説明

繊維強化樹脂材の接合方法と接合構造

【課題】繊維強化樹脂材同士を短時間でしかも高い接合強度で接合することのできる繊維強化樹脂材の接合方法と接合構造を提供する。
【解決手段】2つのマトリックス樹脂1a,2aが熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂材1,2の少なくとも一部同士を重ね合わせて重ね合わせ箇所を形成し、マトリックス樹脂3aが熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂シート3を該重ね合わせ箇所の上面に配して、重ね合わせ箇所のマトリックス樹脂を軟化させるステップ、繊維強化樹脂シート3の上方から押し込みピンPを押し込み、該繊維強化樹脂シート3の一部と押し込みピンPの一部を最下層の繊維強化樹脂材2の途中位置まで到達させ、押し込みピンPを取り外し、すべてのマトリックス樹脂を硬化させて2つの繊維強化樹脂材1,2の重ね合わせ箇所を押し込まれて変形した繊維強化樹脂シート3で接合するステップからなる接合方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上の繊維強化樹脂材の重ね合わせ箇所を接合する接合方法と接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂に強化用繊維材が混入されてなる繊維強化樹脂材(繊維強化プラスチック(FRP))は、軽量かつ高強度であることから、自動車産業や建設産業、航空産業など、様々な産業分野で使用されている。
【0003】
たとえば自動車産業においては、ピラーやロッカー、床下フロアなどの車両の骨格構造部材や、ドアアウターパネルやフードなどの意匠性が要求される非構造部材に上記繊維強化樹脂材が適用され、車両の強度保証を図りながらその軽量化を実現し、低燃費で環境フレンドリーな車両を製造する試みがおこなわれている。
【0004】
上記する繊維強化樹脂材は、たとえば、径が数μmの長繊維や短繊維がマトリックス樹脂内にランダムに、もしくは所定の配向をもって埋設されたプリプレグシートや、長繊維よりも長い連続繊維がマトリックス樹脂内に一方向に配向された一方向材(UD材)からなるプリプレグシートを成形型内で積層し、加熱処理することで製造される。また、同様に連続繊維を含有するプリプレグシートを使用し、各プリプレグシート内の連続繊維の配向を0度、90度、±45度等に積層して擬似等方材を形成したり、連続繊維からなる経糸と緯糸からなる織物をマトリックス樹脂内に含有させてなるプリプレグシートを使用し、やはりそれらを成形型内で積層し、加熱処理する製造方法などもある。
【0005】
ところで、上記する繊維強化樹脂材同士の接合方法に関しては、接着剤で接合する方法や溶着で接合する方法、リベットで接合する方法、さらにはそれらを組み合わせた接合方法などが一般に用いられているが、それぞれに課題を有している。
【0006】
接着剤による接合方法では、被接合材の材料種によっては接合強度が発揮されないことから、繊維強化樹脂材を形成するマトリックス樹脂の材料種に応じて接着剤の種類を選別しなければならず、さらには、接着剤が一般に熱硬化系材料からなることからその反応までに時間を要するという課題がある。
【0007】
溶着による接合方法では、繊維強化樹脂材を形成するマトリックス樹脂が熱可塑系材料からなる場合に、高分子同士が絡み合う条件が必要となるし、繊維同士が絡み合うことまで期待できないために高い接合強度を期待できず、たとえば車両の高負荷を受ける上記骨格構造部材同士の接合への展開は難しい。
【0008】
また、リベットによる接合方法では、被接合材に下孔を予め開設しておく必要があるが、これが繊維強化樹脂材の場合には孔加工に長時間を要するために量産に適しておらず、硬度の高い繊維強化樹脂材に孔加工をおこなうことから孔加工用の刃具の寿命が短くなってしまい、加工コストが嵩むという課題がある。
【0009】
そこで、特許文献1で開示されるように、アルミ板や鋼板等同士を接合する際に適用されるセルフピアスリベットによる接合方法をFRP部材同士の接合に適用しようとする試みもある。ここで開示される接合方法は、接合される2つのFRP部材間に接着剤を塗工し、この接着剤が未硬化の状態でセルフピアスリベットを打ち込んで、リベットを上方のFRP部材に貫通させて下方のFRP部材内へその先端を留まらせるものである。
【0010】
しかし、このように被接続部材の少なくとも一方がFRP部材である部材同士の接続にセルフピアスリベットによる接合方法を適用すると、リベットの先端の突き刺さりによってマトリックス樹脂が割れたり、FRP繊維が切れたりしてしまい、リベットとFRP部材が金属板のように十分に固定され難い。さらには、接着剤の硬化と接合のタイミングを合わせる必要が生じ、これらFRP部材同士を接合して量産しようとする場合には量産工程上の制約が生じてしまう。また、セルフピアスリベットによる特殊接合ゆえに材料コストが嵩むといった課題もある。
【0011】
従来の繊維強化樹脂材同士を接合する際の上記する種々の課題に鑑み、本発明者等は、セルフピアスリベットのような高価な接合具を使用することなく、繊維強化樹脂材同士を高い接合強度で接合することのできる接合方法とこの接合方法によって形成された接合構造の発案に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−229980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、接着剤による接合方法、溶着による接合方法、リベットやセルフピアスリベットを使用してなる接合方法のいずれの接合方法でもなく、繊維強化樹脂材同士を短時間でしかも高い接合強度で接合することのできる繊維強化樹脂材の接合方法とこの接合方法によって形成された繊維強化樹脂材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明による繊維強化樹脂材の接合方法は、少なくとも2つの繊維強化樹脂材であって、ともにマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂材の少なくとも一部同士を重ね合わせて重ね合わせ箇所を形成し、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂シートを該重ね合わせ箇所の上面に配して、重ね合わせ箇所のマトリックス樹脂を軟化させる第1のステップ、前記繊維強化樹脂シートの上方から押し込みピンを押し込み、該繊維強化樹脂シートの一部と押し込みピンの一部を最下層の繊維強化樹脂材の途中位置まで到達させ、押し込みピンを取り外し、すべてのマトリックス樹脂を硬化させて少なくとも2つの繊維強化樹脂材の重ね合わせ箇所を押し込まれて変形した繊維強化樹脂シートで接合する第2のステップからなるものである。
【0015】
本発明の繊維強化樹脂材の接合方法は、少なくとも2つのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂材の重ね合わせ箇所の上に、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂シートを配してこれらを軟化させ、押し込みピンで繊維強化樹脂シートを最下層の繊維強化樹脂材まで押し込んで押し込みピンを取り外すことにより、押し込みピンの押し込みで凹溝が形成された繊維強化樹脂シートで2以上の繊維強化樹脂材同士を接合する方法である。
【0016】
「2以上の繊維強化樹脂材同士」ゆえに、接合される繊維強化樹脂材は、2つであっても3以上であってもよいし、それらの形状形態も、平面状のもの同士を接合する形態や、湾曲状の3次元形状のもの同士を接合する形態、2以上の平面が相互に傾斜した3次元形状のもの同士、もしくはこのような3次元形状のものと平面状のものを接合する形態などであってもよい。さらに、接合される繊維強化樹脂材の用途としては、車両のピラーやロッカー、床下フロアなどの車両の骨格構造部材、ドアアウターパネルやフードなどの意匠性が要求される非構造部材などを挙げることができる。
【0017】
この接合方法の第1のステップにおいてマトリックス樹脂を溶融させる形態としては、全ての部材を積層させた後に熱処理して溶融させる方法や、全ての部材を予めプレヒートしておき、これらを積層する方法、さらには、押し込みピンを熱処理しておいてこれによる押し込みの際に伝熱を利用してマトリックス樹脂を軟化させる方法などを挙げることができる。いずれの方法であっても、積層姿勢で隣接する繊維強化樹脂材が軟化状態から硬化することにより、双方の界面が接着されることによって接合される(界面接着)ことに加えて、押し込まれて変形しながら2以上の繊維強化樹脂材の間に押し込まれた繊維強化樹脂シートの特に繊維材が部材間を繋ぐことによっても接合が図られることから、極めて高い接合強度を期待することができる。
【0018】
また、押し込みピンは最終的には取り外されることから、セルフピアスリベットによる接合のように接合部の重量が嵩むといった問題も生じ得ない。さらには、リベット接合のように下穴を開設しておくといった前処理が一切不要であること、接着剤による接合のように接着剤の強度発現まで長時間を要するといった問題もないことから、効率的な接合方法で軽量かつ高強度な接合構造を形成することができる。
【0019】
ここで、繊維強化樹脂材や繊維強化樹脂シートは、長繊維や短繊維がマトリックス樹脂内にランダムに、もしくは所定の配向をもって埋設されたプリプレグシートやその積層体、長繊維よりも長い連続繊維がマトリックス樹脂内に一方向に配向された一方向材(UD材)からなるプリプレグシートやその積層体、連続繊維を含有する複数のプリプレグシートのそれぞれの連続繊維の配向が0度、90度、±45度等になるように積層してなる擬似等方材、連続繊維からなる経糸と緯糸からなる織物をマトリックス樹脂内に含有させてなるプリプレグシートやその積層体などを挙げることができる。また、プリプレグシートやその積層体のみならず、別途の成形型内で射出成形やRTM成形、SMC成形等されて製作された部材などであってもよい。
【0020】
繊維強化樹脂シートを構成する繊維材は、押し込みピンの径φと、押し込みピンが重ね合わせ箇所で埋め込まれる埋め込み長さLの2倍の長さ2Lの合計長さφ+2L以上の繊維長を有しているのが望ましい。
【0021】
押し込みピンが取り外されてできた接続部において、繊維強化樹脂シートは最上層の繊維強化樹脂材の上面にその一部がフランジのように張り付き、その内側で押し込みの際に凹溝状に変形された部分は最上層の繊維強化樹脂材から最下層の繊維強化樹脂材の途中位置まで延びている。そこで、この繊維強化樹脂シート内の繊維材がφ+2L以上の繊維長を有していることにより、最上層の繊維強化樹脂材から最下層の繊維強化樹脂材に至り、さらに最上層の繊維強化樹脂材まで連続した繊維材(断面的に見ると略Uの字状に連なった繊維材)にて接合部を補強することができるため、極めて高い接合強度を期待することができる。
【0022】
また、繊維強化樹脂材や繊維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ナイロン(PA:ナイロン6、ナイロン66など)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの結晶性プラスチック、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ABS樹脂、熱可塑性エポキシなどの非結晶性プラスチックなどを挙げることができる。なお、溶融した後に硬化して2以上の繊維強化樹脂材と繊維強化樹脂シートが接着された際の接着強度の観点で言えば、2以上の繊維強化樹脂材と繊維強化樹脂シートのすべてのマトリックス樹脂が同素材の熱可塑性樹脂からなるのが好ましい。
【0023】
さらに、マトリックス樹脂内に含有されている繊維材(短繊維、長繊維、連続繊維)としては、ボロンやアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニアなどのセラミック繊維や、ガラス繊維や炭素繊維といった無機繊維、銅や鋼、アルミニウム、ステンレス等の金属繊維、ポリアミドやポリエステルなどの有機繊維のいずれか一種もしくは2種以上の混合材を使用することができる。
【0024】
また、押し込みピンの断面形状も任意であり、円形、楕円形、正方形、長方形やそれ以外の多角形、十の字状などの断面形状を挙げることができる。
【0025】
この押し込みピンの押し込みは、作業員の人力による押し込みやロボットハンドによる押し込み、さらには、セルフピアスリベットを押し込む際の押し込み機などを適用できる。
【0026】
また、本発明は繊維強化樹脂材の接合構造にも及ぶものであり、この接合構造は、少なくとも2つの繊維強化樹脂材であって、ともにマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂材の少なくとも一部同士が重ね合わされてなる重ね合わせ箇所において、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂シートが該重ね合わせ箇所の上面から最下層の繊維強化樹脂材の途中位置まで押し込まれた姿勢で到達し、少なくとも2つの繊維強化樹脂材の重ね合わせ箇所を接合しているものである。
【0027】
この接合構造においても、接合される繊維強化樹脂材は、2つであっても3以上であってもよいし、それらの形状形態も、平面状のもの同士を接合する形態や、湾曲状の3次元形状のもの同士を接合する形態、2以上の平面が相互に傾斜した3次元形状のもの同士、もしくはこのような3次元形状のものと平面状のものを接合する形態などがある。
【0028】
そして、既述するように、少なくとも繊維強化樹脂シートを構成する繊維材は、押し込みピンの径φと、押し込みピンが重ね合わせ箇所で埋め込まれる埋め込み長さLの2倍の長さ2Lの合計長さφ+2L以上の繊維長を有しているのが望ましい。
【0029】
本発明の繊維強化樹脂材の接合構造は、セルフピアスリベット等が接合構造内に存在せず、軽量な繊維強化樹脂シートにて繊維強化樹脂材同士の接合構造が形成されていることから軽量な接合構造となり、これが車両の骨格構造部材同士の接合や骨格構造部材と非骨格構造部材の接合構造の場合には、車両の軽量化に繋がるものとなる。
【0030】
また、繊維強化樹脂シートを介して繊維強化樹脂材同士が接合されることに加えて、溶融状態の繊維強化樹脂材同士や繊維強化樹脂材と繊維強化樹脂シートが硬化することによる接合界面の接着により、極めて高い接合強度を有する接合構造となる。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から理解できるように、本発明の繊維強化樹脂材の接合方法と接合構造によれば、少なくとも2つのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂材の重ね合わせ箇所の上に、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂シートを配してこれらを軟化させ、押し込みピンで繊維強化樹脂シートを最下層の繊維強化樹脂材まで押し込んで押し込みピンを取り外す接合方法とこの方法によって形成される接合構造ゆえに、双方の界面が接着されることによって接合される(界面接着)ことに加えて、押し込まれて変形しながら2以上の繊維強化樹脂材の間に押し込まれた繊維強化樹脂シートの特に繊維材が部材間を繋ぐことによっても接合が図られることから、極めて高い接合強度を有する接合構造が得られる。また、この接合方法においては、押し込みピンは最終的に取り外されることから、セルフピアスリベットによる接合のように接合部の重量が嵩むといった問題も生じ得ないし、リベット接合のように下穴を開設しておくといった前処理も一切不要であり、接着剤による接合のように接着剤の強度発現まで長時間を要するといった問題もないことから、効率的な接合方法で軽量かつ高強度な接合構造を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の繊維強化樹脂材の接合方法の第1のステップを説明した模式図である。
【図2】(a)、(b)、(c)はともに図1のII−II矢視図であって、押し込みピンの断面形状の実施の形態を示す図である。
【図3】図1に続いて、本発明の接合方法の第2のステップを説明した模式図である。
【図4】図3に続いて第2のステップを説明した模式図であって、本発明の繊維強化樹脂材の接合構造を説明した図である。
【図5】接合強度、接合材料費、前処理の有無、接合所要時間および接合材料重量を比較する実験で使用した、実施例の試験体の構成要素の寸法を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は2つの平面状の繊維強化樹脂材同士を繋ぐ接合方法とこれによってできる接合構造を示すものであるが、3以上の繊維強化樹脂材が接合されるものであってもよいし、湾曲状や相互に傾斜した平面からなる3次元形状の繊維強化樹脂材同士を接合するものであってもよいことは勿論のことである。
【0034】
図1,3,4はこの順で、本発明の繊維強化樹脂材の接合方法を説明するフロー図となっており、かつ、図4は、この接合方法によって得られる本発明の繊維強化樹脂材の接合構造をも示す図である。具体的には、図1は本発明の繊維強化樹脂材の接合方法の第1のステップを説明した模式図であり、図3,4は順に本発明の接合方法の第2のステップを説明した模式図である。
【0035】
まず第1のステップとして、マトリックス樹脂1a,2aが熱可塑性樹脂からなり、その中に繊維材1b、2bがそれぞれ含有されてなる2つの繊維強化樹脂材1,2の一部同士を重ね合わせて重ね合わせ箇所を形成し、マトリックス樹脂3aが熱可塑性樹脂からなり、その中に繊維材3bが含有されてなる繊維強化樹脂シート3を該重ね合わせ箇所の上面に配し、重ね合わせ箇所のマトリックス樹脂を軟化させる。
【0036】
ここで、マトリックス樹脂1a,2a,3aの軟化は、各部材を重ね合わせた後に熱処理して軟化させてもよいし、予めプレヒートされて軟化している部材同士を重ね合わせてもよい。さらには、熱処理されて高温の押し込みピンPで繊維強化樹脂シート3を押し込む際に、押し込みピンPからの伝熱によって各マトリックス樹脂が軟化するものであってもよい。
【0037】
ここで、マトリックス樹脂1a,2a,3aを構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ナイロン(PA:ナイロン6、ナイロン66など)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの結晶性プラスチック、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ABS樹脂、熱可塑性エポキシなどの非結晶性プラスチックを使用できる。さらに、マトリックス樹脂1a,2a,3a内に含有されている繊維材1b、2b、3bとしては、ボロンやアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニアなどのセラミック繊維や、ガラス繊維や炭素繊維といった無機繊維、銅や鋼、アルミニウム、ステンレス等の金属繊維、ポリアミドやポリエステルなどの有機繊維のいずれか一種もしくは2種以上の混合材を使用することができる。
【0038】
また、繊維強化樹脂材1,2や繊維強化樹脂シート3は、長繊維や短繊維がマトリックス樹脂内にランダムに、もしくは所定の配向をもって埋設されたプリプレグシートやその積層体、長繊維よりも長い連続繊維がマトリックス樹脂内に一方向に配向された一方向材(UD材)からなるプリプレグシートやその積層体、連続繊維を含有する複数のプリプレグシートのそれぞれの連続繊維の配向が0度、90度、±45度等になるように積層してなる擬似等方材、連続繊維からなる経糸と緯糸からなる織物をマトリックス樹脂内に含有させてなるプリプレグシートやその積層体などを挙げることができる。また、プリプレグシートの積層体のみならず、別途の成形型内で射出成形やRTM成形、SMC成形等されて製作された部材などであってもよい。
【0039】
繊維強化樹脂材1,2と繊維強化樹脂シート3が重ね合わされた重ね合わせ箇所の上方には、押し込みピンPが位置決めされる。
【0040】
この押し込みピンPは、図2a,b,c,で示すような円形、楕円形、十の字状などの断面形状のもの、もしくは、正方形や長方形、これ以外の多角形(図示なし)の断面形状のものなどを適用できる。
【0041】
軟化状態の繊維強化樹脂材1,2および繊維強化樹脂シート3に対して、押し込みピンPを下方に押し込むことにより(図1のX方向)、図3で示すように、繊維強化樹脂シート3が押し込みピンPによる押し込みで変形してその中央は凹溝を形成し、その周辺部は繊維強化樹脂材1の表面にフランジのように張り付いた姿勢をなす。
【0042】
そして、押し込みピンPによる押し込みによって繊維強化樹脂シート3の下方は繊維強化樹脂材2の途中位置にまで至る。
【0043】
ここで、押し込みピンPを押し込む手段は、作業員の人力やロボットハンド、セルフピアスリベットを押し込む際の押し込み機などのいずれかを適用できる。
【0044】
繊維強化樹脂シート3を所望深度まで押し込んだら、図4で示すように押し込みピンPを取り外し、すべてのマトリックス樹脂1a,2a,3aが硬化することによって、繊維強化樹脂材の接合構造10が形成される(第2のステップ)。
【0045】
この接合構造10は、繊維強化樹脂材1,2の界面、およびこれらと繊維強化樹脂シート3の界面が軟化状態から硬化することによって界面接着されることに加えて、押し込まれて変形しながら2以上の繊維強化樹脂材1,2の間に押し込まれた繊維強化樹脂シート3が双方を繋ぐことによっても接合が図られることから、極めて高い接合強度を有するものとなる。
【0046】
特に、図示例の接合構造10では、繊維強化樹脂シート3を構成する繊維材3bが、押し込みピンPの径φと、押し込みピンPが重ね合わせ箇所で埋め込まれる埋め込み長さLの2倍の長さ2Lの合計長さφ+2L以上の繊維長を有しており、したがって、図4の断面視において、略Uの字状の繊維強化樹脂シート3の全長に亘って連続する複数の繊維材3bが繊維強化樹脂材1,2を繋いでおり、このことによっても高い接合強度が保証されている。
【0047】
また、図示する接合方法においては、押し込みピンPは最終的に取り外されることから、セルフピアスリベットによる接合のように接合部の重量が嵩むといった問題も生じ得ないし、リベット接合のように下穴を開設しておくといった前処理も一切不要であり、接着剤による接合のように接着剤の強度発現まで長時間を要するといった問題もないことから、効率的な接合方法で軽量かつ高強度な接合構造10を形成することができる。
【0048】
[接合強度、接合材料費、前処理の有無、接合所要時間および接合材料重量を比較する実験とその結果]
本発明者等は、本発明の繊維強化樹脂材の接合方法によってできた接合構造(実施例)と従来の接合方法でできた接合構造(比較例1,2,3,4)の各試験体を試作し、それぞれの接合強度、接合材料費、前処理の有無、接合所要時間および接合材料重量を比較する実験をおこなった。
【0049】
ここで、実施例の試験体は、図5で示すように、厚み3mmで長さ100mm、幅25mmの2枚の繊維強化樹脂材M1,M2であって、25mm長の炭素繊維がランダムに配向した状態でポリアミド6樹脂からなるマトリックス樹脂内に含有された繊維強化樹脂材M1,M2を10mm幅でラップさせ、この上に、炭素繊維の不織布にポリアミド6樹脂を複合化した直径φ20mmの平面視円形の繊維強化樹脂シートM3を配設し、230℃の高温雰囲気下で250℃以上に予熱しておいた押し込みピン(幅10mm、厚み1mmで下方から5mmの高さ位置にフランジ)で繊維強化樹脂シートM3を繊維強化樹脂材M2の途中まで押し込み、引抜いて試験体Mを製作した。
【0050】
一方、比較例1は、実施例と同様の繊維強化樹脂材を用い、サンディング、脱脂後にエポキシ接着剤で接合した。また、比較例2は、実施例と同様の繊維強化樹脂材を用い、振動溶着にて接合した。また、比較例3は、実施例と同様の繊維強化樹脂材を用い、下穴を加工した後にリベットにて接合した。さらに、比較例4は、実施例と同様の繊維強化樹脂材を用い、セルフピアスリベットにて双方を接合した。
【0051】
実施例および比較例1〜4それぞれの接合強度、接合材料費、前処理の有無、接合所要時間および接合材料重量を求め、実施例の値を1に正規化し、各比較例の値を実施例に対する比率で特定した。なお、接合強度に関しては、接合された2つの繊維強化樹脂材に引張力を付与し、その際の界面におけるせん断強度を測定してこれを接合強度とした。実験結果を以下の表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、接合強度(界面におけるせん断強度)に関しては、実施例は各比較例の1.2倍〜2倍もの高い強度を示すことが実証されている。
【0054】
また、材料費、材料重量に関しては振動溶着による比較例2には及ばないものの、前処理も必要なく、接合所要時間は最も短くなっており、接合強度に優れた接合構造を高い作業効率の下で形成できることが実証されている。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
1,2…繊維強化樹脂材、1a,2a…マトリックス樹脂、1b、2b…繊維材、3…繊維強化樹脂シート、3a…マトリックス樹脂、3b…繊維材、10…繊維強化樹脂材の接合構造、P…押し込みピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂材の少なくとも一部同士を重ね合わせて重ね合わせ箇所を形成し、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂シートを該重ね合わせ箇所の上面に配して、重ね合わせ箇所のマトリックス樹脂を軟化させる第1のステップ、
前記繊維強化樹脂シートの上方から押し込みピンを押し込み、該繊維強化樹脂シートの一部と押し込みピンの一部を最下層の繊維強化樹脂材の途中位置まで到達させ、押し込みピンを取り外し、すべてのマトリックス樹脂を硬化させて少なくとも2つの繊維強化樹脂材の重ね合わせ箇所を押し込まれて変形した繊維強化樹脂シートで接合する第2のステップからなる繊維強化樹脂材の接合方法。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂シート内の繊維材が、押し込みピンの径φと、押し込みピンが重ね合わせ箇所で埋め込まれる埋め込み長さLの2倍の長さ2Lの合計長さφ+2L以上の繊維長を有している請求項1に記載の繊維強化樹脂材の接合方法。
【請求項3】
少なくとも2つのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂材の少なくとも一部同士が重ね合わされてなる重ね合わせ箇所において、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂シートが該重ね合わせ箇所の上面から最下層の繊維強化樹脂材の途中位置まで押し込まれた姿勢で到達し、少なくとも2つの繊維強化樹脂材の重ね合わせ箇所を接合している繊維強化樹脂材の接合構造。
【請求項4】
前記繊維強化樹脂シート内の繊維材が、押し込みピンの径φと、押し込みピンが重ね合わせ箇所で埋め込まれる埋め込み長さLの2倍の長さ2Lの合計長さφ+2L以上の繊維長を有している請求項3に記載の繊維強化樹脂材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−232453(P2012−232453A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101556(P2011−101556)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】