説明

織物およびその製造方法

【課題】衣料用とした時のソフト感や精緻感だけでなく、快適性に寄与するストレッチ性や防風性や撥水性を有し、アルカリ処理後の廃液の環境負荷が小さいポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維で構成された織物。
【解決手段】タテ糸に鞘部が単繊維繊度(FDT)が0.01〜0.5dtexのポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント、芯部がポリエステルフィラメントから構成された芯鞘複合糸、ヨコ糸にポリエステルからなるコンジュゲートフィラメントを用いた織物であって、タテ糸とヨコ糸の総カバー率(C・F)が1700以上3500以下で、かつタテのストレッチ性が5〜30%、通気度が1.0cc/cm・S未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート極細糸からなる織物および製造方法に関し、さらに詳しくは、溶解処理によってポリトリメチレンテレフタレート極細糸を製造することができるポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートからなる海島型複合繊維を用いて得られる優れた精緻感、ソフト感、ヌメリ感だけでなく、ストレッチ性および防風性、撥水性も有するスエード調織物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステルフィラメント糸を使用したスエード調織物は、単糸繊度の極細化技術の進歩によっていろいろ提案され、風合いや品質面でも良好なものが得られてきている。例えば、特開平5−44137号公報(特許文献1)には、極細繊維可能なポリエステル/ポリアミド複合繊維と沸水収縮率が25%以上のポリエステルマルチフィラメントとの複合糸からなる織り物を30%以上収縮させた後、前記複合繊維の一部を溶割してスエード調織物を得る方法が開示されている。また、特開平6−192939号公報(特許文献2)では、単繊維繊度0.2デニール以下の低収縮ポリエステルマルチフィラメント糸から構成された異収縮混繊糸を織物のヨコ糸に配し、起毛加工を施す手法が開示されている。特許文献1の方法によれば、確かに天然スエードの地締まり感を付与することが可能になるが、僅かな温度差や張力差により収縮斑が発生しやすいため、織り編み物にした際、フカツキ感が解消できず、精緻感についても乏しいものであった。特許文献2の方法によれば、織物にはドレープ性や張り腰を付与することが可能だが、異収縮混繊糸を配しているため、織物のヨコ糸あるいはタテ糸のどちらに使用したとしても、通常の織物と同様に快適性に寄与するストレッチ性や防風性や撥水性はほとんどえられていない。
【0003】
一方、ポリエチレンテレフタレートからなる単繊維繊度が1dtex以下のポリエステル極細糸はピーチ調織編物やワイピングクロスなどに広く使用されている。しかしながら、従来の極細糸では収縮特性が不十分であるため、織り編み物にした際、フカツキ感が解消できず、精緻感についても乏しいものであった。また、染色加工後の生地が非常にペーパーライクで風合いが硬くなるという問題点があった。
【0004】
これら風合いの硬さなどの問題を改善する手段として、ポリエチレンテレフタレートよりもヤング率が低いポリトリメチレンテレフタレートを用いた極細糸が、特開平11―100721公報(特許文献3)や特開2001−348735(特許文献4)などで提案されているが、いずれも単糸繊度が細いため、ソフト感の付与にはある程度貢献すると考えられるが十分なレベルとは言えず、さらにこれらの糸では織編み物を高度化させることができず、精緻感のあるなめらかな織編み物を得ることができない。
【0005】
すなわち、特許文献3では海島型複合糸から得られた極細糸ではなく、直接紡糸式であるため、得られる単繊維繊度に限界があるのが現状である。
【0006】
特許文献4については、海島型複合糸から極細糸を得るものではあるが、アルカリ溶出成分として用いられているポリマは有機金属塩を共重合したポリエステルであり、アルカリ溶出時間が長いため、アルカリ減量時に島成分のポリトリメチレンテレフタレートが収縮するのを阻害してしまうという問題がある。さらに、アルカリ溶出時間が長いため、生産性が悪かったり、また、ポリマ溶融温度がポリトリメチレンテレフタレートよりも高いため、紡糸温度を高く保つ必要があり、そのためにポリトリメチレンテレフタレートの熱劣化が進み、操業性が悪く、さらに、満足する原糸強度や風合いが得られないなどの問題があった。
【0007】
さらに、従来の海島型複合繊維あるいは分割型複合繊維は、易溶出成分に共重合系のポリエステルを使用し、これをアルカリ処理で加水分解して除去させるものが主流のため、加水分解後の廃液が環境に悪影響を及ぼすことが懸念されている。この廃液の環境影響を軽減させるため、溶出成分にポリ乳酸を使用した複合繊維が特開平11−302926公報に提案されており(特許文献5参照)、確かに環境への影響は軽減されると考えられるものの前記のとおり、ポリ乳酸を溶出後単繊維間に形成される単繊維間空隙の影響で、満足できる防風性や撥水性のある織物を得ることが出来ないものである。
【0008】
また、近年、市場からスエード調織物に対して、精緻感、ソフト感、ヌメリ感を求めるだけでなく、着用快適性に寄与するストレッチ性や防風性や撥水性を有する織物の高級化が求められているのが現状である。
【0009】
しかし今のところ、ポリエステルフィラメントで構成されたスエード調織物において、
快適性に寄与するストレッチ性や防風性や撥水性を有した織物は市場では見当たらない。
【特許文献1】特開平5−44137号公報
【特許文献2】特開平6−192939号公報
【特許文献3】特開平11−100721号公報
【特許文献4】特開2001−348735号公報
【特許文献5】特開平11−302926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術では達成できなかった、生産性に優れ、衣料用とした時のソフト感や精緻感だけでなく、快適性に寄与するストレッチ性や防風性や撥水性を有し、アルカリ処理後の廃液の環境負荷が小さいポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維で構成された織物を提供するものである。
【0011】
本発明の他の目的は、上記のポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維で構成されたソフト感、精緻感だけでなく、ストレッチ性や防風性や撥水性にも優れた織物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記本発明の目的は、以下の構成を採用することによって達成することができる。すなわち、
(1)タテ糸に鞘部が単繊維繊度(FDT)が0.01〜0.5dtexのポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント、芯部がポリエステルフィラメントから構成された芯鞘複合糸、ヨコ糸にポリエステルからなるコンジュゲートフィラメントを用いた織物であって、タテ糸とヨコ糸の総カバー率(C・F)が1700以上3500以下で、かつタテ、のストレッチ性が5〜30%、通気度が1.0cc/cm・S未満であることを特徴とする織物。
【0013】
(2)ヨコ糸のコンジュゲートフィラメントが、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとをそれぞれ主たる構成成分とする2種の成分のサイドバイサイド型複合フィラメントであることを特徴とする前記(1)に記載の織物。
【0014】
(3)織物を分解したときの芯鞘複合糸が1〜10%の糸長差を有することを特徴とする前(1)または(2)に記載の織物。
【0015】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の織物を製造する方法であって、海成分ポリマーがポリ乳酸で構成され、島成分ポリマーがポリトリメチレンテレフタレートで構成され、海成分/島成分の複合比率が10/90〜50/50である海島型複合繊維と沸水収縮率10%〜30%のポリエステルフィラメントと複合して得られた芯鞘複合糸をタテ糸に、捲縮発現能力を内在するコンジュゲートフィラメントをヨコ糸に使用して製織後、溶解処理によりポリ乳酸を溶出させ、その後に起毛加工することを特徴とする織物の製造方法。
【0016】
(5)ヨコ糸に使用するコンジュゲートフィラメントがポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とする2種の成分がサイドバイサイド型に複合されたことを特徴とする前記(4)に記載の織物の製造方法。
【0017】
(6)前記芯鞘複合糸が1〜10%の糸長差を有することを特徴とする前記(4)または(5)に記載の織物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、衣料用織物としたときのソフト感と発色性に優れた、ポリプロトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維を用いてなる快適性に寄与するストレッチ性や防風性や撥水性を有し精緻感に優れたスエード調織物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の織物とその製造方法を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
まず、本発明の織物について説明する。
【0020】
本発明は、織物仕上げ工程での熱収縮挙動を利用して、スエード調織物を製造する方法を提供するものである。そのため、タテ糸に使用する複合混繊糸はストレッチ性と起毛面の風合いを満足させられる糸特性および糸形態を備えたものとすることが重要である。また、リラックス熱処理の後の染色加工工程で、タテ方向およびヨコ方向に十分なストレッチ性や防風性、撥水性を保持することが重要になる。
【0021】
本発明の織物において、該織物を構成するタテ糸は芯鞘複合糸であり、この芯鞘複合糸の芯部はポリエステルからなるフィラメント、鞘部が単繊維繊度(FDT)が0.01〜0.5dtexのポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントであることが重要である。その理由は、従来のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントで構成された織物の硬さと、極細繊維にした際の発色性の不十分さを改善するためである。
【0022】
本発明の織物で用いられるポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントの単繊維繊度は0.01〜0.5dtexであるが、これは従来のポリエチレンテレフタレートで構成される織物の硬さと、極細繊維にした際の発色性の不十分さを改善するためである。単繊維繊度が0.01dtex未満であると単繊維1本1本の精度が低下するため品質問題を起こしやすく、一方、単繊維繊度が0.5dtexより大きくなると目的とするソフト感が得られないため望ましくない。さらには0.04〜0.2dtexであることが好ましい。
【0023】
また、本発明の織物に用いられる単繊維繊度が0.01〜0.5texのポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントは、トータル繊度は33〜170dtexの範囲で好ましく採用される。
【0024】
この単繊維繊度が0.01〜0.5dtexのポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントは、ポリトリメチレンテレフタレートを島成分とする海島型複合繊維から得ることが好ましい。なお、この海島型複合繊維については、本発明の製造方法の説明において詳述する。
【0025】
また、本発明のタテ糸に使用される芯鞘複合糸の芯糸はポリエステルフィラメントである。織物とする以前の沸水収縮率は10%〜30%であることが好ましい。単繊維繊度は織物の張り腰、反発感などの風合いを付与させるために、3.0〜8.0dtexの太繊度が好ましく、より好ましくは4.0〜7.0dtexである。なお、このポリエステルフィラメントは、トータル繊度は30〜120dtexの範囲で好ましく採用される。なお、このポリエステルフィラメントの断面形状は丸断面の他、扁平、三角などの異型断面であってもよい。
【0026】
また、ヨコ糸にはコンジュゲートフィラメントが使用されることが重要である。捲縮発現能力を内在するコンジュゲートフィラメントを使用して製織し、その後に加熱することにより3次元の捲縮を発現したコンジュゲートフィラメントでヨコ糸が構成されていることが好ましい。ヨコ糸に使用されるコンジュゲートフィラメントは、収縮率の異なる2種のポリマー、なかでもポリトリメチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリマーとポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリマーとの、2種のポリマー成分がサイドバイサイド型に複合されたサイドバイサイド型フィラメントであることが好ましい。なお、本発明の目的を損なわない範囲でヨコ糸にコンジュゲートフィラメント以外の繊維を含有していてもよい。この糸条の単繊維繊度、総繊度はそれぞれ1〜5、33〜170dtex程度が適当である。
【0027】
次に、本発明の織物の目的の1つとする防風性や撥水性に優れた織物を得るためには、タテ糸とヨコ糸の総カバー率が1700以上3500以下で、かつ織物の通気度が1.0cc/cm・s未満であることが必要である。なお、織物のタテ密度が200〜400本/2.54cm、ヨコ密度が90〜130本/2.54cmであることが好ましい。
【0028】
タテ糸とヨコ糸の総カバー率は、織物を構成するタテ糸とヨコ糸の緻密さを表したファクターであり、総カバー率が1700に満たなければ防風性と撥水性が十分でなく、一方、総カバー率が3500を超える織物は、工業生産上安定して得られない領域であり好ましくない。また、さらに好ましい総カバー率の範囲は2000以上3000以下である。なお、本発明でいう総カバー率は、次式により算出されるものである。
【0029】
タテ糸とヨコ糸の総カバー率=タテ糸のカバー率+ヨコ糸のカバー率
タテ糸のカバー率=タテ糸密度(本/2.54cm)×(タテ糸繊度(dtex))1/2
ヨコ糸のカバー率=ヨコ糸密度(本/2.54cm)×(ヨコ糸繊度(dtex))1/2
また、通気度は、本発明の目的とする防風性および撥水性の性能を表す計測値であり、本発明の織物の通気度は1.0cc/cm・s未満であり、さらに好ましくは0.8cc/cm・s未満である。かかる通気度は、織物を衣料として使用したときの機能性を発揮するために必要である。ここでの通気度は、小さいほど良い防風性や撥水性の性能を表すものであるが、小さすぎると得られる織物の風合いが硬くなる傾向があるため、このましくは0.4〜0.8cc/cm・sである。
【0030】
この通気度は、織物を作成する際に通常「カレンダー」加工と呼ばれる高温高圧プレスを掛けると比較的容易に小さくできるものであるが、本発明では得られる織物の風合いがペーパーライクになるため採用は好ましくなく、採用するにしても軽条件での処理に留めることが望ましい。
【0031】
ここでの通気度は、防風性や撥水性の性能を表すものであるが、織物が緻密であるため、生地そのままあるいは軽い撥水加工等を施すことで花粉などの粉体や粒体がつきにくく落ちやすいという2次的な性能を有し、花粉症等のアレルギー対策衣類等にも利用が可能である。
【0032】
本発明の織物においてはタテのストレッチ性を5〜30%とすることも重要である。
【0033】
タテ糸に使用される芯鞘複合糸の鞘糸に単繊維繊度が0.01〜0.5dtexのポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントを用いることから、メチレン基の主鎖が伸び縮みするというポリトリメチレンテレフタレート特有の伸縮弾性特性により、上記のような密度の高い織物にしても布帛に高いストレッチ性を付与することが出来る。従来のポリエチレンテレフタレートの捲縮糸にもある程度の伸縮性を持たせることが可能だが、織物にした際に、緊密に拘束されると、元の伸縮性を発現できなくなる。従って、本発明は、従来のポリエチレンテレフタレートの捲縮糸では得られない高いストレッチ性を有するものである。
【0034】
また、ヨコのストレッチ性も5〜30%であることが好ましい。目的とする5〜30%のストレッチ性を得るには、ヨコ糸にポリエステルからなるコンジュゲートフィラメントを使用することが重要である。コンジュゲートフィラメントは、織物の精練、リラックス、プレセットあるいは溶割処理工程などで加熱され、3次元の捲縮を発現するので、この捲縮の復元力により織物が収縮し、地締まり感を付与し、高密度な織物とすることが可能になる。
【0035】
次に、本発明の織物の製造方法について詳しく説明する。
【0036】
本発明の織物の製造方法では、ヨコ糸には捲縮発現能力を内在するコンジュゲートフィラメントを使用することが重要である。本発明の製造方法で使用するコンジュゲートフィラメントは、加熱することにより3次元の捲縮を発現することが可能なコンジュゲートフィラメントが良い。リラックス熱処理の後染色加工工程で、この捲縮の復元により織物に地締まりを付与することができ、さらにタテ糸に配置された複合繊維を溶割したあと、残ったポリトリメチレンテレフタレートが十分に織物の表面に現出させ、所望なスエード調織物が得られる。そこで使用されるコンジュゲートフィラメントに仮撚加工などの機械的捲縮加工を付与しても同様な効果が得られる。前述のように、ヨコ糸に使用するコンジュゲートフィラメントは、収縮率の異なる2種のポリマー、なかでもポリトリメチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリマーとポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリマーとの、2種のポリマー成分がサイドバイサイド型に複合されたサイドバイサイド型フィラメントであることが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法のタテ糸に使用される芯鞘複合糸の鞘糸は、溶出型の海島型複合繊維から得られるものである。海島型複合繊維においては、その海成分ポリマーがポリ乳酸で構成され、島成分ポリマーがポリトリメチレンテレフタレートで構成され、海成分/島成分の複合重量比率においては10/90〜50/50であることが重要ある。これは、複合形態の安定性、製糸性および生産性の点から、海成分/島成分=10/90〜50/50とするものである。海成分の複合比率が10%未満の場合は、複合異常が発生し分割性不良を生じたり、複合形態が正常であっても海成分の溶解不良による分割性不良を生じ、十分なソフト感を得ることができないことがある。逆に、海成分の複合比率が50%を超えると、生産性が低下するために好ましくない。海島型複合繊維の海成分/島成分のより好ましい複合比率は、15/85〜40/60である。
【0038】
この海島型複合繊維と沸水収縮率10%〜30%を有するポリエステルフィラメントを用いて芯鞘複合糸を得るが、この芯鞘複合糸における両糸条の熱収縮特性と糸長差は本発明の仕上げ加工で複合繊維を織物表面に出現させるという意味でも重要である。つまり、ポリ乳酸を溶出した後、残ったポリトリメチレンテレフタレートが十分に織物の表面に出現させるため、両糸条の熱収縮特性の差および糸長差をつけるのが肝要である。
【0039】
本発明の製造方法に使用する芯鞘複合糸は、たとえば、鞘部に位置する海島型複合繊維を弛緩熱処理によって、好ましくは収縮率を3%以下、さらにより好ましくは2.0%未満とする。その後に前記沸水収縮率10%〜30%を有するポリエステルフィラメントと複合することによって得られる。複合の方法としては、引きそろえ、混繊、合撚など挙げられる。なかでも、織物表面の複合繊維のカバー性を均一するには混繊が最も好ましい。混繊加工は芯鞘の2糸条の糸長差を大きく設定する観点から、通常のインターレース加工が適しているが、その糸長差は1%〜10%であることが好ましい。糸長差が1%以下だと、複合繊維が十分に織物の表面に現出することが無く、仕上げ後の織物の表面品位が悪く、必要となる緻密感が得られないことがある。一方、10%以上だと毛羽の原因となり、工程通過性が悪くなる傾向にある。また、芯糸に使用する海島複合繊維と鞘糸に使用するポリエステルの収縮差は10%〜30%が適当である。この範囲であれば、織物とした場合に粗硬化することなく、優れた風合いの製品にすることができる。なお、織物を分解した時の糸長差も1〜10%であることが好ましい。
【0040】
このように、前述した熱収縮特性の差と混繊加工によるつけた糸長の差の組み合わせ効果によって、織物にして海島型複合繊維の海成分を溶出したあと、残った島成分のポリトリメチレンテレフタレートが十分に織物の表面に現出させるため、本発明の緻密感、ヌメリ感のあるスエード調織物に到達できるのである。
【0041】
本発明の織物は、タテ糸である芯鞘複合糸の鞘部がポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維で構成されているものであり、この極細繊維はいわゆる海島型複合繊維から好適に得られるものであるが、具体的には、海成分にポリ乳酸ポリマーを用い、島成分にポリトリメチレンテレフタレートポリマーを用いた海島型複合繊維を使用して織物を製織後、染色工程あるいはこれに付随する工程で、海成分のポリ乳酸を溶解し除去して、ポリトリメチレンテレフタレートの極細繊維を得るものである。ここで得られる極細繊維は、海成分中に複数の島成分が点在する断面構造であるために、マルチフィラメントとして得られる。
【0042】
本発明の製造方法で用いられる海島型複合繊維は、海成分としてポリ乳酸を配することが肝要である。ポリ乳酸は、ポリトリメチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートよりも溶融温度が低いため、溶融温度がポリトリメチレンテレフタレートよりも高い有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートを海成分として用いた場合に比べ、紡糸温度を低く押さえることができ、原糸の製造段階から高次加工段階を含めた工程での操業の安定化や、島成分のポリトリメチレンテレフタレートの熱劣化による風合い低下の防止が可能となる。
【0043】
また、ポリ乳酸は、一般的に有機金属塩を共重合したポリエステルよりもアルカリ溶出速度が速いが、さらにポリ乳酸を海成分としポリトリメチレンテレフタレートを島成分とする海島型複合繊維とすることで、ポリ乳酸の配向が抑制され、ポリ乳酸のアルカリ溶出速度がより速くなる。
【0044】
さらに、このようにポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートとを組み合わせた海島型複合繊維は、海成分のポリ乳酸をアルカリ処理等で除去後、島成分として分割されたポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維に、収縮性を残すという特異な現象を付与することが可能であり、このため極細繊維となった後に生地織物の織密度を上げさらに緻密化させることができる。
【0045】
この点についてさらに説明する。従来のポリエステル系海島型複合繊維は、海成分にアルカリ加水分解速度の速い有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分には通常のポリエチレンテレフタレートを用いることが一般的である。このような海島型複合繊維を編織物に製編織した後に、海成分を溶出するものである。この有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレート海島複合繊維は、海成分と島成分の熱セット性がほぼ同じであるため、紡糸/延伸後に海島成分が均一な収縮性を示すものとなる。また、編織物形成後に有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートを確実に溶出させるためには、アルカリ処理のみでは溶出不良となり易いことと、海成分と島成分との間のアルカリ加水分解速度が比較的近いため、選択的に海成分のみを分解させるため、あらかじめ編織物を高温の酸で処理して海成分と鞘成分との界面に亀裂を入れた後、アルカリ処理で海成分を溶出する工程を取ることが多い。このため、海成分を溶出した後の島成分には既に収縮性がほとんど残っていない。
【0046】
一方、本発明のように海成分にポリ乳酸ポリマーを用い、島成分にポリトリメチレンテレフタレートポリマーを使用した海島型複合繊維の場合は、まず、ポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートの熱セット性の違いが特筆される。ポリ乳酸は、比較的低温で熱セットされるのに対し、ポリトリメチレンテレフタレートはポリ乳酸に比較して高温でなければ熱セットされず、ポリ乳酸を熱セットできる温度では収縮性が残るものとなる。また、従来技術の有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートに比較し、ポリ乳酸はアルカリ加水分解が早いということと、島成分のポリトリメチレンテレフタレートは通常のポリエチレンテレフタレートに比較してアルカリ加水分解が遅い。そのため、前記の従来技術のように海成分を溶出する際、あらかじめ高温の酸処理等を施さなくとも、比較的低温のアルカリ処理のみで安定して海成分の溶出が可能であり、海成分であるポリ乳酸を溶出後も島成分のポリトリメチレンテレフタレートには収縮性能が残っており、海成分を溶出後さらに生地の密度を緻密化させることができるものとなる。
【0047】
具体的に、海成分であるポリ乳酸を溶出後のポリトリメチレンテレフタレートからなる極細繊維の収縮付与率は、織組織や織密度のような、いわゆる織物設計に左右されるために一概に言えないものの、3%以上収縮させることで生地織物の緻密化を図ることができる。
【0048】
これらのポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートとの組み合わせ効果により、本発明の目的である生産性に優れ、衣料用織物としたときのソフト感と発色性に優れた、ポリトリメチレンテレフタレートの極細繊維を用いた防風性に優れた高密度織物が提供できるのである。
【0049】
本発明でいうポリ乳酸は、特に制限されるものではないが、平均分子量は5万〜10万のものが好ましく、かつ純度が95.0%〜99.5%のL−乳酸からなるポリ乳酸であれば、各製造工程での強度を維持できるほか、適度な生分解性が得られることから溶出した後の廃液の環境負荷が小さい。また、さらに、ポリ乳酸としては、L−乳酸やD−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。
【0050】
特に好ましいポリ乳酸としては、高融点と低屈折率の観点から、L−乳酸を主成分とするポリエステルであるポリ乳酸、およびグリコール酸を主成分とするポリエステルであるポリグリコール酸を挙げることができる。L−乳酸を主成分とするとは、構成成分の60重量%以上がL−乳酸よりなっていることを意味しており、40重量%を超えない範囲でD−乳酸を含有するポリエステルであってもよい。
【0051】
ポリ乳酸に共重合可能な他の成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸および5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類、またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0052】
ポリ乳酸の平均分子量は30万を超えない程度に高いほど好ましく、より好ましい平均分子量は5万以上であり、さらに好ましい平均分子量は10万以上である。
【0053】
平均分子量を5万以上とすることで、実用に供し得るレベルの繊維の強度物性を得ることができ、また平均分子量を30万以下とすることでポリマーの粘度の上昇を抑えることができるので紡糸温度も低めに抑えることができ、従ってポリマーの熱分解を防ぎ、安定した紡糸を行うことができる。
【0054】
また、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを内部可塑剤として、あるいは外部可塑剤として用いることができる。さらには、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤および着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。
【0055】
また、島成分として用いられるポリトリメチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。
【0056】
共重合可能な化合物としては、酸成分として、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類が挙げられ、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0057】
また、艶消剤としての二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体、および着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0058】
なお、海成分の除去処理は、製織後に行うが、好ましくは10〜100g/l、さらに好ましくは20〜80g/lのアルカリ溶液中で行う。アルカリ溶液としては、通常、水酸化ナトリウム溶液を用い、60〜120℃の温度で処理すれば良い。80℃以上に加熱した水酸化ナトリウム水溶液を用いて減量すると、アルカリ減量時間を短くできるので特に好ましい。また、本発明の織物は芯鞘複合糸を製織した後に、アルカリ減量を行って極細糸とすることがより好ましい。
【0059】
本発明で用いられる海島型複合繊維の断面形状は、丸断面の他、扁平、中空および三角等の異形断面であってもよい。また、海島型複合繊維の繊維表面は、島成分が海成分で完全に覆われていてもよく、島成分が一部露出していてもかまわない。さらに、海成分を除去した後の島成分の断面形状も、丸断面の他、扁平や三角等の異形断面であってもよい。
【0060】
また、本発明で用いられる海島型複合繊維は、例えば、特開昭57−47938号公報に記載の第3図や、特開昭57−82526号公報に記載の第2図に示される装置を好適な一例として使用して製造することができ、海成分となるポリマーと島成分となるポリマーを別々のポリマー導入管から各々の濾過室で濾過した後、口金流入孔を介して口金細孔に分割流の状態で会合(合流)させることにが可能な複合紡糸口金を使用することで得ることが出来る。フィラメント数については特に制限がないが、製糸性のことを考慮し、10〜80の方が良いである。
本発明の製造方法で用いられる海島型複合繊維を製糸するにあたっては、紡糸および延伸工程を連続して行う方法、未延伸糸として一旦巻き取った後、延伸する方法、または高速製糸法など何れの方法も適用することができる。さらに、本発明の製造方法で用いられる海島型複合繊維については、弛緩熱処理で沸水収縮率を落とすことが重要だが、必要に応じて仮撚や空気交絡等の糸加工を施しても良い。
【0061】
次に、前記海島型複合繊維とポリエステルフィラメントとの芯鞘複合糸をタテ糸として、前記捲縮発現能力を内在するコンジュゲートフィラメントをヨコ糸として製織するが、タテ糸として供給される芯鞘複合糸およびヨコ糸として供給されるコンジュゲートフィラメントは、後加工での起毛性、ストレッチ性、工程通過性などから、いずれも500〜1500T/mの中撚で使用するのが好ましい。500T/m以下になると、工程通過性が悪い。1500T/m以上の強撚が付与されると、ストレッチ性が低下したり、起毛加工もしにくくなってくる。
【0062】
織組織には特に制限はなく、平織、綾織、朱子織等任意の織組織が採用でき、公知の製織機、例えばレピア織機、ウォーター織機、エアジェット織機等を使用して製織することができる。前述のとおり、製織後に海島型複合繊維の海成分の溶解処理を行うが、この溶解処理は公知の装置を用いることができる。
【0063】
次に染色加工について説明する。上述した製織された織物に、起毛の表面タッチと膨らみ感と反発感を発揮させるのが染色加工工程であり、染色加工工程を経ることが好ましい。本発明の織物の特徴であるストレッチ性をより十分に発揮させるため、中厚地ポリエステルフィラメント織物の条件に準じて行うことが出来る。また染色するにあたっては、高密度化させるためリラックス精練工程として、ソフサーリラックスまたは液流リラックス法を用いることが好ましい。
【0064】
スエード調の表面タッチを得るための起毛加工については、バフ加工と針布加工が一般的に使用されているが、本発明の織物の製造方法においては、毛羽密度の緻密で高級感のある表面感を表現するため、針布加工が好ましい。針布加工においては、公知の針毛起毛機等が使用できる。起毛回数について目標とする表面感が得られればよいので特に限定されないが、目安としては10〜15回の起毛回数である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0066】
A.沸騰水収縮率(SWA)
周長0.8mの検尺機に、90mg/dtexの張力下で10回巻回してカセ取りし、10分放置した後、カセ長(L)を測定する。その後、このカセをガーゼで包み、無荷重下で98℃×20分間熱水処理し、2cm以下の棒につり下げ約12時間放置した後、カセ長(L1)測定し、下記式で算出した。
【0067】
沸騰水収縮率(SWA)=(L−L1)/L×100
B.単繊維繊度(FDT)
周長0.8mの検尺機に、90mg/dtexの張力下で10回巻回してカセ取りし、12時間放置した後、このカセをガーゼで包み、無荷重下で98℃×20分間熱水処理し、無荷重下で80℃の3%水酸化ナトリウム水溶液で海成分が完全に溶解するまで処理した後、0.1g/dtexの加重で10cm長にカットし、単繊維の重量を測定することで単繊維繊度を測定した。
【0068】
C.通気度
JIS L1096(A法)に準じて測定した。
【0069】
D.ストレッチ性
JIS L1096(伸縮織物の伸縮性測定法)に準じて測定した。
なお、タテのストレッチ性とはタテ糸方向のストレッチ性を、ヨコのストレッチ性とはヨコ糸方向のストレッチ性を、それぞれ示す。
【0070】
E.糸長差
糸長差ΔLとは、試料の複合糸に見掛繊度Dの0.1倍の荷重[0.1×D(g)]をかけ、試長5cm程度採取する。次に、その試料を撚が入らないようにビロード板の上で、分解針と先の細いピンセットを使用して単繊維をほぐす。そして、試長目盛りの入っている測長ガラス板上にグリセリンを薄くぬり、上記単繊維をクリンプが自然に伸びた状態になるように、かつ繊維自身が伸びないように張力ををかけて目盛りを読む。この時測定した芯糸の長さをL1、鞘糸の長さをL2とすると、次の式によって計算された値を糸長差ΔLという。
【0071】
織物のタテ糸分解糸の糸長差もこれと同様である。ただし、織物から張力のかからないように糸を解し、それを解撚して、無撚状態でサンプルを採取する。芯糸と鞘糸を分離し、この時測定した芯糸の長さをL1、鞘糸の長さをL2とすると、次の式によって計算された値を糸長差ΔLという。
【0072】
ΔL=[(L2−L1)/L1]×100(%)
なお、実施例における評価は、以下の方法で行なった。
【0073】
(1)精緻感の評価
実施例、比較例に記載の方法で得た織物の精緻感を触感(きめの細かさ)と見た目(表面のきれいさ)により官能評価した。この際、従来品である比較例3の織物を標準として、以下の基準で4段階評価を行ない、10人のパネラーの評価結果を平均して判定した。
○○:極めて精緻感がある、
○ :やや精緻感がある、
△ :標準織物と同等の風合い、
× :精緻感がない(きめが粗く、表面がきたない)。
【0074】
(2)ソフト感の評価
実施例、比較例に記載の方法で得た織物のソフトさを触感により官能評価した。この際、従来品である比較例3の織物を標準として、以下の基準で4段階評価を行ない、10人のパネラーの評価結果を平均して判定した。
○○:極めてソフトな風合い、
○ :ややソフトな風合い、
△ :標準織物と同等の風合い、
× :堅い風合い。
【0075】
(3)起毛タッチ感の評価
実施例、比較例に記載の方法で得た織物の起毛タッチ感を、見た目により官能評価した。この際、従来品である比較例3の織物を標準として、以下の基準で4段階評価を行ない、10人のパネラーの評価結果を平均して判定した。
○○:極めて起毛タッチ感が良い、
○ :やや起毛タッチ感が良い、
△ :標準織物と同等の起毛タッチ感、
× :起毛タッチ感が悪い。
【0076】
[実施例1]
ジメチルテレフタル酸19.4kg、1,3−プロパンジオール15.2kgにテトラブチルチタネートを触媒として用い、140℃〜230℃の温度でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った後、さらに、250℃の一定温度の条件下で3.5時間重合を行い、極限粘度[η]が0.96のポリトリメチレンテレフタレートを得た。上記の製法で得られたポリトリメチレンテレフタレートを島成分に用い、海成分として光学純度98.0%のポリ−L−乳酸を用い、海/島=20/80の複合比率(重量比)にて、島成分数70本、ホール数12の海島型複合用口金を用いて複合紡糸機にて紡糸温度250℃で、引き取り速度1500m/分で引き取り、未延伸糸を得た。続いて、該未延伸糸を、通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度を80℃とし、熱セット温度120℃で、延伸糸の伸度が35%となるように延伸倍率を合わせて延伸を行い、56dtex−12フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度は3.7cN/dtexであり、沸騰水収縮率は12.0%であった。
【0077】
次に、上記延伸糸を160℃、オーバーフィード11%で弛緩熱処理を実施し、1.5%の沸騰水収縮率の加工糸を得た。この加工糸と沸騰水収縮率25%のポリエチレンテレフタレートフィラメントとを引きそろえて、インターレースノズルに供給して、オーバーフィード2%、圧空圧3kg/mで混繊加工を行った。得られた混繊糸は、海島型複合繊維が鞘部に、また高収縮ポリエステルが芯部に配置され、5%の糸長差を有する芯鞘構造混繊糸であった。
【0078】
続いて該混繊糸に村田繊維機械製のダブルツイスター撚糸機を用いて、1000T/mのS撚りを掛け、織物のタテ糸として使用する。
【0079】
一方、極限粘度が0.475のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.96のポリトリメチレンテレフタレート100%からなる高粘度成分とを別々に溶融し、紡糸温度275℃で複合紡糸口金から重量複合比50:50で吐出し、サイドバイサイド型56dtex−24フィラメントのコンジュケートフィラメントを得た。続いて該サイドバイサイド型56dtex−24フィラメントのコンジュケートフィラメントに村田繊維機械製のダブルツイスター撚糸機を用いて、1200T/mのS撚りを掛け、織物のヨコ糸として使用する。
【0080】
上記タテ糸とヨコ糸を使用して、タテ糸密度222(本/2.54cm)、ヨコ糸密度95(本/2.54cm)の3/1ツイル織物を製織し、織物を得た。次いでこの織物を水酸化ナトリウム30(g/l)濃度の80℃温水中で60分間処理して、海成分のポリ乳酸を溶出し、極細繊維(マルチフィラメント)からなる織物を得た。この段階で、得られた織物のサンプルをカットし走査型電子顕微鏡(SEM)で織物断面を観察し、完全に海成分が溶出していることを確認した。溶出処理に引き続き、150℃の温度でプレセット後、その後針毛起毛機にかけ、15回起毛処理を行った。さらに、液流染色機を使用してダイナニックス ネイビーブルー(Dianix Navy Blue) BE−SFを2%owf濃度で用い、120℃の温度で染色/還元洗浄し、140℃の温度で仕上げセットした。得られた織物を乾燥して、本発明の織物を得た。
【0081】
得られた織物は、タテ糸密度306(本/2.54cm)、ヨコ糸密度113(本/2.54cm)の高密度織物で、通気度は0.5cc/cm・sと防風性が高く、かつソフトな手触りと優れた発色性を有するものであった。このときのタテ糸のカバー率は2200であり、ヨコ糸のカバー率は700であり、総カバー率は2900であった。その織物から分解したタテ糸の糸長差が9.0%があった。
【0082】
得られた織物は生機に対して縦方向が20%、ヨコ方向が37%の幅入りがあり、地締まり感が十分でかつ表面タッチを有している。
【0083】
また、得られた織物のストレッチ性はタテ、ヨコそれぞれ20%、25%で、きわめて良好な伸縮性を示した。
【0084】
[実施例2〜3]
繊度構成、海/島複合比率、島数を表1のように変更し、実施例と同様な方法で延伸糸および織物を得た。実施例2では製糸性が良好であり、得られた織物は精緻感、ソフト感、発色性が良好なものであった。また、織物のストレッチ性はタテ、ヨコそれぞれ17%、24%で、良好な伸縮性を示した。
【0085】
[比較例1]
比較例1は実施例1と同様のポリトリメチレンテレフタレートを用い、ホール数250の口金を用いて、通常紡糸機にて紡糸温度250℃、引き取り速度1500m/分で巻き取った。得られた56dtex−250フィラメントの延伸糸をアルカリ減量率を20%におよび平織設定した以外は実施例1と同様の方法で混繊、製織、加工を行い織物を得た。延伸糸物性と織物について評価した結果を表1に示す。比較例1では得られた織物のストレット性はタテ15%、ヨコ16%であり、また良いストレッチ性とも言えるものの、布帛の表面が粗く、精緻感、起毛タッチ感に欠けたものであった。
【0086】
[比較例2]
比較例2では島成分として実施例1と同様のポリトリメチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸4.5モル%共重合した極限粘度[η]が0.56のポリエチレンテレフタレートを用い、実施例1と同様の口金、複合紡糸機を用いて紡糸温度280℃、引き取り速度1500m/分で巻き取り、得られた未延伸糸を実施例1と同様の方法で延伸糸を得た。得られた延伸糸を実施例1と同様の方法で混繊、製織、加工を行い織物を得た。延伸糸物性と織物について評価した結果を表1に示す。比較例2で得られた織物はストレッチ性が少なく、また布帛のきめが粗く、精緻感に欠けたものであった。
【0087】
[比較例3]
比較例3では島成分として極限粘度[η]が0.55のポリエチレンテレフタレートを用い、海成分として比較例2と同様の共重合ポリエチレンテレフタレートを用い、比較例2と同様方法で巻き取り、延伸糸を得た。得られた延伸糸を実施例1と同様の方法で混繊、製織、加工を行い織物を得た。延伸糸物性と織物について評価した結果を表1に示す。比較例3では、ストレッチ性もソフト性も乏しく、かさかさした風合いであった。
【0088】
[比較例4]
繊度構成、海/島複合比率、島数を表1のように変更し、実施例と同様な方法で延伸糸および織物を得た。比較例4は、海成分の複合比率60%と高いため、製糸性が若干劣ると共に、海成分除去によって繊維間の空隙が大きく形成されることによってふかついたタッチの織物しか得られなかった。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タテ糸に鞘部が単繊維繊度(FDT)が0.01〜0.5dtexのポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント、芯部がポリエステルフィラメントから構成された芯鞘複合糸、ヨコ糸にポリエステルからなるコンジュゲートフィラメントを用いた織物であって、タテ糸とヨコ糸の総カバー率(C・F)が1700以上3500以下で、かつタテのストレッチ性が5〜30%、通気度が1.0cc/cm・S未満であることを特徴とする織物。
【請求項2】
ヨコ糸のコンジュゲートフィラメントが、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとをそれぞれ主たる構成成分とする2種の成分のサイドバイサイド型複合フィラメントであることを特徴とする請求項1に記載の織物。
【請求項3】
織物を分解したときの芯鞘複合糸が1〜10%の糸長差を有することを特徴とする請求項1または2に記載の織物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の織物を製造する方法であって、海成分ポリマーがポリ乳酸で構成され、島成分ポリマーがポリトリメチレンテレフタレートで構成され、海成分/島成分の複合比率が10/90〜50/50である海島型複合繊維と沸水収縮率10%〜30%のポリエステルフィラメントと複合して得られた芯鞘複合糸をタテ糸に、捲縮発現能力を内在するコンジュゲートフィラメントをヨコ糸に使用して製織後、溶解処理によりポリ乳酸を溶出させ、その後に起毛加工することを特徴とする織物の製造方法。
【請求項5】
ヨコ糸に使用するコンジュゲートフィラメントがポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とする2種の成分がサイドバイサイド型に複合されたことを特徴とする請求項4に記載の織物の製造方法。
【請求項6】
前記芯鞘複合糸が1〜10%の糸長差を有することを特徴とする請求項4または5に記載の織物の製造方法。

【公開番号】特開2006−336162(P2006−336162A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163659(P2005−163659)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】