説明

繊維補強コンクリート製部材の養生設備

【課題】 色むらの発生を低減することができる、繊維補強コンクリート製部材の養生設備を提供する。
【解決手段】 養生設備2は、一次養生ハウス3と、その一次養生ハウス3内に配置される二次養生ハウス4と、その二次養生ハウス4によって形成される養生室2aへ蒸気を供給するための蒸気供給手段5とを備える。そこで、一次養生ハウス3を構成する第1覆い部材3aと、二次養生ハウス4を構成する第2覆い部材4aとの間が、外部Xと養生室2aとを隔てる隔離空間2bとなる。そして、蒸気供給手段5は、隔離空間2bへ蒸気を噴出させる蒸気供給管5cと、隔離空間2bの蒸気を養生室2aへ流入させる連通部5bとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維補強コンクリート製部材を熱養生するための養生設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート製部材としてのコンクリート打設部を養生するためのコンクリート養生設備があった(例えば、特許文献1参照)。この養生設備は、冬季の養生を目的としたものであり、コンクリート打設部を覆うシートと、そのシートを支持するアーチ状の支持部材とから構成された。このように、この養生設備においては、支持部材に支持されたシートという簡易な構成で、コンクリート打設部が収容される養生室が形成された。
【0003】
【特許文献1】特開平10−205131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の養生設備は、冬季の養生を目的として、シートによって養生室を形成するものであった。そこで、繊維補強コンクリート製部材を熱養生する場合には、このシートからなる養生室に蒸気を供給すればよいが、こうすると、養生室内の結露による水滴で、繊維補強コンクリート製部材の表面に色むらが発生する虞があった。
【0005】
この発明は、上記した従来の欠点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、色むらの発生を低減することができる、繊維補強コンクリート製部材の養生設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る繊維補強コンクリート製部材の養生設備は、前記目的を達成するために、次の構成からなる。すなわち、
請求項1に記載の発明に係る繊維補強コンクリート製部材の養生設備は、繊維補強コンクリート製部材を熱養生するための養生設備であって、一次養生ハウスと、その一次養生ハウス内に配置されて前記繊維補強コンクリート製部材が収容される養生室を形成する二次養生ハウスと、前記養生室へ蒸気を供給するための蒸気供給手段とを備える。そこで、前記一次養生ハウスを構成する第1覆い部材と、前記二次養生ハウスを構成する第2覆い部材との間が、外部と前記養生室とを隔てる隔離空間となる。そして、前記蒸気供給手段は、前記隔離空間へ蒸気を噴出させる蒸気噴出装置と、前記隔離空間の蒸気を前記養生室へ流入させるべくそれら隔離空間と養生室とを連通する連通部とからなる。
【0007】
この養生設備によると、一次養生ハウスを構成する第1覆い部材と、二次養生ハウスを構成する第2覆い部材との間が、隔離空間となって、この隔離空間により、外部と第2覆い部材の内側の養生室とが隔てられる。そして、蒸気噴出装置による蒸気によって温度が高められた隔離空間と、養生室に流入する蒸気とにより、養生室の温度が保たれ、その養生室に収容された繊維補強コンクリート製部材は、熱養生される。ここで、隔離空間で結露が生じた場合には、その結露による水滴は、第2覆い部材によって遮られ、このため、その結露による水滴が、養生室の繊維補強コンクリート製部材に滴下するのを避けることができる。また、第2覆い部材の外側は、隔離空間となって蒸気によって温度が高められているため、第2覆い部材の内面側での結露が抑えられ、このため、その結露による水滴が、養生室の繊維補強コンクリート製部材に滴下するのを避けることができる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明に係る繊維補強コンクリート製部材の養生設備は、請求項1に記載の養生設備において、前記第1覆い部材と前記第2覆い部材とは、シートからなる。こうして、一次養生ハウスの第1覆い部材と二次養生ハウスの第2覆い部材とに、シートを用いることで、この養生設備を、簡易に形成することができる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明に係る繊維補強コンクリート製部材の養生設備は、請求項1または2に記載の養生設備において、前記蒸気噴出装置は、蒸気が噴出する噴出口を有して前記隔離空間に配置される蒸気供給管からなる。
【0010】
また、請求項4に記載の発明に係る繊維補強コンクリート製部材の養生設備は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の養生設備において、前記養生室には、内部の空気を流動させるための送風機が設けられる。こうして、養生室の空気は、送風機により攪拌されることから、養生室内の温度を均一にすることができ、繊維補強コンクリート製部材を安定して養生することができる。
【0011】
また、請求項5に記載の発明に係る繊維補強コンクリート製部材の養生設備は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の養生設備において、前記養生室に対して前記繊維補強コンクリート製部材を搬入・搬出する搬送装置を備える。この搬送装置は、前記繊維補強コンクリート製部材が載せられる台車と、外部から前記養生室内まで敷設されて前記台車を案内するレールとからなる。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る繊維補強コンクリート製部材の養生設備によれば、一次養生ハウス内に二次養生ハウスを設け、一次養生ハウスを構成する第1覆い部材と、二次養生ハウスを構成する第2覆い部材との間を、蒸気によって温度が高められた隔離空間とすることで、養生室の繊維補強コンクリート製部材に、結露による水滴が滴下するのを避けることができ、この繊維補強コンクリート製部材に対する色むらの発生を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1〜図3は、本発明の一実施の形態を示す。図中符号1は、例えば、歩道橋用の桁に用いられる、コンクリート製部材、特に、繊維補強コンクリート製部材である。この繊維補強コンクリート製部材1の材料となるコンクリート材は、セメントと、ポゾラン材と、骨材例えば粉末または微粉末状の骨材と、補強用繊維とで構成される。ここで、この補強用繊維としては、鋼線材が用いられるが、鋼線材に限定されるものではない。また、このコンクリート材を用いた繊維補強コンクリート製部材1は、繊維によって補強されるため、鉄筋は使用されない。このコンクリート材としては、例えば、太平洋セメント株式会社が販売する超高強度繊維補強コンクリート材である「Ductal/ダクタル」(登録商標)が用いられる。ここにおいて、この超高強度繊維補強コンクリート材を用いた、繊維補強コンクリート製部材としての超高強度繊維補強コンクリート製部材とは、土木学会の「超高強度繊維補強コンクリートの設計・施工指針(案)」に定義されるように、圧縮強度の特性値が150N/mm2以上、ひび割れ発生強度の特性値が4N/mm2以上、引張強度の特性値が5N/mm2以上の、繊維補強を行ったセメント質複合材である。
【0015】
この繊維補強コンクリート製部材1は、スラブ1aを有し、さらに、そのスラブ1aの両端から上方に起立する側壁1b、1bを有して、断面略U型形状をしている。但し、養生にあたっては、この繊維補強コンクリート製部材1は、反転した状態となっている(図2参照)。
【0016】
符号2は、繊維補強コンクリート製部材1を熱養生するための養生設備である。この養生設備2は、一次養生ハウス3と、その一次養生ハウス3内に配置されて前記繊維補強コンクリート製部材1が収容される養生室2aを形成する二次養生ハウス4と、養生室2aへ蒸気を供給するための蒸気供給手段5とを備える。図示実施の形態においては、養生設備2は、これら一次養生ハウス3と二次養生ハウス4と蒸気供給手段5とに加えて、養生室2aに対して繊維補強コンクリート製部材1を搬入・搬出する搬送装置6を備えている。
【0017】
ここにおいて、一次養生ハウス3を構成する第1覆い部材3aと、二次養生ハウス4を構成する第2覆い部材4aとの間が、外部Xと養生室2aとを隔てる隔離空間2bとなる。そして、蒸気供給手段5は、隔離空間2bへ蒸気を噴出させる蒸気噴出装置5aと、隔離空間2bの蒸気を養生室2aへ流入させるべくそれら隔離空間2bと養生室2aとを連通する連通部5bとからなる。また、搬送装置6は、繊維補強コンクリート製部材1が載せられる台車6aと、外部Xから養生室2a内まで敷設されて前記台車6aを案内するレール6bとからなる。
【0018】
具体的には、一次養生ハウス3は、その周囲部分に配置される第1土台3bと、その第1土台3bに渡されるようにアーチ状に組まれる骨組み(図示せず)と、その骨組みに掛けられる前記第1覆い部材3aとを備える。ここで、第1土台3bは、例えば形鋼等からなり、第1覆い部材3aは、シート、例えば防炎シートからなる。また、二次養生ハウス4は、一次養生ハウス3の内側に位置して、その一次養生ハウス3と同様に、周囲部分に配置される第2土台4bと、その第2土台4bに渡されるようにアーチ状に組まれる骨組み(図示せず)と、その骨組みに掛けられる前記第2覆い部材4aとを備える。ここで、第2土台4bは、角材からなる下部土台4cと、その下部土台4cに支持される形鋼等からなる上部土台4dによって構成される。そして、第2覆い部材4aは、シート、例えば防炎シートからなる。また、この二次養生ハウス4は、床4eを備えている。詳細には、床4eは、角材からなる根太4f、4fと、それら根太4f、4f上に敷き詰められる複数の床板4g、4gと、それら床板4g、4g上に並べられるようにして敷かれる複数の床シート4h、4hとからなる。この床シート4hは、第1および第2覆い部材3a、4aと同様に、例えば防炎シートからなる。
【0019】
そして、前記蒸気噴出装置5aは、蒸気が噴出する噴出口を有して隔離空間2bに配置される蒸気供給管5cからなる。この蒸気供給管5cは、第2土台4b(詳細には、上部土台4d)上に配置され、養生設備2の入口2c部分では、床板4gの下を通される。そして、前記連通部5bは、床4eにおける、床板4g、4gの合わせ部分の隙間と、床シート4h、4hの合わせ部分の隙間とからなり、これら隙間を通って、隔離空間2bの蒸気は、養生室2aへ流入する。
【0020】
また、養生室2aには、内部の空気を流動させるための送風機7が設けられる。図示実施の形態においては、この送風機7は、養生室2aの上部と、養生室2a内の台車6aに据え付けられている。
【0021】
また、外部Xには、二次養生ハウス4の床4eに繋がる外部床8が敷設されている。この外部床8は、角材からなる根太(図示せず)と、その根太上に敷き詰められる床板8a、8aとからなり、前記床4eと高さが同じになるように形成される。そこで、前述のレール6bが、外部床8から床4eに渡って敷設される。なお、第1および第2覆い部材3a、4aは、入口2c部分で、開閉可能となっており、繊維補強コンクリート製部材1を搬入・搬出する際には、その入口2c部分の覆い部材3a、4aが開閉される。
【0022】
ところで、この養生設備2は、脱枠前での一次養生が終了した後において、脱枠された繊維補強コンクリート製部材1に対して、二次養生としての熱養生(標準熱養生)を行うためのものである。ここでは、養生室2aが、例えば、温度90℃、湿度60%に保たれ、繊維補強コンクリート製部材1は、その雰囲気中で、48時間熱養生される。そして、この熱養生により、主に、繊維補強コンクリート製部材1における組織の緻密化が図られる。
【0023】
次に、以上の構成からなる養生設備2の作用効果について説明する。この養生設備2によると、一次養生ハウス3を構成する第1覆い部材3aと、二次養生ハウス4を構成する第2覆い部材4aとの間が、隔離空間2bとなって、この隔離空間2bにより、外部Xと第2覆い部材4aの内側の養生室2aとが隔てられる。そして、蒸気噴出装置5aによる蒸気によって温度が高められた隔離空間2bと、養生室2aに流入する蒸気とにより、養生室2aの温度が保たれ、その養生室2aに収容された繊維補強コンクリート製部材1は、熱養生される。ここで、隔離空間2bで結露が生じた場合には、その結露による水滴は、第2覆い部材4aによって遮られ、このため、その結露による水滴が、養生室2aの繊維補強コンクリート製部材1に滴下するのを避けることができる。しかも、第2覆い部材4aの外側は、隔離空間2bとなって蒸気によって温度が高められているため、第2覆い部材の4a内面側での結露が抑えられ、このため、その結露による水滴が、養生室2aの繊維補強コンクリート製部材1に滴下するのを避けることができる。すなわち、一次養生ハウス3内に二次養生ハウス4を設け、一次養生ハウス3を構成する第1覆い部材3aと、二次養生ハウス4を構成する第2覆い部材4aとの間を、蒸気によって温度が高められた隔離空間2bとすることで(詳細には、隔離空間2bの温度を養生室2aの温度と同等またはそれ以上とすることで)、養生室2aの繊維補強コンクリート製部材1に、結露による水滴が滴下するのを避けることができ、この繊維補強コンクリート製部材1に対する色むら(例えば、黒地に白の色むら)の発生を低減することができる。
【0024】
また、この養生設備2においては、一次養生ハウス3の第1覆い部材3aと二次養生ハウス4の第2覆い部材4aとに、シートを用いることで、この養生設備2を、簡易に形成することができる。また、養生室2aには送風機7が設けられており、この送風機7により、養生室2aの空気は、攪拌されることから、養生室2a内の温度を均一にすることができる。そして、このことから、繊維補強コンクリート製部材1を安定して養生することができる。また、養生設備2は、搬送装置6を備えることから、繊維補強コンクリート製部材1の、養生室2aへの搬入や養生室2aからの搬出を容易に行うことができる。
【0025】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。例えば、蒸気供給手段5における連通部5bは、床板4g、4gの合わせ部分の隙間と、床シート4h、4hの合わせ部分の隙間とからなるが、その他に、床板4gとか床シート4hに孔を穿ち、その孔を連通部としてもよい。また、上部土台4dと第2覆い部材4aの下端との間に間隙等を形成し、この間隙等を連通部としてもよいなど種々の構成が考えられ、実施の形態に示されるような特定の構成に限定されるものではない。
【0026】
また、養生室2aに、水を入れた容器を配置するなどして、養生室2aの湿度を調整するようにしてもよい。
【0027】
また、養生室2aには、送風機7が設けられているが、この送風機7は、必要なければ無くともよい。
【0028】
また、養生設備2は、台車6aとレール6bとからなる搬送装置6を備えているが、他の搬送装置とか搬送方法により、繊維補強コンクリート製部材1を搬入・搬出してもよいのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施の形態の、養生設備内を示す平面図である。
【図2】同じく、養生設備内を示す側面図である。
【図3】同じく、図2におけるA部拡大図である。
【符号の説明】
【0030】
1 繊維補強コンクリート製部材
2 養生設備
2a 養生室
2b 隔離空間
3 一次養生ハウス
3a 第1覆い部材
4 二次養生ハウス
4a 第2覆い部材
5 蒸気供給手段
5a 蒸気噴出装置
5b 連通部
5c 蒸気供給管
6 搬送装置
6a 台車
6b レール
7 送風機
X 外部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強コンクリート製部材を熱養生するための養生設備であって、
一次養生ハウスと、その一次養生ハウス内に配置されて前記繊維補強コンクリート製部材が収容される養生室を形成する二次養生ハウスと、前記養生室へ蒸気を供給するための蒸気供給手段とを備え、
前記一次養生ハウスを構成する第1覆い部材と、前記二次養生ハウスを構成する第2覆い部材との間が、外部と前記養生室とを隔てる隔離空間となり、
前記蒸気供給手段は、前記隔離空間へ蒸気を噴出させる蒸気噴出装置と、前記隔離空間の蒸気を前記養生室へ流入させるべくそれら隔離空間と養生室とを連通する連通部とからなる、繊維補強コンクリート製部材の養生設備。
【請求項2】
前記第1覆い部材と前記第2覆い部材とは、シートからなる、請求項1に記載の、繊維補強コンクリート製部材の養生設備。
【請求項3】
前記蒸気噴出装置は、蒸気が噴出する噴出口を有して前記隔離空間に配置される蒸気供給管からなる、請求項1または2に記載の、繊維補強コンクリート製部材の養生設備。
【請求項4】
前記養生室には、内部の空気を流動させるための送風機が設けられている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の、繊維補強コンクリート製部材の養生設備。
【請求項5】
前記養生室に対して前記繊維補強コンクリート製部材を搬入・搬出する搬送装置を備え、
前記搬送装置は、前記繊維補強コンクリート製部材が載せられる台車と、外部から前記養生室内まで敷設されて前記台車を案内するレールとからなる、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の、繊維補強コンクリート製部材の養生設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−6596(P2009−6596A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170463(P2007−170463)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(591121111)株式会社安部日鋼工業 (38)
【Fターム(参考)】