説明

繊維成形体の製造方法及び装置、繊維成形中間体並びに繊維成形体

【課題】二つの面部の交点に形成される角部の頂点が尖鋭な繊維成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の繊維成形体の製造方法は、繊維材料を含むスラリーから湿潤状態の繊維積層体10を抄造した後、繊維積層体10をプレス成形し、二つの面部111、112の交点に形成された角部113を有する繊維成形体を製造する。角部113の近傍に肉厚部104を設け、プレス成形で角部113を成形する。プレス成形に用いる成形型は加熱することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維成形体の製造方法、それに用いる抄造型を含む製造装置、繊維成形中間体並びに抄造成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維成形体の製造方法として、繊維材料を含む繊維積層体を抄造し、該繊維積層体を型内に配してプレス成形を行い、繊維成形体を製造する方法が知られている。かかる製造方法では、繊維材料を含むスラリーから湿潤状態の繊維積層体を得て、その繊維積層体を所望の温度に加熱された乾燥型内に配して乾燥させると共にプレスする、という工程が広く採用されている。
【0003】
ところで、複数の繊維成形体を合体させてキャビティを形成し、そのキャビティにたとえば溶融金属(以下、溶湯という)を供給して鋳物を製造する際に、合体に係わる合せ面の角部(個々の繊維成形体の角部)113の頂点が丸みを帯びている場合には、その丸み部分にくさび型の空隙ができ(図23参照)、該間隙に溶湯が入りこみ、それがいわゆるバリとなり、そのバリを除去する作業が必要となり、バリが大きい場合には不良鋳物となる。更に、該空隙に入り込んだ溶湯によって合せ面が押し開かれて不良鋳物となることもある。そこで、合せ面が有する角部(個々の繊維成形体の角部)の頂点は、尖鋭にすることが望ましい。なお、尖鋭にすること、というのは、角部の曲率半径の値を極力小さくすること、と同義である。例えば、上記のバリ除去作業を必要としない為には、曲率半径を1mm以下にすることが好ましく、0.5mm以下にすることがより好ましい。
【0004】
繊維成形体の製造方法における成形性を向上させる技術として、繊維材料を含むスラリーから立体形状の繊維積層体を抄造し、それらの表面に水分を付与した後に乾燥型で乾燥成形する技術が提案されている(下記特許文献1参照)。しかしながら、この技術では、角部の頂点を尖鋭にすることは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−47999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、角部を有する繊維成形体の該角部の頂点を尖鋭にすることができる繊維成形体の製造方法及びそれに用いる抄造型を含む製造装置、繊維成形中間体並びに繊維成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、繊維材料を含む繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体をプレス成形して、他の繊維成形体との合せ面に角部を有する繊維成形体を製造する方法であって、前記繊維積層体における前記角部又はその近傍に肉厚部を設け、該肉厚部をプレスする繊維成形体の製造方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の繊維成形体の製造方法に用いる抄造型であって、繊維積層体の二つの面の交わり部に前記肉厚部を形成するための抄造型を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記本発明の繊維成形体の製造方法に用いる抄造型であって、繊維積層体が抄造される抄造部に前記肉厚部を形成するために、基面部が突き合せ部より低い位置に設けられて凹部が形成されている抄造型を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記本発明の繊維成形体の製造方法に用いる抄造型であって、繊維積層体が抄造される抄造部に前記肉厚部を抄造するための溝が設けられている抄造型を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記繊維積層体の抄造型と、前記抄造型から前記繊維積層体を受け取る受型とを備え、前記抄造型又は前記受型に前記張出部分の基部を屈曲させて前記肉厚部を形成する肉厚部形成手段を具備している繊維成形体の製造装置を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、他の部材との合せ面に連なる角部を有する繊維成形体の製造方法に用いるための繊維成形中間体であって、繊維材料を含むスラリーから抄造された湿潤状態の繊維積層体からなり、前記角部に対応する前記繊維積層体の角部又はその近傍に、前記繊維積層体が部分的に屈曲された肉厚部が設けられている繊維成形中間体を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、繊維材料を含む繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体をプレス成形して得られる繊維成形体であって、該繊維成形体の二つの面の交わり部分に形成される角部の頂点が尖鋭である繊維成形体を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、複数の繊維成形体を合体させてキャビティを形成する繊維成形体であって、合せ面が有する角部の頂点が尖鋭である繊維成形体を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の繊維成形体の製造方法及び繊維成形中間体によれば、合せ面が有する角部の頂点が尖鋭となった繊維成形体を製造することができる。また、本発明の抄造型及び製造装置によれば、上記本発明の製造方法を好適に実施することができる。また、本発明の繊維成形体は、該繊維成形体の二つの面の交わり部分に形成される角部の頂点が尖鋭である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1〜図3は、本発明の繊維成形体の製造方法を実施するための製造装置の第1実施形態を模式的に示したものである。これらの図において、符号1は製造装置を示している。
【0018】
図1に示すように、製造装置1は、本発明の繊維成形体の一実施形態であるフランジ部111を有する半筒状の繊維成形体11からなる鋳型(図12参照)を製造するものであり、原料スラリーを供給する原料供給手段2と、原料供給手段2から供給される原料スラリーから湿潤状態の繊維積層体(繊維成形中間体)を抄造する抄造手段3と、抄造された繊維積層体を乾燥成形する乾燥成形手段4とを備えている。なお、二つの半筒状の繊維成形体11が合体されて鋳型のキャビティが形成される。
【0019】
原料供給手段2は、注入枠20と、この注入枠20を上下動させる上下動機構21と、注入枠20内に原料スラリーを供給するスラリー供給管22とを備えている。スラリー供給管22にはバルブ23が配設されている。
【0020】
抄造手段3は、いわゆる雄型の形態を有する抄造型30を備えている。抄造型30は、抄造する繊維積層体の形状に対応した抄造部300を有している。抄造部300には、その表面において開口する気液流通路301(図2参照)が内部に設けられており、この気液流通路301には吸引ポンプ302に通じる排出管303接続されている。排出管303にはバルブ304が配設されている。抄造部300の表面には抄造ネット305が配されている。
【0021】
図2に示すように、抄造型30は、抄造部300の繊維積層体10のフランジ部101(張出部、図10参照)の上面部に対応する基面部306が突き合わせ面309から低い位置に設けられて凹部310が形成されている。この凹部310の深さは、抄造型30と後述する雌型(受型)40を組み合わせて繊維積層体10を脱型するときに、そのフランジ部101の基部が屈曲されて肉厚部104(図10参照)が形成される深さに設定されている。この凹部310の深さ(突き合わせ面309からの深さ)は、1〜20mmが適当であり、さらに3〜8mmが望ましい。
【0022】
図1〜図3に示すように、乾燥成形手段4は、雌型(受型)40及び雄型41を備えている。雌型40と雄型41とが互いに突き合わせられたとき、これらの型間には、成形する繊維成形体の外形形状に対応した空隙(クリアランス)が形成される。本実施形態では、雌型40と雄型41とを突き合わせたときに繊維成形体11のフランジ部101が雌型40側に略面一に収まるよう空隙が形成される。
【0023】
雌型40は、得られる繊維成形体11の外形形状に対応した凹状の成形部400を有している。雌型40は前記成形部400を加熱するヒーター(加熱手段)401を備えている。雌型40は上下動手段402によって上下動する。雌型40には、成形部400において開口する気液流通路(図示せず)が内部に設けられている。この気液流通路には、吸引ポンプ及びコンプレッサ(ともに図示せず)に通じる流通管403が接続されている。流通管403にはバルブ404が配設されている。成形部400は、雌型40の突き合わせ面405からくぼんで繊維成形体11のフランジ部111が収まる段部406を有しており、この段部406によって後述する空間形成部の一部が形成される。雌型40にはこの段部406において開口し、流通管403に連通する気液流通路407(図6参照)が設けられている。
【0024】
雄型41は、得られる繊維成形体11の内面形状に対応した凸状の成形部410を有している。成形部410の表面は、フッ素樹脂により表面がコーティングされている。雄型41の成形部410には、その表面において開口する気液流通路411(図3参照)が内部に設けられており、この気液流通路411には吸引ポンプ412に通じる排出管413が接続されている。排出管413にはバルブ414が配設されている。なお、繊維成形中間体表面には該気液流通路411の穴に当たる部分に凹部が形成される場合があり、鋳物表面に凹部が残る場合がある。鋳物製品の適用分野によっては、工作機械による鋳物製品の表面仕上げをする必要がある場合がある。そのような場合には気液流通路411は無くてもよい。また、図には示していないが、成形部410の内部には、成形部410を加熱するヒーター等(加熱手段)が配されている。
【0025】
製造装置1は、図6に示したように、抄造型30及び雌型40に、繊維積層体10のフランジ部101の基部を屈曲させて肉厚部104(図10参照)を形成する肉厚部形成手段6を具備している。肉厚部形成手段6は、抄造型30と雌型40とを組み合わせたときに、繊維積層体10のフランジ部101の外縁部を抄造型30から離間させる離間手段60、及び抄造型30と雌型40との間に配されて前記基部の屈曲空間を形成する空間形成部61からなる。
【0026】
本実施形態では、離間手段60は、前述の段部406において開口する前記気液流通路407、それに連なる流通管403及び前記吸引ポンプによって構成されている。また、空間形成部61は、抄造型30の凹部310及び雌型40の段部406によって構成されている。また、気液流通路407は、段部において繊維積層体10のフランジ部の外縁部に吸引力が強く働くように、他の部分よりも密に配管されていてもよい。
【0027】
製造装置1は、前記抄造型30及び雄型41をガイド50に沿って所定位置に移動させる移動手段(図示せず)を備えている。また、製造装置1は、上記各手段と接続されてこれら各手段を後述するような手順に従って作動させるシーケンサーを備えた制御手段(図示せず)を備えている。
【0028】
次に、本発明の繊維成形体の製造方法を、その好ましい実施形態として、上記製造装置1を用いた鋳型用の繊維成形体の製造方法に基づいて、図4〜図12を参照しながら説明する。なお、これらの図中、符号10は繊維積層体、11は繊維成形体を示している。
【0029】
本実施形態の繊維成形体の製造方法は、繊維材料を含む原料スラリーから湿潤状態の繊維積層体10(図10参照)を抄造した後、繊維積層体10を抄造型30から雌型40に受け渡し、雌型40と雄型41とで繊維積層体10をプレス成形し、繊維成形体11(図12参照)を製造する。
【0030】
本実施形態では、先ず、無機粉体、無機繊維、有機繊維、熱硬化性樹脂及び熱膨張性粒子を分散媒に分散させて原料スラリーを調製する。原料スラリーには、製造する成形体に適合するように調製されたものが用いられる。前記分散媒としては、水、白水の他、エタノール、メタノール等の溶剤又はこれらの混合系等が挙げられる。抄造・脱水成形の安定性、成形体の品質の安定性、費用、取り扱い易さ等の点から特に水が好ましい。
【0031】
原料スラリー中の各成分の配合比(質量比率)は、無機粉体、無機繊維、有機繊維、熱硬化性樹脂及び熱膨張性粒子の総質量に対し、無機粉体/無機繊維/有機繊維/熱硬化性樹脂及び熱膨張性粒子=70〜80%/2〜8%/0〜10%/8〜16%(質量比率)が好ましく、70〜80%/2〜6%/0〜6%/10〜14%(質量比率)がより好ましい。ただし、無機粉体、無機繊維、有機繊維、熱硬化性樹脂及び熱膨張性粒子の合計は、100質量%である。無機粉体の配合が斯かる範囲であると、鋳込み時での形状保持性、成形品の表面性が良好となり、また成形後の離型性も好適となる。無機繊維の配合比が斯かる範囲であると、成形性、鋳込み時の形状保持性が良好である。有機繊維の配合比が斯かる範囲であると成形性が良好である。鋳込み時の有機繊維の燃焼によるガス発生量、揚がりからの炎に吹き出しを抑えるために有機繊維量は少ない程良く、場合によっては含まないこともできる。熱硬化性樹脂及び熱膨張性粒子の配合比が斯かる範囲であると、成形体の成形性、鋳込み後の形状保持性、表面平滑性が良好である。
【0032】
前記無機粉体としては、板状黒鉛、土状黒鉛等の黒鉛、黒曜石、ムライト等が挙げられる。無機粉体は、これらを単独で又は二以上を選択して用いることができる。成形性、コストの点から黒鉛、特に、板状黒鉛を用いることが好ましい。
【0033】
前記無機繊維は、主として成形体の骨格をなし、鋳造時の溶融金属の熱によっても燃焼せずにその形状を維持する。前記無機繊維としては、炭素繊維、ロックウール等の人造鉱物繊維、セラミック繊維、天然鉱物繊維が挙げられ、それらが単独で又は二以上を選択して用いることができる。これらの中でも、前記熱硬化性樹脂の炭化に伴う収縮を効果的に抑える点から高温でも高強度を有するピッチ系やポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を用いることが好ましく、特にPAN系の炭素繊維が好ましい。
【0034】
前記無機繊維は、繊維積層体を抄造して脱水する場合の脱水性、繊維成形体の成形性、均一性の観点から平均繊維長が0.5〜15mm、特に3〜8mmであるものが好ましい。
【0035】
前記有機繊維には、紙繊維(パルプ繊維)、フィブリル化した合成繊維、再生繊維(例えば、レーヨン繊維)等が挙げられる。有機繊維は、単独で又は二種以上を選択して用いることができる。成形性、乾燥後の強度、コストの点から、紙繊維が好ましい。
【0036】
前記紙繊維としては、木材パルプ、コットンパルプ、リンターパルプ、竹やわらその他の非木材パルプが挙げられる。紙繊維は、これらのバージンパルプ若しくは古紙パルプを単独で又は二種以上を選択して用いることができる。紙繊維は、入手の容易性、環境保護、製造費用の低減等の点から、特に古紙パルプが好ましい。
【0037】
前記有機繊維は、成形体の成形性、表面平滑性、耐衝撃性を考慮すると、平均繊維長が0.8〜2.0mm、特に0.9〜1.8mmであるものが好ましい。
【0038】
前記熱硬化性樹脂は、成形体の常温強度及び熱間強度を維持させると共に、成形体の表面性を良好とし、鋳物の表面粗度を向上させる上で必要な成分である。前記熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、特に、可燃ガスの発生が少なく、燃焼抑制効果があり、熱分解(炭化)後における残炭率が25%以上と高く、炭化皮膜を形成して良好な鋳肌を得ることができる点からフェノール樹脂を用いることが好ましい。フェノール樹脂には、硬化剤を必要とするノボラックフェノール樹脂、硬化剤の必要ないレゾールタイプ等のフェノール樹脂が用いられる。ノボラックフェノール樹脂を用いる場合には、硬化剤を要する。該硬化剤は水に溶け易いため、成形体の脱水後にその表面に塗工されるのが好ましい。前記硬化剤には、ヘキサメチレンテトラミン等を用いることが好ましい。前記熱硬化性樹脂は、単独で又は二種以上を選択して用いることができる。
【0039】
原料スラリーは、前記無機粉体、無機繊維、有機繊維、熱硬化性樹脂及び熱膨張性粒子の総質量に対し、熱膨張性粒体を0.5〜10%(質量%)含んでいることが好ましく、1〜5%(質量%)含んでいることがより好ましい。熱膨張性粒子を斯かる範囲で含んでいると膨張による成形精度への悪影響を抑えた上で添加効果が十分に得られる。また、不必要な膨張を防ぐための冷却時間をとらずに済むので、高い生産性を維持することができる。
【0040】
本実施形態の成形体は、膨張し、平均直径が好ましくは5〜80μm、より好ましくは25〜50μmである前記熱膨張性粒体を含んでいる。熱膨張性粒子の膨張が斯かる範囲であると膨張による成形精度への悪影響を抑えた上で添加効果が十分に得ることができる。
【0041】
前記熱膨張性粒子としては、熱可塑性樹脂の殻壁に、気化して膨張する膨張剤を内包したマイクロカプセルが好ましい。該マイクロカプセルは、80〜200℃で加熱すると、直径が好ましくは3〜5倍、体積が好ましくは50〜100倍に膨張する平均粒径が好ましくは5〜60μm、より好ましくは20〜50μmの粒子が好ましい。
【0042】
該マイクロカプセルの殻壁を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はこれらの組み合わせが挙げられる。前記殻壁に内包される膨張剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、イソブタン、石油エーテル等の低沸点の有機溶剤が挙げられる。
【0043】
前記原料スラリーには、前記各成分以外に、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン樹脂等の紙力強化材、凝集剤、着色剤等の他の成分を適宜の割合で添加することもできる。
【0044】
繊維積層体の抄造工程では、図4に示したように、上下動機構21によって注入枠20が下げられ、バルブ23が開き、スラリー供給管22を通じてスラリーが注入枠20内に供給される。スラリーの供給量が所定量に達すると、バルブ23が閉じてスラリーの供給が停止される。そして、バルブ304が開き、気液流通路301及び排出管303を介して吸引ポンプ302によってスラリーの液体分が吸引されるとともに、固形分が抄造ネット305の表面に堆積されて湿潤状態の繊維積層体10が形成される。繊維積層体10中の液体含有率は、繊維積層体10のハンドリング性、繊維積層体10が雌型40と雄型41に挟まれてプレスされる際の繊維の流動による繊維積層体10の変形(プレスによりある程度は変形する方がよい)を考慮すると、繊維積層体10中の固形分100質量部に対して液体分を50〜200質量部とするのが好ましく、70〜100質量部とするのがより好ましい。該液体含有率は、吸引ポンプ302を通じた液体成分の吸引により調整され、所定の液体含有率になったところで吸引が停止される。
【0045】
本実施形態の成形体は、水を含む原料スラリーを用いて製造された場合は、該成形体の使用前(鋳造に供せられる前)の質量含水率は8%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。含水率が低いほど、鋳造時の熱硬化性樹脂の熱分解(炭化)に起因するガス発生量を低く抑えることができる。
【0046】
繊維積層体10の抄造が終了すると、図5に示したように、上下動機構21によって注入枠20が引き上げられ、前記移動手段によって抄造型30がガイド50に沿って雌型40の下方に移される。
【0047】
次に、雌型40が上下動機構402によって下げられ、抄造型30と突き合わされる。そして図6に示したように、抄造型30の凹部310と雌型40の段部406によって、繊維積層体10のフランジ部101の基部の屈曲空間が形成される。
【0048】
繊維積層体10を抄造型30から脱型するときには、繊維積層体10が雌型40における流通管403を通じて成形面400側に吸着される。そしてこのときに、図6に示したように、この繊維積層体10のフランジ部101の外縁部が、段部406で開口する気液流通路407を通して吸引されて抄造型30から離間させられ、フランジ部101の基部が屈曲されて肉厚部104が形成される。
【0049】
雌型40は、前記上下動機構402によって、図7に示したように引き上げられた後、抄造型30から雌型40に繊維積層体10が受け渡される。そして、前記移動手段によって雄型41との乾燥成形位置に移される。このようにして抄造、成形された繊維積層体10には、図10及び図11(a)に示したように、フランジ部101における、当該フランジ部101と周壁部102との交点(二つの面の交わり部分)に形成される角部103の縁部に肉厚部104が形成される。
【0050】
次に、図8に示したように、雌型40が上下動機構402によって下げられる。そして、所定温度に加熱された雄型41と突き合わされてこれらの雄雌型の間で繊維積層体10がプレス成形され、乾燥した繊維成形体11が得られる。プレス成形によって、繊維成形体11におけるフランジ部111と周壁部112との交点(二つの面の交わり部分)に形成される角部113の頂点が尖鋭となる(図11(b))。なお、雌型40と雄型41が突き合わされた場合には、上記肉厚部104を収納する空隙は形成されないようにしておく。すなわち、最終的に成形される繊維成形体の形状(肉厚部分は有しない)に応じた空隙が形成されるようにしておく。尖鋭な角部の頂点が他の物体と接触した場合には、尖鋭であるが故に頂点が損傷し易いので、損傷を防ぐためには角部113の頂点の密度は0.8g/cm3以上であることが望ましい。
【0051】
雌型40と雄型41の金型温度は、製造する繊維成形体に応じて適宜設定されるが、繊維積層体10の焦げ付き防止等を考慮すると、100〜250℃が好ましく、120〜200℃がより好ましい。雌型40と雄型41によるプレス成形の圧力は、肉厚部を確実に押し潰すこと等を考慮すると、0.2MPa〜10MPaが好ましく、0.5MPa〜5MPaがより好ましい。ただし、プレス成形の圧力は、繊維成形体を構成する材料の種類、強度等で大きく変化することもあり得る。
【0052】
乾燥成形の際は、バルブ414が開いており、繊維積層体10の水分は、気液流通路411(図3参照)及び排出管413を介して吸引ポンプ412によって吸引されて外部に排出される。その一方で、上下動機構21によって注入枠20が下げられ、抄造型30の抄造部301が再び注入枠20に内包される。そして、前記抄造工程と同様にして繊維積層体が新たに抄造される。
【0053】
乾燥成形工程が終了すると、流通管403からの吸引が前記コンプレッサによる空気噴射に切り替えられ、図9に示したように、上下動機構402によって雌型40が引き上げられる。そして、吸引ポンプ412による吸引が停止された後、雄型41側に残った繊維成形体11を雄型41から取り外し、繊維成形体11の製造を完了する。また、上下動機構21によって注入枠20が引き上げられ、抄造工程を終えた新たな繊維積層体10は、その後加熱工程に移される。本実施形態の製造方法では、このような抄造、乾燥成形の工程が繰り返し行われる。
【0054】
本実施形態の成形体の厚みは、用途に応じて設定される。成形体の厚さは、0.2〜5mmが好ましく、0.7〜1.5mmがより好ましい。厚みが斯かる範囲であると、前記熱膨張性粒子の膨張の成形性に及ぼす影響を抑えた上で、上記強度を十分に確保でき、鋳造時のガスの発生も抑えることができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の繊維成形体の製造方法によれば、二つの面の交わり部分に形成される角部103の頂点が尖鋭な成形体を製造することができる。
【0056】
なお、環状に張出ししているフランジ部101の一部に凸部等を設けて、注湯取り入れ口や鋳込み時のガス抜き口を適宜設けることができる。
【0057】
次に本発明の他の実施形態について説明する。
図13〜図15は、本発明の繊維成形体の製造方法を実施するための製造装置の第2実施形態を模式的に示したものである。これらの図において、符号1’は製造装置を示している。また、前記第1実施形態の製造装置と共通する部分については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0058】
図13に示すように、製造装置1’は、フランジ部111を有する半筒状の繊維成形体11’(図12参照)を製造するものであり、原料となる繊維スラリーを供給する原料供給手段2と、原料供給手段2から供給される繊維スラリーから湿潤状態の繊維積層体(繊維成形中間体)を抄造する抄造手段3と、抄造された繊維積層体を乾燥成形する乾燥成形手段4とを備えている。
【0059】
図14に示すように、抄造手段3の抄造型30’の抄造部300は、繊維積層体のフランジ部の上面部に対応する基面部306から、繊維積層体の周壁部に対応する凸面部307の立ち上がり部分に溝308が設けられている。この溝308によって、後述するように、抄造される繊維積層体10’(図19及び図20(a)参照)には、フランジ部101と周壁部102との交点に形成される角部103の近傍に肉厚部104’が形成される。溝308の幅は繊維が密集して積層されるように1mm〜10mmが適当であり、さらに3mm〜6mmが望ましい。また、溝308の深さに関しては繊維積層体を雄型41に被せた際、形状が大きくずれたりしないように1mm〜10mmが適当であり、特に3mm〜5mmが望ましい。
【0060】
図13に示すように、乾燥成形手段4は、雌型40及び雄型41を備えている。雌型40及び雄型41が互いに突き合わせられたとき、これらの型間には、成形する繊維成形体の外形形状に対応した空隙(クリアランス)が形成される。雌型40は、得られる繊維成形体11の外形形状に対応した凹状の成形部400を有している。雌型40は前記成形部400を加熱するヒーター(加熱手段)401を備えている。雌型40は上下動手段402によって上下動する。雌型40には、成形部400において開口する気液流通路(図示せず)が内部に設けられている。この気液流通路には、吸引ポンプ及びコンプレッサ(ともに図示せず)に通じる流通管403が接続されている。流通管403にはバルブ404が配設されている。雄型41は、得られる繊維成形体11の内面形状に対応した凸状の成形部410を有している。成形部410の表面は、フッ素樹脂により表面がコーティングされている。雄型41の成形部410には、その表面において開口する気液流通路(図示せず)が内部に設けられており、この気液流通路には吸引ポンプ412に通じる排出管413が接続されている。排出管413にはバルブ414が配設されている。図には示していないが、成形部410の内部には、成形部410を加熱するヒーター(加熱手段)が配されている。
【0061】
製造装置1’は、前記抄造型30’及び雄型41をガイド50に沿って所定位置に移動させる移動手段(図示せず)を備えている。また、製造装置1’は、上記各手段と接続されてこれら各手段を後述するような手順に従って作動させるシーケンサーを備えた制御手段(図示せず)を備えている。
【0062】
次に、本発明の繊維成形体の製造方法の好ましい実施形態を、上記製造装置1’を用いた繊維成形体の製造方法に基づいて、図12、及び図15〜図20を参照しながら説明する。なお、これらの図中、符号10’は繊維積層体、11’は繊維成形体を示している。
【0063】
繊維積層体の抄造工程では、図15に示したように、上下動機構21によって注入枠20が下げられ、バルブ23が開き、スラリー供給管22を通じて原料スラリーが注入枠20内に供給される。原料スラリーの供給量が所定量に達すると、バルブ23が閉じてスラリーの供給が停止される。そして、バルブ304が開き、気液流通路301及び排出管303を介して吸引ポンプ302によってスラリーの液体分が吸引されるとともに、固形分が抄造ネット305の表面に堆積されて湿潤状態の繊維積層体10’が形成される。繊維積層体10’中の液体含有率は、繊維成形体10’のハンドリング性、繊維積層体10’が雌型40と雄型41に挟まれてプレスされる際の繊維の流動による繊維積層体10’の変形(プレスによりある程度は変形する方がよい)を考慮すると、繊維成形体10’中の固形分100質量部に対して液体分を50〜200質量部とするのが好ましく、70〜100質量部とするのがより好ましい。該液体含有率は、吸引ポンプ302を通じた液体成分の吸引により調整され、所定の液体含有率になったところで吸引が停止される。
【0064】
繊維積層体10の抄造が終了すると、図16に示したように、上下動機構21によって注入枠20が引き上げられ、前記移動手段によって抄造型30’がガイド50に沿って雌型40の下方に移される。
【0065】
このようにして抄造された繊維積層体10’は、図19及び図20(a)に示したように、フランジ部101における、当該フランジ部101と周壁部102との交点(二つの面の交わり部分)に形成される角部103の縁部に肉厚部104’が形成される。肉厚部104’の厚み及び形状は抄紙型の溝308によって支配されるが、幅としては3mm〜6mm、厚みとしては3mm〜5mmが望ましく同様の容積と設置場所を持てばその形状は自由に設定できる。
【0066】
次に、雌型40が上下動機構402によって下げられ、抄造型30’と突き合わされる。そして、雌型40における流通管403を通じて繊維積層体10’が成形面400側に吸着された後、上下動機構402によって雌型40が引き上げられ、抄造型30から雌型40に繊維積層体10’が受け渡される。雌型40はその後雄型41との乾燥成形位置に移される。
【0067】
次に、図17に示したように、雌型40が上下動機構402によって下げられ、所定温度に加熱された雄型41と突き合わされてこれらの雄雌型の間で繊維積層体10’がプレス成形され、乾燥した繊維成形体が得られる。プレス成形によって、繊維成形体11におけるフランジ部111と周壁部112との交点に形成される角部113の頂点が尖鋭となる(図20(b))。なお、雌型40と雄型41が突き合わされた場合には、上記肉厚部104’を収納する空隙は形成されないようにしておく。すなわち、最終的に成形される繊維成形体の形状(肉厚部分は有しない)に応じた空隙が形成されるようにしておく。尖鋭な角部の頂点が他の物体と接触した場合には、尖鋭であるが故に頂点が損傷し易いので、損傷を防ぐためには角部の頂点の密度は0.8g/cm3以上であることが望ましい。
【0068】
雌型40と雄型41の温度(金型温度)は、製造する繊維成形体に応じて適宜設定されるが、繊維積層体10’の焦げ付き防止等を考慮すると、100〜250℃が好ましく、120〜200℃がより好ましい。雌型40と雄型41によるプレス成形の圧力は、肉厚部を確実に押し潰すこと等を考慮すると、0.2MPa〜10MPaが好ましく、0.5MPa〜5MPaがより好ましい。ただし、プレス成形の圧力は、繊維成形体を構成する材料の種類、強度等で大きく変化することもあり得る。
【0069】
乾燥成形の際は、バルブ414が開いており、繊維積層体10’の水分は、前記気液流通路及び排出管413を介して吸引ポンプ412によって吸引されて外部に排出される。その一方で、上下動機構21によって注入枠20が下げられ、抄造型30’の抄造部300が再び注入枠20に内包される。そして、前記抄造工程と同様にして繊維積層体が新たに抄造される。
【0070】
乾燥成形工程が終了すると、流通管403からの吸引が前記コンプレッサによる空気噴射に切り替えられ、図18に示したように、上下動機構402によって雌型40が引き上げられる。そして、吸引ポンプ412による吸引が停止された後、雄型41側に残った繊維成形体11’を雄型41から取り外し、繊維成形体11’の製造を完了する。また、上下動機構41によって注入枠20が引き上げられ、抄造工程を終えた新たな繊維積層体は、その後加熱工程に移される。本実施形態の製造方法では、このような抄造、乾燥成形の工程が繰り返し行われる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態の繊維成形体の製造方法によれば、二つの面の交わり部分に形成される角部の頂点が尖鋭な成形体を製造することができる。
【0072】
このようにして製造された繊維成形体11’は、図12(a)に示すように、フランジ部111同士を対向させて突き合わせた場合に、図12(b)に示すように、互いの角部113の頂点が尖鋭なので、例えば該繊維成形体を2つ突き合わせて鋳物製造用鋳型とし、そのキャビティ内に溶湯を供給して鋳物を製造する場合、図12(b)から明らかなように、当該角部どうしの突き合わせ部分には実質的に隙間が形成されないので、得られる鋳物にバリが生じない。
【0073】
本発明は、前記実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【0074】
本発明では、特に、二つの面部の交点に形成される角部の頂点を尖鋭にするための方法に適している。その理由は、図2に示すように、抄造型に溝を設けておけば、肉厚部を別途形成する必要がないからである。すなわち、抄造時にその溝によって肉厚部を形成することができるからである。なお、本発明は、二つの面部の交点に形成されない角部の頂点を尖鋭にすることもできる。この場合には、湿式抄造法によって角部103’を有する繊維積層体10’を抄造後(図21(a)参照)、該角部103’の近傍に水分を含む繊維の集合体104’を人手で付け加えて肉厚部を形成し(図21(b)参照)、以下、上述の方法によって該繊維積層体をプレス成形して、角部113’の頂点が尖鋭な繊維形成体11’を得ることができる。
【0075】
原料スラリーには、前記各実施形態における原料スラリー以外に、製造する繊維成形体に適合するように調製されたものが用いられる。原料スラリーには、従来から湿式抄造法に用いられている公知のスラリーを用いることもできる。
【0076】
また、前記各実施形態では、抄造、脱型によって肉厚部を形成した繊維積層体(繊維成形中間体)を、そのままに乾燥成形手段でプレス成形したが、肉厚部を形成した繊維積層体をプレス成形せずに一旦乾燥さてストックし、改めてプレス成形することもできる。この場合にも、前述のような好ましい湿潤状態とすることが好ましい。
【0077】
また、前記第1実施形態では、受型として乾燥成形手段の雌型(乾燥型)を用いたが、単に受け渡しを行う型を用い、当該型で受け渡しをするときに前記雌型と同様にして肉厚部を形成してもよい。
【0078】
また、前記第1実施形態では、雌型の吸引系統を一系統としたが、繊維積層体のフランジ部の外縁部を吸引する吸引系統を他の部分の吸引系統と別々に配し、該フランジ部の外縁部の吸引力を高くして吸引することもできる。
【0079】
また、前記第1実施形態では、フランジ部の外縁部を抄造型から離間させる手段として気液流通路を通した吸引によって行ったが、プラスチック成形型に通常使用されるストリッパープレートやエジェクタピン等の機構によって離間させることもできる。
【0080】
また、図22に示す雄型41のように分割された型部品(41a〜41c等)の組み合わせ型とし、それぞれの型部品の角部を機械加工により尖鋭にすることによって、雄型の角部A部(成形部410の立ち上がり部分)も尖鋭にすることができる。これにより、繊維成形体の角部の曲率半径を実質的に0mmにすることが可能である。また、雄型41を分割された型部品の組み合わせ型としなくても機械加工により角部A部を尖鋭にすることができ、繊維成形体の角部の曲率半径を0.5mm以下にすることができる。
【0081】
なお、繊維材料を含む繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体をプレス成形して他の繊維成形体との合せ面に角部を有する繊維成形体を製造する方法等以外に、繊維材料を含む繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体をプレス成形して他の部材との合せ面に連なる角部を有する繊維成形体を製造する方法等も採用することができる。ここで他の部材とはポリエチレン等の熱可塑性樹脂を別途成形した物などである。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0083】
<実施例1>
有機繊維(新聞古紙)4、無機繊維(カーボン繊維)4、無機粉体(黒鉛粉末)76、熱硬化性樹脂(フェノール樹脂)12、熱膨張性粒子4の割合(各数値は質量部)で配合した原料を水に分散させ、固形分濃度3質量%程度のスラリーを調製した。このスラリーを用いて、繊維積層体のフランジ部の上面部に対応する基面部が突き合わせ面から低い位置に設けられて凹部が形成されている抄造型(該抄造型の形状は、図2に示された形状と略同じ)で繊維積層体を抄造し(該繊維積層体の肉厚は1mm〜3mm)、雌型(受型)を組み合わせて繊維積層体を脱型しフランジ部の基部が屈曲されて形成された繊維積層体を作成し、更に成形面にフッ素樹脂(例えば、テフロン(登録商標))コートを施した乾燥型で乾燥させて繊維成形体を作製した。乾燥時の圧力は3.8MPa、乾燥型の温度は200℃であった。
【0084】
<比較例1>
実施例1と同じ原料スラリーを用いて、凹部を設けていない抄造型で繊維積層体を抄造し、実施例に準じて乾燥させて繊維成形体を作製した。
【0085】
<結果>
繊維成形体の角部頂点のR(曲率半径)を測定すると実施例の繊維成形体では、Rは0.1〜0.2mm程度(なおその部分の密度は0.8〜1.0g/cm3)であり尖鋭であった。また、繊維成形体を二つ組み合わせてキャビティを形成し、組合された繊維成形体を砂に埋没させ、該キャビティに溶湯を注ぎ込み鋳造を行った。その結果、実施例の繊維成形体の組み合わせでは、全合せ面でのバリが1mm以下の良品が製作できたが、比較例では合せ面に対応する数箇所に2mm〜10mm程度のバリが発生し不良品となった。
【0086】
<実施例2>
パルプ(新聞古紙)24、無機繊維(カーボン繊維)8、無機粉末(黒曜石粉)48、有機バインダー(フェノール樹脂)16の割合(各数値は質量部)で配合した原料を水に分散させ、固形分濃度3質量%程度のスラリーを調製した。このスラリーを用いて、繊維積層体の角部に対応する部分の近傍に幅6mm、深さ3mmの溝を設けた抄造型(該抄造型の形状は、図14に示された形状と略同じ)で繊維積層体を抄造し(該繊維積層体の肉厚は1mm〜3mm)、さらに成形面にフッ素樹脂(例えば、テフロン(登録商標))コートを施した乾燥型で乾燥させて繊維成形体を作製した。乾燥時の圧力は3.8MPa、乾燥型の温度は150℃であった。
【0087】
<比較例2>
実施例2と同じ原料スラリーを用いて、溝を設けていない抄造型で繊維積層体を抄造し、実施例2に準じて乾燥させて繊維成形体を作製した。
【0088】
<結果>
繊維成形体の角部頂点のR(曲率半径)を測定すると実施例2の繊維成形体では、Rは0.1〜0.2mm程度(なおその部分の密度は0.8〜1.0g/cm3)であり尖鋭であった。また、繊維成形体を二つ組み合わせてキャビティを形成し、組合された繊維成形体を砂に埋没させ、該キャビティに溶湯を注ぎ込み鋳造を行った。その結果、実施例2の繊維積層体の組み合わせでは、全合せ面でのバリが1mm以下の良品が製作できたが、比較例2では合せ面に対応する数箇所に2mm〜10mm程度のバリが発生し不良品となった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の繊維成形体の製造方法は、繊維成形体を鋳型として使用する場合の該繊維成形体の製造に特に好適であり、それ以外にも、角部の頂点が尖鋭な容器、道具、部品等の各種の繊維成形体の製造に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の繊維成形体の製造方法を実施するための製造装置の第1実施形態を模式的に示す部分断面図である。
【図2】本発明の抄造型の第1実施形態を模式的に示す一部を破断視した斜視図である。
【図3】同製造装置の乾燥成形手段の備える雄型を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の繊維成形体の製造方法の第1実施形態における抄造工程を模式的に示す図である。
【図5】本発明の繊維成形体の製造方法の第1実施形態における抄造工程終了後における繊維積層体の移行工程を模式的に示す図である。
【図6】本発明の繊維成形体の製造方法の第1実施形態における乾燥成形工程を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の繊維成形体の製造方法の第1実施形態における乾燥成形工程終了後の脱型状態を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の繊維成形体の製造方法の第1実施形態における乾燥成形工程を模式的に示す図である。
【図9】本発明の繊維成形体の製造方法の第1実施形態における乾燥成形工程終了後の脱型状態を模式的に示す図である。
【図10】本発明の繊維成形体の製造方法で抄造される本発明の繊維成形中間体の一実施形態を示す斜視図である。
【図11】乾燥成形前後における肉厚部の形態の変化を示す図であり、(a)は乾燥成形前の断面図、(b)は乾燥成形後の断面図である。
【図12】本発明の繊維成形体の製造方法で製造される、本発明の繊維成形体の一実施形態を示す図であり、(a)は二つの繊維成形体を突き合わせている状態を示す図、突き合わされた成形体の角部どうしの拡大図である。
【図13】本発明の繊維成形体の製造方法を実施するための製造装置の第2実施形態を模式的に示す部分断面図である。
【図14】本発明の抄造型の第2実施形態を模式的に示す一部を破断視した斜視図である。
【図15】本発明の繊維成形体の製造方法の第2実施形態における抄造工程を模式的に示す図である。
【図16】本発明の繊維成形体の製造方法の第2実施形態における抄造工程終了後における繊維積層体の移行工程を模式的に示す図である。
【図17】本発明の繊維成形体の製造方法の第2実施形態における乾燥成形工程を模式的に示す図である。
【図18】本発明の繊維成形体の製造方法の第2実施形態における乾燥成形工程終了後の脱型状態を模式的に示す図である。
【図19】本発明の繊維成形体の製造方法で抄造される本発明の繊維成形中間体の他の実施形態を示す斜視図である。
【図20】乾燥成形前後における肉厚部の形態の変化を示す図であり、(a)は乾燥成形前の断面図、(b)は乾燥成形後の断面図である。
【図21】乾燥成形前後における肉厚部の形態の変化を模式的に示す部分断面図であり、(a)は乾燥成形前の断面図、(b)は乾燥成形後の断面図である。
【図22】本発明の製造装置の乾燥成形手段の備える雄型の他の実施形態を模式的に示す図である。
【図23】従来技術における繊維成形体の成形性の課題を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0091】
1、1’ 繊維成形体の製造装置
2 原料供給手段
3 抄造手段
30、30’ 抄造型
300 抄造部
308 溝
310 凹部
4 乾燥成形手段
40 雌型
41 雄型
6 肉厚部形成手段
60 離間手段
61 空間形成部
10、10’ 繊維積層体(繊維成形中間体)
101 フランジ部
102 周壁部
103 角部
104、104’ 肉厚部
11、11’ 繊維成形体
111 フランジ部
112 周壁部
113 角部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料を含む繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体をプレス成形して他の繊維成形体との合せ面に角部を有する繊維成形体を製造する方法であって、
前記繊維積層体における前記角部又はその近傍に肉厚部を設け、該肉厚部を前記プレス成形する繊維成形体の製造方法。
【請求項2】
前記繊維積層体が、前記繊維材料を含むスラリーから抄造によって得られる湿潤状態の繊維積層体であり、前記角部が二つの面の交わり部分に形成されたものである請求項1記載の繊維成形体の製造方法。
【請求項3】
前記プレス成形に用いる成形型を加熱する請求項1又は2に記載の繊維成形体の製造方法。
【請求項4】
前記成形型の成形面をフッ素樹脂で被覆しておく請求項3記載の繊維成形体の製造方法。
【請求項5】
前記繊維積層体を部分的に屈曲させて前記肉厚部を形成する請求項1〜4の何れかに記載の繊維成形体の製造方法。
【請求項6】
前記繊維積層体をその抄造型から脱型するときに、前記繊維積層体における前記合わせ面に対応する張出部分の外縁部を前記抄造型から離間させて前記張出部分の基部を屈曲させる請求項5記載の繊維成形体の製造方法。
【請求項7】
繊維材料を含む繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体をプレス成形して他の部材との合せ面に連なる角部を有する繊維成形体を製造する方法であって、
前記繊維積層体における前記角部又はその近傍に肉厚部を設け、該肉厚部を前記プレス成形する繊維成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載の繊維成形体の製造方法に用いる抄造型であって、繊維積層体の二つの面の交わり部に前記肉厚部を形成するための抄造型。
【請求項9】
請求項1〜6の何れかに記載の繊維成形体の製造方法に用いる抄造型であって、繊維積層体が抄造される抄造部に前記肉厚部を形成するために、基面部が突き合せ部より低い位置に設けられて凹部が形成されている抄造型。
【請求項10】
請求項1〜4の何れかに記載の繊維成形体の製造方法に用いる抄造型であって、繊維積層体が抄造される抄造部に前記肉厚部を形成するための溝が設けられている抄造型。
【請求項11】
請求項6に記載の繊維成形体の製造方法に用いる装置であって、
前記繊維積層体の抄造型と、前記抄造型から前記繊維積層体を受け取る受型とを備え、
前記抄造型又は前記受型に前記張出部分の基部を屈曲させて前記肉厚部を形成する肉厚部形成手段とを具備している繊維成形体の製造装置。
【請求項12】
前記肉厚部形成手段が、前記抄造型と前記受型とを組み合わせたときに、前記張出部分の前記外縁部を前記抄造型から離間させる離間手段、及び前記抄造型と前記受型との間に配されて前記基部の屈曲空間を形成する空間形成部からなる請求項11記載の繊維成形体の製造装置。
【請求項13】
他の繊維成形体又は他の部材との合せ面に連なる角部を有する繊維成形体の製造方法に用いるための繊維成形中間体であって、
繊維材料を含むスラリーから抄造された湿潤状態の繊維積層体からなり、
前記角部に対応する前記繊維積層体の角部又はその近傍に、前記繊維積層体が部分的に屈曲された肉厚部が設けられている繊維成形中間体。
【請求項14】
繊維材料を含む繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体をプレス成形して得られる繊維成形体であって、該繊維成形体の二つの面の交わり部分に形成される角部の頂点が尖鋭である繊維成形体。
【請求項15】
前記角部の曲率半径が1mm以下である請求項14に記載の繊維成形体。
【請求項16】
複数の繊維成形体を合体させてキャビティを形成する繊維成形体であって、合せ面が有する角部の頂点が尖鋭である繊維成形体。
【請求項17】
前記合せ面が有する角部の曲率半径が1mm以下である請求項16に記載の繊維成形体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−136939(P2006−136939A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291788(P2005−291788)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】