説明

編組線トロイダルコイルおよびその製造方法

【課題】高周波での銅損の増加を抑制する。
【解決手段】環状コア(2)と、素線表面を絶縁被覆した編組線を環状コア(2)にトロイダル巻きしたトロイダル巻線(1)とを具備する。トロイダル巻線(1)の少なくとも内周側では編組線を扁平形状にしエッジワイズ巻きとなるようにする。トロイダル巻線(1)の隣接する巻線同士を少なくとも内周側では接着または融着させる。
【効果】高周波での表皮効果と線間近接効果を低減でき、高周波銅損の増加を抑制することが出来る。ボビンを必要とせず、巻線数を増やすことができ、コストを低減することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編組線トロイダルコイルおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、高周波での銅損の増加を抑制することが出来ると共にボビンを必要としない編組線トロイダルコイルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平角線をエッジワイズ巻き且つトロイダル巻きした平角線トロイダルコイルが知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−164233号公報
【特許文献2】特開2001−196233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の平角線トロイダルコイルでは、回路動作が高周波化すると、表皮効果と線間近接効果のため、高周波銅損の増加が無視できなくなる問題点があった。また、リブを有するボビンに平角線を巻回する場合に、平角線のエッジワイズ巻きに必要な大きな電線曲げ加工力に耐えうるリブとするために、リブ厚さを薄くできなかったり高価な樹脂が必要となり、巻線数を増やせなかったりコストアップを招いたりする問題点があった。
そこで、本発明の目的は、高周波銅損の増加を抑制することが出来ると共にボビンを必要としない編組線トロイダルコイルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、環状コア(2,3)と、素線表面を絶縁被覆した編組線を前記環状コア(2,3)にトロイダル巻きしたトロイダル巻線(1)とを具備し、前記トロイダル巻線(1)の少なくとも内周側では前記編組線を扁平形状にしエッジワイズ巻きとなるようにすると共に隣接する巻線同士を少なくとも内周側では接着または融着させたことを特徴とする編組線トロイダルコイル(100,200)を提供する。
上記第1の観点による編組線トロイダルコイルでは、素線表面を絶縁被覆した編組線を用いるため、高周波での表皮効果と線間近接効果を低減でき、高周波銅損の増加を抑制することが出来る。また、トロイダル巻線(1)の少なくとも内周側では編組線を扁平形状にしエッジワイズ巻きとするため、巻線数を増やすことが出来る。さらに、隣接する巻線同士を少なくとも内周側では接着または融着させるため、形状を保持でき、ボビンを必要としない。
【0006】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による編組線トロイダルコイル(100,200)であって、前記トロイダル巻線(1)を前記環状コア(2,3)の少なくとも一部に接着または融着させたことを特徴とする編組線トロイダルコイル(100,200)を提供する。
上記第2の観点による編組線トロイダルコイルでは、トロイダル巻線(1)を環状コア(2,3)の少なくとも一部に接着または融着させたため、ボビンを用いなくても、より強固に形状を保持できる。
【0007】
第3の観点では、本発明は、素線表面を絶縁被覆した編組線をエッジワイズ巻きしてエッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)とし、複数個が組み合わさって環状コア(2)となる各部分コア(2a,2b)に前記エッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)を嵌めた後、各部分コア(2a,2b)を組み合わせて環状コア(2)とし、前記第1または前記第2の観点による編組線トロイダルコイル(100)を得ることを特徴とする編組線トロイダルコイルの製造方法を提供する。
上記第3の観点による編組線トロイダルコイルの製造方法では、エッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)を複数の部分コア(2a,2b)に嵌めてから、複数の部分コア(2a,2b)を組み合わせて環状コア(2)とするため、環状コアに編組線をトロイダル状に巻回するよりも製造が容易になる。
【0008】
第4の観点では、本発明は、素線表面を絶縁被覆した編組線をエッジワイズ巻きしてエッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)とし、一部に空隙(3g)を有する環状コア(3)の前記空隙(3g)から前記エッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)を嵌めて、前記第1または第2の観点による編組線トロイダルコイル(200)を得ることを特徴とする編組線トロイダルコイルの製造方法を提供する。
上記第4の観点による編組線トロイダルコイルの製造方法では、エッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)を環状コア(3)の空隙(3g)から嵌めるため、環状コアに編組線をトロイダル状に巻回するよりも製造が容易になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の編組線トロイダルコイルによれば、高周波銅損の増加を抑制することが出来る。また、ボビンを必要としなくなる。
本発明の編組線トロイダルコイルの製造方法によれば、環状コアに編組線をトロイダル状に巻回するよりも製造が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1に係る編組線トロイダルコイルを示す正面図である。
【図2】実施例1に係る環状コアを示す正面図である。
【図3】エッジワイズ巻きソレノイド巻線を示す正面図である。
【図4】実施例1に係る製造過程を示す上面図である。
【図5】実施例1に係るトロイダル巻線と環状コアの接着を示す端面図である。
【図6】実施例2に係る編組線トロイダルコイルを示す正面図である。
【図7】実施例2に係る環状コアを示す正面図である。
【図8】実施例2に係る製造過程を示す上面図である。
【図9】実施例2に係るトロイダル巻線と環状コアの接着を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る編組線トロイダルコイル100を示す正面図である。
この編組線トロイダルコイル100は、環状コア2と、素線表面を絶縁被覆した編組線を環状コア2にトロイダル巻きしたトロイダル巻線1とを具備してなる。
【0013】
トロイダル巻線1は、編組線を扁平形状にし、エッジワイズ巻きしたものである。
トロイダル巻線1の隣接する巻線同士は、内周側では接着材により接着されるか又は自己融着層により融着させられている。
【0014】
図2は、環状コア2を示す正面図である。
環状コア2は、部分コア2a,2bが組み合わさってなる。
【0015】
図3は、エッジワイズ巻きソレノイド巻線11を示す正面図である。
エッジワイズ巻きソレノイド巻線11は、素線表面を絶縁被覆した編組線を扁平に圧縮し、エッジワイズ巻き且つソレノイド巻きしたものである。
【0016】
図4に示すように、部分コア2a,2bの角度をずらせて隙間を作り、その隙間からエッジワイズ巻きソレノイド巻線11を嵌めた後、部分コア2a,2bの角度を合わせて環状コア2を形成すれば、図1に示す編組線トロイダルコイル100が得られる。
【0017】
トロイダル巻線1は弾性力により広がろうとするから、トロイダル巻線1の少なくとも内周側の一部が環状コア2の一部に当接してコイル形状が安定する。
トロイダル巻線1の内周側の一部が環状コア2の一部に当接した状態でトロイダル巻線1の隣接する巻線同士が当接するようにトロイダル巻線1および環状コア2の寸法を設計するのが好ましい。それにより、トロイダル巻線1を環状コア2の一部に接着材により接着するか又は自己融着層により融着させ且つトロイダル巻線1の隣接する巻線同士を内周側で接着材により接着するか又は自己融着層により融着することが出来る。また、全体を接着材溶液にディップして接着材を含浸させてもよい。
【0018】
図5は、トロイダル巻線1が環状コア2に4カ所で当接するようにトロイダル巻線1および環状コア2の寸法を設計した例である。この例では、トロイダル巻線1が環状コア2に当接する4カ所で、トロイダル巻線1と環状コア2とを接着または融着させることが出来る。
【0019】
実施例1に係る編組線トロイダルコイル100によれば次の効果が得られる。
(1)素線表面を絶縁被覆した編組線を用いるため、高周波での表皮効果と線間近接効果を低減でき、高周波銅損の増加を抑制することが出来る。
(2)トロイダル巻線1の少なくとも内周側では編組線を扁平形状にしエッジワイズ巻きとするため、巻線数を増やすことが出来る。また、ボビンを用いない点でも、巻線数を増やすことが出来る。
(3)隣接する巻線同士を少なくとも内周側では接着または融着させると共にトロイダル巻線1を環状コア2の少なくとも一部に接着または融着させるため、ボビンを用いなくても強固に形状を保持でき、ボビンを必要としない。
(4)エッジワイズ巻きソレノイド巻線11を複数の部分コア2a,2bに嵌めてから、複数の部分コア2a,2bを組み合わせて環状コア2とするため、環状コアに編組線をトロイダル状に巻回するよりも製造が容易になる。
(5)平角線に比べると、編組線は柔軟であり、巻回しやすく、製造が容易になる。
【0020】
−実施例2−
図6は、実施例2に係る編組線トロイダルコイル200を示す正面図である。
この編組線トロイダルコイル200は、環状コア3と、素線表面を絶縁被覆した編組線を環状コア3にトロイダル巻きしたトロイダル巻線1とを具備してなる。
【0021】
トロイダル巻線1は、編組線を扁平形状にし、エッジワイズ巻きしたものである。
トロイダル巻線1の隣接する巻線同士は、内周側では接着材により接着されるか又は自己融着層により融着させられている。
【0022】
図7は、環状コア3を示す正面図である。
環状コア3は、空隙3gを有している。
【0023】
図8に示すように、エッジワイズ巻きソレノイド巻線11の巻線をずらせながら空隙3gから環状コア2に嵌めれば、図6に示す編組線トロイダルコイル200が得られる。
【0024】
トロイダル巻線1は弾性力により広がろうとするから、トロイダル巻線1の少なくとも内周側の一部が環状コア3の一部に当接してコイル形状が安定する。
トロイダル巻線1の内周側の一部が環状コア3の一部に当接した状態でトロイダル巻線1の隣接する巻線同士が当接するようにトロイダル巻線1および環状コア3の寸法を設計するのが好ましい。それにより、トロイダル巻線1を環状コア3の一部に接着材により接着するか又は自己融着層により融着させ且つトロイダル巻線1の隣接する巻線同士を内周側で接着材により接着するか又は自己融着層により融着することが出来る。また、全体を接着材溶液にディップして接着材を含浸させてもよい。
【0025】
図9は、トロイダル巻線1が環状コア3に4カ所で当接するようにトロイダル巻線1および環状コア3の寸法を設計した例である。この例では、トロイダル巻線1が環状コア3に当接する4カ所で、トロイダル巻線1と環状コア3とを接着または融着させることが出来る。
【0026】
実施例2に係る編組線トロイダルコイル200によれば次の効果が得られる。
(1)素線表面を絶縁被覆した編組線を用いるため、高周波での表皮効果と線間近接効果を低減でき、高周波銅損の増加を抑制することが出来る。
(2)トロイダル巻線1の少なくとも内周側では編組線を扁平形状にしエッジワイズ巻きとするため、巻線数を増やすことが出来る。また、ボビンを用いない点でも、巻線数を増やすことが出来る。
(3)隣接する巻線同士を少なくとも内周側では接着または融着させると共にトロイダル巻線1を環状コア3の少なくとも一部に接着または融着させるため、ボビンを用いなくても強固に形状を保持でき、ボビンを必要としない。
(4)エッジワイズ巻きソレノイド巻線11を空隙3gから環状コア2に嵌めるため、環状コアに編組線をトロイダル状に巻回するよりも製造が容易になる。
(5)平角線に比べると、編組線は柔軟であり、巻回しやすく、製造が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の編組線トロイダルコイルは、電力伝送電気回路や電源回路における有磁芯のトロイダルコイルとして利用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 トロイダル巻線
2 環状コア
2a,2b 部分コア
3 環状コア
3g 空隙
11 エッジワイズ巻きソレノイド巻線
100,200 編組線トロイダルコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状コア(2,3)と、素線表面を絶縁被覆した編組線を前記環状コア(2,3)にトロイダル巻きしたトロイダル巻線(1)とを具備し、前記トロイダル巻線(1)の少なくとも内周側では前記編組線を扁平形状にしエッジワイズ巻きとなるようにすると共に隣接する巻線同士を少なくとも内周側では接着または融着させたことを特徴とする編組線トロイダルコイル(100,200)。
【請求項2】
請求項1に記載の編組線トロイダルコイル(100,200)であって、前記トロイダル巻線(1)を前記環状コア(2,3)の少なくとも一部に接着または融着させたことを特徴とする編組線トロイダルコイル(100,200)。
【請求項3】
素線表面を絶縁被覆した編組線をエッジワイズ巻きしてエッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)とし、複数個が組み合わさって環状コア(2)となる各部分コア(2a)に前記エッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)を嵌めた後、各部分コア(2a)を組み合わせて環状コア(2)とし、請求項1または請求項2に記載の編組線トロイダルコイル(100)を得ることを特徴とする編組線トロイダルコイルの製造方法。
【請求項4】
素線表面を絶縁被覆した編組線をエッジワイズ巻きしてエッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)とし、一部に空隙(3g)を有する環状コア(3)の前記空隙(3g)から前記エッジワイズ巻きソレノイド巻線(11)を嵌めて、請求項1または請求項2に記載の編組線トロイダルコイル(200)を得ることを特徴とする編組線トロイダルコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−23561(P2011−23561A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167490(P2009−167490)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】