説明

繊維基材と有機ナノファイバーの複合体形成方法および複合体

【課題】繊維基材と有機ナノファイバーからなる複合体の、簡便でかつ高い生産性の形成方法と複合体の提供。
【解決手段】繊維基材に対して、グルコシアミンのグアニジル基部分にパルミトイル基が結合した構造のグアニジル酢酸誘導体のカルボン酸を水柱に懸濁し、等モル量の水酸化ナトリウムを加えて80℃に加熱撹拌を行い、さらに塩化ナトリウムを加えて得られる白色の有機ナノファイバ−形成化合物を均一に溶解した溶液を塗布し、乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維基材と有機ナノファイバーの複合体形成方法と、これにより得られる複合体に関する。さらに詳しくは、有機ナノファイバー形成化合物を溶解した溶液から、有機ナノファイバー形成化合物分子が自己集合して形成される有機ナノファイバーを、従来から知られる種々の繊維基材の表面および/または内部に導入し、該繊維基材の繊維間の間隙を該有機ナノファイバーが絡み合った形で埋めることで、緻密な繊維充填構造が得られる複合体形成方法、およびこれにより得られる複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ナノファイバーとして繊維径がnmオーダーである微細繊維を利用した構造体が注目されている。例えばフィルター用途として繊維径がこのように微細な有機ナノファイバーを用いることで空隙率を高めつつ粒子の捕捉効率を高めることが可能となり、より高性能なフィルター性能と、良好な通気性を両立することが可能であるため、家庭用空調用フィルターや、クリーンルーム用高性能フィルター等の工業用エアフィルター用途、或いは細菌やウィルス除去が可能である医療用マスク等の医療用途で特に注目を集めている。
【0003】
有機ナノファイバーとしては種々の合成繊維から形成されるような有機素材から形成されるもので、繊維径が微細であるため、これらから形成される構造体は一般に強度が弱いことから、通常、不織布、織布、紙、合成紙等の繊維基材と併用することで十分な力学的強度を付与する場合がある。
【0004】
近年最も盛んに検討される有機ナノファイバーの形成方法として電界紡糸法(エレクトロスピニング法)を利用する方法が挙げられる。電界紡糸法は、高分子溶液或いは高分子融液を紡糸ノズルから押出す際に、紡糸ノズルと対向電極間に0.5〜30KVの高電圧を印加し、ノズル内の誘電体に電荷を蓄積させることにより、静電気的な反発力で微細繊維を製造するものであり、これによって繊維基材の上に有機ナノファイバーを付着させることが出来る。特許文献1〜4にはこうした電界紡糸法を利用して繊維基材として特に不織布基材を使用した場合について、該基材表面に有機ナノファイバー層を形成する方法が記載される。
【0005】
電界紡糸法の最大の欠点は生産性の悪さにあり、紡糸速度が小さく、これにより作製される有機ナノファイバーからなる層を効率的に形成することが困難である点が挙げられる。さらには繊維基材表面に電界紡糸を行うことで、繊維基材表面に紡糸された有機ナノファイバーの層が形成されるが、繊維基材との間に物理的な絡み合い等の相互作用が生じ難いことから繊維基材との接着性が悪く、繊維基材表面からの有機ナノファイバーの脱落等の接着不良の問題が指摘される場合がある。また、繊維基材の内部にまで有機ナノファイバーが導入されないため有機ナノファイバーは繊維基材表面に留まるのみで、該基材の内部に導入されない問題もあった。加えて電界紡糸法により作製される有機ナノファイバーを形成する繊維は結晶性が低下しているため十分な機械的強度や化学的安定性が発揮されないという問題もあった。
【0006】
こうした問題に対して、例えば特許文献5には、予め形成された有機ナノファイバーを溶媒中に分散させた状態で、繊維基材として不織布基材を使用して、これに塗布等の方法で有機ナノファイバーを導入する方法が開示される。この方法では有機ナノファイバーの繊維長が短ければ比較的分散性の良い塗布液が作製でき、かつ該基材に比較的均一に導入することが可能であるが、有機ナノファイバーの繊維長が短くなるに従って該基材との結合性が悪くなり、該基材から有機ナノファイバーが脱落する問題や、有機ナノファイバー同士の絡み合いが低下しフィルター性能も劣る問題があった。逆に繊維長の長い有機ナノファイバーを使用した場合には、有機ナノファイバーの分散が極めて困難となり、分散液中の有機ナノファイバーの濃度を1%以下に抑える必要があるため、繊維基材への導入率が低く、さらには該基材そのもののフィルター機能のため、該基材内部への有機ナノファイバーの導入が困難になる問題があった。
【0007】
繊維基材の表面および/または内部に導入する有機ナノファイバーとして、例えば特許文献6〜9に記載されるような有機ナノチューブを利用することも当然可能と考えられるが、この場合も有機ナノチューブの液中での分散性が悪いため、繊維基材表面或いは内部にこうした有機ナノチューブを導入することが困難である。有機ナノチューブの分散性を改良する方法としては特許文献10には攪拌を行うことで有機ナノチューブを切断し、繊維長さが10μm以下に短くする方法が開示されている。この方法では繊維長さが短く、特に1μm以下の短い繊維が生成する場合が多く、本発明が目的とする繊維基材との複合体を形成しようとしても、短い有機ナノチューブが該複合体から脱落し易くなるため使用出来ない問題があった。
【0008】
従って、従来から、繊維基材と有機ナノファイバーからなる複合体を形成する方法として簡便でかつ生産性の高い方法が求められており、特に、繊維径が10〜1000nmの範囲にあり、繊維長が10μm以上であるナノファイバーを、繊維基材の表面および/または内部に簡便に導入し、元の繊維基材が形成する繊維間の間隙を該有機ナノファイバーが絡み合った繊維構造で埋めることで、緻密な繊維充填構造が得られる複合体形成方法および複合体が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−169521号公報
【特許文献2】特開2010−94962号公報
【特許文献3】特開2010−144280号公報
【特許文献4】特表2011−508113号公報
【特許文献5】特開2005−330639号公報
【特許文献6】特開2002−322190号公報
【特許文献7】特開2004−224717号公報
【特許文献8】特開2008−30185号公報
【特許文献9】特開2004−250797号公報
【特許文献10】特開2005−96014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
繊維基材と有機ナノファイバーからなる複合体の形成方法および複合体として、繊維径が10〜1000nmの範囲にあり、繊維長が10μm以上である有機ナノファイバーを、繊維基材の表面および/または内部に簡便に導入し、元の繊維基材が形成する繊維間の間隙を該有機ナノファイバーが絡み合った繊維構造で埋めることで、緻密な繊維充填構造が得られる複合体形成方法および複合体を与えること。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題は有機ナノファイバー形成化合物を溶解した溶液を繊維基材に塗布し、乾燥する繊維基材と有機ナノファイバーの複合体形成方法、およびこれにより得られる複合体により基本的には解決される。さらには、有機ナノファイバー形成化合物を溶解した溶液を繊維基材上に塗布し、乾燥に先だって塗布した液を冷却し、ゲル化した塗布液を乾燥する複合体形成方法、およびこれにより得られる複合体により解決される。また該有機ナノファイバー形成化合物が下記一般式Iで示される化合物である複合体形成方法、およびこれにより得られる複合体により解決される。
【0012】
【化1】

【0013】
式中、Rは炭素数6〜29の炭化水素基を表し、Rは水素原子もしくはメチル基を表す。Mはアルカリ金属イオンを表す。
【発明の効果】
【0014】
繊維基材と有機ナノファイバーからなる複合体形成方法および複合体として、繊維径が10〜1000nmの範囲にあり、繊維長が10μm以上である有機ナノファイバーを、繊維基材の表面および/または内部に簡便に導入し、元の繊維基材が形成する繊維間の間隙を該有機ナノファイバーが絡み合った繊維構造で埋めることで、緻密な繊維充填構造が得られる複合体形成方法および複合体が与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で使用した不織布を共焦点レーザー顕微鏡により観察した拡大写真。
【図2】実施例1で得られた不織布と有機ナノファイバーの複合体を共焦点レーザー顕微鏡により観察した拡大写真。
【図3】実施例4で得られた不織布と有機ナノファイバーの複合体の走査型電子顕微鏡による観察像。倍率100倍。
【図4】実施例4で得られた不織布と有機ナノファイバーの複合体の走査型電子顕微鏡による観察像。倍率1000倍。
【図5】実施例4で得られた不織布と有機ナノファイバーの複合体の走査型電子顕微鏡による観察像。倍率4000倍。
【図6】実施例4で得られた不織布と有機ナノファイバーの複合体の走査型電子顕微鏡による観察像。倍率20000倍。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に於いては、繊維基材と有機ナノファイバーの複合体の形成方法として、有機ナノファイバー形成化合物を均一に溶解した溶液を、繊維基材上に塗布し、乾燥する。本発明はこのような複合体形成方法により、自発的に有機ナノファイバー形成化合物分子が自己集合し、これにより形成される有機ナノファイバーを該繊維基材表面や繊維基材内部に形成させる方法であることが特徴であり、さらにこのようにして形成された該複合体は従来の方法で得られなかったような非常に緻密な繊維充填構造を有することが特徴である。
【0017】
本発明に用いる繊維基材としては不織布、織布、紙、合成紙等をいずれも好ましく使用することが出来る。これらの内で特に不織布は、これを構成する繊維の材質を広範囲の中から自由に選択することが出来、さらに繊維径や繊維長さをある程度選択出来ることや、繊維密度(坪量)或いは異なる繊維を用いて複合化したり、必要に応じて不織布内部に様々な充填剤を導入しさらなる機能化を組み込むなど繊維基材の中でもとりわけ自由度が高いことから最も好ましく使用することが出来る。
【0018】
また、本発明における有機ナノファイバーとは、径が1000nm以下、好ましくは10〜1000nmの範囲にあり、長さが10μm以上である有機ナノファイバーであり、これらの有機ナノファイバー同士が互いに絡み合った状態で繊維基材の表面および/または内部に、元の繊維基材が形成する繊維間の間隙を該有機ナノファイバーが絡み合った繊維構造で埋められた、緻密な繊維充填構造を形成する複合体として形成されることが特徴である。
【0019】
本発明の複合体形成方法に用いる有機ナノファイバー形成化合物とは、溶液中に於いては分子状に完全に溶解した状態にあるが、溶液を冷却、或いは乾燥する過程で分子が自己集合し、自発的に有機ナノファイバーを形成する化合物を意味する。このような性質を示す化合物としては従来から例えば有機ナノチューブとして知られる先の特許文献6〜9に示されるような種々の例を挙げることが出来る。中でも特許文献8等に記載されるグリシルグリシンの末端アミノ基に長鎖アルキル基を有するアシル基が結合した形のグリシルグリシンタイプ化合物やN−グリコシド型糖脂質等が好ましく用いることが出来る。これらの化合物は酢酸エチルとメタノール等のアルコールとの混合溶媒やアルコール単独溶媒に可溶性であり、これらの溶液から例えばロータリーエバポレーターを使用して乾燥を行うことで溶液中から化合物分子が自発的に集合して有機ナノファイバーを形成する。本発明に於いては後述する実施例に於いて示すように、繊維基材にこれら溶液を塗布し、乾燥を行うことで、繊維長が10μm以上である有機ナノファイバーを、繊維基材の表面および/または内部に簡便に導入し、元の繊維基材が形成する繊維間の間隙を該有機ナノファイバーが絡み合った繊維構造で埋めることで、緻密な繊維充填構造を形成する複合体を形成することが可能となることを見出した。
【0020】
上記の方法では有機ナノファイバー形成化合物を溶解するための溶媒が有機溶剤であることから製造上、安全性や健康に対する悪影響が懸念されるため、有機溶剤を使用せず、水を用いて該化合物を溶解する方法がより好ましい。しかしながら、上記の例で示す化合物は水に対する溶解性が必ずしも良好ではなく、一般的に1質量%以下の濃度で用いて、しかも液温度を90℃以上に加熱しないと均一に溶解しにくい。さらには、このような濃度と温度条件に於いて作製した水溶液を繊維基材に塗布し、乾燥を行った場合には、溶液は時間をかけてゆっくりと冷却を行い、溶液中から有機ナノファイバーが析出して流動性を失いゲル化することを利用して、繊維基材上に有機ナノファイバーが形成された後に乾燥を行うことが必要となる。
【0021】
上記の化合物に対して、下記一般式Iで表される有機ナノファイバー形成化合物を用いることで、該化合物の水に対する溶解性が極めて良好となり、かつ、溶液中から乾燥、もしくは冷却すると、速やかに有機ナノファイバーを形成することから、下記一般式Iの化合物を溶解した溶液を、繊維基材に塗布し、その後乾燥を行うことで、繊維長が10μm以上である有機ナノファイバーを、繊維基材の表面および/または内部に簡便に導入し、元の繊維基材が形成する繊維間の間隙を該有機ナノファイバーが絡み合った繊維構造で埋めることで、緻密な繊維充填構造を形成する複合体を最も簡便に形成することが出来るため極めて好ましい。
【0022】
【化2】

【0023】
式中Rは炭素数6〜29の炭化水素基を表し、Rは水素原子もしくはメチル基を表す。Mはアルカリ金属イオンを表す。Rの炭化水素基は分岐していても良いアルキル基または不飽和結合基を含む炭化水素基であっても良いが、好ましくは、炭素数6〜29の直鎖状アルキル基もしくは炭素数6〜29であり不飽和結合基を1〜4個含む炭化水素基である場合が好ましい。さらに、Mのアルカリ金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオンもしくはリチウムイオンである場合が最も好ましい。
【0024】
一般式Iで示される有機ナノファイバー形成化合物の合成については、例えばカルボン酸とアミンを縮合剤の存在下に反応させる等の公知の様々な合成方法によって合成することが出来るが、本発明に於いては、反応溶媒として水を使用し、水中で酸クロライドとグリコシアミン(グアニジノ酢酸)もしくはクレアチンを水酸化ナトリウムや各種有機アミン等の塩基の存在下に反応を行う、所謂ショッテンバウマン反応(例えば、文献として、March’s Advanced Organic Chemistry, Fifth Ed., John Wiley & Sons, Inc., (2001) P.506)を利用する場合に、最も簡便にかつ安価で、高収率および高純度で目的とする化合物が得られることから好ましい。後述する実施例に於いて示すように、酸クロライドとして炭素数7〜30である脂肪酸の酸クロライドを使用し、水中に懸濁もしくは溶解したグリコシアミンまたはクレアチンと水酸化ナトリウム等の塩基を溶解した水溶液中に、酸クロライドを徐々に加えるのが好ましい。
【0025】
上記で好ましく用いることの出来る酸クロライドとしては、例えばヘプタノイルクロライド、オクタノイルクロライド、ノナノイルクロライド、デカノイルクロライド、ウンデカノイルクロライド、ラウロイルクロライド、トリデカノイルクロライド、ミリストイルクロライド、ペンタデカノイルクロライド、パルミトイルクロライド、ステアロイルクロライド、ノナデカノイルクロライド、エイコサノイルクロライド、ドコサノイルクロライド、テトラコサノイルクロライド、ヘキサコサノイルクロライド、ヘプタコサノイルクロライド、オクタコサノイルクロライド、トリアコサノイルクロライド等の飽和脂肪酸クロライドや、或いは不飽和脂肪酸クロライドの例として6−ヘプテノイルクロライド、2−オクテノイルクロライド、ウンデシレノイルクロライド、オレオイルクロライド、エライドイルクロライド、シス−11−エイコセノイルクロライド、リノレオイルクロライド、リノレノイルクロライド、アラキドノイルクロライド、2−ヘプチノイルクロライド、2−オクチノイルクロライド等を好ましい例として挙げることが出来る。これらの内で、特に炭素数が12〜18であるラウロイルクロライド、ミリストイルクロライド、パルミトイルクロライド、ステアロイルクロライド、オレオイルクロライド等は入手が容易でかつ安価であり、これらから得られる本発明の有機ナノファイバー形成化合物の溶解性が良好であること等の理由により最も好ましく用いることが出来る。従って、一般式Iで示されるRとしては、炭素数が11〜17である飽和もしくは不飽和炭化水素基である場合が最も好ましく用いることが出来る。
【0026】
上記の種々の酸クロライドは、単独或いはアセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の酸クロライドとは反応しない有機溶媒に希釈した状態で反応に用いることが出来る。酸クロライドの添加方法は、通常はグリコシアミンもしくはクレアチンを溶解もしくは懸濁した水溶液に対して、滴下漏斗などを利用して数10分から数時間に亘って徐々に水溶液中に添加する方法が好ましく行われる。
【0027】
上記の反応に於いて、互いに当モル量の酸クロライド、グリコシアミンまたはクレアチンおよび水酸化ナトリウム等の塩基を用いて反応を行い、反応の進行に伴い系のpHが中性から弱酸性に移行して、必要に応じて酸を加える等して、生成物をカルボン酸誘導体の形で析出させ、濾過等の方法で反応系から分離し、その後等モル量の塩基を加えて目的とする一般式Iで示される有機ナノファイバー形成化合物を合成する方法が最も好ましい。この場合、必要に応じて、途中のカルボン酸誘導体の状態でアルコール等の溶媒から再結晶を行うことで精製を行い、次いで等モル量の塩基を加えて目的とする一般式Iで示される有機ナノファイバー形成化合物を得る方法も好ましく用いることが出来る。
【0028】
上記の反応に於いて生じる副反応として、酸クロライドのアルカリによる加水分解や酸クロライドとグリコシアミンもしくはクレアチンのカルボン酸部分が反応して生じる酸無水物の副成等が生じる場合がある。特に、反応途中に於いて析出してくる生成物により反応系の攪拌が十分でなくなるなどした場合に、反応により生成する塩酸が、水溶液中の塩基で中和されず、酸無水物を多量に生成する場合がある。
【0029】
上記のような副反応を抑え、目的とする該カルボン酸誘導体を高収率で得るためには、本発明に於いては、酸クロライドとグリコシアミンもしくはクレアチンを反応させる際の反応温度を0〜10℃の比較的低い温度で反応を行っても良いが、より好ましくは40℃から80℃の範囲で反応を行った場合に、最も収率良く、高純度で該カルボン酸誘導体を得ることが出来る。即ち、通常は、使用する酸クロライドがアルカリにより加水分解することを避ける目的で、ショッテンバウマン反応を行う際には0℃から10℃前後の低温で反応を行うことが通常行われるが、本発明に於いても反応温度として0℃から10℃の範囲で反応を行い、目的とする該カルボン酸誘導体を得ることが出来る。この場合には、添加する酸クロライドの添加速度を十分に遅くすることが好ましく、通常2〜6時間程度の時間を要して酸クロライドを添加することが好ましく行われる。これより速い速度で酸クロライドを添加して反応を行った場合には、酸無水物を与える副反応が顕著に生じる場合がある。これは、グリコシアミンもしくはクレアチンの水中における溶解度が低温では低く、グリコシアミンもしくはクレアチンが懸濁した不均一状態で反応が進行することが起因していると考えられる。これに対して反応温度を40℃から80℃の範囲で行う場合には、グリコシアミンもしくはクレアチンの水中における溶解性が顕著に増大し、溶解したグリコシアミンもしくはクレアチンの塩の形で均一系で反応を行うため窒素原子に対するアシル化反応が優先的に生じるものと考えられる。この場合には、酸クロライドの添加速度は30分〜2時間程度の時間をかけて添加を行っても良く、或いは反応温度の過度の上昇を避ける等の目的でこれより長い時間をかけて添加を行っても良い。
【0030】
本発明で得られる一般式Iの化合物は熱水に可溶性であり、置換基Rに含まれる炭素数が増すに従って次第に水に溶解するための温度が上昇する。後述する実施例に於いて示すように、例えば置換基Rの炭素数が11であるアルキル基の場合には40℃付近の温度で均一に溶解するが、炭素数が17のアルキル基の場合には80℃付近の温度に加熱することで均一な溶液を得ることが出来る。溶解して均一になった水溶液は、冷却するとナノファイバーが析出する。この場合、冷却速度は任意で良く、急速に冷却してもゆっくりと長時間をかけて冷却を行ってもどちらの場合に於いても同様な有機ナノファイバーと、これらが集合した有機ナノファイバー集合体を形成することが出来る。溶液中で形成される有機ナノファイバーにより溶液は流動性を失いゲル化することから、この系の変化はゾル−ゲル転移である。この際、有機ナノファイバー形成化合物の溶液中における濃度は0.1質量%以上であることが好ましく、この濃度以上である場合にゾル−ゲル転移が観察され、有機ナノファイバー形成化合物の溶液の乾燥または冷却により有機ナノファイバー集合体が問題なく形成されることが認められた。
【0031】
後述する実施例に於いて説明するように、一般式Iの有機ナノファイバー形成化合物を冷却することによって形成される有機ナノファイバーとこれの集合体、或いは、一般式Iの有機ナノファイバー形成化合物を溶解した溶液中から乾燥によって直ちに形成される有機ナノファイバーとこれの集合体の形状は同様であって、光学顕微鏡および電子顕微鏡により観察を行うと、径が10〜1000nmの範囲にあり、長さが10μm以上である有機ナノファイバーとこれの集合体であることが分かった。さらに透過型電子顕微鏡により詳細に各々の有機ナノファイバーを観察したところ、有機ナノファイバーの輪郭に於いて電子線透過密度に特に変化は認められなかった。中空構造であれば輪郭部分に於いて電子線の透過性が減少することから、一般式Iの有機ナノファイバー形成化合物を用いて得られる有機ナノファイバーは中空構造を有するとは認められず密度の均一な、おそらくはβ−シート状構造を示していると推測される。
【0032】
これに対して、先の特許文献8等に記載されるグリシルグリシンの末端アミノ基に長鎖アルキル基を有するアシル基が結合した形のグリシルグリシンタイプ化合物やN−グリコシド型糖脂質等を同様に用いて本発明による該複合体を形成した場合には、これに含まれる有機ナノファイバーは中空構造を有しており、繊維としての形状に加えて、内部の中空部分を利用した用途も考えられるが、本発明に於いては単に有機ナノファイバーの繊維としての性質を利用するため、繊維内部が中空であるか否かは特に問題とならないため同様に用いることが出来る。
【0033】
有機ナノファイバーを繊維基材上に形成するには、有機ナノファイバー形成化合物を均一に溶解した溶液を塗布液として用い、繊維基材上に塗布し、乾燥を行うことで該基材と有機ナノファイバーからなる複合体を形成することが出来る。この際、塗布に用いる有機ナノファイバー形成化合物の溶液中における濃度は0.1質量%以上であることが好ましく、この濃度以上である場合に繊維基材の表面および/または内部に有機ナノファイバーが導入された複合体が問題なく形成される。
【0034】
また、該塗布液を繊維基材上に塗布する場合、塗布した直後に、直ちに乾燥を行い、該基材上に乾燥した有機ナノファイバーを形成しても良いが、或いは、塗布液の乾燥に至る前に、塗布された液を−20℃〜20℃の間の温度に冷却してゲル化して該基材上に有機ナノファイバーを析出させ、その後乾燥を行っても良い。後者のようにして複合体を形成する場合には、繊維基材の繊維間の間隙に於いて、より均一に有機ナノファイバーが絡み合った構造を形成することが出来る。特に繊維基材の繊維間の開きが比較的大きい場合には、塗布液を塗布して直ちに乾燥を行った場合に、繊維基材に沿って有機ナノファイバーが形成され、繊維基材を構成する繊維間の間隙に充填される有機ナノファイバーの密度が低下する場合がある。
【0035】
乾燥の際の温度としては0℃から120℃の範囲の温度が好ましく、この範囲の温度であれば任意の乾燥温度を設定することが出来る。乾燥速度に関しても、送風を行い出来るだけ迅速に乾燥を行っても良く、或いは場合によっては長時間をかけてゆっくり乾燥を行っても良い。
【0036】
上記の塗布液中には、さらにアルコール類や様々な水混和性有機溶剤が含まれていても良い。或いは、水を含まず、アルコールや酢酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類など様々な有機溶剤を使用した塗布液であっても良いが、最も好ましくは有機溶剤を実質的に含まない(5質量%未満)場合であって、水溶液である場合が好ましい。
【0037】
さらに、塗布液中には様々な界面活性剤が含まれていても良い。或いは、不織布基体と有機ナノファイバー間の接着性を高める等の効果を意図して、有機ナノファイバー形成化合物に加えて、これを上回ることのない量範囲で各種親水性樹脂やエマルジョンを添加して塗布液として用いても良い。親水性樹脂としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の親水性樹脂が好ましい。エマルジョンとしては、各種アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、スチレン−アクリル系エマルジョン、塩化ビニリデン系エマルジョン等を好ましく使用することが出来る。
【0038】
上記の塗布液を繊維基材上に塗布を行う際の塗布方法としては、従来から知られる様々な塗布方法を用いることが出来る。例えば、塗布用ロール表面に塗布液を送液し、これを繊維基材に転写するグラビア塗布方式、或いはキスコート方式、ブレードコート方式等も使用することが出来るが、好ましくはスプレー塗布やファウンテン塗布、スライド塗布、カーテン塗布、スロットダイ塗布方式等の塗布装置と繊維基材が機械的に直接接触せず、塗布液のみが繊維基材上に送液される方法が好ましい。さらには、繊維基材を塗布液中に含浸する含浸加工(ディップ塗布方式)も好ましく行うことが出来るが、この場合には塗布液を含浸した繊維基材から、過剰の液を除去するため、含浸工程に続いてロール間で液を絞り取る方式やドクターブレードで余分な液を掻き落とす場合や、エアブレードを同様な目的で使用する方法等が好ましく使用される。
【0039】
上記の塗布により繊維基材上に塗布される該塗布液の塗布量或いは繊維基材への有機ナノファイバーの付着量については好ましい範囲が存在する。該塗布液の塗布量については、上記の様々な塗布方式に於いてそれぞれについて好ましい範囲が存在するが、いずれの塗布方式についても繊維基材の単位平方メートル当たりの塗布量は湿分塗布量として1〜100gの範囲である場合に、最も均一に塗布を行うことが出来、さらに乾燥に於いて迅速に乾燥を行うことが出来ることから好ましい。さらに好ましい塗布量の範囲として繊維基材の単位平方メートル当たり湿分塗布量として5〜50gの範囲である場合が好ましい。塗布液に含まれる有機ナノファイバー形成化合物の濃度は0.1質量%以上である場合が好ましく、また該濃度が20質量%を超える場合には、形成される有機ナノファイバーの繊維密度が高くなり、形成される該複合体に於いて、繊維基材の空隙を有機ナノファイバーがほぼ完全に充填して空隙率が顕著に減少する場合があることから、塗布液に含まれる有機ナノファイバー形成化合物の好ましい濃度は0.1〜20質量%の範囲にある。繊維基材への有機ナノファイバーの付着量の好ましい範囲は、乾燥固形分量として繊維基材単位平方メートル当たり0.001〜20gであり、さらに好ましくは0.005〜10gの範囲である。
【0040】
次に、本発明に於いて繊維基材として最も好ましく用いることの出来る不織布について説明を行う。不織布を形成する繊維の材質に関しては、一般の不織布に使用される各種の繊維が使用でき、具体的には綿、麻、セルロースパルプ等の植物由来天然繊維、羊毛、絹等の動物由来天然繊維、レーヨン、ビニロン、ポバール、ナイロン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系、アラミド等の化学繊維、或いはガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等を挙げることが出来る。これらの繊維は、各々単独或いはこれらを複数組み合わせて用いて製造される不織布を、好ましく本発明における繊維基材として用いることが出来る。
【0041】
本発明において最も好ましく用いることの出来る不織布として、これを形成する繊維の径と長さに関しては、ある程度の強度を確保するために、繊維径として1〜100μmの範囲にあり、繊維長さとして1mm以上の短繊維から繊維長さが無限大である場合が好ましい。
【0042】
上記の不織布を形成するための製造方法としては従来から行われている種々の製造方法によるものが用いられ、具体的には空気流を利用する乾式法、水流を利用する湿式法および溶融した繊維を利用するスパンボンド法、メルトブローン法等が製造方法として用いられ、また不織布を構成する繊維を結合する方法としては、接着剤を用いるケミカルボンド法、熱融着を利用するサーマルボンド法、ニードルに刻まれる突起を利用して繊維を絡ませるニードルパンチ法、高圧水流を利用するスパンレース法等様々な方法を利用することが出来る。これらの種々の方法を単独で用いて製造された不織布や、これらを組み合わせて製造された例えばSMS不織布と称されるスパンボンド法(S)とメルトブローン法(M)により製造された不織布を組み合わせて製造されるような複合型の不織布を用いることも出来る。
【0043】
本発明に於いて最も好ましく用いることの出来る不織布の厚みと密度には特に制限はないが、好ましくは、厚みが50μm〜2mmの範囲にあり、坪量或いは目付(単位面積当たりの質量)は10〜500g/mの範囲である場合が製造上最も取扱い易いため好ましい。
【0044】
本発明に於いて用いることの出来る不織布として、さらに不織布を構成する繊維表面に界面活性剤による親水性を付与した繊維を利用した不織布や、撥水加工を施した不織布、或いはコロナ放電処理を行って繊維表面の改質を行う場合や、或いは難燃加工や帯電加工処理等様々な処理を施した不織布を好ましく用いることが出来る。
【0045】
本発明に於いて用いることの出来る不織布は、さらに染色加工やラミネート加工、コーティング加工、或いはコルゲート加工等様々な形状に加工された基材を使用しても良い。最も好ましく利用出来る不織布の形状としてはシート状で巻き取られ、ウェブとしてロールから巻きだし、本発明による該複合体の形成を行い、その後乾燥させてロール状に巻き取られる製造方法が利用出来る場合が最も好ましい。
【0046】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例中の百分率は断りのない限り質量基準である。
【実施例】
【0047】
(合成例1)一般式Iの化合物の合成例(Rの炭素数が15の場合)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、滴下漏斗を備えた500ml丸底フラスコ内にグルコシアミン(東京化成工業製試薬)を23.4g秤量し、水300mlを加えて攪拌した。これに水酸化カリウム(純度85%)13.2gを加え水浴上で内温を50℃まで上昇させた。滴下漏斗内にパルミトイルクロライド(東京化成工業製試薬)55gにアセトン30gを加えた溶液を導入し窒素気流下に置いた。滴下漏斗から1時間を要してパルミトイルクロライド溶液を滴下した。滴下終了後さらに1時間内温50℃に保ち、攪拌を続けた。反応系のpHが中性から弱酸性に変わり、その後析出した生成物を吸引濾過により分離し、水洗を十分行った後に乾燥させた。生成物をHPLCおよびH−NMRを用いて純度および構造を解析した結果、ほぼ100%の純度で、グルコシアミンのグアニジル基部分にパルミトイル基が結合した構造のグアニジル酢酸誘導体であることが明確となった。この生成物のカルボン酸を水中に懸濁し、当モル量の水酸化ナトリウムを加えて80℃に加熱攪拌を行い均一な溶液を得た。この溶液に塩化ナトリウムを加えることで直ちに白色沈殿が生成し、冷却すると全体がゲル化した。全体をグラスフィルター上に移し、吸引濾過を行いながら、酢酸エチルで洗浄を行い、フィルター上の固形物を真空乾燥機内で乾燥を行うことで目的とする一般式Iの化合物(Rの炭素数が15でMがナトリウムイオンの場合)を収率80%で得た。
【0048】
(合成例2)一般式Iの化合物の合成例(Rの炭素数が11の場合)
酸クロライドとして実施例2におけるパルミトイルクロライドにかえてラウロイルクロライドを0.2モル使用した以外は合成例1と全く同様にして反応を行い、一般式Iで示されるRの炭素数が11であり、アルカリ金属イオンがナトリウムイオンである目的とする化合物を得た。反応収率は85%であった。
【0049】
(実施例1)
繊維基材として、ポリエステル繊維とアクリル系繊維を60:40の質量比で含む厚みが120μmで目付が100g/mである不織布を使用した。合成例1で得られた一般式Iの化合物(Rの炭素数が15の化合物)を用いて、固形分濃度が1質量%になるよう水を加えて80℃に加熱して均一な溶液を作製した。該溶液を65℃に調整した1リットルの溶液を作製し塗布液として用いた。上記の不織布を、該塗布液を投入したステンレス製バット内に含浸し、10秒間含浸した後に不織布を引き上げ、余分な液をロール2本で挟みスクウィーズして除去した。この時点で不織布上に導入された塗布液の湿分塗布量は、1平方メートル当たり約30gであった。次いで、塗布液を含浸した不織布を冷蔵庫内部に入れ、庫内温度10℃の状態で2分間放置した後に取り出して50℃に調節した送風乾燥器を使用して乾燥を行った。不織布に導入された有機ナノファイバーの付着量は、乾燥固形分量で不織布単位平方メートル当たり0.3gであった。図1には、含浸加工する前の不織布の共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した拡大写真を示し、図2には上記の含浸加工を行い、乾燥後得られた不織布と有機ナノファイバーの複合体の拡大写真を示した。これらの図から明らかなように、元の不織布の繊維間間隙を埋める形で微細な繊維充填構造が形成されていることが分かった。尚、顕微鏡写真からは有機ナノファイバーの繊維径は10〜1000nmの範囲にあり、繊維長さは10μm以上であることが分かった。
【0050】
(実施例2)
実施例1と同じ不織布と塗布液を使用して、同様に塗布液中に不織布を含浸した。塗布液から同様に不織布基体を取り出し、同様にしてスクウィーズして余分な塗布液を除去した後、直ちに50℃に調節した送風乾燥器を使用して乾燥を行った。不織布に導入された有機ナノファイバーの付着量は、乾燥固形分量で不織布単位平方メートル当たり0.3gであった。得られた試料を実施例1と同様に共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察したところ、実施例1と同様に、元の不織布基体の繊維間間隙を埋める形で微細な繊維充填構造が形成されていることが分かった。但し、繊維間間隙の広がった場所に於いては、有機ナノファイバーの充填がやや少なく、繊維基材の繊維密度が高い部分に於いて充填密度が比較的高い様子が伺えた。尚、顕微鏡写真からは有機ナノファイバーの繊維径は10〜1000nmの範囲にあり、繊維長さは10μm以上であることが分かった。
【0051】
(実施例3)
特許文献8の実施例4に於いて合成されるN−テトラデカノイル−グリシルグリシンを使用して、これを同公報の実施例7に示されるように40℃に調節したエタノールとクロロホルム1:1混合溶媒に固形分濃度が0.5質量%になるよう溶解して塗布液を作製した。これを実施例1で使用した不織布基体に実施例1と同様にして含浸加工を行い、同様にしてスクウィーズして余分な塗布液を除去した。この時点で不織布基体内部に導入された塗布液の湿分塗布量は、1平方メートル当たり大凡20gであった。乾燥は室温下で自然乾燥を行った。3時間後に試料を観察したところ乾燥が完了していることが確認出来たため共焦点顕微鏡を使用して試料を観察したところ、元の不織布基体の繊維間間隙を埋める形で微細な繊維充填構造が形成されていることが分かった。顕微鏡写真からは有機ナノファイバーの繊維径は10〜1000nmの範囲にあり、繊維長さは10μm以上であることが分かった。不織布基体1平方メートル当たりに対する有機ナノファイバーの付着量は0.1gであった。
【0052】
(実施例4)
不織布基体として、ポリプロピレンとポリエチレンからなる芯鞘繊維とポリプロピレン繊維を各々80:20の質量比で含む厚みが200μmで目付が70g/mである不織布基体を使用した。合成例2で得られた一般式Iの化合物(Rの炭素数が11の化合物)を用いて、固形分濃度が2質量%になるよう水を加えて40℃に加熱して均一な溶液を作製した。該溶液を40℃に調整した1リットルの溶液を作製し塗布液として用いた。塗布液はスプレー塗布用スプレーノズルから霧状に不織布基体表面に吹き付け、直ちに50℃に調節した送風乾燥器を使用して乾燥を行った。乾燥後の不織布基体の質量の増加分から有機ナノファイバーの付着量は乾燥固形分量で不織布単位平方メートル当たり0.6g前後であることが分かった。共焦点顕微鏡を使用して試料を観察したところ、元の不織布基体の繊維間間隙を埋める形で微細で、非常に緻密な繊維充填構造が形成されていることが分かった。さらに走査型電子顕微鏡を用いて観察を行ったところ、図3〜図6に示すように、元の不織布基体の繊維間間隙を埋める形で極めて微細な繊維充填構造が形成されていることが分かった。図3および図4で認められる太い繊維は使用した不織布基体に由来するもので、図3の低倍率での観察では太い不織布繊維の間を埋める形で膜が形成されているのが分かるが、拡大してゆくと、図5および図6に於いて明確になるように、膜は繊維状の有機ナノファイバーで緻密な充填構造を取り、細孔が形成されていることが観察された。顕微鏡写真からは有機ナノファイバーの繊維径は約100nmであり、繊維長さは10μm以上であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
不織布基体にナノファイバー集合体を用いた微細繊維充填構造を導入出来ることから、各種フィルターや分離膜、吸着材等の用途や医薬品、医療用途への応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ナノファイバー形成化合物を溶解した溶液を繊維基材上に塗布し、乾燥する繊維基材と有機ナノファイバーの複合体形成方法。
【請求項2】
ナノファイバー形成化合物を溶解した溶液を繊維基材上に塗布し、乾燥に先だって塗布した液を冷却し、ゲル化した塗布液を乾燥する請求項1記載の、繊維基材と有機ナノファイバーの複合体形成方法。
【請求項3】
前記有機ナノファイバー形成化合物が下記一般式Iで示される化合物である請求項1または2に記載の、繊維基材と有機ナノファイバーの複合体形成方法。
【化1】

(式中、Rは炭素数6〜29の炭化水素基を表し、Rは水素原子もしくはメチル基を表す。Mはアルカリ金属イオンを表す。)
【請求項4】
前記繊維基材が不織布である請求項1〜3のいずれか一項に記載の、繊維基材と有機ナノファイバーの複合体形成方法。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか一項に記載される、繊維基材と有機ナノファイバーの複合体形成方法により得られた複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53390(P2013−53390A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193601(P2011−193601)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】