説明

縮合環化合物及びその製造方法

【課題】より簡単な方法で8員環以上の環を有する多環性の環状縮合化合物を製造すること、また、この製造方法により得られる多環性の環状縮合化合物を提供する。
【解決手段】下記の一般式(1A)で示される構造を有する縮合環化合物を提供する。


[式中、Xは炭素原子又はヘテロ原子含有基であり、Yは電子吸引基であり、Rはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜20のアルキル基であり、環Aは8〜10員環であり、nは前記環Aが8員環である場合には0〜5の整数であり、前記環Aが9員環である場合には0〜6の整数であり、前記環Aが10員環である場合には0〜7の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上の環の縮合により得られる多環性の環状縮合化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2以上の環の縮合により得られる多環性の環状縮合化合物は、従来より医薬品や農薬として知られている。例えば非特許文献1には植物(キセニアウンベラータ)から単離したジテルペノイドの一種である9員環化合物が、白血病の治療薬として有用であることが開示されている。また、非特許文献2には、アミジノベンジリデンを置換基に有するシクロケトン化合物が、血液凝固因子の阻害剤として有用であることが開示されている。また、非特許文献3には、植物性自然毒のcornexistinとhydroxycornexistinが除草剤として有用であることが開示されている。
【非特許文献1】J.Nat.Prod.2006,69,338−341
【非特許文献2】J.Med.Chem.1999,42,5415−5425
【非特許文献1】Organic Letters,2003,vol.5,No.1,89−92
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一般に多環性の環状縮合化合物はその構造の複雑さ故に、製造工程が煩雑で、かつ、困難である。特に、8員環以上の化合物は、環構造にひずみが存在することから、その製造は特に困難である。従来は非特許文献1のように、天然物から抽出することにより取得したり、非特許文献3のように、環状ではない化合物を複数の工程を経て環を形成することにより取得している。
【0004】
以上の課題に鑑み、本発明は従来よりも簡単な方法で8員環以上の環を有する多環性の環状縮合化合物を製造すること、また、この製造方法により得られる多環性の環状縮合化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、環ひずみの大きい環を有するシクロアルカンと、2以上の不飽和結合を有する炭化水素化合物と、を反応させることにより、室温で、かつ、従来よりも簡単な方法で8員環以上の環を有する多環性の環状縮合化合物を製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下の発明を提供する。
【0006】
本発明は、少なくとも2以上の環を縮合させることにより得られる縮合環化合物であって、下記の一般式(1A)で示される構造を有する縮合環化合物を提供する。
【化1】

[式中、Xは炭素原子又はヘテロ原子含有基であり、Yは電子吸引基であり、Rはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜20のアルキル基であり、環Aは8〜10員環であり、nは前記環Aが8員環である場合には0〜5の整数であり、前記環Aが9員環である場合には0〜6の整数であり、前記環Aが10員環である場合には0〜7の整数である。]
【0007】
また本発明は、少なくとも2以上の環の縮合により得られる縮合環化合物の製造方法であって、少なくとも2以上の不飽和結合を有する炭化水素化合物と、電子吸引基を有する3又は4員環の環状化合物と、をニッケル触媒のもと反応させる工程を有する縮合環化合物の製造方法を提供する。
【0008】
本発明において「縮合環化合物」とは、2以上の環の縮合反応により得られる環状化合物をいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来よりも簡単な方法で8員環以上の環を有する多環性の環状縮合化合物を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略するが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0011】
[縮合環化合物]
本発明に係る縮合環化合物は、少なくとも2以上の環を縮合させることにより得られ、下記の一般式(1A)で示される構造を有する。
【化2】

[式中、Xは炭素原子又はヘテロ原子含有基であり、Yは水素又は電子吸引基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基であり、環Aは8〜10員環であり、mは前記環Aが8員環である場合には0〜8の整数であり、前記環Aが9員環である場合には0〜10の整数であり、前記環Aが10員環である場合には0〜12の整数である。]
【0012】
ここで、Xの「ヘテロ原子含有基」とは、少なくとも酸素、窒素、硫黄からなる群から選ばれる少なくともいずれかの原子を含有する2価の基をいう。具体的には下記のいずれかの構造を有することが好ましく、環を有していてもよい。なお、式中の「Ts」は、トルエンスルホニル基を示す。
【化3】

【0013】
また、Yの「電子吸引基」とは、共鳴効果や誘起効果により電子を引付ける原子又は原子団をいう。具体的には、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アシル基、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ハロゲン、からなる群から選ばれるいずれかの基が挙げられる。
【0014】
ここで、「アシル基」とは、炭素数が通常2〜20であり、具体的には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレイル基、イソバレイル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、シクロヘキシルカルボニル基、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロベンゾイル基等が挙げられる。これらは炭素数1〜5の低級アルキル基のような置換基を有していてもよい。
また、「アルキルオキシカルボニル基」とは、炭素数が通常2〜20であり、具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、i−プロピルオキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、i−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、ノニルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、3,7−ジメチルオクチルオキシカルボニル基、ラウリルオキシカルボニル基、トリフルオロメトキシカルボニル基、ペンタフルオロエトキシカルボニル基、パーフルオロブトキシカルボニル基、パーフルオロヘキシルオキシカルボニル基、パーフルオロオクチルオキシカルボニル基等が挙げられる。これらは炭素数1〜5の低級アルキル基のような置換基を有していてもよい。
【0015】
また、「アリールオキシカルボニル基」は、炭素数が通常7〜60程度であり、具体的にはフェノキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルコキシフェノキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルフェノキシカルボニル基、1−ナフチルオキシカルボニル基、2−ナフチルオキシカルボニル基、ペンタフルオロフェニルオキシカルボニル基、チエニルオキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルチエニルオキシカルボニル基、ピロリルオキシカルボニル基、フリルオキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基、C1〜C12アルキルピリジルオキシカルボニル基、イミダゾリルオキシカルボニル基、ピラゾリルオキシカルボニル基、トリアゾリルオキシカルボニル基、オキサゾリルオキシカルボニル基、チアゾールオキシカルボニル基、チアジアゾールオキシカルボニル基等が挙げられる。これらは炭素数1〜5の低級アルキル基のような置換基を有していてもよい。
【0016】
また、「アリールアルキルオキシカルボニル基」は、炭素数が通常8〜60程度であり、その具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基を有するフェニル−アルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコキシフェニル−アルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルフェニル−アルコキシカルボニル基、1−ナフチル−アルコキシカルボニル基、2−ナフチル−アルコキシカルボニル基等が挙げられる。これらは炭素数1〜5の低級アルキル基のような置換基を有していてもよい。
「ハロゲン」としては、フッ素、塩素、臭素等が挙げられる。
【0017】
上述の電子吸引基のうち、ホルミル基、アセチル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、アルコキシフェノキシカルボニル基等であることが好ましい。
【0018】
また、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜20程度の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ラウリル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基等が挙げられる。このうち、メチル基又はエチル基であることが好ましい。また、当該アルキル基は、置換基や不飽和結合を有していてもよい。
置換基を有していてもよいアルキル基としては、アルキル基又はアリール基で置換されたシリル基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、水酸基等が挙げられる。
【0019】
置換基Rの数mは、特に限定される環Aが8員環である場合には0〜8の整数であることが好ましく、1〜3の整数であることがより好ましい。また、環Aが9員環である場合には数mは、0〜10の整数であることが好ましく、1〜3の整数であることがより好ましい。また、環Aが10員環である場合には数mは、0〜12の整数であることが好ましく、1〜3の整数であることがより好ましい。
また、環Aは8〜10員環であるが、9員環であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る縮合環化合物は、具体的には以下の構造を有することが好ましい。なお、式中の「Ts」は、トルエンスルホニル基を示す。
【化4】

【化5】

【化6】


【0021】
[縮合環化合物の製造方法]
また本発明は、上記縮合環化合物の製造方法を提供する。具体的には、少なくとも2以上の不飽和結合を有する炭化水素化合物と、電子吸引基を有する3又は4員環の環状化合物と、をニッケル触媒のもと反応させる工程を有する。
炭化水素化合物の不飽和結合は、反応活性点となり得る。また、3又は4員環の環状化合物は、環ひずみが大きいため開環しやすく(反応活性点となりやすく)、反応のドライビングフォースとなり得る。そのため、これらの化合物を出発原料とすることにより、本発明に係る縮合環状化合物を容易に製造することが可能となる。即ち、反応活性点を複数個所有する化合物を主発原料に使用することにより、室温で、一段階の反応で縮合環状化合物を製造することが可能となる。また、本発明に係る製造方法によれば、反応副生成物が殆ど生成しないため、目的生成物と反応副生成物を分離する必要がない。さらに、室温で反応させることが可能となる。これによって製造工程を簡略化することが可能となるだけではなく、従来よりも高い収率で目的生成物を得ることが可能となる。
また、ニッケル触媒を用いることによって、縮合反応をより効率よく進行させることが可能となる。
【0022】
ここで、「少なくとも2以上の不飽和結合を有する炭化水素化合物」とは、1分子内に二重結合又は三重結合の少なくともどちらかを含有する化合物をいう。このように複数の不飽和結合を含有することによって、反応活性点を担保することが可能となる。
具体的には、以下の一般式(1B)、(1B´)で示される少なくともどちらか一方の構造を有することが好ましい。
【化7】

[式中、B〜Gはそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜20のアルキル基であり、n,o,p,qはそれぞれ独立して1〜20の整数である。]
【0023】
ここで、B〜Gはそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。当該アルキル基は直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ラウリル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基等が挙げられる。このうち、メチル基又はエチル基であることが好ましい。当該アルキル基は、置換基や不飽和結合を有していてもよい。
また、置換基を有していてもよいアルキル基としては、アルキル基又はアリール基で置換されたシリル基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、水酸基等が挙げられる。
【0024】
このうち、水素、メチル基又はエチル基のいずれかであることが好ましい。また、n,o,p,qはそれぞれ独立して1〜20の整数であり、それぞれ1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましい。
【0025】
一般式(1B)で示される化合物としては、以下のものが挙げられる。なお、式中の「Ts」は、トルエンスルホニル基を、「TMS」はトリメチルシリル基を、「NBn」はニトロベンジル基を示す。
【化8】

【0026】
また、一般式(1B´)で示される化合物としては、以下のものが挙げられる。なお、式中の「Ts」は、トルエンスルホニル基を、「TMS」はトリメチルシリル基を、「NBn」はニトロベンジル基を示す。
【化9】

【0027】
上記炭化水素化合物は、出発原料となるアミン、アルコールまたはマロン酸エステル類と、ハロゲン化物と、の縮合により製造することができる。例えば、下記の構造を有するジエンインの場合には、以下のような反応スキームにより得ることができる。
【化10】

【0028】
また、「電子吸引基を有する3又は4員環の環状化合物」とは、置換基に電子吸引基を有する3員環乃至4員環化合物をいう。当該電子吸引基と3員環乃至4員環は、不飽和結合を介して置換されていることが好ましい。このように、不飽和結合を介して置換することにより、環の開環を促進することが可能となる。
当該電子吸引基としては、一般式(1A)におけるYと同義である。即ち、Yはニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アシル基、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ハロゲン、からなる群から選ばれるいずれかの基が挙げられる。
【0029】
具体的には、以下のいずれかの構造を有していることが好ましい。
【化11】

[式中、Yはそれぞれ独立して水素又は電子吸引基であり、W,Zはそれぞれ独立して炭素原子、窒素原子、酸素原子であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基であり、rは1〜4の整数であり、sは1〜7の整数である。]
【0030】
中でも、以下の一般式(1C)、(1C´)で示される少なくともどちらか一方の構造を有することが好ましい。
【化12】

[式中、Yはそれぞれ独立して水素又は電子吸引基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基であり、rは1〜4の整数であり、sは1〜7の整数である。]
【0031】
ここで、Yはアシル基であることが好ましい。アシル基のうち、ホルミル基やアセチル基であることがより好ましい。Rは、上記一般式(1A)におけるRと同義である。このうち、メチル基又はエチル基であることが好ましい。また、rは1〜4の整数であり、sは1〜7の整数である。r、sはそれぞれ独立して1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましい。
【0032】
一般式(1C)で示される化合物としては、以下のものが挙げられる。
【化13】

【0033】
また、一般式(1C´)で示される化合物としては、以下のものが挙げられる。
【化14】

【0034】
上記環状化合物は、例えばSpitzner,D.;Swoboda,H.TetrahedronLett.1986,27,1281−1284.に記載の環状ケトン又はヘミアセタールと有機リン化合物を用いる、所謂Wittig反応により製造することができる。
【0035】
また、本反応工程において、触媒としてニッケル触媒を用いる。これによって反応を促進させることが可能となる。ニッケル触媒としては、Ni(CO)、Ni(Cod)、Ni(CH=CH)(PPh、Ni(PPh、NiCl(PPh3)のようなニッケル錯体(但し、Codはシクロオクタジエンをいう。以下同様)を用いることが好ましい。
【0036】
また、反応をより促進させるために、リガンドを添加してもよい。リガンドは特に限定されるものではないが、例えば、トリフェニルホスフィン、ピリジン、硝酸イオン、ハロゲン化物イオン、アンモニア、一酸化炭素等の単座配位子、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ビピリジン(bpy)、フェナントロリン(phen)、BINAP、カテコラート等の二座配位子、ターピリジン(tpy)、エチレンジアミン四酢酸(edta)、ポルフィリン、サイクラム、クラウンエーテル類等の三座以上の多座配位子等が挙げられる。
このうち、反応効率が高く、かつ、高収率が期待できるという点でトリフェニルホスフィンを用いることが好ましい。
【0037】
また、反応溶媒としては、特に限定されないが、ヘキサン、トルエン、テトラヒドロフランヘプタン、デカン、ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等が挙げられる。
【0038】
本反応工程において、出発原料である上記炭化水素化合物と環状化合物との反応比は、3モル:1モル〜1モル:5モルであることが好ましく、1モル:1モル〜1モル:3モルであることがより好ましく、1モル:1.5モルであることが更に好ましい。また、ニッケル触媒の添加量は、0.01モル〜1モルであることが好ましく、0.01モル〜0.2モルであることがより好ましく、0.01モル〜0.1モルであることが更に好ましい。リガンドの添加量としては、0.01モル〜1モルであることが好ましく、0.01モル〜0.2モルであることがより好ましく、0.01モル〜0.1モルであることが更に好ましい。
【0039】
反応は、ニッケル触媒及びリガンドを添加した溶媒に、炭化水素化合物と環状化合物を、室温〜50℃にて2時間〜30時間かけて滴下させ、15時間〜40時間攪拌することにより行われる。
【0040】
このような方法により得られる本発明に係る縮合環化合物は、医薬品、農薬等として用いることが可能である。
【0041】
[医薬品の製法]
医薬品に関しては、本発明に係る縮合環化合物をそのまま、あるいは水等で希釈して、投与できる。もしくはこれを公知の医薬用担体と共に製剤化することができる。
【0042】
医薬品中の縮合環化合物の用量は、患者の年齢、状態、及び体重、並びに適用様式に依存する。一般に、活性成分の一日の用量は経口適用で約0.5mg/体重kgから50mg/体重kgであり、かつ非経口適用で約0.1mg/体重kgから10mg/体重kgであることが好ましい。
【0043】
医薬品の剤型としては例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、軟膏剤、注射剤あるいは点眼剤等が挙げられる。これらの医薬品は、その剤型に応じ、調剤学上使用される手法により適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物と適宜混合又は希釈・溶解し、常法に従い調剤することにより製造することができる。
【0044】
例えば、医薬品の調製において、本発明に係る縮合環化合物に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム及びポリエチレングリコールワックス類等の崩壊剤や、滑沢剤を添加してもよい。更に、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、スターチ、アミロペクチン、セルロース誘導体、ゼラチン等を混合してもよい。
【0045】
カプセル剤に調製する場合には、植物性オイル、脂肪又は他の軟ゼラチンカプセルに、適切な賦形剤の混合物を含むカプセルと共に調製されることが好ましい。また、硬ゼラチンカプセルは、活性化合物の顆粒を含んでいてもよい。
【0046】
シロップ剤又は懸濁剤を調製する場合には、糖又は糖アルコール及びエタノール、水、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物を添加することが好ましい。また、更に着色剤、香味剤、保存剤、サッカリン及びカルボキシメチルセルロース又は他の増粘剤を含んでもよい。液剤は、また、使用前に適切な溶媒に溶解するドライパウダーの形態に調製していてもよい。
【0047】
非経口投与用の溶液として調製する場合には、薬剤的に受容可能な溶媒に、縮合環化合物を溶解させた溶液として調製される。またこれらの溶液は、安定化成分及び/又は緩衝化成分を含む。また非経口投与用の溶液は使用前に適切な溶媒に溶解する乾燥製剤として調製してもよい。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
前記一般式(1C)において、Yがエトキシカルボニル基であるメチレンシクロプロパンと、前記一般式(1B)において、B〜Eが水素であり、nが1であり、oが2であり、Xが−C(COEt)であるジエンインを用いて縮合環化合物を製造した。このときの合成スキームは、以下の通りである。
まず、出発原料メチレンシクロプロパン1モルとジエンイン1.5モルとを、10モル%のニッケル触媒(Ni(Cod))と20モル%のリガンド(トリフェニルホスフィン)を添加したトルエン1モル中に、5時間かけて滴下させ、15時間反応させた。
生成物を、シリカゲルカラムによるカラムクロマトグラフィーを用いて精製した(エルエント:hexane/AcOEt12:1)。得られた無色油状の生成物を核磁気共鳴(H−NMR、13C−NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)、マススペクトルを用いて同定した。また、このときの収率は70%であった。
【化15】

【0049】
H−NMR(600MHz,CDCl)6.14(s,1H),5.59(s,1H),5.40(d−d,J=18.9,8.4Hz,1H),5.13(t,J=9.6Hz,1H),4.21−4.15(m,4H),4.11(q−d,J=7.2,1.8Hz,2H),4.00(q,J=8.4Hz,1H),3.33(d−d,J=13.5,8.4Hz,1H),3.16(d−t,J=16.8,2.4Hz,1H),2.93(d,J=16.8Hz,1H),2.73(d−d−d,J=13.1,8.4,1.2Hz,1H),2.21−2.17(m,2H),2.11(t,J=12Hz,1H),1.99(d−d,J=13.2,7.8Hz,1H),1.97−1.92(m,1H),1.49−1.43(m,1H),1.25−1.22(m,9H);
13C−NMR(600MHz,CDCl)171.3,171.1,166.6,160.1,149.5,132.7,128.2,127.3,118.3,61.6,61.6,59.5,58.8,43.6,41.4,39.1,30.3,27.4,27.4,14.3,14.0,14.0;
IR(neat)3454,2980,2935,2866,1732,1644,1599,1445,1389,1368,1326,1261,1198,1156,1113,1094,1070,1034,965,883,863,756,667,441cm−1
HR−MS.CalcdforC2230:390.2042.Found:390.2037.
【0050】
〔実施例2〕
前記一般式(1C)において、Yがエトキシカルボニル基であるメチレンシクロプロパンと、前記一般式(1B)において、B〜Eが水素であり、nが1であり、oが2であり、Xがニトロトルエンスルホニル基であるジエンインを用いて縮合環化合物を製造した。このときの合成スキームは、以下の通りである。
まず、出発原料メチレンシクロプロパン1モルとジエンイン1.5モルとを、10モル%のニッケル触媒(Ni(Cod))と20モル%のリガンド(トリフェニルホスフィン)を添加したトルエン1モル中に、5時間かけて滴下させ、17時間反応させた。
生成物を、シリカゲルカラムによるカラムクロマトグラフィーを用いて精製した(エルエント:hexane/AcOEt15:1)。得られた無色油状の生成物を核磁気共鳴(H−NMR、13C−NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)、マススペクトルを用いて同定した。また、このときの収率は70%であった。
【化16】

【0051】
H−NMR(600MHz,CDCl)7.70(d,J=8.4Hz,2H),7.33(d,J=7.8Hz,2H),6.03(s,1H),5.58(s,1H),5.44(d−d−d,J=18.2,9.2,1.4Hz,1H),5.18(t,J=9.9Hz,1H),4.11(q,J=7.2Hz,2H),3.96(br,1H),3.91(t,J=2.0Hz,1H),3.76(d−d,J=15,1.5Hz,1H),3.38(d−d,J=9.9,7.2Hz,1H),3.28(d−d−t,J=13.7,8.4,1.5Hz,1H),3.13(d−d,J=9.8,4.1Hz,1H),2.43(s,3H),2.12−1.98(m,4H),1.48−1.38(m,1H),1.24(t,J=7.2Hz,3H);
13C−NMR(600MHz,CDCl)166.6,158.2,144.8,144.0,131.9,130.1,129.7,128.3,128.1,127.5,119.9,59.7,54.6,54.3,39.3,30.0,27.5,27.4,21.5,14.2;
IR(neat)3437,2977,2931,2858,1707,1597,1457,1337,1278,1162,1092,1039,823,811,671,551cm−1
HR−MS.CalcdforC2227NOS:401.1661.Found:401.1659.
【0052】
〔実施例3〕
前記一般式(1C)において、Yがエトキシカルボニル基であるメチレンシクロプロパンと、前記一般式(1B)において、B〜Eが水素であり、nが1であり、oが2であり、Xがニトロベンジル基であるジエンインを用いて縮合環化合物を製造した。このときの合成スキームは、以下の通りである。
まず、出発原料メチレンシクロプロパン1モルとジエンイン1.5モルとを、10モル%のニッケル触媒(Ni(Cod))と20モル%のリガンド(トリフェニルホスフィン)を添加したトルエン1モル中に、5時間かけて滴下させ、22時間反応させた。
生成物を、シリカゲルカラムによるカラムクロマトグラフィーを用いて精製した(エルエント:hexane/AcOEt10:1)。得られた無色油状の生成物を核磁気共鳴(H−NMR、13C−NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)、マススペクトルを用いて同定した。また、このときの収率は59%であった。
【化17】

【0053】
H−NMR(600MHz,CDCl)7.34−7.25(m,5H),6.07(s,1H),5.59(s,1H),5.43(d−d,J=18.6,8.4Hz,1H),5.32(t,J=9.6Hz,1H),4.11(q−d,J=6.9,2.4Hz,2H),4.03(br,1H),3.65(d,J=12.6Hz,1H),3.60(d,J=12Hz,1H),3.35(d−d,J=13.5,8.4Hz,1H),3.31(d,J=13.8Hz,1H),3.24(d,J=13.2Hz,1H),2.94(br,1H),2.51(br,1H),2.20−2.16(m,3H),2.02−1.97(m,1H),1.47−1.40(m,1H),1.24(t,J=7.2Hz,3H);
13C−NMR(600MHz,CDCl)166.6,131.9,128.8,128.8,127.2,126.8,126.4,118.6,61.6,61.3,60.2,59.5,40.0,30.2,27.7,27.6,14.3;
IR(neat)3853,3750,3649,3027,2928,2862,2791,2735,2362,2337,1653,1558,1456,1041,879,754,699,667cm−1
HR−MS.CalcdforC2227NO:337.2042.Found:337.2041.
【0054】
〔実施例4〕
前記一般式(1C)において、Yがエトキシカルボニル基であるメチレンシクロプロパンと、前記一般式(1B)において、B,C,Eが水素でありDがメチル基、nが1であり、oが2であり、Xがオキシ基であるジエンインを用いて縮合環化合物を製造した。このときの合成スキームは、以下の通りである。
まず、出発原料メチレンシクロプロパン1モルとジエンイン1.5モルとを、10モル%のニッケル触媒(Ni(Cod))と20モル%のリガンド(トリフェニルホスフィン)を添加したトルエン1モル中に、5時間かけて滴下させ、21.5時間反応させた。
生成物を、シリカゲルカラムによるカラムクロマトグラフィー(エルエント:hexane/AcOEt30:1)で分離し、更にヘキサン中で再結晶させた。得られた無色の結晶を核磁気共鳴(H−NMR、13C−NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)、マススペクトルを用いて同定した。また、このときの収率は40%であった。
【化18】

【0055】
H−NMR(600MHz,CDCl)6.08(s,1H),5.63(s,1H),5.14(t,J=10.2Hz,1H),5.08(t−d,J=9.6,1.8Hz,1H),4.39(d−d,J=13.2,1.8Hz,1H),4.33(d,J=13.2Hz,1H),4.14−4.10(m,3H),4.04(br,1H),3.73−3.71(m,1H),3.33(d−d,J=10.2,12Hz,1H),2.55−2.48(m,1H),2.19(t,J=12Hz,1H),1.96−1.92(m,1H),1.30(q,J=12Hz,1H),1.25(t−d,J=7.2,2.4Hz,3H),1.00(d−d,J=6.6,2.4Hz,3H);
13C−NMR(600MHz,CDCl)166.4,159.5,149.9,134.1,128.2,124.7,119.2,75.0,73.3,59.6,41.0,35.9,34.2,30.6,22.5,14.3;
IR(neat)3302,2953,2866,1705,1602,1441,1382,1256,1208,1179,1156,1073,1038,931,893,757cm−1
HR−MS.CalcdforC1622:262.1569.Found:262.1564.
【0056】
〔実施例5,6〕
前記一般式(1C)において、Yがエトキシカルボニル基であるメチレンシクロプロパンと、前記一般式(1B)において、B〜Eが水素であり、nが1であり、oが2であり、Xがフェニル基を有するオキシ基であるジエンインを用いて縮合環化合物を製造した。このときの合成スキームは、以下の通りである。
まず、出発原料メチレンシクロプロパン1モルとジエンイン1.5モルとを、10モル%のニッケル触媒(Ni(Cod))と20モル%のリガンド(トリフェニルホスフィン)を添加したトルエン1モル中に、5時間かけて滴下させ、15時間反応させた。
生成物を、シリカゲルカラムによるカラムクロマトグラフィー(エルエント:hexane/AcOEt30:1)で分離した。得られた無色油状の生成物を核磁気共鳴(H−NMR、13C−NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)、マススペクトルを用いて同定した。
この反応において、得られた縮合環化合物には異性体(E体とZ体)が存在した。それぞれの収率は、E体が33%、Z体が35%であった。
【化19】

【0057】
〔比較例1〜3〕
上記一般式(1C)において、Yがエトキシカルボニル基であるメチレンシクロプロパン1モルと、炭化水素化合物として4−オクチン5モルを、触媒としてトリス(トリフェニルホスフィン)クロロジウム、CpCo(PPh((cyclopentadienyl)bis(triphenylphosphine)cobalt)、CpCo(CO)(cyclopentadienylcobalt dicarbonyl)をそれぞれ用い、表1に示す条件で反応させた。このときの合成スキームは以下の通りである。
反応過程において、随時薄層クロマトグラフィーにて反応の様子を確認し、反応が終了していると判断された時点でショートカラムに通し後処理を行った。その後核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定したが、原料のメチレンシクロプロパンのピークしか確認することができなかった。
【表1】

【化20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2以上の環を縮合させることにより得られる縮合環化合物であって、下記の一般式(1A)で示される構造を有する縮合環化合物。
【化1】

[式中、Xは炭素原子又はヘテロ原子含有基であり、Yは水素又は電子吸引基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基であり、環Aは8〜10員環であり、mは前記環Aが8員環である場合には0〜8の整数であり、前記環Aが9員環である場合には0〜10の整数であり、前記環Aが10員環である場合には0〜12の整数である。]
【請求項2】
前記環Aは9員環である請求項1に記載の縮合環化合物。
【請求項3】
前記へテロ原子含有基は、少なくとも酸素、窒素、硫黄からなる群から選ばれるいずれかの原子を含有する基である請求項1又は2に記載の縮合環化合物。
【請求項4】
前記電子吸引基は、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アシル基、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、パーフルオロアルキル基、ハロゲン原子、からなる群から選ばれるいずれかの基である請求項1から3いずれかに記載の縮合環化合物。
【請求項5】
少なくとも2以上の環の縮合により得られる縮合環化合物の製造方法であって、
少なくとも2以上の不飽和結合を有する炭化水素化合物と、電子吸引基を有する3又は4員環の環状化合物と、をニッケル族触媒のもと反応させる工程を有する縮合環化合物の製造方法。
【請求項6】
前記電子吸引基は、アシル基、シアノ基、アシルオキシ基、アミド基、ホルミル基、ニトロ基、ニトロソ基、イミノ基、スルホニル基、スルホニルアミド基からなる群から選ばれるいずれかの基である請求項5に記載の縮合環化合物の製造方法。
【請求項7】
前記炭化水素化合物は、以下の一般式(1B)、(1B´)で示される少なくともどちらか一方の構造を有する請求項5又は6に記載の縮合環化合物の製造方法。
【化2】

[式中、B〜Gはそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜20のアルキル基であり、n,o,p,qはそれぞれ独立して1〜20の整数である。]
【請求項8】
前記電子吸引基は、不飽和結合を介して前記環状化合物に置換されている請求項5から7いずれかに記載の縮合環化合物の製造方法。
【請求項9】
前記環状化合物は、以下の一般式(1C)、(1C´)で示される少なくともどちらか一方の構造を有する請求項5から8いずれかに記載の縮合環化合物の製造方法。
【化3】

[式中、Yはそれぞれ独立して水素又は電子吸引基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基であり、rは1〜4の整数であり、sは1〜7の整数である。]

【公開番号】特開2008−195641(P2008−195641A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31357(P2007−31357)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】