説明

繊維成形炭及びその製造方法

【課題】麻類の繊維の利用を図ると共に、木炭の代替品となり得る、安価で、発熱性及び着火性のよい繊維成形炭及びその製造方法を提供する。
【解決手段】麻類の靭皮繊維を圧縮成形して得られる成形体を炭化処理して形成された繊維成形炭とする。麻類としてはケナフ及びジュートの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、好ましくは、靭皮繊維は、靭皮繊維を用いて形成される繊維マットの製造工程において排出された繊維屑から得られるものである。また、麻類の靭皮繊維を圧縮成形した後、炭化処理することにより繊維成形炭を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木炭の代替材料となり得る、繊維を用いた成形炭に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な森林の大量伐採によって木質資源が枯渇していく中、木材の代替材料の開発が活発に行われている。そのような中、植物体から得られる繊維を利用した材料がエコ材料として期待されており、中でも二酸化炭素の吸収力が高く成長の早いケナフ、ジュートなどの麻類の繊維を利用した製品に注目が集まっている。特に、ケナフ、ジュートなどの麻類から得られる長い靭皮繊維をマット状に成形し、樹脂を添加して成形した繊維ボードは地球温暖化防止への貢献が期待されるものである。
【0003】
このような麻類の繊維を利用した材料は、物性的な面においても、従来のMDF(mediumdensity fiberboard)やパーティクルボードなどの廃材を利用した材料に比べて強度が高く寸法安定性があるなどの利点があり、優位なものである。したがって、地球環境への影響も考えて、麻類の繊維の利用を促進することは重要な技術課題となっている。
【0004】
ところで、日本では従来より、鰻の蒲焼や焼き鳥など、鰻、肉、魚、鳥肉などの食材の調理方法において、火を熾した木炭の熱で焼成する、いわゆる炭火焼きという調理方法が知られている。その際に使用する木炭としては、ウバメガシなどの高密度の木材を炭化して得られる備長炭がよく知られており、熱量が高く発熱時間が長いことから市場価値が高いものとなっている。しかし、原料の枯渇や炭焼き作業が困難なことから、現在では入手しにくくなってきている。
【0005】
このような状況下において、安価に入手できるオガ屑を硬く締め付けて成形した成型品であるオガライトを炭化して得られるオガタンが木炭の代替材料として市場に出回っている。
【0006】
しかし、オガタンは、備長炭に比べると発熱量が低く、発熱時間も短いため市場価値は低いものとなっている。また、原料であるオガ屑は、繊維長が短く成形時に繊維同士の絡みが少なくなるために、成形体の形状を維持するには非常に強力な圧力や熱を加えて成形しなければならない。そのため、オガ屑の成形体は非常に高密度の状態となり、着火性が悪いという欠点が生じている。
【0007】
さらに、オガ屑は、原木や角材の製材時に排出される木屑であるが、前述のように、原料となる原木の枯渇や、MDFなどオガ屑を原料とする材料に対する需要の高まりにより、今後、安価な価格での入手は困難になってくることが予想される。
【0008】
繊維を利用した炭に関する技術としては、衣服などから得られる天然繊維を炭化したもの(特許文献1)や、ロール材などの紙管を炭化したもの(特許文献2)や、繊維を含む廃材を高分子組成物と混合した後、固形化して炭化したもの(特許文献3)などが知られている。しかし、特許文献1及び2の技術では、衣服の繊維や紙管をそのまま炭化しており、木炭の代替品にはなり得ない。また、特許文献3の技術では、高分子組成物の配合を必要としており、コストが高くなるといった問題が生じる。
【特許文献1】特開2006−16699号公報
【特許文献2】特開平6−256781号公報
【特許文献3】特開2006−131746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、麻類の繊維の利用を図ると共に、木炭の代替品となり得る、安価で、発熱性及び着火性のよい繊維成形炭及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る繊維成形炭は、麻類の靭皮繊維を圧縮成形して得られる成形体を炭化処理して形成されたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2に係る繊維成形炭は、麻類がケナフ及びジュートの少なくとも一方を含むことを特徴とするものである。
【0012】
請求項3に係る繊維成形炭は、上記構成に加え、上記靭皮繊維が、靭皮繊維を用いて形成される繊維マットの製造工程において排出された繊維屑から得られるものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4に係る繊維成形炭の製造方法は、麻類の靭皮繊維を圧縮成形した後、炭化処理することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、麻類の靭皮繊維を用いることにより、繊維同士がよく絡み合うので強固で形状安定性が良好であると共に、発熱性及び着火性のよい木炭代替品を得ることができる。また、麻類を利用することにより、安価なコストで木炭代替品を得ることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、カリウム分を多く含むケナフ及びジュートの少なくとも一方の靭皮繊維を用いることにより、着火性がより良好な木炭代替品を得ることができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、繊維マットの製造工程で排出される繊維屑を用いることにより、廃棄物を有効利用することができるので、環境に優しいと共に、さらに安価なコストで木炭代替品を得ることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、麻類の靭皮繊維を用いて圧縮成形することにより、繊維同士がよく絡み合うので強固で形状安定性が良好であると共に、発熱性及び着火性のよい木炭代替材料を製造することができる。また、麻類を利用することにより、安価なコストで木炭代替品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の繊維成形炭は、麻類の靭皮繊維を用いるものである。
【0019】
麻類は、他の植物に比べてカリウムを多く含むという特徴を有している。植物体に含まれるカリウムは、炭化した際に炭酸カリウムとして存在することとなり、この炭酸カリウムは繊維成形炭の着火性を向上させる働きがある。そのため、麻類を用いて得られる繊維成形炭は、他の材料で作られた木炭代替材料に比べると、着火性が良いという特徴を有する。
【0020】
麻類としては、例えば、ケナフ、ジュート、マニラ麻、サイザル麻、コウマ、ラミー、リネンなどが挙げられるが、このうち、ケナフ及びジュートの少なくとも一方を含むことが好ましく、ケナフ及びジュートのいずれかであることがより好ましい。ケナフ、ジュートは成長が早く、市場でも多く流通しており、安価に入手することができる。また、ケナフ及びジュートの靭皮繊維は、カリウム分を多く含むので着火性を良好にすることができる。
【0021】
麻類の靭皮繊維は、軟麻処理などを施した茎から分離するなどして得ることができる。靭皮繊維とは、茎や幹の外皮のすぐ内側にある柔らかな部分である靭皮から採取される繊維のことである。靭皮繊維を分離する際、きれいに分離されずに皮や芯の部分が混入されることがあるが、多少混入していても最終的に得られる繊維成形炭の品質には影響を及ぼさないので、品質を低下させない程度に靭皮繊維以外の部分が混入されていてもよい。麻類の靭皮繊維は、繊維自体の強度が良好であるのに加え、繊維がよく絡み合うので好ましいものである。
【0022】
一般に、木炭は発熱時間が長いものほど品質がよいとされる。したがって、品質のよい木炭やその代替品を得るためには、発熱時間を長くするために高密度な状態にすることが必要である。ところが、木炭やその代替品は高密度になると着火性が悪くなるといった問題が生じる。
【0023】
しかしながら、本発明では、ケナフ、ジュートなどの麻類の靭皮繊維を用いることにより、着火性を良好にするカリウム分を多く含むことができるので、強力な圧力で圧縮成形して高密度化させても、着火性が良好な繊維成形炭を得ることができる。また、麻類の靭皮繊維同士はよく絡み合うので、オガ屑や他の繊維ほど高密度化させなくても形状安定性のよい繊維成形体が得られると共に、高密度化させた場合は、成形体の強度を向上してさらに形状安定性のよい繊維成形炭を得ることができる。
【0024】
靭皮繊維としては、繊維長が0.1〜100mmのものを用いることが好ましい。靭皮繊維の繊維長がこの範囲より短すぎても長すぎても繊維同士が絡みにくくなり、繊維成形炭の形状保持性が悪くなるおそれがある。
【0025】
また、麻類の靭皮繊維として、靭皮繊維を用いて形成される繊維マットの製造工程において排出された繊維屑から得られるものを用いることもできる。その場合、繊維屑という廃棄物を有効利用することができ、環境に優しいと共に、さらに安価なコストで木炭代替品を得ることができる。繊維マットとは、乾式のフリース形成法で作製された不織布のことである。乾式のフリース形成法としては、大きく、機械的に掻きながら形成するカード方式と、空気流を利用してランダムに形成するエアレイ方式があるが、本発明では特に限定されることなく、いずれの方式のものであってもよい。
【0026】
繊維マットとして利用される靭皮繊維は、通常、長さが10〜150mmのものであり、それ以外の繊維長の繊維や、繊維マットを形成する途中に脱落した繊維は、繊維屑として集塵される。繊維屑は、繊維マットの形成方式や使用する靭皮繊維の種類及びグレードにもよるが、おおよそ原料の5〜20%を占めている。そして、集塵された繊維屑は、一部再利用されるものもあるが、その大半はそのまま廃棄される。しかしながら、本発明によれば、このように従来は廃棄されていた繊維屑を木炭代替品の原料として使用することにより、原料コストを抑制することができると共に、繊維屑の廃棄に要していたコストも削減することができるものである。
【0027】
麻類の靭皮繊維から繊維マットを形成する過程において排出される繊維屑のタイプとしては、大きく分けて、次の3つのタイプが存在する。すなわち、(1)靭皮繊維とその靭皮繊維に付着した皮や芯、(2)解繊しきれなかった繊維長150mm以上の長い靭皮繊維、(3)繊維マットから脱落して空中に浮遊するなどして、集塵機によって捕集される繊維長10mm以下の短い靭皮繊維、の3タイプである。このうちいずれのタイプの繊維屑を用いることもでき、特に制限されるものではないが、(1)は靭皮繊維の含量が少なく、また、土や砂などの混入があり質が良くないといった理由から、(2)は繊維長が長く繊維が大きすぎて成形性が悪くなるおそれがあるのに加え、再度解繊するなどして再利用が可能であるといった理由から、(3)のタイプ、すなわち繊維長が10mm以下のものを利用することが好ましい。
【0028】
圧縮成形する方法としては、特に限定はなく、モールド成形、押出成形など必要に応じて最適な方法を選択することができる。しかしながら、工業的な観点からは、押出成形装置を用い、シリンダーに原料となる靭皮繊維を供給して連続的に押し出して丸棒形状の成形体を形成する押出成形法が好ましい。このとき、押出条件としては、成形圧を4.9〜19.6MPa(50〜200kgf/cm)に設定することが好ましい。成形圧がこの範囲よりも低いと、成形体の形状維持が困難になるおそれがある。一方、成形圧がこの範囲よりも高いと、成形体が高密度化しすぎて着火性が悪くなるおそれがある。シリンダーの温度としては、特に加熱する必要はなく、常温で成形体の形成が可能である。また、押出速度としては、成形体の強度と生産性を考慮して、100〜300mm/minに設定することが好ましい。成形体の大きさとしては、特に限定されるものではないが、木炭の代替品としての利用を考えて、例えば直径50mm、長さ100〜150mm程度の円筒形のものにすることができる。
【0029】
炭化処理は、高温密閉雰囲気下で行われる、成形体を炭化する処理である。炭化処理の方法としては、一般的に行われている方法を用いることができる。例えば、釜などの密閉した容器の中に適当な個数の成形体を配列し、200〜500℃の温度領域で2〜5時間加熱し、さらに加熱を停止して空気を遮断した状態で10時間放置するなどして炭化処理することができる。こうして炭化処理の工程を経ることにより、目的とする繊維成形炭が得られる。
【0030】
繊維成形炭の密度は800〜1100kg/mであることが好ましい。密度がこの範囲になることにより、良好な発熱性と着火性を得ることができる。繊維成形炭の密度がこの範囲よりも小さいと発熱性が悪くなるおそれがある。一方、繊維成形炭の密度がこの範囲よりも大きいと着火性が悪くなるおそれがある。
【0031】
このようにして得られた繊維成形炭は、市場価値が高いとされる備長炭や安価なオガタンに比べて遜色ない発熱性と優れた着火性を有するものである。また、繊維マットの製造工程で排出される繊維屑を利用すれば、原料コストをさらに抑えることができると共に、繊維屑の処理費用も削減することができ、安価で環境に優しい木炭代替品となるものである。
【実施例】
【0032】
次に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
【0033】
(実施例1)
解繊されて、よくほぐされたケナフの靭皮繊維(繊維長0.1〜100mm)を、押出成形装置のシリンダーに供給して連続的に押し出し、直径50mm、長さ100mmの丸棒形状の成形体を作製した。その際、成形圧は13.7MPa(140kgf/cm)、シリンダー温度は常温、押出速度は300mm/minに設定した。次に、得られた成形体を炭焼きの窯に入れ、200〜500℃の温度で5時間加熱し、さらに加熱を停止して空気を遮断した状態で10時間放置した。そして、十分温度が下がった時点で、炭化処理して形成された繊維成形炭を窯から取り出した。
【0034】
(実施例2)
靭皮繊維として、ケナフの靭皮繊維を用いて繊維マットを製造する過程において排出された繊維屑のうち、集塵機によって捕集された繊維長10mm以下の繊維屑を用いた。この繊維屑を、実施例1と同様の方法により押出し成形及び炭化処理して、繊維成形炭を製造した。
【0035】
(比較例1)
市販の備長炭(ウバメガシ炭、直径50mm、長さ100mm)を入手した。
【0036】
(比較例2)
市販のオガタン(オガライトの炭化処理物、オリオンコール社製、直径50mm、長さ100mm)を入手した。
【0037】
(評価)
実施例及び比較例の木炭代替品又は木炭について、サンプル形状として直径25mm、長さ10mmの円筒状のものを用い、発熱量及び着火性を試験した。発熱量については、燃焼開始から燃焼終了後までの発熱量合計を測定し、重量あたりの発熱量を算出した。また、着火性については、燃焼開始後初期の時間あたりの発熱量を測定した。なお、燃焼開始後初期の時間としては、燃焼開始後60秒までの時間を設定した。また、各木炭代替品又は木炭の密度について測定した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

表1より、比較例1の備長炭に比べて、比較例2のオガタンは発熱量が低く、発熱性がよくないことが分かる。それに対して、実施例1及び2の繊維成形炭は、密度が若干低いため備長炭よりも発熱量が小さくなってはいるものの、オガタンよりも格段に大きい発熱量が得られており、実用上、備長炭と比べて遜色ないものとなっている。
【0039】
また、燃焼開始後初期の時間あたりの発熱量については、実施例1及び2の繊維成形炭の方が、比較例1の備長炭や比較例2のオガタンに比べて非常に大きく、実施例の繊維成形炭は着火しやすいことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻類の靭皮繊維を圧縮成形して得られる成形体を炭化処理して形成されたことを特徴とする繊維成形炭。
【請求項2】
麻類がケナフ及びジュートの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の繊維成形炭。
【請求項3】
上記靭皮繊維が、靭皮繊維を用いて形成される繊維マットの製造工程において排出された繊維屑から得られるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維成形炭。
【請求項4】
麻類の靭皮繊維を圧縮成形した後、炭化処理することを特徴とする繊維成形炭の製造方法。

【公開番号】特開2010−144082(P2010−144082A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323850(P2008−323850)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】