説明

緩衝クリップ

【課題】緩衝部の内部に連結部分が包み込まれた構成であっても、相互の境界部における緩衝部に永久歪み等が生じるのを解消し、緩衝クリップの耐久性ならびに意匠性を維持する。
【解決手段】圧縮方向へ弾性変形可能な軟質材からなる緩衝部12と、硬質材からなる取付け部22と、取付け部と一体に成形され、緩衝部12の内部に包み込まれて緩衝部と取付け部とを一体化している連結部分26とを備えた緩衝クリップであって、緩衝部12の圧縮方向への弾性変形を受止める連結部分26の端面28付近において、その周囲を包み込んでいる緩衝部12の肉厚を、この緩衝部に作用する荷重の方向に関して変化させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両における種々の開閉箇所に使用される緩衝クリップに関する。具体的には、例えば可動部材であるスライドドアを閉めたときの終端近くで、該ドアからの荷重を受け止めて衝撃力を緩衝するために、固定部材であるボデー側に取付けて使用される緩衝クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の緩衝クリップについては、例えば特許文献1に開示された技術が既に知られている。この緩衝クリップは、エラストマ(TPE)等の軟質材からなる緩衝部と、ポリプロピレン(PP)等の硬質材からなる取付け部と、取付け部と一体に成形され、緩衝部の内部に包み込まれて緩衝部と取付け部とを一体化している連結部分とを備えている。そして、取付け部はボデー等の固定部材に開けられた取付け孔に挿入することで取付けられ、緩衝部はスライドドア等の可動部材からの荷重を受けて圧縮方向へ弾性変形し、その衝撃力を緩衝する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−196651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている緩衝クリップのように、PP等からなる取付け部と一体の連結部分がTPE等からなる緩衝部の内部に包み込まれた構成では、この緩衝部の圧縮方向への弾性変形が連結部分の端面で受止められる。このため、緩衝部には連結部分の端面の外周付近において応力が集中し、緩衝部と連結部分との境界部に弾性変形の繰り返しによる永久歪みが生じる。その結果、緩衝クリップの耐久性が低下し、永久歪みが緩衝部の外周面に折れ目となって現われることで意匠性も低下する。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、緩衝部の内部に連結部分が包み込まれた構成であっても、相互の境界部における緩衝部に永久歪み等が生じるのを解消し、緩衝クリップの耐久性ならびに意匠性を維持することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
第1の発明は、固定部材に対して接近してくる可動部材からの荷重を受けて圧縮方向へ弾性変形する軟質材からなる緩衝部と、固定部材あるいは可動部材のいずれかに結合される硬質材からなる取付け部と、取付け部と一体に成形され、緩衝部の内部に包み込まれて緩衝部と取付け部とを一体化している連結部分とを備えた緩衝クリップであって、緩衝部の圧縮方向への弾性変形を受止める連結部分の端面付近において、その周囲を包み込んでいる緩衝部の肉厚を、可動部材から緩衝部に作用する荷重の方向に関して変化させている。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、連結部分における端面の外周にテーパーをつけることで、緩衝部の肉厚を変化させている。
【0008】
上記の構成においては、緩衝部が圧縮方向へ弾性変形したときに応力が集中する連結部分の端面付近において、緩衝部に作用する荷重をその肉厚の変化によって分散させることができる。この結果、可動部材からの荷重を繰り返して受ける緩衝部に永久歪み等が生じるのを解消し、緩衝クリップの耐久性ならびに意匠性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】緩衝クリップの緩衝部を透視して表した外観斜視図。
【図2】図1の緩衝クリップを表した正面図。
【図3】図1の緩衝クリップを表した縦断面図。
【図4】図4の一部を拡大して表した断面図。
【図5】形状の異なる緩衝クリップの緩衝部を透視して表した外観斜視図。
【図6】図5の緩衝クリップを表した正面図。
【図7】図5の緩衝クリップを表した縦断面図。
【図8】緩衝クリップの変形状態を従来との比較によって表した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。
図1〜図4で示す緩衝クリップ10は、例えば車両のスライドドアを閉めたときの荷重を受止め、その衝撃力を緩衝するために使用される。この緩衝クリップ10は、エラストマ(TPE)等の軟質材で成形された緩衝部12と、ポリプロピレン(PP)等の硬質材料で成形された取付け部22と、この取付け部22と一体に成形されて緩衝部12の内部に包み込まれている連結部分26とを備えている。
【0011】
緩衝部12は、その全体形状が円錐台形状であり、小径側の頂面14でスライドドア等の可動部材38(図2)を受止め、そのときの荷重に応じて圧縮方向へ弾性変形する。また、頂面14の中心部には緩衝部12と一体に成形された円柱形状の突起部分20が位置している。この突起部分20の端部は頂面14から突出しており、かつ、頂面14における突起部分20の周囲は凹状の環状部分18となっている。
突起部分20は、緩衝部12よりも小さな荷重で独自に弾性変形する。この突起部分20の弾性により、例えば可動部材38がスライドドアの場合に閉じた状態のドアに軽く付勢力を与えてガタツキを防止する。
【0012】
取付け部22は、緩衝部12の底面中心部から突出しており、車両ボデー等の固定部材36に開けられている取付け孔37に挿入される(図2)。取付け部22の両側に位置している一対の係合爪24は、その素材(PP等)がもつ弾性によって内外方向へ撓むことができる。そこで、取付け部22が取付け孔37に挿入されると、この取付け孔37を通過した両係合爪24が固定部材36の内側に係合し、結果として緩衝クリップ10が固定部材36に結合される。
取付け部22と一体に成形されている連結部分26は、緩衝部12の内部に収まる大きさの円錐台形状をしている。この連結部分26における小径側の端面28には、凹状の受け部30が設けられている。また、連結部分26の周壁には複数個の空洞部32が、周方向へ一定の間隔で設けられている。これらの空洞部32は、図面の上方側においてそれぞれ開放され、下方側では小孔34によって連結部分26の下面に貫通している。
【0013】
緩衝部12と取付け部22(連結部分26)とは、TPE等とPP等との多色成形によって一体化されている。すなわち、PP等の硬質材を所定の金型に射出して、最初に取付け部22および連結部分26を成形する。つぎに、緩衝部12を成形する金型内に取付け部22の連結部分26をセットした状態で、その金型にTPE等の軟質材を射出して緩衝部12を成形する。これにより、緩衝部12の内部に取付け部22の連結部分26が包み込まれた状態となって相互に一体化される。
緩衝部12の素材であるTPE等の軟質材は、連結部分26の周壁に位置する複数個の空洞部32と個々の小孔34にも充填されている(図3)。これにより、緩衝部12と連結部分26(取付け部22)との結合力が高められる。
【0014】
連結部分26における端面28の外周にテーパー29が設けられ、このテーパー29に対応する箇所の緩衝部12の肉厚を図面の上下方向に関して変化させている(図3および図4)。つまり、連結部分26の端面28の周辺を包み込んでいる緩衝部12の肉厚を、緩衝クリップ10の使用状態において図2で示す可動部材38から緩衝部12に作用する荷重の方向に関して変化させている。この肉厚が変化する部分を、図4において複数の寸法線の長さが変化していることで表している。
また、連結部分26における端面28の受け部30は、緩衝部12の突起部分20と同軸線上で該突起部分20の基部と対向しているとともに、この受け部30にも当然に緩衝部12の素材であるTPE等の軟質材が充填されている(図3)。これにより、突起部分20の基部に続く部分の緩衝部12の肉厚が軸線方向へ大きく確保されている。
【0015】
緩衝クリップ10は、その使用箇所や使用形態によって突起部分20を必要としない場合がある。
そこで、図5〜図7で示す緩衝クリップ10においては、図1〜図4で示す緩衝部12の突出部分20と、その周囲の環状部分18が廃止され、緩衝部12の頂面14は全体にわたって平坦になっている。ただし、図5〜図7で示す緩衝クリップ10における他の構造は、図1〜図4で示す緩衝クリップ10と同じであり、例えば緩衝部12および連結部分26の形状についても何ら変更されていない。したがって、連結部分26の端面28の周辺を包み込んでいる緩衝部12の肉厚も、図4の各寸法線の長さ変化で示しているのと同様に、緩衝部12に作用する荷重の方向に関して変化させている。
【0016】
緩衝クリップ10を使用する場合、前述のように車両ボデー等の固定部材36に開けられている取付け孔37に取付け部22を挿入して緩衝クリップ10を固定部材36に結合する(図2および図6)。そして、図1〜図4で示す緩衝クリップ10がスライドドア等の可動部材38を受止めた場合、その荷重は最初に突起部分20に作用し、この突起部分20を圧縮して弾性変形させる。つづいて、緩衝部12の頂面14で荷重を受け、緩衝部12が圧縮方向へ弾性変形する。これに対し、図5〜図7で示す緩衝クリップ10においては、最初から緩衝部12の平坦な頂面14で可動部材38からの荷重を受け、該緩衝部12が圧縮方向へ弾性変形する。
【0017】
いずれの場合においても、緩衝部12の圧縮方向への弾性変形は、主として連結部分26の端面28で受止められる。このため、一般的には緩衝部12が圧縮されることに伴い、連結部分26の端面28の周辺付近において応力が集中することになる。このときの緩衝部12の変形状態を、図8(A)(B)によって従来の緩衝クリップ110と比較して説明する。
本実施の形態における緩衝クリップ10では、前述のように連結部分26の端面28外周に設けられているテーパー29により、連結部分26の端面28周辺を包み込んでいる緩衝部12の肉厚を、該緩衝部12に作用する荷重の方向に関して変化させている。このため、緩衝部12に作用する荷重を分散させることができ、図8(A)で示すように緩衝部12が全体にわたって均等に圧縮変形することになる。したがって、緩衝部12が可動部材38からの荷重を繰り返して受けることにより、連結部分26との境界部において永久歪み等による折れ目が生じるのを解消でき、耐久性ならびに意匠性が維持される。
【0018】
一方、従来の緩衝クリップ110では、図8(B)で示すように緩衝部112の圧縮に伴って連結部分126の端面128の外周付近(相互の境界付近)に応力が集中し、緩衝部112が外方へ膨出する。この膨出部分が、圧縮変形の繰り返しによって折れ目のような永久歪みとなる。このため、緩衝クリップ110の耐久性が低下するとともに、折れ目のような永久歪みによって意匠性も低下する。
【0019】
なお、図1〜図4で示す緩衝クリップ10における緩衝部12の突出部分20は、前述のように基部に続く部分の肉厚が大きく確保されていることから、可動部材38からの荷重を受けた突起部分20が倒れ込むことなく、軸線に沿って真っ直ぐに圧縮変形する。これにより、突起部分20の弾性が長期わたって適正に保たれ、可動部材38(スライドドア)が閉じた状態でのガタツキを抑える機能も維持される。また、突起部分20が倒れ込んだ変形状態のままになることも解消され、緩衝クリップ10の意匠性がより向上する。
【符号の説明】
【0020】
10 緩衝クリップ
12 緩衝部
22 取付け部
26 連結部分
28 端面
36 固定部材
38 可動部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材に対して接近してくる可動部材からの荷重を受けて圧縮方向へ弾性変形する軟質材からなる緩衝部と、固定部材あるいは可動部材のいずれかに結合される硬質材からなる取付け部と、取付け部と一体に成形され、緩衝部の内部に包み込まれて緩衝部と取付け部とを一体化している連結部分とを備えた緩衝クリップであって、
緩衝部の圧縮方向への弾性変形を受止める連結部分の端面付近において、その周囲を包み込んでいる緩衝部の肉厚を、可動部材から緩衝部に作用する荷重の方向に関して変化させている緩衝クリップ。
【請求項2】
請求項1に記載された緩衝クリップであって、
連結部分における端面の外周にテーパーをつけることで、緩衝部の肉厚を変化させている緩衝クリップ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−241962(P2011−241962A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117074(P2010−117074)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(308011351)大和化成工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】