説明

緩衝器

【課題】 緩衝器のピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときの発生減衰力を大きくするについて、装置全体の大型化などを招来させずして車両への搭載性を低下させない。
【解決手段】 シリンダ体1に対してロッ体3が出没する緩衝器の伸縮作動時におけるピストン速度が極微低速領域にあるときにロッド体3あるいはシリンダ体1と、これに対向する摺動部材10,20,30との間におけるフリクションを大きくする調整手段Sがロッド体3の外周に摺接する摺動部材20の外周に巻装されながら電圧の印加時に収縮してロッド体3と摺動部材20との間におけるフリクションを大きくする収縮体21,31を有し、あるいは、シリンダ体1の内周に摺接する摺動部材10の内周に隣接しながら電圧の印加時に膨張してシリンダ体1と摺動部材10との間におけるフリクションを大きくする膨張体11を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、緩衝器に関し、特に、伸縮作動時のピストン速度が極微低速領域にあるときの発生減衰力を大きくする緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、四輪車両における懸架装置を構成する緩衝器であって、バルブによる減衰力発生を可能にするものにあっては、伸縮作動時のピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあると、十分な大きさの減衰力を発生できず、それゆえ、いわゆるフワフワ感の発生を阻止できず、車両における乗り心地を悪化させることが周知されている。
【0003】
そこで、伸縮作動時のピストン速度が極微低速領域にあるときの発生減衰力を大きくする緩衝器の提案が、たとえば、特許文献1にあるが、この特許文献1には、緩衝器を構成するロッド体あるいはシリンダ体に対して横力を付与して、緩衝器の伸縮作動時におけるフリクションを大きくする提案が開示されている。
【0004】
すなわち、この文献開示の提案にあっては、緩衝器が横力付与装置を有し、この横力付与装置は、緩衝器の伸縮作動時にピストン速度が極微低速領域にあるときに横力を付与して緩衝器を構成するロッド体の摺動部に対するフリクション、あるいは、同じく緩衝器を構成するピストン体の摺動部に対するフリクションを大きくする。
【0005】
それゆえ、この文献開示の提案にあっては、緩衝器の伸縮作動時に上記の横力付与装置からの横力をロッド体あるいはシリンダ体に付与することで、ロッド体あるいはピストン体の摺動部に対するフリクションを大きくして、発生減衰力を大きくし、この緩衝器で懸架装置を構成する車両における乗り心地の悪化を阻止する。
【特許文献1】特開2007‐321824公報(要約,明細書中の段落0030,同0031,同0034,同0036,図2,図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、緩衝器の伸縮作動時におけるピストン速度が極微低速領域にあるときの発生減衰力を大きくする点で、原理的に不具合がある訳ではないが、その実施化にあって、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0007】
すなわち、上記した文献開示の横力付与装置にあっては、油圧またはガス圧などの流体圧の供給で、たとえば、ロッド体に隣接する押圧手段に横力たる押圧力を具有させる。
【0008】
それゆえ、上記の文献開示の提案を具現化する場合には、流体圧の給排手段を緩衝器の外に有することを必須にするだけでなく、この給排手段と上記の押圧手段とを連結する方策を必須にし、緩衝器が車両における懸架装置を構成するとき、この懸架装置を大掛りあるいは大型化して車両への搭載性を低下させる危惧がある。
【0009】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、伸縮作動時のピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときの発生減衰力を大きくするについて、装置全体の大型化などを招来させずして車両への搭載性を低下させず、その汎用性の向上を期待するのに最適となる緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、この発明による緩衝器の構成を、基本的には、シリンダ体に対してロッド体が出没する緩衝器の伸縮作動時におけるピストン速度が極微低速領域にあるときにロッド体の外周あるいはシリンダ体の内周と、ロッド体の外周に摺接する摺動部材あるいはシリンダ体の内周に摺接する摺動部材との間におけるフリクションを調整手段で大きくして発生減衰力を大きくする緩衝器において、調整手段がロッド体の外周に摺接する摺動部材の外周に巻装されながら電圧の印加時に収縮してロッド体と摺動部材との間におけるフリクションを大きくする収縮体を有し、あるいは、シリンダ体の内周に摺接する摺動部材の内周に隣接しながら電圧の印加時に膨張してシリンダ体と摺動部材との間におけるフリクションを大きくする膨張体を有してなるとする。
【発明の効果】
【0011】
それゆえ、この発明の緩衝器にあっては、伸縮作動時のピストン速度が極微低速領域にあるときにロッド体の外周あるいはシリンダ体の内周と、ロッド体の外周に摺接する摺動部材あるいはシリンダ体の内周に摺接する摺動部材との間におけるフリクションを大きくする調整手段がロッド体の外周に摺接する摺動部材の外周に巻装されながら電圧の印加時に収縮してロッド体と摺動部材との間におけるフリクションを大きくする収縮体を有し、あるいは、シリンダ体の内周に摺接する摺動部材の内周に隣接しながら電圧の印加時に膨張してシリンダ体と摺動部材との間におけるフリクションを大きくする膨張体を有してなるから、ロッド体の外周あるいはシリンダ体の内周とそこに摺接する摺動部材との間におけるフリクションを周方向に均一に大きくできる。
【0012】
したがって、たとえば、押圧力たる横力をロッド体やシリンダ体に一方向から付与してロッド体あるいはピストン体の摺動部に対するフリクションを大きくする場合に比較して、ロッド体やシリンダ体に曲げ応力を発生させず、ロッド体やピストン体の摺動部に対する摺動姿勢を悪くせず、ロッド体やピストン体の摺動性をいたずらに低下させない。
【0013】
そして、収縮体および膨張体の作動は、電圧の印加で足りるので、たとえば、外力の付与で押圧力たる横力を発生させる場合に比較して、調整手段をいたずらに複雑化させたり大型化させたりしない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による緩衝器は、流体に作動油を利用する油圧緩衝器とされ、四輪車両における四輪各部に配設されて各輪を懸架する懸架装置を構成する。
【0015】
そして、この緩衝器は、図1に示すように、シリンダ体1の外に車輪側部材とされる外筒2を有する複筒型に形成され、車体側部材とされながらシリンダ体1に出没可能に連繋されるロッド体3を有してなる。
【0016】
シリンダ体1と外筒2の上端開口は、ロッドガイド4で閉塞され、このロッドガイド4は、軸芯部を貫通してシリンダ体1に対して出没するロッド体3がシリンダ体1に対して傾斜するのを阻止する。
【0017】
シリンダ体1の下端開口は、図示しないが、外筒2の下端部に連設されるボトム部材で閉塞され、このボトム部材は、外筒2の下端開口を閉塞しながらシリンダ体1を担持する。
【0018】
ロッドガイド4は、内周側部に筒状に形成のブッシュ41を有し、このブッシュ41の内周にロッド体3の外周を摺接させて、ロッド体3のロッドガイド4に対する摺動性を保障している。
【0019】
そして、このロッドガイド4は、上流側端がこのロッドガイド4の上方に開口しながら下流側端がこのロッドガイド4の下方であって後述するリザーバ室Rに開口するドレンポート4aを有し、このドレンポート4aが後述するシール5によってロッドガイド4上に掻き落とされる油の同じく後述するリザーバ室Rへの戻りを許容している。
【0020】
シール5は、緩衝器の伸縮作動時にシリンダ体1内の作動油がシリンダ体1の外に漏出するのを阻止すると共に、シリンダ体1外のダストがシリンダ体1内に侵入するのを阻止する。
【0021】
そして、図1に示すシール5にあっては、後述する調整手段Sを一体に有することから大幅な変形が加えられているので、図2に示すところに基づいて説明すると、環状に形成の芯金51と、この芯金51の内周側部に一体的に連設されてロッド体3の外周に摺接するシール部52とを有してなる。
【0022】
そして、このシール5にあって、芯金51がロッドガイド4と上方のホルダ32との間に挟持され、これによって、シール部52のロッド体3に対する摺接状態が維持される。
【0023】
シール部52は、外部からのダストのシリンダ体1内への侵入を阻止するダストリップ部52aと、シリンダ体1内からの作動油の外部への抜け、すなわち、漏油を阻止するオイルリップ部52bとを有してなる。
【0024】
そして、オイルリップ部52bがロッド体3の外周に付着する潤滑油膜をロッドガイド4の上に掻き落し、この掻き落された油が前記したドレンポート4aを介してリザーバ室Rに戻される。
【0025】
また、この緩衝器にあっては、ロッド体3のシリンダ体1内に臨在される下端部たる先端部3aに連結されるピストン体6がシリンダ体1内に上方室R1および下方室R2を画成している。
【0026】
この上方室R1および下方室R2は、ピストン体6に配在の伸側減衰バルブ6aおよび圧側減衰バルブ6bを介して相互に連通可能とされ、各減衰バルブ6a,6bが作動油の通過時に所定の大きさの減衰力を発生する。
【0027】
この緩衝器にあって、シリンダ体1と外筒2との間は、リザーバ室Rとされ、このリザーバ室Rとシリンダ体1内の下方室R2とがシリンダ体1の下端部内に配設のベースバルブ部(図示せず)を介して相互に連通可能とされている。
【0028】
そして、ベースバルブ部は、圧側減衰バルブとこれに並列するチェックバルブとを有し、下方室R2の作動油が圧側減衰バルブを介してリザーバ室Rに流出するときに所定の大きさの減衰力を発生する。
【0029】
また、この緩衝器にあっては、図示しないが、シリンダ体1側たる外筒2側とロッド体3側との間に懸架バネが配在され、この懸架バネのバネ力でシリンダ体1内からロッド体3が突出する伸長方向に附勢されながら車体荷重を支える。
【0030】
それゆえ、以上のように形成された緩衝器にあっては、ロッド体3が懸架バネを押し縮めるようにしてシリンダ体1内に没入する収縮作動時には、シリンダ体1内におけるピストン体6の下降で、下方室R2の作動油が圧側減衰バルブ6bを介して上方室R1に流入する。
【0031】
そして、シリンダ体1内におけるピストン体6の下降で、下方室R2で余剰となる侵入ロッド体積分に相当する量の作動油がベースバルブ部の圧側減衰バルブを介してリザーバ室Rに流出する。
【0032】
その結果、この緩衝器の収縮作動時には、ピストン体6が有する圧側減衰バルブ6bおよびベースバルブ部に配設の圧側減衰バルブをそれぞれ作動油が通過することによる減衰力が発生する。
【0033】
そして、上記と逆に、ロッド体3が懸架バネの附勢力でシリンダ体1内から突出する伸長作動時には、シリンダ体1内におけるピストン体6の上昇で、上方室R1の作動油が伸側減衰バルブ6aを介して下方室R2に流出する。
【0034】
そして、シリンダ体1内におけるピストン体6の上昇で、下方室R2で不足することになる退出ロッド体積分に相当する量の作動油がベースバルブ部のチェックバルブを介してリザーバ室Rから補給される。
【0035】
その結果、この緩衝器の伸長作動時には、ピストン体6が有する伸側減衰バルブ6aを作動油が通過することによる減衰力が発生する。
【0036】
ところで、この発明の緩衝器にあっては、シリンダ体1に対してロッ体3が出没する伸縮作動時のピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときに、ロッド体3の外周あるいはシリンダ体1の内周と、ロッド体3の外周に摺接する摺動部材あるいはシリンダ体1の内周に摺接する摺動部材との間におけるフリクションを調整手段で大きくして発生減衰力を大きくする。
【0037】
すなわち、前記したことでもあるが、たとえば、緩衝器が四輪車両における懸架装置を構成し、しかも、バルブによる減衰力発生を可能にする場合には、伸縮作動時のピストン速度が極微低速領域にあると、十分な大きさの減衰力を発生できず、それゆえ、いわゆるフワフワ感の発生を阻止できず、したがって、車両における乗り心地を悪化させる。
【0038】
このことから、緩衝器における伸縮作動時のピストン速度が極微低速領域にあるときには、上記のロッド体3の外周あるいはシリンダ体1の内周と、ロッド体3の外周に摺接する摺動部材あるいはシリンダ体1の内周に摺接する摺動部材との間におけるフリクションを調整手段で大きくして発生減衰力を大きくすることが有効となる。
【0039】
そこで、この発明による緩衝器は、フリクションを大小する調整手段を有するもので、以下には、この調整手段について説明する。
【0040】
なお、上記したところでは、調整手段によって大きくされるフリクションがロッド体3の外周とこのロッド体3の外周に摺接する摺動部材との間におけるフリクション、および、シリンダ体1の内周とこのシリンダ体1の内周に摺接する摺動部材との間におけるフリクションの二箇所のフリクションとされているが、この発明が意図するところは、少なくとも、一箇所のフリクションが大きくされることでも目的を達成できるから、具体的には、一箇所のフリクションを大きくするように形成されることで足りる。
【0041】
まず、図1中の下半側に示すように、調整手段Sがシリンダ体1内にあって、シリンダ体1内に収装のピストン体6に近隣するように設けられる場合、この調整手段Sは、シリンダ体1の内周とシリンダ体1の内周に摺接する摺動部材たるリング部材10との間におけるフリクションを大きくする。
【0042】
すなわち、図示する調整手段Sにあっては、筒状に形成されてシリンダ体1の内周に摺接するリング部材10の内周に隣接しながら電圧の印加時に膨張してシリンダ体1とリング部材10との間におけるフリクションを大きくする膨張体11を有してなる。
【0043】
この膨張体11は、ロッド体3の先端部3a、すなわち、前記したピストン体6をロッド体3に連結させる先端部3aにピストン体6と直列配置される隔壁体12の外周に保持されている。
【0044】
隔壁体12は、肉厚部を貫通して上下の連通を許容するポート12aを有すると共に外周側部に環状溝(符示せず)を有し、この環状溝内に上記の膨張体11を隙間なく嵌装させると共に、この膨張体11の外周に積層するようにして上記のリング部材10を嵌装させている。
【0045】
なお、リング部材10としては、周知されているものが選択され、このとき、割りを有しないモールドリングであっても良いが、リング部材10とシリンダ体1との間におけるフリクションを調整するこの発明の技術的思想上からは、容易に拡径する割りが入った割りリングからなるとする方が好ましいであろう。
【0046】
上記のように、膨張体11が隔壁体12の外周部に形成の環状溝内に隙間なく嵌装されるから、その膨張時には、膨張に伴う力を隔壁体12における放射方向に伝播され、したがって、リング部材10がシリンダ体1の内周に押し付けられる。
【0047】
ところで、前記したように、膨張体11は、電圧の印加時に膨張するが、その構造原理は、図3に示すように、柔軟にして伸縮可能とされる中間部材たる高分子膜Cと、この高分子膜Cを挟む二枚の柔軟にして伸縮可能とされる導電性膜E1,E2とを有してなるもので、図3中の(B)に示すように、電圧の印加時に肉厚を薄くして平面方向に伸長する。
【0048】
それゆえ、この膨張体11は、長さ方向が規制されている情況下に電圧が印加されると、伸び方向に行き場がなくなるから、高分子膜Cと二枚の導電性膜E1,E2とからなる肉厚を大きくするように膨張する。
【0049】
すなわち、上記の膨張体11が、図4(A)に示すように、積層型に形成される場合、および、図4(B)に示すように、渦巻型に形成される場合のいずれにあっても、これが前記した隔壁体12の環状溝内に嵌装された状態で電圧が印加される場合には、隔壁体12における肉厚方向および周方向、さらには、求心方向への膨張が規制されるから、隔壁体12における放射方向の膨張のみが許容される。
【0050】
その結果、この膨張体11の外周に隣接するリング部材10がシリンダ体1の内周に押し付けられ、したがって、シリンダ体1に対するロッド体3の出没時のフリクションを大きくし、緩衝器における減衰力を大きくする。
【0051】
なお、膨張体11に印加される電圧については、緩衝器の外の給電手段(図示せず)から供給されるとし、このとき、図中に破線図で示すように、車両における車体側に連結されるロッド体3を介して供給されるのが好ましいであろう。
【0052】
また、膨張体11への電圧の印加が解除される場合には、前記した図3に示すところと逆に、膨張体11が旧状に復するように収縮し、したがって、膨張に伴う力が解消されてリング部材10がシリンダ体1の内周に押し付けられなくなり、それまで発生していたフリクションが解消される。
【0053】
以上からすると、上記した調整手段Sは、膨張体11によってシリンダ体1と摺動部材たるリング部材10との間におけるフリクションを大きくするから、この膨張体11がピストン体6とは別にシリンダ体1内に配設の隔壁体12に設けられることに代えて、ピストン体6に設けられるとしても良いと言い得る。
【0054】
ただ、上記の膨張体11をピストン体6に設けるについては、ピストン体6が径方向にそれなりの肉厚を有することが肝要になり、このことからすると、ピストン体6を大径化し易くなり、実施可能性を低下させるであろうから、図示するように、ピストン体6とは別体とされる隔壁体12に設ける方が有利であろう。
【0055】
そして、この隔壁体12については、ピストン体6が有する圧側減衰バルブ6bのバルブストッパを兼ねさせることが可能になり、その場合には、いたずらな部品点数の増大を招来させない点で有利になる。
【0056】
一方、前記したように、調整手段Sによって大きくされるフリクションは、一箇所で良いことからすれば、前記したところに代えて、図1中の上半側に示すように、調整手段Sがロッド体3の摺動部周りに設けられるとしても良い。
【0057】
そこで、このロッド体3の摺動部周りに設けられる調整手段Sについて説明すると、この調整手段Sは、筒状に形成されてロッド体3の外周に摺接する摺動部材たるブッシュ部材20の外周に隣接しながら電圧の印加時に膨張してロッド体3とブッシュ部材20との間におけるフリクションを大きくする収縮体21を有してなる。
【0058】
そして、この調整手段Sは、図示するところでは、ロッド体3の外周に摺接するシール5に配設されてなるとし、上記のブッシュ部材20と収縮体21を有するホルダ22がシール5を形成する芯金51,51a間に一体的に挟持されている。
【0059】
すなわち、この調整手段Sにあって、ホルダ22は、内周側部に環状溝(符示せず)を有し、この環状溝内に上記の収縮体21を収装させると共に、この収縮体21の内周に積層するようにして上記のブッシュ部材20を隣接させている。
【0060】
なお、ブッシュ部材20としては、周知されているものが選択されて良いが、図示するところでは、前記したように、ロッド体3に対して摺動部材として機能するブッシュ部材41がロッドガイド4の内周側部に保持されているから、このブッシュ部材41との比較からすれば、よりフリクションの発生に効果的な構成のものが選択されるのが好ましいであろう。
【0061】
また、収縮体21は、前記した膨張体11と同様の原理からなり(図3参照)、また、前記した膨張体11と同様に積層型に形成されたり、渦巻型に形成されたりする(図4参照)。
【0062】
上記のように、この調整手段Sにあっても、収縮体21がホルダ22の内周側部に形成の環状溝内に収装されるから、電圧の印加による膨張時には、ホルダ22における求心方向の膨張が許容される。
【0063】
その結果、この収縮体21の内周に隣接するブッシュ部材20がロッド体3の外周に押し付けられ、したがって、シリンダ体1に対するロッド体3の出没時のフリクションを大きくし、緩衝器における減衰力を大きくする。
【0064】
そして、収縮体21への電圧の印加が解除される場合には、前記した実施形態の場合と同様に、収縮体21が旧状に復するように収縮し、したがって、上記した膨張に伴う力が解消されてブッシュ部材20がロッド体3の外周に押し付けられなくなり、それまで発生していたフリクションが解消される。
【0065】
なお、この調整手段Sを有するシール5にあっては、芯金51にシール部52(図2参照)を構成するオイルリップ部52bを有し、芯金51aに同じくシール部52を構成するダストリップ部52aを有してなる。
【0066】
また、シール5をロッドガイド4上に定着させるには、任意の方策が選択されて良いが、図示するところでは、外筒2の上端部を内側に折り曲げるようにする管端加締め加工によるとし、折り曲げ端2aがシール5の上端に圧接される。
【0067】
そして、収縮体21には、前記した膨張体11に対する場合と同様に、図中に破線で示すように、緩衝器の外の給電手段(符示せず)からの電圧が印加される。
【0068】
図2は、この発明による調整手段Sの他の実施形態を示し、以下には、これについて少し説明するが、この実施形態では、前記した図1中の上半側に示す実施形態でロッド体3の摺動部周りに設けられる調整手段Sがシール5に配設されたことに代えて、シリンダ体1の言わばヘッド端部に後付の態様に設けられている。
【0069】
このように、調整手段Sがシリンダ体1のヘッド端部に後付の態様に設けられる場合には、前記したシール5に設けられる場合に比較して、緩衝器を構成するシリンダ体1のヘッド端部の基本的な形態を大きく変更させない上で有利になる。
【0070】
なお、この図2に示すところを説明するにあたって、その構成が前記した図1に示すところと同様となるところについては、図中に同一の符号を附するのみとして、要する場合を除き、その説明を省略する。
【0071】
この図2に示す調整手段Sは、ロッドガイド4の上方に配設されるシール5をシリンダ体1の軸線方向の上方から覆うように配設されるとし、ロッド体3の外周に摺接する摺動部材たるブッシュ部材30を有すると共に、このブッシュ部材30の外周に隣接する収縮体31を有している。
【0072】
そして、ブッシュ部材30とこのブッシュ部材30を内周に隣接させる収縮体31がシール5を上方から覆うように配設されるホルダ32の内周側部に形成の環状溝(符示せず)に嵌装されている。
【0073】
なお、ブッシュ部材30としては、前記したブッシュ部材20と同様の構成のものが選択されて良く、また、収縮体31は、前記した収縮体21と同様の原理からなる(図3参照)が、図示するところでは、渦巻型ではなく、積層型に形成されてなる(図4参照)としている。
【0074】
上記のように、この調整手段Sにあっても、収縮体31がホルダ32の内周側部に形成の環状溝内に隙間なく嵌装されるから、電圧の印加による膨張時には、膨張に伴う力をホルダ32における求心方向にのみ伝播し、それゆえ、ブッシュ部材30がロッド体3の外周に押し付けられ、したがって、シリンダ体1に対するロッド体3の出没時のフリクションを大きくし、緩衝器における減衰力を大きくする。
【0075】
そして、収縮体31への電圧の印加が解除される場合には、前記した実施形態の場合と同様に、収縮体21が旧状に復するように収縮し、したがって、膨張に伴う力が解消されてブッシュ部材30がロッド体3の外周に押し付けられなくなり、それまで発生していたフリクションが解消される。
【0076】
なお、ホルダ32は、図示するところにあって、外筒2の上端部に連設されたスリーブ23に螺着され、上端部を内側に折り曲げる加締め端部32aにしてホルダ32におけるキャップ部32bを定着させ、このキャップ部32bは、ホルダ32と共に収縮体31のホルダ32の軸線方向に沿う変形を規制している。
【0077】
また、この実施形態の場合にも、収縮体31には、前記した収縮体21に対する場合と同様に、図中に破線で示すように、緩衝器の外の給電手段(符示せず)からの電圧が印加される。
【0078】
図5は、前記した図2に示す調整手段Sを構成する収縮体31が図4(A)に示すように積層型に形成されてなるとする場合に、その電圧印加構造を示すもので、以下には、これについて少し説明する。
【0079】
前記したように、この発明にあって、調整手段Sを構成する膨張体11あるいは収縮体21,31は、原理的には、図3に示すように、中間部材たる高分子膜Cと、この高分子膜Cを挟む二枚の柔軟にして伸縮可能とされる導電性膜E1,E2とを有してなる。
【0080】
そして、電圧の印加時に、図3中の(B)に示すように、平面方向に伸長して全長を長くするから、これを渦巻型や積層型にする場合には、たとえば、導電性膜E1‐高分子膜C‐導電性膜E2‐高分子膜C‐導電性膜E1‐…と、高分子膜Cを導電性膜E1,E1でサンドイッチ状にあるいはロールケーキ状に挟むように形成することで、膨張効率を善くできる。
【0081】
そこで、前記したところでは、単に、積層されてなるとしたが、その場合の具体的な構造について、その一例を揚げて説明する。
【0082】
まず、調整手段Sにおいて、ロッド体3の外周に摺接する摺動部材たるブッシュ部材30の外周に収縮体31が隣接され、この収縮体31は、上記したように、導電性膜E1‐高分子膜C‐導電性膜E2‐高分子膜C‐導電性膜E1‐…の順に各要素が一体的に積層されている。
【0083】
そして、図中で左側に示すコネクタ34aが導電性膜E1に接続され、図中で右側に示すコネクタ34bが導電性膜E2に接続され、各コネクタ34a,34bが相応する端子35a,35bに接続され、この各端子35a,35bに緩衝器外に延在されるリード線(図示せず)が接続される。
【0084】
そしてまた、上記の収縮体31は、筒状カラー36の内側に配在され、この筒状カラー36の上下端には、ワッシャ37a,37bが隣接され、上方のワッシャ37bは、外筒2の上端部を内側に折り曲げてする管端加締め加工の際の軸力を受けてこれを筒状カラー36に伝達し、筒状カラー36は、その軸力を下方のワッシャ37aに伝え、下方のワッシャ37aは、シール5を構成する芯金51に担持される。
【0085】
さらに、この調整手段Sにあっては、筒状カラー36の外側であって、上下のワッシャ37a,37b間を樹脂材38でモールドしており、したがって、アッセンブリ化されている。
【0086】
それゆえ、この実施形態による場合には、調整手段Sの収装や外筒2の上端部を加締め加工による折り曲げ端部2aにするなどのために外筒2の上端部を長く形成することを要するが、上記のアッセンブリ化された調整手段Sをシリンダ体1のヘッド端部の上方に設けることが可能になり、既存の緩衝器における基本的な構成を大きく変更させずして、そのままの利用を可能にする。
【0087】
上記した図5に示す調整手段Sおよび前記した図1,図2に示す各調整手段Sにあっては、緩衝器外の給電手段からの電圧印加を受けるが、この場合の回路構成としては、周知の構成が採用されて良い。
【0088】
また、調整手段Sにおける膨張体11あるいは収縮体21,31に電圧が印加されるのは、緩衝器における伸縮作動時のピストン速度が0.05m/sec以下となる極微低速領域にあるときであるが、これを検出するには、シリンダ体1に対するロッド体3の移動速度を検出すれば良い。
【0089】
そして、シリンダ体1に対するロッド体3の移動速度が基準値にあるとき、膨張体11あるいは収縮体21,31に電圧を印加して、摺動部材の対向部材に対するフリクションを大きくさせる。
【0090】
そしてまた、シリンダ体1に対するロッド体3の移動速度が基準値を超えるとき、膨張体11あるいは収縮体21,31に対する電圧の印加を中止して、摺動部材の対向部材に対するフリクションを解消させる。
【0091】
前記したところでは、この発明の緩衝器が複筒型に形成されてなるとしたが、この発明が意図するところからすれば、緩衝器が単筒型に形成されてなるとしても良い。
【0092】
そして、前記したところでは、調整手段Sに供給される電圧は、緩衝器外の給電手段から印加されるとしたが、必要な電圧の印加が可能になるのであれば、緩衝器内に配設の発電手段から印加されるとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】この発明の一実施形態による緩衝器を示す部分縦断面図である。
【図2】他の実施形態の調整手段を示す部分縦断面図である。
【図3】収縮体あるいは伸長体を原理的に示す図である。
【図4】収縮体あるいは伸長体の具体的な態様を示す斜視図である。
【図5】他の実施形態の調整手段を示す部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 シリンダ体
3 ロッド体
4 ロッドガイド
6 ピストン体
10 摺動部材たるリング部材
11 膨張体
12 隔壁体
20,30 摺動部材たるブッシュ部材
21,31 収縮体
22,32 ホルダ
C 高分子膜
E1,E2 導電性膜
S 調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ体に対してロッド体が出没する緩衝器の伸縮作動時におけるピストン速度が極微低速領域にあるときにロッド体の外周あるいはシリンダ体の内周と、ロッド体の外周に摺接する摺動部材あるいはシリンダ体の内周に摺接する摺動部材との間におけるフリクションを調整手段で大きくして発生減衰力を大きくする緩衝器において、調整手段がロッド体の外周に摺接する摺動部材の外周に巻装されながら電圧の印加時に収縮してロッド体と摺動部材との間におけるフリクションを大きくする収縮体を有し、あるいは、シリンダ体の内周に摺接する摺動部材の内周に隣接しながら電圧の印加時に膨張してシリンダ体と摺動部材との間におけるフリクションを大きくする膨張体を有してなることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
収縮体がシリンダ体側に配設されながら軸芯部にロッド体を貫通させるホルダあるいはロッドガイドの内周側部に保持されて電圧の印加時にロッド体の外周に摺接する摺動部材たるブッシュ部材を外周側からロッド体に向けて押圧してなる請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
膨張体がシリンダ体内に摺動可能に収装されながらロッド体に連結する隔壁体あるいはロッド体を連結させるピストン体の外周側部に巻装されて電圧の印加時にシリンダ体の内周に摺接する摺動部材たるリング部材を内周側からシリンダ体に向けて押圧してなる請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
伸縮作動時のピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときに収縮体および膨張体に電圧が印加される請求項1に記載の緩衝器。
【請求項5】
収縮体および膨張体が中間部材たる柔軟にして伸縮可能とされる高分子膜と、この高分子膜を挟む二枚の柔軟にして伸縮可能とされる導電性膜とからなり、電圧の印加時に平面方向に伸長して高分子膜と二枚の導電性膜とからなる肉厚を薄くしてなる請求項1に記載の緩衝器。
【請求項6】
収縮体あるいは膨張体に印加される電圧が緩衝器の外から供給され、あるいは、緩衝器内に配設の発電手段から供給されてなる請求項1に記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−287638(P2009−287638A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139596(P2008−139596)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】