘を使用することもできる。その場合、ホゾ13も不要で、前板12にはネジ釘を差し込むための中孔14だけを形成する。ただしネジ釘の頭部が枝部材41と干渉しないよう、中孔14は両フランジ42、44の間に設ける。
【0024】
押圧釘21は、金具11と枝部材41を一体化するために使用する。押圧釘21は、細長い円柱状の先方部22と、その後方で横断面径を拡大した段差部23と、後端の頭部24と、からなり、汎用の平頭釘などとは異なり、途中で横断面形状が異なることを特徴とする。なお先方部22の最先端は、先鋭なクサビ状になっているほか、先方部22と段差部23は同心で、その境界はテーパー状に結ばれている。
【0025】
押圧釘21を差し込むため、金具11の側板15には横孔16を形成してある。横孔16は、枝部材41を金具11に差し込んだ状態で、下フランジ42の上面とほぼ同じ高さに位置する。また横孔16は、バランスを確保するため、左右の側板15のそれぞれに最低一箇所は必要で、しかも押圧釘21の先端同士の干渉を防止するため、左右で位置(枝部材41の長手方向に対する位置)を変えてある。
【0026】
押圧釘21を打ち込む際は、まず先方部22を横孔16に差し込み、下フランジ42の上面を滑らせて、最先端をウェブ43に突き刺す。次に頭部24を打撃して、横断面径の大きい段差部23の側面を下フランジ42の上面に食い込ませる。これによって、下フランジ42が底板17と押圧釘21で挟み込まれて、枝部材41が金具11と一体化して、枝部材41に作用する引張荷重も受け止めることができる。
【0027】
図2は、図1の締結具を用いて、枝部材41を取り付ける過程を示している。まず、金具11の前板12を幹部材31の側面に接触させて、次に金具11から幹部材31に向けてボルト27を差し込み、その先端にナット28を螺合する。そしてボルト27とナット28を締め上げると、金具11が幹部材31の側面と一体化する。次に、枝部材41の端部を金具11に差し込み、その端面を前板12に接触させた後、横孔16に押圧釘21を差し込み、その先端をウェブ43に打ち込む。
【0028】
図3は、押圧釘21を打ち込む過程を左上から順に示している。なお金具11は、横孔16の中心を通る線で切断して描いてある。押圧釘21の先端を横孔16に差し込むと、先方部22が下フランジ42の上面を滑るように進んでいき、やがて先端がウェブ43に突き刺さる。その後、カナヅチなどで頭部24を打撃すると、先方部22がウェブ43の中を突き進み、さらに段差部23が横孔16を通過して、下フランジ42の上面に到達する。段差部23は、先方部22よりも大径であり、また横孔16によって上方への移動が規制されている。そのため段差部23の側面は、下フランジ42の上面に食い込み、金具11と押圧釘21で下フランジ42が挟み込まれる。
【0029】
図4は、図3の過程を断面で示している。下フランジ42の上面から横孔16の最上部までの高さは、段差部23の直径よりもわずかに小さい。そのため、横孔16に押圧釘21を差し込んでいくと、先方部22は無理なく横孔16を通過してウェブ43に突き刺さる。その際、段差部23は横孔16に達していないが、頭部24を打撃していくと、やがて段差部23が横孔16に到達する。段差部23は、横孔16によって上方への移動が規制されており、必然的に段差部23の側面が下フランジ42に食い込み、枝部材41と金具11が強固に一体化する。なお押圧釘21を完全に打ち込むと、先方部22はウェブ43をほぼ貫通して、頭部24は側板15に密着する。
【0030】
このように本発明は、押圧釘21の段差部23が下フランジ42の上面に食い込むことを特徴としている。そのため打ち込みの際は、押圧釘21の先端がウェブ43に突き刺さった後、段差部23が横孔16に到達して、さらに、段差部23が下フランジ42の上面に食い込むよう、各部の形状を調整する必要がある。なお枝部材41を確実に取り付けるため、押圧釘21は左右から差し込むほか、横孔16は、押圧釘21からの反力に耐え抜く強度を持たせる。
【0031】
図5は、押圧釘21の形状例を示している。押圧釘21は、図1などのように、単純な円断面とすることが多いが、この図のように、全体を矩形断面とすることもできる。この図の押圧釘21の先方部22は、幅広の矩形断面で最先端だけをクサビ状にしてある。また段差部23は、上面側だけを張り出させた構成で、下面側は先方部22と同一面となっている。押圧釘21をこのような形状にした場合でも、横孔16の位置や大きさを調整することで、段差部23を下フランジ42に食い込ませて、枝部材41を金具11に固定することができる。
【符号の説明】
【0032】
11 金具
12 前板
13 ホゾ
14 中孔
15 側板
16 横孔
17 底板
21 押圧釘
22 先方部
23 段差部
24 頭部
27 ボルト(固定手段)
28 ナット
29 ワッシャ
31 幹部材
33 ホゾ穴
34 下孔
35 座グリ穴
41 枝部材
42 下フランジ
43 ウェブ
44 上フランジ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹部材(31)の側面に枝部材(41)の端面を取り付けるための締結具であって、
前記枝部材(41)は、平行に並ぶ下フランジ(42)と上フランジ(44)をウェブ(43)で一体化したH断面で、
前記下フランジ(42)を載置する底板(17)と、前記幹部材(31)の側面に接触する前板(12)と、前記両フランジ(42、44)の側面を挟み込む二枚の側板(15)と、からなる金具(11)と、
前記幹部材(31)と前記金具(11)とを一体化する固定手段(27)と、
先端を尖らせた先方部(22)と、該先方部(22)の後方に位置し且つ先方部(22)よりも外側に張り出した段差部(23)と、からなる押圧釘(21)と、
を備え、
前記側板(15)には、前記押圧釘(21)を差し込むための横孔(16)を設けて、
前記押圧釘(21)の先方部(22)が前記ウェブ(43)に打ち込まれ且つ前記段差部(23)の側面が前記下フランジ(42)の上面を押圧することを特徴とする締結具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50008(P2013−50008A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189708(P2011−189708)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(501138161)
【Fターム(参考)】