説明

繊維、不織布とこれを用いた電池用セパレータ、電池及びイオン交換フィルター

【課題】イオン交換能を有する繊維、この繊維を含む不織布強度の低下がなく、通気性に優れたイオン交換能を有する不織布とこれを用いた電池用セパレータ、電池及びイオン交換フィルターを提供する。
【解決手段】本発明の繊維及び不織布は、繊維表面に少なくともポリオレフィン系樹脂が露出している繊維の表面を熱硬化性樹脂が被覆している繊維及びこれを含む不織布であって、前記熱硬化性樹脂はイオン交換能を有しており、前記熱硬化性樹脂の硬化により、前記熱硬化性樹脂は前記繊維表面に固定されている。本発明の電池用セパレータは、前記の不織布から構成される。本発明の電池は、前記の電池用セパレータを用いたものである。本発明のイオン交換フィルターは、前記の不織布からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換能を有する熱硬化性樹脂を繊維表面に固着させた繊維に関し、特に、イオン交換性能に優れた繊維を含む繊維集合物、不織布、これを用いた電池用セパレータ、電池及びイオン交換フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン交換能を有する不織布としては、不織布表面を無水硫酸や発煙硫酸でスルホン化処理した不織布、或いはイオン交換能を有する粉体等をバインダー樹脂を用いて固着させた不織布などがあり、イオン交換フィルターや電池用セパレータなどに用いられている。特許文献1は、不織布に無水硫酸処理や発煙硫酸処理によるスルホン化処理を施し、不織布表面を親水化した電池用セパレータが開示されている。特許文献2は、樹脂をコーティングしたポリオレフィン系不織布の表面に、酸化処理を施し、酸素官能基を導入することが開示されている。そして、酸化処理は、酸素ガスによる気相反応により、繊維表面に酸素官能基を導入して親水性を発現させるものである。特許文献3には、バインダー樹脂を用いてイオン交換性微粉体を多孔性シートに固着させることが開示されている。特許文献4は、末端変性ポリオレフィンをポリオレフィン不織布に含浸固着させた親水性ポリオレフィン不織布が開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1で示されるようなスルホン化処理を施した不織布は、強い酸化作用により樹脂表面が劣化してしまい、不織布強力が低下するという問題があった。また、特許文献2のように不織布表面に樹脂をコーティングした後に酸化処理により、酸素官能基を導入する方法であっても、強力を損なうことなくイオン交換能を有する不織布は得るには至っていない。また、特許文献3は強力を損なうことなくイオン交換能を有する不織布を得る方法として、バインダー樹脂を用いてイオン交換性微粉体を多孔性シートに固着させる技術を開示している。しかし、特許文献3は、微粉体がバインダー樹脂に埋もれやすく、微粉体のイオン交換性能が十分に発揮されないという問題があった。さらに、特許文献3に記載された技術は、微粉体の固着に用いられるバインダー樹脂が多孔シートの孔を塞いでしまい、多孔シートの通気性が低下する、又はバインダー樹脂を不織布シートに含浸乾燥させるので生産性が悪くなる、という問題もあった。さらに、特許文献4は、末端変性ポリオレフィンを不織布に含浸固着させた親水性不織布が開示している。しかし、特許文献4は、末端基を変性させているので、スルホン基等の官能基をポリマーの末端にのみしか導入することができず、不織布全体としての官能基の量が少なくなるという問題があった。また、不織布全体としての官能基の量を増やすために、多量の末端変性ポリオレフィンで不織布を被覆すると、不織布の通気性を低下させてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2000−215876号公報
【特許文献2】特開平07−192715号公報
【特許文献3】特開平09−330694号公報
【特許文献4】特開平11−189958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、長期にわたり安定したイオン交換能を有する繊維、繊維集合物、不織布、これを用いた電池用セパレータ、電池、及びイオン交換フィルターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の繊維は、繊維表面に少なくともポリオレフィン系樹脂が露出している繊維の表面を熱硬化性樹脂が被覆している繊維であって、前記熱硬化性樹脂はイオン交換能を有しており、前記熱硬化性樹脂の硬化により、前記熱硬化性樹脂は前記繊維表面に固定されていることを特徴とする。
【0006】
本発明の繊維集合物は、前記繊維を含む。
【0007】
本発明の不織布は、前記繊維を含む。
【0008】
本発明の電池用セパレータは、前記の不織布から構成される。
【0009】
本発明の電池は、前記の電池用セパレータを用いたものである。
【0010】
本発明のイオン交換フィルターは、前記の不織布からなるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維は、イオン交換能を有している。本発明の繊維集合物、不織布及びイオン交換フィルターは、熱硬化性樹脂それ自体の硬化により繊維表面に固定され、かつ熱硬化性樹脂はイオン交換能を有していることにより、長期にわたり安定したイオン交換性能を有する。また、本発明の不織布を電池用セパレータとして用いる場合には、優れた自己放電特性を有し、長期にわたり親水性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者は、イオン交換能を有する繊維を得る方法として、繊維表面にイオン交換能を有する熱硬化性樹脂をコーティングすることについて検討した。さらには、繊維表面を構成する繊維とイオン交換能を有する熱硬化性樹脂との組み合わせについても検討した。その結果、ポリオレフィン系樹脂が露出する繊維の繊維表面にイオン交換能を有する熱硬化性樹脂をコーティングし硬化させることで、長期にわたって安定したイオン交換性能を有する繊維が得られることを見出した。
【0013】
さらに好ましくは、ポリオレフィン系樹脂と熱硬化性樹脂を化学的に結合させることで、さらに長期にわたって安定したイオン交換性能を有する繊維が得られる。
【0014】
本発明の繊維は、繊維集合物の形態であってよい。本発明の繊維集合物は、繊維束、編物、織布、不織布のいずれであってもよい。繊維集合物は不織布であることが好ましい。また、本発明の繊維は、繊維集合物に含まれる繊維がイオン交換能を有する熱硬化性樹脂で覆われている形態を含む。
【0015】
本発明の繊維について説明する。本発明の繊維は、繊維表面にポリオレフィン系樹脂が露出している構成であればよく、単一繊維、同心円若しくは偏心の芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、分割型複合繊維、又は海島型複合繊維であってよく、断面形状も円形、異形、中実、中空などいずれであってもよい。
【0016】
繊維表面に露出しているポリオレフィン系樹脂は、オレフィンホモポリマー又はポリオレフィン単位を含む2以上の共重合体であってよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン(無水)マレイン酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、及びエチレン(メタ)アクリル酸メチル共重合体の群から1種又は2種以上を選択して用いてよく、またこれらの2以上の共重合体であってよい。中でも、ポリオレフィン系樹脂は、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン(無水)マレイン酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、及びエチレン(メタ)アクリル酸メチル共重合体の群から選ばれる1種又は2種以上を選択して用いることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン(無水)マレイン酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、及びエチレン(メタ)アクリル酸メチル共重合体の群から選ばれる樹脂であると、これらのビニルアルコール構成単位、(無水)マレイン酸構成単位、(メタ)アクリル酸構成単位、酢酸ビニル構成単位、又は(メタ)アクリル酸メチル構成単位と熱硬化性樹脂とが化学結合しやすく、より強固又は多く結合され、さらに長期間のイオン交換性能を得ることができる。
【0017】
また、ポリオレフィン系樹脂を含む繊維が分割型複合繊維である場合は、少なくとも1以上の構成成分がポリオレフィン系樹脂からなり、他の構成成分との界面を有し、ポリオレフィン系樹脂からなる成分が繊維表面に露出していることが好ましい。より好ましくは、ポリオレフィン系樹脂からなる成分以外の他の構成成分もポリオレフィン系樹脂からなる成分であることである。このような形態であれば、分割型複合繊維に外力を加えると分割型複合繊維が割繊し、ポリオレフィン系樹脂からなる成分の極細繊維が発現し、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維の表面面積が増加し、イオン交換能を有する熱硬化性樹脂と、より多く結合することができる。
【0018】
また、ポリオレフィン系樹脂を含む繊維が芯鞘型複合繊維である場合は、鞘部にオレフィン系樹脂を用いた芯鞘型複合繊維であることが好ましい。このような形態であれば、繊維表面の多くをオレフィン系樹脂で構成できるので、イオン交換能を有する熱硬化性樹脂と、より多く結合することができる。また、芯部は、特に限定されないが、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、及びナイロン6等のポリアミド樹脂のホモポリマー又は共重合体を1種又は2種以上選択して用いるとよい。このような、樹脂を芯部に用いれば、繊維強力の優れた繊維となり、強力の優れた繊維集合物及び不織布を得ることができる。
【0019】
本発明の繊維の単繊維繊度は、0.0001〜100dtexであることが好ましく、より好ましくは、単繊維繊度が0.1〜10dtexである。この範囲の単繊維繊度の繊維を用いると、繊維質量あたりの表面積が多くなり、イオン交換能を有する熱硬化性樹脂を繊維質量あたり比較的多く固着させることができる。また、繊維集合物及び不織布を構成する繊維がこのような範囲であると、緻密な繊維集合物及び不織布を得ることができ、イオン交換フィルター又は、電池用セパレータとして好適に用いることができる。
【0020】
本発明の繊維を不織布の形態を例に挙げて説明する。
【0021】
本発明の加工前の不織布(以下、原反ともいう)について説明する。本発明の原反は、繊維表面にポリオレフィン系樹脂が露出している繊維を少なくとも構成成分として含み、好ましくは、繊維表面にポリオレフィン系樹脂が露出している繊維を10質量%〜100質量%の範囲で含む不織布である。そして、本発明の原反は、繊維表面にポリオレフィン系樹脂が露出している繊維以外の他の繊維を90重量%を超えない範囲で混合してよい。他の繊維が90重量%を超えると、十分にイオン交換能を有する不織布を得ることができない場合がある。
【0022】
また、繊維表面にポリオレフィン系樹脂が露出している繊維以外の他の繊維の形態は、単一繊維、芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、分割型複合繊維、海島型複合繊維等のいずれであってもよい。繊維表面にポリオレフィン系樹脂が露出している繊維以外の他の繊維を構成するポリマーは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、ナイロン6等のポリアミド樹脂のホモポリマーまたは共重合体から1又は2以上選択して使用することができる。
【0023】
本発明の原反は、カードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ、或いは、メルトブロー法、スパンボンド法などの直接法により得た長繊維ウェブに、熱溶融等による接着処理、或いはニードルパンチ、又は水流交絡の交絡処理を施して製造されてよい。そして、本発明の原反は、単層不織布、又は2層以上の積層不織布であってよい。本発明の不織布を電池用セパレータとして用いる場合であって、2層以上の積層不織布である場合には、積層不織布の表裏面の少なくとも一方の面に、繊維表面にポリオレフィン系樹脂が露出している繊維が含まれていることが好ましい。このような構成であれば、イオン交換能を有する熱硬化性樹脂を固着させることで、電池用セパレータとして必要な親水性を得ることができる。
【0024】
本発明で用いる熱硬化性樹脂について説明する。本発明で用いる熱硬化性樹脂は、イオン交換能を有している。イオン交換能を有する樹脂とは、陽イオン交換基又は陰イオン交換基を有する樹脂のことであり、好ましいイオン交換基はヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン基、及びアミノ基の群から選ばれる1種又は2種以上の官能基である。また、本発明の不織布を電池用セパレータとしても用いる場合には、イオン交換基は、スルホン基であることが好ましい。このようなイオン交換能を有する熱硬化性樹脂で繊維表面を被覆した不織布は、長期にわたり優れたイオン交換性を有する。さらに、イオン交換基がスルホン基であると、電池用セパレータとして用いる場合には、長期にわたり自己放電特性と親水性に優れる。
【0025】
イオン交換基を有する熱硬化性樹脂としては、例えば下記の化学式1で示されるビスフェノール−S/フェノールスルホン酸樹脂が使用できる。化学式1において、Zはヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン基、及びアミノ基の群から選ばれる1種又は2種以上の官能基である。mとnは共重合割合を示し、mは20〜80モル%、nは80〜20モル%が好ましい。
【0026】
【化1】

【0027】
本発明の熱硬化性樹脂は、重量平均分子量が500〜100,000であることが好ましく、より好ましくは、重量平均分子量が10,000〜50,000である。このような熱硬化性樹脂は、溶液の粘度の観点から、処理ムラがなく加工性に優れる。また、水に分散又は溶解し、取り扱い性もよい。
【0028】
本発明の熱硬化性樹脂は、40℃以上かつ繊維を構成する樹脂が融解又は溶融する温度未満の範囲で硬化する熱硬化性樹脂であることが好ましく、40℃以上かつ繊維を構成する樹脂が融解又は溶融する温度より10℃以上低い温度以下で硬化する熱硬化性樹脂あることがより好ましい。例えば、熱硬化性樹脂の硬化する温度は、40℃〜120℃であってよく、より好ましくは60℃〜120℃であり、さらに好ましくは80℃〜100℃である。40℃以上で硬化する熱硬化性樹脂であれば、常温付近で保管することができ、取り扱いやすい。また、繊維を構成する樹脂が融解又は溶融する温度未満の温度で硬化する樹脂を用いれば、繊維同士が融着することがなく、不織布に存在する孔を塞いでしまうことがなく、通気性に優れた不織布を得ることができる。また、低温で硬化する熱硬化性樹脂を用いると、熱処理時に繊維同士の過度な融着を抑えることができ、不織布の孔を維持することができる。
【0029】
本発明で用いる熱硬化性樹脂は、特に限定されないが、単独又は他の第二の物質を加えて加熱することにより、3次元構造又は編み目構造を構成する樹脂が好ましく、例えば、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、加硫ゴムの群から選ばれる1種又は2種以上の熱硬化性樹脂を選択して使用することができる。これらの熱硬化樹脂は、ポリオレフィン系樹脂と化学的に結合しやすく、熱により不融不溶の樹脂を形成し、耐熱性、耐薬品性に優れるので、好ましく用いることができる。なかでも、フェノール系樹脂は、特にポリオレフィン系樹脂と結合しやすいので、好適に用いることができる。
【0030】
さらに、熱硬化性樹脂は、取り扱い性の観点から0℃〜35℃の範囲で液体形状である熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂がフェノール系樹脂である場合は、レゾール型フェノール系樹脂であることが好ましい。フェノール系樹脂がレゾール型であると、常温で液体であり、取り扱い性に優れる。また、レゾール型のフェノール系樹脂は他の樹脂或いは添加物を必要とせず、熱処理を施すことで硬化するので好適に用いられる。本発明の熱硬化性樹脂は、繊維に対して0.1〜20質量%固着しているのが好ましい。よりに好ましい固着量は、0.5〜10質量%であり、さらに好ましい固着量は、1〜10質量%であり、最も好ましい固着量は、1〜8質量%である。固着量が20質量%以下であると、加工後に不織布が硬くなり過ぎず、原反の風合いを維持した不織布を得ることができる。また、固着量が少ない程、柔軟な風合いの不織布を得ることができる傾向にある。
【0031】
また、熱硬化性樹脂がフェノール系樹脂である場合、繊維表面に露出したポリオレフィン系樹脂は、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン(無水)マレイン酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、及びエチレン(メタ)アクリル酸メチル共重合体の群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂であることが好ましい。このようなオレフィン系樹脂とフェノール系樹脂との組み合わせであると、オレフィン系樹脂のビニルアルコール構成単位、エチレン(無水)マレイン酸構成単位、(メタ)アクリル酸構成単位、酢酸ビニル構成単位、又は(メタ)アクリル酸メチル構成単位とフェノール系樹脂のヒドロキシル基が重縮合反応しやすく、より強固に多く結合され、さらに長期間のイオン交換性能を得ることができる。
【0032】
また、本発明の不織布を電池用セパレータとして用いる場合には、オレフィン系樹脂はエチレンビニルアルコール共重合体であることが好ましく、本発明の繊維はエチレンビニルアルコール共重合体を構成成分として含む分割型複合繊維であるがより好ましい。このような構成であると、繊維同士を低温で接着又は融着することができる。さらに、エチレンビニルアルコール共重合体を構成成分として含む分割型複合繊維の形態であると、易分割性の繊維を得ることができ、緻密な繊維集合物或いは不織布を得ることができ、電池用セパレータに好適に用いることができる。
【0033】
また、本発明の不織布は、イオン交換能を有する熱硬化性樹脂と繊維表面に露出したポリオレフィン系樹脂が化学的に結合しており、化学結合は、重縮合反応により結合していることが好ましい。このような構成であると、熱硬化性樹脂が永続的に繊維表面に固着しているので、長期にわたりイオン交換性能を得ることができる。また、本発明の不織布を電池用セパレータとして用いる場合には、電池特性である容量維持率及びサイクル寿命に優れる。
【0034】
次に本発明で用いる加工前の繊維及び原反の製造方法について、湿式不織布を例に挙げて説明する。本発明の原反は、通常の湿式不織布の製造方法で行えばよく、まず、繊維表面にポリオレフィン系樹脂が露出した繊維を0.1質量%〜10質量%の濃度となるように水に分散させ、スラリーを調整する。このとき少量の分散剤を加えてもよい。また、他の繊維をさらに用いてもよい。他の繊維が分割型複合繊維である場合は、スラリーの離解、叩解処理時に分割発現させておくと、抄紙したときに分割型複合繊維が割繊した極細繊維が不織布中により均一に分散される。次に、得られた水分散スラリーを用いて抄紙機から湿式抄紙ウェブを作成する。次いで、シリンダードライヤー機を用いてウェブを80℃〜150℃で熱処理して、湿式不織布からなる原反を作製する。
【0035】
原反を熱硬化性樹脂で被覆する方法について説明する。本発明の繊維は、繊維単独、繊維束、又は原反を作製してから加工してよい。まず、熱硬化性樹脂、又はそれを水或いは有機溶剤に分散させた溶液を、繊維又は原反に塗布、スプレー、又は含浸させ、次いで、40℃以上かつ繊維を構成する樹脂が融解又は溶融する温度未満の範囲の温度で熱処理して、熱硬化性樹脂と繊維表面に露出したポリオレフィン系樹脂を化学的に結合させて定着させてよい。
【0036】
熱処理の温度は、好ましくは、40℃以上かつ繊維を構成する樹脂が融解又は溶融する温度未満の範囲であり、より好ましくは、40℃以上かつ繊維を構成する樹脂が融解又は溶融する温度より10℃以上低い温度以下の範囲である。例えば、熱処理温度は、40℃〜120℃であってよく、より好ましくは、70℃〜120℃であり、さらに好ましくは、80℃〜100℃である。熱処理温度が、繊維を構成する樹脂が融解又は溶融する温度未満であれば、比較的低温で熱処理を行うことができ工程性に優れ、繊維同士の過度な融着或いは接着を抑えることができる。また、熱処理は、蒸気で熱処理することが好ましい。蒸気で熱処理すると、熱硬化性樹脂が局所的に固まることがなく、均一に被覆した状態で硬化できる。また、熱処理温度が40℃〜120℃である場合には、熱処理の時間は、2秒〜10分であることが好ましい。また、熱処理時間は熱処理温度が高い場合、又は熱硬化性樹脂の反応性が高い場合は短くてよく、熱処理温度が低い場合、又は熱硬化性樹脂の反応性が低い場合は長くするとよい。熱処理時間は、生産性の観点から3秒〜60秒であることがより好ましい。
【0037】
原反に熱硬化性樹脂溶液を含浸する場合は、熱硬化性樹脂を水又は有機溶剤に分散させ、0.05質量%〜10質量%の溶液を調整し、原反に含浸して、熱処理するとよい。好ましくは、熱硬化性樹脂溶液の濃度は、0.05質量%〜2質量%である。熱硬化性樹脂溶液の濃度が0.05質量%以上であると、十分なイオン交換能を有する不織布を得ることができ、熱硬化性樹脂溶液の濃度が10質量%以下であると、粘性及び流動性の観点から取り扱いやすく、経済的でもある。
【0038】
本発明の不織布は、不織布表面のみならず不織布内部の繊維までも、イオン交換能を有する熱硬化性樹脂で覆われていることが好ましい。このような不織布は、従来のスルホン化処理を施した不織布に比べ、長期に渡りイオン交換能を有する。これは、スルホン化処理を施した不織布が不織布表面のみにイオン交換能を有するのに対して、本発明の不織布は、不織布内部までイオン交換能を有するからであると予想される。また、スルホン化処理を施した不織布は、分子運動により、イオン交換能を有する分子とイオン交換能を有しない分子が、分子反転すること予想される。しかし、本発明の不織布は、イオン交換能を有する熱硬化性樹脂が化学的に繊維結合しており、さらに、熱硬化性樹脂も硬化により高分子量体となっているので、分子運動の影響が少ないと予想される。
【0039】
本発明の不織布を電池用セパレータとして用いる場合は、引張強力が100N/5cm〜10000N/5cmであることが好ましく、より好ましくは110N/5cm〜180N/5cmである。引張強力が100N/5cm以上であると、製造工程で破断することがなく、工程性に優れる。
【0040】
また、本発明の不織布をイオン交換フィルター又は電池用セパレータとして用いる場合は、通気度が1cc/cm2・s〜50cc/cm2・sであることが好ましく、より好ましくは10cc/cm2・s〜30cc/cm2・sであり、さらに好ましくは、20cc/cm2・s〜30cc/cm2・sである。通気度が1cc/cm2・s以上であると、電池用セパレータとして用いる場合にはガス通過性に優れ、イオン交換フィルターとして用いる場合には、媒体の通過性に優れる。また、通気度が50cc/cm2・s以下であると、電池用セパレータとして用いる場合には正極と負極がショートすることが少なく、イオン交換フィルターとして用いる場合には、捕集性能に優れる。
【0041】
本発明の不織布は、イオン交換能が0.01meq/g〜10meq/gであることが好ましい。また、本発明の不織布を電池用セパレータとして用いる場合には、0.01meq/g〜1meq/gが好ましく、本発明の不織布をイオン交換フィルターとして用いる場合には、1meq/g〜10meq/gであることが好ましい。
【0042】
本発明の不織布は、アンモニア捕捉能が0.1NH4+mmol/g〜1NH4+mmol/gの範囲であることが好ましい。アンモニア捕捉能がこの範囲であると、電池用セパレータとして放置後の容量維持率を高めることができる。
【実施例】
【0043】
[S/C(炭素原子数に対する硫黄原子数の比)]
X線光電子分光計(PERIN ELMAR製 アルバックファイESCA5500MT)を用いて、励起源としてMg−Kα線、印加電圧を15kv、ビーム電流値を10mA、X線取り出し角度を45度及び75度として、不織布表面から炭素原子、フッ素原子、硫黄原子、及び酸素原子のそれぞれのピーク面積を測定し、光イオン化断面積補正をして、炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比を測定した。測定面積は、800μmφで測定した。
[通気度]
JIS−L−1096 6.27.1 A法(フラジール法)に従って測定した。
[引張強力]
JIS−L−1096に準じ、幅5cm、長さ15cmの試料片をつかみ間隔10cmで把持し、定速伸長型引張試験機((株)エー・アンド・ディー製、テンシロンUCT−1(商品名))を用いて引張速度30cm/分で引き裂いたときの最大荷重を測定した。
[保液率]
試験片の水分平衡状態の質量(W1)を1mgまで測定した。次に比重1.30の水酸化カリウム水溶液中に試験片を浸漬し、水酸化カリウム水溶液を1時間吸収させたのち液中から引き上げて10分間放置した後、試験片の質量(W2)mgを測定し、保液率(%)=((W2−W1)/W1)×100の式より保液率を算出した。
[イオン交換能]
まず、試験片を1M塩酸中に2時間浸漬させた。その試験片を蒸留水で中性になるまで洗浄し、100℃で乾燥した。乾燥後の試験片をビーカーに入れ、その中に0.1M水酸化カリウムを10ml加えた。さらに、別のビーカーに10mlの水酸化カリウムを入れた。これら両方のビーカーの水酸化カリウムをフェノールフタレイン指示薬を用いて0.1M塩酸により標準滴定した。このようにして測定されたイオン交換能力は下記式によって算出した。
IEC=(t2−t1)/10W3
前記式において、t1は試験片の入ったビーカーからの滴定値、t2は試験片の入ってないビーカーからの滴定値、W3は試験片の質量を示す。
[アンモニア捕捉量]
反応液125mlに試験片2g(W4)を浸漬させた。反応液は水酸化カリウムが8mol/L、塩化アンモニウムが12mol/Lになるように調整したものを使用した。40℃で3日間放置した後に、ケルダール法により溶解液25ml中に存在するアンモニアガス濃度を測定した。ブランクは、試験片を浸漬させず、上記と同様にアンモニアガス濃度を測定した。アンモニア捕捉量(mmol/g)は次式から算出した。
アンモニア捕捉量(mmol/g)=(N0−N1)/W4
試験片NH3+量{N1}=(反応液量/溶出液量)×(滴定用塩酸量−試験片滴定量)
ブランクNH3+量{N0}=(反応液量/溶出液量)×(滴定用塩酸量−ブランク滴定量)
[サイクル寿命]
円管型密閉ニッケル水素電池を、充電0.1C率で12時間、休止0.5時間、放電0.1C率で終止電圧1.0Vとし、10サイクル充放電を繰り返し、電池の初期活性を行った。そして、初期活性を行った後に、充電1.0C率で1.2時間、休止0.5時間、放電1.0C率で終止電圧1.0Vとし、初期容量に対する利用率が90%以下になったときのサイクル数を求めた。なお、充放電は25℃で行った。
[容量維持率]
初期活性を行った後、充電0.1C率で12時間、休止0.5時間、放電0.1C率で終止電圧1.0Vとし、5サイクル繰り返した後の放電容量に対し、同条件(0.1C率)で充電後、45℃で14日間放置したときの残存容量(0.1C率放電、終止電圧1.0V)の比を自己放電後の容量維持率とした。なお、充放電は温度25℃で行った。
[生産性]
生産性は下記の評価で行った。
G:有害物質及び危険物質を使用することなく生産でき、工程性も優れている。
F:有害物質又は危険物質が微小ながら必要であり、加工装置の立ち上げ、清掃等に時間がかかる。
[固着量]
原反の質量W5に対する熱硬化性樹脂固着後の質量W6の比を測定した。
固着量=W6/W5×100 (質量%)
(繊維の準備)
原料として、以下の繊維を準備した。
(繊維1)
エチレンビニルアルコール樹脂とポリプロピレン樹脂との分割型複合繊維(商品名:DF−2、(ダイワボウポリテック(株)製))、繊度2.2dtex、繊維長5mmを用いた。この繊維は、水中で分散、混合中に割繊する。16分割に割繊可能である。
(繊維2)
鞘成分がポリエチレン樹脂と芯成分がポリプロピレン樹脂である芯鞘型複合繊維(商品名:NBF(H)、(ダイワボウポリテック(株)製))、繊度1.7dtex、繊維長5mmを用いた。前記鞘成分は、120℃の融点を有し、ドライヤーの中で溶融してバインダーとして機能する。
(繊維3)
ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂との分割型複合繊維(商品名:DF−7、(ダイワボウポリテック(株)製))、繊度1.7dtex、繊維長5mmを用いた。
【0044】
(実施例1)
繊維1と繊維2を質量比率1:1で混綿し、5質量%の濃度となるように、離解、叩解して水分散スラリーを調整した。得られた水分散スラリーを円網式湿式抄紙機及び短網式湿式抄紙機から目付50g/m2の湿式抄紙ウェブを作成した。次いで、シリンダードライヤー機を用いて140℃で熱処理して約30秒間乾燥し、引張強力が120N/5cm、目付が50g/m2、通気度が30cc/cm2・sである湿式不織布を作成した。
【0045】
次に熱硬化性樹脂として、化学式2に示すビスフェノール−S/フェノールスルホン酸樹脂(商品名:L−21(BS−PSR)、小西化学工業(株)製)を水に分散させ、1.0質量%水溶液を作成した。
【0046】
【化2】

【0047】
得られた湿式不織布を、ビスフェノール−S/フェノールスルホン酸樹脂水溶液に浸漬し、その後、90℃の蒸気で30秒間熱処理して、不織布を構成している繊維表面に熱硬化性樹脂を重縮合させて化学結合させ、イオン交換能を有する不織布を得た。
【0048】
(実施例2)
ビスフェノール−S/フェノールスルホン酸樹脂水溶液が0.1質量%であること以外は実施例1と同様の方法で不織布を作製した。
【0049】
(実施例3)
ビスフェノール−S/フェノールスルホン酸樹脂水溶液が0.05質量%であること以外は実施例1と同様の方法で不織布を作製した。
【0050】
(実施例4)
ビスフェノール−S/フェノールスルホン酸樹脂水溶液が0.01質量%であること以外は実施例1と同様の方法で不織布を作製した。
【0051】
(実施例5)
ビスフェノール−S/フェノールスルホン酸樹脂水溶液が10質量%であること以外は実施例1と同様の方法で不織布を作製した。
【0052】
(比較例1)
熱処理温度を60℃で約5秒間としたこと以外は実施例1と同様の方法で不織布を作製した。
【0053】
(比較例2)
ビスフェノール−S/フェノールスルホン酸樹脂の代わりに界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸Na(商品名:DPF−698、(竹本油脂製))を水に分散させた0.1質量%水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で不織布を作製した。
【0054】
(比較例3)
実施例1で用いた湿式不織布にコロナ放電処理を施して不織布を得た。
【0055】
(比較例4)
繊維2と繊維3を質量比率1:1で混綿し、5質量%の濃度となるように、離解、叩解して水分散スラリーを調整した。得られた水分散スラリーを円網式湿式抄紙機及び短網式湿式抄紙機から目付50g/m2の湿式抄紙ウェブを作成した。次いで、シリンダードライヤー機を用いて140℃で熱処理して、乾燥し、引張強力が130N/5cm、目付が50g/m2、通気度が30cc/cm2・sである湿式不織布を作成した。この湿式不織布を発煙硫酸でスルホン化処理し不織布を作製した。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1〜5の不織布は、イオン交換能、引張強力に優れており、さらに、電池特性である容量維持率、サイクル寿命も優れた不織布であった。また、実施例1〜3及び実施例5は、特にサイクル寿命が優れており、長期にわたりイオン交換能を有していた。また、電池用セパレータとして有用であることが確認できた。
【0058】
これに対して比較例1は、熱硬化樹脂が硬化しなかったので脱落してしまい、サイクル寿命は低かった。比較例2は熱硬化性樹脂を使用せず、界面活性剤を使用したため、同様にサイクル寿命は低かった。比較例3は熱硬化性樹脂を使用せず、コロナ放電処理を使用したため、容量維持率が低かった。比較例4は熱硬化性樹脂を使用せず、スルホン化処理をしたため、基布の劣化があり、引張張力が低かった。
【0059】
(実施例6)
繊維1及び繊維2からなる不織布代わりに、繊維2のみからなる不織布を用いた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を作製した。この結果、S/Cは0.12×10-3、通気度31(cc/cm2・s)、引張張力129N/5cm、保液率287%、イオン交換能0.022meq/g、アンモニア捕捉量0.17NH4+mmol/g、イオン交換樹脂固着量3.6質量%であった。このことから、イオン交換フィルターとして十分なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に少なくともポリオレフィン系樹脂が露出している繊維の表面を熱硬化性樹脂が被覆している繊維であって、
前記熱硬化性樹脂はイオン交換能を有しており、
前記熱硬化性樹脂の硬化により、前記熱硬化性樹脂は前記繊維表面に固定されていることを特徴とする繊維。
【請求項2】
前記表面に露出しているオレフィン系樹脂と前記熱硬化性樹脂とが化学的に結合している請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂がヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン基、及びアミノ基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する請求項1又は2に記載の繊維。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が40℃以上、かつ繊維が融解又は溶融する温度以下の範囲で硬化する熱硬化性樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂がフェノール系樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の繊維。
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂が、エチレンビニルアルコール樹脂、エチレンアクリル酸樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、及びエチレンアクリル酸メチル樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂である請求項1又は2に記載の繊維。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂のイオン交換能が0.01meq/g〜10meq/gである請求項1〜6のいずれかに記載の繊維。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂は、繊維に対して0.1〜20質量%固着している請求項1〜6のいずれかに記載の繊維。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の繊維を含む繊維集合物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の繊維を含む不織布。
【請求項11】
請求項9または10記載の不織布からなる電池用セパレータ。
【請求項12】
請求項11に記載の電池用セパレータを用いた電池。
【請求項13】
請求項9または10に記載の不織布からなるイオン交換フィルター。

【公開番号】特開2009−91689(P2009−91689A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263454(P2007−263454)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】