説明

繊維強化プラスチック構造体とその締結構造及び製造方法

【課題】 締結用のカラーを備えた繊維強化プラスチック構造体を提供する。
【解決方法】 繊維強化プラスチック構造体10は、コア部材12と、コア部材12を覆う外皮部材14と、カラー16を備えている。カラー16は、コア部材12に形成された貫通孔22を貫通しているとともに、貫通孔26を備えている。カラー16の両端面16c、16dは、外皮部材14から露出している。カラー16の側面と外皮部材14の間には、間隙28が形成されている。外皮部材14が上記のように形成されることで、コア部材12に設けられたカラー16が熱膨張した場合でも、外皮部材14の変形や破損が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア部材を繊維強化プラスチック製の外皮部材で覆った繊維強化プラスチック構造体に関する。特に、ボルト等の締結具を挿通するためのカラーを有する繊維強化プラスチック構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、コア部材を繊維強化プラスチック製の外皮部材で覆った繊維強化プラスチック構造体に、ボルト等の締結具を挿通するためのカラーを取り付ける技術が開示されている。この技術では、繊維強化プラスチック構造体に貫通孔を形成し、その貫通孔にカラーを挿入する。繊維強化プラスチック構造体がボルト等の締結具を挿通するためのカラーを有していると、繊維強化プラスチック構造体と他部材を締結する際に、繊維強化プラスチック構造体と他部材を強固に締結することができる。
【0003】
【特許文献1】特開平9−310712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、コア部材が外皮部材によって覆われた状態で、コア部材と外皮部材にカラーを挿入するための貫通孔を形成するとともに、その貫通孔にカラーを挿入する。コア部材が外皮部材で覆われた状態で貫通孔の形成やカラーの挿入を行うと、外皮部材を変形させたり、破損させてしまうことがある。
上記の問題に対し、コア部材を外皮部材によって覆う前に、コア部材に貫通孔を形成し、カラーを挿入しておくことが考えられる。これによって、貫通孔の形成やカラーの挿入による外皮部材の変形や破損を防止することができる。
【0005】
外皮部材で覆う前のコア部材にカラーを挿入する場合、カラーが挿入された状態のコア部材を外皮部材で覆い、カラーが挿入された状態で外皮部材を加熱硬化する必要がある。
カラーは、例えば金属材料等で形成される場合も多い。例えばカラーが金属材料等の熱膨張率の高い素材で形成されている場合、加熱硬化時にカラーが大きく熱膨張してしまい、外皮部材を局所的に大きく変形させたり、破損させてしまうことがある。
カラーが挿入された状態で外皮部材を加熱硬化する場合でも、外皮部材の変形や破損が防止される構造が必要とされている。
本発明は、上記の課題を解決する。本発明は、コア部材に設けられたカラーが熱膨張した場合でも、外皮部材の変形や破損が防止される繊維強化プラスチック構造体を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ボルト等の締結具を挿通するためのカラーを有する繊維強化プラスチック構造体に関する。この繊維強化プラスチック構造体は、コア部材と、コア部材を貫通するとともにコア部材よりも熱膨張率の高い材料で形成されており、しかも貫通孔を有するカラーと、コア部材を覆う繊維強化プラスチック製の外皮部材を備えている。本発明の繊維強化プラスチック構造体では、カラーの両端面が外皮部材から露出しており、カラーの側面と外皮部材の間に間隙が形成されている。
【0007】
この繊維強化プラスチック構造体では、コア部材を貫通しているカラーの両端面が外皮部材から露出しており、外皮部材に覆われていない。また、コア部材を貫通しているカラーの側面と外皮部材の間に間隙が形成されており、外皮部材がカラーの側面に接触していない。そのため、カラーが挿入された状態で外皮部材を加熱硬化する際に、カラーが軸方向や径方向に熱膨張した場合でも、カラーが外皮部材に干渉することが防止される。これによって、コア部材に設けられたカラーが熱膨張した場合でも、外皮部材の変形や破損が防止される。
この繊維強化プラスチック構造体の構造によれば、カラーが挿入された状態で外皮部材を加熱硬化する場合でも、外皮部材の変形や破損が防止される。
【0008】
上記した繊維強化プラスチック構造体では、カラーの少なくとも一方の端面が外皮部材の表面よりも突出していることが好ましい。
上記の構造によると、ボルト等の締結具を用いて繊維強化プラスチック構造体を他部材に締結する際に、締結具をカラーに確実に接触させることができ、締結具が外皮部材に強く接触することを防止することができる。これによって、繊維強化プラスチック構造体を他部材に締結する際に、締結具による締結力によって繊維強化プラスチック構造体が変形することが防止される。
【0009】
上記した繊維強化プラスチック構造体を他部材に締結する場合、下記する締結構造を採用することが好ましい。この締結構造は、上記の繊維強化プラスチック構造体と、この繊維強化プラスチック構造体のカラーに挿通され、繊維強化プラスチック構造体を他部材に締結する締結具と、前記カラーの突出している端面と締結具の間に配置されるワッシャを備えている。ここで用いるワッシャは、半径方向の内側部分と外側部分の間に段差が設けられており、前記カラーの突出している端面と外皮部材の表面の両者に接触することを特徴とする。
【0010】
この締結構造では、締結具と繊維強化プラスチック構造体の間に配置されるワッシャに半径方向の段差が設けられており、この段差によって、段差よりも内側に存在するワッシャの内側部分がカラーの突出している端面と接触するとともに、段差よりも外側に存在するワッシャの外側部分が外皮部材の表面に接触する。そのため、カラーが外皮部材の表面から突出している場合でも、ワッシャによって外皮部材が支えられ、繊維強化プラスチック構造体を確実に固定しておくことができる。また、カラーの突出具合に応じてワッシャの段差を調整することができ、締結具が外皮部材に強く接触することが抑制される。これによって、外皮部材が変形してしまうことが防止され、繊維強化プラスチック構造体を他部材に強固に締結することができる。
【0011】
本発明は、上記した繊維強化プラスチック構造体に適した製造方法も提供する。この製造方法は、以下の3つの工程を少なくとも含んで構成されている。
(1)コア部材に設けられた貫通孔に、コア部材よりも熱膨張率の高い材料で形成されているとともに貫通孔を有するカラーを挿入するカラー挿入工程
(2)カラーを挿入したコア部材を、硬化前の繊維強化プラスチック製の外皮部材によって覆う外皮部材形成工程
(3)コア部材を覆う効果前の外皮部材を加熱硬化する加熱工程
この製造方法では、上記外皮部材形成工程において、カラーの両端面を硬化前の外皮部材から露出させておくとともに、カラーの側面と外皮部材の間に間隙を設けておく。
この製造方法によると、上記した繊維強化プラスチック構造体を製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コア部材に設けられたカラーが熱膨張した場合でも、外皮部材の変形や破損が防止される。繊維強化プラスチック構造体における厚さのずれや傷の発生が抑制され、繊維強化プラスチック構造体の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に説明する実施例の主要な特徴を最初に整理する。
(特徴1)コア部材は、樹脂材料で形成されており、詳しくは、発泡樹脂で形成されている。
(特徴2)カラーは、筒状形状を有しており、金属材料で形成されている。
(特徴3)繊維強化プラスチック構造体が締結される他部材には、繊維強化プラスチック構造体のカラーに挿通されるボルトが螺合するナットが固定されている。
【実施例】
【0014】
本発明を具現化した実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施例の繊維強化プラスチック構造体10の断面図を示す。繊維強化プラスチック構造体10は、コア部材12と外皮部材14とカラー16を備えている。外皮部材14が、コア部材12の表面を覆っている。コア部材12と外皮部材14の貫通孔22、24を通してカラー16が挿入されている。
【0015】
板状のコア部材12は、発泡樹脂等の軽量な素材で形成されている。コア部材12には、カラー16が挿入されている貫通孔22が形成されている。
外皮部材14は、繊維強化プラスチックで形成されている。即ち、外皮部材14は、強化繊維とマトリクス樹脂の複合材によって形成されている。本実施例では、強化繊維に炭素繊維が用いられており、マトリクス樹脂に熱硬化性プラスチックが用いられている。外皮部材14は、繊維強化プラスチックのプリプレグを積層することによって形成されている。外皮部材14には、カラー16が挿入されている貫通孔24が形成されている。
コア部材12の貫通孔22と外皮部材14の貫通孔24にカラー16が挿入されている。カラー16は、金属材料で形成されており、コア部材12に比べて高い熱膨張率を有している。カラー16には、カラー16を軸方向に貫通する貫通孔26が形成されている。コア部材12の貫通孔22の内面22aはカラー16の側面16bと接触している。外皮部材14の貫通孔24はコア部材12の貫通孔22よりも開口面積が広い。そのため、貫通孔24の内面24aとカラー16の側面16bの間には間隙28が形成されている。カラー16の両端面16c、16dは外皮部材14から露出している。カラー16の表側端面16cは、外皮部材14の表側表面14cよりも突出している。一方、カラー16の裏側端面16dは、外皮部材14の裏側表面14dと同一平面に位置している。
【0016】
図2に、繊維強化プラスチック構造体10を他部材42に締結する締結構造の一例を示す。図2に示すように、この締結構造では、ワッシャ52と締結具であるボルト54及びナット56を用いて、繊維強化プラスチック構造体10と他部材42を締結している。
繊維強化プラスチック構造体10は、他部材42の表側表面42cに載置されている。繊維強化プラスチック構造体10は、カラー16に形成された貫通孔26が、他部材42に形成された穴44と重なるように載置される。ワッシャ52がカラー16の表側端面16cに載置されている。ワッシャ52とカラー16にボルト54が挿通される。これにより、ボルト54がワッシャ52とカラー16と他部材42を貫通し、他部材42の裏側表面42dにおいて、ナット56と螺合される。本実施例では、ナット56が他部材42に溶接されており、ナット56と他部材42は一体化されている。なお、ナット56と他部材42を互いに溶接する必要は必ずしもない。
【0017】
この締結構造では、図2に示すように、ワッシャ52の半径方向に段差62が形成されている。段差62よりも半径方向内側に存在する内側部分52bは、カラー16の表側端面16cに接触している。段差62よりも半径方向外側に存在する外側部分52aは、外皮部材14の表側表面14cに接触している。そのため、外皮部材14の表側表面14cからカラー16の表側端面16cが突出している場合でも、ワッシャ52によって外皮部材14が支えられ、繊維強化プラスチック構造体10を確実に固定しておくことができる。
また、ワッシャ52に形成する段差62は、カラー16の表側端面16cと外皮部材14の表側表面14cの間の高低差に応じて、適宜調整するとよい。即ち、カラー16の表側端面16cと外皮部材14の表側表面14cの間の高低差に応じた段差を有するワッシャ52を用いるとよい。それにより、ワッシャ52が外皮部材14と接触しても、ワッシャ52が外皮部材14に強く接触することが防止される。これによって、繊維強化プラスチック構造体10が変形することが防止され、繊維強化プラスチック構造体10を他部材42に強固に締結することができる。
【0018】
次に、繊維強化プラスチック構造体10の製造方法を説明する。
最初に、図3に示すように、コア部材12に貫通孔22を形成する。貫通孔22は、コア部材12を形成する際に同時に形成してもよい。この場合には、貫通孔22を形成する工程が省略される。次に、図4に示すように、貫通孔22にカラー16を挿入する。このとき、挿入されたカラー16の両端面16c、16dを、コア部材12の表面より突出させる。次に、コア部材12の表面に外皮部材14を形成する。外皮部材14の形成では、コア部材12の表面に、繊維強化プラスチックのプリプレグを積層していく。コア部材12の表面からは、カラー16の両端面16c、16dが突出している。コア部材12の表面に外皮部材14を積層する際には、突出したカラー16の両端面16c、16dを避けて積層する。即ち、図1に示すように、外皮部材14には、コア部材12の貫通孔22に比べて大径の貫通孔24が形成する。これによって、カラー16の両端面16c、16dが外皮部材14から露出し、カラー16の側面16bと外皮部材14の間に間隙28が形成される。
【0019】
本実施例では、外皮部材14で覆う前のコア部材12に貫通孔22を形成し、カラー16を挿入する。そのため、コア部材12に貫通孔22を形成する際に、また貫通孔22にカラー16を挿入する際に、外皮部材14が変形したり、破損したりすることが防止される。
また、コア部材12を外皮部材14で覆う際に、コア部材12からカラー16の両端面16c、16dが突出している。そのため、カラー16の両端面16c、16dを外皮部材14から確実に露出させることができるとともに、カラー16の側面16bと外皮部材14の間の間隙28を確実に設けておくことができる。
【0020】
次に、図5に示すように、コア部材12を加熱型32に載置し、加熱蓋34で覆う。加熱型32のカラー16に対抗する位置には窪み33が形成されており、カラー16が熱膨張してもカラー16の裏側端面16dと加熱型32が干渉することがない。加熱蓋34のカラー16に対向する位置には窪み35が形成されており、突出しているカラー16の表側端面16cと加熱蓋34が干渉することがなく、またカラー16が熱膨張してもカラー16の表側端面16cと加熱蓋34が干渉することがない。
加熱型32及び加熱蓋34を加熱することによって、コア部材12を覆う外皮部材14が加熱硬化され、強固な繊維強化プラスチック構造体10が実現される。
【0021】
カラー16は外皮部材14に比べて高い熱膨張率を有している。そのため、図5に示す加熱工程において、外皮部材14を加熱硬化する際にカラー16が加熱され、カラー16が大きく熱膨張してしまう。
本実施例では、外皮部材14を加熱硬化する際に、カラー16の両端面16c、16dが外皮部材14から露出しており、カラー16の側面16bと外皮部材14の間に間隙28が設けられている。そのため、カラー16が軸方向や径方向に熱膨張した場合でも、カラー16が外皮部材14に干渉することがない。これによって、コア部材12に設けられたカラー16が熱膨張した場合でも、外皮部材14の変形や破損が防止される。
尚、外皮部材14の変形や破損が防止される効果は、外皮部材14の加熱硬化時に限られない。製造した繊維強化プラスチック構造体10を加熱する際にも有効である。
【0022】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、繊維強化プラスチック製の外皮部材14とは、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸して固化することで得られる材料を広く含む。強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維、ケブラー繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維等が挙げられる。また、マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0023】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】繊維強化プラスチック構造体10の断面図を示す。
【図2】繊維強化プラスチック構造体10を他部材42に締結する締結構造を示す。
【図3】繊維強化プラスチック構造体10の製造方法を説明する図である。
【図4】繊維強化プラスチック構造体10の製造方法を説明する図である。
【図5】繊維強化プラスチック構造体10の製造方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0025】
10 繊維強化プラスチック構造体
12 コア部材
14 外皮部材
16 カラー
22 コア部材12に形成された貫通孔
24 外皮部材14に形成された貫通孔
26 カラー16に形成された貫通孔
28 間隙
32 加熱型
34 加熱蓋
52 ワッシャ
54 ボルト
56 ナット
62 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部材と、
前記コア部材を貫通しており、コア部材よりも熱膨張率の高い材料で形成されているとともに、貫通孔を有するカラーと、
前記コア部材を覆う繊維強化プラスチック製の外皮部材を備えており、
前記カラーの両端面は前記外皮部材から露出しており、前記カラーの側面と前記外皮部材の間に間隙が形成されていることを特徴とする繊維強化プラスチック構造体。
【請求項2】
前記カラーの少なくとも一方の端面が、前記外皮部材の表面よりも突出していることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維強化プラスチック構造体と、
前記繊維強化プラスチック構造体のカラーに挿通され、前記繊維強化プラスチック構造体を他部材に締結する締結具と、
前記カラーの突出している端面と前記締結具の間に配置され、半径方向の内側部分と外側部分の間に段差が設けられており、前記カラーの突出している端面と前記外皮部材の表面の両者に接触するワッシャを備えていることを特徴とする繊維強化プラスチック構造体の締結構造。
【請求項4】
繊維強化プラスチック構造体の製造方法であり、
コア部材に形成された貫通孔に、コア部材よりも熱膨張率の高い材料で形成されているとともに貫通孔を有するカラーを挿入するカラー挿入工程と、
前記カラーを挿入したコア部材を、硬化前の繊維強化プラスチック製の外皮部材によって覆う外皮部材形成工程と、
前記コア部材を覆う硬化前の外皮部材を加熱硬化する加熱工程を備え、
前記外皮部材形成工程では、前記カラーの両端面を前記外皮部材から露出させておくとともに、前記カラーの側面と前記外皮部材の間に間隙を設けておくことを特徴とする繊維強化プラスチック構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−25177(P2010−25177A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185267(P2008−185267)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】