説明

置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体及びセル殻置き式鋼板セル工法

【課題】置き式鋼板セル工法においてセル殻設置後の中詰施工の初期段階における安定性を容易にかつ低コストで向上可能な置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体および置き式鋼板セル工法を提供する。
【解決手段】この置き式鋼板セル工法は、セル殻11を水底Gに設置してから内部に中詰材を投入することでセル構造体を構築する際に、セル殻の底面にアンカー構造体12を取り付けてから、セル殻を水底に設置し、次に、セル殻内に中詰材を投入しアンカー構造体上に堆積させることでセル構造体を安定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸や岸壁や防波堤などの構築のための置き式鋼板セル工法のための底面アンカー構造体および置き式鋼板セル工法に関する。
【背景技術】
【0002】
護岸や岸壁や防波堤などの構築のためのセル工法には、鋼矢板セル工法と鋼板セル工法とがある。鋼矢板セル工法は、鋼矢板を円形に場所打ちで打ち込むため、建て込みや打ち込みに時間を要し気象条件や海象条件の影響を受けやすいのに対し、鋼板セル工法は、予め鋼板セルを鋼板から加工してから所定水域まで運搬し設置し急速に施工可能であるので、このような問題がない。鋼板セル工法には、鋼板セルを水底面下に打ち込んで安定化させてから中詰を施す「根入式」と、整地した水底マウンド上に鋼板セルを設置して中詰を施す「置き式」とがある。
【0003】
根入式鋼板セル工法では、鋼板セルを設置してから振動手段により振動させながら水底に打ち込む。置き式鋼板セル工法について図13を参照して説明する。図13は、置き式鋼板セル工法を岸壁工事に適用した例を示す概略図であるが、図のように、置き式鋼板セル工法では、鋼板からなる円筒体(セル殻)101を整地した水底の地盤面Gに起重機船等を用いて設置し、セル殻の内部に土砂、岩ズリ、砕石等の中詰材を投入して中詰を施すことにより、安定した柱状構造物(以下、中詰材投入途中を含めて「セル構造体」という。)を構築する。セル殻101と101との間に円弧状の鋼板からなるアーク102を設置し、同様に中詰を施しアーク部とする。次に、コンクリートによる上部工103を施す。置き式鋼板セル工法によれば、根入れを行わないことから、施工に要する装置が小規模であり水底の地盤の状況により打ち込み不能となることもなく、根入式よりもさらに急速施工が可能である。
【0004】
置き式鋼板セル工法において、中詰の施工は、ガット船やリクレーマー船を用いて行われるが、設置したセル殻に偏土圧が作用しないように均等に投入することが望まれている。一方、セル殻の設置後、中詰の初期段階においては、根入れがないので、滑動や傾斜および回転に対する安定性が低いのが特徴であり、このため、速やかな中詰材の投入が望まれている。これらの2つの要求を実現するために、セル殻の中央部へ急速に中詰材を投入し、中央に頂点を有する円錐状の堆積形状を保ちながら中詰の施工を進行させることが一般的である。
【0005】
特許文献1は、表層を支持層まで浚渫した海底基礎地盤に、水中コンクリートを打設しながら、底面に底版コンクリート補強用鋼材を持ち底部外周面にずれ止め用鋼材を有する鋼板セルを沈設し、鋼板セルに中詰め材を充填した後、プレキャストコンクリート製の蓋をすることよりなる防波堤の構築方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−119125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図14のように、中詰材105が円錐状の堆積形状となるように中詰を施工した場合、投入開始から中詰材105の法先がセル殻101の内周面に到達するまでは、中詰材はセル構造体の安定になんら寄与しない。
【0008】
本発明者等による模型実験によれば、図14のような状態で、セル殻101に波浪等による外力が作用すると、図15のようなセル殻101の動揺および回転といった挙動が比較的容易に発生することが確認された。
【0009】
また、模型実験によれば、中詰材の投入が進行してセル殻の内周面に到達した後も、中詰の初期段階ではこの挙動は継続し、回転によりアーク継手の位置が移動したり、高波浪作用時に動揺により中詰材がセル殻底面から流出し、セル殻が傾斜したりするという現象も確認された。アーク継手位置の移動やセル殻の傾斜は、セル殻を連結するアーク部の設置に支障を来したり、また、過大なアーク張力の原因となったりする。
【0010】
さらに、模型実験によれば、中詰材の投入位置の偏心や投入時の中詰材の水平速度成分により偏心して堆積した場合には、堆積高さが高い側のセル殻に大きな主働土圧が作用し、反対側の受働土圧が十分でなければセル構造体が滑動する可能性もあることが、室内模型実験で判明した。
【0011】
特許文献1の防波堤の構築方法によれば、海底基礎地盤に水中コンクリートを打設しながら、底面に底版コンクリート補強用鋼材を持ち底部外周面にずれ止め用鋼材を有する鋼板セルを沈設し、鋼板セルに中詰め材を充填し、鋼板セルの底をコンクリートにより海底基礎地盤と一体化して鋼板セル本体を安定させるものであるため、水中コンクリート打設工程およびこの打設工程に連動した鋼板セルの沈設工程が必要であり、工程の複雑化およびコスト上昇が生じてしまい、また、水中コンクリートの硬化時間が必要なためタイムロスにつながり置き式鋼板セル工法の急速施工性が損なわれてしまう。
【0012】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、置き式鋼板セル工法においてセル殻設置後の中詰施工の初期段階における安定性を容易にかつ低コストで向上可能な置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体および置き式鋼板セル工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本実施形態による置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体は、セル殻を水底に設置してから内部に中詰材を投入することでセル構造体を構築する置き式鋼板セル工法のための底面アンカー構造体であって、セル殻の底面に取り付けられるアンカー構造体から構成され、水底に設置された前記セル殻内に投入された中詰材が前記アンカー構造体に堆積することでセル構造体を安定させることを特徴とする。
【0014】
この置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体によれば、セル殻の底面に取り付けられたアンカー構造体に対し、セル殻設置後に中詰材が投入されると、中詰材が堆積するためにセル構造体が安定するから、中詰施工の初期段階においてセル構造体の安定性を容易かつ低コストで向上させることができる。
【0015】
上記置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体において、前記セル殻の底面の略中央に位置するアンカー体と、前記アンカー体と前記セル殻の底端部とを連結する連結部材と、を備えることが好ましい。この場合、前記連結部材の張力を調整可能な張力調整手段を備えることで、アンカー体とセル殻の底端部との間を一定以上の張力で連結できる。なお、連結部材は、ワイヤやロープ等のようなケーブル構造体で張力を作用させてアンカー体を固定できるが、形鋼のような剛性のあるものでもよい。
【0016】
また、前記セル殻の底面に位置するアンカー体を備え、前記アンカー体が前記セル殻の底端部に接合されている構成としてもよい。この場合、上述の連結体は不要となる。
【0017】
本実施形態による置き式鋼板セル工法は、セル殻を水底に設置してから内部に中詰材を投入することでセル構造体を構築する置き式鋼板セル工法であって、セル殻の底面にアンカー構造体を取り付けてから、前記セル殻を水底に設置し、次に、前記セル殻内に中詰材を投入し前記アンカー構造体上に堆積させることでセル構造体を安定させることを特徴とする。
【0018】
この置き式鋼板セル工法によれば、セル殻設置後に中詰材が投入されると、セル殻の底面に取り付けたアンカー構造体に中詰材が堆積するためセル構造体が安定するから、中詰施工の初期段階においてセル構造体の安定性を容易かつ低コストで向上させることができる。
【0019】
本実施形態による別の置き式鋼板セル工法は、セル殻を水底に設置してから内部に中詰材を投入することでセル構造体を構築する置き式鋼板セル工法であって、セル殻を水底に設置してから、アンカー構造体を前記セル殻の底面に取り付け、次に、前記セル殻内に中詰材を投入し前記アンカー構造体上に堆積させることでセル構造体を安定させることを特徴とする。
【0020】
この置き式鋼板セル工法によれば、セル殻設置後に中詰材が投入されると、セル殻の底面に取り付けたアンカー構造体に中詰材が堆積するためセル構造体が安定するから、中詰施工の初期段階においてセル構造体の安定性を容易かつ低コストで向上させることができる。
【0021】
また、前記中詰材を前記セル殻の底面中央を目標に投入することが好ましい。
【0022】
また、上記置き式鋼板セル工法のアンカー構造体として、上述の置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体を用いることが好ましい。
【0023】
なお、本実施形態による置き式鋼板セル工法用セル殻は、水底に設置されてから内部に中詰材が投入されることでセル構造体を構築するための置き式鋼板セル工法用セル殻であって、前記セル殻の水底での設置後に投入される中詰材を堆積させることができるように前記セル殻の底面に取り付けられたアンカー構造体を備えることを特徴とする。この置き式鋼板セル工法用セル殻によれば、水底設置後に中詰材が投入されると、セル殻の底面に取り付けたアンカー構造体に中詰材が堆積するためセル構造体が安定するから、中詰施工の初期段階においてセル構造体の安定性を容易かつ低コストで向上する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体および置き式鋼板セル工法によれば、置き式鋼板セル工法においてセル殻設置後の中詰施工の初期段階におけるセル構造体の安定性を容易にかつ低コストで向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態による置き式鋼板セル工法を説明するために水底に設置されたセル殻の概略的な側面図(a)および平面図(b)である。
【図2】図2は図1のセル殻にアンカー構造体を取り付けた状態を示す平面図(a)および側面図(b)である。
【図3】図1,図2のアンカー構造体の作用効果を説明するためのセル殻の要部側面図である。
【図4】図2のアンカー構造体の別の例(a)〜(c)を概略的に示す斜視図である。
【図5】図2のアンカー構造体のさらに別の例(a)(b)を示す平面図および図5(a)のアンカー体をc-c線方向に切断してみた図(c)である。
【図6】本実施形態による置き式鋼板セル工法の工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。
【図7】図1のセル殻内に中詰材を投入する様子を概略的に示す図である。
【図8】本実施形態による置き式鋼板セル工法の別の工程S11〜S18を説明するためのフローチャートである。
【図9】図1,図2のアンカー構造体の取り付け構造および張力調整手段を説明するためのセル殻の要部側面図である。
【図10】実施例1,2のセル殻模型の底面に設けたアンカー構造を示す平面図である。
【図11】比較例1で中詰材の投入位置を変えたときの堆積結果を示す図(a)(b)(c)である。
【図12】図11の堆積結果についてセル殻の底面中心からの偏心距離と外縁堆積高の高低差との関係を示すグラフである。
【図13】従来の置き式鋼板セル工法を説明するための概略的な斜視図である。
【図14】従来の置き式鋼板セル工法において中詰施工の初期段階で中詰材がセル殻の安定に寄与しないことを説明するために図である。
【図15】図14の状態でセル殻に波浪等による外力が作用したときに生じるセル殻の動揺および回転の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による置き式鋼板セル工法を説明するために水底に設置されたセル殻の概略的な側面図(a)および平面図(b)である。図2は図1のセル殻にアンカー構造体を取り付けた状態を示す平面図(a)および側面図(b)である。図3は図1,図2のアンカー構造体の作用効果を説明するためのセル殻の要部側面図(c)である。
【0027】
図1(a)のように、鋼板から円筒形状に加工されたセル殻11が予め整地された水底の地盤面Gに設置される。セル殻11の円形底面に相当する地盤面G上には、アンカー体13と連結部材14とから構成されたアンカー構造体12が設置されている。
【0028】
図1(b)のように、セル殻11の外周面のアーク継手位置にはアーク継手部11aが設けられている。各セル殻11,11の内部に中詰が施されてから、セル殻11と11との間に円弧状の鋼板からなるアーク10aがセル殻11の外周面のアーク継手部11aに取り付けられ、アーク10aの内部にも中詰が施され、アーク部10が完成する。
【0029】
なお、セル殻11は、複数ブロックから構成され、図1(a)のように、縦方向および横方向の複数の溶接部Wで溶接により接合されており、また、内周面等には縦方向および横方向に補強用リブ(図示省略)が取り付けられている。
【0030】
図2(a)(b)のように、アンカー構造体12のアンカー体13はL形鋼から構成される。すなわち、アンカー体13は、L形鋼13aにL形鋼13aよりも短いL形鋼13b、13bが溶接で全体形状が十字状になるように取り付けられて構成されている。
【0031】
アンカー体13は、セル殻11の円形底面の略中心部に設置され、その全体長さがセル殻11の直径よりも短くなっている。ワイヤ等からなる連結部材14の一端がアンカー体13の各L形鋼13a、13bの先端15に取り付けられ、連結部材14の他端がセル殻11の内周面の底端部11bに取り付けられることで、アンカー体13がセル殻11の底端部11bに連結され固定される。
【0032】
なお、アンカー体13を平鋼やH形鋼、または、他の形鋼を用いて図2と同様に構成してもよい。
【0033】
図1,図2のアンカー構造体12によれば、図3のように、セル殻11の水底への設置後に、セル殻11の中央部分に土砂、岩ズリ、砕石等の中詰材Tを投入したとき、セル殻11の円形底面の略中心部に位置するアンカー体13上に中詰材Tが堆積する。ここで、セル殻11が、波浪等による外力がセル殻11に作用することで地盤面G上を図3の横方向Hに移動しようとすると、その力が方向hに連結部材14を介してアンカー体13に作用してアンカー体13を変位させようとするが、アンカー体13の周囲に堆積した中詰材Tによって、アンカー体13に方向hと反対方向h’への抵抗力が作用する結果、セル殻11の横方向Hへの移動が抑制され、セル構造体の安定性が向上する。このため、置き式鋼板セル工法におけるセル構造体に生じやすい回転・動揺・傾斜・滑動を効果的に抑制することができる。
【0034】
図3のように、投入された中詰材Tがセル殻11の内周面の底端部11bに到達していない中詰施工の初期段階でも、中詰材Tがアンカー体13に堆積すれば、上述のように、セル殻11の移動抑制効果を得ることができるので、セル構造体の安定を中詰施工の初期段階から実現できる。中詰施工が進行して中詰材がセル殻11内にある程度の高さまで堆積すれば、セル構造体の安定性を保つことができるが、それまでの間にセル構造体の安定性を図ることができる。
【0035】
また、中詰材Tは、セル殻11の内部で偏心して堆積しないようにセル殻11の底面の略中心部を目標にして投入されるが、この略中心部にアンカー体13が位置するので、投入開始のきわめて初期からセル構造体の安定を図ることができる。
【0036】
本実施形態によれば、図1〜図3のように、セル殻11の底面中央にアンカー体13を配置し、アンカー体13を連結部材14によりセル殻11の底端部11bに連結し固定することで、置き式鋼板セル工法に特有な課題であるセル殻設置後の中詰初期段階における施工時安定性を向上でき、本体構造物に特別な加工を施すこすことなく容易に低コストで実施可能である。
【0037】
次に、図2のアンカー構造体の別の例について図4を参照して説明する。図4は図2のアンカー構造体の別の例(a)〜(c)を概略的に示す斜視図である。
【0038】
図4(a)の例は、アンカー体として鋼板13Aを用い、略十字状に配置し、鋼板13Aの先端近傍に設けた孔19と、セル殻11の内周面の底端部11b(図3)とをワイヤ等の連結部材14で連結し固定する。また、鋼板13Aは主面(広い面)が地盤面に対し直立するように配置したが、主面が地盤面に接するように配置してもよい。
【0039】
図4(b)の例は、アンカー体としてコンクリートブロック13Bを用い、コンクリートブロック13Bの各先端に設けた環状の取付部16と、セル殻11の内周面の底端部11b(図3)とをワイヤ等の連結部材14で連結し固定する。取付部16はコンクリートブロック13Bのコンクリート打設前の型枠にあらかじめ組み込んでおくことが好ましい。
【0040】
図4(c)の例は、合成樹脂等の材料からなる矩形状のネット状体またはシート状体13Cを用い、ネット状体またはシート状体13Cの各端部とセル殻11の内周面の底端部11b(図3)とをワイヤ等の連結部材14で連結し固定する。また、ネット状体・シート状体13Cは、鋼製ワイヤ等の材料による補強部材で補強されていてもよい。
【0041】
次に、図2のアンカー構造体のさらに別の例について図5を参照して説明する。図5は図2のアンカー構造体のさらに別の例(a)(b)を示す平面図および図5(a)のアンカー体をc-c線方向に切断してみた図(c)である。
【0042】
アンカー体とセル殻の底端部との連結は、図2,図4ではワイヤ等のケーブル構造体で行ったが、連結部材は形鋼のような剛性を有するものでもよく、さらに、アンカー体の形状によってはこれらを介在せず直接アンカー体とセル殻を接合してもよい。すなわち、図5(a)(b)の例は、連結部材を用いずにアンカー体を直接にセル殻の内周面の底端部に接合したものである。
【0043】
図5(a)(c)の例は、アンカー体としてL形鋼(またはCT形鋼)17を用い、セル殻11の底面に十字状に配置し、L形鋼17の端部をセル殻11の内周面の底端部11b(図3)に溶接等により接合したものである。なお、アンカー体としてH形鋼等の他の形鋼を用いてもよい。
【0044】
また、図5(b)の例は、アンカー体として鋼板や鋼管や棒鋼等の鋼材18を用いて、複数本をセル殻11の底面中心から径方向に放射状に配置し、鋼材18の端部をセル殻11の内周面の底端部11b(図3)に溶接等により接合したものである。
【0045】
上述の図4,図5のアンカー構造体によれば、図3と同様にして、セル殻11の横方向Hへの移動が抑制され、セル構造体の安定性が向上する。
【0046】
なお、図2,図4,図5の各アンカー構造体12は、セル殻11の水底への設置前に予め取り付けておくことができるが、セル殻11を水底に設置してから取り付けてもよい。また、連結部材14は、上述のように、ロープ・鋼板・棒鋼・鋼管・形鋼・チェーン等から構成されてもよい。
【0047】
次に、図1〜図3のセル殻を用いた置き式鋼板セル工法の工程S01〜S08についてさらに図6,図7を参照して説明する。図6は、本実施形態による置き式鋼板セル工法の工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。図7は、図1のセル殻内に中詰材を投入する様子を概略的に示す図である。
【0048】
図2(a)〜(c)のように、セル殻11の底面の略中央にアンカー体13を配置し(S01)、アンカー体13をワイヤ等の連結部材14でセル殻11の内周面の底端部11b(図3)に連結し固定する(S02)。この場合、ワイヤ等の連結部材14は一定の張力が生じるように取り付けることが好ましい。
【0049】
上述のようにして、セル殻11にアンカー構造体12を取り付けるが、この取り付けは、陸上や水域に設置されたセル殻11の組立基地であわせて行うことができるが、これに限定されず、例えば、セル殻11の運搬前の保管場所や運搬の台船等で行ってもよい。
【0050】
次に、セル殻11を起重機船による吊り下げ曳航(または台船等)で運搬し(S03)、整地した水底の地盤面Gに起重機船等を用いて設置する(S04)。次に、図7のように、リクレーマ船RSに備え付けられたバックホウBHを用いて土運船DSから土砂、岩ズリ、砕石等の中詰材Tをリクレーマ船RSのベルトコンベアBCへと移し、ベルトコンベアBCでセル殻11内に投入する(S05)。この投入の際に、ベルトコンベアBCの先端に設けられた減勢板RPの位置が、中詰材Tがセル殻11の底面の略中心部の真上に落下するように調整され、減勢板RPを通して中詰材Tが落下することで、セル殻11の底面の略中心部を中心にして堆積する。
【0051】
上述のようにして中詰材Tが投入されることで、セル殻11の底面の略中心部に位置するアンカー体13の上に中詰材Tが堆積する(S06)。アンカー体13上に堆積した中詰材Tにより図3のようにセル殻11の横方向Hへの移動が抑制され、中詰施工の初期段階でセル構造体が安定する(S07)。引き続いて、中詰材Tの投入が行われ、中詰が完了する(S08)。
【0052】
以上のようにして、図1(a)(b)のセル殻11,11における中詰施工が完了すると、図1(b)のように、アーク10aがセル殻11の外周面のアーク継手部11aに取り付けられるが、このとき、中詰が完了したセル構造体は、回転や傾斜等が発生せずに、その位置が安定しており、セル殻11の外周面のアーク継手部11aが所定位置にあるので、アーク10aの取り付け作業を支障なく行うことができ、また、アーク10aに過大な張力が発生することもない。
【0053】
次に、図1〜図3のセル殻を用いた置き式鋼板セル工法の別の工程S11〜S18について図8を参照して説明する。図8は、本実施形態による置き式鋼板セル工法の別の工程S11〜S18を説明するためのフローチャートである。
【0054】
図8の工程は、アンカー構造体12をセル殻11の設置後に取り付けるようにしたものである。すなわち、整地した水底の地盤面Gにおいてセル殻11の設置予定位置であってセル殻11の底面中央相当部にアンカー体13を配置する(S11)。
【0055】
セル殻11を起重機船による吊り下げ曳航(または台船等)で運搬し(S12)、水底の地盤面Gに起重機船等を用いて設置する(S13)。次に、アンカー体13をワイヤ等の連結部材14でセル殻11の内周面の底端部11b(図3)に連結し固定する(S14)。
【0056】
次に、図7のように中詰材Tをセル殻11内に投入する工程(S15)〜中詰完了(S18)までは、図6の工程S05〜S08と同様である。
【0057】
図8の置き式鋼板セル工法の工程によれば、アンカー構造体12はセル殻11の水底への設置後に取り付けられるので、アンカー体13が例えば図2や図4(a)(b)のように比較的重量のある場合でも問題なく取り付け可能である。
【0058】
なお、図8では、セル殻11の設置前の水底にアンカー体13を配置した(S11)が、これに限定されず、セル殻11を設置してから(S13)、水底にアンカー体13を配置し、次に、アンカー体13を連結部材14でセル殻11の内周面の底端部11b(図3)に連結し固定する(S14)ようにしてもよい。
【0059】
以上のように、本実施形態の図6,図8の置き式鋼板セル工法によれば、セル殻の水底への設置後、直ちに中詰材を投入して中詰材がアンカー体に堆積することで、中詰施工の初期段階でセル殻・セル構造体の波浪等に対する安定性を図ることができる。特許文献1の方法は、海底基礎地盤に水中コンクリートを打設しながら鋼板セルを沈設することで、鋼板セルの底をコンクリートにより海底基礎地盤と一体化して鋼板セル本体を安定させるが、水中コンクリート打設工程およびこの打設工程に連動した鋼板セルの沈設工程が必要であり、工程の複雑化および水中コンクリートを用いるのでコスト上昇につながってしまい、また、水中コンクリートの硬化時間が必要なためタイムロスにつながり置き式鋼板セル工法の急速施工性が損なわれるのに対し、本実施形態によれば、セル殻の底面にアンカー構造体を設けることで、セル殻・セル構造体の安定を容易にかつ低コストで実現できるとともに、置き式鋼板セル工法により急速施工を実現できる。
【0060】
次に、図2、図4におけるアンカー構造体の取り付け構造および連結部材に張力を与える張力調整手段について図9を参照する。図9は、図1,図2のアンカー構造体の取り付け構造および張力調整手段を説明するためのセル殻の要部側面図である。
【0061】
図9のように、アンカー体13の先端15に環状の取付部15aを設け、セル殻11の内周面の底端部11bに環状の取付部11cを設けておく。ワイヤ等の連結部材14の一端および他端にそれぞれフック状の引っ掛け部14a、14bを設け、引っ掛け部14a、14bを取付部15a、11cにそれぞれ引っ掛けることで、連結部材14を容易に取り付けることができる。なお、取付部15a、11cおよび引っ掛け部14a、14bの形状・構成は、他の形状・構成であってもよいことはもちろんである。
【0062】
また、連結部材14の引っ掛け部14aと14bとの間に、連結部材14の全体長さを短く調整可能な張力調整機構20を設けておき、連結部材14をアンカー体13の取付部15aとセル殻11の底端部11bの取付部11cとの間に取り付けてから、張力調整機構20により連結部材14に張力を与える。
【0063】
なお、張力調整機構20は、例えば、図2(a)の各連結部材14に設けてよいが、同一直径方向で1つとしてもよい。また、張力調整機構20は、例えば、公知のターンバックルや小型の手動式ウインチ等から構成できるが、これらに限定されるものではなく、他の構成・機構としてもよく、配置位置も連結部材14の一端側または他端側に設けてもよい。また、張力調整機構20は、連結部材14に張力を加えた後にアンカー構造体12から除去可能な構成としてもよい。
【実施例】
【0064】
次に、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0065】
本実施例では、置き式鋼板セル工法の施工時の各種状況に応じた挙動を把握するために次のような水理実験を行った。
【0066】
(1)模型条件
水理実験で使用するセル殻の模型は、表1に示すようにcase1,2,3である。現場に設置されるセル殻は、例えば、直径24.5m、高さ32mの円筒形であり、厚さ17mmの鋼板から製造されるが、実験縮尺を1/61.25とし、セル殻模型を直径40cm、高さ52.2cmとした。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の実施例1,2のアンカー構造体は、図10のように、セル殻模型のパイプの底面中央にアクリル板からなるL形部材を正五角形に配置し、各頂点から各片の延長方向にワイヤを延ばして5箇所でパイプの内面に固定し、また、L形部材をさらに正五角形に内接するにように正五角形に配置したものである。このアンカー構造体により、セル殻の回転を含む多様なモードの変位・変形に対し抵抗可能である。
【0069】
(2)潮位条件
現場では潮位にかかわらず据付、中詰を施工するため、全ての実験の潮位条件は平均的な+1.0として実施した。
【0070】
(3)中詰材の投入方法
中詰材の投入方法は、例えば現場の投入位置が水面から5m、落下した材料の分散範囲を2mとし、実験では水面上8cm程度の位置から直径3cmで投入した。
【0071】
(4)中詰材
現場では例えば岩ズリであるが、本実験では取り扱いの容易さを考慮して、一部実験を除いて粒径2.5〜5mmの砕石を用いた。
【0072】
(5)波浪条件
作用波浪は、造波された波の安定の条件から波高にかかわらず周期0.8秒とした(現場では、6秒程度に換算される)。
【0073】
実験結果
実験結果は、特に断りがない限り現場スケールで表記する。
【0074】
(1)case1(比較例1)の気中における中詰材投入時の堆積状況の確認
底ありのセル殻模型を使用して、気中で実験を実施した。
【0075】
〈偏心投入時の堆積状況の把握〉
投入位置に偏心がある状態を想定した状況で中詰材を投入し、中詰材の堆積状況を観察した。外縁のいずれかが堆積高に6.0mに達した時点で終了し、外縁の堆積高の高低差を計測した。図11(a)〜(c)に実験結果を示すが、投入位置がセル殻の底面中心から偏心していると、堆積の中心は投入口に応じて偏心することがわかった。また、図12にセル殻の底面中心からの偏心距離と、外縁堆積高の高低差とを示すが、偏心距離1mまでは、偏心距離×4倍の高低差が発生する結果が得られた。
【0076】
なお、偏心した投入位置から中詰材を投入した後に、堆積形状を修正するために投入位置を中心に戻して投入したところ、偏心距離が3.0mと大きな場合であっても、投入位置を中心に戻して投入を継続することで堆積形状は元に戻ることがわかった。
【0077】
(2)case2の水中における中詰材投入時の堆積状況の確認および滑動に対する実験
底なしのアクリルパイプを実験水槽内に入れて下記の実験を実施した。
【0078】
〈偏心投入時の堤体の安定性の把握〉
投入位置に偏心がある状態を想定した状況で中詰材を投入し、アンカー体を装備・未装備の実験を行った。セル殻模型を、アクリルパイプが滑りやすいように実験水層の底面にテフロン(登録商標)シートを貼付してその上においた。その結果、アンカー体なしのセル殻模型(比較例2)は、偏心距離1.0mの位置から投入した場合は滑動しなかった。しかし、偏心距離3.0mの位置から中詰材1,953m3を投入した時点で滑動した。滑動する直前の中詰の状況は、中詰材がセル殻の片側しか到達していなかった。つまり、中詰材が作用するのは滑動力のみであり、滑動抵抗力には寄与していなかった。偏心距離1.0mの位置で滑動しなかったのは、左右の堆積高さに大きな差が無く、中詰材が滑動抵抗力にも寄与したためと考えられる。
【0079】
また、アンカー体ありのセル殻模型(実施例1)は、偏心3.0mの位置から3,217m3まで投入したが滑動しなかった。その結果、アンカー構造体は滑動抵抗力に寄与することが明らかとなり、滑りやすい滑面での実験でアンカー構造体により滑動抑制の効果を原理的に確認できた。
【0080】
〈偏心投入時の堤体の安定性の把握〉
アンカー体なしのセル殻模型(比較例2)を、中詰材として用いた砕石と同等の材料で捨石マウンドを作製し、その上に設置したが、偏心3.0mの位置から中詰材を投入しても滑動しなかった。中詰の堆積形状は偏心しており、滑動力が作用していたと考えられるが、マウンドとセル殻模型との間に大きな摩擦力が作用し、滑動が抑制されたと考えられる。
【0081】
〈波作用時の堤体の安定に関する実験〉
アンカー体なしのセル殻模型(比較例2)をマウンド上に設置して、波高0.46mの波を作用させながら、投入位置を偏心させた状況で実験した。その結果、偏心1.0mの場合、セル殻は多少のロッキングを生じているものの、左右の傾きは発生しなかった。しかし、偏心3.0mの場合、セル殻は多少のロッキングを生じながら、しだいにセルが傾斜していくことが確認された。なお、セルが傾斜した方向は、内部の偏心した堆積形状の堆積高さが高い方であった。このため、投入位置の管理は中心からの偏心距離を1.0m以下に抑えることが望ましい結果となった。
【0082】
(3)case3の水中における中詰材投入時の堆積状況の確認・滑動に対する実験
底なしのステンレス鋼製のセル殻模型を水に入れ、中詰材の投入方法を変化させ、セル殻の変形を目視で確認した。
【0083】
〈偏心投入時の堤体の変形特性の把握〉
アンカー体ありのセル殻模型(実施例2)に投入位置に偏心がある状態を想定した状況で中詰材を投入し、堤体の変形特性に与えるアンカー構造体の効果を確認した。中詰材を全投入数量の1/6、1/3を投入した時点でセル殻の形状を計測したところ、セル殻の変形は確認できなかった。
【0084】
〈波作用時の堤体の変形特性に関する実験〉
アンカー構造体を装備・未装備のセル殻模型に波浪を作用させる。中詰材はセル殻の中心から投入し、中詰高さは中詰材の全投入数量の1/6、1/3とした。中詰材を投入した後に波を作用させ、破壊を目視で確認することで、中詰高さごとの破壊時波高(限界波高)を明らかにした。
【0085】
表2にアンカー体なしのセル殻模型(比較例3)における中詰高ごとの限界波高を示すが、中詰材が全数量の1/6では、中詰なしのときと安定性はほぼ同程度であったが、全数量の1/3を投入すると安定性は格段に向上した。
【0086】
【表2】


【0087】
表3にアンカー体ありのセル殻模型(実施例2)における中詰高ごとの限界波高を示すが、中詰材が全数量の1/6もあると、アンカー構造体により回転が抑制されるため、ロッキングはするが回転はしなくなったため、限界波高が比較例3の場合よりも大きくなり、アンカー構造体による波浪による変位の抑制効果を確認できた。ただし、アンカー体を設置するときのワイヤの遊びが大きければ回転量が大きくなることが予想される。また、本実験では、中詰材として砕石のみを使用したが、現場では細粒分も含まれるため、ロッキングした時点で細粒分が流出することが懸念される。また、流出した材料により傾きが発生することが懸念される。
【0088】
【表3】

【0089】
以上の実験結果をまとめると次のとおりである。
(1)セル殻の底面のアンカー構造体がセル殻の滑動抵抗性を示すことを確認でき、アンカー構造体は、中詰材の投入初期におけるセル殻の滑動・回転の抑止力になる。
(2)投入位置をセル殻の底面中心にしないと堆積高に偏りが生じる。なお、投入位置を中心に戻せばリカバリー可能である。
(3)アンカー構造体を備えない場合、投入位置が偏心距離3.0mであっても、マウンド上では滑動しないが、投入時に波が作用した場合、投入位置の偏心1.0m以上になるとセルが傾斜する。
(4)アンカー構造体を備えることで、限界波高がアンカー構造体を備えない場合よりも大きくなり、アンカー構造体による波浪による変位の抑制効果を確認できた。
【0090】
以上のように本発明を実施するための形態および実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、アンカー体は、直上および周辺に堆積している中詰材がアンカー体の移動に効率よく抵抗すれば、その機能を発揮するので、形状および材料は、図2や図4や図5のものに限定されず、様々な形状や材料を適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の置き式鋼板セル工法および置き式鋼板セル工法用セル殻によれば、置き式鋼板セル工法に特有な課題であるセル殻設置後の中詰初期段階における施工時安定性を向上でき、本体構造物に特別な加工を施すこすことなく容易に低コストで実施可能であるから、急速施工が可能な置き式鋼板セル工法を安定して実施することができる。
【符号の説明】
【0092】
10 アーク部
10a アーク
11 セル殻
11a アーク継手部
11b 底端部
12 アンカー構造体
13 アンカー体
14 連結部材
20 張力調整機構
G 水底の地盤面
T 中詰材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル殻を水底に設置してから内部に中詰材を投入することでセル構造体を構築する置き式鋼板セル工法に用いる底面アンカー構造体であって、
セル殻の底面に取り付けられるアンカー構造体から構成され、
水底に設置された前記セル殻内に投入された中詰材が前記アンカー構造体に堆積することでセル構造体を安定させることを特徴とする置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体。
【請求項2】
前記セル殻の底面の略中央に位置するアンカー体と、前記アンカー体と前記セル殻の底端部とを連結する連結部材と、を備える請求項1に記載の置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体。
【請求項3】
前記連結部材の張力を調整可能な張力調整手段を備える請求項2に記載の置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体。
【請求項4】
前記セル殻の底面に位置するアンカー体を備え、前記アンカー体は前記セル殻の底端部に接合されている請求項1に記載の置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体。
【請求項5】
セル殻を水底に設置してから内部に中詰材を投入することでセル構造体を構築する置き式鋼板セル工法であって、
セル殻の底面にアンカー構造体を取り付けてから、前記セル殻を水底に設置し、次に、前記セル殻内に中詰材を投入し前記アンカー構造体上に堆積させることでセル構造体を安定させることを特徴とする置き式鋼板セル工法。
【請求項6】
セル殻を水底に設置してから内部に中詰材を投入することでセル構造体を構築する置き式鋼板セル工法であって、
セル殻を水底に設置してから、アンカー構造体を前記セル殻の底面に取り付け、次に、前記セル殻内に中詰材を投入し前記アンカー構造体上に堆積させることでセル構造体を安定させることを特徴とする置き式鋼板セル工法。
【請求項7】
前記中詰材を前記セル殻の底面中央を目標に投入する請求項5または6に記載の置き式鋼板セル工法。
【請求項8】
前記アンカー構造体として請求項1乃至4のいずれか1項に記載の置き式鋼板セル工法用底面アンカー構造体を用いる請求項5乃至7のいずれか1項に記載の置き式鋼板セル工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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