説明

繊維、繊維の構造体およびそれら製造方法

【課題】
耐熱性、耐薬品性等に優れ、低誘電率で、安価な繊維及び繊維の構造体である不織布を提供する。
【解決手段】
(A)下記一般式(1)


(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素を表す。)
で示される繰り返し単位を有するポリフェニレンエーテルと、(B)該ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつ共重合体、からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物をよりなる繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる、耐熱性、耐薬品性、難燃性、強度などに優れ、低誘電率で、しかも安価な繊維、繊維の構造体およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、また、その繊維の集合体からなる不織布などは、電気・電子部品、自動車部品、建築材料、医療器具、衛生材料等の分野では、幅広く用いられているが、近年、要求性能の高度化、環境改善などの観点から、特に、電気・電子部品関係の素材産業の分野における繊維、不織布やそれらを用いた材料については、さらに、その改良が求められている。
例えば、フィルター、電気絶縁材料、耐熱フェルト、エンジンオイルフィルター、ラジエーターホース、断熱材、電池セパレーター、人工血管、摺動部材、補強材、防護衣など、各用途において、耐熱性をはじめ、耐薬品性、難燃性、強度などに優れた繊維が、市場から求められている。フィルターにしても、焼却炉用バグフィルターのように耐熱性が、また、装置のコンパクト化、通信の高速化が進む電気・電子部品関係では耐熱性、耐薬品性、難燃性などに優れた繊維が求められている。
【0003】
ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などは、カーペット、カーテン、ロープ、魚網、自動車内装部品、座席シート用途などをはじめとして、幅広く用いられてはいるが、用途によっては、耐熱性、難燃性、耐薬品性などが不十分とされている。
ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの繊維化もなされているが、用途によっては、それらの誘電率が高い、あるいは、非常に高価であることなどが問題となっている。
【0004】
アラミド繊維は耐薬品性、耐熱性などに優れ、高強度な繊維であるが、やはり、非常に高価であり、また、誘電率も高く、用途が限定されている。フッ素樹脂を用いた繊維は、耐薬品性には優れるが、用途によっては耐熱性が不十分であり、また、用済み後の燃焼処理時に有毒ガスを発生するなど問題もあった。
【0005】
エンジニアリングプラスチックの一種であるポリフェニレンエーテルは、耐熱性、電気絶縁性を有するとともに、他のエンジニアリングプラスチックであるポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどに比べて低誘電率であり、しかも安価であるという特徴を有する。
しかしながら、ポリフェニレンエーテル単独では、加熱により流動し難く、成形加工が困難であり、繊維にすることはできなかった。
【0006】
また、ポリエステルにポリフェニレンエーテル、有機リン化合物などを配合してなる繊維に関して記載されているが(特許文献1)、ポリエステルが主成分であるため、繊維の耐熱性などは不十分であった。
変性ポリフェニレンエーテルとポリオレフィンからなる組成物を溶融紡糸して得られる繊維に関して記載されている(特許文献2)が、この場合にはポリオレフィンが主成分であるため、耐熱性などは不十分であった。
繊維成分としてポリフェニレンエーテルを含む樹脂からなる不織布をゴムに埋没させてなる複合体に関して記載されているが(特許文献3)、ここではポリフェニレンエーテル量が少ないため、不織布の耐熱性などは不十分であった。
上述のように、従来のポリフェニレンエーテルを用いた樹脂材料からなる繊維は、いずれも耐熱性などで難点を有するものであり、市場からその改良が求められている。
【0007】
そして、ポリフェニレンエーテルを用いた該樹脂組成物として、例えば、ポリフェニレンエーテルと、ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつ共重合体とからなる樹脂組成物が知られている(特許文献4)。しかしながら、該ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる繊維、あるいは不織布は知られていない。
【0008】
【特許文献1】特開平10-219519号公報
【特許文献2】特開2004-190156号公報
【特許文献3】特開2003-313309号公報
【特許文献4】特開2002−319316公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、強度などに優れ、低誘電率で、しかも安価な繊維、該繊維を用いた織物、フィルター、並びに、シート状繊維被覆構造体、並びに該繊維の構造体である不織布、該繊維を用いたプリント配線板等を得ること、また、該繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリフェニレンエーテルと、ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもった共重合体からなる組成物を細いダイから溶融押し出しする方法で、紡糸することで、耐熱性、耐薬品性、難燃性、強度などに優れ、低誘電率で、安価な繊維を得られることを見出した。さらに、該繊維の集合体をエポキシなどの熱硬化性モノマーに含浸後、熱硬化させることにより、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の不織布などが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)(A)下式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素を表す。)
で示される繰り返し単位を有するポリフェニレンエーテル(A)と、該ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつ共重合体(B)、からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物よりなる繊維、
(2)前記共重合体(B)が、不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜30質量%含有する共重合体であることを特徴とする、前記項目(1)記載の繊維、
(3)前記ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を溶融加熱温度が(Tg+70)〜(Tg+130)℃の範囲でダイから溶融押し出しすることを特徴とする、前記項目(1)又は(2)記載の繊維の製造方法、
(4)ダイからの溶融押し出しの前記ポリフェニレン系樹脂組成物の溶融張力(メルトテンション)が1g以上であることを特徴とする、前記項目(3)記載の繊維の製造方法、
(5)前記項目(1)または(2)記載の繊維を用いてなる不織布、
(6)前記項目(1)または(2)記載の繊維をプレス成形することを特徴とする不織布の製造方法、
(7)前記項目(1)又は(2)記載の繊維に熱硬化性樹脂(熱硬化前のものをいう。)を噴霧又は含浸して得られるシート状繊維被覆構造体、
(8)前記項目(7)記載のシート状繊維被覆構造体をプレス成形して得られる不織布、
(9)前記項目(1)又は(2)記載の繊維を用いてなる織物、
(10)前記項目(1)又は(2)記載の繊維を用いてなるフィルター、及び
(11)前記項目(1)又は(2)記載の繊維を用いてなるプリント配線板、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明で得られる繊維および、該繊維を用いた織物若しくは不織布は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、強度などに優れ、低誘電率であり安価である。また、本発明で得られるシート状繊維被覆構造体は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、強度において、同様な特性と効果をもつ。本発明で得られるフィルター及びプリント配線板は、耐熱性、難燃性、強度などに優れ、低誘電率であって、安価である。特に素材が耐熱性を有するので、配線板については、発熱しやすい配線板に用いると有用であり、フィルターについては、エンジンオイルフィルター、ラジエーターフィルター等に有用である。
本発明の繊維等は、それらの用済み後の燃焼処理時に有毒ガスを発生する等の問題がないので、環境改善の面から優れた効果をもつ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の繊維について説明する。本発明の繊維は、一般式(1)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素を表す。)
で表されるポリフェニレンエーテル(A)成分および、該ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもった共重合体(B)成分からなる、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を用いているものをいう。
【0016】
ここで、(A)成分について説明する。
(A)成分は、式(1)で示される繰り返し単位を有するポリフェニレンエーテルである。該ポリフェニレンエーテルは、式(1)の繰り返し単位を有する重合体であり、式(1)の繰り返し単位を2種以上有していてもよい。
ここで、式(1)中のRおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素基を表す。それらの好ましい炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等の全炭素数1〜20のアルキル基を挙げることができ、また、フェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の全炭素数6〜20のアリール基を挙げることができ、また、ベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルエチル基等の全炭素数7〜20のアラルキル基等を挙げることができる。好ましくは、全炭素数1〜6の基である。
【0017】
該炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子、t−ブチルオキシ基等のアルコキシ基、3-ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基等が挙げられる。置換基を有する炭化水素基の具体例としては、例えば、トリフルオロメチル基、2−t−ブチルオキシエチル基、3-ジフェニルアミノプロピル基等が挙げることができる。なお全炭素数には、置換基の炭素数は含まないものとする。
【0018】
前記R及びRは、水素原子、メチル基などであることが好ましく、とりわけ水素原子であることが好ましい。
【0019】
成分(A)のポリフェニレンエーテルは、前記一般式(1)の繰り返し単位を有する単独重合体であってもよいが、前記一般式(1)以外に、(1)に対応するフェノール化合物以外のフェノール化合物である単量体から誘導される繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このようなフェノール化合物としては、例えば、多価ヒドロキシ芳香族化合物(例えばビスフェノール−A,テトラブロモビスフェノール−A、レゾルシン、ハイドロキノン、ノボラック樹脂)を挙げることができる。かかる共重合体においては、一般式(1)の繰り返し単位を80モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましい。
【0020】
また、本発明における成分(A)の固有粘度[η]は、0.30〜0.65の範囲が好ましく、0.35〜0.50がさらに好ましい(25℃、クロロホルム溶液)。[η]が0.30未満では、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の耐熱性が低下する傾向にあり、また、[η]が0.65を超えると前記樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
成分(A)のポリフェニレンエーテルは、例えば、下記一般式(2)
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、RおよびRは前記と同じ意味を表す。)
で示されるフェノール化合物を酸化重合させて製造することができる。
上記式(2)のフェノール化合物のみを原料として用いることにより、単独重合体を製造することができるが、前記式(2)以外のフェノール化合物を混合して用いることにより、上記共重合体を製造することができる。
【0023】
酸化重合は、上記のようなフェノール化合物を酸化カップリング触媒を用い、酸化剤として例えば、酸素または酸素含有ガスを用いて行うことができる。酸化カップリング触媒は、特に限定されるものではなく、重合能を有するいかなる触媒でも使用しうる。例えば、その代表的なものとしては、塩化第一銅を含む触媒や二価のマンガン塩類を含む触媒が挙げられる(特開昭60−229923号公報)。
【0024】
次に、本発明で用いる成分(B)について説明する。
本発明で用いる成分(B)は、上記のような成分(A)のポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつ共重合体よりなる。ここで、(A)のポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつ共重合体における、「反応性を有する官能基」とは、(A)成分と(B)成分の溶融混練前の状態において、(A)成分と反応性を有する官能基、という意味である。
該ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基としては、成分(A)と反応性を有していればよく、例えば、オキサゾリル基、エポキシ基、アミノ基等が挙げられる。好ましくはエポキシ基である。
【0025】
該共重合体としては、該官能基を有する繰り返し単位と、該官能基を有しない繰り返し単位があげられる。
該官能基を有する繰り返し単位として、該官能基がエポキシ基であるものとして、グリシジル基を含有する繰り返し単位が好ましい。該繰り返し単位としては、不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位が挙げられる。ここに不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位、不飽和グリシジルエーテル単位とは、不飽和カルボン酸グリシジルエステル、不飽和グリシジルエーテルである単量体から誘導される繰り返し単位のことをいう。
ここで、不飽和カルボン酸グリシジルエステル、不飽和グリシジルエーテルとしては、例えば下記一般式(3)
【0026】
【化4】

【0027】
(式中、Rは、エチレン系不飽和結合を有する炭素数2〜13の炭化水素基を表し、Xは、−C(O)O−、−CH2−O−または下記置換基(4)
【0028】
【化5】

【0029】
を表す。)で示されるものが挙げられる。
不飽和カルボン酸グリシジルエステルの具体例としては、例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、p−スチレンカルボン酸グリシジルエステルなどを挙げることができ、不飽和グリシジルエーテルの具体例としては、例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等が挙げられる。
【0030】
成分(B)の共重合体における該官能基を有しない繰り返し単位としては、エチレン系不飽和結合を有する化合物であるモノマーから誘導される繰り返し単位が挙げられ、該化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシアルキルエステル等のアクリル酸エステル類、エチレン、ビニル芳香族炭化水素化合物、エチレン系不飽和エステル化合物、共役ジエン化合物、エチレン系不飽和エステル化合物等が挙げられる。
【0031】
成分(B)の共重合体は、該共重合体が有する全繰り返し単位を100質量%としたとき、かかる不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜30質量%含有することが好ましく、0.1〜20質量%含有することがより好ましい。
【0032】
成分(B)である共重合体の中で、不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を含むものは、例えば、上記一般式(3)で示される不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテルとエチレン系不飽和結合を有する化合物とを共重合させることにより製造し得る。
【0033】
また、成分(B)は、共重合体であるが、共重合体に該官能基を有する単量体をグラフト共重合することにより製造することも可能である。
成分(B)の共重合体は、ゴムであっても熱可塑性樹脂であってもよいし、ゴムと熱可塑性樹脂の混合物であってもよい。
【0034】
まず、本発明で用いた成分(B)としてのゴムについて説明する。
本発明の成分(B)としてのゴムは、ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつアクリルゴムや、ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつビニル芳香族炭化水素化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体ゴムを例示することができる。
【0035】
ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつアクリルゴムについて、単独又は組み合わせて、該アクリルゴムの原料となる好ましいものは、下記一般式(5)〜(7)
【0036】
【化6】

【0037】
(式中、R1は炭素原子数1〜18、好ましくは炭素原子数1〜8のアルキル基または炭素原子数2〜8のシアノアルキル基を示す。R2は炭素原子数1〜12のアルキレン基を、R3は炭素原子数1〜12のアルキル基を示す。R4、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を、R5は炭素原子数3〜30のアルキレン基を、R6は炭素原子数1〜20のアルキル基またはその誘導体を意味し、nは1〜20の整数を示す。)
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体である。
【0038】
上記一般式(5)で表される(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、シアノエチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどを挙げることができ、それらの中ではメチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートが好ましい。
なお、(メタ)アクリル酸エステルとしては、その一種を単独で使用してもよく、または二種以上を併用してもよい。
【0039】
また、上記一般式(6)で表されるアクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、メトキシエチルメタアクリレート、エトキシエチルメタアクリレート、ブトキシエチルメタアクリレート、エトキシプロピルメタアクリレート等があげられる。これらの1種あるいは2種以上を該アクリルゴムの成分として用いることができる。
【0040】
必要に応じて上記の一般式(5)〜(7)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の単量体と共重合可能な不飽和単量体をアクリルゴムの原料として用いることができる。
このような不飽和単量体の例としては、エチレン、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、ハロゲン化スチレン、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルナフタレン、N−メチロールアクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ベンジルアクリレート、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。
【0041】
ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基を有する単量体としては、不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテルが好ましい。この場合、成分(B)の好ましい原料の成分比は、上記の一般式(5)〜(7)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の前記単量体40.0〜99.9質量%、不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテル0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜20質量%、上記の一般式(5)〜(7)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の前記単量体と前記共重合可能な不飽和単量体0.0〜30質量%である。成分(B)として該アクリルゴムを用いた場合には、その構成成分比が上記の範囲内であると、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の耐熱性、成形加工性などが良好であり好ましい。
【0042】
上記アクリルゴムの製法は特に限定するものではなく、例えば特開昭59−113010号公報、特開昭62−64809号公報、特開平3−160008号公報、又はWO95/04764などに記載されているような周知の重合法を用いることができ、ラジカル開始剤の存在下で乳化重合、懸濁重合、溶液重合又はバルク重合で製造することができる。
【0043】
成分(B)の共重合体の中では、エポキシ基を有するゴムが好ましく、これらの中でもエポキシ基を有する(アクリル)ゴムである、(メタ)アクリル酸エステル−エチレン−(不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテル)共重合体ゴム等がより好ましい。
【0044】
また、成分(B)の共重合体はムーニー粘度が3〜70のものが好ましく、3〜30のものがさらに好ましく、4〜25のものが特に好ましい。なお、ここでいうムーニー粘度は、JIS K6300に準じて100℃ラージローターを用いて測定した値をいう。
【0045】
本発明で用いる樹脂組成物を用いて得られる成形体の熱安定性や機械的性質を向上させるためには共重合体が有する繰り返し単位全体に対して、(メタ)アクリル酸エステル単位が40質量%を超え96質量%未満、さらに好ましくは45〜70質量%、エチレン単位が3質量%以上50質量%未満、さらに好ましくは10〜49質量%、不飽和カルボン酸グリシジルエーテル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位が0.1〜30質量%、さらに好ましくは0.1〜20質量%である。代表的な重合方法は、特開昭48−11388号公報、特開昭61−127709号公報などに記載された方法を用いることができる。例えば、フリーラジカルを生成する重合開始剤の存在下で、圧力500kg/cm2以上、温度40〜300℃の条件により製造する方法を用いることができる。
【0046】
ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体ゴムにおけるビニル芳香族炭化水素化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどを挙げることができ、中でもスチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエンなどを挙げることができ、ブタジエンまたはイソプレンが好ましい。
かかるビニル芳香族炭化水素化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体あるいはその水添物は、公知の方法で製造することができ、例えば、特公昭40−23798号公報、特開昭59−133203号公報等に記載されている。
【0047】
本発明におけるポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体ゴムは、上記の方法などで得られたビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体にエポキシ基など、ポリフェニレンエーテルと反応性を有する単量体を導入することで得ることができる。かかる単量体をビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体に導入する方法は特に限定するものではないが、グラフト共重合などで導入することが好ましい。
【0048】
本発明に用いる共重合体(B)としてのゴムは、必要に応じて加硫を行い、加硫ゴムとして用いることができる。
上記の(メタ)アクリル酸エステル−エチレン−(不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテル)共重合体ゴムの加硫は、多官能性有機酸、多官能性アミン化合物、イミダゾール化合物などを用いることで達成されるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
またポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつ共重合体(B)は、上述のようなゴムの他に、樹脂であってもよく、その具体例としてのエポキシ基を有する熱可塑性樹脂としては、(a)エチレン単位が60〜99質量%、(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位が0.1〜20質量%、(c)エチレン系不飽和エステル化合物単位が0〜40質量%からなるエポキシ基含有エチレン共重合体、を挙げることができる。
【0050】
前記(b)における、その不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位の定義、具体例は前記と同様である。また前記(c)における、エチレン系不飽和エステル化合物としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のカルボン酸ビニルエステル、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル等が挙げられる。これらの中で、特に酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましい。
【0051】
該エポキシ基含有エチレン共重合体としては、たとえばエチレン単位とグリシジルメタクリレート単位からなる共重合体、エチレン単位とグリシジルメタクリレート単位およびアクリル酸メチル単位からなる共重合体、エチレン単位とグリシジルメタクリレート単位およびアクリル酸エチル単位からなる共重合体、エチレン単位とグリシジルメタクリレート単位および酢酸ビニル単位からなる共重合体等が挙げられる。
【0052】
該エポキシ基含有エチレン共重合体のメルトインデックス(以下、MFRということがある。JIS K6760、190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.5〜100g/10分、更に好ましくは2〜50g/10分である。メルトインデックスはこの範囲外であってもよいが、メルトインデックスが100g/10分を越えると組成物にしたときの機械的物性の点で好ましくなく、0.5g/10分未満では(A)成分との相溶性が劣り好ましくない。
【0053】
該エポキシ基含有エチレン共重合体は、曲げ剛性率が10〜1300kg/cm2の範囲のものが好ましく、20〜1100kg/cm2のものがさらに好ましい。曲げ剛性率がこの範囲外であると該樹脂組成物の機械的性質が不十分となる場合がある。
【0054】
また、共重合体(B)としては、本発明の成形体の熱安定性や柔軟性を良好にするために、その結晶の融解熱量が3J/g未満の共重合体であることが好ましい。
【0055】
該エポキシ基含有エチレン共重合体は、通常不飽和エポキシ化合物とエチレンをラジカル発生剤の存在下、500〜4000気圧、100〜300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下または不存在下に共重合させる高圧ラジカル重合法により製造される。また、ポリエチレンに不飽和エポキシ化合物およびラジカル発生剤を混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造し得る。
【0056】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分との比が、(A)成分99〜1重量%、(B)成分1〜99重量%、からなる。(A)成分が99重量%を越えると該樹脂組成物の成形加工性が低下の傾向にある。(A)成分1重量%未満であると該樹脂組成物の耐熱性などが著しく低下する傾向にある。高い耐熱性が要求される分野には、該樹脂組成物の形態が(A)成分が連続相、(B)成分が分散相であるのが好ましい。その場合には、組成物の製造方法にもよるが、(A)成分が99〜40重量%、(B)成分1〜60重量%が好ましい。
【0057】
本発明で用いる樹脂組成物は、必要に応じて、難燃剤、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、無機または有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの各種の添加剤を含有していてもよい。
【0058】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を製造において、成分(A)と成分(B)を溶融混練させる方法としては常法により行うことができるが、好ましくは、溶融状態で各成分を混練(溶融混練)する方法である。
溶融混練により本発明で用いる該樹脂組成物を得るには、一般に使用されている一軸または二軸の押出機、各種のニーダー等の混練装置を用いることができる。なかでも二軸の押出機が好ましい。溶融混練に際しては、混練装置のシリンダー設定温度は、200〜340℃の範囲が好ましく、220〜310℃の範囲がさらに好ましい。本発明の繊維においては、機構の詳細は必ずしも明らかでないが、(A)成分と(B)成分とを溶融混練する際に該組成物の成分(A)と成分(B)との反応も起きる。なお、本発明において、上記成分(A)と成分(B)が反応していることは、成分(A)と成分(B)を溶融混練後の樹脂組成物が、成分(A)と成分(B)が反応せず混合しているだけの場合には存在しない、平均粒子径10nm程度(例えば5〜30nm)のポリマー粒子を含むことでわかる。このポリマー粒子は、溶融混練後の樹脂組成物の成形体を、酸化ルテニウムで染色処理した後、超薄切片とし、これを透過型電子顕微鏡で観察することにより確認できる(例えば特開2006−176676の[0054]参照)。
仮に成分間で反応が生起しない場合にはこのような粒径10nm程度の粒子は認められないのは業界では良く知られている事実である。反応機構の詳細は必ずしも明らかではないが、成分(A)と成分(B)の反応生成物が上記ナノ径ポリマー粒子となると考えられる。
【0059】
溶融混練に際しては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合した後、混練装置に供給してもよいし、各成分を混練装置にそれぞれ別個に定量供給する方法も用いることができる。
【0060】
本発明の繊維の製造方法について説明する。
一般に樹脂の繊維は紡糸によって得られる。ここで、紡糸とは、細い孔から樹脂を押し出し、繊維状に賦形する操作をいい、工業的には、湿式紡糸、乾式防止、溶融紡糸などの紡糸法が挙げられる。
湿式紡糸は、樹脂を溶剤に溶解し、紡糸原液とし、この原液を紡糸孔から凝固浴中に押し出し、脱溶媒によって凝固させるか、樹脂を再生凝固させ、フィラメントにし、このフィラメントを後延伸、延伸、熱乾燥処理などで仕上げて製品とする方法である。
乾式紡糸は、蒸発しやすい溶剤に樹脂を溶かし、紡糸液を熱した空気中に押し出し、溶剤を蒸発させて繊維にする方法である。
【0061】
ゲル紡糸は、樹脂を溶媒に溶かした紡糸原液を、微小径の口金(ダイ)から冷水中に押し出しゲルフィラメントを得、このフィラメントを融点近くで数十倍に延伸する方法である。
溶融紡糸は、加熱して溶融した樹脂を、ダイの細孔から押し出し、冷却固化させる方法である。
樹脂の熱分解がその融点付近で始まる場合には、それより低い軟化点にポリマーを加熱し、細孔から押し出してモノフィラメントにする方法も溶融紡糸の中に含まれる。
【0062】
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を用いた本発明の繊維の製造には、溶融した樹脂をダイから押出す、溶融紡糸による製造方法が好ましい。
本発明における繊維について、その製造方法においては、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる繊維を得るには、溶融加熱温度が、(Tg+70)〜(Tg+130)℃の範囲であることが好ましい。
【0063】
本発明で用いる樹脂組成物を溶融紡糸するにあたり、該樹脂組成物の溶融張力(メルトテンション)の値は、紡糸の成形加工性を評価するうえで有効である。溶融張力は、非等温下で溶融樹脂を変形させるのに要する張力であり、一定速度で、メルトインデクサ(熱可塑性樹脂のMFR測定装置)から押し出されたポリマーのストランドを、一定の繊維径まで延伸するために必要な張力である。また、溶融紡糸の際の溶融張力が1g以上、好ましくは2g以上である加熱溶融温度が該樹脂組成物の溶融紡糸に好ましい。溶融張力が1g未満であると、該樹脂組成物の紡糸が困難となる場合がある。
【0064】
次に、延伸糸の製造方法について説明する。
本発明においては、上述のように、溶融紡糸などで得られた繊維を、さらに延伸して用いることができる。延伸は周知の方法で行うことができるが、例えば、ロール型延伸機を使用して、該繊維を延伸することができる。また、加熱雰囲気下で該繊維を再延伸することもできる。
【0065】
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を用いた本発明の繊維を、さらに熱処理することにより、該繊維の耐熱性などが向上する。かかる熱処理条件は特に限定するものではないが、該繊維のガラス転移温度をTgとしたとき、[Tg-40]℃以上、[Tg+50℃]℃未満で行うことが好ましい。
【0066】
次に、繊維構造体について説明する。
本発明の繊維構造体とは、前記ポリフェニレンエーテル樹脂組成物からなる本発明の繊維を用いて製造することができる二次的繊維生産物をいい、
繊維の構造体には、不織布、ウェブ、フェルト、編織物、織物、該繊維を用いたフィルター、配電板などが含まれる。これら繊維の構造体は常法により製造することができる。例えば、カーディング法、抄紙法、エアレイ法、メルトブロー法、スパンボンド法、熱融着、ニードルパンチ法、水流で繊維を交絡させる水流絡合法、などを本発明の該樹脂組成物からなる繊維に適用することができる。
また、上述のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる繊維とともに、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、塩化ビニル繊維、ポリアミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維など、各種の有機又は無機繊維の1種あるいは2種以上の繊維を使用した、混合繊維複合体も本発明に含まれる。
【0067】
本発明のシート状繊維被覆構造体について説明する。
本発明のシート状繊維被覆構造体とは、本発明の繊維を紡糸して得られたものをシート状に成形し、熱硬化性樹脂(熱硬化前のもの)で表面を被覆したものをいう。
シート状繊維被覆構造体の製造は、前記成分(A)と成分(B)を溶融混練した樹脂をダイから押し出して溶融紡糸により得られた繊維の集合体に、熱硬化性樹脂の噴霧により又は熱硬化性樹脂に含浸することにより、該構造体を得ることができる。
【0068】
本発明の不織布について説明する。
不織布とは、繊維と繊維を適当な熱や接着剤、あるいは高圧水流のような物理的・化学的手段や機械的手段を用いて絡ませたり接着したりして作る布状シートをいうが、本発明の不織布とは、その材料が前記本発明の繊維を用いて作製されるものをいう。
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる不織布の好ましい製造方法は、上記の薄いシート状繊維被覆構造体を積み重ね、ホットプレス、熱ロール、コールドプレスなどの方法によって一体化し、その際に熱硬化性モノマーは硬化されるが、得ることができる。
【0069】
また、本発明の不織布は、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の繊維を綿状としたのち、高圧のウオータージェットで交絡させ、乾燥機を通して乾燥させて得られたウェブを、さらに熱ロールを通して熱圧着させることによっても製造することができる。
【0070】
本発明の不織布においては、その不織布の表面には、必要に応じて表面処理を施すことができる。このような表面処理法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、赤外線処理、スパッタリング処理、溶剤処理、研磨処理などが挙げられる。
【0071】
本発明の織物とは、前記本発明の繊維を紡糸して得られた糸を縦横に組み合わせて作ったに布地をいい、該本発明の織物は、本発明の繊維を用いて製造することができるが、本発明の織物は公知の方法である、平織、斜文織、しゅす織などの方法で製造することができる。
【0072】
また、本発明のフィルターについて説明する。
繊維を素材としたフィルターは、液体、気体中の異物のろ過膜であって、繊維を素材としたものをいうが、本発明のフィルターとは、前記本発明の繊維を用いてつくられたフィルターをいう。本発明のフィルターは、具体的には、エンジンオイルフィルター、焼却炉用バグフィルター等の耐熱性が要求されるフィルターに適している。本発明のフィルターは公知の方法で製造することができる。例えば、規則正しく並んだ繊維の薄いシートの上下から、とげのついた針を刺し込み、機械的に繊維交絡させるニードルバンチ法などを適用してフィルターを得ることができる。
【0073】
本発明のプリント配線板は、について説明する。
プリント配線板とは、回路部品を接続する電気配線を、回路設計に基づいて配線図形に表現したものを適当な方法により絶縁物上に表現したものをいうが、本発明のプリント配線板は、前記絶縁物の素材として本発明の繊維構造体を用いた配線板をいう。
本発明のプリント配線基板は、本発明の不織布を用いて、銅箔と積層させる、あるいは、不織布表面を銅メッキするなどの、公知の方法により製造することができる。
【0074】
本発明における繊維、繊維集合体、繊維集合体成形体は、耐熱性、耐薬品性、難燃性などに優れ、高強度で、しかも安価なことから、電気・電子部品、自動車部品、医療用具・器具等の素材産業の分野で幅広く適用することが可能である。用途としては、衣類、フィルター、電気絶縁材料、耐熱フェルト、エンジンオイルフィルター、ラジエーターホース、断熱材、電池セパレーター、人工血管、習動部材、補強材、防護衣、自動車ダッシュボード、エンジンカバー、断熱材、タイヤ補強材、電機絶縁テープ、プリント配線板、電池セパレーターなどを挙げることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例に用いたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を構成する各樹脂成分は以下のとおりである。
本発明で用いたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)からなるが、成分(A)として、[η]=0.4のポリフェニレンエーテルを使用し、成分(B)として、エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸メチル=67/3/30(重量比)、(MFR(190℃)=9g/10min)(ボンドファースト7L、住友化学工業(株)製)を使用した。
【0076】
実施例および比較例で得られたサンプルの物性の測定は以下の通りである。
(i)荷重たわみ温度は、JIS K-7191に準拠して、18.5Kg荷重で、試験片が一定たわみに達する温度(荷重たわみ温度)を測定した。
【0077】
(ii)引っ張り強度、伸び率は、島津製作所(株)製オートグラフA-10TD型を使用して、JIS K-7161に準拠して、室温で、引っ張り速度50mm/minで行い、試料破断時の引っ張り強度、および伸び率を測定した。
(iii)曲げ試験は、インテスコ社製万能材料試験機2001-5型を使用して、JIS K-7171に準拠して、室温で試験速度5mm/min、支点間距離20mmで曲げ試験を行い、曲げ応力を求めた。
(iv)誘電率は、室温で、ASTM D150に準拠して、安藤電気(株)製誘電体損自動測定装置TR-1100型を使用して、周波数1KHzで誘電率、誘電正接を測定した。
【0078】
(v)難燃性試験は、樹脂試験片を短冊状に切り出し、垂直燃焼予備試験(UL94V)を行い、その難燃性レベルを評価することにより行った。難燃性レベルはV-0からV-1、HBなどにランクされ、V-0が最も難燃性に優れ、V-1がそれに次ぐものである。
HBは、さらに難燃性が劣ることを示す。
(vi)ガラス転移温度の測定は、EXSTAR TMA/SS6100型(Seiko Instrument社製)を使用して、窒素雰囲気下、昇温速度5℃/minで測定を行った。
【0079】
〔参考例1〕
1Lのビーカー中に、アセトン500ccを入れた後、樹脂硬化剤として下記式(8)で表されるエポキシ樹脂(エピコート1001、(以下、「エピコート」ということがある。シェル化学(株)製:塗料の研究No.143.Apr.2005、29頁)の100gを少しずつ加え、スターラーを使用して、攪拌しながら該エピコートをアセトン中に溶解させた。次に、イミダゾール(イミダゾール2E4MZ;;四国化成(株)製)4gをさらに加え、攪拌して、均一なエポキシ溶液を作製した。
【0080】
【化7】

【0081】
〔参考例2〕
500ccのビーカー中にアセトン80ccを入れた後、該エピコート(商品名、エピコート1001(シェル化学(株)製))の80gを少しずつ加え、スターラーを使用して、攪拌しながら該エピコートをアセトン中に溶解させた。次に、イミダゾール(イミダゾール2E4MZ;四国化成(株)製)0.4g、およびジシアンジアミド3gを加え、攪拌して均一なエポキシ溶液を作製した。
【0082】
〔実施例1〕
上記成分(A)を、120℃で8時間乾燥し、上記成分(B)を、60℃で2時間乾燥した後、成分(A)/成分(B)=98/2の重量比で各成分を良く混合したのち、二軸押出し機(TZW-15-30MG:スクリュー径15mm、L/D=30;テクノベル(株)製)を使用して、シリンダー設定温度、シリンダー設定温度290℃、スクリュー回転数200rpmで、ベントで脱気しながら溶融混練を行ない、組成物のペレットを得ることが出来た。以下、本ペレットをa-1と略称することがある。
【0083】
次に、得られた組成物のペレットを、射出製成形機(NIIGATA NN75;新潟鉄工所(株)製)を使用し、シリンダー設定温度はこの実施例では300℃、金型温度90℃、射出圧1600Kg/cmで射出成形を行なった。得られたa-1の射出成形試験片のHDT(Heat Deflection Temperature、荷重たわみ温度)は186℃であった。また、a-1の150×150×3mmの射出成形平板を用いて測定した1KHzでの誘電率は2.6であった。また、a-1のガラス転移温度は209℃、難燃性試験結果はV-1であった。
【0084】
エンジニアリングプラスチックとして繊維に適用されているPETのHDTは63℃、誘電率は3.2、PPSのHDTは108℃、誘電率は3.5であり、本発明で用いた樹脂組成物はそれらより圧倒的に耐熱性が優れ、しかも誘電率が低いことが分かる。
【0085】
次に、a-1のペレットを、キャピログラフ−1B((株)東洋精機製作所製)を使用して、ノズル径2.095mm、ランド長8mm、押し出し速度15mm/min、加熱温度は280℃、290℃、300℃の3点で、また、引き取り速度は、15m/min、ペレットの予熱時間を6minとして、a-1の溶融押し出しを行い、各加熱温度での溶融張力を求めた。得られたa-1における溶融張力の値を表1に示す。いずれも溶融張力は5g以上の高い値を示した。
【0086】
【表1】

【0087】
次に、上記のキャピログラフを使用して、a-1のペレットを、溶融加熱温度290℃、巻き取り速度55m/minで巻き取り、径が0.14mmの表面平滑で外観良好な繊維を得ることができた。得られたa-1の繊維について引張り試験を行った。a-1の繊維の引っ張り強度は1400kg/cm2、伸び率は20%であった。引っ張り強度の値から繊維の強度は十分であり、伸び率は、許容できる値であった。
【0088】
〔実施例2、3および比較例1〕
実施例1で得られた繊維10gを細断して、20cm角に均一に膜状になるよう広げた上に、参考例1で作製された均一なエポキシ溶液を約1ml、スプレーで噴霧したのち、24時間、室温で放置することで、エポキシ液の硬化が進んで繊維間に付着が生じ、該樹脂組成物繊維の厚さ200〜300μmの薄いシートが得られた。
【0089】
次に、参考例2で作製したエピコート溶液を入れた硝子皿中に、この薄いシートを10cm角程度にはさみで切り出して含浸させた。その際、エポキシ溶液と不織布の量比を計測した。薄い不織布を溶液に含浸後、70時間室温で放置した後、150℃、2分加熱することで溶媒のアセトンを除去した。このようにして得られた幾分硬化したシートを5枚重ね合わせ、プレス成形機を使用して、温度170℃、プレス圧50kg/cm2で90分プレス成形を行い、厚さ約1mmの不織布を得ることができた。このようにして作製した本発明の不織布を、次に示す方法で作製したエピコートシート(比較例1)とともにその物性を測定した(表2)。
【0090】
【表2】

【0091】
ここで、誘電正接とは、誘電特性のうち誘電体損失を表す指標であり、誘電率が大きくなると、高周波の電気が通りやすくなり、高周波絶縁が劣化し、誘電正接が大きくなると基板の内部発熱が大きくなるので、両者の値は小さいほど良いとされ、コンデンサ等の高周波特性を決定付けるとされている。本発明の不織布の誘電率と誘電正接は、比較例不織布と比べて、いずれも小さく、また、a-1の成分量の多い不織布(実施例2)では、それほど多くない不織布(実施例3)より良い値を示しており、本発明で用いた樹脂の特性が反映されている。それによると、本発明の不織布(実施例2、3)は、エピコートシート(比較例1)に比べ、誘電率、誘電正接は小さく、曲げ応力は大きく、曲げる力に対する抵抗があり、強度の面で優れていることを示した(表2)。
【0092】
比較例1のエピコート樹脂は、参考例2で作製したエピコート溶液を硝子皿に入れ、70時間室温で放置した後、150℃、2分加熱して50×50mm、厚さ2.6mmのエピコートシートを得た。得られたエピコートシートの物性は表2に示すとおりである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素を表す。)
で示される繰り返し単位を有するポリフェニレンエーテル(A)と、該ポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもつ共重合体(B)、からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物よりなる繊維。
【請求項2】
前記共重合体(B)が、不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜30質量%含有する共重合体であることを特徴とする、請求項1記載の繊維。
【請求項3】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を溶融加熱温度が(Tg+70)〜(Tg+130)℃の範囲でダイから溶融押し出しすることを特徴とする、請求項1又は2記載の繊維の製造方法。
【請求項4】
ダイからの溶融押し出しの前記ポリフェニレン系樹脂組成物の溶融張力(メルトテンション)が1g以上であることを特徴とする、請求項3記載の繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の繊維を用いてなる不織布。
【請求項6】
請求項1または2記載の繊維をプレス成形することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載の繊維に熱硬化性樹脂を噴霧又は含浸して得られるシート状繊維被覆構造体。
【請求項8】
請求項7記載のシート状繊維被覆構造体をプレス成形して得られる不織布。
【請求項9】
請求項1又は2記載の繊維を用いてなる織物。
【請求項10】
請求項1又は2記載の繊維を用いてなるフィルター。
【請求項11】
請求項1又は2記載の繊維を用いてなるプリント配線板。

【公開番号】特開2008−138294(P2008−138294A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322507(P2006−322507)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】