説明

繊維束の巻取装置及び繊維束パッケージの製造方法

【課題】
巻取スピンドルを切り替えつつ連続的に巻取が行われるターレット式の巻取装置において、ターレットの際、ターレット部材による公転速度分増速され、パッケージに過大な張力が作用することを防ぐ繊維束の巻取装置及び繊維束パッケージの製造方法を提供する。
【解決手段】
互いに平行な軸線を持つ1対のスピンドルをターレット部材の中心を挟んで同一円周上の対称位置に配置し、その1対のスピンドルで交互に巻取をおこなうレボルビングタイプの巻取機であって、ターレット部材を回転させ巻取スピンドルと待機スピンドルの位置を入れ替え、巻取スピンドルを切り替えるにあたり、ターレット部材の回動に応じ巻取スピンドルの回転数を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、炭素繊維のように高弾性率の繊維束をボビンに巻取る際に、過大な張力を与えることなく解舒性の良い高品位な繊維束パッケージに巻き取ることを可能とする繊維束の巻取装置および繊維束パッケージの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続的に供給される繊維束をボビンに巻き取る場合には、いわゆるターレット式の巻取装置によって巻取スピンドルを切り替えつつ連続的に巻取が行われる。このターレット式巻取装置は、複数本のスピンドルを突設したターレット部材がフレーム等に回転自在に設けられており、通常巻取時は巻取位置にある巻取スピンドルにて巻取を行い、巻取量が所定量に達したらターレット部材を回動させ巻取スピンドルの切替を行う。すなわち、巻取位置にあるスピンドルと待機位置にあるスピンドルとの位置を入れ替え、新たに巻取位置に配置されたスピンドルに繊維束を掛け替える。
【0003】
このようなターレット式の巻取装置においては、巻取スピンドルの切替の際、スピンドルが回転しつつスピンドル自身が移動するため、繊維束の走行速度はターレット部材によるスピンドルの移動速度分増速され、パッケージに過大な張力が作用することとなる。
【0004】
上述のような課題に対し、たとえば特許文献1に示すような巻取装置が提案されている。すなわち、ダンサーアームを備え、ダンサーアームの傾動に対応してスピンドルの回転数を制御する巻取装置であって、ダンサーアームが設定された角度まで傾動するとスピンドルの回転及びターレット部材の回転を一時的に停止し、過大な張力の作用を抑制する巻取装置である。
【0005】
しかしながら、一般的にダンサーアームを用いたスピンドルの回転数制御では、ダンサーアームの傾動角が大きくなるほど大きな張力が付与されるので、ダンサーアームの傾動角が一定となるようスピンドルの回転数を制御する。よって、ダンサーアームの傾動角が設定値まで大きくなった時点でスピンドルの回転を停止しても張力は一旦初期の張力より高くなっており、またメカロスや応答遅れにより急激な張力変動には追従できない。すなわちこのような従来技術を用いても結局張力の変動は避けられない。
【特許文献1】特開平4−201949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、巻取スピンドル切替時にパッケージに過大な張力が作用することを防ぐ繊維束の巻取装置及び繊維束パッケージの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、次のような構成を有する。
【0008】
(1)互いに平行な軸を持つ複数本のスピンドルをターレット部材の回転中心を中心とする一つの円の円周上に均等配置したレボルビングタイプの巻取機であって、ターレット部材を回転させて繊維束を巻き取る巻取スピンドルを入れ替えるにあたりターレット部材の回動に応じて巻取スピンドルの回転数を制御する繊維束の巻取装置。
【0009】
(2)繊維束の張力を測定する張力測定手段と、通常巻取時には張力測定手段で測定される張力値に基づき巻取スピンドルの回転数を制御するとともに巻取スピンドル切替時にはあらかじめ設定された回転数に巻取スピンドルの回転数を制御する回転数制御手段とを備えている、上記(1)に記載の繊維束の巻取装置。
【0010】
(3)巻取スピンドル切替開始時の巻取スピンドル回転数N(rpm)、満パッケージ半径r(mm)、ターレット部材の回転軸からスピンドルの回転軸までの距離R(mm)、および巻取スピンドル切替時のターレット部材回転数M(rpm)を記憶するパラメータ設定手段と、パラメータ設定手段に記憶された値に基づいて、巻取スピンドル回転数を、巻取スピンドル切替時に一旦(N−((r+R)/r)×M)に低下させ、その後巻取スピンドル切替終了時もしくは所定の角度ターレット部材が回動した時点でNとなるよう漸増させる速度指令値を計算する演算手段とを備え、前記回転数制御手段が該演算手段からの速度指令に基づきスピンドルの回転数を制御する、上記(2)に記載の繊維束の巻取装置。
【0011】
(4)巻取スピンドル切替開始からの時間を計測する時間計測手段もしくは巻取スピンドルの移動量を測定する位置測定手段を備え、前記回転数制御手段が、該時間計測手段もしくは位置測定手段からの信号に基づき、あらかじめ設定された速度指令に基づく制御から張力測定手段で測定される張力値に基づく制御に切り替え巻取スピンドルの回転数を制御する、上記(2)または(3)に記載の繊維束の巻取装置。
【0012】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維束の巻取装置を備えたことを特徴とする繊維束パッケージの製造装置。
【0013】
(6)複数本のスピンドルの位置を順次入れ替え、繊維束を巻き取る巻取スピンドルを切り替えつつ巻取をおこない連続的に繊維束パッケージを製造する繊維束パッケージの製造方法であって、巻取スピンドルを切り替える際に、巻取スピンドルの移動速度に応じて巻取スピンドルの回転数を変動させて繊維束を巻き取る繊維束パッケージの製造方法。
【0014】
(7)通常巻取時は巻き取っている繊維束の張力が一定となるように巻取スピンドルの回転数を制御し、巻取スピンドル切替時にはあらかじめ設定された値に巻取スピンドルの回転数を制御する、上記(6)に記載の繊維束パッケージの製造方法。
【0015】
(8)巻取スピンドル切替時には、スピンドル回転数の指令値を一旦あらかじめ設定した値にだけ減算し、巻取スピンドル切替終了時もしくは巻取スピンドルが所定距離移動した後にスピンドル回転数の指令値の減算量が零となるよう制御する、上記(6)または(7)に記載の繊維束パッケージの製造方法。
【0016】
(9)巻取スピンドルの切替開始時の巻取スピンドル回転数N(rpm)、満パッケージ半径r(mm)、ターレット部材の回転軸からスピンドルの回転軸までの距離R(mm)、および巻取スピンドル切替時のターレット部材回転数M(rpm)に基づいて、巻取スピンドル回転数を、巻取スピンドル切替時に一旦(N−((r+R)/r)×M)に低下させ、その後巻取スピンドル切替終了時もしくは所定の角度ターレット部材が回動した時点でNとなるよう漸増させる、上記(8)に記載の繊維束パッケージの製造方法。
【0017】
(10)(M×(R+r))/(N×r)≧0.1である、上記(9)に記載の繊維束パッケージの製造方法。
【0018】
(11)巻取スピンドルの切替開始からあらかじめ設定された時間が経過した後、もしくは巻取スピンドルがあらかじめ設定された距離を移動した後に、あらかじめ設定された値に巻取スピンドルの回転数を制御する制御方法から張力が一定となるように巻取スピンドルの回転数を制御する制御方法に切り替える、上記(7)〜(10)のいずれかに記載の繊維束パッケージの製造方法。
【0019】
なお、本発明において「通常巻取時」とは、巻取位置にて繊維束パッケージを巻き取っている間のことであり、ボビンへの繊維束の巻初めからターレット部材の回動開始までの時間である。一方、「巻取スピンドル切替時」とは巻取位置にあるスピンドルと待機位置にあるスピンドルとの位置を入れ替え、新たに巻取位置に配置されたスピンドルに繊維束を掛け替えるまでの間のことであり、ターレット部材の回動開始から次のボビンへの巻初めまでの時間である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ターレット部材を回動させて繊維束を巻き取る巻取スピンドルを入れ替えるにあたり、ターレット部材の回動に応じて巻取スピンドルの回転数を制御することで、過大な張力を作用させることなく繊維束をパッケージに巻き上げることができ、高品位な繊維束パッケージを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の最良の実施形態の例について、図面などに基づいて更にくわしく説明する。図1は、本発明の繊維束の巻取装置の全体概要を示した斜視図である。
【0022】
図1において、巻取装置1における繊維束の概略の流れを説明すると、図示しない上流工程から搬送ロールを経て、最終の糸道ガイド5を通過した繊維束6は、図の矢印P方向に往復動運動するトラバースガイド4により、前記糸道ガイド5を支点とする綾振り運動を与えられ、ボビンに巻取られる。ボビンはスピンドル2a,2bに挿入・把持されており、図示しないモータによりスピンドル2a,2bが駆動され、ボビン上に繊維束6が巻取られる。前記モータにはACモータやステッピングモータなどの公知のモータを用いることができ、特にACモータのなかでもインダクションモータやトルクモータ等が好適に用いられる。
【0023】
さらに、本実施形態の巻取装置1は、フレーム8に回動自在に支持されたターレット部材3を有し、ターレット部材3の回転中心と同心円上の対称位置に一対のスピンドル2a,2bが互いに軸が平行になるように配置されている。これらスピンドル2a,2bは、一方が繊維束6の巻取を行う巻取スピンドル、他方が待機スピンドルとなり、巻取位置にあるスピンドル2aでの巻取が完了したらターレット部材を回動させ巻取位置にあるスピンドル2aと待機位置にあるスピンドル2bとを入れ替え、新たに巻取位置に配置されるスピンドル2bに繊維束6を掛け替えることで連続的に巻取を行う。
【0024】
また、本実施形態の巻取装置1には、張力測定手段および回転数制御手段(図示しない)が設けられている。張力測定手段では巻取中の繊維束6の張力が測定され、回転数制御手段が、張力測定手段で測定された値をモータの回転数に変換し、その回転数に基づいてモータの回転数制御量を導き出し、モータの回転数を制御する。
【0025】
張力測定手段には、傾動可能に設置されたダンサーアームの傾きを測定する形式のものなど、公知の張力測定手段を用いることができるが、片持ち梁上に糸道ガイドを配置し、その片持ち梁のたわみを測定することで張力を求める形式の張力測定手段を用いることが、糸道ガイド点数を最小限にすることができ繊維束へのダメージを軽減できるので好ましい。また、ダンサーアームの様な可動部分が無いため糸道が安定し得られるパッケージの端面品位をよくすることができるので好ましい。
【0026】
回転数制御手段は、各種パラメータ設定手段や演算手段を備えている。各種パラメータ設定手段は、巻取スピンドル切替開始時の巻取スピンドル回転数N(rpm)、満パッケージ半径r(mm)、ターレット部材の回転軸からスピンドルの回転軸までの距離R(mm)、および巻取スピンドル切替時のターレット部材回転数M(rpm)などのパラメータを設定、記憶できるように構成されている。また、演算手段は、パラメータ設定手段に記憶された値に基づいて、巻取スピンドル回転数への回転数指令値を計算する演算手段を備えている。
【0027】
さらに、本実施形態の巻取装置1には、巻取スピンドル切替開始からの時間を計測する時間計測手段もしくは巻取スピンドルの移動量を測定する位置測定手段を設け、回転数制御手段が、これら時間計測手段もしくは位置測定手段からの信号に基づいて、あらかじめ設定された速度指令に基づく制御から張力測定手段で測定される張力値に基づく制御に切り替えて巻取スピンドルの回転数を制御することができるように構成することが好ましい。
【0028】
次に、この繊維束の巻取装置の作用について説明する。
【0029】
図2は、上述の巻取装置における制御の概略図、図3はターレット部材の回動によるスピンドル位置の入れ替えの模式図である。なお、図3の(a)は通常巻取時、(b)は巻取スピンドル切替時(ターレット部材回動途中)、(c)は巻取スピンドル切替時(ターレット部材回動完了時)を示している。この後、新たに巻取位置に配置されたスピンドルに繊維束を掛け替え、巻取スピンドル切替を完了し再び通常巻取となる。
【0030】
この巻取装置では、図2に示すように、通常巻取時に張力測定手段にて張力を測定し、測定値があらかじめ設定された値となるよう、回転数制御手段にてモータ回転数を制御する。このようにすることでパッケージが巻太り、パッケージ外径が変わっても、設定された張力にて巻取を行うことができる。
【0031】
また、カウンタ(時間計測手段)にて巻初めからの巻時間や巻厚などの繊維束の巻取量を計測する。巻取量があらかじめ設定された満巻量に達したら図3に示すようにターレット部材を回動させ、巻取位置にあるスピンドル2aと待機位置にあるスピンドル2bとを入れ替える。繊維束6を巻き取るスピンドルの切替は、公知の切替手段を用い、先に巻取位置にあったスピンドル2aで巻き取っている繊維束6を切断し、続いて巻取位置に配置されるスピンドル2bにその繊維束を巻掛け巻取を開始する。
【0032】
このとき、ターレット部材の回動に合わせてカウンタから回転数制御手段に信号が送られ、巻取位置にあったスピンドル2aの回転数が低下する。具体的には、満パッケージ半径r(mm)、ターレット部材の回転軸からスピンドルの回転軸までの距離R(mm)、糸切替時のターレット部材の回転数M(rpm)が予めパラメータ設定手段に記憶されており、また巻取スピンドル切替開始時のスピンドル回転数N(rpm)も回転数制御手段からパラメータ設定手段に送られて記憶され、これらの値を基に演算手段が巻取スピンドルの回転数低下量を演算し、((r+R)/r)×Mだけ回転数制御手段からの回転数指令値を低下させる。すなわち、巻取位置にあったスピンドル2aの回転数を(N−((r+R)/r)×M)に低下させる。このようにターレット部材の回転速度に応じて巻取スピンドルの回転数を低下させることで、過大な張力変動を抑制することができる。
【0033】
そして、一般的にターレット部材は円運動を行うため、ターレット部材の回転速度は一定でもターレット部材の回動による回転速度の繊維束の走行方向成分は時々刻々変化する。そのため、この変化に対応して巻取スピンドルの回転数を変化させることが好ましい。
【0034】
例えば図3(a)に示すように、通常巻取時はほぼ水平位置に巻取スピンドルが位置しているとすると、ターレット部材の回動開始時にはターレット部材の回動の速度((r+R)/r)×Mがほぼそのまま繊維束の速度vに加わる。一方、通常巻取時のスピンドル位置から約90°ターレット部材が回動した図3(b)の位置では、ターレット部材の回動の回転速度方向と繊維束の走行方向はほぼ垂直であり、ターレット部材の回動による繊維束の走行速度の増速はほとんどない。よってターレット部材の回動による繊維束の走行速度の増加量は図3(a)の位置にあるターレット部材の回動開始時が一番大きく、図3(b)の位置までターレット部材が回動するにつれて漸減していく。この漸減の割合は最終の糸道ガイドと巻取スピンドルの位置関係やターレットの開始・終了位置により決まり、この漸減量に合わせてスピンドルの回転数を変化させ繊維束の走行速度が一定となるようにすることが好ましい。ただし、実用上は図3(a)の位置から図3(b)の位置にかけスピンドル回転数の低下量を((r+R)/r)×Mから零まで巻取スピンドルの移動量に合わせ直線的に変化させてもよい。
【0035】
上述のように、本発明では、巻取スピンドルの切替中、巻取スピンドルの回転はターレット部材の回動に応じあらかじめ設定された値で回転させる速度制御となるが、巻取スピンドル回転数の低下量を漸減させ(すなわち、スピンドルの回転数を漸増させ)、通常巻取速度近辺まで回転数が戻った時点で設定された張力で張力値が一定となるように張力値に基づき巻取スピンドルの回転数を制御する方法に切り替えることが好ましい。なお、通常巻取速度近辺まで回転数が戻った時点とは、巻取スピンドル切替開始時の巻取スピンドルの回転数Nとの差が10%以内になった時点である。図3では(b)の位置であり、(b)の位置までターレット部材が回動したことを位置センサで検出するか、(b)の位置までターレット部材が回動する時間をタイマーにて計測し、制御の方法を切り替える。すなわち、巻取スピンドルの切替開始から巻取スピンドルがあらかじめ設定された距離を移動した後もしくは巻取スピンドルの切替開始からあらかじめ設定された時間が経過した後に、巻取スピンドルの回転数をあらかじめ設定された値に制御する制御方法から張力が一定となるように制御する制御方法に切り替えることが好ましい。このように制御の方法を切り替えることで、過大な張力変動を及ぼすことなくよりスムーズに速度制御から張力制御に切り替えることが可能となる。
【0036】
さらに、巻取スピンドル切替時の張力増加は巻取速度に対してターレット部材の回転速度が大きいほど顕著であり、特に(M×(R+r))/(N×r)≧0.1となる条件で顕著である。本発明を採用しない場合、このような条件ではターレット部材の回転速度分張力が過大となり、糸切れが生じる恐れがある。また、糸強度が高く糸切れが生じないような場合でも、速度指令値に対し実際の回転数が上がらないため、モータを傷めることとなる。また、巻取パッケージに対しても過大な張力が作用することとなるため、パッケージが巻崩れたり解舒性が悪化したりする恐れがある。
【0037】
このような張力変動はアラミド繊維やガラス繊維、炭素繊維などのいわゆる強化繊維において顕著であり、特に繊維束の縦弾性率が50GPa以上1000GPa以下の繊維束において顕著である。したがって、本発明はこれらの繊維束を巻き取りパッケージを製造する際に好適に用いられる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
図1に示す繊維束の巻取装置を用いて、ポリアクリロニトリル系繊維を前駆体繊維とする炭素繊維束(単繊維数12000本、単繊維直径7μm、縦弾性率230GPa)を巻取速度10m/分、綾振り幅250mmで外径φ80mmのボビンへ巻き取った。
【0039】
巻取はパッケージ外径がφ210mmまで行った。よって、満巻時のスピンドル回転数Nは15rpmであった。また、ターレット部材の回転中心からスピンドルの回転軸までの距離Rは100mmであり、巻取スピンドル切替時のターレット部材の回転速度Mは5rpmとした。このとき巻取速度に対するターレット部材の回動による増速割合(M×(R+r))/(N×r)は0.65であった。
【0040】
スピンドルの駆動には低速でも安定して回転させるため、トルクモータを用いた。また、ターレット部材の回動にはステッピングモータを用いた。張力測定手段はダンサーを用いた形式とし、最終の糸道ガイド5の上流にダンサーロールを設けた。ダンサーロールの傾動はロータリエンコーダにて検出し、回転数制御手段にてこのロータリエンコーダからの測定値と張力の設定値とを比較し、偏差を無くすようモータへの供給電圧を加減した。ダンサーロールは下限位置にて張力が4N、上限位置にて10Nとなるよう調整されており、6Nの位置を張力の設定値とした。
【0041】
また、巻取中はカウンタにて巻時間を計測し、巻径がφ210mmに到達する満巻時間になると、カウンタからの満巻の信号を受け、図3に示すように、糸切替動作を開始した。
【0042】
糸切替動作はまず、ステッピングモータにてターレット部材3を180°回動させた。このとき、ターレット部材3が動き始めるのと同時に、スピンドル2aの駆動モータへの供給電圧をスピンドル回転数が(N−((r+R)/r)×M)(rpm)となるように降下させた。なお、回転数の減少量とモータへの供給電圧の降下量の関係はあらかじめ測定しておいた。またターレット部材3の回動は円運動であり、図3(b)に示す位置が繊維束の供給から最遠点となりターレット部材3の回転速度の巻取速度成分は零となる。よって、スピンドル2aの駆動モータへの供給電圧の降下分を、図3(b)の位置、すなわちターレット部材3が約90°回動した位置(90°位置)にて零とし、ターレット部材3の回動始めから90°位置までの間は直線的に補間した値に設定した。そして90°位置以降は、ダンサーロールによる張力制御に切り替えて巻取を行い、180°スピンドルの位置が入れ替わった時点で、スピンドル2aで巻き取っていた繊維束を切断し、新たに巻取位置に配置されたスピンドル2bに掛け替え、糸切替を行った。
【0043】
上記ターレットの間の巻取張力変動は最大6.8N、最小5.6Nであり、張力変動を14%以内に抑えることができた。
【0044】
(実施例2)
張力測定手段を、ダンサーロールを用いた形式から、最終の糸道ガイド5を片持ち梁状に支持し梁のたわみにて張力を検出する形式に代えた以外は実施例1と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った。たわみの検出にはロードセルを用いた。
【0045】
結果、ターレットの間の巻取張力変動は最大7.3N、最小4.3Nであり、張力変動を29%以内に抑えることができた。また、ダンサーロールの様な動く要素がないため、巻取中糸道は安定しており、実施例1のパッケージと比べ、パッケージ端面の品位は良好であった。
【0046】
(実施例3)
図1に示す繊維束の巻取装置を用いて、ポリアクリロニトリル系繊維を前駆体繊維とする炭素繊維束(単繊維数12000本、単繊維直径7μm、縦弾性率230GPa)を巻取速度10m/分、綾振り幅250mmで外径φ80mmのボビンへ巻き取った。
【0047】
巻取はパッケージ外径がφ210mmまで行った。よって、満巻時のスピンドル回転数Nは15rpmであった。また、ターレット部材の回転中心からスピンドルの回転軸までの距離Rは100mmであり、巻取スピンドル切替時のターレット部材の回転速度Mは5rpmとした。このとき巻取速度に対するターレット部材の回動による増速割合(M×(R+r))/(N×r)は0.65であった。
【0048】
スピンドルおよびターレット部材の駆動モータ、張力測定手段等は実施例1と同じ形式とし、ダンサーロールは下限位置にて張力が5N、上限位置にて12Nとなるよう調整されており、7Nの位置を張力の設定値とした。
【0049】
また、糸切替は実施例1と同様の手順にて行った。
【0050】
上記ターレットの間の巻取張力変動は最大8N、最小6.5Nであり、張力変動を15%以内に抑えることができた。
【0051】
(実施例4)
張力測定手段を、ダンサーロールを用いた形式から、最終の糸道ガイド5を片持ち梁状に支持し梁のたわみにて張力を検出する形式に代えた以外は実施例3と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った。たわみの検出にはロードセルを用いた。
【0052】
結果、ターレットの間の巻取張力変動は最大8.5N、最小5Nであり、張力変動を29%以内に抑えることができた。また、ダンサーロールの様な動く要素がないため、巻取中糸道は安定しており、実施例3のパッケージと比べ、パッケージ端面の品位は良好であった。
【0053】
(実施例5)
図1に示す繊維束の巻取装置を用いて、ポリアクリロニトリル系繊維を前駆体繊維とする炭素繊維束(単繊維数12000本、単繊維直径7μm、縦弾性率230GPa)を巻取速度15m/分、綾振り幅250mmで外径φ80mmのボビンへ巻き取った。
【0054】
巻取はパッケージ外径がφ210mmまで行った。よって、満巻時のスピンドル回転数Nは23rpmであった。また、ターレット部材の回転中心からスピンドルの回転軸までの距離Rは100mmであり、巻取スピンドル切替時のターレット部材の回転速度Mは5rpmとした。このとき巻取速度に対するターレット部材の回動による増速割合(M×(R+r))/(N×r)は0.42であった。
【0055】
スピンドルおよびターレット部材の駆動モータ、張力測定手段等は実施例1と同じ形式とし、ダンサーロールは下限位置にて張力が4N、上限位置にて10Nとなるよう調整されており、6Nの位置を張力の設定値とした。
【0056】
また、糸切替は実施例1と同様の手順にて行った。
【0057】
上記ターレットの間の巻取張力変動は最大6.6N、最小5.6Nであり、張力変動を10%以内に抑えることができた。
【0058】
(実施例6)
張力測定手段を、ダンサーロールを用いた形式から、最終の糸道ガイド5を片持ち梁状に支持し梁のたわみにて張力を検出する形式に代えた以外は実施例5と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った。たわみの検出にはロードセルを用いた。
【0059】
結果、ターレットの間の巻取張力変動は最大7N、最小4.8Nであり、張力変動を20%以内に抑えることができた。また、ダンサーロールの様な動く要素がないため、巻取中糸道は安定しており、実施例5のパッケージと比べ、パッケージ端面の品位は良好であった。
【0060】
(実施例7)
図1に示す繊維束の巻取装置を用いて、ポリアクリロニトリル系繊維を前駆体繊維とする炭素繊維束(単繊維数12000本、単繊維直径7μm、縦弾性率230GPa)を巻取速度15m/分、綾振り幅250mmで外径φ80mmのボビンへ巻き取った。
【0061】
巻取はパッケージ外径がφ210mmまで行った。よって、満巻時のスピンドル回転数Nは23rpmであった。また、ターレット部材の回転中心からスピンドルの回転軸までの距離Rは100mmであり、巻取スピンドル切替時のターレット部材の回転速度Mは5rpmとした。このとき巻取速度に対するターレット部材の回動による増速割合(M×(R+r))/(N×r)は0.42であった。
【0062】
スピンドルおよびターレット部材の駆動モータ、張力測定手段等は実施例1と同じ形式とし、ダンサーロールは下限位置にて張力が5N、上限位置にて12Nとなるよう調整されており、7Nの位置を張力の設定値とした。
【0063】
また、糸切替は実施例1と同様の手順にて行った。
【0064】
上記ターレットの間の巻取張力変動は最大7.8N、最小6.5Nであり、張力変動を12%以内に抑えることができた。
【0065】
(実施例8)
張力測定手段を、ダンサーロールを用いた形式から、最終の糸道ガイド5を片持ち梁状に支持し梁のたわみにて張力を検出する形式に代えた以外は実施例5と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った。たわみの検出にはロードセルを用いた。
【0066】
結果、ターレットの間の巻取張力変動は最大8.2N、最小5.5Nであり、張力変動を22%以内に抑えることができた。また、ダンサーロールの様な動く要素がないため、巻取中糸道は安定しており、実施例7のパッケージと比べ、パッケージ端面の品位は良好であった。
(比較例1)
巻取スピンドル切替時にも、ダンサーロールにて測定される張力値が一定となるように回転数を制御する通常巻取時と同じ制御方法とした以外は実施例1と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った結果、急激な張力の変動に制御が対応仕切れず、ターレット開始時にダンサーロールが上限まで振り切り、ターレット中の張力変動は70%以上であった。
【0067】
(比較例2)
張力測定手段を、ダンサーロールを用いた形式から、最終の糸道ガイド5を片持ち梁状に支持し梁のたわみにて張力を検出する形式に代えた以外は比較例1と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った。たわみの検出にはロードセルを用いた。
【0068】
結果、ターレット開始時に急激に張力が掛かり、過大な張力によりスピンドル駆動モータの回転が低下し、張力も通常巻取時の2倍以上となった。また、ターレット終了時に最終の糸道ガイド5の上流で繊維束が大きくたるみ、最終の糸道ガイド5の上流で繊維束を送り出すフィードロールへの繊維束の巻き付きが生じた。
【0069】
(比較例3)
巻取スピンドル切替時にも、ダンサーロールにて測定される張力値が一定となるように回転数を制御する通常巻取時と同じ制御方法とした以外は実施例3と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った結果、急激な張力の変動に制御が対応仕切れず、ターレット開始時にダンサーロールが上限まで振り切り、ターレット中の張力変動は70%以上であった。
【0070】
(比較例4)
張力測定手段を、ダンサーロールを用いた形式から、最終の糸道ガイド5を片持ち梁状に支持し梁のたわみにて張力を検出する形式に代えた以外は比較例3と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った。たわみの検出にはロードセルを用いた。
【0071】
結果、ターレット開始時に急激に張力が掛かり、過大な張力によりスピンドル駆動モータの回転が低下し、張力も通常巻取時の2倍以上となった。
【0072】
(比較例5)
巻取スピンドル切替時にも、ダンサーロールにて測定される張力値が一定となるように回転数を制御する通常巻取時と同じ制御方法とした以外は実施例5と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った結果、急激な張力の変動に制御が対応仕切れず、ターレット開始時にダンサーロールが上限ぎりぎりの9.8Nまで跳ね上がり、ターレット中の張力変動は63%以上であった。
【0073】
(比較例6)
張力測定手段を、ダンサーロールを用いた形式から、最終の糸道ガイド5を片持ち梁状に支持し梁のたわみにて張力を検出する形式に代えた以外は比較例5と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った。
【0074】
結果、ターレット開始時に急激に張力が掛かり、過大な張力によりスピンドル駆動モータの回転が低下し、張力も通常巻取時の2倍以上となった。
【0075】
(比較例7)
巻取スピンドル切替時にも、ダンサーロールにて測定される張力値が一定となるように回転数を制御する通常巻取時と同じ制御方法とした以外は実施例7と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った結果、急激な張力の変動に制御が対応仕切れず、ターレット開始時にダンサーロールが上限ぎりぎりの11.5Nまで跳ね上がり、ターレット中の張力変動は64%以上であった。
【0076】
(比較例8)
張力測定手段を、ダンサーロールを用いた形式から、最終の糸道ガイド5を片持ち梁状に支持し梁のたわみにて張力を検出する形式に代えた以外は比較例7と同様に、炭素繊維束の巻取・糸切替を行った。
【0077】
結果、ターレット開始時に急激に張力が掛かり、過大な張力によりスピンドル駆動モータの回転が低下し、張力も通常巻取時の2倍以上となった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、順次巻取スピンドルを切り替えながら連続的に巻き取るものであれば繊維束に限らず、帯状物やフィルム等の巻取などにも応用することができ、さらにその応用範囲はこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態を示す繊維束の巻取装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す繊維束の巻取装置における制御の概略図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す繊維束の巻取装置におけるターレットの模式図である。
【符号の説明】
【0080】
1:巻取装置
2a:スピンドル
2b:スピンドル
3:ターレット部材
4:トラバースガイド
5:最終の糸道ガイド
6:繊維束
8:フレーム
P:トラバース方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な軸を持つ複数本のスピンドルをターレット部材の回転中心を中心とする一つの円の円周上に均等配置したレボルビングタイプの巻取機であって、ターレット部材を回転させて繊維束を巻き取る巻取スピンドルを入れ替えるにあたりターレット部材の回動に応じて巻取スピンドルの回転数を制御する繊維束の巻取装置。
【請求項2】
繊維束の張力を測定する張力測定手段と、通常巻取時には張力測定手段で測定される張力値に基づき巻取スピンドルの回転数を制御するとともに巻取スピンドル切替時にはあらかじめ設定された回転数に巻取スピンドルの回転数を制御する回転数制御手段とを備えている、請求項1に記載の繊維束の巻取装置。
【請求項3】
巻取スピンドル切替開始時の巻取スピンドル回転数N(rpm)、満パッケージ半径r(mm)、ターレット部材の回転軸からスピンドルの回転軸までの距離R(mm)、および巻取スピンドル切替時のターレット部材回転数M(rpm)を記憶するパラメータ設定手段と、パラメータ設定手段に記憶された値に基づいて、巻取スピンドル回転数を、巻取スピンドル切替時に一旦(N−((r+R)/r)×M)に低下させ、その後巻取スピンドル切替終了時もしくは所定の角度ターレット部材が回動した時点でNとなるよう漸増させる速度指令値を計算する演算手段とを備え、前記回転数制御手段が該演算手段からの速度指令に基づきスピンドルの回転数を制御する、請求項2に記載の繊維束の巻取装置。
【請求項4】
巻取スピンドル切替開始からの時間を計測する時間計測手段もしくは巻取スピンドルの移動量を測定する位置測定手段を備え、前記回転数制御手段が、該時間計測手段もしくは位置測定手段からの信号に基づき、あらかじめ設定された速度指令に基づく制御から張力測定手段で測定される張力値に基づく制御に切り替え巻取スピンドルの回転数を制御する、請求項2または3に記載の繊維束の巻取装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の繊維束の巻取装置を備えたことを特徴とする繊維束パッケージの製造装置。
【請求項6】
複数本のスピンドルの位置を順次入れ替え、繊維束を巻き取る巻取スピンドルを切り替えつつ巻取をおこない連続的に繊維束パッケージを製造する繊維束パッケージの製造方法であって、
巻取スピンドルを切り替える際に、巻取スピンドルの移動速度に応じて巻取スピンドルの回転数を変動させて繊維束を巻き取る繊維束パッケージの製造方法。
【請求項7】
通常巻取時は巻き取っている繊維束の張力が一定となるように巻取スピンドルの回転数を制御し、巻取スピンドル切替時にはあらかじめ設定された値に巻取スピンドルの回転数を制御する、請求項6に記載の繊維束パッケージの製造方法。
【請求項8】
巻取スピンドル切替時には、スピンドル回転数の指令値を一旦あらかじめ設定した値にだけ減算し、巻取スピンドル切替終了時もしくは巻取スピンドルが所定距離移動した後にスピンドル回転数の指令値の減算量が零となるよう制御する、請求項6または7に記載の繊維束パッケージの製造方法。
【請求項9】
巻取スピンドルの切替開始時の巻取スピンドル回転数N(rpm)、満パッケージ半径r(mm)、ターレット部材の回転軸からスピンドルの回転軸までの距離R(mm)、および巻取スピンドル切替時のターレット部材回転数M(rpm)に基づいて、巻取スピンドル回転数を、巻取スピンドル切替時に一旦(N−((r+R)/r)×M)に低下させ、その後巻取スピンドル切替終了時もしくは所定の角度ターレット部材が回動した時点でNとなるよう漸増させる、請求項8に記載の繊維束パッケージの製造方法。
【請求項10】
(M×(R+r))/(N×r)≧0.1である、請求項9に記載の繊維束パッケージの製造方法。
【請求項11】
巻取スピンドルの切替開始からあらかじめ設定された時間が経過した後、もしくは巻取スピンドルがあらかじめ設定された距離を移動した後に、あらかじめ設定された値に巻取スピンドルの回転数を制御する制御方法から張力が一定となるように巻取スピンドルの回転数を制御する制御方法に切り替える、請求項7〜10のいずれかに記載の繊維束パッケージの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−269494(P2007−269494A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56811(P2007−56811)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】