説明

縞模様画像鑑定装置、縞模様画像鑑定方法及びプログラム

【課題】新たなチャーティング点探索指定作業に伴う鑑定官等の負担を軽減することが可能な縞模様画像鑑定装置を提供する。
【解決手段】第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の間の対応点の入力修正を行うチャーティング点修正部23と、ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標が一致するように、第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を非線形に変換する座標非線形変換部25と、座標非線形変換部25により非線形に変形した一方の縞模様画像と、他方の縞模様画像と、を出力するチャーティング図編集表示部28と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縞模様画像同士の異同判断を補助する縞模様画像鑑定装置、縞模様画像鑑定方法及びプログラムに関し、特に、指紋または掌紋等の2つの画像の鑑定(異同判断)を補助する縞模様画像鑑定装置、縞模様画像鑑定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、縞模様状の多数の隆線によって構成される指紋は、終生不変および万人不同という二つの大きな特徴をもっているため、古くから人物確認の手段として利用されている。
【0003】
従来の指紋鑑定では、鑑定官(examiner)が二つの指紋データを見比べ、指紋隆線上の特徴点が合致することを目視で鑑定していた。そして、二つのデータで対になる特徴点の数が一定数以上存在すれば、同一指紋と判断していた。
【0004】
なお、指紋の特徴点とは、縞となる線の端点または分岐点のことである。そして、二つのデータ(この場合指紋データ)で対になる特徴点を対特徴点という。
【0005】
また、指紋の異同判断では、端点分岐点という特徴点だけではなく、他の詳細な隆線特徴、例えば、短い線(ドット)や汗腺口なども利用されることが多い。従って、指紋の異同判断に用いられる特徴点という場合は、端点分岐点だけではなく、他の隆線詳細特徴も含むものとする。
【0006】
裁判では、並べて配置した二つの指紋写真や指紋濃淡画像と共に、確認された対特徴点同士の関連を示す資料が提出される。多くの国の裁判では、二つの指紋データの中に12組程度の対特徴点の組が見つかれば、その二つの指紋は同一であると認められる。この詳細は、非特許文献1;「The Science of Fingerprints-Classification and Uses (US DOJ, FBI; Rev. 12-84, 1990)」の193ページから196ページに記載されている。
【0007】
近年では、計算機を用いた指紋照合システムが普及しつつあり、これに伴い裁判用証拠資料も計算機を用いて作成することが多くなっている。また、対特徴点をわかりやすく表示できるように、2つの指紋を編集表示し、対特徴点のマニュアル入力や修正を支援する機能は、チャーティング機能(Charting Function )と呼ばれ、特に、米国で普及している。
【0008】
チャーティング機能は、異同判断が容易になるように、2つの指紋が左右に並べて表示されるが、このような表示方法は、サイドバイサイド(side by side)表示と呼ばれる。サイドバイサイド表示された図や画面は、チャーティング図やチャーティング画面とも呼ばれる。また、対応する2つの点をチャーティング点と呼ぶ。チャーティング画面では、2つのチャーティング点を結ぶ線も表示されることが多いが、これをチャーティング線と呼ぶ。また、指紋の異同判断は、指紋鑑定とも呼ばれる。
【0009】
自動照合機能を用いて半自動化されたチャーティング機能は既に実現されている。このような半自動チャーティング機能は、鑑定官が全ての対特徴点の情報をマニュアル操作で入力する必要はなく、自動照合で対となる特徴点を抽出し、その対特徴点をチャーティング点として自動表示する。鑑定官は、表示された対特徴点について確認および修正を行う。
【0010】
図10(a)と図10(b)は、チャーティング機能によって表示されたチャーティング図の例である。図10(a)に示す例では、対応するチャーティング点をチャーティング線で結び更に同じ番号を付けて対応関係を明確にしている。図10(b)は、図10(a)に示す各チャーティング点がほぼ水平に配置されるように指紋データの一方(右側の指紋)の画像を線形変換(回転と平行移動)して表示したものである。
【0011】
なお、本発明より先に出願された技術文献として、例えば、一方の指紋画像がもう一方の指紋画像と合致するように画像歪みを修正し、指紋画像を並べて表示することで、目視での異同判定を容易にする方法に関する技術について開示された文献がある(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
上記特許文献1には、対特徴点と指紋の中心点との距離に基づいて画像歪みを修正する方法が開示されている。
【0013】
しかし、上記の方法は、指紋の中心点がない場合には適用が困難である。中心点がない指紋としては、例えば、弓状紋が挙げられる。また、鑑定を要する遺留指紋の中には、指紋の中心点が採取されていない片鱗指紋もある。
【0014】
このため、上記の指紋の画像の修正に上記特許文献1に開示された修正方法を適用することは困難である。
【0015】
また、芯線照合を用いることで、その結果として出力される大量の芯線の対応点を用いて一方の画像の画像歪みを完全に修正し、もう一方の画像と重ね合わせることで、鑑定を支援する方法について開示された文献がある(例えば、特許文献2参照)。
【0016】
しかし、この方法は、品質が悪くて照合が失敗する場合には適用できない。また、低品質の遺留指紋の場合は、芯線データを手操作で入力しなければならず、鑑定官の作業負担が大きくなる。
【0017】
また、同一撮影部位が含まれる2以上の異なる状態の眼科画像を表示手段に同時表示させて容易に比較できる技術について開示された文献がある(例えば、特許文献3参照)。
【0018】
また、異なる二つの三次元的サーフェスレンダリング像等を同時に比較でき、或いは、異なる複数の壁運動情報に関する三次元的な分布の様子を一度に観察することができる技術について開示された文献がある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第2885787号公報
【特許文献2】特開2004−078434号公報
【特許文献3】特開平6−269413号公報
【特許文献4】特開2009−28167号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Page 193-196 of “The Science of Fingerprints - Classification and Uses” (US DOJ, FBI; Rev. 12-84, 1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、非常に質の低い遺留指紋の場合には自動照合で失敗し、対特徴点を自動抽出できない。その場合、異同判断において、鑑定官が全てのチャーティング点の対応付けを行わねばならず、鑑定官の作業負担が大きいという問題がある。
【0022】
このチャーティング点の対応付けの一般的な手順は、以下のものである。
【0023】
ステップ1:鑑定官は、2つの指紋を見比べ、対になるチャーティング点を決定する。
【0024】
ステップ2:一方の指紋で、決定した特徴点の位置を指定する。
【0025】
ステップ3:もう一方の指紋で、決定した特徴点の位置を指定する。
【0026】
ここで、ステップ2、3の位置指定は、通常、マウスやタブレットペン等のポインティングデバイスを用いて実施される。しかし、この位置指定のための移動距離が長いと作業負担が大きくなる。
【0027】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、上述した課題である、新たなチャーティング点探索指定作業に伴う鑑定官等の負担を軽減することが可能な縞模様画像鑑定装置、縞模様画像鑑定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
かかる目的を達成するために、本発明は、以下の特徴を有することとする。
【0029】
<縞模様画像鑑定装置>
本発明にかかる縞模様画像鑑定装置は、
第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の間の対応点の入力修正を行うチャーティング点修正手段と、
ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標が一致するように、前記第一の縞模様画像と、前記第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を非線形に変換する座標非線形変換手段と、
前記座標非線形変換手段により非線形に変形した一方の縞模様画像と、他方の縞模様画像と、を出力するチャーティング図編集表示手段と、
を有することを特徴とする。
【0030】
<縞模様画像鑑定方法>
本発明にかかる縞模様画像鑑定方法は、
第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の間の対応点の入力修正を行うチャーティング点修正工程と、
ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標が一致するように、前記第一の縞模様画像と、前記第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を非線形に変換する座標非線形変換工程と、
前記座標非線形変換工程により非線形に変形した一方の縞模様画像と、他方の縞模様画像と、を出力するチャーティング図編集表示工程と、
を有することを特徴とする。
【0031】
<プログラム>
本発明にかかるプログラムは、
第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の間の対応点の入力修正を行うチャーティング点修正処理と、
ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標が一致するように、前記第一の縞模様画像と、前記第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を非線形に変換する座標非線形変換処理と、
前記座標非線形変換処理により非線形に変形した一方の縞模様画像と、他方の縞模様画像と、を出力するチャーティング図編集表示処理と、
を、コンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、新たなチャーティング点探索指定作業に伴う鑑定官等の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態のチャーティング支援処理装置10の全体構成例を示す図である。
【図2】チャーティング支援部12の構成例を示す図である。
【図3】チャーティング支援処理装置10の処理動作例を示す図である。
【図4】チャーティングに用いる指紋画像の一例を示す図である。
【図5】遺留指紋と未変換押捺指紋とのサイドバイサイド表示例を示す図である。
【図6】遺留指紋と線形変換押捺指紋とのサイドバイサイド表示例を示す図である。
【図7】遺留指紋と非線形変換押捺指紋とのサイドバイサイド表示例を示す図である。
【図8】画像変化の効果を説明するための図である。
【図9】画像変化の効果を説明するための別の図である。
【図10】本発明と関連するチャーティング例を示す図である。
【図11】誤鑑定の例を示す図である。
【図12】誤鑑定例における押捺指紋と線形変換遺留指紋とのサイドバイサイド表示例を示す図である。
【図13】誤鑑定例における押捺指紋と非線形変換遺留指紋とのサイドバイサイド表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<本発明の一実施形態である縞模様画像鑑定装置の概要>
まず、図2を参照しながら、本発明の一実施形態である縞模様画像鑑定装置の概要について説明する。
【0035】
本発明の一実施形態である縞模様画像鑑定装置は、
第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の間の対応点の入力修正を行うチャーティング点修正部23と、
ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標が一致するように、第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を非線形に変換する座標非線形変換部25と、
座標非線形変換部25により非線形に変形した一方の縞模様画像と、他方の縞模様画像と、を出力するチャーティング図編集表示部28と、
を有することを特徴とする。
【0036】
本発明の一実施形態である縞模様画像鑑定装置は、上記構成を有することで、新たなチャーティング点探索指定作業に伴う鑑定官等の負担を軽減することができる。以下、添図を参照しながら本発明の一実施形態である縞模様画像鑑定装置について詳細に説明する。尚、以下の説明では、チャーティング支援処理装置10を例に説明する。但し本実施形態の縞模様画像鑑定装置は、チャーティング支援処理装置10に限定されるものではない。
【0037】
(第1の実施形態)
<チャーティング支援処理装置10の構成例>
【0038】
まず、図1を参照しながら、本実施形態のチャーティング支援処理装置10の構成例について説明する。図1は、チャーティング支援処理装置10の構成例を示す図である。
【0039】
チャーティング支援処理装置10は、指紋画像入力部11と、チャーティング支援部12と、データ入力部13と、データ表示部14と、指紋画像出力部15と、ハードコピー装置16と、を有して構成する。
【0040】
指紋画像入力部11は、例えば、センサやスキャナで読み取られた指紋画像をディジタル化して入力する。また、既にディジタル化された画像をファイルとして入力するように構築しても良い。
【0041】
チャーティング支援部12は、指紋画像入力部11で入力された2つの指紋画像の異同判断を支援するためのチャーティング機能を有する。
【0042】
データ入力部13は、例えば、マウスやタブレット等のポインティングデバイスと呼ばれる入力装置で構成し、鑑定官が指定したい点位置等のデータや指示を入力する。
【0043】
データ表示部14は、例えば、モニタディスプレイ装置等で構成し、指紋画像、チャーティング点やチャーティング線などのチャーティングデータを表示する。
【0044】
指紋画像出力部15は、チャーティング支援部12で処理された変換画像を外部システムに出力したり、外部記憶媒体等に出力したりする。
【0045】
ハードコピー装置16は、プリンタ等の印刷装置で構成し、鑑定結果(チャーティング画面)等を印刷して出力する。
【0046】
<チャーティング支援部12の構成例>
次に、図2を参照しながら、チャーティング支援部12の構成例について説明する。図2は、チャーティング支援部12の構成例を示す図である。
【0047】
チャーティング支援部12は、データ処理制御部21と、データ記憶部22と、チャーティング点修正部23と、座標線形変換部24と、座標非線形変換部25と、対応点座標テーブル生成部26と、対応点座標検索部27と、チャーティング図編集表示部28と、を有して構成する。
【0048】
データ処理制御部21は、チャーティング支援部12を構成する各部の間で行われるデータとメッセージの授受の制御を行う。
【0049】
データ記憶部22は、例えば、RAM(Random Access Memory)で構成し、チャーティング支援部12を構成する各部の作業領域として使用する。また、各部が算出した情報を一時的に格納するために使用する。更に、チャーティング点修正部23と、座標線形変換部24と、座標非線形変換部25と、対応点座標テーブル生成部26と、対応点座標検索部27と、チャーティング図編集表示部28と、の各部の作業領域として使用する。
【0050】
チャーティング点修正部23は、2つの画像の間での対応する点(チャーティング点と呼ぶ)に関する鑑定官の入力修正作業を支援する。
【0051】
座標線形変換部24は、2つの画像のそれぞれで定義されたチャーティング点の座標の差(距離)を最小化するための座標変換式を決定する。この座標変換式は、線形変換の条件の下で決定する。
【0052】
これは、1つの画像のチャーティング点の位置座標を、もう片方の画像のチャーティング点の位置座標に近づけるような画像全体の線形変換式を求めることと同じである。
【0053】
座標非線形変換部25は、2つの画像のそれぞれで定義されたチャーティング点の座標を一致させることを可能にする座標変換関係を決定する。この座標変換は、線形変換では実現できない。ここでは、一方の画像の任意の画素の変換量(移動量)を、近傍のチャーティング点の移動量と、該画素から、該近傍のチャーティング点までの距離を用いて内挿法的に計算することで変換量を決定する。この非線形座標変換の変換量を用いて画像変換を行えば画像歪みの修正が実現できる。
【0054】
対応点座標テーブル生成部26は、非線形変換後の画素座標と、非線形変換前の画素座標と、の対応関係を載せた対応点座標テーブルを生成する。
【0055】
対応点座標テーブルは、座標非線形変換部25の処理で決定された、非線形変換前の画素座標と、非線形変換後の画素座標と、の関係を逆にして登録することで生成できる。
【0056】
対応点座標検索部27は、非線形変換画像上で指定された画素の座標に対応する非線形変換前の画素座標を、対応点座標テーブル生成部26が作成した対応点座標テーブルを検索することで決定する。
【0057】
チャーティング図編集表示部28は、2つの指紋画像の対応関係を鑑定官が容易に理解できるように編集する。
【0058】
チャーティング図編集表示部28は、データ入力部13から入力された鑑定官の指示に従い、要求された画像を画面表示する。また、編集した画像やチャーティングデータをデータ表示部14に表示する。
【0059】
<チャーティング支援処理装置10の処理動作>
次に、図3を参照しながら、チャーティング支援処理装置10の処理動作について説明する。図3は、チャーティング支援部12全体、及び、指紋画像入力部11やデータ入力部13やデータ表示部14や指紋画像出力部15の処理動作を示す。
【0060】
まず、指紋画像入力部11は、指紋画像を入力する(ステップS101)。
【0061】
例えば、指紋画像入力部11は、スキャナで読み取られた画像をディジタル化して入力する。また、既にディジタル化された指紋画像ファイルを入力する。指紋画像入力部11が入力する指紋画像例を図4に示す。
【0062】
図4(a)の画像は、遺留指紋例を示し、図4(b)の画像は、その対となる押捺指紋の例を示す。
【0063】
遺留指紋は、犯罪現場に遺留された指紋のことで品質が低く、自動照合が困難なことも多い。押捺指紋は、登録目的で採取する指紋のことで品質は良い。犯罪捜査用に採取される押捺指紋は、広い面積を採取できるように指を回転しながら押捺するので、回転押捺指紋とも呼ばれる。
【0064】
ここで、異同判断対象の二つの指紋に関して説明する。異同判断対象の指紋は遺留指紋同士でも良いし、押捺指紋同士でも良いが、通常は、遺留指紋と押捺指紋で実施する例が多い。ここでは便宜的に、異動確認対象の2つの指紋の一方を遺留指紋と称し、もう片方を押捺指紋と称することにする。
【0065】
図4を始めとする指紋画像例は、センサやスキャナで読み取られた指紋画像がディジタル化された画像である。このような指紋画像例は、米国のNIST(National Institute of Standards and Technology)で標準化された ANSI/NIST-ITL-1-2000 Data Format for the Interchange of Fingerprint, Facial, & Scar Mark & Tattoo (SMT) Informationに従って、500dpiの解像度でディジタル化されたものである。尚、この標準化ドキュメントは、ANSI/NIST-ITL 1-2000 Revision of ANSI/NIST-CSL 1-1993 & ANSI/NIST-ITL 1a-1997のNIST Special Publication 500-245に開示されている[2009年3月11検索]、インターネット<URL:ftp://sequoyah.nist.gov/pub/nist_internal_reports/sp500-245-a16.pdf>。
【0066】
次に、チャーティング図編集表示部28は、指紋画像入力部11により入力された2つの指紋画像を初期表示用に編集し、データ表示部14に表示する(ステップS102)。
【0067】
図5は、データ表示部14に表示された指紋画像の表示例である。本実施形態では、特に断らない限り、遺留指紋を左側に、押捺指紋を右側にサイドバイサイド表示し、座標変換や画像変換の対象は右側の押捺指紋とする。
【0068】
次に、データ処理制御部21は、鑑定官からの入力指示に従って、対応する処理を実行する。
【0069】
データ処理制御部21は、鑑定官の入力指示が終了指示か否かを判断し(ステップS103)、入力指示が終了指示の場合は(ステップS103/Yes)、チャーティング支援処理を終了する(End)。
【0070】
データ処理制御部21は、鑑定官の入力指示が終了でない場合は(ステップS103/No)、鑑定官からの入力指示が未変換画像におけるチャーティング点修正か否かを判断する(ステップS104)。
【0071】
入力指示が未変換画像におけるチャーティング点修正の場合は(ステップS104/Yes)、チャーティング点修正部23は、チャーティング点の入力修正作業を支援する。この作業が終了すれば、ステップS105に進む。
【0072】
本実施形態では、右側(図4(b))の押捺指紋を画像変換あるいは画像変形し、左側(図4(a))の遺留指紋画像の形状に近づける。未変換画像とは、押捺指紋が入力画像のままで画像変換されていない画像を指す。図5のサイドバイサイド表示例において、右側(図5(b))の押捺指紋は、未変換画像(O)である。
【0073】
図5におけるチャーティング点の入力は、遺留指紋のチャーティング点51の指定と、押捺指紋のチャーティング点52の指定と、の2つのステップが必要である。勿論、逆に、先に押捺指紋のチャーティング点52を指定し、次に遺留指紋のチャーティング点51を指定する順でも良い。
【0074】
図5では、短線(短い隆線)の中心を1つ目のチャーティング点としている。左右2つの画像の間にある小さなウィンドウには、左右の2つの画像のチャーティング点付近の拡大図が表示されている。
【0075】
図5において、未変換の押捺指紋画像とは、別の表現をすれば、遺留指紋画像に対応させるための位置合わせ(alignment)ができていないことを意味する。従って、遺留指紋画像との対応関係が良くない。このため、遺留指紋のチャーティング点51と、押捺指紋のチャーティング点52と、は、それぞれの表示ウィンドウにおける相対座標が大きく異なっている。
【0076】
表示ウィンドウにおける相対関係を説明するために、別のチャーティング点として分岐点53と54を例にとる。カーソルマーク55は、チャーティング点53を指すようにポインティングしたものである。右側(図5(a))の表示ウィンドウにおいてカーソルマーク56で示されている位置は、カーソルマーク55と同じ相対位置である。カーソルマーク55と56のように、2つの表示ウィンドウにおいて、同じ相対位置に2つのカーソルの表示する機能は、ダブルカーソル機能と呼ばれる。
【0077】
カーソルマーク56は、チャーティング点54から遠く離れているが、もし、右側(図5(b))の画像の位置合わせ(alignment)ができれば、当然、この距離は短くなる。
【0078】
本実施形態のチャーティング支援処理装置10は、1個以上のチャーティング点が入力された時点で、チャーティング点の座標を用いた座標変換を実施すれば、2つの画像の位置関係を近づけることができる。
【0079】
例えば、1個のチャーティング点が入力指定されときは、左側(図5(a))のチャーティング点座標に、右側(図5(b))のチャーティング点の座標が合致するように右側(図5(b))の画像を平行移動すれば良い。
【0080】
また、2個のチャーティング点が入力指定されときは、左側(図5(a))の2つのチャーティング点の中心座標に、右側(図5(b))の2つのチャーティング点の中心座標が合致するように右側(図5(b))の画像を平行移動する。次に、左側(図5(a))の2つのチャーティング点が為す角度に、右側(図5(b))の2つのチャーティング点が為す角度が合致するように回転すれば良い。
【0081】
また、3個以上のチャーティング点が入力指定されときは、後述のヘルマート(Helmert)変換等の一般的な画像変換技術で右側(図5(b))の画像を線形変換すれば良い。
【0082】
このような方法で変換した画像をサイドバイサイド表示した場合、ダブルカーソルでポインティングされた点は対応関係が良くなる。例えば、左側(図5(a))の画像の新たなチャーティング点を指定してダブルカーソル指定した場合、右側(図5(b))の表示ウィンドウにおけるダブルカーソル点と、右側(図5(b))の画像のチャーティング点の距離は短くなる。
【0083】
この結果、新たなチャーティング点の入力指定時のカーソル移動量を少なくできる。このため、鑑定官の作業を低減できる。つまり、左側(図5(a))の画像のチャーティング点を鑑定官が指定したときに、右側(図5(b))の表示ウィンドウでダブルカーソル指定された点を右側(図5(b))の画像のチャーティング点候補点として表示し、カーソルをその候補点をフォーカス(カーソルを移して有効にすること)させれば、鑑定官は、その候補点から真のチャーティング点迄の距離を移動させれば済むので、右側(図5(b))の画像のチャーティング点指定作業を軽減することができる。
【0084】
画像変換とダブルカーソルの効果は、新たなチャーティング点入力指定時の作業量軽減だけでなく、新たなチャーティング点の探索を容易にする。例えば、左側画像のチャーティング候補点を鑑定官がカーソル指定したときに、その対応点の探索は、右側画像上でのダブルカーソル指定点の付近のみに限定できるからである。
【0085】
理想的には、左右の画像のチャーティング点が、ダブルカーソル点と一致できるような画像変換を実現することである。これを実現できれば、新たなチャーティング点の探索や指定は更に容易になる。
【0086】
しかし、指紋画像、特に、遺留指紋画像には顕著な画像歪みがあるため、線形変換で画像変換しても、2つの画像のチャーティング点の座標を一致させることはできない。
【0087】
本実施形態のチャーティング支援処理装置10は、これを実現するために、画像歪みの修正を可能とする非線形の画像変換も提案する。
【0088】
<未変換画像におけるチャーティング点修正の場合の画像変換処理>
次に、鑑定官からの入力指示が未変換画像におけるチャーティング点修正の場合の画像変換処理について説明する。
【0089】
ここでの画像変換処理は、3つのサブステップの処理が挙げられる。
【0090】
サブステップ1:座標線形変換
サブステップ2:座標非線形変換
サブステップ3:座標対応点テーブル更新
【0091】
なお、上記の3つの3つのサブステップの処理は、前もって実施することは必須ではない。しかし、前もって実行しておくことで、線形変換画像や非線形変換画像の表示を鑑定官に要求されたときに即時に表示できるので、効果的である。
【0092】
<サブステップ1:座標線形変換>
まず、1:座標線形変換について説明する。
【0093】
座標線形変換部24は、2つの画像のそれぞれで定義されたチャーティング点の座標の差(距離)を最小化するための線形の座標変換式を決定する。線形の座標変換とは、画像全体の座標に適用できる座標変換式が1次式となるものである。線形変換では、画像の回転や平行移動や拡大縮小を実現できる。
【0094】
線形変換で変換された画像は、画像歪み修正が含まれないため、変換前の画像との一致性は高く、裁判証拠としても問題ないとされている。
【0095】
本実施形態では、この線形変換の手法としてヘルマート(Helmert)変換を採用する。ヘルマート変換は、地図などの図面の処理で広く採用されている方法で、複数の対応点の座標から変換式を近似計算できる。ヘルマート変換は、変換後の画像の相似形が保障されることから相似形変換とも呼ばれる。ヘルマート変換では、変換後の座標から変換前の座標を計算する逆変換も容易である。
【0096】
図6(b)の画像は、線形変換した座標式を用いて画像を変換した線形変換後画像(L)を表示したものである。座標変換式の計算には、図6に表示されている3つのチャーティング点のみを用いた。
【0097】
図6で、カーソルマーク61は、左側指紋の中核線(最も内側の隆線)の頂点を指しており、これは、新たなチャーティング点候補である。このダブルカーソル62は、右側指紋の中核線の頂点から20画素(実距離1ミリメートル)程度の点を指しており、図5に比べて、左右の画像の対応関係が格段に向上したことがわかる。
【0098】
<サブステップ2:座標非線形変換>
次に、2:座標非線形変換について説明する。
【0099】
座標非線形変換部25は、2つの画像のそれぞれで定義されたチャーティング点の座標を一致させる条件下での座標変換方法を決定する。
【0100】
本実施形態では、一方の画像の任意の画素の変換量(移動量)を、近傍のチャーティング点の移動量と、該画素から、該近傍のチャーティング点までの距離を用いて内挿法的に計算することで決定する。この非線形座標変換の変換量を用いて画像変換すれば、2つの画像のチャーティング点の座標を一致させ、かつ近傍の画素も滑らかに歪ませることができる。この座標変換は、線形(座標変換を一次式では表現できない)ではないので非線形変換と呼ぶ。
【0101】
本実施形態では、座標非線形変換の変換前画像として、未変換画像(O)に対応する座標ではなく、線形変換後画像(L)に対応する座標を採用している。本実施形態の非線形変換は、近傍のチャーティング点の移動量を利用するので、チャーティング点から離れた画素の変換結果は不十分な結果になりやすい。線形変換後画像(L)の座標を採用することで、この弊害を小さくでき、その結果、非線形変換後の画像はより自然な画像になる。
【0102】
本実施形態における非線形座標変換は、例えば、特開平7−114649号公報等に記載されている公知の技術によって実現できる。特開平7−114649号公報には、画像上の点にベクトルを指定し、そのベクトルに応じて画像を変形することで歪みを少なくする方法が記載されている。ここでは、特開平7−114649号公報に記載の方法によって、非線形座標変換の座標間の関係を求める場合を例に説明する。
【0103】
特開平7−114649号公報に記載の方法を適用する場合、押捺指紋側のチャーティング点座標をベクトルの始点として定める。また、その遺留指紋側の対応するチャーティング点座標をベクトルの終点として定める。そして、特開平7−114649号公報に記載の方法によって、各画素の移動ベクトルを内挿法で決定する。これで決定された移動ベクトルの終点の座標が、該画素の非線形変換後の画素座標となる。
【0104】
ここで、各画素における変換前の画素座標に対して、非線形変換後の画素座標を座標変換テーブルに登録しておけば、任意の画素に対して変換後の画素座標を即時に検索できるので便利である。
【0105】
図7の右側画像は、上記作成した座標変換テーブルを用いて画像を変換した非線形変換後画像(N)を表示したものである。
【0106】
この座標変換の計算には、図6や図7に表示されている3つのチャーティング点のみを用いた。図7で、カーソルマーク71は、左側指紋の中核線頂点を指しており、これは、新たなチャーティング点候補である。このダブルカーソル72は、右側指紋の中核線頂点から6画素(実距離0.3ミリメートル)程度の点を指しており、図6に比べて、左右の画像の対応関係が更に向上したことがわかる。
【0107】
<サブステップ3:座標対応点テーブル更新>
次に、3:座標対応点テーブル更新について説明する。
【0108】
座標非線形変換では、前述のように変換前後の画素座標の関係を1つの式で表現できない。この場合、変換前後の画素座標の関係を座標変換テーブルに登録するのが効果的な手法である。変換前の画素座標に対する変換後の画素座標を座標変換テーブルに登録したものを順変換対応点テーブルと呼び、逆に、変換後の画素座標に対する変換前の画素座標を座標変換テーブルに登録したものを逆変換対応点テーブルと呼ぶ。また、この2つを合わせて座標対応点テーブルと呼ぶ。尚、逆変換対応点テーブルは、順変換対応点テーブルの座標を逆にして登録すれば作成できる。
【0109】
ここでは、その時点で入力されたチャーティング点の座標を用いて、全画素に亘った座標対応点テーブルを更新する(新規作成を含む)。
【0110】
次に、データ処理制御部21は、鑑定官からの入力指示が線形変換画像におけるチャーティング点修正か否かを判断する(ステップS106)。入力指示が線形変換画像におけるチャーティング点修正の場合は(ステップS106/Yes)、チャーティング点修正部23は、チャーティング点の入力修正作業を支援する。この作業が終了すれば、ステップS107に進む。
【0111】
<線形変換画像におけるチャーティング点修正の場合の画像変換処理>
次に、鑑定官からの入力指示が線形変換画像におけるチャーティング点修正の場合の画像変換処理について説明する。
【0112】
ここでの画像変換処理は、4つのサブステップの処理が挙げられる。
【0113】
サブステップ1:チャーティング点の未変換画像における座標計算
サブステップ2:座標線形変換
サブステップ3:座標非線形変換
サブステップ4:座標対応点テーブル更新
【0114】
なお、上記の4つのサブステップの処理は、前もって実施することは必須ではない。しかし、前もって実行しておくことで、更新された線形変換画像や非線形変換画像の表示を鑑定官に要求されたときに即時に表示できるので、効果的である。
【0115】
<サブステップ1:チャーティング点の未変換画像における座標計算>
まず、1:チャーティング点の未変換画像における座標計算について説明する。
【0116】
線形変換画像において修正あるいは追加されたチャーティング点に関しては、未変換画像における座標を計算する。これは、直前の座標線形変換で決定された線形座標変換式の逆変換式で計算すれば良い。
【0117】
<サブステップ2:座標線形変換>
次に、2:座標線形変換について説明する。
【0118】
2:座標線形変換は、ステップS105における処理と同一である。但し、利用するチャーティング点の座標は、上記の1:チャーティング点の未変換画像における座標計算で計算した未変換画像の座標を用いる。
【0119】
<サブステップ3:座標非線形変換>
次に、3:座標非線形変換について説明する。
【0120】
3:座標非線形変換は、ステップS105における処理と同一である。但し、利用するチャーティング点の座標は、上記の2:座標線形変換で計算した線形変換後の画像の座標を用いることである。
【0121】
<サブステップ4:座標対応点テーブル更新>
次に、4:座標対応点テーブル更新について説明する。
【0122】
4:座標対応点テーブル更新は、ステップS105における処理と同一である。
【0123】
次に、データ処理制御部21は、鑑定官からの入力指示が非線形変換画像におけるチャーティング点修正か否かを判断する(ステップS108)。入力指示が非線形変換画像におけるチャーティング点修正の場合は(ステップS108/Yes)、チャーティング点修正部23は、チャーティング点の入力修正作業を支援する。この作業が終了すれば、ステップS109に進む。
【0124】
<非線形変換画像におけるチャーティング点修正の場合の画像変換処理>
次に、鑑定官からの入力指示が非線形変換画像におけるチャーティング点修正の場合の画像変換処理について説明する。
【0125】
ここでの画像変換処理は、4つのサブステップの処理が挙げられる。
【0126】
サブステップ1:チャーティング点の未変換画像における座標計算
サブステップ2:座標線形変換
サブステップ3:座標非線形変換
サブステップ4:座標対応点テーブル更新
【0127】
この4つのサブステップの処理は、前もって実施することは必須ではない。しかし、前もって実行しておくことで、更新された線形変換画像や非線形変換画像の表示を鑑定官に要求されたときに即時に表示できるので、効果的である。
【0128】
<サブステップ1:チャーティング点の未変換画像における座標計算>
まず、1:チャーティング点の未変換画像における座標計算について説明する。
【0129】
線形変換画像において修正あるいは追加されたチャーティング点に関しては、未変換画像における座標を計算する。この計算は次の2つの手順からなる。
【0130】
まず、座標対応点テーブルの逆変換対応点テーブルを用いて、線形変換画像におけるチャーティング点の座標を検索し決定する。
【0131】
次に、線形変換画像におけるチャーティング点座標から、直前の座標線形変換で決定された線形座標変換式の逆変換式を用いて、未変換画像に対応する座標を計算する。
【0132】
<サブステップ2:座標線形変換>
次に、2:座標線形変換について説明する。
【0133】
2:座標線形変換は、ステップS107における処理と同一である。但し、利用するチャーティング点の座標は、1:チャーティング点の未変換画像における座標計算で計算した未変換画像の座標を用いる。
【0134】
<サブステップ3:座標非線形変換>
次に、3:座標非線形変換について説明する。
【0135】
3:座標非線形変換は、ステップS107における処理と同一である。但し、利用するチャーティング点の座標は、2:座標線形変換で計算した線形変換後の画像の座標を用いる。
【0136】
<サブステップ4:座標対応点テーブル更新>
次に、4:座標対応点テーブル更新について説明する。
【0137】
4:座標対応点テーブル更新は、ステップS107における処理と同一である。
【0138】
次に、データ処理制御部21は、鑑定官からの入力指示が画像変換か、画像編集表示か、出力、プリント指示か否かを判断する(ステップS110)。入力指示が画像変換か、画像編集表示か、出力、プリント指示の場合は、ステップS111に進む。
【0139】
まず、チャーティング図編集表示部28は、データ入力部13から入力された鑑定官の指示に従い、要求された画像を必要があれば画像変換する。また、編集した画像やチャーティングデータをデータ表示部15に表示したり、印刷したりする。
【0140】
また、変換画像をディジタルデータとして、外部システムに送信出力したり、外部記憶媒体等へ出力したりする。
【0141】
<チャーティング支援処理装置10の作用・効果>
次に、本実施形態のチャーティング支援処理装置10の作用・効果について説明する。
【0142】
図8(a)と、図8(b)は、本実施形態のチャーティング支援処理装置10の作用・効果を説明するために、文字Aをモデルに作成した画像である。
【0143】
図8(a)は、元の画像でこれをターゲット画像(T)と呼ぶ。図8(b)は、ターゲット画像(T)に回転や平行移動や台形歪や非線形のランダムな歪を加えて変形したものであり、これを、未変換画像(O)とする。
【0144】
本実施形態のチャーティング支援処理装置10は、未変換画像(O)と、ターゲット画像(T)と、の間のチャーティング点の数が少なくても、未変換画像(O)を効果的に変形し、ターゲット画像(T)に近づけることを可能とする。
【0145】
本実施形態では、未変換画像(O)とターゲット画像(T)に表示された3つのチャーティング点を用いて、画像変形を行う。図8(c)は、本実施形態で説明したヘルマート変換で線形変換した画像(L)である。
【0146】
図8(d)は、非線形変換後の画像(N)である。図8(d)を見ると、指定された3個のチャーティング点の内側や近傍では、ターゲット画像(T)に近く変形できている。
【0147】
しかし、チャーティング点から遠い領域である文字Aの上部までは効果的な変形が及ばないため、文字Aの下部と上部の間が不自然につながり、全体的には不自然な画像になっている。
【0148】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0149】
第2の実施形態を図9の(a)〜(f)を用いて説明する。
【0150】
図9の(a)と(c)は、図8の(a)と(c)と同じ図であるが、図9の(e)と(f)との比較が容易になるように再掲している。
【0151】
第2の実施形態では、図3のステップS105のサブステップ1やステップS107のサブステップ2や、ステップS109のサブステップ2で実施する座標線形変換を以下のように変更する。
【0152】
このサブステップにおいて、図2の座標線形変換部24は、2つの画像のそれぞれで定義されたチャーティング点の座標の差(距離)を最小化するための線形の座標変換式を決定する。第2の実施形態では、まず、第1の実施形態で採用したヘルマート変換を実施する。
【0153】
次に、ヘルマート変換されたチャーティング点の座標に対して、水平方向(X方向)、垂直方向(Y方向)それぞれで、拡大縮小を加えることで、ターゲット画像(T)のチャーティング点座標への近似化を試みる。
【0154】
チャーティング点の数をnとするとき、変換前画像のk番目のチャーティング点のX座標をPx(k)、ターゲット画像のk番目のチャーティング点のX座標をTx(k)、変換前画像の全チャーティング点の重心のX座標をPxC、ターゲット画像の全チャーティング点の重心のX座標をTxCとし、X方向の拡大率をhとするとき、以下のn個の式を近似的に解くことでhが求まる。
【0155】
(Tx(1) - TxC) = h * (Px(1) - PxC)
: :
(Tx(n) - TxC) = h * (Px(1) - PxC)
【0156】
また、座標変換式は、次の式となる。Qx(k)は、座標変換後のX座標である。
【0157】
Qx(k) = Px(k) + h * (Px(k) - PxC)
【0158】
同様に、垂直方向の拡大率や座標変換式も容易に計算できる。
【0159】
尚、ここまでの処理(ヘルマート変換と水平垂直方向の伸縮)は、アフィン(affine)変換でも実現可能だが、最適なアフィン変換のためのパラメータ決定は複雑になる。
【0160】
次に、水平垂直それぞれの方向で伸縮調整されたチャーティング点の座標に対し、単純なスキュー(skew;斜め歪み)補正を加えることでターゲット画像(T)のチャーティング点座標への近似化を試みる。
【0161】
チャーティング点の数をnとするとき、変換前画像のk番目のチャーティング点の座標を(Px(k),Py(k))、ターゲット画像のk番目のチャーティング点の座標を(Tx(k),Ty(k))とし、Y方向のスキュー補正係数をvとすると、以下のn個の式を近似的に解くことでvが求まる。
【0162】
Px(1) - Ty(1) = v * Px(1)
: :
Px(n) - Ty(n) = v * Px(n)
【0163】
また、座標変換式は、次の式となる。Qy(k)は、座標変換後のY座標である。
【0164】
Qy(k) = Py(k) + v * Px(k)
【0165】
同様に、垂直方向の拡大率や座標変換式も容易に計算できる。
【0166】
スキュー補正を加えた画像変換は、等角変換ではないので、厳密には線形変換とは言えない。しかし、1次式で表現できる座標変換であり、変換後の画像の不自然さは少ないので本実施形態では線形変換に含めている。
【0167】
図9(e)は、このようにして座標線形変換された結果も用いて変換した線形変換画像(L2)である。図9(c)の線形変換画像(L)と比較しても画像としての不自然はなく、また、第1の実施形態の線形変換画像(L)よりも図9(a)のターゲット画像(T)に近づいていることがわかる。
【0168】
図9(f)は、第2の実施形態で示した方法で座標線形変換された座標を用いて、座標非線形変換を実施し、その結果で画像変換した非線形変換画像(N2)である。この画像は、図8(d)の非線形変換画像(N)と比較して不自然さはなくなり、図9(a)のターゲット画像(T)に近づいていることがわかる。
【0169】
別の実施形態としては、座標線形変換の1つとして、1次式で表現できる座標線形変換として台形歪み補正を加えても良い。
【0170】
(第2の実施形態の作用・効果)
次に、第2の実施形態のチャーティング支援処理装置10の作用・効果について説明する。
【0171】
図11は、誤鑑定のチャーティング図の例である。
【0172】
この鑑定官は、図11に示された14個のチャーティング点を指定し、この一致をもって、同一指紋であると判断し、結果的に誤った判定をしてしまった。
【0173】
本実施形態のチャーティング支援処理装置10が出力する非線形変換画像を用いて比較すれば、誤鑑定の防止に有用である。
【0174】
図12は、この鑑定官が指定した14個のチャーティング点のうち、上側にある6個のチャーティング点を利用して線形画像変換しサイドバイサイド表示したものである。この2つの画像を見比べても相互に矛盾するような隆線形状は直ぐには見つからない。
【0175】
図13は、同じ6個のチャーティング点を利用して非線形画像変換し、サイドバイサイド表示したものである。この2つの画像を見比べると、131に示す領域の下部は、隆線幅が押捺指紋よりも広くなっているが、上部は隆線幅が極端に狭いという不自然な画像になっている。
【0176】
図12では、遺留指紋に顕著な画像歪みが顕著にあるという先入観があるので、両者の差を余り感じないが、図13で見比べると違和感を強く感じることができる。この結果、より慎重な鑑定するので誤鑑定防止に繋がる。
【0177】
このように、マニュアル入力された少ない個数のチャーティング点を用いても、自然な非線形画像変換を可能にするので、鑑定支援に効果的である。
【0178】
なお、上述する実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0179】
例えば、上記実施形態では、指紋画像を例として説明したが、本実施形態は、指紋と類似の模様を持つ掌紋等にも適用可能である。
【0180】
また、上記実施形態では、鑑定官がチャーティング支援処理装置10を操作する場合を例に説明したが、鑑定の専門家以外の者がチャーティング支援処理装置10を操作することも可能であることはいうまでもない。
【0181】
また、上述した本実施形態におけるチャーティング支援処理装置10を構成する各部における制御動作は、ハードウェア、または、ソフトウェア、あるいは、両者の複合構成を用いて実行することも可能である。
【0182】
なお、ソフトウェアを用いて処理を実行する場合には、処理シーケンスを記録したプログラムを、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ内のメモリにインストールして実行させることが可能である。あるいは、各種処理が実行可能な汎用コンピュータにプログラムをインストールして実行させることが可能である。
【0183】
例えば、プログラムは、記録媒体としてのハードディスクやROM(Read Only Memory)に予め記録しておくことが可能である。あるいは、プログラムは、リムーバブル記録媒体に、一時的、あるいは、永続的に格納(記録)しておくことが可能である。このようなリムーバブル記録媒体は、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することが可能である。なお、リムーバブル記録媒体としては、フロッピー(登録商標)ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、MO(Magneto optical)ディスク、DVD(Digital Versatile Disc)、磁気ディスク、半導体メモリなどが挙げられる。
【0184】
なお、プログラムは、上述したようなリムーバブル記録媒体からコンピュータにインストールすることになる。また、ダウンロードサイトから、コンピュータに無線転送することになる。また、ネットワークを介して、コンピュータに有線で転送することになる。
【0185】
また、本実施形態におけるチャーティング支援処理装置10は、上記実施形態で説明した処理動作に従って時系列的に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力、あるいは、必要に応じて並列的にあるいは個別に実行するように構築することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明は、指紋、掌紋等の2つの画像の鑑定(異同判断)を支援する装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0187】
10 チャーティング支援処理装置
11 指紋画像入力部
12 チャーティング支援部
13 データ入力部
14 データ表示部
15 指紋画像出力部
16 ハードコピー装置
21 データ処理制御部
22 データ記憶部
23 チャーティング点修正部
24 座標線形変換部
25 座標非線形変換部
26 対応点座標テーブル生成部
27 対応点座標検索部
28 チャーティング図編集表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の間の対応点の入力修正を行うチャーティング点修正手段と、
ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標が一致するように、前記第一の縞模様画像と、前記第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を非線形に変換する座標非線形変換手段と、
前記座標非線形変換手段により非線形に変形した一方の縞模様画像と、他方の縞模様画像と、を出力するチャーティング図編集表示手段と、
を有することを特徴とする縞模様画像鑑定装置。
【請求項2】
ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標を近似させるように、前記第一の縞模様画像と、前記第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を線形に変換する座標線形変換手段を有し、
前記座標非線形変換手段は、
前記座標線形変換手段により線形に変換した一方の縞模様画像を用いて、前記縞模様画像の画素を非線形に変換することを特徴とする請求項1記載の縞模様画像鑑定装置。
【請求項3】
前記座標線形変換手段は、
ヘルマート変換と、水平垂直方向の伸縮補正と、スキュー補正と、を行い、一方の縞模様画像の画素を線形に変換することを特徴とする請求項2記載の縞模様画像鑑定装置。
【請求項4】
前記縞模様画像を表示する2つの表示手段を有し、
前記チャーティング点修正手段は、
一方の表示手段でカーソルを移動させた場合に、他方の表示手段上でも同じ相対位置にカーソルを表示するダブルカーソル手段を有することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の縞模様画像鑑定装置。
【請求項5】
前記チャーティング点修正手段は、
一方の表示手段上の画像でチャーティング点を確定させた場合に、他方の表示手段の画像の同じ相対位置に、もう一方のチャーティング点候補を確定させると共にその候補点にカーソルをフォーカスさせることを特徴とする請求項4記載の縞模様画像鑑定装置。
【請求項6】
第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の間の対応点の入力修正を行うチャーティング点修正工程と、
ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標が一致するように、前記第一の縞模様画像と、前記第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を非線形に変換する座標非線形変換工程と、
前記座標非線形変換工程により非線形に変形した一方の縞模様画像と、他方の縞模様画像と、を出力するチャーティング図編集表示工程と、
を有することを特徴とする縞模様画像鑑定方法。
【請求項7】
第一の縞模様画像と、第二の縞模様画像と、の間の対応点の入力修正を行うチャーティング点修正処理と、
ある時点までに入力定義された2つの画像の間の対応点の座標が一致するように、前記第一の縞模様画像と、前記第二の縞模様画像と、の何れか一方の縞模様画像の画素を非線形に変換する座標非線形変換処理と、
前記座標非線形変換処理により非線形に変形した一方の縞模様画像と、他方の縞模様画像と、を出力するチャーティング図編集表示処理と、
を、コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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