説明

缶詰加熱装置

【課題】缶詰を消費者に販売する際に缶詰を加熱するための缶詰加熱装置について、非接触型の温度検知素子を使用して、過熱により缶詰を変形させたり破裂させたりすることなく、安全に缶詰を加熱できるようにする。
【解決手段】缶詰2の表面に接触しない非接触型の温度検知素子12を使用すると共に、缶詰2の蓋22に向かって指向性集音マイク13を設置し、この指向性集音マイク13からの伝達により高周波誘導加熱コイル11への通電を止める通電停止回路を設置して、温度検知回路の制御により高周波誘導加熱コイル11に通電中で、指向性集音マイク13が所定範囲の周波数の音を捉えたときに、通電停止回路によって高周波誘導加熱コイル11への通電が止められるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶詰を消費者に販売する際に缶詰を加熱するための装置に関し、特に、非接触型の温度検知素子を使用した装置で、過熱により缶詰を変形させたり破裂させたりすることなく、安全に缶詰を加熱できるような缶詰加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から一般的に自動販売機内で保温されたり店内のショーケース内で保温されたりして保管された状態から消費者に販売されている缶詰の商品について、近年、冷蔵や常温で保管された状態の缶詰に対して、販売時に高周波誘導加熱することで、缶詰を飲み頃の温度として販売するという方式が採用されるようになっている。そのような販売方式によれば、保管中に缶詰を保温するための電気エネルギーを消費しないことで、省エネルギーという観点から利点があると共に、保管中にわたって缶詰の内容物を長時間高温に曝さないことで、香味の劣化等のような内容物の変質を抑制できるという利点がある。
【0003】
上記のような販売方式において使用される缶詰加熱装置として、缶詰を誘導加熱する高周波誘導加熱コイルと、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子と、この温度検知素子により検知した温度に応じて高周波誘導加熱コイルへの通電を制御する温度検知回路と、温度検知素子により検知した温度を表示する温度表示部とからなる自動販売機の缶詰加熱装置、というものが下記の特許文献1により従来公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭57−16394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の特許文献1により従来公知の缶詰加熱装置では、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子として、缶詰の表面に接触する端子を使った接触型の温度検知素子を使用しているが、そのような接触型の温度検知素子では、加熱の対象となる缶詰の直径が変わったり、被加熱位置に缶詰が正確に設置されなかったりして、温度検知素子の端子が缶詰の表面に正しく接触しないと、缶詰の表面温度ではなく気温を検出することで、結果的に缶詰を過剰に加温してしまうこととなり、その結果、缶詰の蓋を外方に大きく膨れ上がるように変形させたり、缶詰を破裂させたりするような問題が起きることとなる。
【0006】
また、加熱中に高周波誘導加熱コイルと缶詰とを共に揺動させることで、缶内の内容物を攪拌して、内容物を均一に加熱しようとした場合には、接触型の温度検知素子では、缶詰の揺動に合わせて温度検知素子も共に揺動させることが必要となるが、そのように温度検知素子を揺動させることで、温度検知素子の端子を正しく缶詰の表面に接触させることが難しくなる。
【0007】
そこで、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子としては、缶詰の表面に端子を接触させない非接触型のものを使用することが望ましいと考えられるものの、非接触型の温度検知素子を使用した場合には、測定時の何らかの諸条件、例えば、缶詰表面の凹凸などの外観や、缶詰の揺動に伴う温度検知素子の位置の変動などによって、±6℃程の測定誤差を生じる場合がある、ということが知られている。
【0008】
したがって、非接触型の温度検知素子を使用した場合でも、例えば、缶詰の表面温度を実際の温度よりも6℃ほど低いという誤った測定をし、その結果に基づいて缶詰を加熱し続けたような場合には、缶詰の表面温度が実際の測定値よりも6℃ほど高い状態から缶詰を加熱し続けることで、結果的には缶詰を過剰に加温してしまうこととなり、その結果、やはり缶詰の蓋を外方に大きく膨れ上がるように変形させたり、缶詰を破裂させたりするような問題が起きる虞がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題の解消を課題とするものであり、具体的には、缶詰を消費者に販売する際に缶詰を加熱するための缶詰加熱装置について、非接触型の温度検知素子を使用して、過熱により缶詰を変形させたり破裂させたりすることなく、安全に缶詰を加熱できるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するために、缶詰の表面を加熱して缶内の内容物を加熱する高周波誘導加熱コイルと、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子と、温度検知素子で検知した温度に応じて高周波誘導加熱コイルへの通電を制御する温度検知回路とを備えている缶詰加熱装置において、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子として、缶詰の表面に接触しない非接触型の温度検知素子が使用されていると共に、更に、缶詰の蓋に向かって指向性集音マイクが設置され、この指向性集音マイクからの伝達により高周波誘導加熱コイルへの通電を止める通電停止回路が設置されていることにより、温度検知回路の制御により高周波誘導加熱コイルに通電中で、指向性集音マイクが所定範囲の周波数の音を捉えたときに、通電停止回路によって高周波誘導加熱コイルへの通電が止められるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
上記のような本発明の缶詰加熱装置によれば、缶詰の表面に接触しない非接触型の温度検知素子を使用していることで、加熱される缶詰の径や加熱位置に多少の変動があっても柔軟に対応することができると共に、非接触型の温度検知素子を使用することで測定誤差が発生しても、それに基づく過熱によって缶詰が変形したり破裂したりするのを防止することができる。
【0012】
すなわち、非接触型の温度検知素子による測定で、缶詰の表面温度を実際の温度よりも低く測定する誤差が発生している場合に、缶内の内容物が適当な温度に到達した後も更に続けて加熱されることで、缶詰が過熱の状態となったしても、缶詰が膨張して缶詰の蓋が僅かに外方へ向かって弾性変形(復元可能な状態に変形)した段階で、この蓋の弾性変形に伴って特定の周波数の範囲の音(変形音)が発生するのに応じて、この特定の周波数の音を、缶詰の蓋に向かって設置された指向性集音マイクが捉えて、このことを通電停止回路に伝達することで、高周波誘導加熱コイルへの通電を直ちに止めることができることから、缶詰がそれ以上に変形(復元不能な状態に塑性変形)したり破裂したりするのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の缶詰加熱装置の一実施例を示す側面図である。
【図2】加熱時間毎での缶詰の蓋の変位量と内容物の温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
缶詰を消費者に販売する際に缶詰を加熱するための缶詰加熱装置について、非接触型の温度検知素子を使用して、過熱により缶詰を変形させたり破裂させたりすることなく、安全に缶詰を加熱できるようにするという目的を、最良の形態として以下の実施例に具体的に示すように、缶詰の表面を加熱して缶内の内容物を加熱する高周波誘導加熱コイルと、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子と、温度検知素子で検知した温度に応じて高周波誘導加熱コイルへの通電を制御する温度検知回路とを備えている缶詰加熱装置において、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子として、缶詰の表面に接触しない非接触型の温度検知素子を使用すると共に、更に、缶詰の蓋に向かって指向性集音マイクを設置し、この指向性集音マイクからの伝達により高周波誘導加熱コイルへの通電を止める通電停止回路を設置することにより、温度検知回路の制御により高周波誘導加熱コイルに通電中で、指向性集音マイクが所定範囲の周波数の音を捉えたときに、通電停止回路によって高周波誘導加熱コイルへの通電が止められるように構成する、ということで実現した。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の缶詰加熱装置の一実施例について説明すると、本実施例では、図1に示すように、コーヒー等のような飲料を内容物とするネジ蓋付きの缶詰2を加熱の対象としている。このネジ蓋付きの缶詰2では、抵抗溶接法によって円筒状に接合されて開口部側が縮径された鋼板製の缶胴21に対して、図示していないが、その底部側に鋼板製の底蓋が二重巻締め法により固着されていると共に、その開口部側の小径円筒部にネジ部が形成されていて、このネジ部に、アルミニウム製でキャップ状に形成された蓋22が螺着されている。それにより、キャップ状の蓋22を捩って缶詰を開封し、内容物を飲用した後、内容物を飲みきれなかった場合には、缶胴21のネジ部に蓋22を螺着させることで、缶詰を再封鎖できるようになっている。
【0016】
なお、本実施例では、具体的には、外径が約52mmの鋼板製の缶胴21に対して、その開口部側で小径円筒状に縮径されたネジ部に、外径が約43mmのアルミニウム製の蓋22が螺着されており、蓋22が螺着された状態での缶詰2の全体の高さは、約103mmとなっている。また、キャップ状の蓋22の頂部は、その外周部分が、幅が約5mmのリング状の平坦面の形成されており、外周部分よりも内側は、僅かに下方(缶内方)に窪んで、円板状の平坦面に形成されている。
【0017】
また、本実施例では、缶詰2の内容物となるコーヒー等のような飲料の充填方法について、具体的には、約170gの飲料を約90℃の熱い状態で缶内に充填して、缶内のへッドスペースにある酸素を含んだ空気を飲料の蒸気で置き換えた後、缶胴21の開口部側に蓋22を装着して密封しており、缶詰2の温度が常温に低下した時の缶内の圧力は、−15cmHgから−25cmHgの負圧となっている。
【0018】
上記のような缶詰2を加熱の対象とする本実施例の缶詰加熱装置1では、図1に示すように、被加熱物である缶詰2に対して、缶詰2の表面を加熱して缶内の内容物を加熱するための高周波誘導加熱コイル11が、缶詰2の胴部を包囲するように設けられており、缶詰2の表面温度を検出して缶内の内容物の温度を推測するための温度検知素子12が、缶詰2の胴部と対峙するように設けられていると共に、所定範囲の周波数の音を捉えるための指向性集音マイク13が、缶詰2の蓋22に向けて設置されている。
【0019】
缶詰2の表面温度を検出するための温度検知素子12は、缶詰2の表面に接触させなくても缶詰2の表面温度を測定できる非接触型のものであって、この温度検知素子12により検出された缶詰2の表面の温度情報は、図示していない温度検知回路に送られ、この温度検知回路によって、高周波誘導加熱コイル11への通電が制御されている。
【0020】
温度検知回路による高周波誘導加熱コイル11への通電の制御については、加熱方式に応じて適宜の制御方法が採用されるものであって、例えば、最初に測定された缶詰2の表面の温度情報から、飲み頃の温度(例えば、約55℃)となるまで、高周波誘導加熱コイル11への通電時間を設定するような加熱方式であれば、最初に測定された温度から割り出される高周波誘導加熱コイル11への通電時間を予め設定しておいて、割り出された時間だけ通電させる。
【0021】
また、缶詰2の表面の温度が飲み頃の温度に達したとの温度情報から、高周波誘導加熱コイル11への通電を停止させるような加熱方式であれば、缶詰2の表面の温度が飲み頃の温度に達したとの温度情報により、高周波誘導加熱コイル11への通電を停止させる。なお、最初に測定した缶詰2の表面の温度情報から、飲み頃の温度までの高周波誘導加熱コイル11への通電時間を設定するような加熱方式であっても、缶詰2の表面の温度が飲み頃の温度に達したとの温度情報を得た時点で、高周波誘導加熱コイル11への通電を停止させるようにしても良い。
【0022】
ところで、缶詰2の表面に接触しない非接触型の温度検知素子12については、±6℃程度の測定誤差を発生させてしまう虞があることが従来から知られているが、もしも、缶詰2の表面温度が実際の温度よりも約6℃低いという誤った測定結果が得られた場合には、この測定結果に基づいて缶詰2を加熱し続けることで、缶詰2の実際の表面温度が測定値よりも約6℃高くなり、飲み頃の温度(例えば、約55℃)を過ぎても加熱が続けられることとなる。
【0023】
その結果、過熱された缶詰2では、先ず、蓋22の外周部分のリング状の平坦面を支点として、その内側の円板状の平坦面が、「パリン」という1〜2KHzの周波数の変形音を発しながら缶外方へ向かって弾性変形して膨れ上がり、その状態から更に加熱を続けると、蓋22が缶外方に更に大きく塑性変形して内容物が吹き出したり、蓋22が吹っ飛んで缶詰が破裂するというような事故が起きることとなる。
【0024】
上記のような状況について更に具体的に説明すると、本実施例において、加熱を始める前の缶詰2では、内容物の温度が約22℃であり、缶内は負圧となっていて、蓋22の円板状の平坦面は、外周部分のリング状の平坦面よりも約1.3mmほど缶内方に窪んでいる。そのような状態の缶詰2に対し、高周波誘秀導加熱コイル4の出力を1300Wとして加熱した場合について、図2は、複数のサンプルの缶詰について、加熱時間毎での缶詰の蓋(蓋22の円板状の平坦面)の変位量と内容物の温度との関係をグラフにしたものである。
【0025】
上記のような加熱前の状態の缶詰2に対して加熱を開始すると、約22秒後で内容物の温度は約55℃(飲み頃の温度)となるが、さらに加熱を続けると、約27秒後には内容物の温度が約65℃付近に達して、缶内が正圧となり、突然、蓋22の円板状の平坦面が約0.5mmほど缶外方に膨出して、このときに、「パリン」という変形音(周波数は1〜2KHz)が発生した。その後、さらに加熱を続けると、約35秒後には、蓋22と缶胴21との間から内容物が吹き出した。
【0026】
上記のように蓋22と缶胴21との間から内容物が吹き出したり、或いは、蓋22が吹っ飛んで缶詰が破裂したりしないように、本実施例の缶詰加熱装置1では、内容物の温度が約65℃付近に達すると蓋22が変形音(周波数は1〜2KHz)を発するという知見に基づいて、缶詰2の蓋22に向けて指向性集音マイク13を設置していると共に、高周波誘導加熱コイル11への通電中で、指向性集音マイク13が1〜2KHzの範囲の変形音を捉えたときに、高周波誘導加熱コイル13への通電を止めるように通電停止回路(図示せず)を設けている。
【0027】
そのような本実施例の缶詰加熱装置1によれば、非接触型の温度検知素子12を使用することで、缶詰2の表面温度を実際の温度よりも低く測定する誤差が発生して、缶内の内容物が適当な温度に到達した後も更に続けて缶詰2が加熱された場合でも、缶詰2の蓋22の円板状の平坦面が缶外方に僅かに弾性変形した段階で、この蓋22の弾性変形に伴って発生する変形音(周波数は1〜2KHz)を指向性集音マイク13が捉えて、このことを通電停止回路に伝達することで、高周波誘導加熱コイル11への通電を直ちに止めることができることから、缶詰2の蓋22がそれ以上に変形して内容物が吹き出したり、缶詰2が破裂したりするのを防止することができる。
【0028】
以上、本発明の缶詰加熱装置の一実施例について説明したが、本発明は、上記のような実施例にのみ限定されるものではなく、例えば、加熱の対象となる缶詰については、実施例に示したようなネジ蓋付きの缶詰に限らず、二重巻締め法等により缶蓋が巻締固着された缶詰であっても良いものであり、また、上記の実施例では、加熱中に缶詰と高周波誘導加熱コイルは何れも固定されているが、加熱中に高周波誘導加熱コイルと缶詰とを共に揺動させることで、缶内の内容物を撹拌して均一に加熱するようにしても良い等、適宜に設計変更可能なものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 缶詰加熱装置
2 缶詰
11 高周波誘導加熱コイル
12 温度検知素子
13 指向性集音マイク
21 (缶詰の)缶胴
22 (缶詰の)蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶詰の表面を加熱して缶内の内容物を加熱する高周波誘導加熱コイルと、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子と、温度検知素子で検知した温度に応じて高周波誘導加熱コイルへの通電を制御する温度検知回路とを備えている缶詰加熱装置において、缶詰の表面温度を検出する温度検知素子として、缶詰の表面に接触しない非接触型の温度検知素子が使用されていると共に、更に、缶詰の蓋に向かって指向性集音マイクが設置され、この指向性集音マイクからの伝達により高周波誘導加熱コイルへの通電を止める通電停止回路が設置されていることにより、温度検知回路の制御により高周波誘導加熱コイルに通電中で、指向性集音マイクが所定範囲の周波数の音を捉えたときに、通電停止回路によって高周波誘導加熱コイルへの通電が止められるように構成されていることを特徴とする缶詰加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−28397(P2011−28397A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171535(P2009−171535)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】