説明

締結構造

【課題】金属カラーを用いなくても被取付パーツを締結固定した際に樹脂製パーツにクリープが発生することを防止できる締結構造を得る。
【解決手段】ナット26が溶接された座部22を有するリインフォース16を、座部22が金属プレート14側で露出するように樹脂プレート12に埋設する。座部22に形成された透孔24と、金属プレート14に形成された透孔28とを同軸的に配置し、これらの透孔24、28に対し、金属プレート14の樹脂プレート12とは反対側からボルト30を貫通させてナット26に螺合させる。このようにして金属プレート14を樹脂プレート12に固定するとボルト30とナット26との挟み付けの荷重が樹脂プレート12に作用しないので、金属製のカラー等を用いなくても、樹脂プレート12にクリープが発生することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂材により形成された樹脂製パーツと金属等により形成された被締結パーツとを締結固定するための締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1に開示されているように、合成樹脂材により形成された樹脂部品(特許文献1ではフランジ30)と金属部品(特許文献1ではエンジン本体EG)とを締結固定する場合には、樹脂部品側でボルトが貫通する孔にカラー等と称される金属製の筒状体(特許文献1では金属リング)を嵌め込み、この金属部品を貫通して更に筒状体を貫通したボルトにナットを螺合させることで樹脂部品に締結固定時の過大な応力を作用させずに金属部品と樹脂部品とを締結固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−275270号の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このカラー等と称される金属製の筒状体を設けることで部品点数が増加してコスト高になるため、このような筒状体を用いずに樹脂部品にクリープを生じさせることなく樹脂部品と金属部品とを締結固定できる構造が求められている。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、金属カラーを用いなくても被取付パーツを締結固定した際に樹脂製パーツにクリープが発生することを防止できる締結構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係る締結構造は、合成樹脂材により形成された樹脂製パーツに締結される被取付パーツの前記樹脂製パーツとは反対側から前記被取付パーツを貫通して前記樹脂製パーツ側へ突出する締結部材と、少なくとも一部が前記樹脂製パーツに埋設されると共に、座部が前記被取付パーツ側へ露出して前記樹脂製パーツに前記被取付パーツが締結された状態で前記締結部材が前記座部を貫通するプレート部材と、前記座部の前記被取付パーツとは反対側で前記座部に接した状態で前記樹脂製パーツに少なくとも一部が埋設されて、前記締結部材が係合することで前記座部及び前記被取付パーツを前記締結部材とで挟み込んで固定する被締結部材と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の本発明に係る締結構造では、樹脂製パーツにプレート部材の少なくとも一部が埋設される。このプレート部材には座部が形成され、この座部は樹脂製パーツの被取付パーツ側に露出する。
【0008】
一方、被取付パーツの樹脂製パーツとは反対側からは締結部材が被取付パーツを貫通して樹脂製パーツ側へ突出し、座部を貫通する。この座部の被取付パーツとは反対側では被締結部材の少なくとも一部が樹脂製パーツに埋設されており、座部を貫通した締結部材が被締結部材に係合すると、被取付パーツと座部とが、締結部材と被締結部材とに直接又は間接的に挟み込まれ、被締結パーツが樹脂製パーツに締結固定される。
【0009】
このように、本発明に係る締結構造では、樹脂製パーツに埋設されたプレート部材に被締結部材の座となる座部が形成され、締結部材を被締結部材に螺合させた際の締結力は座部と被取付パーツとを挟み込む力として作用するので、金属カラーを別途用いなくても合成樹脂材により形成された樹脂製パーツでのクリープの発生を防止できる。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係る締結構造は、請求項1に記載の本発明において、前記座部に前記被締結部材を一体的に設けている。
【0011】
請求項2に記載の本発明に係る締結構造では、座部に被締結部材が一体的に設けられている。このため、実質的には被締結部材がプレート部材の一部となり、例えば、インサート成形によってプレート部材と共に被締結部材を容易に樹脂製パーツに埋設することができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明に係る締結構造は、請求項2に記載の本発明において、前記座部に溶接されたナットを前記被締結部材とし、前記ナットに螺合可能なボルトを前記締結部材としている。
【0013】
請求項3に記載の本発明に係る締結構造では、被締結部材がナットとされ、締結部材がボルトとされる。したがって、被取付パーツの樹脂製パーツとは反対側から被取付パーツを貫通したボルトが座部を貫通してナットに螺合すると、被取付パーツが座部とがボルトとナットとに挟み込まれ、被締結パーツが樹脂製パーツに締結固定される。
【0014】
ここで、ナットは座部に溶接されて一体となっている。このため、実質的にはナットがプレート部材の一部となり、例えば、インサート成形によってプレート部材と共にナットを容易に樹脂製パーツに埋設することができる。
【0015】
請求項4に記載の本発明に係る締結構造は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の本発明において、前記樹脂製パーツを補強するリインフォースを前記プレート部材としている。
【0016】
請求項4に記載の本発明に係る締結構造では、座部が形成された金属プレートが樹脂製パーツを補強するリインフォースとされる。このため、座部を設けるためだけのプレート部材を別途設けなくてもよく、部品点数の増加を抑制でき、コストを安価にできる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係る締結構造では、金属カラーを用いなくても被取付パーツを締結固定した際に樹脂製パーツにクリープが発生することを防止できる。
【0018】
請求項2に記載の本発明に係る締結構造では、被締結部材をプレート部材の一部として樹脂製パーツに埋設できる。
【0019】
請求項3に記載の本発明に係る締結構造では、ナットをプレート部材の一部として樹脂製パーツに埋設できる。
【0020】
請求項4に記載の本発明に係る締結構造では、座部を設けるためだけのプレート部材を別途設けなくてもよく、部品点数の増加を抑制でき、コストを安価にできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る締結構造を説明する断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る締結構造で適用されるプレート部材の斜視図である。
【図3】プレート部材の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<本実施の形態の構成>
図1には本発明の一実施の形態に係る締結構造を用いて締結された樹脂プレート12及び金属プレート14の断面図が示されている。樹脂プレート12は本発明における樹脂製パーツの一態様で、合成樹脂材により全体的に板状に形成されている。この樹脂プレート12は、例えば、車両の側面のドアやバックドアにおけるアウタパネルに適用される。これに対して、金属プレート14は、鉄やステンレス等の金属により板状に形成され、例えば、上記の樹脂プレート12が車両のバックドアに適用されるのであれば、バックドアを車両の幅方向を軸方向とする軸周りに回動自在に支持するヒンジを取り付けるためのブラケットやその一部として適用される。
【0023】
この図に示されるように、樹脂プレート12の内側にはプレート部材としてのリインフォース16が設けられている。図2に示されるように、リインフォース16は鉄やステンレス等の金属により幅方向寸法に対して長手方向寸法が充分に長い板状に形成されている。また、図1に示されるように、リインフォース16の厚さ方向が樹脂プレート12の厚さ方向に沿うようにリインフォース16が樹脂プレート12に埋設され、合成樹脂材によって形成された樹脂プレート12を補強している。
【0024】
このリインフォース16には凹部18が形成されている。凹部18は一対の脚壁部20を備えている。脚壁部20はリインフォース16の本体側から金属プレート14側へ屈曲されていると共に、金属プレート14側へ向けて一方の脚壁部20と他方の脚壁部20とが漸次接近するように傾斜している。一方の脚壁部20の金属プレート14側の端部と他方の脚壁部20の金属プレート14側の端部との間には座部22によって繋がっており、凹部18は全体的に金属プレート14側へ向けて張り出し、金属プレート14とは反対側へ向けて開口した凹形状とされている。
【0025】
上記のようにリインフォース16は樹脂プレート12に埋設されているが、図1に示されるように、座部22はその金属プレート14側の面が樹脂プレート12の金属プレート14側の面で露出している。なお、図1では座部22の金属プレート14側の面と樹脂プレート12の金属プレート14側の面とが面一であるが、座部22の金属プレート14側の面が樹脂プレート12の金属プレート14側の面よりも金属プレート14側に位置するような段差を有していてもよい。
【0026】
この座部22には円形の透孔24が形成されている。また、座部22には被締結部材としてのナット26が設けられている。ナット26は座部22における金属プレート14とは反対側の面に透孔24に対して同軸的に溶接されている(すなわち、ナット26は所謂「ウエルドナット」とされている)。このナット26は、座部22とは反対側の面が樹脂プレート12の金属プレート14とは反対側の面で外側に露出した状態でリインフォース16と共に樹脂プレート12に埋設されている。
【0027】
一方、金属プレート14には円形の透孔28が形成されている。透孔28は透孔24に対して同軸的に形成されている。この透孔28や透孔24には締結部材としてのボルト30が貫通する。ボルト30は外周形状が透孔28よりも大きな頭部32を有している。ボルト30は頭部32が金属プレート14の樹脂プレート12とは反対側に位置するように設けられる。頭部32の金属プレート14側の端面には段部34が形成されている。
【0028】
段部34は外径寸法が透孔28や透孔24の内径寸法以下で頭部32に対して同軸の円柱形状に形成されている。この段部34の軸方向寸法は金属プレート14の厚さと座部22の厚さとの和以下とされている。この段部34の頭部32とは反対側の端面からは雄ねじ36が段部34や頭部32に対して同軸的に形成されておりナット26の雌ねじ38に螺合している。
【0029】
<本実施の形態の作用、効果>
以上のような本実施の形態では、座部22と金属プレート14とが圧接するまで頭部32の金属プレート14側の端面とナット26の座部22側の端面とが挟み付けるまで雄ねじ36をナット26に螺合させることにより、金属プレート14が樹脂プレート12に(又は、樹脂プレート12が金属プレート14に)固定される。
【0030】
このように樹脂プレート12に金属プレート14を固定した状態では、頭部32とナット26とで挟み付ける荷重は座部22と金属プレート14とに作用するだけであり、合成樹脂材により形成された樹脂プレート12には作用しない。このため、頭部32とナット26とで挟み付ける荷重により樹脂プレート12にクリープ等のひび割れや不用意な変形等が生じることがない。しかも、このように樹脂プレート12に金属プレート14を固定するに際して、カラー等の金属の筒状体を別途用いなくてもよいので、部品点数を軽減でき、コストを軽減できる。
【0031】
また、樹脂プレート12を成形するに際して、ナット26が座部22に溶接されたリインフォース16をインサート成形することでリインフォース16やナット26を樹脂プレート12に埋設できる。リインフォース16やナット26が樹脂プレート12に埋設された状態では、実質的にリインフォース16やナット26が樹脂プレート12と一体の部品となる。このため、この意味でもコストを安価にできる。さらに、リインフォース16は樹脂プレート12の補強をする部材を兼ねるので、ナット26の座を構成する部品を別途設けなくてもよく、この意味でもコストを安価にできる。
【0032】
なお、本実施の形態では、ナット26を座部22に溶接した構成であったが、例えば、樹脂プレート12を成形する際に、インサートするリインフォース16にナット26を接着剤等で固定するだけの構成であってもよい。
【0033】
さらに、ナット26を座部22に固定(溶接)せずに、リインフォース16とナット26とを別体で構成してもよい。この場合には、リインフォース16だけを樹脂プレート12と共にインサート成形すると共に、ナット26を座部22上に載置できるようにリインフォース16に孔を形成すればよい。
【0034】
また、本実施の形態では、リインフォース16をプレート部材としたが、請求項1から請求項3の各々の観点からすれば、補強用のリインフォースとは別にプレート部材を設けてもよい。
【0035】
さらに、本実施の形態では、金属製のリインフォース16をプレート部材とした。補強という観点では、プレート部材を金属製とすることが好ましい。しかしながら、プレート部材の材質が金属に限定されるものではない。すなわち、樹脂プレート12に金属プレート14を固定する際に必要な座部22と金属プレート14とを頭部32とナット26とで挟み付ける荷重に耐えられる機械的強度を有していれば、プレート部材はその材質に限定されない。
【0036】
また、本実施の形態では、座部22を含めて構成されたリインフォース16の凹部18が一対の脚壁部20を有する構成であったが、例えば、図3に示されるように、リインフォース16の本体部分から環状の周壁52と、この周壁52の金属プレート14側を閉止するように座部22が形成されたカップ状に凹部18を構成してもよい。
【0037】
さらに、本実施の形態では、締結部材をボルト30とし、被締結部材をナット26としたが、締結部材と被締結部材とで金属プレート14及び座部22を挟み付けて保持できる構成であれば、締結部材や被締結部材がボルト30やナット26に限定されるものではない。
【0038】
また、本実施の形態では、リインフォース16は座部22の金属プレート14側の面が外部に露出するだけで、他の部分は樹脂プレート12に埋設される構成であったが、例えば、脚壁部20だけが樹脂プレート12に埋設され、樹脂プレート12の本体部分(すなわち、脚壁部20の座部22とは反対側等)が樹脂プレート12の外側に露出する構成であってもよい。
【0039】
さらに、本実施の形態では、被締結部材としてのナット26が全て樹脂プレート12に埋設された構成であった。しかしながら、ナット26(被締結部材)はその少なくとも一部が樹脂プレート12に埋設されていればよく、したがって、ナット26(被締結部材)の一部が樹脂プレート12から突出していてもよい。
【0040】
また、本実施の形態では、座部22と金属プレート14とが直接接触する構成であったが、例えば、座部22と金属プレート14との間にワッシャやスプリングワッシャ等の他の部材が介在する構成であってもよい。
【0041】
さらに、本実施の形態を説明するに際して冒頭で樹脂プレート12の適用例を車両のドアやバックドアのアウタパネルとし、金属プレート14の適用例をヒンジが取り付けられるブラケットと説明したが、樹脂プレート12や金属プレート14がこのような構成に限定されるものではなく、車両の他の部位や車両以外における樹脂製パーツと合成樹脂材以外の材料で構成された被締結パーツとの締結に広く適用できる。
【符号の説明】
【0042】
12 樹脂プレート(樹脂製パーツ)
14 金属プレート(被取付パーツ)
16 リインフォース(プレート部材)
22 座部
26 ナット(被締結部材)
30 ボルト(締結部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂材により形成された樹脂製パーツに締結される被取付パーツの前記樹脂製パーツとは反対側から前記被取付パーツを貫通して前記樹脂製パーツ側へ突出する締結部材と、
少なくとも一部が前記樹脂製パーツに埋設されると共に、座部が前記被取付パーツ側へ露出して前記樹脂製パーツに前記被取付パーツが締結された状態で前記締結部材が前記座部を貫通するプレート部材と、
前記座部の前記被取付パーツとは反対側で前記座部に接した状態で前記樹脂製パーツに少なくとも一部が埋設されて、前記締結部材が係合することで前記座部及び前記被取付パーツを前記締結部材とで挟み込んで固定する被締結部材と、
を備える締結構造。
【請求項2】
前記座部に前記被締結部材を一体的に設けた請求項1に記載の締結構造。
【請求項3】
前記座部に溶接されたナットを前記被締結部材とし、前記ナットに螺合可能なボルトを前記締結部材とした請求項2に記載の締結構造。
【請求項4】
前記樹脂製パーツを補強するリインフォースを前記プレート部材とした請求項1から請求項3の何れか1項に記載の締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−2473(P2013−2473A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131304(P2011−131304)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】