説明

繊維処理剤および染色繊維の製造方法

【課題】 優れた摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)を染色繊維に付与することのできる繊維処理剤およびこの繊維処理剤を用いた染色繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の繊維処理剤は、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)とを必須成分として含む、繊維処理剤である。また、本発明の染色繊維の製造方法は、該繊維処理剤を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む、染色繊維の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維処理剤および染色繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、摩擦堅牢度向上のための繊維処理剤と、この処理剤を用いて行われる染色繊維の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
バット染料や硫化染料で染色されたセルロース系布帛(たとえば、ブルーデニム、カラーデニム)は、それら染料の染着機構がセルロース系布帛に対する水素結合によって成り立っている。このために、布帛への染着力が比較的弱く、染色物の摩擦堅牢度、特に湿摩擦堅牢度に劣るという問題がある。
しかしながら、近年のファッションの流行および消費者志向の多様化等により、染色度が堅牢なデニム、濃色のデニムや淡色の濃度差が顕著なデニムが好まれる傾向にある。このために、一般消費者からより高い摩擦堅牢度、特に、より高い湿摩擦堅牢度を要望されている。
【0003】
従来より、高い摩擦堅牢度を付与するためには、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(特許文献1)、反応性ウレタン樹脂、反応性シリコーン樹脂、反応性アクリル樹脂等の耐水性を有する樹脂(特許文献2)、ポリエチレンイミンおよび二官能性アルキル化剤(特許文献3)が一般的に使用されてきた。
上記特許文献1〜3に開示された従来の技術では、乾摩擦堅牢度は向上する樹脂がある。しかしながら、湿摩擦堅牢度については、いずれも未処理布とほぼ同等程度でほとんど向上は見られない。したがって、濃色の染色物において、その効果が特に不足しているという問題が残されている。
【0004】
また、上記従来の技術以外の摩擦堅牢度向上の方法としては、染料ロイコ体が溶解した水溶液を繊維に含浸させた後、非酸化性雰囲気中で乾燥させた後、繊維の水分率が6〜30重量%の状態で酸素を含む気体と接触させることによってロイコ体を酸化させる方法(特許文献4)も提案されている。しかしながら、特許文献4記載の方法では、製造設備の追加変更(不活性ガスの使用装置、減圧装置)が必要で経済的でない事や、水分率の調整が難しく、実際の布帛生産では品質管理が困難な問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−218177号公報
【特許文献2】特開平7−18588号公報
【特許文献3】特開昭60−155784号公報
【特許文献4】特開2007−46190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)を染色繊維に付与することのできる繊維処理剤およびこの繊維処理剤を用いた染色繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)とを必須成分として含む繊維処理剤を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に加工処理すれば、高い摩擦堅牢度、特に湿摩擦堅牢度が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明にかかる繊維処理剤は、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)とを必須成分として含む、繊維処理剤である。
【0008】
また、分子内にオキサゾリン基を有する前記高分子架橋剤(B)は、オキサゾリン基含有単量体(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(b−2)とを少なくとも含有する単量体成分を重合して得られる重合体であることが好ましい。また、前記オキサゾリン基含有単量体(b−1)の全単量体成分に占める割合は、30〜98重量%であることが好ましい。
【0009】
本発明において、前記成分(A)の中和度は50モル%以上が好ましい。また、成分(A)はアクリル酸系重合体のアンモニウム塩であることが好ましい。
【0010】
また、前記成分(A)と前記高分子架橋剤(B)との重量割合(A/B)が2/1〜60/1であることが好ましい。また、前記成分(A)の処理剤全体に占める割合は、1〜50重量%であることが好ましい。
【0011】
前記原料繊維はセルロース系繊維であること、前記染料がインジゴ系染料であることが好ましい。
【0012】
本発明にかかる製造方法は、前記繊維処理剤を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む。また、本発明にかかる製造方法は、アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む。前記付与は、含浸法、パッドドライ法、スプレー法およびコーティング法のいずれかの方法で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維処理剤は、アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)を含むことにより、アクリル酸鎖同士が化学的に結合し、染色繊維に適し、かつ優れた耐久性を有する被膜を繊維上に形成できる。その結果、優れた摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)を染色繊維に付与することができる。特に、ブルーデニム、カラーデニム等の染色繊維の場合に、その効果は顕著である。
【0014】
本発明にかかる染色繊維の製造方法は、上記繊維処理剤を原料繊維に付与する工程を含むので、得られる染色繊維は摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)に優れる。本発明にかかる染色繊維は、摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の繊維処理剤は、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)とを必須成分として含む、繊維処理剤である。以下、詳細に説明する。
【0016】
本発明のアクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)は、耐摩耗性を染色繊維に付与し、湿潤時の平滑性を向上させる成分である。アクリル酸系重合体は、アクリル酸を必須に含む重合性成分を重合して得られる重合体であり、アクリル酸のみを含む重合性成分を重合して得られる単独重合体であってもよく、アクリル酸およびそれと共重合可能な単量体を含有する重合性成分を重合して得られる共重合体であってもよい。
共重合可能な単量体としては、たとえば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体、(メタ)アクリロニトリル系単量体、(メタ)アクリルアマイド系単量体等を挙げることができる。また、これら単量体を1種または2種以上を併用してもよい。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチル(メタ)アククリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
スチレン系単量体としては、スチレン、α−クロロスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩(Na、K、Li)、α−クロロスチレン、m−クロロスチレン、α−ブロモスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、o,p−ジメチルスチレン、o,p−ジエチルスチレン等が挙げられる。
(メタ)アクリロニトリル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−クロルメタクリロニトリル、α−メトキシアクリルニトリル、α−メトキシメタクリルニトリル、α−エトキシアクリルニトリル、α−エトキシメタクリルニトリル等が挙げられる。
(メタ)アクリルアマイド系単量体としては、アクリルアマイド、メタクリルアマイド、N-メチロールアクリルアマイド、N-メチロールメタクリルアマイド、N−ブトキシメチルアクリルアマイド、N−ブトキシメチルメタクリルアマイド、N−エチルアクリルアマイド、N−エチルメタクリルアマイド、N−プロピルアクリルアマイド、N−プロピルメタクリルアマイド、N−ブチルアクリルアマイド、N−ブチルメタクリルアマイド、N,N’−メチレンビスアクリルアマイド、N,N’−メチレンビスメタクリルアマイド、N,N−ジメチルアクリルアマイド、N,N−ジメチルメタクリルアマイド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアマイド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアマイド等が挙げられる。
【0018】
これらのなかでも、共重合可能な単量体としては(メタ)アクリルアマイド系単量体が好ましく、繊維との接着性がより向上するという点から、N-メチロールアクリルアマイド、N,N’−メチレンビスアクリルアマイド、N,N−ジメチルアクリルアマイド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアマイドがさらに好ましく、N-メチロールアクリルアマイド、N-メチロールメタクリルアマイド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアマイド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアマイドが特に好ましい。
【0019】
アクリル酸系重合体は、アクリル酸を重合性成分全体の70重量%以上(より好ましくは80重量%以上、さらに好ましく90重量%以上、特に好ましくは91〜98重量%)含む重合性成分を重合して得られる重合体であることが好ましい。また、アクリル酸と共重合可能な単量体の重合性成分全体に占める割合は、30重量%以下(より好ましくは20重量%以下、さらに好ましく10重量%以下、特に好ましくは2〜9重量%)が好ましい。重合性成分全体に占めるアクリル酸の割合が70重量%以上で、アクリル酸と共重合可能な単量体の割合が30重量%以下であることにより、被膜強度の耐久性が向上し、摩擦堅牢度をより一層向上させることができる。
【0020】
アクリル酸系重合体の重量平均分子量については、特に限定されないが、たとえば、好ましくは1万〜500万、より好ましくは5万〜300万、さらに好ましくは10万〜200万である。1万未満の場合、被膜強度の耐久性が不足する場合がある。一方、500万超の場合、高粘度のため、作業性が低下する場合がある。
【0021】
成分(A)は、未中和のアクリル酸系重合体であってもよく、アクリル酸系重合体のカルボキシル基を中和した塩であってもよく、未中和のアクリル酸系重合体と、アクリル酸系重合体の塩を共に含む場合であってもよい。
【0022】
アクリル酸系重合体の塩としては、前記アクリル酸系重合体のアンモニウム塩、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩、鉄塩、銅塩等が挙げられる。また、これらを1種または2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、金属塩はアクリル酸系重合体との強い結合のため、架橋反応が抑制されることから、アクリル酸系重合体のアンモニウム塩、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩が好ましく、アクリル酸系重合体のアンモニウム塩がより好ましい。
【0023】
アクリル酸系重合体の第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩を構成する第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウムカチオンは、特に限定はないが、例えば第1級アミンとしてはメチルアミン、エチルアミン、メタノールアミン、エタノールアミン等が挙げられる。第2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。第3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミンが挙げられる。第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラメタノールアンモニウムカチオン、テトラエタノールアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0024】
成分(A)は、その中和度が50モル%以上であることが好ましい。ここで中和度とは、アクリル酸系重合体の有するカルボキシル基に対するアンモニア等の塩基のモル比率を言う。アンモニア等の塩基によって中和されるカルボキシル基の中和度が50モル%未満であると、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)と混合した場合にゲル化が起こりやすく、得られる繊維処理剤の安定性が低下することがある。中和度は50モル%以上がより好ましく、52モル%以上がさらに好ましく、55モル%以上が特に好ましく、60モル%以上が最も好ましい。成分(A)はアクリル酸系重合体のアンモニウム塩がより好ましく、中和度が50モル%以上のアクリル酸系重合体のアンモニウム塩がさらに好ましい。
【0025】
アクリル酸系重合体の塩、例えばアンモニウム塩は40℃以下を保持しながら、アンモニア水をアクリル酸系重合体に滴下混合する方法等によって製造することができる。
【0026】
成分(A)の繊維処理剤全体に占める割合は、1〜50重量%が好ましく、2〜40重量%がより好ましく、3〜30重量%がさらに好ましく、4〜20重量%が特に好ましい。1重量%未満の場合、付着量が少なく被膜強度の耐久性が不足する場合がある。一方、50重量%超の場合、加工液の粘度が高く、作業性が悪くなることがある。そのため、1段階で処理することは困難であり、複数回の処理を要する場合がある。なお、繊維処理剤全体に占める成分(A)の割合は、成分(A)の不揮発分の割合をいう。本発明において不揮発分とは、処理剤等を105℃・15分間熱処理して、溶媒等を揮発させたときの残存成分をいう。
【0027】
本発明の高分子架橋剤(B)は、分子内にオキサゾリン基を有していれば特に限定はなく、例えば、2−オキサゾリン基、3−オキサゾリン基および4−オキサゾリン基から選ばれる少なくとも1種を分子内に有していればよい。これらの中でも、分子内に2−オキサゾリン基を有している高分子架橋剤が好ましい。
【0028】
本発明の高分子架橋剤(B)としては、オキサゾリン基含有単量体(b−1)の1種または2種以上からなる単量体成分を重合して得られる重合体や、オキサゾリン基含有単量体(b−1)の1種または2種以上とそれ以外の不飽和単量体からなる単量体成分を重合して得られる重合体等が挙げられる。
【0029】
オキサゾリン基含有単量体(b−1)としては、下記一般式(1)に示されるものが好ましい。
【化1】

【0030】
式中、Rはアルケニル基を示し、R、R、R、Rは、それぞれ同一または異なっていてもよく、独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、または置換アリール基を示す。
オキサゾリン基含有単量体(b−1)の具体例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。これらのうちの1種または2種以上を用いてもよい。
【0031】
オキサゾリン基含有単量体(b−1)以外の不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、アクリルアマイド、スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸塩等が挙げられる。
本発明の高分子架橋剤(B)は、セルロース系繊維との接着性向上および風合いの改質という理由から、オキサゾリン基含有単量体(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(b−2)を少なくとも含有する単量体成分を重合して得られる高分子架橋剤が好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、特に限定はなく、例えば、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アククリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等を好ましく挙げることができ、これらのなかでもメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートがより好ましい。1種または2種以上を併用してもよい。
【0033】
オキサゾリン基含有単量体の全単量体成分に占める割合は、30〜98重量%が好ましく、33〜95重量%がより好ましく、36〜90重量%がさらに好ましく、40〜85重量%が特に好ましい。30重量%未満の場合、架橋点が少なく被膜強度の耐久性が向上しない場合がある。一方、98重量%超の場合、架橋反応が激しく、加工液をゲル状にする場合がある。
また、オキサゾリン基含有単量体(b−1)とアクリル酸エステル単量体(b−2)を少なくとも含有する単量体成分を重合して得られる高分子架橋剤の場合、単量体成分におけるオキサゾリン基含有単量体(b−1)とアクリル酸エステル単量体(b−2)の重量割合(b−1/b−2)は、1/4〜60/1が好ましく、1/3〜40/1がより好ましく、1/2〜25/1がさらに好ましく、2/3〜15/1が特に好ましい。
【0034】
高分子架橋剤(B)は、これら単量体成分を乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等任意の方法で重合して得られる。高分子架橋剤(B)は水溶液またはエマルジョンとして、水系液の状態で得られ、その不揮発分の濃度は1〜50重量%の範囲にあるのが好ましい。
高分子架橋剤(B)の重量平均分子量は1000以上が好ましく、2000〜20万がより好ましく、5000〜15万がさらに好ましく、1万〜10万が特に好ましい。重量平均分子量が1000未満であると、摩擦堅牢度の低下の原因となる場合がある。
【0035】
高分子架橋剤(B)の繊維処理剤全体に占める割合は、0.01〜20重量%が好ましく、0.05〜15重量%がより好ましく、0.1〜10重量%がさらに好ましく、0.5〜5重量%が特に好ましい。0.01重量%未満の場合、架橋点が少なく被膜強度の耐久性が向上しない場合がある。一方、20重量%超の場合、過剰な架橋基により摩擦堅牢度が低下する場合がある。なお、繊維処理剤全体に占める高分子架橋剤(B)の割合は、高分子架橋剤(B)の不揮発分の割合をいう。
【0036】
また、成分(A)と高分子架橋剤(B)との重量割合(A/B)は、2/1〜60/1が好ましく、2/1〜50/1がより好ましく、2/1〜40/1がさらに好ましく、2/1〜30/1が最も好ましい。この重量割合(A/B)が2/1未満の場合、過剰な架橋基により摩擦堅牢度が低下する場合がある。一方、60/1超の場合、架橋点が少なく被膜強度の耐久性が向上しない場合がある。
【0037】
本発明の繊維処理剤は、成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)(以下、繊維処理剤に含まれるこれらの成分を合わせて「有効成分」と言うことがある。)以外に、摩擦堅牢性、分繊性、耐摩耗性(製織性)、柔軟性等の物性をさらに付与の目的で、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、たとえば、架橋性ウレタン樹脂、架橋性アクリル樹脂、ポリエチレンイミン、グリオキザール樹脂、メラミン樹脂、エチレン尿素、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、ホウフッ化亜鉛、パラフィンワックス、エステル化ワックス、蜜蝋、ライスワックス、ポリエチレンワックス、ポリエチレングリコール、牛脂、ラード、牛脂極度硬化油、ラード極度硬化油、鉱物油、ジメチルシリコーンエマルジョン、エポキシシリコーンエマルジョン、アミノシリコーンエマルジョン、メチルハイドロジェンエマルジョン、ポリビニルアルコール、天然澱粉、変性澱粉、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸重合物、アクリル酸エステル重合物、アクリルアマイド重合物、アクリル酸スチレン共重合物、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合物、ポリアマイドポリアミン系柔軟剤、ポリアマイドエステル系柔軟剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、防腐剤、消泡剤、界面活性剤等を含む浸透剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0038】
本発明の繊維処理剤は、加工性または作業性を配慮し、また乾燥により水分を除去可能であるので、水を必須に含む場合が好ましい。また、アルコール系、水溶性溶剤等の水以外の溶媒も含まれていてもよい。本発明の繊維処理剤が水を含む場合、本発明の繊維処理剤は、成分(A)、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)、必要に応じて含まれるその他の成分および水以外の溶媒を除き、水で構成される。本発明に使用する水としては、純水、蒸留水、精製水、軟水、イオン交換水、水道水等のいずれであってもよい。
【0039】
繊維処理剤の製造方法としては、特に限定なく、公知の方法を採用することができる。通常、本発明の繊維処理剤は、成分(A)、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)、水、必要に応じて溶剤やその他の成分を順不同で混合・撹拌することにより調製される。
【0040】
本発明の繊維処理剤は、通常、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられる。
本発明で、原料繊維の製造に使用される染料は、バット染料および/または硫化染料である。これらの染料の作用は、いずれもハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素等の還元性雰囲気下で水溶性のロイコ体を形成し、そして、このロイコ体を含有する水溶液を繊維に付着させ、その後に、空気、酸素等により酸化させることによって染色するものである。
【0041】
バット染料としては、たとえば、インジゴ系染料(インジゴ染料、チオインジゴ染料等)、アントラキノン系染料、ピラントロン系染料、ジベンゾアントロン系染料、ベンゾアントロンアクリジン系染料、イミダゾール系染料、フタロシアニン系染料等を挙げることができる。また、硫化染料としては、たとえば、加硫型染料、水溶性型染料、分散型染料、SCN基付加型染料、チオ硫酸基付加型染料、アゾジサルファイド型染料等を挙げることができる。これらの染料のうちでも、バット染料に分類されるインジゴ系染料が特に重要である。
上記染料で加工して原料繊維を製造する方法については、特に限定はなく、通常用いられる染色方法で行われる。上記染色に使用される染色機としては、たとえば、パッケージ染色機、オーバーバイヤー染色機、チーズ染色機、ロープ染色機、シート染色機、ウインス染色機、ジッガー染色機、ビーム染色機、液流染色機等が挙げられる。これらの染色機のうちでも、高い染色濃度が容易に得られるロープ染色機やシート染色機が好適に用いられる。染色回数を最も多くできうるロープ染色機が最も好適である。
【0042】
本発明で用いられる原料繊維を構成する素材の種類については特に限定はないが、たとえば、綿、麻等の天然セルロース系繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、精製セルロース繊維(商標:テンセル)等の再生セルロース系繊維等のセルロース系繊維を挙げることができる。セルロース系繊維は単独あるいは混紡、交織により他繊維と混用して用いてもよく、混用の場合、セルロース系繊維を20重量%以上含有するのが望ましい。原料繊維の形態については特に限定はないが、糸状、織物、編物、不織布等の形態を挙げることができる。
【0043】
本発明の染色繊維の製造方法は、上記繊維処理剤を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む製造方法である。また、本発明の染色繊維の製造方法は、アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)とを、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む製造方法である。従って、成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)とを必須成分として含む繊維処理剤を調製し、原料繊維に付与してもよいし、成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)とを個別に調製して、別個に原料繊維に付与してもよい。作業効率の理由から、上記繊維処理剤を一段階で原料繊維に付与するのが好ましい。
【0044】
原料繊維に付与する工程は、染色後の分繊工程、製織前の糊付工程および縫製後の加工工程のうちのいずれの工程であっても問題ないが、分繊工程および/または糊付工程で付与されるのが好ましい。なお、加工工程で原料繊維に付与すると、本来付与の必要性のない、緯糸にも付与することになるので経済的でないこともある。
上記付与は、浸漬法、含浸法、パッドドライ法、スプレー法およびコーティング法のいずれかの方法で行われると好ましい。これらの方法のうちでも、繊維表面部から繊維内部まで処理剤を付与することが可能であり、しかも、現行生産機械をそのまま利用可能で経済性にも優れるという理由から、パッドドライ法がさらに好ましい。
【0045】
本発明の繊維処理剤または繊維処理剤を構成する各成分(以下繊維処理剤等という場合もある)を分繊工程で付与する場合、本発明の繊維処理剤等以外に、公知の分繊剤として、たとえば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、動植物油、エステル系ワックス、鉱物油、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の非イオン活性剤、4級アンモニウムクロライド等のカチオン活性剤等からなるワックスおよびワックスエマルジョン等を併用してもよい。
【0046】
また、本発明の繊維処理剤等を糊付工程で付与する場合、本発明の繊維処理剤等以外に、公知の糊剤として、たとえば、重合度500〜3000で鹸化度80〜99モル%のポリビニルアルコール(以下、PVA)、コーンスターチや馬鈴薯等の澱粉、エステル化澱粉等の澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸重合物、アクリル酸エステル重合物、アクリルアマイド重合物、アクリル酸スチレン共重合物等の糊剤主成分;パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、動植物油、エステル系ワックス、鉱物油等の平滑成分;POEアルキルエーテル等の非イオン活性剤、4級アンモニウムクロライド等のカチオン活性剤等の乳化成分;界面活性剤等を含む浸透剤;柔軟剤;防腐剤;帯電防止剤等を含む糊剤を併用してもよい。
【0047】
原料繊維に対する本発明の成分(A)と分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)の付着量について特に限定はないが、成分(A)と分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)の合計量(以下、この合計量を「有効成分量」ということがある。)が原料繊維の量に対して1〜50重量%となるように付与されるのが好ましく、さらに好ましくは2〜30重量%、特に好ましくは3〜20重量%である。有効成分量が原料繊維の量に対して1重量%より少ないと、本発明の効果が得られ難くなることがある。一方、有効成分量が原料繊維の量に対して50重量%より多いと、摩擦堅牢度向上の効果が付与量に見合ったものとはならず、頭打ちとなり、経済的でない。
【0048】
本発明の繊維処理剤を原料繊維に付与する場合、その付与温度は、25〜40℃が好適である。付与温度が25℃より低いと、一定温度保持が難しいために原料繊維への一定付与ができなくなることがある。一方、付与温度が40℃より高いと、原料繊維に含まれる染料の溶出が多くなることがある。
本発明の繊維処理剤が付与された原料繊維の乾燥温度については、特に限定はないが、耐久性を有する被膜を形成させるためには、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは110〜200℃である。乾燥温度が100℃より低いと、耐久性を有する被膜が原料繊維に形成され難くなる。
【0049】
本発明の染色繊維の製造方法で、本発明の繊維処理剤を糊付工程以外で付与する場合、本発明の繊維処理剤とともに、本発明の効果を損なわない範囲で、他の繊維加工薬剤や繊維加工助剤と併用して処理してもよい。このような薬剤や助剤としては、たとえば、消臭剤、抗菌剤、防腐剤、柔軟剤、帯電防止剤、撥水撥油剤、硬仕上げ剤、紫外線吸収剤、防汚剤、親水化剤等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。
【0050】
以下、本発明の染色繊維の製造方法を利用してブルーデニムを生産する場合について、一連の製造工程を詳しく説明する。
まず、綿糸を400〜600本のロープに整経した後、このロープを、最初は、20℃〜60℃の水洗槽、次に、アルキルサルフェート金属塩等のアニオン活性剤および苛性ソーダ水溶液の浸透槽、最後に、pH12程度に調整されたハイドロサルファイトおよび水酸化ナトリウムおよびインジゴ染料からなる染色槽を通過させ、空気酸化させて染色する。染色槽は必要染色濃度に応じて、染料濃度および染色回数および空気酸化時間は適宜調整されるが、通常、濃色染色の場合、インジゴ染料濃度1〜7g/リットルの染色槽を9〜12回、空気酸化工程を入れながら繰り返し行われる。空気酸化により発色されたインジゴ染色糸は、その後、糸表面に過剰付着したインジゴ染料や付着している水酸化ナトリウム等の洗浄除去の目的で、20〜60℃の3〜5槽からなる水洗湯洗槽を通過させる。その後、ロープ染色糸の分繊(ロープ状糸を1本毎に分割する工程)の目的で、本発明の繊維処理剤を付与した後、乾燥、分繊され、荒巻整経ビームに整経される。
【0051】
その後、荒巻整経ビームに整経されたインジゴ染色糸は、スラッシャーサイジング機を用いて、糊付(糊剤を付与する工程)し、100〜130℃のシリンダーで乾燥され、織機ビームに巻き取られた後、緯糸に未染色の綿、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、テンセル、ポリウレタンを用いてAIR JET織機、レピア織機等で綾織物として製織され、デニム布が得られる。
製織されたデニム布は、付与した糊剤を除去する目的で、ガスバーナーにより布表面の毛羽を除去する目的で毛焼工程、湯洗工程、布の防縮の目的でサンフォライズ工程、引き裂き強度向上の目的でグリオキザール樹脂加工等が施された後、ジーンズに縫製される。その後、ジーンズに風合、色彩等の機能性を付与する目的で、柔軟、ブリーチ、ストーンウオッシュ、ケミカルウオッシュ等の処理が行われて、ジーンズ製品が完成する。
【実施例】
【0052】
以下の実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、例中の「部」および「%」とあるのは、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0053】
〔製造例1〕
(ポリアクリル酸アンモニウム塩Aの調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水575重量部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを5部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、濃度80重量%のアクリル酸水溶液202重量部を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、2時間かけてアクリル酸を全量滴下した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.5重量部および軟水64.5重量部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却した。次に、4ツ口フラスコ中の内容物を40℃以下に保持、撹拌しながら、別に設置した滴下フラスコより、濃度25重量%のアンモニア水153重量部を徐々に滴下して中和を行い、滴下終了後、更に30分間撹拌し、室温まで冷却して、重量平均分子量6万が、中和度が100モル%のポリアクリル酸アンモニウム塩Aの水溶液を得た。該水溶液中のポリアクリル酸アンモニウム塩Aの濃度(不揮発分濃度)は20重量%であった。
【0054】
(ポリアクリル酸アンモニウム塩Bの調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水449重量部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを0.3重量部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、濃度80重量%のアクリル酸水溶液202重量部を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、1時間かけてアクリル酸を全量滴下した。その間、15分後、30分後、45分後に過硫酸アンモニウム0.2重量部を投入した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.1重量部および軟水195重量部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却した。次に、4ツ口フラスコ中の内容物を40℃以下に保持、撹拌しながら、別に設置した滴下フラスコより、濃度25重量%のアンモニア水153重量部を徐々に滴下して中和を行い、滴下終了後、更に30分間撹拌し、室温まで冷却して、重量平均分子量が40万、中和度が100モル%のポリアクリル酸アンモニウム塩Bの水溶液を得た。該水溶液中のポリアクリル酸アンモニウム塩Bの濃度(不揮発分濃度)は20重量%であった。
【0055】
(ポリアクリル酸アンモニウム塩C、D、Eの調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水605重量部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを0.2重量部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、濃度80重量%のアクリル酸水溶液250重量部を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、1時間かけてアクリル酸を全量滴下した。その間、15分後、30分後、45分後に過硫酸アンモニウム0.2重量部を投入した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.2重量部および軟水145重量部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却し、ポリアクリル酸を得た。得られたポリアクリル酸を取り出し、ポリアクリル酸アンモニウムC、D、Eをアンモニア中和度それぞれ100モル%、80モル%、60モル%となるように濃度25重量%のアンモニア水を投入した。さらに、軟水を投入し、濃度(不揮発分濃度)を10重量%に調整したポリアクリル酸アンモニウム塩C、D、Eの水溶液を得た。ポリアクリル酸アンモニウム塩C、D、Eの重量平均分子量はいずれも80万であった。
【0056】
(アクリル酸系共重合体アンモニウム塩H、Iの調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水605重量部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを0.2重量部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、あらかじめ混ぜておいた単量体液(濃度80重量%のアクリル酸水溶液238重量部と濃度40重量%のN-メチロールアクリルアマイド25重量部)を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、1時間かけて単量体液を全量滴下した。その間、15分後、30分後、45分後に過硫酸アンモニウム0.2重量部を投入した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.2重量部および軟水132重量部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却し、アクリル酸系共重合体を得た。得られたアクリル酸系共重合体を取り出し、アクリル酸系共重合体アンモニウム塩H、Iをアンモニア中和度それぞれ100モル%、80モル%となるように濃度25重量%のアンモニア水を投入した。さらに、軟水を投入し、濃度(不揮発分濃度)を10重量%に調整したアクリル酸系共重合体アンモニウム塩H、Iの水溶液を得た。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩H、Iの重量平均分子量は80万であった。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩H、Iの単量体重量比率はアクリル酸:N-メチロールアクリルアマイドは95:5である。
【0057】
(アクリル酸系共重合体アンモニウム塩J、Kの調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水605重量部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを0.2重量部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、あらかじめ混ぜておいた単量体液(濃度80重量%のアクリル酸水溶液230重量部と濃度40重量%のN-メチロールアクリルアマイド40重量部)を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、1時間かけて単量体液を全量滴下した。その間、15分後、30分後、45分後に過硫酸アンモニウム0.2重量部を投入した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.2重量部および軟水125重量部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却し、アクリル酸系共重合体を得た。得られたアクリル酸系共重合体を取り出し、アクリル酸系共重合体アンモニウム塩J、Kをアンモニア中和度それぞれ100モル%、80モル%となるように濃度25重量%のアンモニア水を投入した。さらに、軟水を投入し、濃度(不揮発分濃度)を10重量%に調整したアクリル酸系共重合体アンモニウム塩J、Kの水溶液を得た。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩J、Kの重量平均分子量は80万であった。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩J、Kの単量体重量比率はアクリル酸:N-メチロールアクリルアマイドは92:8である。
【0058】
(アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Lの調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水605重量部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを0.2重量部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、あらかじめ混ぜておいた単量体液(濃度80重量%のアクリル酸水溶液238重量部と濃度40重量%のN-メチロールアクリルアマイド15重量部、濃度100重量%のアクリル酸エチル2重量部)を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、1時間かけて単量体液を全量滴下した。その間、15分後、30分後、45分後に過硫酸アンモニウム0.2重量部を投入した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.2重量部および軟水132重量部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却し、アクリル酸系共重合体を得た。得られたアクリル酸系共重合体を取り出し、アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Lをアンモニア中和度80モル%となるように濃度25重量%のアンモニア水を投入した。さらに、軟水を投入し、濃度(不揮発分濃度)を10重量%に調整したアクリル酸系共重合体アンモニウム塩Lの水溶液を得た。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Lの重量平均分子量は80万であった。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Lの単量体重量比率はアクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド:アクリル酸エチルは95:3:2である。
【0059】
(アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Mの調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水605重量部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを0.2重量部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、あらかじめ混ぜておいた単量体液(濃度80重量%のアクリル酸水溶液230重量部と濃度40重量%のN-メチロールアクリルアマイド30重量部、濃度100重量%のアクリル酸エチル2重量部)を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、1時間かけて単量体液を全量滴下した。その間、15分後、30分後、45分後に過硫酸アンモニウム0.2重量部を投入した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.2重量部および軟水125重量部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却し、アクリル酸系共重合体を得た。得られたアクリル酸系共重合体を取り出し、アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Mをアンモニア中和度80%となるように濃度25重量%のアンモニア水を投入した。さらに、軟水を投入し、濃度(不揮発分濃度)を10重量%に調整したアクリル酸系共重合体アンモニウム塩Mの水溶液を得た。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Mの重量平均分子量は80万であった。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Mの単量体重量比率はアクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド:アクリル酸エチルは92:6:2である。
【0060】
(アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Nの調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水605重量部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを0.2重量部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、あらかじめ混ぜておいた単量体液(濃度80重量%のアクリル酸水溶液230重量部と濃度40重量%のN-メチロールアクリルアマイド15重量部、濃度100重量%のアクリル酸エチル5重量部)を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、1時間かけて単量体液を全量滴下した。その間、15分後、30分後、45分後に過硫酸アンモニウム0.2重量部を投入した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.2重量部および軟水125重量部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却し、アクリル酸系共重合体を得た。得られたアクリル酸系共重合体を取り出し、アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Nをアンモニア中和度80%となるように濃度25重量%のアンモニア水を投入した。さらに、軟水を投入し、濃度(不揮発分濃度)を10重量%に調整したアクリル酸系共重合体アンモニウム塩Gの水溶液を得た。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Nの重量平均分子量は80万であった。アクリル酸系共重合体アンモニウム塩Nの単量体重量比率はアクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド:アクリル酸エチルは92:3:5である。
【0061】
(実施例1)
表1に示すように、ポリアクリル酸アンモニウム塩Aの不揮発分濃度が6重量%、オキサゾリン系架橋剤の不揮発分濃度が1重量%となるよう、使用薬剤としてポリアクリル酸アンモニウム塩Aの水溶液、オキサゾリン系架橋剤Fおよび軟水を所定量混合・撹拌して調製し、繊維処理剤を得た。得られた繊維処理剤を布に付与処理し、下記に示す評価を行った。その結果を表1に示す。
(実施例2〜16および比較例1〜9)
表1、2に示すように使用薬剤の種類や量を変更する以外は、それぞれ実施例1と同様にして調製し、繊維処理剤を得た。得られた繊維処理剤について、実施例1と同様にしてそれぞれ下記に示す評価を行った。その結果を表1、2に示す。なお、表1、2に示すポリアクリル酸アンモニウム塩、アクリル酸系共重合体アンモニウム塩、架橋剤の数値は、それらの不揮発分の重量%を示す。
【0062】
<試験方法>
インジゴ染色布(濃紺500番平織、原料布)に対して、調製した繊維処理剤を30℃でパット処理(2DIPS×2NIPS)し、ピンテンターにて110℃×3分間乾燥処理して、加工布(洗いなし)を得た。また、同様に処理して得た加工布について、ラウンダーメーターにて40℃×20分間水洗処理をいった後、ピンテンターにて110℃×3分間乾燥処理を行い、1回洗いの加工布を得た。
【0063】
<性能評価方法>
(1)摩擦堅牢度
得られた加工布(洗いなし、1回洗い)の摩擦堅牢度試験(乾摩擦、湿摩擦)をJIS L 0849(学振法)、摩擦回数は100回にて行った。摩擦堅牢度の評価はJIS L 0801(計器法)に基づき、試験前後の添付白布の三刺激値を測定し、JIS L 0809によって、添付白布の汚染の等級およびN値を判定した。
(2)付着量
布(繊維)に対する付着量は次式により計算した。
付着量(重量%)=(加工布重量―原料布重量)/原料布重量×100
なお、原料布(繊維)に対する付着量は、加工繊維を有機溶剤、水系溶剤、苛性ソーダ水溶液等の洗浄することにより除去できる成分の内セルロース繊維および染料以外の成分量としても求められる。
【0064】
【表1】

【0065】
・ポリアクリル酸アンモニウム塩A:分子量6万、中和度100モル%
・ポリアクリル酸アンモニウム塩B:分子量40万、中和度100モル%
・ポリアクリル酸アンモニウム塩C:分子量80万、中和度100モル%
・ポリアクリル酸アンモニウム塩D:分子量80万、中和度80モル%
・ポリアクリル酸アンモニウム塩E:分子量80万、中和度60モル%
・オキサゾリン系架橋剤F:2−ビニル−2−オキサゾリン(b−1)とメチルメタリレートおよびエチルアクリレート(b−2)との共重合体、(b−1/b−2)=75/25、重量平均分子量4万、不揮発分濃度10重量%
・オキサゾリン系架橋剤G:2−ビニル−2−オキサゾリン(b−1)とメチルメタリレートおよびエチルアクリレート(b−2)との共重合体、(b−1/b−2)=44/56、重量平均分子量2万、不揮発分濃度40重量%
・グリシジルエーテル系架橋剤:デナコールEX−321(不揮発分濃度27重量%、ナガセケムテックス社製)
・グリオキザール系架橋剤:スミテックスレジンNS−18(不揮発分濃度45重量%、住化ケムテックス社製)
・イソシアネート系架橋剤:エラストロンBN−69(不揮発分濃度40重量%、第一工業製薬社製)
【0066】
【表2】

【0067】
・アクリル酸系共重合体アンモニウム塩H:分子量80万、中和度100モル%、単量体重量比率 アクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド=95:5
・アクリル酸系共重合体アンモニウム塩I:分子量80万、中和度80モル%、単量体重量比率 アクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド=95:5
・アクリル酸系共重合体アンモニウム塩J:分子量80万、中和度100モル%、単量体重量比率 アクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド=92:8
・アクリル酸系共重合体アンモニウム塩K:分子量80万、中和度80モル%、単量体重量比率 アクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド=92:8
・アクリル酸系共重合体アンモニウム塩L:分子量80万、中和度80モル%、単量体重量比率 アクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド:アクリル酸エチル=95:3:2
・アクリル酸系共重合体アンモニウム塩M:分子量80万、中和度80モル%、単量体重量比率 アクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド:アクリル酸エチル=92:6:2
・アクリル酸系共重合体アンモニウム塩N:分子量80万、中和度80モル%、単量体重量比率 アクリル酸:N-メチロールアクリルアマイド:アクリル酸エチル=92:3:5
【0068】
バット染料または硫化染料で染色された布に対して、本発明の繊維処理剤を用いることで、極めて優れた摩擦堅牢度、特には湿摩擦堅牢度が布に付与されることが分かる。したがって、本発明の繊維処理剤を、特には優れた湿摩擦堅牢度を有することが望まれるブルーデニムやカラーデニムに対して、適用した場合の工業的利用価値は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と、分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)とを必須成分として含む、繊維処理剤。
【請求項2】
前記高分子架橋剤(B)が、オキサゾリン基含有単量体(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(b−2)とを少なくとも含有する単量体成分を重合して得られる重合体である、請求項1に記載の繊維処理剤。
【請求項3】
前記オキサゾリン基含有単量体(b−1)の全単量体成分に占める割合が30〜98重量%である、請求項2に記載の繊維処理剤。
【請求項4】
前記成分(A)の中和度が50モル%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項5】
前記成分(A)がアクリル酸系重合体のアンモニウム塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項6】
前記成分(A)と前記高分子架橋剤(B)との重量割合(A/B)が2/1〜60/1である、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項7】
前記成分(A)の処理剤全体に占める割合が1〜50重量%である、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項8】
前記原料繊維がセルロース系繊維である、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項9】
前記染料がインジゴ系染料である、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の繊維処理剤を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む、染色繊維の製造方法。
【請求項11】
前記付与を含浸法、パッドドライ法、スプレー法およびコーティング法のいずれかの方法で行う、請求項10に記載の染色繊維の製造方法。
【請求項12】
アクリル酸系重合体および/またはその塩からなる成分(A)と分子内にオキサゾリン基を有する高分子架橋剤(B)を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む、染色繊維の製造方法。

【公開番号】特開2010−31442(P2010−31442A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130270(P2009−130270)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】