説明

繊維複合体およびその用途

【課題】表面抵抗測定法においても良好な導電性能が得られ、かつ制電性能と耐久性にも優れた繊維製品を提供する。
【解決手段】導電性熱可塑性成分と繊維形成性成分からなる導電性複合繊維を混用した繊維複合体であって、導電性複合繊維が、カーボンブラックを含有する熱可塑性重合体からなる導電性熱可塑性成分が繊維表面の50%以上を被覆する複合構造を有し、かつ破断伸度が80〜250%の溶融複合紡糸された導電性複合繊維であることを特徴とする繊維複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として静電気帯電を抑制する目的で使用される繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維からなる布帛は、天然繊維からなる布帛に比較すると、一般に、強度、耐久性に優れている事から、様々な分野で使用されている。しかし、合成繊維からなる布帛は帯電しやすいという欠点を持っている。近年、医療品、薬品、食品、電子機器および精密機器製造等における製品の高性能化が進むにつれ、空気中の塵埃が製品の性能に大きな影響を及ぼすことが明らかになってきた。例えば、衣服の静電気帯電によって塵埃を吸着させたまま製造環境に持ち込む事は、生産効率の低下に繋がる。そればかりか、火災や爆発が生じやすい環境においては、静電気によるスパークが発生しやすく危険にさらされる可能性もあり、様々な製造現場において静電気対策を施した布帛を用いた繊維製品が必須なものになっている。
【0003】
具体的には、静電気対策を施した布帛からなる防塵衣や靴内層材は、例えばクリーンルーム内での作業着および作業靴に用いられる。衣服や人体に蓄積する静電気を抑えて放電による微小回路の破壊を防ぎ、衣服や人体への静電気による塵埃の吸着を抑えて、クリーンルーム内に塵埃を持ち込まないことで製品の歩留向上が見込まれる為である。また、静電気対策を施した布帛はフィルターの素材としても利用価値が高い。これは引火性を有する液体又は気体をろ過する際にフィルターとの摩擦によって発生する静電気を抑制し、引火爆発を回避する為である。
【0004】
従来から布帛の静電気対策として様々な方法が考案されている。例えば、界面活性剤を後加工で布帛表面に付着させる方法や、親水性ポリマーを混入させた制電性繊維で布帛を構成する方法などが一般的である。しかしこれらの布帛は、いずれも洗濯耐久性が低いことや低湿度下での制電性能が十分でない。そこで、通常は導電性繊維が一定の割合で混入させた布帛が使用されている。
【0005】
導電性繊維としては、導電性粒子と熱可塑性成分からなる導電性成分を芯成分(島成分)とし、繊維形成性成分を鞘成分(海成分)とする導電性複合繊維が、工程通過性や洗濯耐久性の面から一般的である。
【0006】
近年欧米を中心に、繊維製品を破壊せずにその制電性能を評価する手段として、繊維製品の表面の二ヶ所に電極を当て電極間の抵抗値を測定する方法(以下表面抵抗測定法と記す)が普及しつつある。本方法であると、実際の製品としての制電性能が十分であるにも関わらず、繊維製品に混用する導電性繊維表面への導電性成分の露出面積が小さい場合、導電性成分と電極が接触しないため生地表面の導電性能が低くなってしまうため、制電性能不良と判断されるという問題がある。
【0007】
例えば特許文献1には、導電性能を良くするために芯となる合成繊維長繊維糸条に導電性複合繊維をカバリングした導電糸条を用い、導電糸条間の接触性を向上させた織物の提案がなされている。しかし、導電性成分の繊維表面への露出が小さければ、導電性成分同士や電極間との接触は起こり得ず、接触抵抗を軽減させるがための浸透性のある導電性接着剤を使用しない限り、表面抵抗測定法における良好な導電性能は得られ難い。
【0008】
この欠点を無くする為には表面層を導電性成分とすればよいことは容易に考えられその提案は種種なされている。たとえば酸化チタン、ヨウ化第1銅などの金属成分や導電性カーボン粒子を分散させた導電性成分を表面にコーティングまたはメッキする方法が提案されているが、これらの方法で得られる導電性繊維には洗濯耐久性が無く、初期評価では導電性能は高いが繰り返し洗濯を行うと導電性成分の剥離および脱落がおこり、導電性能を低下させるばかりか自己発塵を助長させる原因にもなり、使用時に多数の洗濯が必要不可欠な用途、例えばクリーンルームで使用される防塵衣などに供することは難しい。
【0009】
【特許文献1】特開平11−350296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、表面抵抗測定法においても良好な導電性能が得られ、かつ制電性能と耐久性にも優れた繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、導電性熱可塑性成分と繊維形成性成分からなる導電性複合繊維を混用した繊維複合体であって、導電性複合繊維が、カーボンブラックを含有する熱可塑性重合体からなる導電性熱可塑性成分が繊維表面の50%以上を被覆する複合構造を有し、かつ破断伸度が80〜250%の溶融複合紡糸された導電性複合繊維であることを特徴とする繊維複合体を用いることで解決する。
【0012】
又、本発明の好ましい態様として、繊維複合体中の導電性複合繊維が0.1〜15重量%のものが挙げられる。更に、本発明の繊維複合体の具体的な用途として防塵衣、靴内層材、フィルターがある。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、導電性能とその耐久性に優れた繊維製品を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いられる導電性複合繊維について説明する。なお、以下では導電性熱可塑性成分のことを単に「導電性成分」と称し、繊維形成性成分を「非導電性成分」と称することがある。
【0015】
本発明に用いられる導電性複合繊維の導電性成分、非導電性成分に使用される熱可塑性重合体としては、ポリエステル類やポリアミド類及びポリオレフィン類とそれらの共重合体など、あらゆる公知の繊維形成能を有する熱可塑性重合体が使用可能であり、適宜選択すれば良い。布帛の大部分を占めるベース糸即ち導電性複合繊維と混用する繊維の素材と同種であることが染色その他の後工程において格別の注意を払う必要が軽減されることから望ましい。
【0016】
又、導電性成分と非導電性成分に使用する熱可塑性重合体は両成分の接着性の点から同種の熱可塑性重合体であることが好ましい。両方の熱可塑性重合体が異なっている場合でも、両方またはどちらか一方の成分に相溶化剤を混入し接着性が改善できる事もある。例えば、ポリアミドとポリオレフィンの場合には、ポリオレフィン側に相溶化剤としてマレイン酸変性ポリオレフィンを少量混入することで接着性が改善できる。
【0017】
前記導電性成分は熱可塑性重合体に導電性カーボンブラックを常法に従って均一に混合したものにより構成されている。導電性カーボンブラックの混合率は使用する重合体やカーボンブラックの種類によって異なるが、通常10〜50重量%、特に15〜40重量%が好ましい。
【0018】
本発明に用いる導電性複合繊維の破断伸度は80〜250%の範囲内である必要がある。導電性複合繊維においては破断伸度が小さくなるに伴って、導電性能も低下する傾向が見られる。破断伸度が小さくなるということは、紡糸・延伸等の製造工程において繊維を伸長させる方向へ力が加えられたことを意味し、その結果、導電成分中に含まれる導電性粒子間の距離が増大することから導電性能が低下するものと考えられている。
【0019】
破断伸度が80%以上であればフィラメント抵抗は1.0×108Ω/cm・f未満となり、表面抵抗測定において制電生地の基準として多く採用されている106Ω/□以下を満たすことが可能となる。一方、破断伸度をより高く設定することは、フィラメント抵抗を低下させ、繊維複合体の導電性繊維の使用量を抑えることが可能になることからより望ましい。しかしながら、破断伸度が250%を超えると、分子配向が不足し、強度が著しく低く、合糸あるいは合撚工程中で破断しやすいだけでなく、低応力で容易に引き伸ばされて導電性を低下させてしまうため、合糸あるいは合撚の工程を経て布帛とした段階でフィラメント抵抗が1.0×108Ω/cm・f以上となる危険性が高い。
【0020】
これら導電性能の維持、工程通過性の観点から破断伸度は80〜250%の範囲内であることが必須であり、100〜200%がより好適に使用できる。
【0021】
本発明の破断伸度を得るための製造方法は特に規定されない。つまり、いわゆるコンベンショナル方式に則り、未延伸糸を比較的低倍率で延伸することも可能である。一方、引取速度を高速化し、高配向未延伸糸としても目的の破断伸度を得ることができる。更に、低倍率でのスピンドロー方式でも同様である。
【0022】
導電性成分、非導電性成分には、さらに分散剤(ワックス類、ポリアルキレンオキシド類、各種界面活性剤、有機電解質など)、着色剤、熱安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、流動性改善剤、蛍光増白剤その他の添加剤を必要に応じて加えることができる。
【0023】
本発明に用いる導電性複合繊維の複合形態は特に制限されるものではないが、繊維表面の50%以上が導電性成分で被覆されていなければならない。断面形状の一例としては図1〜3に示すようなものが挙げられる。このうち、図1に示したものは芯鞘構造をとる複合導電性繊維で有り、鞘成分が導電性成分となっているものである。また、図2、3では、4〜8個程度の導電性成分を繊維表面に配した複合繊維の構造例を示した。この様な構造の導電性複合繊維を利用することにより、導電性繊維間の導電性成分同士の接触性及び導電性成分と測定器電極との接触性が向上し、表面抵抗測定法における良好な導電性能を得ることが出来る。
【0024】
本来の目的から言えば導電性成分の繊維表面への露出率はより高い方が好ましいが、導電性成分は導電性カーボンブラックの含有により溶融流動性が著しく低下するために完全に被覆することは技術的難度が高く、また表面抵抗測定法において使用される測定器の電極サイズと複合繊維の繊維径から十分に接触性があると判断され、繊維表面の50%以上が被覆されていれば目的は達せられるといえる。逆に導電成分の繊維表面の被覆率が50%未満の場合は、電極と導電性成分との接触性が不確実となり、表面抵抗測定結果において、非常に大きな数値を指し示すことが発生しがちである。その結果、平均値も高くなり、目標とする106Ω/□以下を達成できない。安定的な表面抵抗値を得るためには被覆率が50%以上であることが必要だが、60%以上が更に好ましく、65%以上が特に好ましい。
【0025】
導電性成分と非導電性成分の複合比率については、体積比率で導電性成分:非導電性成分=1:20〜2:1であることが好ましい。繊維の物性を確保すると言う観点からは非導電性成分の比率が大きいほど好ましいが、導電性成分の比率が小さくなると安定した複合形態を得ることが難しくなり、これに伴い導電性の安定性が不足するので、これらの事を考慮すると導電性成分:非導電性成分=1:20〜2:1が好ましく、1:15〜1:1が更に好ましい。
【0026】
本発明に用いる導電性複合繊維は、溶融複合紡糸法にて製造されることが肝要である。例えばコーティング等の処方により後加工で類似の複合形態を形成させた複合繊維では耐久性が不足し、製品で繰り返し洗濯を行なった際に導電性成分の剥離や脱落が発生する。溶融複合紡糸法で製造されることにより、例えばクリーンルーム等で使用される防塵衣の如く多数回の洗濯を必要とされる用途においても十分な耐久性を発現させることができるのである。
【0027】
本発明の繊維複合体は、上述した導電性繊維に他の繊維(以下、「非導電性繊維」と称す)を混用する。導電性複合繊維に混用する他の繊維は、あらゆる繊維が利用可能である。例えば、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維や綿、絹、羊毛等の天然繊維が例示される。又、複数の繊維を混合したものを用いても良い。
中でも、繊維複合体の用途を考えると合成繊維の使用が好ましい。これは、合成繊維が天然繊維に比べて強度、耐久性が高いためである。
【0028】
導電性複合繊維と非導電性繊維の混合方法は特に制限はない。例えば、導電性複合繊維を単体で織物や編物に一定間隔に打込む事も可能であるし、その繊度によっては非導電性繊維と合糸又は合撚して布帛に打込んでも良い。又、所定の長さにカットして、他の短繊維と混紡する事も可能であるし、既成の布帛に縫糸として混用しても良い。
【0029】
本発明の繊維複合体中における導電性複合繊維の使用量としては、0.1〜15重量%が好ましい。この範囲であると、コロナ放電による帯電防止効果が十分で有り、また工程通過性も優れるので好ましい。
【0030】
本発明の防塵衣は、上述した繊維複合体の織物、編物等で構成されるものである。ベースとなる糸条は生地自体の発塵量を抑制する観点からフィラメント使いであることが好ましい。紡績糸を使用する場合、ラミネート加工等で自己発塵を抑える事が好ましい。
【0031】
布帛の組織は特に限定されるものではないが、通塵性阻止の観点から高密度である方が好ましい。しかし、密度が高くなりすぎると着用感に劣るため、目的に応じて組織及び密度を設定すれば良い。更に必要であればカレンダー加工等で布帛を押圧して緻密性を高めることや、着用感の改善を目的とした吸水即乾性や抗菌性能を有する繊維、布帛の帯電圧のより迅速な減衰を促進させる制電繊維等の各種機能性繊維も併せて使用できる。
【0032】
本発明の防塵衣を使用することにより、いかなる環境下においても衣服に蓄積する静電気を抑えて放電による微小回路の破壊を防ぎ、静電気による塵埃の吸着を抑えて、クリーンルーム内に塵埃を持ち込まないことで製品の歩留向上が期待できる。又、製品の表面抵抗を測定することでその制電性能を予測できるため、製品を破壊せず、簡略な品質管理が可能となる。
【0033】
本発明の靴内層材は、上述した繊維複合体の織物、不織布等で構成されるものである。非導電性繊維としては、摩耗耐久性に優れるポリアミドが主として用いられるが、特に限定されるものではない。熱接着性繊維や、鞘部に低融点重合体を配した複合繊維を用いて、点圧着加工を施し、立体構造を保持させ衝撃を緩和させる事もできる。
【0034】
本発明における導電性複合繊維を不織布として用いる際には、単糸繊度は8dtex以下であることが好ましい。単糸繊度が小さくなると、同一の重量混率でも混用される本数が多く、導電性複合繊維同士が接触する確率が増え、布帛表面(水平方向)および垂直方向の導電性能が向上するからである。その一方で、複合繊維の場合、単糸繊度が小さくなりすぎると生産工程上に大幅な支障を来たす場合が多く見られる。特に導電性複合繊維の場合には導電性成分と非導電性成分の溶融粘度が大きくかけ離れていることからその傾向が顕著であるため、生産性と展開用途と加味して考慮すれば単糸繊度は0.3dtex以上が好ましく、0.8dtex以上が特に好適であると考えられる。
【0035】
本発明の靴内層材を使用することにより、内層材自体が帯電防止されることはもちろん、靴のソール部に導電性を有する樹脂を使用すれば、内層材とソールを通して人体に蓄積される静電気を地面へと漏洩させることが可能となる。その結果、防塵衣と同様にクリーンルーム内での作業効率の向上が期待できる。
【0036】
本発明のフィルターは、上述した繊維複合体の織物、不織布等で構成されるものである。靴内層材と同様に、熱接着性繊維や、鞘部に低融点重合体を配した複合繊維を用いて、点圧着加工を施し、立体構造を保持させ寸法安定性の向上を図る事もできる。又、不織布として用いる際に単糸繊度が小さい方が好ましい点も靴内層材と同様である。
【0037】
本発明のフィルターを使用することにより、引火性を有する液体又は気体を高速でろ過する際にフィルターとの摩擦によって発生する静電気を抑制し、引火爆発を回避する事が可能となる。又、ろ過速度を高く設定出来るため、生産性の向上に寄与する事が出来る。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例における各種物性の測定および評価は、次の方法により実施した。
【0039】
導電性複合繊維の導電性能は、長さ10cmに切り取って試料とし、両端を金属端子と導電性接着剤で接着し、1,000Vの直流電圧を印加して抵抗値を測定し、その値を基に換算した比抵抗で評価した。
【0040】
布帛の表面抵抗は、ACL Staticide社製メガオームメーター モデル800を用い、平行電極幅7.5cm、電極間距離7.5cmにおける導電性を測定した。なお、測定には20℃×30%RHの環境下で予め調湿した試料を用いた。
【0041】
布帛の制電性能はJIS L 1094 摩擦帯電減衰測定法に準じて、20℃×30%RHの環境下で調湿した試料を用いて初期帯電圧を測定した。
【0042】
耐久性については洗濯耐久性を評価した。JIS L 0217 E 103法にて100回の洗濯を実施し、洗濯前後での導電性複合繊維の導電性能及び布帛の表面抵抗を上述の方法で測定した。
【0043】
繊維表面における導電性成分の被覆比率についてはオリンパス製の光学顕微鏡で糸の断面写真を任意の間隔をおいて20点撮影し、キーエンス製の画像解析装置にて測定、その平均値で評価した。
【0044】
[実施例1〜6、比較例1〜4]
イソフタル酸を12mol%共重合したポリエチレンテレフタレートに導電性カーボンブラックを25重量%混合分散させた導電性ポリマーを導電性成分、ホモポリエチレンテレフタレートを非導電性成分とし、数条件の複合比率、複合構造で複合し、285℃にて紡出し、冷却、オイリングしながら数条件の紡糸速度で巻き取り、導電性複合繊維Y1〜Y9を製造した。Y1〜Y9の導電性能及び繊維表面における導電性成分の被覆比率を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1〜7、比較例1においては特に紡糸上大きな問題なく捲き取ることができたが、比較例2においては捲き取ったボビンで毛羽立ちが多く見られ、とても実用に供せられるものではなかった。フィラメント抵抗を測定したところ、バラツキが大きく、平均値も高目であった。
【0047】
地部を形成する経、緯糸にポリエステル長繊維糸84デシテックス/72フィラメントを使用し、導電性糸条としてY1を経、緯それぞれ5mm間隔で使用した平織物を得、この織物を通常の加工方法で加工したものを布帛1とする。
【0048】
Y1の代わりに導電性糸条としてY2〜Y9をそれぞれポリエステル長繊維糸56デシテックス/24フィラメントと撚数250T/mにて合撚せしめた導電性合撚糸を使用した以外は布帛1と同様の構成の布帛2〜9を得た。しかしながら、紡糸工程通過性に問題のあったY7においては、合撚および製織工程において多数回に渡る停台を繰り返したため実用性がないものと判断し、更に布帛7の品位も良好なものではなかったため、評価から除外した。
【0049】
又、比較例4として市販されているナイロンモノフィラメント22デシテックスの周囲をカーボンブラック混入樹脂で被覆した導電性繊維Y10を使用し、布帛2〜9と同様の構成の布帛10を得た。尚、Y10のフィラメント抵抗は2.2×105Ω/cm・fと良好であった。布帛1〜10中の導電性繊維の混用率及び各種物性値を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2から明らかなように、破断伸度が250%を超えるY5は本発明で目的とする表面抵抗測定結果が得られなかった。布帛5よりY5を抜き出してそのフィラメント抵抗を測定したところ、4.1×108Ω/cm・fであり、紡糸捲き取り後から導電性の低下が確認された。合撚あるいは製織工程中において張力が加わったため、延伸されてしまったものと考えられる。
【0052】
又、表面に導電性成分が全く露出していないY9は洗濯に対する耐久性は認められるものの、表面抵抗測定においては効果が認められなかった。
【0053】
一方、Y10においては初期では本発明と同等以上の性能を発揮するものの、100回の洗濯によって導電性成分の剥離、脱落が生じ、その導電性能及び制電性能はほぼ消失してしまった。これらに対し、本発明は表面抵抗とその耐久性に良好な結果が得られた。
【0054】
これらの布帛を用い、防塵衣を作製して、実用評価を行なったところ、布帛時の評価と同等の結果が得られた。
【0055】
[実施例7〜8、比較例5]
6ナイロンに導電性カーボンブラックを35重量%混合分散させた導電性ポリマーを導電性成分、6ナイロンを非導電性成分とし、数条件の複合比率、複合構造で複合し、275℃にて紡出し、冷却、オイリングしながら900m/minの紡糸速度で捲き取り、加熱しながら延伸倍率1.9倍にて延伸し、330デシテックス/100フィラメントの導電性複合繊維Y11〜Y13を製造した。Y11〜Y13の導電性能及び繊維表面における導電性成分の被覆比率を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
Y11〜Y13をそれぞれ収束して約30万デシテックスとした後、クリンプ加工を施し、51mm長にカットして、単糸3.3デシテックスのステープルを得た。
これらのステープルを3.3デシテックス、51mm長の6ナイロンステープルと混用率5重量%で混合して、ニードルパンチ法により目付約180g/m2の不織布を作製し、更にエンボス加工を施して布帛11〜13を得た。布帛11〜13の各種物性値を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表4から明らかなように、比較例5は制電性能とその耐久性においては十分な効果が得られたものの、表面抵抗測定においては測定値にばらつきが多く、安定した効果が認められなかった。導電性成分の複合比率が小さく、繊維表面に占める導電性成分の露出が不足したためと推測される。
又、本発明の不織布を靴内層材として使用し、ソール部にも導電処理を施した作業靴を着用した場合には、人体に蓄積される静電気が靴を通して漏洩され、人体帯電圧が軽減する結果が得られた。
【0060】
[実施例9〜11、比較例6〜7]
上述のY11の混合率を変更する以外は、実施例7と同様の方法で布帛を作製した。得られた不織布の物性値を表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
表5から明らかなように、実施例9〜11においては導電性複合繊維の混用率が増加する伴い、表面抵抗及び制電性能は良化する傾向を示し、いずれも満足な結果を呈した。一方、比較例6では混用率が不足し、表面抵抗及び制電性能ともに効果が見られなかった。又、比較例7においては表面抵抗及び制電性能は飽和状態にあり、導電性複合繊維は過剰に存在していると考えられる。特に不織布としての工程通過性や諸物性に問題はなかったが、コスト的には余り良くなかった。
【0063】
実施例12
従来公知であるメルトブロー方式により得られたポリエテレンテレフタレート長繊維不織布にエンボス加工を施し、目付約75g/m2の不織布を作製した。この不織布に、上述の導電性複合繊維Y2を2本と、ポリエステル長繊維糸44デシテックス/18フィラメントとの計3本をS撚り600T/mで合撚したものを、Z撚り480T/mで合撚した縫糸を用い、不織布の幅方向に5mm間隔で縫込んで得られた不織布を布帛14とする。この布帛の表面抵抗値は8.7×106Ω、制電性能は2,110Vであり、良好な結果が得られた。
【0064】
又、この布帛は100回の洗濯においても性能が低下することなく、フィルターとして使用した場合には、十分な制電性能を発揮した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の方法は特にクリーンルーム等で着用される衣類での使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の繊維複合体に使用される導電性複合繊維の一例の横断面図である。
【図2】本発明の繊維複合体に使用される導電性複合繊維の一例の横断面図である。
【図3】本発明の繊維複合体に使用される導電性複合繊維の一例の横断面図である。
【図4】本発明範囲外の繊維複合体に使用される導電性複合繊維の一例の横断面図である。
【図5】本発明範囲外の繊維複合体に使用される導電性複合繊維の一例の横断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 導電性成分
2 非導電性成分



【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性熱可塑性成分と繊維形成性成分からなる導電性複合繊維を混用した繊維複合体であって、導電性複合繊維が、カーボンブラックを含有する熱可塑性重合体からなる導電性熱可塑性成分が繊維表面の50%以上を被覆する複合構造を有し、かつ破断伸度が80〜250%の溶融複合紡糸された導電性複合繊維であることを特徴とする繊維複合体。
【請求項2】
導電性複合繊維が0.1〜15重量%含まれる請求項1記載の繊維複合体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の繊維複合体からなる防塵衣。
【請求項4】
請求項1又は2記載の繊維複合体からなる靴内層材。
【請求項5】
請求項1又は2記載の繊維複合体からなるフィルター。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−97145(P2006−97145A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281294(P2004−281294)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【出願人】(596154239)カネボウ合繊株式会社 (29)
【Fターム(参考)】