説明

縫合用フード

【課題】クリップを挿通自在とする単一のチャンネルを備える内視鏡の先端に装着され、クリップの腕部先端の最大離間距離より大きい開口部であっても該クリップによる縫合を可能とする縫合用フードを提供する。
【解決手段】縫合用フード1a,1bは、生体組織を縫合するクリップ9を挿通自在とするチャンネルを備える内視鏡2の先端に装着され、生体組織を把持する鉗子8a,8bを挿通自在とする少なくとも2つの導管5a,5bまたは導管10a,10bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織を縫合するクリップを挿通自在とするチャンネルを備える内視鏡の先端に装着される縫合用フードに関する。
【背景技術】
【0002】
食道、胃、十二指腸、小腸等の消化管では、計画的に穿孔や小切開を施したり、或いは意図しない穿孔等により、開口部が生じることがある。前記消化管に開口部が生じた場合、消化管の内容物が腹腔等に漏洩すると、腹膜炎や感染性腸炎等の症状を起こすことがあるので、緊急に開口を閉じる処置を行う必要がある。
【0003】
前記開口を閉じる処置としては、まず、開腹手術、腹腔鏡下外科手術、内視鏡下外科手術を組み合わせて行うことが考えられる。ここで、開腹手術及び腹腔鏡下外科手術は外科医の担当、内視鏡下外科手術は内科医の担当である。従って、状況に応じて対処し臨機の処置を行うためには、外科と内科との両方の医師の立ち会いを必要とするという問題がある。また、開腹手術は痛みが継続するため持続麻酔が必要であり、術後は1〜2週間の入院が必要になるという問題もある。
【0004】
そこで、内視鏡下に開口部をクリップで縫合することが考えられる。前記クリップとして、従来、内視鏡の1つのチャンネルにワイヤを介して挿通自在とされたクリップが知られている(例えば特許文献1参照)。前記クリップは、弾性体からなり、基端部で接続された1対の腕部を備え、該腕部の先端が互いに離間する方向に付勢されている。
【0005】
前記クリップは、ワイヤの先端に取着して内視鏡のチャンネルに挿通され、該チャンネル内では前記腕部の先端が互いに当接しており、該チャンネルから押し出されるに従って、それ自体の弾性力により該腕部の先端が互いに離間するようになっている。前記クリップは、例えば開口部等の縫合部位の組織を前記1対の腕部の先端部で挟持した状態で、該腕部にリングを嵌合し係合することにより縫合を行うことができる。
【0006】
前記クリップで縫合する場合には、外科医が立ち会うことなく内科医のみで行うことができる上、殆ど痛みを伴わず、術後の入院も不要であるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−19548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、消化管の管壁は柔らかく粘膜状であるので開口部が不安定になり、前記クリップによる縫合が困難になることがある。また、開口部が、前記腕部の先端の最大離間距離(例えば10mm)より大きい場合には、前記クリップのみでは縫合することができない。
【0009】
前記問題を解決するために、2つのチャンネルを有する内視鏡(以下、2チャンネル内視鏡と略記する)を用いる方法が提案されている。2チャンネル内視鏡は、斜め方向から開口部に対面する位置で、開口部が視野を横断するように保持される。この状態で、1つのチャンネルから鉗子を出し、該鉗子により視野内で遠方側になる開口端を把持して手前に引寄せることにより、手前側の開口端と重なり合うようにする。そして、他のチャンネルから押し出されるクリップにより重なり合った2つの開口端を縫合する。この結果、前記2チャンネル内視鏡によれば、開口部がクリップの腕部先端の最大離間距離より大きい場合にもクリップによる縫合を行うことができる。
【0010】
しかしながら、2チャンネル内視鏡は高価であるため、普及率が低く、使用できる医療機関が限定されるという不都合がある。さらに、2チャンネル内視鏡を用いる方法では、開口部に対して2チャンネル内視鏡を適切な位置に保持することが難しい上、消化管の管壁が柔らかいために鉗子により遠方側の開口端を引寄せても手前側の開口端と重合せることが難しいという不都合がある。
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、クリップを挿通自在とする単一のチャンネルを備える内視鏡の先端に装着され、クリップの腕部先端の最大離間距離より大きい開口部であっても該クリップによる縫合を可能とする縫合用フードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明の縫合用フードは、生体組織を縫合するクリップを挿通自在とするチャンネルを備える内視鏡の先端に装着される縫合用フードであって、生体組織を把持する鉗子を挿通自在とする少なくとも2つの導管を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の縫合用フードによれば、クリップを挿通自在とするチャンネルを備える内視鏡の先端に装着されることにより、少なくとも2つの導管に各1本の鉗子を挿通することができる。従って、前記内視鏡はクリップを挿通自在とするチャンネルを備えてさえいればよく、2つのチャンネルを備える必要がない。
【0014】
また、本発明の縫合用フードによれば、前記少なくとも2つの導管に各1本挿通される鉗子により、開口部の少なくとも2箇所を把持して相互に重合せることができる。従って、柔らかく、粘膜状の消化管であっても前記開口部を確実に重合せ、クリップの腕部先端の最大離間距離より大きい開口部であっても、内視鏡のチャンネルに挿通されるクリップにより該開口部を縫合することができる。
【0015】
また、本発明の縫合用フードは、前記導管を取着する方法により、複数の態様とすることができる。例えば、前記導管は、挿通される鉗子が前記縫合用フードの前方で交差するように該縫合用フードに取着されていてもよい。この態様の縫合用フードによれば、内視鏡が開口部に対して正面から対向するときに、前記開口部を容易かつ確実に重合せることができる。
【0016】
また、前記導管は、挿通される鉗子が前記縫合用フードの前方で平行となるように該縫合用フードに取着されていてもよい。この態様の縫合用フードによれば、内視鏡が開口部に対して斜め方向から対向するときに、前記開口部を容易かつ確実に重合せることができる。
【0017】
前記各態様の縫合用フードにおいて、前記導管は、長さ方向に沿って少なくともその一部が該縫合用フードに埋設されていることが好ましい。このようにすることにより、縫合用フードの先端部の外形を小さくして、消化管等への挿入に便たらしめることができる。
【0018】
また、前記各態様の縫合用フードにおいて、前記導管は、該縫合用フードの周方向に沿って、2つの導管が側面正横より互いに近接する位置に配設されて、該縫合用フードに取着されていることが好ましい。このようにすることにより、前記導管に挿通される各1本の鉗子を互いに近接する位置から突出させることができ、前記開口部を容易かつ確実に重合せることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態の縫合用フードの構成を示す平面図、(b),(c)は縫合用フードの先端側から見た正面図。
【図2】第1実施形態の縫合用フードの使用方法を示す説明図。
【図3】本発明の第2実施形態の縫合用フードの構成を示す平面図。
【図4】第2実施形態の縫合用フードの使用方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0021】
図1(a)に示すように、本発明の第1実施形態の縫合用フード1aは、内視鏡2の先端に外嵌装着される装着部3と、装着部3の前方に連設されたフード部4とを備えている。内視鏡2は、図示しないチャンネルを備え、該チャンネルに生体組織を縫合するクリップが挿通自在とされている。
【0022】
縫合用フード1aのフード部4の側面には、導管5a,5bが湾曲して取着されていることにより、各鉗子がフード部4の前方で交差するようになっている。フード部4は、導管5a,5bの取り付け角度を決めるためにある程度硬質の材料からなることが好ましく、例えばABSにより形成されている。一方、導管5a,5bは、例えば2.8mmの内径を備えており、それぞれ鉗子各1本が挿通可能とされている。また、導管5a,5bは、内側から順にポリエチレン、EVA、ポリ塩化ビニルからなる3層構造となっている。導管5a,5bは、内層をポリエチレンとすることにより、鉗子を挿通したときに滑りをよくすることができ、また外層をポリ塩化ビニルとすることによりフード部4との接着性を良好にすることができる。
【0023】
ここで、図1(b),(c)はフード部4の先端側から見た正面図である。図1(b)に示すように、導管5a,5bは、フード部4の側面正横に形成された溝部に、その一部が埋設された状態で固定されている。このようにすることにより、縫合用フード1aの先端部の外形を小さくして、消化管等への挿入に便たらしめることができる。
【0024】
さらに、図1(c)に示すように、導管5a,5bは、フード部4に形成された溝部に、その一部が埋設された状態で固定されるときに、フード部4の周方向に沿って、側面正横より互いに近接する位置に配設されて、フード部4に固定されていてもよい。このようにすることにより、導管5a,5bに挿通される各1本の鉗子を互いに近接する位置から突出させることができる。
【0025】
次に、図2を参照して、縫合用フード1aの使用方法について説明する。
【0026】
縫合用フード1aの使用に当たっては、まず、図2(a)に示すように、縫合用フード1aを装着した内視鏡2を消化管6の開口部7に正面から対向させる。このとき、開口部7は、内視鏡2の視野内にある。
【0027】
次に、図2(b)に示すように、導管5a,5bに挿通される鉗子8a,8bを出し、フード部4の前方で交差させると共に、それぞれ開口部7の相対向する開口端を把持する。
【0028】
次に、図2(c)に示すように、一方の鉗子8aで開口部7の一方の開口端を保持しつつ、他方の鉗子8bで他方の開口端を鉗子8a側に引寄せる。次いで、図2(d)に示すように、一方の鉗子8bで引寄せた開口部7の一方の開口端を保持しつつ、他方の鉗子8aで他方の開口端を鉗子8b側に引き寄せる。この結果、それぞれ一方の開口端を引寄せるときには、他方の開口端が保持されているので、柔らかく、粘膜状の消化管の開口部7の相対向する開口端を、容易かつ確実に重合せることができる。
【0029】
このとき、導管5a,5bは、図1(c)に示すように、フード部4の周方向に沿って、側面正横より互いに近接する位置に配設されているときには、挿通される鉗子8a,8bを互いに近接する位置から突出させることができる。従って、開口部7の相対向する開口端を、さらに容易かつ確実に重合せることができる。
【0030】
そして、図2(e)に示すように、内視鏡2の図示しないチャンネルにクリップ9を挿通し、該チャンネルから押し出すことにより、上述のようにして重合せられている開口部7をクリップ9により縫合する。クリップ9としては、前記従来公知のものを用いることができる。
【0031】
このようなクリップ9として、例えば、弾性体からなり、基端部で接続された1対の腕部を備え、該腕部の先端が互いに離間する方向に付勢されているものを挙げることができる。前記クリップ9は、開口部7の縫合部位の組織を前記1対の腕部の先端部で挟持した状態で、該腕部にリングを嵌合し係合することにより縫合を行うことができる。
【0032】
次に、図3に示すように、本発明の第2実施形態の縫合用フード1bは、フード部4の側面には、導管10a,10bが平行に取着されていること以外は、図1に示す縫合用フード1aと全く同一の構成を備えている。そこで、縫合用フード1aと同一の構成には、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0033】
導管10a,10bは、例えば2.8mmの内径を備えており、それぞれ鉗子各1本が挿通可能とされている。また、導管10a,10bは、内側から順にポリエチレン、EVA、ポリ塩化ビニルからなる3層構造となっている。導管10a,10bは、内層をポリエチレンとすることにより、鉗子を挿通したときに滑りをよくすることができ、また外層をポリ塩化ビニルとすることによりフード部4との接着性を良好にすることができる。
【0034】
導管10a,10bは、フード部4の側面に平行に取着されていることにより、挿通される各鉗子がフード部2の前方で平行になるようになっている。また、導管10a,10bは、図1(b)に示す導管5a,5bと同様に、フード部4の側面正横に半ば埋設して取着されており、このようにすることにより、縫合用フード1bの先端部の外径を小さくして、消化管等への挿入に便たらしめることができる。また、導管10a,10bは、図1(c)に示す導管5a,5bと同様に、フード部4の周方向に沿って、側面正横より互いに近接する位置に配設されて、フード部4に取着されていてもよい。このようにすることにより、導管10a,10bに挿通される各1本の鉗子を互いに近接する位置から突出させることができる。
【0035】
次に、図4を参照して、縫合用フード1bの使用方法について説明する。
【0036】
縫合用フード1bの使用に当たっては、まず、図4(a)に示すように、縫合用フード1bを装着した内視鏡2を消化管6の開口部7に斜め方向から対向させる。このとき、開口部7は、内視鏡2の視野内を横断する状態になっている。
【0037】
次に、図4(b)に示すように、導管10a,10bに挿通される鉗子8a,8bを出し、フード部4の前方で平行になるようにして、それぞれ開口部7の相対向する開口端を把持する。このとき、具体的には、一方の鉗子8aで、内視鏡2の視野内で遠方の側の開口部7の一方の開口端を把持し、他方の鉗子8bで、手前側の開口端を把持する。
【0038】
次に、図4(c)に示すように、一方の鉗子8bで開口部7の手前側の開口端を保持しつつ、他方の鉗子8bで遠方の側の開口端を鉗子8a側に引寄せる。この結果、手前側の開口端が保持されているので、柔らかく、粘膜状の消化管の開口部7の相対向する開口端を、容易かつ確実に重合せることができる。
【0039】
このとき、導管10a,10bは、図1(c)に示す導管5a,5bと同様に、フード部4の周方向に沿って、側面正横より互いに近接する位置に配設されているときには、挿通される鉗子8a,8bを互いに近接する位置から突出させることができる。従って、開口部7の相対向する開口端を、さらに容易かつ確実に重合せることができる。
【0040】
そして、図4(d)に示すように、内視鏡2の図示しないチャンネルにクリップ9を挿通し、該チャンネルから押し出すことにより、上述のようにして重合せられている開口部7をクリップ9により縫合する。クリップ9としては、前記第1実施形態と同様に前記従来公知のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1a,1b…縫合用フード、 2…内視鏡、 5a,5b,10a,10b…導管、 8a,8b…鉗子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を縫合するクリップを挿通自在とするチャンネルを備える内視鏡の先端に装着される縫合用フードであって、
生体組織を把持する鉗子を挿通自在とする少なくとも2つの導管を備えることを特徴とする縫合用フード。
【請求項2】
請求項1記載の縫合用フードにおいて、前記導管は、挿通される鉗子が前記縫合用フードの前方で交差するように該縫合用フードに取着されていることを特徴とする縫合用フード。
【請求項3】
請求項1記載の縫合用フードにおいて、前記導管は、挿通される鉗子が前記縫合用フードの前方で平行となるように該縫合用フードに取着されていることを特徴とする縫合用フード。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の縫合用フードにおいて、前記導管は、長さ方向に沿って少なくともその一部が該縫合用フードに埋設されていることを特徴とする縫合用フード。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の縫合用フードにおいて、前記導管は、該縫合用フードの周方向に沿って、2つの導管が側面正横より互いに近接する位置に配設されて、該縫合用フードに取着されていることを特徴とする縫合用フード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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