説明

繊維強化複合材料の製造方法および繊維強化複合材料、一体化構造部材の製造方法および一体化構造部材

【課題】別の部材と容易にかつ強固に接着させることのできる、強化繊維基材に未硬化マトリックス樹脂を含浸、硬化する繊維強化複合材料の製造方法、繊維強化複合材料、およびそれを用いた一体化構造部材を提供すること。
【解決手段】バインダー組成物を含み、シート状またはテープ状の形態を有する強化繊維基材と、該強化繊維基材の表面の少なくとも一部分に、熱可塑性樹脂を主成分とし前記バインダー組成物の融点よりも10℃以上低い融点を有する熱可塑性樹脂シートを積層する積層工程、前記熱可塑性樹脂シートを溶融させて、前記強化繊維基材の表面に熱可塑性樹脂の被膜を形成するとともに、その表面に、前記熱可塑性樹脂の被膜が形成された強化繊維基材を所定の形状に賦形する加熱プレス工程、前記熱可塑性樹脂の被膜が形成された強化繊維基材に熱硬化性樹脂を注入し、硬化反応させる硬化工程を含む繊維強化複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー組成物を含む強化繊維基材に未硬化マトリックス樹脂を含浸、硬化させてなる繊維強化複合材料の製造方法に関するものである。さらに本発明は、バインダー組成物を含み表面に熱可塑性樹脂の被膜が形成された繊維強化複合材料、ならびに、その繊維強化複合材料と別の部材とを接合させる一体化構造部材の製造方法および一体化構造部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、成形性、薄肉、軽量、高剛性、生産性、経済性に優れ、電気・電子機器部品、自動車機器部品、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品のカバーや骨格、駆動部に使用されている。
【0003】
従来より薄肉、軽量、高剛性に優れた素材として、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料がある。繊維強化複合材料の代表的な製造方法として、連続した強化繊維に未硬化の樹脂を含浸させた繊維強化プリプレグを積層配置して硬化させる方法があるが、複雑形状の成形品を量産性よく容易に生産するのには不向きであった。
【0004】
また、繊維強化複合材料の別の製造方法として、強化繊維基材を金型に賦形して未硬化の樹脂を注入し、当該強化繊維基材に樹脂を含浸させた後に硬化させる、いわゆるレジントランスファーモールディング(RTM)成形法が適用できる。この成形方法は、樹脂が未含浸の基材を賦形するため、比較的複雑な形状の成形品を作製することが可能である。しかし射出成形品や金属成形品などにより得られる複雑形状成形品と比較すると、複雑形状の成形品を作製することは困難である。
【0005】
そこで、これらの各種独自の長所をもつ繊維強化プラスチック板や金属板などの複合材料を、他の成形品等と一体的に接合させる技術が求められている。
【0006】
特許文献1には、別の部材と容易にかつ強固に接着させることのできる、RTM成形法を用いた繊維強化複合材料の製造方法、およびその製造方法に用いられる基材に関する技術が開示されている。すなわち、特許文献1は、連続強化繊維からなる基材の表面の少なくとも一部分に、熱可塑性樹脂が配置されている連続強化繊維基材であって、当該連続強化繊維基材から得られる成形品の表面に、熱可塑性樹脂の層を形成させるための複合材料表層用連続強化繊維基材に関するものである。また、本基材を成形品として、別の部材と接合する方法の具体例として、当該成形品を必要に応じ所定のサイズに後処理し、次いで当該成形品を射出成形金型にインサートし、その後、別の部材を当該成形品の熱可塑性シートの部分に配置し、前記金型に射出成形する手法がある。さらに、他の具体例として、繊維強化複合材料と別の部材をそれぞれ別に成型しておき、熱可塑性シートの部分に別の部材を熱溶着、振動溶着、超音波用着などで一体化させる方法がある。いずれにしても、熱可塑性シートを加熱して、溶着する手法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、RTM成形法をより量産性を高めるために強化繊維との密着性が優れ、保存安定性の良い、プリフォーム作製用のバインダー組成物、およびこのバインダー組成物を用いたプリフォームを提供することが開示されている。
【0008】
そこで、より量産性が高く、なおかつ別部材との強固な接着力を得るために、プリフォーム作製用バインダー組成物と、熱可塑性シートの両方を利用した繊維強化複合材料、および成型方法が用いられる傾向にあった。しかし、この方法では、繊維強化複合材料と別部材を接合する際の加熱によって、成形品表面のプリフォーム作製用バインダー組成物が溶出したり、成形品内部で当該バインダー組成物が溶けたりすることから、残量応力の解放やヒケひいてはガスが発生しボイドとなり、局部的な機械的強度劣化を引き起こすなどの問題がある。
【特許文献1】特開2006−44261号報
【特許文献2】特開2005―194456号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、別の部材と容易にかつ強固に接着させることのできる、RTM成形等に代表される、強化繊維基材に未硬化マトリックス樹脂を含浸、硬化する繊維強化複合材料の製造方法、繊維強化複合材料、および、それを用いた一体化構造部材の製造方法、一体化構造部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、少なくとも、(A)バインダー組成物を含み、シート状またはテープ状の形態を有する強化繊維基材と、該強化繊維基材の表面の少なくとも一部分に、熱可塑性樹脂を主成分とし前記バインダー組成物の融点よりも10℃以上低い融点を有する熱可塑性樹脂シートを積層する積層工程、(B)前記熱可塑性樹脂シートを溶融させて、前記強化繊維基材の表面に熱可塑性樹脂の被膜を形成するとともに、その表面に、前記熱可塑性樹脂の被膜が形成された強化繊維基材を所定の形状に賦形する加熱プレス工程、(C)前記熱可塑性樹脂の被膜が形成された強化繊維基材に熱硬化性樹脂を注入し、硬化反応させる硬化工程、を有してなる繊維強化複合材料の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、バインダー組成物を含み、シート状またはテープ状の形態を有する強化繊維基材と、熱硬化性樹脂を有してなる、所定の形状に成形された繊維強化複合材料であって、その表面に、熱可塑性樹脂を主成分とし前記バインダー組成物の融点よりも10℃以上低い融点を有する熱可塑性樹脂の被膜が形成されている繊維強化複合材料である。
【0012】
そして、かかる繊維強化複合材料に形成した熱可塑性樹脂の被膜部分に、望ましくは繊維強化複合材料、より望ましくは、表面に熱可塑性樹脂の被膜が形成された繊維強化複合材料からなる他の部材を、前記バインダー組成物の融点より低い温度で加熱、溶着する接合工程(工程(D))を有してなる一体化構造部材の製造方法とすることが好ましい。
【0013】
さらに、かかる繊維強化複合材料に形成されている熱可塑性樹脂の被膜部分が、他の繊維強化複合材料と接合されている一体化構造部材、当該他の繊維強化複合材料の表面には熱可塑性樹脂の被膜が形成されており、繊維強化複合材料同士が、それぞれの熱可塑性樹脂の被膜の面で接合されている一体化構造部材とすることが好ましい。
【0014】
なお、バインダー組成物としては、ポリビニルホルマールを主成分とした(すなわち、ポリビニルホルマールを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む)熱可塑性樹脂を含む組成物を、熱可塑性樹脂の被膜には、3元共重合ポリアミド樹脂を主成分とした(すなわち、3元共重合ポリアミド樹脂を好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む)樹脂組成物が用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、例えば、RTM成形等に代表される成形方法により、バインダー組成物を含み、表面の少なくとも一部分に、熱可塑性樹脂を主成分とし前記バインダー組成物の融点よりも10℃以上低い融点を有する熱可塑性樹脂シートを積層した強化繊維基材に、未硬化マトリックス樹脂を含浸、硬化した得られた繊維強化複合材料を用いて、別の部材と接合させた一体化構造部材を得る際に、接着強度の高い一体化構造部材を容易に得ることができるとともに、他の部材と接合時の加熱により、当該繊維強化複合材料をからなる成形品の内部のバインダー組成物が溶融、流出することがなく、ガス化による局部的な機械的特性の劣化、あるいは品位の劣化(見た目の悪化)が抑制された繊維強化複合材料からなる成形品、一体化構造部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の繊維強化複合材料について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0017】
図1〜図6は、本発明の一実施態様に係る繊維強化複合材料の成形方法、一体化構造部材の製造方法を示している。図3には、バインダー組成物8を含有し、シート状またはテープ状の形態を有する強化繊維基材10と、熱可塑性樹脂シート3を、強化繊維基材2が3層、熱可塑性シート3が1層となるように積層された図を示している。
【0018】
この強化繊維基材10には、図2に示すように、熱可塑性樹脂を含むバインダー組成物8が散布されている。ここで、バインダー組成物8は熱可塑性樹脂を含んでいることが好ましい。当該熱可塑性樹脂は、バインダー組成物8中に好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%含んでいると良い。なお、バインダー組成物8に含まれる熱可塑性樹脂以外の樹脂には、エポキシ樹脂に代表されるような熱硬化性樹脂が用いられる。
【0019】
図2では、強化繊維基材2の表側のみにバインダー8を散布している様子を示しているが、強化繊維基材2の両面にバインダー組成物8を散布しても良い。なお、図4では、バインダー組成物8を散布した強化繊維基材10の面とは別の面に、他の強化繊維基材2を積層している。
【0020】
バインダー組成物8に含まれる熱可塑性樹脂は、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂が好ましく用いられるが、このなかでも、強化繊維基材との接着性という観点から、ポリビニルホルマールを主成分とした熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。なお、ポリビニルホルマールを主成分とした熱可塑性樹脂とは、その全てがポリビニルホルマールで構成されていても良いが、ポリビニルホルマールを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む熱可塑性樹脂組成物であっても良いことを意味する。
【0021】
強化繊維基材2の形態としては、繊維束から構成された織物、多数本の強化繊維が一方向に配列された強化繊維束(一方向性繊維束)、この一方向性繊維束から構成された一方向性織物など、それらを組み合わせたもの、複数層配置したものなどが挙げられる。なかでも基材の生産性の観点から、織物、一方向性繊維束が好ましい。強化繊維基材2は、同一の形態の複数本の繊維束から構成されていても、あるいは、異なる形態の複数本の繊維束から構成されていても良い。一つの強化繊維束を構成する強化繊維数は、通常、300〜48,000本である。使用される強化繊維基材2の繊維素材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維がある。これらは、単独または2種以上併用して用いられる。なかでも、炭素繊維は、これらの繊維の中でもより高強度、高弾性率であることから、優れた機械的特性の繊維強化複合材料が得られることから、より好ましい。
【0022】
また、図3に示すとおり、強化繊維基材2の表面の少なくとも一部分に積層される熱可塑性樹脂シート3を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド樹脂などが好ましく、別部材16との接着強度を高める観点から、溶解度パラメータδ(SP値)が8〜16であることが好ましく、より好ましくは9〜16、さらに好ましくは10〜15、とりわけ好ましくは11〜14である。また、好ましい熱可塑性樹脂シート3を構成する熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂として、3元共重合ポリアミド樹脂を主成分とした樹脂組成物を用いることがより好ましく、かかる3元共重合ポリアミド樹脂のなかでも、より別部材16との接着強度を高めるという観点から、ポリアミド6/66/610樹脂を用いることが特に好ましい。なお、3元共重合ポリアミド樹脂を主成分とした樹脂組成物とは、その全てが3元共重合ポリアミド樹脂で構成されていても良いが、3元共重合ポリアミド樹脂を好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む樹脂組成物であっても良いことを意味する。
【0023】
前記熱可塑性樹脂シート3の形態としては、不織布、織物、粒子、フィルム、これらの少なくとも2種類以上を組み合わせた形態であることが好ましい。上記形態とすることにより、強化繊維基材に熱可塑性樹脂が十分に含浸し、かつ繊維強化複合材料の表面を適切に覆うことができ、別の部材との強固な接着力を発現することができる。
【0024】
次に、本発明の繊維強化複合材料の製造方法について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0025】
図1の1は賦形金型を示しており、上型1aと下型1bとの型締めにより、強化繊維基材10(バインダー組成物8を含有する強化繊維基材2)を3層と熱可塑性樹脂シート3を1層の積層構成の基材群を加圧して所定の厚み、形状にすると同時に、強化繊維基材10(賦形金型1)を加熱し、バインダー組成物8および熱可塑性樹脂シート3を軟化(溶融)させて、強化繊維基材2に密着、粘着させる。このとき、熱可塑性樹脂シート3は軟化(溶融)されることによって、強化繊維基材2の表面に被膜が形成された構成となる。なお、ここでいう熱可塑性樹脂の被膜とは、強化繊維基材2の表面の全面が熱可塑性樹脂で覆われている必要はなく、その後、別の部材と接合させることにより一体化構造部材を得ることができる範囲内で、熱可塑性樹脂で覆われていない箇所があっても差し支えはない。
【0026】
図3は、図1の拡大(1)5部分の拡大模式図を示す。その後、賦形金型1a1bを冷却し、バインダー組成物8および熱可塑性樹脂シート3は、粘着力を維持しつつ硬化して、賦形金型1から脱型後も積層体も簡単にばらばらにならない程度に一体化したプリフォーム4を形成する。
【0027】
図5は、本発明に好ましく用いられる、RTM成形金型の模式図を示している。金型は、上型11aと下型11bとの型締めにより、内部に所望の凹凸形状のキャビティー12が形成できる。キャビティー12に前述のプリフォーム4を載置し、型締め後、熱硬化性樹脂を注入口より注入し、排出口から樹脂が出て来たことを確認することにより、キャビティー内に樹脂が充満したこととして樹脂注入を停止し、その後所定の温度で硬化反応させる。
【0028】
本発明に係る製造方法は、熱可塑性樹脂シート3を、バインダー組成物8を事前に散布、付着させた強化繊維基材2の積層品の表面の少なくとも一部分に積層する積層工程があり、次いで、バインダー組成物8と熱可塑性樹脂シート3を軟化させ、積層した強化繊維基材10同士を密着させるとともに、強化繊維基材2に熱可塑性樹脂の被膜を形成させる加熱工程(図1bと図4)を有し、次いで、熱可塑性樹脂の被膜を形成した強化繊維基材2に、熱硬化性樹脂を注入・硬化する工程(図5)を有することが重要である。予熱工程(図1bと図4)にてバインダー組成物8が積層したそれぞれの強化繊維基材2を接合しまた、強化繊維基材2に熱可塑性シート3が含浸、かつ表面に被膜を形成するため、次いで熱硬化性樹脂を注入・硬化させることで別の部材と強固に接着可能な繊維強化複合材料が作製できる。なお、加熱工程において、熱可塑性樹脂の被膜を形成させるとともに、賦形金型1a1bにより、強化繊維基材2を所定の形状に賦形する(加熱工程と当該賦形の工程を併せて、加熱プレス工程と称する)ことにより、繊維強化複合材料が所定の形状に成形される。
【0029】
また、加熱工程(図4)では、熱可塑性樹脂シート3由来の熱可塑性樹脂を強化繊維基材2に効率よく含浸させるために、圧力を0.01〜10MPa付与した状態で行うのが好ましい。より好ましくは0.03〜5MPaである。圧力は金型を一時的に締めるなどの工程で付与することができる。強化繊維基材2を加熱し、バインダー組成物と8熱可塑性樹脂シート3を軟化させ、上記範囲の圧力を付与することで、強化繊維基材2に熱可塑性樹脂が含浸しやすく、かつ強化繊維基材2の表面に、効果的に熱可塑性樹脂の被膜を形成することができる。表面に熱可塑性樹脂の被膜が形成されるためには、強化繊維基材2の基材厚みとキャビティーの基材厚み、また熱可塑性シートの基材厚みなどを、強化繊維基材2への熱可塑性樹脂の含浸と、強化繊維基材2の表面への被膜が両立するように調整する必要がある。
【0030】
なお、熱可塑性樹脂シート3(強化繊維基材2の表面に被膜が形成された後は、当該被膜)の融点は、用いられるバインダー組成物8の融点より10℃以上低いことを必要とし、好ましくは20℃以上低いことである。それぞれの融点をかかる範囲とすることにより、接着強度の高い一体化構造部材を容易に得ることができるとともに、他の部材と接合時の加熱温度をバインダー組成物の融点より低く設定することにより、当該繊維強化複合材料をからなる成形品の内部のバインダー組成物が溶融、流出することがなく、ガス化による局部的な機械的特性の劣化、あるいは品位の劣化が抑制された繊維強化複合材料からなる成形品が得られるためである。なお、作業性や工程安定性のという観点からは、熱可塑性樹脂シート3(強化繊維基材2の表面に被膜が形成された後は、当該被膜)の融点が、用いられるバインダー組成物8の融点より30℃以下低いことが好ましい。
【0031】
このようにして得られた繊維強化複合材料は、表面に熱可塑性樹脂の被膜部分が形成されているので、図6に示すような他の部材(別部材)16と接合することにより、容易に一体化構造部材を得ることができる。特に、別部材16として繊維強化複合材料を用いると、本発明に係る繊維強化複合材料15の熱可塑性樹脂の被膜部分を、別部材16と接合させることで、接着強度の高い一体化構造部材となるので好ましい。さらに、別部材16である繊維強化複合材料の表面にも熱可塑性樹脂の被膜が形成されている場合、それぞれの熱可塑性樹脂の被膜の面で接合することにより、さらに接着強度の高い一体化構造部材となり、より好ましい。
【実施例】
【0032】
実施例で用いた特性の評価は、以下の通りである。
【0033】
[垂直接着強度]
一体化構造部材から、繊維強化複合材料と別の部材が接合している部分より、垂直接着強度評価サンプルを10mm×10mm(サンプル全面が接合部)の大きさで切り出した。
【0034】
次いでサンプルを測定装置の治具に固定した。測定装置としては“インストロン”(登録商標)5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。尚、サンプルの固定は、サンプルがインストロンのチャックに把持できるものはそのままチャックに挟み引張試験を行うが、把持できないものはサンプルに接着剤(スリーボンド1782、株式会社スリーボンド製)を塗布し、23±5℃、50±5%RHで4時間放置して治具と接着させてもよい。
【0035】
引張試験は、雰囲気温度が調節可能な試験室において、25℃の雰囲気温度で行った。
【0036】
試験開始前に、サンプルは、試験室内において、少なくとも5分間、引張試験の負荷がかからない状態を維持し、また、サンプルに熱電対を配置して、雰囲気温度と同等になったことを確認した後に、引張試験を行った。
【0037】
引張試験は、引張速度1.27mm/分にて、両者の接着面から90°方向に引っ張って行い、その最大荷重を接着面積で除した値を垂直接着強度(単位:MPa)とした。また、試料数はn=5とした。
【0038】
(実施例1)
[板状一体化構造部材]
(繊維強化複合材料)
東レ(株)製“トレカ織物”CO6343(目付(W)200g/m、繊維強化基材の厚み(t)0.29mm)を所定の大きさにカットした強化繊維基材に、ポリビニルホルマールを主成分とした融点が200℃以上の粉末を約20g/m均一に散布し、散布した繊維強化基材を金型内に6枚積層し、最表面に熱可塑性樹脂シートとして東レ(株)製、3元共重合ポリアミド樹脂CM4000(ナイロン6/66/610、融点150℃、溶解度パラメータδ(SP値)13.3)のフィルム(目付60g/m)を、成形体と同様の大きさにカットしたものを重ねて積層し、型締めを行った。次に、金型温度を155℃に加温して5分間保持した後、80℃以下に冷却し、強化繊維基材の積層体を金型から脱型する。脱型された強化繊維積層体は、ポリビニルホルマールを主成分とした粉末(ポリビニルホルマール“ビニレック”Kタイプ(窒素(株)製)60質量部、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂“エピコート828”(ジャパンエポキシレジン(株)製)10質量部、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂“エピコート1001” (ジャパンエポキシレジン(株)製)30質量部)の粘着力により金型形状に保持されており、本形態をプリフォームと呼ぶ。
【0039】
次に、あらかじめ所定の形状に賦形されたプリフォームを、成形型に配置し、予め60℃に加温したマトリックス樹脂(エポキシ樹脂 “エピコート”828(ジャパンエポキシレジン(株)製)90質量部、“ERISYS”GE−20(CVC社製)10質量部、“アンカミン”2049(PTIジャパン社製)32質量部)を、樹脂注入装置を用い、注入圧0.2MPaで金型内に注入し、強化繊維基材に含浸させた。成形品厚みは、強化繊維の体積含有量が60%となるよう1.1mmに調節した。含浸後、155℃の温度で2時間保持した後、30℃の温度まで降温し、脱型して繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料は厚さ1.1mm。
【0040】
(別部材)
上記繊維強化複合材料と同じ繊維強化複合材料を別部材として使用した。
【0041】
(一体化)
上記繊維強化複合材料および別部材を、熱板にて160℃で3分間加熱後、熱可塑性樹脂シート由来の被膜を有する面同士を接合面として張り合わせ、20MPaの圧力にて2分間保持して一体化し、板状の一体化構造部材とした。得られた一体化構造部材の垂直接着強度の評価を試みたところ、6MPaにおいて、接合部分が剥離するよりも前に試料と治具との接着剤による固定部分が剥離したことから、6MPa以上であると評価された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の強化繊維複合材料を作製する賦形金型の一実施態様図示である。
【図2】本発明の強化繊維基材にバインダー組成物を散布した模式図である。
【図3】本発明の強化繊維基材の積層状態の断面模式図である。
【図4】本発明の強化繊維機材と熱可塑性シートを加圧した状態の模式図である。
【図5】本発明のRTM成型金型の模式図である。
【図6】本発明の繊維強化複合材料と別部材を接合した状態の模式図である。
【符号の説明】
【0043】
1a:上型
1b:下型
2:強化繊維基材
3:熱可塑性樹脂シート
4:プリフォーム
5:拡大(1)
6:拡大(2)
7:拡大(3)
8:バインダー組成物
10:強化繊維基材(バインダー組成物付)
11a:上型
11b:下型
12:キャビティー
13:樹脂注入機
14:廃棄樹脂タンク
15:繊維強化成形品
16:別部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(A)〜(C)の工程を有してなる繊維強化複合材料の製造方法。
(A)バインダー組成物を含み、シート状またはテープ状の形態を有する強化繊維基材と、該強化繊維基材の表面の少なくとも一部分に、熱可塑性樹脂を主成分とし前記バインダー組成物の融点よりも10℃以上低い融点を有する熱可塑性樹脂シートを積層する積層工程
(B)前記熱可塑性樹脂シートを溶融させて、前記強化繊維基材の表面に熱可塑性樹脂の被膜を形成するとともに、その表面に、前記熱可塑性樹脂の被膜が形成された強化繊維基材を所定の形状に賦形する加熱プレス工程
(C)前記熱可塑性樹脂の被膜が形成された強化繊維基材に熱硬化性樹脂を注入し、硬化反応させる硬化工程
【請求項2】
バインダー組成物を含み、シート状またはテープ状の形態を有する強化繊維基材と、熱硬化性樹脂を有してなる、所定の形状に成形された繊維強化複合材料であって、その表面に、熱可塑性樹脂を主成分とし前記バインダー組成物の融点よりも10℃以上低い融点を有する熱可塑性樹脂の被膜が形成されている繊維強化複合材料。
【請求項3】
前記バインダー組成物として、ポリビニルホルマールを主成分とした熱可塑性樹脂を含む組成物が用いられており、前記熱可塑性樹脂の被膜には、3元共重合ポリアミド樹脂を主成分とした樹脂組成物が用いられている、請求項2に記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
請求項1に記載の(A)〜(C)の工程を経て得た繊維強化複合材料に形成された熱可塑性樹脂の被膜部分に、さらに、(D)他の部材を、前記バインダー組成物の融点より低い温度で加熱、溶着する接合工程、を有してなる一体化構造部材の製造方法。
【請求項5】
他の部材として繊維強化複合材料が用いられる、請求項4に記載の一体化構造部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法で製造された繊維強化複合材料、または、請求項2または3に記載の繊維強化複合材料に形成されている熱可塑性樹脂の被膜部分が、他の繊維強化複合材料と接合されている一体化構造部材。
【請求項7】
前記他の繊維強化複合材料の表面には熱可塑性樹脂の被膜が形成されており、繊維強化複合材料同士が、それぞれの熱可塑性樹脂の被膜の面で接合されている、請求項6に記載の一体化構造部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−214371(P2009−214371A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59112(P2008−59112)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】