説明

繊維拡幅装置及び高圧ガスタンク製造装置

【課題】単繊維の損傷を抑制しつつ、繊維束の拡幅率を向上させる繊維束拡幅装置を提供する。
【解決手段】複数の単繊維からなる繊維束を広げる繊維拡幅装置は、繊維束と接触する接触表面を有し、接触表面において繊維束を拡げる拡幅ローラー10と、接触表面において、繊維束に対して、接触表面に繊維束が押し付けられる方向とは異なる方向に気体を噴射する噴射部と、を備える繊維束拡幅装置。拡幅ローラーはポーラス金属により形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束を広げる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に細かな単繊維からなる繊維束を巻き付けて、様々な部材が製造されている。例えば、繊維径が1〜5μm程度の単繊維(フィラメント)を数万本束ねたカーボン繊維を、樹脂製のライナーに巻きつけて高圧ガスタンクが製造されている。従来より、巻き付け時の繊維滑りの抑制等を目的として、繊維束を巻いたボビンから巻き付け対象物までの繊維束の搬送路において、繊維束を拡幅ローラーに押し付けて幅を広げることが行われていた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−313697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
拡幅ローラーを用いて繊維束を拡幅する技術では、押し付ける力により、単繊維同士の張り付きや、単繊維と拡幅ローラーとの張り付きが起こるので、拡幅率を向上させることは困難であった。また、拡幅率を向上させるために繊維束を拡幅ローラーに押し当てる力を強めた場合、単繊維を損傷させるおそれがあった。
【0005】
本発明は、単繊維の損傷を抑制しつつ、繊維束の拡幅率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]複数の単繊維からなる繊維束を広げる繊維拡幅装置であって、前記繊維束と接触する接触表面を有し、前記接触表面において前記繊維束を拡げる拡幅ローラーと、前記接触表面において、前記繊維束に対して、前記接触表面に前記繊維束が押し付けられる方向とは異なる方向に気体を噴射する噴射部と、を備える、繊維拡幅装置。
【0008】
適用例1の繊維拡幅装置では、拡幅ローラーの接触表面において、繊維束に対して、接触表面に繊維束が押し付けられる方向とは異なる方向に気体を噴射するので、押し付けられることによる単繊維同士の張り付きや、単繊維の拡幅ローラーへの張り付きを抑制できる。したがって、繊維束の拡幅率を向上させることができる。また、気体を噴射することにより拡幅率を向上させるので、繊維束を拡幅ローラーに押し付ける力を弱めることができ、拡幅ローラーにおける繊維の折れや曲がりなどの損傷を抑制できる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の繊維拡幅装置において、前記接触表面は、前記拡幅ローラーの外部表面であり、前記拡幅ローラーは、中空構造であり、前記拡幅ローラーの内部と前記接触表面とを連通する連通孔を有し、前記噴射部は、前記拡幅ローラーの内部に前記気体を送り込むことにより、前記連通孔を介して前記気体を噴射する、繊維拡幅装置。
【0010】
このような構成により、繊維束に対し、繊維束を拡幅ローラーに押し付ける力の方向とは反対の方向に気体を噴射することができる。したがって、繊維束を、繊維束の軸を中心として接触表面に沿って拡幅することができ、単繊維の偏りを抑制できる。また、拡幅ローラーに複数の繊維束を並べて配置する場合において、各繊維束を均等に拡幅することができる。
【0011】
[適用例3]適用例2に記載の繊維拡幅装置において、前記拡幅ローラーは、ポーラス金属により形成されている、繊維拡幅装置。
【0012】
このような構成により、連通孔として、多数の微小な孔を拡幅ローラーに設けることができる。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の繊維拡幅装置において、前記繊維束は、熱硬化性樹脂を含み、前記気体の温度は、130℃ないし180℃である、繊維拡幅装置。
【0014】
このような構成により、繊維束に含まれる熱硬化性樹脂を加熱して液状化でき、単繊維同士の張り付きや、単繊維の拡幅ローラーへの張り付きを、より低温の気体を吹き付ける場合に比べて、より抑制することができる。
【0015】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の繊維拡幅装置を備える、高圧ガスタンク製造装置。
【0016】
このような構成により、高圧ガスタンクを製造する際に、単繊維の損傷を抑制しつつ、繊維束の拡幅率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例としての高圧ガスタンク製造装置の構成を示す説明図である。
【図2】図1に示す拡幅ローラー10の拡大図である。
【図3】図2におけるA−A断面を模式的に示す説明図である。
【図4】図2におけるB−B断面を模式的に示す説明図である。
【図5】第2の実施例の高圧ガスタンク製造装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1の実施例:
図1は、本発明の一実施例としての高圧ガスタンク製造装置の構成を示す説明図である。高圧ガスタンク製造装置500は、フィラメントワインディング(FW)法により、カーボン繊維を略円筒状の樹脂ライナー200に巻き付けて高圧ガスタンクを製造する。製造された高圧ガスタンクは、例えば、燃料電池車両において、燃料ガスである水素ガスの収容タンクとして用いられる。
【0019】
高圧ガスタンク製造装置500は、4つの繊維ボビンB1〜B4と、4つのボビン駆動部M1〜M4と、8つのガイドローラーr1〜r8と、張力調整部30と、拡幅機構100と、繊維繰り出し部40と、ガイドシャフト42と、繊維巻付部50とを備えている。
【0020】
4つの繊維ボビンB1〜B4には、それぞれ同じカーボン繊維が予め巻きつけられている。カーボン繊維は、繊維径が1μm程度の単繊維cfを多数(例えば、2万本)束ねて構成されており、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が予め含侵されたいわゆるプリプレグである。このようなカーボン繊維としては、例えば、レーヨン系カーボン繊維や、ポリアクリロニトリル(PAN)系カーボン繊維や、ピッチ系カーボン繊維を用いることができる。なお、カーボン繊維束の断面は、略円状である。以下では、説明の便宜上、4つの繊維ボビンB1〜B4に巻き付けられたカーボン繊維を、それぞれカーボン繊維束f1〜f4と呼ぶ。
【0021】
ボビン駆動部M1は、繊維ボビンB1に接続されており、繊維ボビンB1を駆動してカーボン繊維束f1を繰り出す。このとき、ボビン駆動部M1は、繊維繰り出し部40と連動しており、樹脂ライナー200に巻き付けたカーボン繊維束f1の量に応じてカーボン繊維束f1を繊維ボビンB1から繰り出す。同様に、ボビン駆動部M2は繊維ボビンB2に、ボビン駆動部M3は繊維ボビンB3に、ボビン駆動部M4は繊維ボビンB4に、それぞれ接続され、接続されている繊維ボビンを駆動して繊維束を繰り出す。
【0022】
8つのガイドローラーr1〜r8は、それぞれ回転自在に配置されており、4つの繊維ボビンB1〜B4から繰り出されたカーボン繊維束f1〜f4を拡幅機構100まで搬送する。このとき、8つのガイドローラーr1〜r8は、それぞれカーボン繊維束f1〜f4に対して所定の張力を加える。このようなガイドローラーr1〜r8としては、例えば、樹脂や金属により円筒状に形成された部材を採用することができる。張力調整部30は、ガイドローラーr6に接続されており、ガイドローラーr6を変位させることにより、搬送中のカーボン繊維束f1〜f4の張力を調整する。
【0023】
拡幅機構100は、2つのガイドローラーr9,r10と、拡幅ローラー10と、エアコンプレッサー20と、配管15とを備えている。2つのガイドローラーr9,r10は、上述した8つのガイドローラーr1〜r8と同様な構成を有する。これらのガイドローラーr9,r10は、拡幅ローラー10を挟んで配置されており、カーボン繊維束f1〜f4を拡幅ローラー10に押し付けるように働く。
【0024】
図2は、図1に示す拡幅ローラー10の拡大図である。拡幅ローラー10は、押し付けられたカーボン繊維束f1〜f4の幅(搬送方向と垂直となる方向の長さ)を拡げる。拡幅ローラー10は、内部が中空の円筒形状を有している。拡幅ローラー10は、外殻部12と、蓋部11とを備える。外殻部は、カーボン繊維束f1〜f4の搬送方向に回転自在に構成されている。外殻部12は、ポーラス金属(多孔質化された金属)で形成されており、微小な孔13が多数設けられている。各孔13の孔径としては、例えば、1mm程度とすることができる。蓋部11は、外殻部12の一方の端面に配置されている。蓋部11は、配管15と接続され、配管15を介して供給される空気を、外殻部12の内部空間に送る。
【0025】
エアコンプレッサー20(図1)は、配管15を介して拡幅ローラー10と接続されており、拡幅ローラー10の内部に空気を送り込む。エアコンプレッサー20は、空気を1MPa以下の圧力に圧縮して送出する。なお、本実施例では、送り込む空気の温度は、常温(25℃程度)であるものとする。
【0026】
繊維繰り出し部40は、拡幅機構100から搬送された拡幅後のカーボン繊維束f1〜f4を繰り出して、後述の繊維巻付部50に配置された樹脂ライナー200に巻き付ける。繊維繰り出し部40は、ガイドシャフト42に沿って往復動作し、樹脂ライナー200の前面にカーボン繊維束f1〜f4を巻き付ける。ガイドシャフト42は、樹脂ライナー200の中心軸CXと平行に配置されている。なお、カーボン繊維束f1〜f4巻付方法として、フープ巻きやヘリカル巻きを採用することができる。
【0027】
繊維巻付部50は、基台51と、一対の支持板53,54と、回転駆動部52とを備えている。一対の支持板53,54は、所定の間隔を隔てて基台51に設置されており、樹脂ライナー200を回転自在に支持する。回転駆動部52は、支持板53の外側に配置されており、樹脂ライナー200の中心軸CXを中心として樹脂ライナー200を回転させる。なお、樹脂ライナー200は、ナイロン樹脂により形成され、中空構造を有している。
【0028】
前述の拡幅機構100は、請求項における拡幅装置に相当する。また、エアコンプレッサー20及び配管15は請求項における噴射部に相当する。
【0029】
図3は、図2におけるA−A断面を模式的に示す説明図である。図3の例では、カーボン繊維束f1が拡幅ローラー10(外殻部12)の外部表面に接触して押し付けられている。外殻部12に設けられた孔13は、外殻部12の厚み方向に沿って延びて形成されており、拡幅ローラー10の内部空間と外殻部12の外部表面とを連通する。したがって、拡幅ローラー10の内部空間からカーボン繊維束f1に向かって空気が吹き出している。このとき、空気の噴射方向は、カーボン繊維束f1を拡幅ローラー10に押し付ける力の方向と略反対方向である。なお、他のカーボン繊維束f2〜f4においても同様な構成となっている。
【0030】
図4は、図2におけるB−B断面を模式的に示す説明図である。図4の例では、カーボン繊維束f1が当接する部分について拡大して示している。カーボン繊維束f1は、2つのガイドローラーr9,r10(図1)から押し付け力を受けて、外殻部12に対して垂直に押し付けられている。このため、カーボン繊維束f1を構成する単繊維cfは、外殻部12の外部表面に沿って拡がるように移動し、カーボン繊維束f1の断面形状は扁平となる。図4に示すように、カーボン繊維束f1が拡幅される際に、カーボン繊維束f1に対して、押し付け力の向きとは反対向きに空気が噴射される。
【0031】
このようにカーボン繊維束f1に対して空気が噴射されることにより、カーボン繊維束f1において、単繊維cf同士の張り付き及び単繊維cfの外殻部12の外部表面への張り付きが抑制される。したがって、単繊維cfは大きく移動することができ、カーボン繊維束f1の幅は大きく広がっている。なお、他のカーボン繊維束f2〜f4も同様な構成となっている。
【0032】
以上説明したように、第1の実施例の高圧ガスタンク製造装置500は、拡幅機構100においてカーボン繊維束f1〜f4の幅を広げる際に、カーボン繊維束f1〜f4に対して、カーボン繊維束f1〜f4を押し付ける方向とは反対方向に空気を噴射するので、カーボン繊維束f1〜f4を構成する単繊維cf同士の張り付きや、単繊維cfの拡幅ローラー10(外殻部12)への張り付きを抑制することができる。したがって、単繊維cfを大きく移動させてカーボン繊維束f1〜f4の幅を大きく広げることができ、拡幅率を向上させることができる。また、このように単繊維cfを大きく移動させてカーボン繊維束f1〜f4の幅を大きく広げることができるので、カーボン繊維束f1〜f4を押し付ける力を弱めることができる。したがって、拡幅ローラー10における単繊維cfの折れや曲げなどの損傷を抑制できる。また、拡幅ローラー10の内部から空気を噴射するので、カーボン繊維束f1〜f4に均等に空気を当てることができる。また、カーボン繊維束f1〜f4を押し付ける方向とは反対方向に空気を噴射するので、各カーボン繊維束f1〜f4において、繊維束の軸を中心として外殻部12(外部表面)に沿って対称に拡幅することができ、単繊維cfの偏りを抑制できる。
【0033】
B.第2の実施例:
図5は、第2の実施例の高圧ガスタンク製造装置の構成を示す説明図である。第2の実施例の高圧ガスタンク製造装置500aは、拡幅機構の構成において高圧ガスタンク製造装置500(図1)と異なり、他の構成は第1の実施例と同じである。
【0034】
具体的には、第2の実施例の拡幅機構100aは、拡幅ローラー10に代えて拡幅ローラー10aを備えている点と、拡幅ローラー10aにエアコンプレッサー20が接続されていない点と、カーボン繊維束f1〜f4に空気を噴射する方向とにおいて、拡幅機構100(図1,2)と異なり、他の構成は第1の実施例と同じである。
【0035】
拡幅ローラー10aは、ガイドローラーr1〜r10と同様に、樹脂や金属により円筒状に形成された部材である。すなわち、第1の実施例の拡幅ローラー10とは異なり、拡幅ローラー10aは、孔13及び内部空間を備えていない。第2の実施例において、エアコンプレッサー20は、拡幅ローラー10aの表面に沿って空気を噴射する。このとき、エアコンプレッサー20は、拡幅ローラー10aに押し付けられたカーボン繊維束f1〜f4に対し、カーボン繊維束f1〜f4の搬送方向と垂直な方向に沿って空気を噴射する。
【0036】
このような構成を有する第2の実施例の高圧ガスタンク製造装置500aは、第1の実施例の高圧ガスタンク製造装置500と同じ効果を有する。
【0037】
C.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0038】
C1.変形例1:
上述した各実施例では、拡幅機構100,100aにおいてカーボン繊維束f1〜f4に噴射する空気の温度は常温(例えば、25℃)であったが、これに代えて、より高温の空気を噴射することもできる。例えば、第1の実施例においては、エアコンプレッサー20の内部またはエアコンプレッサー20と拡幅ローラー10との間に電熱線を配置した加熱室を設けて、この加熱室において空気を昇温してから拡幅ローラー10の内部に供給することができる。また、例えば、拡幅ローラー10の内部に電熱線を配置し、拡幅ローラー10の内部において空気を加熱してからカーボン繊維束f1〜f4に噴射することもできる。一般に、熱硬化性樹脂は、加熱されると一旦粘度が低下してほぼ液状となり、さらに加熱を継続すると架橋反応が進行して硬化する特性を有する。したがって、高温空気を噴射することによりカーボン繊維束f1〜f4に含まれる熱硬化性樹脂を軟化させ、単繊維cf同士の張り付きや、単繊維cfの拡幅ローラー10(外殻部12),10aの表面への張り付きを、より抑えることができる。
【0039】
ここで、昇温後の空気の温度としては、例えば、130℃〜180℃の範囲の温度が好ましい。熱硬化性樹脂の軟化は、この130℃〜180℃の範囲において起こり得るからである。なお、上記130℃〜180℃の範囲に限らず、さらに高温に空気を昇温させることもできる。
【0040】
C2.変形例2:
上述した各実施例において、拡幅ローラー10,10aは、カーボン繊維束f1〜f4の搬送方向に回転自在に配置されていたが、回転せずに固定して配置することもできる。また、上述した各実施例において、拡幅ローラー10,10aを振動させる構成とすることもできる。具体的には、拡幅機構100,100aにおいて、拡幅ローラー10,10aを超音波振動させるアクチュエータを設けて、かかるアクチュエータにより拡幅ローラー10,10aを振動させることもできる。アクチュエータとしては、例えば、発振器から出力される高周波信号に応じて振動する振動子と、振動子の振動を増幅させる増幅機構と、増幅後の振動を拡幅ローラー10,10aに伝達する伝達機構とを備える構成を採用することができる。このような構成により、拡幅ローラー10,10aを振動させて、単繊維cf同士の張り付きや、単繊維cfの拡幅ローラー10,10aへの張り付きをより抑えることができる。
【0041】
C3.変形例3:
上述した第1の実施例では、外殻部12は、ポーラス金属で形成されていたが、これに代えて、多数の孔を設けた薄い金属板(ステンレス等の板)や金属メッシュによって形成することもできる。多数の孔を設けた薄い金属板により外殻部12を形成する場合において、孔の断面形状として円形とすることができる。また、この場合において、孔の断面形状を外殻部12の幅方向に延びた長方形とし、孔をスリット状に配置することもできる。
【0042】
C4.変形例4:
上述した各実施例では、カーボン繊維束f1〜f4に噴射する気体は空気であったが、これに代えて、窒素ガス等の任意の気体を用いることができる。また、カーボン繊維束f1〜f4に対して空気を噴射する方向は、押し付ける方向と反対方向(第1の実施例)及び拡幅ローラー10aに沿ってカーボン繊維束f1〜f4の搬送方向に対して垂直となる方向(第2の実施例)に限定されるものではない。例えば、拡幅ローラー10aに沿って、カーボン繊維束f1〜f4の搬送方向に対して任意の角度だけずれた方向とすることもできる。この場合においても、単繊維cf同士の張り付きや、単繊維cfの拡幅ローラー10,10aへの張り付きを抑制できる。すなわち、一般には、繊維束が押し付けられる方向とは異なる方向に沿って気体を噴射する構成を、本発明の繊維拡幅装置及び高圧ガスタンク製造装置に採用することができる。
【0043】
C5.変形例5:
上述した各実施例では、カーボン繊維束f1〜f4に含まれる熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であったが、エポキシ樹脂に限らず任意の樹脂を採用することができる。例えば、フェノール樹脂や、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを用いることができる。また、カーボン繊維束f1〜f4を、熱硬化性樹脂を含まない構成とすることもできる。なお、この場合、繊維束の搬送路の途中において、熱硬化性樹脂を含侵させることもできる。また、カーボン繊維に代えて、ガラス繊維やアラミド繊維等任意の繊維を採用することもできる。これらの構成においても、本発明を適用することにより、単繊維cf同士の張り付きや、単繊維cfの拡幅ローラー10,10aへの張り付きを抑制できる。
【0044】
C6.変形例6:
上述した各実施例では、拡幅機構100,100aは、高圧ガスタンク製造装置500,500aの一部の機能部として構成されていたが、これに代えて、独立した装置(拡幅装置)として構成することもできる。この場合において、本発明の拡幅装置を、高圧タンク製造装置に限らず、繊維を巻きつける任意の装置に適用することもできる。例えば、車両や航空機等で用いられるプロペラシャフトやドアフレーム等に繊維を巻きつける装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
10,10a…拡幅ローラー
11…蓋部
12…外殻部
13…孔
15…配管
20…エアコンプレッサー
30…張力調整部
40…繊維繰り出し部
42…ガイドシャフト
50…繊維巻付部
51…基台
52…回転駆動部
53…支持板
100,100a…拡幅機構
200…樹脂ライナー
500,500a…高圧ガスタンク製造装置
cf…単繊維
B1〜B4…繊維ボビン
M1〜M4…ボビン駆動部
r1〜r10…ガイドローラー
f1〜f4…カーボン繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単繊維からなる繊維束を広げる繊維拡幅装置であって、
前記繊維束と接触する接触表面を有し、前記接触表面において前記繊維束を拡げる拡幅ローラーと、
前記接触表面において、前記繊維束に対して、前記接触表面に前記繊維束が押し付けられる方向とは異なる方向に気体を噴射する噴射部と、
を備える、繊維拡幅装置。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維拡幅装置において、
前記接触表面は、前記拡幅ローラーの外部表面であり、
前記拡幅ローラーは、中空構造であり、前記拡幅ローラーの内部と前記接触表面とを連通する連通孔を有し、
前記噴射部は、前記拡幅ローラーの内部に前記気体を送り込むことにより、前記連通孔を介して前記気体を噴射する、繊維拡幅装置。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維拡幅装置において、
前記拡幅ローラーは、ポーラス金属により形成されている、繊維拡幅装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の繊維拡幅装置において、
前記繊維束は、熱硬化性樹脂を含み、
前記気体の温度は、130℃ないし180℃である、繊維拡幅装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の繊維拡幅装置を備える、高圧ガスタンク製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−189812(P2010−189812A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36552(P2009−36552)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】