説明

繊維基材及びこの繊維基材を用いた樹脂製歯車

【課題】加工代を少しでも少なくすることが可能な、繊維基材及びこの繊維基材を用いた樹脂製歯車を、提供する。
【解決手段】円筒形状に編んだ布を円筒形状の外側へ裏返しながら又は内側へ折り返しながら巻き込み、ドーナツ形状とした繊維基材であって、その内径円形形状が維持され、その外径円形形状が、外力により変形されている。好ましくは、外径円形形状の変形後の形状が、元の外接円形に均等間隔にて接触する突出部と、突出部と突出部の間が元の外接円形から離間する窪み部で形づくられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体用の繊維基材及びこの繊維基材を用いた樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車で使用される歯車の多くは、強度及び耐熱性の面より金属製歯車が多く使用されていた。しかしながら、金属製歯車同士では、噛合い音が大きくなり、ユーザニーズである静粛性に対して不利となっていた。
また、近年自動車メーカは、環境対応自動車開発が進み、燃費向上やCO削減に注力しており、その目的達成の為に自動車部品の軽量化が行われている。
前述した静粛性と軽量化の対応策として、樹脂製歯車を用いることが提案されている。
【0003】
樹脂製歯車の具体的構成としては、補強繊維基材としてアラミド繊維を使用するものがあり、図1に示すように、このアラミド繊維を織るか又は編んで筒状体1とし、この筒状体1を外側へ裏返しながら巻き込み、ドーナツ状に形成したリング状繊維基材2が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−156124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述したリング状繊維基材を使用した場合は、図2に示すように、樹脂を含浸・硬化させた後の形状(切削加工前形状3)が、平面視にて円形となり、これに歯4を切削加工するとなると、加工代5が大きくなってしまうという問題がある。
【0006】
より詳細に述べると、図1にて説明したリング状繊維基材2は、そのままでは使用しづらいことから、圧力をかけて多少扁平形状にするが、この際、図3に示すように、円柱体部6と、リング状繊維基材2の収容部7と、リング状繊維基材2を円柱体部6の軸方向に圧縮する圧縮手段8とを備えた予備成形金型9を準備し、リング状繊維基材2を円柱体部6に挿通して収容部7に設置した後、圧縮手段8によりリング状繊維基材2を予備成形して、扁平形状の予備成形基材を作製する。
【0007】
このような方法で作製した予備成形基材を使用した場合は、先に述べたような加工代の多いものとなってしまうので、少しでも加工代を少なくするために、予備成形の段階で、最終的な歯車形状に近い形状にすることが考えられるが、リング状繊維基材を平面視にてリング形状以外の形状を有する収容部内部へと強制的に圧縮すると、図4に示すように、リング状繊維基材2の繊維が、収容部7と圧縮手段8との間に挟まり、繊維が裁断されて予備成形基材の作製が困難となる。
【0008】
本発明は、加工代を少しでも少なくすることが可能な、繊維基材及びこの繊維基材を用いた樹脂製歯車を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のものに関する。
(1)円筒形状に編んだ布を円筒形状の外側へ裏返しながら又は内側へ折り返しながら巻き込み、ドーナツ形状とした繊維基材であって、その内径円形形状が維持され、その外径円形形状が、外力により変形された繊維基材。
(2)項(1)において、外径円形形状の変形後の形状が、元の外接円形に均等間隔にて接触する突出部と、突出部と突出部の間が元の外接円形から離間する窪み部で形づくられている繊維基材。
(3)項(1)又は(2)において、外力が、円筒形状の軸方向圧縮力又は径方向中心に向かう外部力である繊維基材。
(4)項(1)乃至(3)の何れかに記載の繊維基材に、熱硬化性樹脂を含浸、硬化させ、歯を形成した樹脂製歯車。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歯車加工を行う際の加工代を減少させることができる。
また、外径円形形状の変形後の形状が、元の外接円形に均等間隔にて接触する突出部と、突出部と突出部の間が元の外接円形から離間する窪み部で形づくられていれば、より最終的な歯車形状に沿わせることができ、更に加工代を減少させることができる。
外力を、円筒形状の軸方向圧縮力又は径方向中心に向かう外部力とした場合は、リング状繊維基材を収容部へ投入した後に、外径円形形状の変形後の形状に圧縮することができ、収容部と圧縮手段により繊維が挟まり、裁断されることを防ぐことができる。
本発明の繊維基材を用いた樹脂製歯車は、加工代を減少させたことにより、作製時間及び作製コストを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来例であるリング状繊維基材の製造工程図を示す。
【図2】従来例である歯車の歯の切削加工工程図を示す。
【図3】従来例であるリング状繊維基材の予備成形工程図を示す。
【図4】従来例である他のリング状繊維基材の予備成形工程を示す。
【図5】軸方向圧縮力を用いて繊維基材を変形させる予備成形工程を示す。
【図6】径方向中心に向かう外部力を用いて繊維基材を変形させる予備成形工程を示す。
【図7】径方向中心に向かう外部力を用いて繊維基材を変形させる予備成形実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いる布に使用される繊維は、特に限定されるものではないが、綿や麻等の天然繊維、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、ポリアミド繊維等の有機繊維を使用用途により適宜用いることができる。これらの繊維は、用途により単独又は複数種類の混紡糸として用いてもよい。中でもパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維の混紡糸を用いると、切削性及び耐熱性、歯車強度面で有利であり、特に好ましい。
布は、初期状態で円筒形状に編まれたものを使用するが、ここで述べる円筒形状とは、両端に開放された部分がある筒(チューブ)形状であり、当初から円筒形状に編んであるものでも、平面状に編んだものを後で円筒形状にしたものでもよい。
円筒形状の大きさは、特に限定されるものではなく、最終的な樹脂製歯車の大きさにより、適宜選択される。
【0013】
本発明にて述べるドーナツ形状とは、中央に貫通孔のあるリング形状であり、前述した円筒形状に編んだ布を、円筒形状の外側へ裏返しながら又は内側へ折り返しながら巻き込むことで得られる。円筒形状の布を巻き込むのは、先に述べた図1に記載されるように、外側へ裏返しながら巻き込むようにしても、逆に内側へ折り返しながら巻き込むようにしてもよいが、巻き込みのし易さから、外側へ裏返しながら巻き込むことが好ましい。
巻き込みの回数は、特に制限されるものではないが、ドーナツ形状とする為に、最低限1回以上巻き込む必要がある。
【0014】
ドーナツ形状とされた繊維基材は、中央の貫通孔形状を形成する内径円形部を有するが、この内径円形部の円形形状は、平面視にて見える円形が崩れないように、維持する必要がある。これは、樹脂製歯車を作製する際に、図2に示すような樹脂製歯車内径部に用いる円筒の金属製ブッシュ10の外周部に、繊維基材を隙間無くはめ込む為である。また、ギヤの軸受けを設置する際にも、円形であることが好ましい。
尚、金属製ブッシュ10の外周部分(繊維基材との接触面)は、必ずしも平面視を円形にする必要はなく、繊維基材の内径円形部に食い込む突起等を設けて、繊維基材と金属製ブッシュ10とを、より強固に固定することができる。
【0015】
ドーナツ形状とされた繊維基材は、先に述べた内径円形部に対向して外形円形部を有している。この外形円形部は、円筒形状に編んだ布の巻き込みを行った直後に、平面視にて内径円形部と相似形状の円形をなしているが、これを外力により変形させる。
変形は、最終的な樹脂製歯車に近い形状とするのが好ましいが、少なくとも複数の窪み部を設け、窪み部と窪み部との間が、相対的に突出した突出部となればよい。
突出部は、元の外形円形部の平面視形状(外接円形)に対し、均等間隔にて接することが好ましく、換言すれば、窪み部は、突出部と突出部の間が元の外形円形部の平面視形状(外接円形)に対し、均等間隔に離間することが好ましい。
このような変形を行った場合は、突出部と窪み部とが交互に、均等間隔に、出現するので、最終的な樹脂製歯車の歯先と歯底とに合わせやすく、加工代を減少させ易い。
【0016】
本発明にて述べる外力とは、繊維基材の外形円形形状を変形させるものであればよく、具体的には、円筒形状の軸方向圧縮力又は径方向中心に向かう外部力を意味する。
軸方向圧縮力とは、図5に示すように圧縮手段8により、リング状繊維基材2の厚み方向(図5のC方向)に加える力(軸方向圧縮力11)を示す。図5に示す収容部7は、リング状繊維基材投入口(断面D付近)から底部に向かうに従い徐々に窪みが深くなるように形状を変形させ、内径底部(断面F)に外径変形形状を有しているものとする。リング状繊維基材を収容部7に投入し、軸方向圧縮力により収容部7の底部に押し込んでいく際に、リング状繊維基材2を収容部7の内径形状に沿わせながら変形させる。
【0017】
先に述べた径方向中心に向かう外部力とは、予備成形を行う際に、リング状繊維基材2の外径形状を変形させるためだけに使用する力を示す。発生方法は、特に限定するものではないが、空気圧やモータ等により、リング状繊維基材2を径方向中心に向かって変形させる部材を押しつけるものが、簡易で制御し易く好ましい。
図6に、収容部7に外径形状を変形させるための変形部材12を付加した装置を示す。
この変形部材12は、リング状繊維基材2投入前には収容部7の内部から後退させているが、リング状繊維基材2を収容部7に投入後、軸方向への圧縮前に外部力を用いて変形部材12を径方向中心に向かって水平方向に押し出し、変形部材12をリング状繊維基材2に当接させて、リング状繊維基材2の外径形状を変形させる。
繊維基材は、変形部材12をリング状繊維基材2に当接させた状態で、圧縮手段8を用いて予備成形を行い、外径形状を変形させ作製する。
【0018】
本発明にて述べる熱硬化性樹脂は、CPレジン(架橋ポリエステルアミド、架橋ポリアミノアミド)、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の液状樹脂を使用する。中でも樹脂製歯車の製造性、耐熱性、強度等の物性面から、CPレジンを使用することが、特に好ましい。
【0019】
本発明にて述べる樹脂製歯車の、歯の形成は、熱硬化性樹脂を硬化させる型にて行っても、型からの脱型後に切削加工により行ってもよいが、精度を高めることができることから、切削加工により行うことが好ましい。
本発明においては、繊維基材外周部分が変形されていることから、平面視円形としている予備成形基材を用いるよりも、切削量を減らすことができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の1実施例について、図面を用いて詳細に説明する。
本実施例においては、図5に示す形態の製造装置を用いて繊維基材の予備成形を行う。
製造装置として、リング状繊維基材を挿通する円柱体部6と、リング状繊維基材2の変形後の形状を有する収容部7と、この収容部7に配置されたリング状繊維基材2を円柱体部6の軸方向に圧縮する圧縮手段8とを備えたものを用いた。
繊維基材の作製は、リング状繊維基材2を、製造装置内にある円柱体部6に貫通孔となっている内径円形部を通し、収容部7に投入する。このとき、円柱体部6、収容部7及び圧縮手段8は、ヒータを用いて120℃迄昇温させておく。
リング状繊維基材2を投入後、圧縮手段8にて、図面上にて上から下へと軸方向にリング状繊維基材2を押し込み、プレス圧力:5MPaで圧縮し、30秒間保持する。収容部7の底部部分の内部は、リング状繊維基材2変形後の形状を有しているため、圧縮されたリング状基材2は、その形に形成され、熱圧によって形状を維持し、繊維基材13となる。
また、本実施例にて使用している製造装置は、収容部7の投入部の外径を、底部の外径より拡げており、リング状繊維基材2を投入し易くしている。
更に、収容部7の外径は、収容部7の内周壁面に途中から傾斜を設けて、徐々に小さく変形させていき、底部にて変形後の形状(歯車の歯と近似した形状)を有するようにしている。
【0021】
本発明の別の実施例として、図7に示す製造装置を用いて繊維基材を製造した。
図7に示す製造装置は、リング状繊維基材2を挿通する円柱体部6と、リング状繊維基材2の変形後の形状を有する収容部7と、この収容部7に配置されたリング状繊維基材2を円柱体部6の軸方向に圧縮する圧縮手段8とを備えている。
また、収容部7は、リング状繊維基材2の外径を形成するための変形部材12を有しており、この変形部材12は、エアシリンダ14を用いて、円柱体部6の中心軸15に対し、前後(近遠径方向)へ自由に移動できる構造となっている。
繊維基材13の作製は、先ずリング状繊維基材2を製造装置内にある円柱体部6と、リング状基材2を収容する収容部7との間に投入する。この際、円柱体部6及び収容部7及び圧縮手段8は、ヒータを用いて120℃迄昇温させておく。リング状繊維基材2を投入後、3MPaの空気圧でエアシリンダ14を移動させ、変形部材12を、収容部7において円柱体部6の中心軸15方向に突き出してリング状繊維基材2に当接させ、変形させる。
その後、圧縮手段8にて、図面上にて上から下へと軸方向にリング状繊維基材2を押し込み、プレス圧力5MPaで圧縮し、30秒間保持する。変形部材12によりリング状繊維基材2は変形されており、熱圧によりその形状を維持して、繊維基材13を作製する。
【符号の説明】
【0022】
1…筒状体、2…リング状繊維基材、3…切削加工前形状、4…歯、5…加工代、6…円柱体部、7…収容部、8…圧縮手段、9…予備成形金型、10…金属製ブッシュ、11…軸方向圧縮力、12…変形部材、13…繊維基材、14…エアシリンダ、15…中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状に編んだ布を円筒形状の外側へ裏返しながら又は内側へ折り返しながら巻き込み、ドーナツ形状とした繊維基材であって、その内径円形形状が維持され、その外径円形形状が、外力により変形された繊維基材。
【請求項2】
請求項1において、外径円形形状の変形後の形状が、元の外接円形に均等間隔にて接触する突出部と、突出部と突出部の間が元の外接円形から離間する窪み部で形づくられている繊維基材。
【請求項3】
請求項1又は2において、外力が、円筒形状の軸方向圧縮力又は径方向中心に向かう外部力である繊維基材。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の繊維基材に、熱硬化性樹脂を含浸、硬化させ、歯を形成した樹脂製歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−51117(P2011−51117A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199484(P2009−199484)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】