説明

繊維強化多孔性生体分解性移植デバイス

【課題】新規で有用な繊維強化多孔性生体分解性移植デバイスの提供。
【解決手段】その中に1cm以下の長さの繊維を主に平行な配向で実質的に均一に分布させた重合体基質を含有する、繊維強化生体分解性重合体移植材料;または負荷支持組織の欠陥に配置するための組織足場移植片となるように適合させた生体分解性基質を含有する繊維強化重合体移植材料であって、該移植片は、多孔性であり、そして該繊維は、該負荷支持組織に配置した後、このような移植片上の負荷の主要方向に主に平行に整列されている、材料など。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
多孔性足場を用いるヒト関節軟骨の可能な修復が記述されている。Mearsは、米国特許第4,553,272号にて、出発細胞の使用、多孔性足場での特定の細孔サイズ、および2個の細孔サイズ間で障壁を提供することに焦点を当てた骨軟骨の修復方法を記述している。生体分解性足場の使用または生理学的負荷に耐えることができる足場を提供することの必要性の言及はない。Hunzikerは、米国特許第5,206,023号にて、欠陥領域を酵素で前処理してプロテオグリカンを除去すること、次いで、生体分解性担体(足場)を供給して、増殖剤、成長因子および走化性剤を提供することを包含する関節軟骨の修復方法を教示している。
【0002】
Vertらは、米国特許第4,279,249号にて、繊維強化複合材料から作成した固形状生体分解性骨接合デバイスを記述している。その繊維状成分は、グリコリド(glycolide)含量の高い生体分解性重合体であり、その基質(matrix)成分は、ラクチド単位が多い。多孔性デバイスの言及はなく、繊維強化によって達成される好ましい機械的特性は、当該技術分野で公知の典型的な積み重ね法および層状化法によって、得られる。この基質全体にわたる繊維の均一な分配は、開示されていない。
【0003】
先行技術は、非常に多孔性の材料(50%〜90%の多孔性)を強化することにより機械的特性を最適化する方法を教示しているようには思われない。Nijenhuisらは、Eur.0,277,678にて、生体分解性で多孔性の足場を記述しており、これは、好ましくは、生体分解性強化繊維を含有する。この足場は、溶液-沈殿法および塩-浸出法の組み合わせを用いて作成した2層多孔性構造(二峰性の多孔分布)を有する。これらの繊維は、この足場を「強化する」ために組み込まれるものの、その機械的特性が、このような強化によって実際に改良されることを証明する証拠は提示されておらず、また、これらの繊維は、ランダムに整列されているように見える。
【0004】
Stoneらは、米国特許第5,306,311号にて、補てつ性で再吸収可能な関節軟骨を記述しており、これは、ランダムまたは放射状に配向され生体適合性および生体再吸収性と伝えられる繊維の乾燥した多孔性塊状基質から構成される。Stoneの特許は、主として、天然重合体繊維(例えば、コラーゲンおよびエラスチン)について書かれており、これらは、異種原料から収穫され精製される。これらの繊維は、次いで、架橋されて、凝集性の足場が得られる。この足場が関節接合力を支持する性能は、明らかにされていない。
【0005】
本明細書中で参照した全ての刊行物および特許出願の内容は、本明細書と矛盾しない範囲内で本明細書中で参考として援用されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)その中に1cm以下の長さの繊維を主に平行な配向で実質的に均一に分布させた重合体基質を含有する、繊維強化生体分解性重合体移植材料。
【0007】
(項目2)負荷支持組織の欠陥に配置するための組織足場移植片となるように適合させた生体分解性基質を含有する繊維強化重合体移植材料であって、該移植片は、多孔性であり、そして該繊維は、該負荷支持組織に配置した後、このような移植片上の負荷の主要方向に主に平行に整列されている。
【0008】
(項目3)前記繊維が、生体分解性材料を含む、項目1または2に記載の移植材料。
【0009】
(項目4)生体活性剤を分配するために使用される、項目1または2に記載の移植材料。
【0010】
(項目5)移植前に、細胞を接種されている、項目1または2に記載の移植材料。
【0011】
(項目6)その少なくとも1つの相として、項目1または2に記載の移植材料を含有する、多相移植片。
【0012】
(項目7)中空繊維を含有する、項目1または2に記載の移植材料。
【0013】
(項目8)50%と80%の間の多孔容量を有する、項目2に記載の移植材料。
【0014】
(項目9)主として一方向に整列させた繊維を含有する繊維強化多孔性組織足場移植材料を作成する方法であって、該方法は、以下を包含する:
(a)好適な有機溶媒に重合体を溶解して、溶液を形成すること;
(b)該繊維を、該重合体のための好適な非溶媒に分散させて、懸濁液を形成すること;
(c)該懸濁液および該溶液を混合することにより、該溶液から、凝集塊として、該繊維と混合された該重合体を沈殿させること;
(d)該繊維および該重合体の該凝集塊を混練し圧延して、該繊維を、互いに、主として平行に配向すること;および
(e)該塊に、熱および真空圧を加えて、それを発泡させ硬化すること。
【0015】
(項目10)非多孔性繊維強化移植材料を作成する方法であって、該方法は、項目9に記載の前記多孔性材料を、非多孔性材料に圧縮成形することを包含する。
【0016】
発明の要旨
本発明は、組織工学に有用な繊維強化重合体移植材料、およびそれらを作成する方法を提供する。この移植材料は、好ましくは、図1および2で示すように、その中に主に平行な配向で実質的に均一に分布させた繊維を有する重合体基質(好ましくは、生体分解性基質)を含有する。好ましい実施態様では、多孔性組織足場が設けられ、これは、負荷支持組織(例えば、軟骨関節および骨)の再生を容易にする。
【0017】
本発明の材料は、その繊維状支持体が主として単一方向に配向されている多孔性の繊維強化生体分解性組織足場を調製するのに、使用される。この足場は、人または動物に移植して、この繊維の配向の主要方向に平行に加えられた生理学的負荷に対して、支持を与える。例えば、大腿骨頭上の骨軟骨部位では、負荷の主要方向は、この軟骨の表面に垂直である。配向した繊維は、橋の支柱のように作用して、この足場の多孔性壁に強度および剛性を与え、そして細胞の内殖に特に適当な特徴的な円柱状の多孔性構造を与える。この繊維の配向はまた、この足場の機械的特性を異方性にし、すなわち、この繊維により得られる高い強度は、この繊維と平行な方向で最大となり、それにより、最も高い生理学的負荷に対する主要な支持を与える。
【0018】
これらの繊維の配向は、新規な混練(kneading)および圧延法(rolling)と組み合わせた溶解-沈殿法により、達成される。種々の量の繊維強化を用いて、この足場の機械的特性は、最適な性能のために、そのホスト組織環境に対して改造され得る。
【0019】
あるいは、使用する重合体は、非生体分解性であり得、および/またはこの移植片は、永久移植片(例えば、負荷支持が必要な位置での骨プレート)として使用するために、非多孔性(完全に密な)に作成できる。
【0020】
これらの繊維は、この重合体基質全体にわたって、実質的に均一に分布されており、すなわち、数個の大孔(macropores)を含む充分に大きい基質の選択された部分に存在している繊維の数は、この基質の任意の他のこのように選択した部分に存在している繊維の数と(少なくとも、その20%以内で)実質的に同じであるべきである。「大孔」とは、図1および2で示すように、この材料を作成する方法で形成される大きな円柱形状の空孔である。
【0021】
本発明は、種々の組織工学用途(骨関節の欠陥修復、中間層性および全層性(partial and full thickness)の関節欠陥の修復、骨移植片代替物、骨移植片アンレー、靱帯または腱の増殖、口腔/顎顔面手術および他の再建手術を含めて)で使用できる。本発明は、その移植片と負荷支持組織での欠陥に配置すべき用途(すなわち、一旦、この欠陥内に配置されると、この移植片に加えられる応力が、比較的に垂直な方向と比較して、一方向に高い用途)に特に有用であるが、これらに限定されない。一例は、骨関節または全層性の関節欠陥にあり、この場合、通常の歩行のような活動中にて、この関節の表面と垂直な非常に高い圧縮応力があるのに対して、この表面に平行な応力は、ずっと小さい。他の例には、歯槽リッジの増殖があり、この場合、主要な一方向圧縮応力は、噛むこと(biting and chewing)による。
【0022】
この強化繊維は、当該技術分野で公知の方法により、任意の適当な生体分解性材料から作成できるか、または市販の繊維であり得る。ポリグリコリド(PGA)繊維は、種々の企業(Albany International, Sherwood Davis & GeckおよびGenzyme Surgical Productsを含めて)から現在入手できる。縫合糸に由来の繊維もまた、使用できる(例えば、Ethicon(Johnson & Johnson)からのVicryl(登録商標)(90:10ポリ[グリコリド:ラクチド]))。これらは、好ましくは、合成繊維であり、好ましくは、加工性を妨害しない充分に短い長さ(例えば、約1cm未満)である。これらは、より長い繊維から、所望の長さに切り刻むことができ、好ましくは、これらは、約0.5 mmと約1.0 cmの間の長さ、さらに好ましくは、約0.5 mmと約4.5 mmの間の長さを有する。これらの繊維は、好ましくは、約5μmと約50μmの間の直径、さらに好ましくは、約5μmと約25μmの間の直径を有する。
【0023】
これらの強化繊維は、好ましくは、生理学的環境(水性、37℃)で試験したとき、実質的に損なわれない機械的特性を有する。これらの繊維を作成するには、任意の生体適合性材料が使用できる。これらの繊維は、好ましくは、この基質重合体を溶解するのに使用する溶媒に不溶性である。関節軟骨の修復のためには、これらの繊維は、好ましくは、ポリグリコリド(PGA)または80%より高いグリコリド含量を有するグリコリド-ラクチドコポリマーから作成される。骨の修復のためには、これらの繊維は、生体分解性ガラス(例えば、リン酸カルシウムまたは生体活性セラミック)から作成できる。この複合材料足場内の繊維の容量割合は、好ましくは、約5%と約50%の間、そしてさらに好ましくは、約10%と約30%の間である。
【0024】
本発明で使用する強化繊維は、あるいは、当該技術分野で公知の中空繊維であり得る。これらの中空繊維は、細胞および組織での浸潤を助けるチャンネルを与え、さらに、組織への送達のための生体活性剤で満たすことができる。
【0025】
この生体分解性基質には、当該技術分野で公知の生体分解性重合体または他の生体分解性材料が使用できる。適当な生体分解性重合体の一部の例には、α-ポリヒドロキシ酸、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(β-ヒドロキシブチレート)(PHB)、ポリ(β-ヒドロキシバレレート)(PHVA)、ポリ(p-ジオキサノン)(PDS)、ポリ(オルトエステル)、チロシン誘導ポリカーボネート、ポリペプチドおよび上記のもののコポリマーがある。
【0026】
本発明の移植材料中の繊維は、好ましくは、互いに対して主として平行に配向され、このことは、この繊維全体の全長の50%より多く、好ましくは、75%より多くが、同じ方向または同じ方向の約20°以内、さらに好ましくは、約15°以内で配向されることを意味する。好ましくは、これらの繊維の全長の少なくとも大部分は、図1(本発明の材料を示す走査電子顕微鏡写真)で描写するように、互いに対して平行に近く配向される。
【0027】
本発明の材料は、好ましくは、多孔性である。それらの細孔は、好ましくは、細胞の移動および細胞外基質の連続性が可能であるように、相互に連絡している。ここでの相互連絡とは、この足場全体にわたる多孔性空間の実質的な物理的連続性として定義される。その作成方法の発泡段階中の繊維の存在は、最小限度の閉鎖細胞細孔を確実にするのを助け、これは、次に、開放細胞の数(すなわち、相互連絡性の尺度)を最大にする。細孔の分布およびサイズは、実質的に均一であるのが好ましい。図7Aおよび7Bは、繊維なし(図7A)および繊維を伴う(図7B)移植材料中の細孔サイズ分布をグラフで表わす。細孔分布の均一性の著しい改良は、図7Bで示され、その狭い分布ピークは、図7Aのものと比較される。本発明の繊維強化材料での細孔分布の均一性は、本明細書中では、繊維なしの同じ材料の分布曲線よりも著しく高い均一性を示す分布曲線を与えるものとして定義されている。繊維は、発泡工程中にて、うまく分布した核形成部位を提供することにより、細孔のサイズが均一であることを確実にするのを助ける。これらの細孔は、内殖細胞に適合するのに充分大きい平均線形寸法(細孔壁間の距離であり、これはまた、本明細書中では、「直径」と呼ばれる)(例えば、少なくとも約25μmで約300μm未満、さらに好ましくは、約50μmと約250μmの間)を有するのが好ましい。
【0028】
この足場の多孔度(細孔容量)は、好ましくは、約50%と約80%の間、さらに好ましくは、約60%と約70%の間である。理想的には、この足場は、組織の再生を促進するのに充分に多孔性であるべきであるが、その機械的完全性を損なう程には多孔性ではない。配向した繊維強化材料は、特徴的な円柱状の構造を有し、これは、関節軟骨での軟骨細胞の円柱状細胞配向を「生体的に模している」。
【0029】
本発明の多孔性材料は、インビボまたはインビトロにて、組織足場として使用できる。すなわち、この材料は、それを患者の身体の組織欠陥内に配置した後、あるいは、本発明の足場材料を、移植前に自己細胞または同種異系細胞または細胞含有媒体にあらかじめ接種して、細胞の内殖のための支持および空間を与える足場(枠組み)として、作用する。移植前、エキソビボで、この足場に細胞を添加することにより、所望の組織または器官型の形成が促進できる。例えば、この移植片への骨髄の添加は、骨芽前駆細胞および血管形成細胞の存在のために、この足場全体にわたる骨の形成を促進する。足場材料への肝細胞の添加は、肝臓細胞を形成すると報告されている;同様に、軟骨細胞の添加は、軟骨を形成すると報告されている。
【0030】
細胞は、増殖または所望の表現型を誘発するために、成長因子および分化因子で前処理できる。
【0031】
本発明の移植片は、時間を合わせた(timed)様式(例えば、時間を合わせた突発(burst)または制御された放出パターン)で、生体活性剤(例えば、成長因子、抗生体質、ホルモン、ステロイド、抗炎症剤および麻酔薬)を分配するのに使用できる。
【0032】
本発明の移植材料は、例えば米国特許第5,607,474号(その内容は、本明細書と矛盾しない範囲まで、本明細書中で参考として援用されている)で記述されているように、多相移植片の1相として使用できる。好ましくは、本発明の移植材料は、この移植片を配置する組織と同じまたは類似した機械的特性を有し、これは、使用する繊維の量および種類により、制御される。機械的特性に対する繊維含量の効果は、図3〜6で示す。
【0033】
移植材料を作成する方法もまた、本明細書中で提供されている。主として一方向に整列した繊維を含有する繊維強化多孔性生体分解性組織足場移植材料を作成する方法は、以下を包含する:
(a)適当な有機溶媒に生体分解性重合体を溶解して、溶液を形成すること;
(b)該繊維を、該重合体用の適当な非溶媒に分散させて、懸濁液を形成すること;
(c)該懸濁液および該溶液を混合することにより、該溶液から、凝集塊として、該繊維と混合された該重合体を沈殿させること;
(d)該繊維および該重合体の該凝集塊を混練し圧延して、該繊維を、互いに、主として平行に配向すること;および
(e)該塊に、熱および真空圧を適用して、それを発泡させ硬化すること。
【0034】
沈殿した重合体を調製する方法は、当該技術分野で周知である。一般に、この方法は、乾燥した重合体混合物を溶媒(好ましくは、アセトン)と混合すること、この重合体塊を、非溶媒(例えば、エタノール、メタノール、エーテルまたは水)を用いて、溶液から沈殿させること、この塊から、それが凝集塊(これは、金型に押し付けるかまたは金型に押し出すことができる)となるまで、溶媒および沈殿剤を抽出すること、およびこの組成物を所望の形状および剛性に硬化することを包含する。混練および圧延は、PCT公報WO 97/13533(その内容は、本明細書と矛盾しない範囲まで、本明細書中で参考として援用されている)で記述されているように、実施できる。この混練は、手動または機械で行うことができ、そしてこの繊維が、互いに主として実質的に平行に整列するまで、例えば、この塊が加工困難になるまで、継続すべきである。混練および圧延は、この塊が、金型に押し付けることができない程に硬くなる点の直前で、停止すべきである。もし、この繊維を単一平面で整列させるのが望ましいなら、この塊は、平らで浅い金型への配置のために、圧延すべきある。もし、さらに、この繊維の単一方向で整列させるのが望ましいなら、この塊は、所望の整列方向でさらに伸展すべきである。円筒形金型での配置は、単一方向での繊維の整列が望ましいとき、好ましくは、約1:10の長さ:直径比を有する金型が好ましい。平行な繊維配向の程度を高めることは、(一定限度まで)、この長さ:直径比を高めることにより、達成できる。次いで、この重合体を金型内にて硬化および発泡して多孔性移植片を形成してもよい。
【0035】
これらの繊維をこの多孔性足場に分散した後、この足場は、必要に応じて、全ての細孔が崩壊して完全に密な(非多孔性)複合材料になるまで、好ましくは、高温にて、押し付けて(例えば、圧縮成形して)もよい。この方法は、繊維が均一に分散されて繊維と基質の間で良好な界面結合を生じる繊維強化複合材料を作製する際に、特に有効である。
【0036】
押し付けに必要な温度は、当該技術分野で公知であり、この材料が、加えた圧力下にて、この重合体鎖の混合および細孔の崩壊を可能にする程に充分に軟化する温度である。圧縮成形に使用する時間および温度は、著しい残留応力が存在しない(すなわち、この材料が、圧力を解いたとき、膨張しない)ことを確実にするのに充分であるべきである。非晶質PGA(75:25)を用いると、例えば、約100℃の温度が使用される。半結晶性重合体(例えば、L-PLA)については、少なくとも約180℃の温度が必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
発明の詳細な説明
繊維強化移植材料が提供され、ここで、これらの繊維は、主として、互いに平行に整列されている。あるいは、繊維は、単一平面で整列できる。この移植材料は、好ましくは、図1および2で示すように、多孔性である。あるいは、それは、完全に密で(非多孔性)あり得る。多孔性移植片は、組織の内殖のための組織足場として有用であり、好ましくは、生体分解性である。非多孔性移植片は、非生体分解性であり得、永久移植片として使用できる。
【0038】
本明細書中で記述した移植片は、生体活性剤(例えば、成長因子、抗生体質、ホルモン、ステロイド、抗炎症剤および麻酔薬)を送達するのに使用できる。このような試薬は、作成後または移植直前に、この移植片に吸着でき、この移植片に組み込まれた二次ビヒクルにより、制御された様式で送達されるか、またはその基質に直接組み込まれる。直ちにボウラス(bolus)を放出するためには、この移植片は、適当なビヒクル中にて、この試薬をこの移植片に単に塗布することにより、被覆できる。一例には、この移植片の表面に、この試薬を含有する溶液を滴下させること、またはこの移植片をこの溶液に短時間浸すことがある。移植時には、この種の処理足場により得られる成長因子放出パターンは、初期の急速な細胞増殖を誘発して、この多孔性足場内の空間を満たすことができる。
【0039】
このような生体活性試薬のためのカプセル化方法は、一般に、当該技術分野でよく記述されており、これらの方法は、本発明の移植デバイスへの組み込みのための材料を調製するために、使用できる。当該技術分野で公知の中空繊維は、本明細書中の強化繊維として使用でき、そしてSchakenraadら(1988), 「Biodegradable hollow fibers for the controlled release of drugs」, Biomaterials9:116-120;およびGreidanusら、米国特許第4,965,128号(それらの両方の内容は、本明細書と矛盾しない程度に本明細書中で参考として援用されている)により教示されるように、種々の生体活性剤で満たすことができる。これらの中空繊維は、さらに、細胞/組織の浸潤のためにチャンネルを提供するのを助けることができる。これは、この移植片に必要な機械的特性を与えることおよびこの生体活性剤を分配することの二重の目的に役立つ。
【0040】
変動する塊分解速度および変動する生体活性剤送達速度を与えるために、種々の重合体組成物が使用できる。この生体活性剤は、所望の放出期間または特定の時点での放出を達成するために、制御した様式で、分配できる。この生体活性剤は、Athanasiouらにより、米国特許出願第08/452,796号、「Continuous Release Polymeric Implant Carrier」により記述されているように、作成中に、この基質に直接組み込むことができ、これは、指定した時間にわたって、この因子の連続的な放出を達成する。あるいは、当該技術分野で公知の多くの技術の1つによるカプセル化が使用できる。重合体およびカプセル化法の適当な選択により、放出は、事実上即座の放出から6ヶ月までの遅延放出にわたる非常に広い範囲の時間にわたって、達成できる。治癒過程の間の異なる時点で、適当な因子を分配するためには、遅延放出が望まれ得る。例えば、軟骨修復モデルでは、その欠陥部位には、PDGF-BBのような増殖因子が急速に送達でき、次いで、この足場にて充分な細胞集団が存在すると、II型コラーゲンの形成を誘発するためのTGF-βのような分化因子が送達できる。
【0041】
上記のようにして、この移植片には、移植前に、自己細胞または同種異系細胞があらかじめ接種され得る。足場に細胞を付加するための非常に多くの方法がある。本発明では、細胞は、この移植材料を細胞懸濁液に浸漬すること、および約2時間にわたって穏やかにかき混ぜることにより、装填できる。細胞は、この足場に浸透し、この重合体基質に付着し、そして増殖および分化し続ける。あるいは、真空装填法が使用でき、この方法では、この移植片は、細胞懸濁液に浸漬され、そして穏やかな真空(約300 mm Hg)がゆっくりと加えられる。この移植片内にて、過剰なせん断力および細胞溶解が回避されるように、真空をゆっくりと印加することが重要である。さらに他の細胞装填法には、この足場材料を遠心分離により浸透させることがある。この移植片は、小遠心管または微量遠心管の底部に固定され、そして細胞懸濁液が添加される。この移植片/細胞の組み合わせは、次いで、200〜1000×Gで、5〜15分間回転される。過剰の溶液がデカントされ、装填した移植片は、即座の移植のために除去してもよく、または患者への移植前に、短期間の培養期間にわたって、インキュベートしてもよい。移植片の接種に使用する細胞は、多くの方法で獲得できる。それらは、自己移植組織より単離され得るか、自己移植組織より培養および増殖され得るか、またはドナーの同種異系組織由来であり得る。
【0042】
この組織強化足場を関節軟骨の再生に使用するとき、この繊維および基質の組み合わせは、好ましくは、この複合足場の機械的特性が関節軟骨環境での使用に最適な性能に調整されるように、選択される。最適な性能は、濡らした直後およびインビトロで生理学的溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、滑液など)に浸けるかまたはインビボで臨界(critical)時間浸けた直後に、生理学的条件下で試験した足場の機械的特性に基づいて、決定できる。関節軟骨の修復のためには、インビトロでの浸漬の2週間後、この足場の圧縮ヤング率が、同じ模擬生理学的条件および試験様式下にて試験した関節軟骨の約50%以内であることが好ましい。模擬生理学的条件には、37℃で維持される少なくとも水性の環境が挙げられる。この足場の降伏強度は、該条件下での2週間の浸漬および試験後、少なくとも約1MPa、さらに好ましくは、少なくとも約2MPaであることが好ましい。このような降伏強度は、この足場に、通常の人の歩行中に遭遇する応力に耐えるのに充分な機械的完全性を与える。さらに、この足場は、2週間の浸漬時間後、該条件下にて試験すると、その降伏強度の少なくとも50%を維持することが好ましい。
【0043】
この足場の塊分解速度もまた、最適な性能に改造できる特性である。当該技術分野で公知なように、塊分解速度は、生体分解性重合体の種類、分子量、および結晶度(半結晶性重合体について)により、制御できる。関節軟骨の修復のためには、この足場の少なくとも約90%は、移植後、約8週目と約26週目の間で再吸収されるのが好ましい。骨の修復のためには、この足場の少なくとも約90%は、移植後、約10週目と約16週目の間であるが約26週目までに、再吸収されるのが好ましい。
【0044】
本発明の繊維強化足場を作成するためには、その強化繊維および基質重合体は、上記のようにして選択される。この基質重合体は、その完全に溶解した溶液の粘度が自動車油のもの(50〜500センチポアズ)にほぼ類似するように、適当な量の溶媒に溶解される。これらの強化繊維は、この重合体の非溶媒に浸漬される。これらの繊維は、この非溶媒が繊維をできるだけ濡らすように、少なくとも15分間にわたって、この非溶媒に浸けたままにされる。これらの繊維を浸けた後、それらは、この非溶媒を用いてスラリーに混合またはブレンドされて、これらの繊維を分散させ、そしていかなる凝集塊をも除去する。ブレンドまたは混合中、このスラリーには、余分な非溶媒を添加するのが好ましい。ブレンドまたは混合は、このスラリー内にて、目に見える密な繊維凝集塊が存在しなくなるまで、行うべきである。ブレンドまたは混合後、この非溶媒は、この重合体の沈殿に必要な量の非溶媒(溶解した重合体の少なくとも約90%が、望ましくは、沈殿される)のみが残るように、デカントされる。
【0045】
一旦、この基質重合体が完全に溶解し、そしてこれらの繊維が、この非溶媒によく分散すると、2者は、共に添加され、そして好ましくは、非付着性器具で攪拌される。攪拌は、不透明で凝集性のゲルが沈殿して非付着性表面上へと持ち上げることができるまで、継続すべきである。このゲルは、次いで、これらの繊維をゲル内で均一に分散するために、混練される。均一な分散は、このゲルを平たくしたときに、それを肉眼で観察することにより、評価できる。このゲルは、これらの繊維が均一に分散して殆どの上澄み溶媒および非溶媒が絞り出されるまで、混練される。次いで、非付着性ローラーが使用されて、このゲルを非付着性表面上で平らにする。
【0046】
次いで、初期真空発泡工程が実施されて、それ以上の残留溶媒および非溶媒が除去され、そしてこのゲル中の気泡の核形成(nucleation)が開始される。このゲルには、約1〜2分間にわたって、好ましくは、約700 mm Hg(60 mm絶対圧)の真空圧が引かれる。この真空工程に続いて、このゲルは、好ましくは、約0.25〜0.75 mmの間隙により分離されたローラーに充分な回数通されゲルがさらに乾燥して混練するには堅くなるほどになる。
【0047】
この時点で、このゲルは、使用する金型の種類に従った形状にされる;使用する金型の種類は、望ましい繊維の配向の種類に依存している。もし、これらの繊維を実質的に一方向に配向することを望むなら、使用する金型は、少なくとも約5:1の長さ:直径比で、円筒形状を有するべきである。このゲルは、この円筒形金型の長さに圧延され、次いで、この金型内に配置される。もし、これらの繊維を実質的に1平面に整列させることを望むなら、この金型は、最小寸法と他の2つの寸法のそれぞれとの間で、約1:5の最大の比を有する平行六面体であるか、またはせいぜい1:5の長さ:直径比を有する円筒形であるべきである。このゲルは、非付着性ロールピンを用いて平らにされ、この平行六面体金型の2つの最大寸法または円筒形金型の外周に充填される。
【0048】
混練に続いて、圧延または平らにしたゲルは、この金型内に配置され、金型は閉じられ、そして真空オーブンに置かれる。この第二真空発泡工程では、その真空圧力は、少なくとも約700 mm Hgに達するはずであり、その温度は、このゲルから残留溶媒を除去するのに充分に高く設定すべきであるが、硬化中に、細孔の著しい合体を引き起こす程に高くすべきではない(例えば、約65℃)。この工程中、このゲルは発泡して、この金型の壁まで膨張し、充分な残留溶媒および非溶媒が抽出され、それにより、この多孔性複合材料は、この複合材料の変形なしに、この金型から除去できる。この第二真空工程の時間の長さは、典型的には、約1日間であるが、満足のいく結果のためには、2日間または3日間が必要であり得る。この複合材料の金型からの除去に続いて、複合材料の試料は、残留溶媒および非溶媒のレベルについて、分析すべきである。この金型の外側の複合材料の引き続いた乾燥は、その残留レベルが100 ppm以下であるべきなので、必要であり得る。この複合材料は、次いで、使用する用途の種類に依存して、その所望の形状および配向に切断できる。
【0049】
本発明の足場は、中間層性、全層性および骨軟骨性の軟骨欠陥の治療で使用できる。中間層性の欠陥は、この欠陥の深さが、その軟骨層の全厚の一部にすぎないものとして定義される。全層性の欠陥は、その欠陥が、軟骨の全層を貫通するが下部の軟骨下の骨まで伸長していないものとして定義される。骨軟骨性の欠陥は、この軟骨および骨の両方を貫通する。ある場合には、軟骨下の骨(subchondral bone)へと突出する多相移植片で軟骨欠陥を治療するのが望ましいことがある。多相移植片は、1個またはそれ以上の層からなる移植デバイスとして、定義される。このデバイスは、固形フィルム、軟骨相、骨相などを包含できる。
【0050】
全層性の欠陥を治療するためには、本発明は、好ましくは、この欠陥を満たすのに充分に厚い単一相移植片として、使用される。例えば、ヒトについては、直径8mmおよび厚さ2.0 mmの移植片が典型的なサイズであり得る。この移植片は、好ましくは、接合中の滑らかな表面を可能にするために、この移植片の接合表面を覆う生体分解性フィルムを有する;しかしながら、このフィルムは、必要条件ではない。この移植片には、次いで、好ましくは、関節軟骨、肋骨軟骨、軟骨膜骨または任意の他の硝子軟骨ドナー部位から単離した自己細胞の懸濁液が装填される。これらの細胞を組織から単離した後、それらは、培地中で拡大でき、成長因子、ホルモンまたは他の生体活性分子で前処理でき、またはそれらは、さらに処理することなく、きちんと使用できる。一旦、この細胞懸濁液が調製されると、これらの細胞は、この移植片へと装填できる。
【0051】
この移植片を調製するためには、細胞懸濁液が移植片を被覆するのに丁度充分な培地を用いて、調製細胞懸濁液に、無菌の足場が添加される。この細胞/足場の組み合わせは、次いで、1〜2時間にわたって、軌道振とう器で穏やかに振とうされて、その多孔性材料が細胞で浸潤される。培地で濡らした移植片は、次いで、取り除かれ、そしてこの移植片を37℃で維持しつつ、手術部位に移動されて、この細胞の生存能が確保される。あるいは、この足場/細胞の組み合わせは、この細胞が付着するか増殖さえ始めて細胞外基質を形成するように、長期間にわたって、培養条件下にて維持できる。
【0052】
大腿骨頭上の全層性欠陥を治療するためには、例えば、外科医は、好ましくは、罹患した膝の大腿骨頭を晒し、そして円形穿孔具を用いて、損傷部位の回りの「リング」を切断する。キュレットまたは他の適当な道具を用いて、外科医は、次いで、損傷した全ての軟骨を取り除く。一旦、この欠陥部位が準備されると、この欠陥部位の底部には、少量の原繊維接着剤または他の生体適合性組織接着剤が塗布される。この接着剤を選択する際には、この移植材料との適合性を確実にすることが重要である。次いで、作製した移植片は、この移植片の表面が軟骨の表面と同一平面上になるまでに、この移植片を適当な位置で固定するための組織接着剤を用いて、この欠陥部位に押し付けてはめ込まれる。あるいは、作製した移植片は、縫合、アンカー、リベット、微小ネジ、びょうなど(それらの全ては、生体分解性材料から作成できる)を用いて、この欠陥部位に機械的に取り付けることができる。この部位は、次いで、常套的に閉じられ、適当な術後療法が施される。連続的な消極的運動、電気刺激または他の治療は、適当であるとみなしたとき、使用できる;しかしながら、治療した脚にかかる重量は、少なくとも最初の4〜6週間、回避または最小にすべきである。修復は、12週間以内で、ほぼ完結するはずであり、完全な回復は、4〜6ヶ月と予想される。最適な術後治療/リハビリテーションレジュメは、外科医/医師により決定できる。
【0053】
実施例1
10%細断PGA繊維強化多孔性生体分解性移植片を作成する方法
70容量%多孔性10容量%細断PGA繊維強化75:25ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(D,L-PLG)ウエハを作成するために、以下の操作を使用した。まず、1.38gの75:25 D,L-PLG(Mw=95,000 Da、固有粘度=0.76)を、アセトン6.2mLを用いて、テフロン(登録商標)ビーカーにて溶解した。次に、およそ15μmの直径を有する0.153gのPGA繊維(これは、約2.6 mmの平均長まで細断した)を、シンチレーションバイアルに入れた。次いで、これらの繊維と共に、このバイアルに、エタノール6.2mLを添加した。このバイアル中の流体レベルは、マジックインキ(permanent marker)で印を付けた。次に、これらの繊維およびエタノールを、追加のエタノール20mLと共に、ワーリングブレンダーに移した。この混合物を、設定2で、1分間混合した。この繊維およびエタノール混合物を、次いで、このシンチレーションバイアルに戻し、エタノールをこの混合物の高さが目印まで低下するまで、デカントした。
【0054】
この75:25 D,L-PLGをこのアセトンに完全に溶解した後、この繊維およびエタノール混合物をこの重合体溶液に注ぎ、そしてテフロン(登録商標)ポリスマンを用いて混合した。この溶液を、沈殿重合体および繊維塊の凝集ゲルが形成されるまで、混合した。このゲルを、次いで、上澄みアセトンおよびエタノールから除去した。次に、このゲルを、この複合ゲル内に繊維を手動で分散させるように特に注意を払って、手で混練した。このゲルがある程度乾燥し、これらの繊維が、マクロ的観察によって、よく分布していると見えると、それを、約0.25 mmの距離で分離したローラーによって、9回加工した。次に、このゲルを、金型の長さに等しい長さ(5cm)で、手で、円筒形に圧延した。このゲルを、次いで、直径1cmおよび長さ5cmの円筒形ポリプロピレン金型に入れた。この圧延工程中にて、このゲル中の細断(chopped)繊維は、この円筒の長手方向に優先的に配向した。次いで、この金型を、65℃の温度まで予備加熱した真空オーブンに入れ、真空を、少なくとも700 mmHgまで引いた。この真空オーブン中の金型に1日置いた後、このゲルは、金型のサイズまで発泡し、そして堅く構造的に多孔性の複合材料にまで乾燥した。それを、次いで、真空オーブンに戻し、少なくとも3日間にわたって開放して、残留アセトンおよびエタノールを除去した。
【0055】
乾燥後、この真空オーブンから、多孔性複合材料を取り出し、そして任意の他の特性付けおよび使用前に、この複合材料の一部に由来の残量のアセトンおよびエタノールは、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。65℃でのこの真空オーブンへの引き続く再挿入は、残留溶媒レベルが100 ppmより低く下がるまで、行った。
【0056】
この円筒形ウエハを所望形状およびサイズに加工するためには、以下の操作を使用した。この円筒形ウエハを、Buehler Isomet 1000 Sawに取り付け、そして水を冷却剤として、ダイアモンドコートしたノコギリ刃を用いて、所望の円筒高さまで、横に切断した。細断した円筒を、次いで、ドリルプレスに取り付けた中空芯抜き具(hollow coring tool)を用いて、所望の直径にした。
【0057】
実施例2
多孔性生体分解性移植片の機械的特性に対する繊維配向の影響を示す機械試験
強化繊維を優先的に一方向に配向した多孔性ウエハを作成するために、好ましい実施態様の詳細な説明および実施例1で記述した作成方法を使用した。この方法を用いて作成した移植片には、円筒形金型を使用したことを示すために、「シル」を付けた。強化繊維を二方向に配向した移植片を作成するために、6cm×6cm×3mmの厚さ寸法のプレート様金型を使用し、そして最終真空工程前に、このゲルを平らにして、この金型の側面に合わせた。この方法を用いて作成した移植片には、「フラット」を付けて、平らなプレート様形状の硬化ウエハを示す。
【0058】
使用した基質重合体は、75:25ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)であり、これらの繊維は、約15μmの直径および約2.5 mmの平均長を有するポリ(グリコリド)であった。機械的な試験のために使用した試料の寸法は、直径6mm×高さ3mmであり、実施例1で記述した方法を用いて得た。
【0059】
この円筒形ウエハの機械的特性を測定するために使用した方法は、一軸平行板圧縮試験であった。このデバイスは、目盛付きInstron Model 5542 Load FrameおよびInstron 500N容量引張り-圧縮負荷セル(これは、環境浴(environmental bath)を備え、脱イオン水を装填し、37℃の温度を維持できる)からなる。上記円筒形試料は、浸漬試料上で真空を引くことにより、脱イオン水であらかじめ装填し、そして37℃で維持したオーブンでの試験前に、脱イオン水中にて、1時間にわたって、予備調節した。試験前、各試料をこのオーブンから取り除き、ノギスを用いて測定して厚さおよび直径を決定し、そして一軸平行圧縮プレート間にて、この浴に直ちに浸けた。これらの試料を、次いで、1分間あたり10%の歪み速度で圧縮し、この試験から得た応力に対する歪みデータを集め、そしてASTM D 1621-94、「Standard Test Method for Compressive Properties of Rigid Cellular Plastics」に従って、分析した。
【0060】
試料は、これらの繊維の好ましい配向に対して、平行(||)または垂直(⊥)のいずれかで試験した。繊維強化していない移植片を、繊維強化したものと同じ形状で、作成し試験した。これらの移植片に対する平行または垂直の記述は、試料を、対応する繊維強化移植片と同じ形状で作成し試験したことを示している。以下の記述に従って、5つの試料群を作成し試験した。
【0061】
1.75:25 D,L-PLG(w/o繊維)、フラット、⊥
2.75:25 D,L-PLG(w/o繊維)、シル、||
3.10% PGA繊維/90% 75:25 D,L-PLG、フラット、⊥
4.10% PGA繊維/90% 75:25 D,L-PLG、シル、||
5.10% PGA繊維/90% 75:25 D,L-PLG、シル、⊥
応力-歪みのデータおよび加工後分析から、これらの試料のヤング率および降伏応力を比較した。これは、この試料の多孔度と相関しており、そして円筒形試料の乾燥塊の厚さおよび直径および使用した重合体の密度から算出した。これらの移植片のそれぞれのヤング率および多孔度の複合プロットは、図3で示す。これらの移植片のそれぞれの降伏応力のプロットは、図4で示す。
【0062】
図3は、試験した全ての移植片について、60%〜70%の多孔度が維持されたことを示している。図3および4は、まず第一に、繊維強化なしでは、この作成方法は、これらの移植片のヤング率に影響を与えず、その降伏応力を僅かに変えるにすぎないことを明らかにしている。第二に、図3および4は、優先配向方向と平行で測定したとき、これらの強化移植片中の繊維の優先的な配向は、そのヤング率および降伏応力における非常に大きな増加を引き起こすことを明らかにしている。さらに、これらの移植片をプレート様金型で作成したとき、これらの繊維の優先配向に垂直で試験したときには、強化繊維の添加は、そのヤング率を穏やかに上げるにすぎず、また、その降伏応力をそれ程変化させなかった。図3および4はまた、円筒形金型で作成した繊維強化移植片が、異方性の機械的特性を有することを明らかにしている;そのヤング率および降伏応力は、これらの強化繊維の優先的配向方向と平行で試験したとき、ずっと大きかった。
実施例3
多孔性生体分解性移植片に対する細断PGA繊維強化の増加レベルの影響を示す機械試験
実施態様の詳細な説明および実施例1で記述した方法に従って、移植片を作成した。使用した基質重合体は、75:25ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)のランダムコポリマーであり、その繊維は、約15μmの直径および約2.5 mmの平均長を有するポリ(グリコリド)であった。0%、5%、10%、15%および20%の繊維容量画分を用いて、移植片を準備した。実施例1の記述に従って、約6mmの直径および3mmの長さの円筒形試料を作成した。実施例2で記述した平行プレート圧縮試験法を使用して、これらの円筒形ウエハの機械的特性を測定した。これらのウエハは、これらの繊維の優先的配向方向に平行で試験した。
【0063】
応力-歪みのデータおよび加工後分析から、これらの試料のヤング率および降伏応力を比較した。これは、この試料の多孔度と相関しており、そして円筒形試料の乾燥塊の厚さおよび直径ならびに使用した重合体の密度から算出した。これらの移植片のそれぞれのヤング率および多孔度の複合プロットは、図5で示す。これらの移植片のそれぞれの降伏応力のプロットは、図6で示す。
【0064】
図5は、強化繊維の添加の増加と共に、そのヤング率が線形的に増加したこと示す。図5はまた、これらの移植片の多孔度が、60%と70%の間で維持されたことを明らかにしている。図6は、これらの移植片の降伏応力がまた、強化繊維の増加と共に上がったことを明らかにしている。
【0065】
実施例4
細断PGA繊維強化複合材料の圧縮成形
実施例1に従って、繊維強化材料を作成した。この材料を、次いで、ステンレス鋼金型に入れ、この金型を、次いで、Carver Laboratory Pressにて、2つの加熱プラテンの間に置いた。これらのプラテンを約100℃まで加熱し、そして10,000 lbsの圧力を加えた。約2分後、この金型を室温まで冷却し、圧縮した複合材料を取り出した。この最終材料は、光を当てたとき、繊維の均一な分布の証拠を伴って、完全に密であった。
【0066】
当業者は、前述の実施例で具体的に記述したもの以外の代替技術、操作、方法および試薬が、本発明の目的(すなわち、主として平行に整列したまたは平面整列した繊維を用いた重合体繊維強化組成物、およびそれらを製造する方法)を達成するために、容易に使用または代替できることを理解する。代替的であるが機能的に等価な組成物および方法は、過度の試行を行うことなく、当業者に容易に明らかとなる。このような代替法、変更および等価物の全ては、本発明の精神および範囲内に包含されると考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、多孔性繊維強化生体分解性足場移植材料の走査電子顕微鏡写真であり、これは、繊維の主として平行な配向および特徴的な円柱状細孔構造を示す。
【図2】図2Aおよび2Bは、偏光顕微鏡を用いて見た多孔性繊維強化移植片の2つの断面であり、(A)その繊維の主要な配向に平行に見た端面(end-on)および(B)その繊維の主要な配向に垂直に見た側面である。これらの繊維は、その複屈折特性のために、明るく見える。
【図3】図3は、75:25ポリラクチド:グリコリドで強化したPGA繊維から構成される本発明の移植材料のヤング率および多孔度の複合プロットである。白棒は、多孔度を示す。黒棒は、ヤング率を示す。「プレート」との用語は、繊維を主として単一平面で整列する工程により作成した材料を意味する。「シル(cyl)」との用語は、繊維を主として単一方向で整列する工程により作成した材料を意味する。パーセントとの表示は、存在する繊維のパーセントを示す。このパーセント表示がないとき、その材料は、繊維なしで、「プレート」または「シル」により示した工程により作成した。
【図4】図4は、図3で示した移植材料の降伏応力のプロットである。
【図5】図5は、75:25ポリラクチド:グリコリドで繊維のパーセントを変えて作成した移植材料のヤング率および多孔度の複合プロットであり、図中の名称は、上記図3で述べたとおりである。
【図6】図6は、図5で示した移植材料の降伏応力のプロットである。
【図7】図7Aおよび7Bは、(A)繊維強化なしおよび(B)繊維強化して作成した多孔性移植片に関して、水銀多孔度測定を用いて構築した細孔サイズ分布プロットである。(B)での狭いピークは、この繊維強化移植片が、繊維強化なしのもの(A)よりも均一な細孔サイズ分布を有することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その中に1cm以下の長さの繊維を主に平行な配向で実質的に均一に分布させた生体分解性重合体基質を含有し、該重合体基質中の該繊維が、5%と50%との間の容量割合を有する、繊維強化生体分解性重合体移植材料。
【請求項2】
負荷支持組織の欠陥に配置するための組織足場移植片となるように適合させた生体分解性基質を含有する繊維強化重合体移植材料であって、その移植片は、多孔性であり、そして該繊維は、1cm以下の長さであり、かつ、該生体分解性基質の中に実質的に均一に分布され、かつ、該負荷支持組織に配置した後、このような移植片上の負荷の主要方向に主に平行に整列されており、該重合体基質中の該繊維が、5%と50%との間の容量割合を有する、移植材料。
【請求項3】
前記繊維が、生体分解性材料を含む、請求項1または2に記載の移植材料。
【請求項4】
生体活性剤を分配するために使用される、請求項1または2に記載の移植材料。
【請求項5】
移植前に、細胞を接種されている、請求項1または2に記載の移植材料。
【請求項6】
その少なくとも1つの相として、請求項1または2に記載の移植材料を含有する、多相移植片。
【請求項7】
中空繊維を含有する、請求項1または2に記載の移植材料。
【請求項8】
50%と80%の間の多孔容量を有する、請求項2に記載の移植材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−200510(P2008−200510A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74693(P2008−74693)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【分割の表示】特願平11−500969の分割
【原出願日】平成10年5月29日(1998.5.29)
【出願人】(505316358)オステオバイオロジックス, インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】