説明

置換されたシクロテトラシロキサンの重合を抑制する安定剤

【課題】CVDプロセス条件の下でのTOMCATSタイプ・シロキサンの重合を排除又は抑制すること。
【解決手段】(a)電子材料の加工でシリコン酸化物の化学気相堆積プロセスにおいて用いられる1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンなどのシクロテトラシロキサンを重合に対して安定化させるためのものであって、そのようなシクロテトラシロキサンに有効な量の酸化防止重合抑制剤を加えることを含む方法、及び(b)シリコン酸化物の化学気相堆積プロセスにおいて前駆物質として用いられる、重合に対して安定化された、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンなどのシクロテトラシロキサンと酸化防止剤とを含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
二酸化シリコン膜は、しばらく前から半導体デバイスの製造で集積回路(IC)の加工に用いられている。そのようなSiO2薄膜の調製の多くの例が公開された文献及び特許文献に見られる。例えば、Schumacher Group, Air Products and Chemicals Inc.,の刊行物、例えばUser’s Guide For: Glass Deposition with TEOS, 及びExtrema (登録商標) TEOS(テトラエチルオルソシリケート)製品データシート、を参照されたい。また、Modeling of Low-Pressure Deposition of SiO2 by Decomposition of TEOS, 及びThe Decomposition of Silicon Dioxide Films at Reduced Pressureを参照されたい。SiO2の堆積のためのいろいろなCVD法及びそれらの方法で堆積された薄膜の性質について概説する学術雑誌記事も多数ある。
【0002】
初期のSiO2膜はシラン(SiH4)のCVD酸化によって堆積された。サブミクロンパターンの電子デバイスが開発されるにつれて、良好なステップ(段差)被覆性(ステップカバレージ)を維持するための新しい原料物質が必要とされた。テトラエチルオルソシリケート(TEOS)から堆積された膜は、SiH4に比べて優れたステップ被覆性を示す。TEOSはSiO2のCVD法による調製のための業界標準の原料物質と考えられている。TEOSは揮発性液体であって、効率的な気相での送給を可能にし、一般的に取扱いも容易である。TEOSは、非自然発火性であり、シランに比べて安全性の面でかなり利点がある。TEOSは、多くのデバイス製造用途で好適な優れた電気的及び機械的性質を有する誘電体膜を生成する。
【0003】
化学物質1,3,5,7-テトラエチルオルソシロキサン(例えば、Schumacher of Carlsbad, CA, から入手できるTOMCATS(登録商標)シロキサン)がSiO2ガラスのCVD調製のための新しい原料物質として開発中である。TOMCATSタイプのシロキサンは、半導体デバイス製造産業における厳しい要求を満たすように特に設計された高純度の揮発性液体の前駆化学物質である。TEOSと同様、TOMCATSタイプのシロキサンも、例えばトレンチ充填、層間絶縁膜、ゲート及び厚膜酸化物のようないろいろな誘電体膜用途のためのガラス及びドープされたガラスの化学気相堆積に用いることができる。これも非自然発火性及び非腐食性であり、安全性の面で同じように利点がある。TOMCATSタイプのシロキサンとTEOSの通常の沸点は、それぞれ135℃及び168℃である。TOMCATSタイプのシロキサンは、揮発性が高いので、より低い温度での送給が可能であり、又は同程度の温度ではより効率的な送給が可能である。その堆積速度は、600℃でTEOSの10倍であり、堆積効率はTEOSの3倍である。得られた膜の共形性(形状整合性;conformality)とステップ被覆性はシランよりも優れており、TEOSと同様である。
【0004】
一般に、TOMCATSタイプのシロキサンから堆積されたSiO2膜は優れた電気的及び機械的性質を示す。これらの膜は、炭素含有量が低くて密であり、屈折率の値は熱酸化層と同程度である。TOMCATSタイプのシロキサンは、低圧化学気相堆積(LPCVD)に、及びプラズマ化学気相堆積(PECVD)の液体注入源として効果的である。後者の方法は、熱エネルギーでなくプラズマを利用して化学反応を促進する。TOMCATSタイプ・シロキサンPECVDは普通、LPCVDよりも低い温度で行われる(400℃ vs. 500-600℃)。
【0005】
このような利点があるにも関わらず、TOMCATSタイプ・シロキサンは半導体デバイスを製造するためのCVD源として受容されることが限られていた。TOMCATSタイプ・シロキサンのひとつの欠点は、ある種の化学物質又はプロセス条件にさらされたときに重合に関して不安定であることである。このために揮発性の低い液体又はゲルができてCVDプロセスの操作性に問題が生ずる。TOMCATSタイプ・シロキサンの重合は酸、塩基、又はフリーラジカルによって触媒される。
【0006】
TOMCATSタイプ・シロキサンの長時間加熱(実施例1)も重合を促進することが本発明で実験的に示された。重合度は非常に小さくすることができ、ほんの10分の数パーセントである。高温又は特定の酸又は塩基への長時間曝露というもっと厳しい条件では、実質的な重合が起こり、10重量パーセントを超えるオリゴマー又はポリマー物質を含む高い粘度の液体又はゲルを生ずるであろう。
【0007】
従来技術のいくつかの参照文献はシロキサンの安定化に関する。Hirabayashi らは、トリアジン又はスルフィド“制御剤”を用いて、例えばTOMCATSタイプ・シロキサンのような有機ポリシロキサン化合物を含む脂肪族不飽和基と白金族触媒から成る混合物を安定化する方法を教示している。これらの発明者らは、室温で安定して早めのゲル化に対して抵抗性があり、長期間貯蔵安定性を示す混合物を得るためのトリアジン又はスルフィド剤の使用を教示している。
【0008】
Lutz らは、(1)アルケニル・ラジカル、(2)シリコン結合水素原子を含む化合物(例えば、TOMCATSタイプ・シロキサン)、及び(3)白金族金属触媒から成る組成物に対する硬化阻害剤として働くジ-及びトリハイドロカルビルホスフィンの使用を開示している。Lutz らは、この阻害剤が白金族金属触媒と錯体を形成してその後の硬化に対してそれを不活性にするように働くと主張している。
【0009】
同様の特許で、Chalkは、プラチナ触媒の活性を低下させてポリシロキサンのいろいろな混合物の共重合を阻害するアクリロニトリル・タイプの化合物の使用を教示している。
【0010】
Berger らは、同様の仕方でPt触媒の活性を低下させるように機能して、硬化性の有機ポリシロキサン組成物を早めのゲル化に対して安定させるエチレン系不飽和イソシアヌレートの使用を提案している。
【0011】
Endo らは、1から20重量%までのポリメチルポリシロキサン、例えば1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサンの使用によるTOMCATSタイプ・シロキサンなどのシクロシロキサンの安定化を教示している。
【0012】
引用した特許文献はすべて、シリコンゴム産業におけるいろいろな用途のためのポリシロキサンの重合又は共重合を阻害するためのいろいろな物質のあれこれの仕方での使用を教示している。これらの文献はいずれも、半導体デバイス製造産業におけるCVD源の重合阻害剤としての応用を記載又は示唆していない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある実施形態では、電子材料の加工におけるシリコン酸化物の化学気相堆積プロセスで用いられる置換されたシクロテトラシロキサンを重合に対して安定化する方法であって、次式を有するシクロテトラシロキサン:
【0014】
【化1】

【0015】
(ここで、R1-7は個別に水素、通常の、枝分かれした、又は環式のC1-10アルキル基、及びC1-4アルコキシ基から成る群から選択される)に有効な量の酸化防止剤を加えるステップを含む方法が開示される。
【0016】
別の実施形態では、電子材料の加工におけるシリコン酸化物の前駆物質として化学気相堆積プロセスで用いられる重合に対して安定化されたシクロテトラシロキサンの組成物であって、(a)次式を有するシクロテトラシロキサン:
【0017】
【化2】

【0018】
(ここで、R1-7は個別に水素、通常の、枝分かれした、又は環式のC1-10アルキル基、及びC1-4アルコキシ基から成る群から選択される)、及び(b)酸化防止剤を含む組成物が開示される。
【0019】
別の実施形態では、化学気相堆積プロセスで用いられる、重合に対して安定化されたシクロテトラシロキサンの組成物であって、
次式を有するシクロテトラシロキサン:
【0020】
【化3】

【0021】
(ここで、R1-7は個別に水素、通常の、枝分かれした、又は環式のC1-10アルキル基、及びC1-4アルコキシ基から成る群から選択される)、及び重量で10〜10,000 ppmの酸化防止剤を含む組成物が開示される。
【0022】
さらに別の実施形態では、化学気相堆積プロセスで前駆物質として用いられるシクロテトラシロキサンを長時間の加熱に対して安定化する方法であって、
次式を有するシクロテトラシロキサン:
【0023】
【化4】

【0024】
(ここで、R1-7は個別に水素、通常の、枝分かれした、又は環式のC1-10アルキル基、及びC1-4アルコキシ基から成る群から選択される)を用意するステップと、
重量で10〜10,000 ppmの酸化防止剤をシクロテトラシロキサンに加えるステップとを含む方法が開示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
化学物質1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(例えば、Schumacher of Carlsbad, CA, から入手できるTOMCATS(登録商標)シロキサン)が、半導体デバイスの製造でSiO2の化学気相堆積(CVD)のための前駆物質として用いられる。TOMCATSタイプのシロキサンは、優れた電気的及び機械的性質を有する良質の膜を形成できるため、現在、半導体デバイス製造業者たちによってSiO2のためのCVD前駆物質として使用することが検討されている。TOMCATSタイプ・シロキサンは、長時間加熱されたとき、又はある種の化学物質に曝露されたときに重合することが知られている。本発明で、本発明者らはTOMCATSタイプ・シロキサンの重合を抑制するいろいろなフリーラジカル・スカベンジャーの使用を開示する。この添加物の濃度は低いので、全体としての製品の純度にはあまり影響はなく、CVDによって生成される膜の重要な性質にもマイナスの影響はないと考えられる。
【0026】
したがって、本発明の目的は、典型的なCVDプロセス条件の下でのTOMCATSタイプ・シロキサンの重合を排除又は抑制することである。このようなTOMCATSタイプ・シロキサンは、次式により表される置換されたシクロテトラシロキサンを包含する。
【0027】
【化5】

【0028】
(上式において、R1-7は個別に水素、通常の、枝分かれした、又は環式のC1-10アルキル基、及びC1-4アルコキシ基から成る群から選択される)。
【0029】
本発明は、通常は重合に有利になる条件の下でTOMCATSタイプ・シロキサンの重合を抑制する添加物を用いて行われる。本発明は、酸化防止剤、例えばフリーラジカル・スカベンジャーのような特定の添加剤が重合を抑制するのに効果的であることを実証する。TOMCATSタイプ・シロキサンは、高い温度で酸素、二酸化炭素、及び三フッ化窒素(NF3)に敏感である。TOMCATSタイプ・シロキサンは、60℃及びそれ以上の温度で酸素と反応してオリゴマー及びポリマー分子種を形成する。酸素、二酸化炭素、及び三フッ化窒素は半導体デバイスの製造でよく用いられる、例えばTOMCATSタイプ・シロキサンからのSiO2膜堆積のためのプラズマ化学気相堆積(PECVD)プロセスなどで用いられるので、これは重要である。いくつかの実施形態で、これらの酸化防止剤又はスカベンジャーはフリーラジカル反応経路で進行する化学反応を抑止するように働く。ここで開示される組成物又は方法において、O2-、CO2-及び/又はNF3-安定剤として考えられる酸化防止剤又はフリーラジカル・スカベンジャーの例としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(又は、ブチルヒドロキシトルエン、すなわちBHT)、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、プロピルエステル3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、2-(1,1-ジメチルエチル)-1,4-ベンゼンジオール、ジフェニルピクリルヒドラジル、4-tert-ブチルカテコール、N-メチルアニリン、p-メトキシジフェニルアミン、ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、p-ヒドロキシジフェニルアミン、フェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス(メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル)-4-ヒドロキシ-ハイドロシンナメート)メタン、フェノチアジン、アルキルアミドノイソユリア、チオジエチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ハイドロシンナメート、1,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシハイドロシンナモイル)ヒドラジン、トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、環式ネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-p-クレゾール)、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、メチル-2,4,6-トリス(3’5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、オキサリルビス(ベンジリデンヒドラジド)、及び天然産出酸化防止剤、例えば種子油、コムギ胚芽油、トコフェロール、ガムがあげられるが、これらのものに限定されない。フリーラジカル・スカベンジャー又はその他のメカニズムによって働く酸化防止剤の別の例としては、芳香族アミン(例えば、N,N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニルジマニン、N’,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、ジヒドロキノリン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、及び4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)、ヒンダードアミン(例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)、ヒドロキシルアミン、ベンゾフラン、二価イオウ誘導体、三価リン化合物、金属不活性化剤(例えば、エアロキサリルビス(ベンジリデン)ヒドラジド、N,N’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシハイドロシンナメート)、N,N’-(ジサリチリデン)-1,2-プロパンジアミン、エチレンジアミンテトラ酢酸及びその塩及びクリティック酸(critic acid))、及びそれらの組み合わせがあげられるが、これらのものに限定されない。酸化防止剤のさらに別の例は、例えば、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, Vol. 3, page 102-134の“Antioxidants”という章に見られる。いくつかの実施形態では、フェノール化合物、又は少なくともひとつのフェニル基を含む化合物、例えばそれだけに限定されないが、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを用いてもよい。
【0030】
ここで用いられる一つ以上の酸化防止剤は、重合を抑制する方法に基づいて単独で加えてもよく(例えば、フリーラジカル抑制剤)、又は異なる方法によって重合を抑制する酸化防止剤の混合物として加えてもよい(例えば、フリーラジカル抑制剤+過酸化水素分解剤)。
【0031】
特定の実施形態では、加えられる酸化防止剤はシクロテトラシロキサンに可溶であることが好ましい。この及びその他の実施形態では、加えられる一つもしくはそれ以上の酸化防止剤はシクロテトラシロキサンの処理温度もしくはそれ以下の温度で揮発して処理設備や堆積された膜における酸化防止剤及び/又はその変換生成物の蓄積ができるだけ少なくなるようにすることが好ましい。さらに、特定の実施形態では、堆積された状態の膜に存在する酸化防止剤及び/又はその変換生成物の量が1%もしくはそれ以下であることが好ましい。
【0032】
特定の実施形態では、酸化防止剤は10-1000 ppm(wt.)の量で、さらに好ましくは50-500 ppm(wt.)の量で、最も好ましくは50-250 ppm(wt.)の量で、最適には100-200 ppm(wt.)の量で加えられる。
【0033】
他の実施形態では、例えば置換されたシクロテトラシロキサンが高い温度(例えば、90℃以上、又は105℃以上、又は120℃以上)にさらされるか、長く棚貯蔵されるか、多量のO2-、CO2-、NF3-、及び/又は他の雰囲気気体に曝露されるか、又はそれらの少なくともひとつに曝される場合、もっと多量の酸化防止剤を加えることができる。これらの実施形態では、酸化防止剤は10-10,000 ppm(wt.)の量で、又は50-5,000 ppm(wt.)の量で、又は50-2,000 ppm(wt.)の量で加えられる。例えば、シクロテトラシロキサンがTOMCATSであり酸化防止剤がBHTである実施形態では、酸化防止剤の量が増えるにつれてTOMCATSが酸素によって促進される重合により強く抵抗するようになることが観測されている。これに関連して、O2対TOMCATSのモル比が1:1で24時間にわたる酸素曝露レベルで、より高い温度で、例えば、90℃、105℃及び120℃でTOMCATSを安定化するためには、より多量のBHTが、例えばそれぞれ150 ppm、500 ppm及び5,000 ppmのBHTが必要だった。
【0034】
本発明の目的を達成するために、すなわち、典型的なCVDプロセス条件の下でTOMCATSタイプ・シロキサンの重合を阻止又は抑制するために、通常の重合プロセスを加速する意図で標準的実験室試験が確立された。この加速老化試験は、普通はもっと長い時間にわたって起こる正常なゆっくりした重合の過程を加速してシミュレートすることを意図している。TOMCATSタイプ・シロキサンが封入された石英アンプルを高い温度に24時間さらすことからなるこの試験は、本明細書で“加速老化試験”と呼ばれる。これらの条件は、典型的なCVDプロセスでTOMCATSタイプ・シロキサンがさらされるものに比べてかなり苛酷なものであると考えられる。典型的な加速老化試験では、アンプルには約1.3から5.0 mlのTOMCATSタイプ・シロキサンと、“対照試験”を除き、重合を抑制するためのフリーラジカル・スカベンジャーなどの酸化防止剤が入れられる。TOMCATSタイプ・シロキサン/添加剤の混合物は液体窒素バスで冷却される。次に、TOMCATSタイプ・シロキサンの上方の空気が5分間排気される。気体を加えずにこの試験を行う場合、石英アンプルのネックを水素/酸素トーチを用いて封止する。この試験をO2又はCO2の存在下で行う場合、アンプルを真空から切り離し、適当な量のO2又はCO2を加えた後、アンプルを前述のように封止する。封止されたアンプルをオーブンに入れ、90から120℃までの範囲の一つ以上の温度に1から5日までの時間で保つ。アンプルを取り出し、室温まで放置冷却させる。その内容物をガス・クロマトグラフ(GC)で分析して重合の度合を測定する。
【0035】
重合の度合はGCによって定量的に測定される。この方法は重合の開始を検出するのに非常に敏感であり、それは親のTOMCATSタイプ・シロキサンのピークに比べて保持時間が長い分子量が大きな分子種の形成によって示される。肉眼検査で“高粘度”と判定されたTOMCATSタイプ・シロキサン・サンプルはルーチンとしてGCで測定されない。オリゴマー又はポリマーのシロキサンは、低い溶解度と低い揮発性のためにGCカラムの静止相を非可逆的に汚染する傾向がある。そのようなサンプルは、本発明では定性的に、従来の観測におけるように10 wt%を超えるポリマーを有するものとして記述される。
【0036】
環状ポリシロキサンの重合はフリーラジカルによって触媒されると考えられる。しかし、環状ポリシロキサンの重合の他のメカニズムも、ここに記載される組成物とプロセスの範囲に含まれる。これに関連して、フリーラジカルによる抑制とは別の仕方で重合を抑制する一つ以上の酸化防止剤を加えることができる。実験室での観測は、TOMCATSタイプ・シロキサンの重合が酸素又は三フッ化窒素への曝露に特に敏感であることを示唆しており、シロキサンはその両方に半導体製造で使用するさいに曝露される。本発明で記載される添加剤は、試験された濃度でTOMCATSタイプ・シロキサンと溶液を形成する。さらに、これらの添加剤は、その濃度からして、また化学的及び物理的特性からして全体的なCVDプロセスに有害な影響を及ぼさないと予想される。
【0037】
内部の実験で、TOMCATSタイプ・シロキサンは高い温度で酸素及び/又は三フッ化窒素に対して敏感であることが確立された。TOMCATSタイプ・シロキサンは60℃もしくはそれ以上の温度で酸素及び/又は三フッ化窒素と反応してオリゴマー及びポリマー分子種を形成する。酸素及び/又は三フッ化窒素はTOMCATSタイプ・シロキサンからのSiO2膜堆積のためのPECVDプロセスで酸化気体として、又は生産ランの間のクリーニング気体としてよく用いられるので、これは特に重要である。酸素、二酸化炭素、及び三フッ化窒素の存在下でのTOMCATSタイプ・シロキサンの安定性に関して集められたデータが表1に示されている。
【0038】
このような反応性に対処するために、TOMCATSタイプ・シロキサンに低レベルのフリーラジカル・スカベンジャー、すなわち酸化防止剤として機能する化学物質が加えられた。これらの酸化防止剤又はスカベンジャーは、フリーラジカル反応経路で進行する化学反応を遅らせるように働く。O2-、CO2-及び/又は三フッ化窒素-安定剤として研究された酸化防止剤又はフリーラジカル・スカベンジャーは、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(又はブチルヒドロキシトルエンすなわちBHT)であった。TOMCATSタイプ・シロキサンは、BHTが加えられるとO2、CO2及び/又は三フッ化窒素に対して実質的に抵抗性が高くなった。重量で150 ppmのBHTの添加は、90℃で行われた一連の試験で示されるように(表1)高い温度でのO2、CO2及び/又は三フッ化窒素に対する敏感さを大きく低下させた。別の利点は、BHTが、望ましくない基本的膜性質を生ずると言われている原子状窒素を含まないことである。TEMPOも効果的なO2、CO2及び/又は三フッ化窒素安定剤となると予期される。
【0039】
これらの試験は、比較的低レベルの酸化防止剤又はフリーラジカル・スカベンジャーを使用してO2、CO2及び/又は三フッ化窒素に対するTOMCATSタイプ・シロキサンの敏感さを大きく低下又は排除して、O2、CO2及び/又は三フッ化窒素によって促進されるTOMCATSタイプ・シロキサンの重合によって起こる詰まりの問題が生ずる可能性を減らす利益をはっきりと確立した。この用途で考えられるスカベンジャー/酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ、2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、プロピルエステル3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、2-(1,1-ジメチルエチル)-1,4-ベンゼンジオール、ジフェニルピクリルヒドラジル、4-tert-ブチルカテコール、N-メチルアニリン、p-メトキシジフェニルアミン、ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、p-ヒドロキシジフェニルアミン、フェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス(メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル)-4-ヒドロキシ-ハイドロシンナメート)メタン、フェノチアジン、アルキルアミドノイソユリア、チオジエチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ハイドロシンナメート、1,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシハイドロシンナモイル)ヒドラジン、トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、環式ネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-p-クレゾール)、オキサリルビス(ベンジリデンヒドラジド)、及びそれらの混合物があげられる。天然産出酸化防止剤、例えば種子油、コムギ胚芽油、トコフェロール、ガムも使用できる。
【0040】
TOMCATSタイプ・シロキサンの重合はフリーラジカルによって触媒されると考えられる。本明細書に記載される組成物及び方法は、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)とも呼ばれる、のようないくつかの酸化防止剤又はフリーラジカル・スカベンジャーがTOMCATSタイプ・シロキサンの重合を抑制するのに効果的な添加剤であることを示している。しかし、環状ポリシロキサンの重合の他のメカニズムも本明細書に記載される組成物及び方法の範囲内にある。これに関連して、フリーラジカルの抑制と異なるメカニズムで重合を抑制する一種以上の酸化防止剤を加えることもできる。これらの1種以上の酸化防止剤は、それだけで使用しても、フリーラジカルを抑制する酸化防止剤と組み合わせて使用してもよい。
【0041】
本発明の目的を達成するために、すなわち、典型的なCVDプロセス条件の下でTOMCATSタイプ・シロキサンの重合を阻止又は抑制するために、典型的なCVDプロセスでTOMCATSタイプ・シロキサンがさらされる条件をシミュレートすることを意図した実験室実験が行われた。これらの抑制剤の効果は、生の(すなわち、重合抑制剤を含まない)TOMCATSタイプ・シロキサンの安定性を、BHTなどの酸化防止剤を加えたTOMCATSタイプ・シロキサンの安定性と比較して計測された。これらの安定性試験は、90℃で、汚染物質なしで、及び汚染物質の存在下で、すなわち意図的にコントロールされた量の選ばれた気体02、CO2、及び三フッ化窒素にTOMCATSタイプ・シロキサンを曝露して行われた。これら三種の気体はすべて、TOMCATSタイプ・シロキサン前駆物質からSiO2の化学気相堆積で、処理又は維持のいずれかの時点で普通に用いられる。酸素とNF3はフリーラジカル源として知られている。しばしば、TOMCATSタイプ・シロキサンは典型的なPECVDプロセスで、02及び/又はCO2によって希釈される。三フッ化窒素はそのようなプロセスで、チャンバのクリーニングのステップでよく用いられる。
【実施例】
【0042】
実施例1:真空条件下での重合
BHTがあるときとないときのTOMCATSタイプ・シロキサンの安定性
【0043】
公称容積80-90 mlの6つの石英アンプルがこの試験で用いられた。これらのアンプルは、本実施例で1A, 1B, 1C, 1D, 1E,及び1Fと呼ばれる。これらのアンプルは蒸留水で二回水洗し、試薬級アセトンで二回洗った後、175℃の乾燥オーブンに16-18時間入れられた。乾燥したアンプルをオーブンから取り出し、温かいうちに使用した。約5 mlの添加物を含まないTOMCATSタイプ・シロキサンがアンプル1A, 1B, 1C及び 1Dに入れられた。(重量で)150 ppmのBHTを含む同様の量のTOMCATSタイプ・シロキサンがアンプル1E,及び1Fに入れられた。アンプルの開放端にテフロン(登録商標)弁が取り付けられた。アンプル1Aの端を液体窒素バスに浸して蒸発したTOMCATSタイプ・シロキサンを凝縮させた。真空に5分間つないでアンプルの頭部スペースから空気を排気した。アンプルは水素/酸素炎を用いてネックの部分で封じられた。残る5つのアンプル(1B-1F)も同様の仕方で封じられた。封止されたアンプル1C, 1D, 1E及び1Fは窒素でパージされたオーブンに入れられ、その後90℃の一定温度に24時間保たれた。アンプル1Aと1Bは室温に保たれて対照アンプルとして用いられた。24時間後、加熱されたアンプルをオーブンから取り出し、室温まで放置冷却させた。
【0044】
GC分析は対照サンプル(1A, 1B)に関して、ロット物質に対して顕著な重合を示さなかった。添加物を含まない加熱されたサンプル(1C, 1D)は、0.136%の平均重合度を示した。150 ppmのBHTを含む加熱されたサンプル(1E, 1F)は、平均重合度が0.079%であった。結果は表1にまとめられている。
【0045】
実施例2:二酸化炭素に対する敏感さ
TOMCATSタイプ・シロキサンの0.50重量%二酸化炭素への曝露
【0046】
4つの石英アンプル(2A, 2B, 2C及び2D)を実施例1におけるように洗浄し、乾燥させた。何も添加物を含まない約5.0 gのTOMCATSタイプ・シロキサンがアンプル2Aと2Bに入れられた。同様の量のTOMCATSタイプ・シロキサンに150 ppm重量のBHTが添加されたものがアンプル2Cと2Dに入れられた。4つのアンプルの各々は、石英の側腕延長部を備え、中隔がキャップになっていた。アンプル2Aは液体窒素温度に冷却され、排気されて頭部スペースの空気が除去された。このアンプルは真空から切り離されて、19 sccmの二酸化炭素気体が側腕の中隔キャップを通してスポイトによって注入された。このアンプルは、周囲圧力よりも低い状態で、実施例1で記載されたように炎を用いて封止された。残りの3つのアンプル(2B, 2C及び2D)も同様に調製され、封止された。封止された4つのアンプルは、すべて、実施例1で述べたように24時間90℃で加熱された。添加物を含まないTOMCATSタイプ・シロキサンは0.216%の平均重合度を示した。150 ppmのBHTが添加された同じ化学物質の平均重合度は0.028%であった。結果は表1にまとめられている。
【0047】
実施例3:酸素に対する敏感さ
TOMCATSタイプ・シロキサンの0.50重量%酸素への曝露
【0048】
4つの石英アンプル(3A, 3B, 3C及び3D)を実施例1におけるように洗浄し、乾燥させた。何も添加物を含まない約5.0 gのTOMCATSタイプ・シロキサンがアンプル3Aと3Bに入れられた。同様の量のTOMCATSタイプ・シロキサンに150 ppm重量のBHTが添加されたものがアンプル3Cと3Dに入れられた。4つのアンプルの各々は、石英の側腕延長部を備え、中隔がキャップになっていた。アンプル3Aは液体窒素温度に冷却され、排気されて頭部スペースの空気が除去された。このアンプルは真空から切り離されて、19 sccmの酸素が側腕の中隔キャップを通してスポイトによって注入された。このアンプルは、周囲圧力よりも低い状態で、実施例1で記載されたように炎を用いて封止された。残りの3つのアンプル(3B, 3C及び3D)も同様に調製され、封止された。封止された4つのアンプルは、すべて、実施例1で述べたように24時間90℃で加熱された。添加物を含まないTOMCATSタイプ・シロキサンは6.462%の平均重合度を示した。150 ppmのBHTが添加された同じ化学物質の平均重合度は0.031%であった。結果は表1にまとめられている。
【0049】
実施例4:三フッ化窒素に対する敏感さ
BHTを含まないTOMCATSタイプ・シロキサンの三フッ化窒素への曝露
【0050】
三フッ化窒素によって促進されるTOMCATSタイプ・シロキサンの重合を抑制するのにBHTなどのフリーラジカル・スカベンジャーがどれほど有効かを評価するために適合性試験(コンパーチビリティテスト)が行われた。NF3の反応性及び可能な副産物の腐食性を考慮して、この適合性試験は300 ccステンレス鋼反応容器(Parr Reactor)で行われた。
【0051】
49.956 gのTOMCATSタイプ・シロキサンが300 ccの反応容器に入れられた。TOMCATSタイプ・シロキサンのこのサンプルはBHTを含まなかったが、重量で125 ppmの2,4-ペンタンジオンを含んでいた。2,4-ペンタンジオンは、TOMCATSタイプ・シロキサンを安定させるための初期の添加剤として開発された。反応容器の頭部スペースの気体は排気された。NF3は、最終濃度が重量で636 ppm (0.0636重量%)となるように頭部スペースへ膨張された。反応容器の温度を100℃まで上げ、24時間保持した。所定の時間の後、反応容器をポンプで排気してNF3が除去された。反応容器が開かれた。TOMCATSタイプ・シロキサンは完全にゲル化していた。反応容器には残っている液体はなかった。
【0052】
非常に粘度が大きいゲル化したサンプル、すなわち本実施例に記載のサンプルは、高度に重合したTOMCATSタイプ・シロキサンを示している。これらのサンプルは、普通の有機溶媒に溶解しないのでGC分析にかけることができない。この明細書では、そのようなサンプルには“> 10重量%”という重合度が割り当てられる。
【0053】
実施例5:三フッ化窒素に対する敏感さ
150 ppmのBHTを含むTOMCATSタイプ・シロキサンの三フッ化窒素への曝露
【0054】
49.863 gのTOMCATSタイプ・シロキサンが300 ccの反応容器に入れられた。このTOMCATSタイプ・シロキサンのサンプルには150 ppm重量のBHTが前に加えられていた。反応容器の頭部スペースの気体は排気された。NF3は、最終濃度が重量で631 ppm 重量(0.0631重量%)となるように頭部スペースへ膨張された。反応容器の温度を100℃まで上げ、24時間保持した。所定の時間の後、反応容器をポンプで排気してNF3が除去された。反応容器が開かれ、45.631 gの透明無色の液体が回収された。重量の減少は、おそらく実験の最後にNF3を除去するために反応容器をポンプで排気したためであろう。液体はポリエチレンボトルに移された。サンプルがGCによって分析され、TOMCATSタイプ・シロキサンの純度が99.95%で実験の前と後で同じであることが確定された。重合は何も検出されなかった。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例6:等価モル量のO2に90℃、105℃、及び120℃で24時間さらされたときの、150 ppmの酸化防止剤BHTを含むTOMCATSタイプ・シロキサンの安定性
【0057】
3つの清浄な85 mlの石英アンプルが、表面の水分を除去するために175℃の乾燥オーブンに入れられた。清浄な乾燥したアンプルはただちに窒素ドライボックスに移された。ドライボックス内で、150 ppmのBHTを含む1.3グラムのTOMCATSが、3つのアンプルの各々に、首の部分に付着するTOMCATSの量を最小にするようにガラスピペットを用いて加えられた。3つのアンプルのひとつに、側腕と中隔キャップを備えたテフロン(登録商標)弁アセンブリが取り付けられた。メインバルブを閉じてアンプルアセンブリがドライボックスから取り出され、ガラス真空ラインに接続された。内容物を真空から隔離した状態でアンプルの底部を液体窒素で5分間冷却した。次に、アンプルを真空に開放して頭部スペースから窒素を排気した。排気されたアンプルを再び真空から切り離し、中隔キャップを通して130 sccmの酸素をアンプルに注入した。アンプルの底部を液体窒素でさらに5分間冷却して、頭部スペースから酸素を凝縮させた。この時点で、アンプルの首部分を水素−酸素トーチを用いて炎で封止した。こうして調製されたアンプルを90℃の実験室オーブンに入れた。試験を三重複で行うように、この手順を繰り返してさらに二つのアンプルを調製した。24時間後、アンプルをオーブンから取り出して、放置冷却し、ドライボックスに移した。アンプルを破って開き、液体サンプルをGC分析のために取りのけた。液体のGC分析は、最初のTOMCATSの量に比べて0.12%の平均劣化を示した。
【0058】
上述の試験が105℃と120℃において三重複で繰り返された。105℃ではほぼ30%の液体TOMCATSがゲル化し、かなりの重合が起こったことを示した。120℃では、すべてのTOMCATSがゲル化した。結果は表2にまとめられている。
【0059】
実施例7:等価モル量のO2に90℃、105℃、及び120℃で24時間さらされたときの、500 ppmの酸化防止剤BHTを含むTOMCATSタイプ・シロキサンの安定性
【0060】
3つの清浄な85 mlの石英アンプルが、表面の水分を除去するために175℃の乾燥オーブンに入れられた。清浄な乾燥したアンプルはただちに窒素ドライボックスに移された。ドライボックス内で、500 ppmのBHTを含む1.3グラムのTOMCATSが、3つのアンプルの各々に、首の部分に付着するTOMCATSの量を最小にするようにガラスピペットを用いて加えられた。3つのアンプルのひとつに、側腕と中隔キャップを備えたテフロン(登録商標)弁アセンブリが取り付けられた。メインバルブを閉じてアンプルアセンブリがドライボックスから取り出され、ガラス真空ラインに接続された。内容物を真空から隔離した状態でアンプルの底部を液体窒素で5分間冷却した。次に、アンプルを真空に開放して頭部スペースから窒素を排気した。排気されたアンプルを再び真空から切り離し、中隔キャップを通して130 sccmの酸素をアンプルに注入した。アンプルの底部を液体窒素でさらに5分間冷却して、頭部スペースから酸素を凝縮させた。この時点で、アンプルの首部分を水素−酸素トーチを用いて炎で封止した。こうして調製されたアンプルを90℃の実験室オーブンに入れた。試験を三重複で行うように、この手順を繰り返してさらに二つのアンプルを調製した。24時間後、アンプルをオーブンから取り出して、放置冷却し、ドライボックスに移した。アンプルを破って開き、液体サンプルをGC分析のために取りのけた。液体のGC分析は、最初のTOMCATSの量に比べて0.20%未満の劣化を示した。
【0061】
上述の試験が105℃と120℃において三重複で繰り返された。105℃では0.20%未満の劣化が観測された。120℃では、ほぼ50%のTOMCATSがゲル化した。結果は表2にまとめられている。
【0062】
実施例8:等価モル量のO2に90℃、105℃、及び120℃で24時間さらされたときの、2,000 ppmの酸化防止剤BHTを含むTOMCATSタイプ・シロキサンの安定性
【0063】
3つの清浄な85 mlの石英アンプルが、表面の水分を除去するために175℃の乾燥オーブンに入れられた。清浄な乾燥したアンプルはただちに窒素ドライボックスに移された。ドライボックス内で、2,000 ppmのBHTを含む1.3グラムのTOMCATSが、3つのアンプルの各々に、首の部分に付着するTOMCATSの量を最小にするようにガラスピペットを用いて加えられた。3つのアンプルのひとつに、側腕と中隔キャップを備えたテフロン(登録商標)弁アセンブリが取り付けられた。メインバルブを閉じてアンプルアセンブリがドライボックスから取り出され、ガラス真空ラインに接続された。内容物を真空から隔離した状態でアンプルの底部を液体窒素で5分間冷却した。次に、アンプルを真空に開放して頭部スペースから窒素を排気した。排気されたアンプルを再び真空から切り離し、中隔キャップを通して130 sccmの酸素をアンプルに注入した。アンプルの底部を液体窒素でさらに5分間冷却して、頭部スペースから酸素を凝縮させた。この時点で、アンプルの首部分を水素−酸素トーチを用いて炎で封止した。こうして調製されたアンプルを90℃の実験室オーブンに入れた。試験を三重複で行うように、この手順を繰り返してさらに二つのアンプルを調製した。24時間後、アンプルをオーブンから取り出して、放置冷却し、ドライボックスに移した。アンプルを破って開き、液体サンプルをGC分析のために取りのけた。液体のGC分析は、最初のTOMCATSの量に比べて0.20%未満の劣化を示した。
【0064】
上述の試験が105℃と120℃において三重複で繰り返された。105℃では0.20%未満の劣化が観測された。120℃では、ほぼ10%のTOMCATSがゲル化した。結果は表2にまとめられている。
【0065】
実施例9:等価モル量のO2に90℃、105℃、及び120℃で24時間さらされたときの、5,000 ppmの酸化防止剤BHTを含むTOMCATSタイプ・シロキサンの安定性
【0066】
3つの清浄な85 mlの石英アンプルが、表面の水分を除去するために175℃の乾燥オーブンに入れられた。清浄な乾燥したアンプルはただちに窒素ドライボックスに移された。ドライボックス内で、5,000 ppmのBHTを含む1.3グラムのTOMCATSが、3つのアンプルの各々に、首の部分に付着するTOMCATSの量を最小にするようにガラスピペットを用いて加えられた。3つのアンプルのひとつに、側腕と中隔キャップを備えたテフロン(登録商標)弁アセンブリが取り付けられた。メインバルブを閉じてアンプルアセンブリがドライボックスから取り出され、ガラス真空ラインに接続された。内容物を真空から隔離した状態でアンプルの底部を液体窒素で5分間冷却した。次に、アンプルを真空に開放して頭部スペースから窒素を排気した。排気されたアンプルを再び真空から切り離し、中隔キャップを通して130 sccmの酸素をアンプルに注入した。アンプルの底部を液体窒素でさらに5分間冷却して、頭部スペースから酸素を凝縮させた。この時点で、アンプルの首部分を水素−酸素トーチを用いて炎で封止した。こうして調製されたアンプルを90℃の実験室オーブンに入れた。試験を三重複で行うように、この手順を繰り返してさらに二つのアンプルを調製した。24時間後、アンプルをオーブンから取り出して、放置冷却し、ドライボックスに移した。アンプルを破って開き、液体サンプルをGC分析のために取りのけた。液体のGC分析は、最初のTOMCATSの量に比べて0.20%未満の平均劣化を示した。
【0067】
上述の試験が105℃と120℃において三重複で繰り返された。105℃と120℃では0.20%未満の劣化が観測された。結果は表2にまとめられている。
【0068】
実施例10:等価モル量のO2に90℃、105℃、及び120℃で24時間さらされたときの、10,000 ppmの酸化防止剤BHTを含むTOMCATSタイプ・シロキサンの安定性
【0069】
3つの清浄な85 mlの石英アンプルが、表面の水分を除去するために175℃の乾燥オーブンに入れられた。清浄な乾燥したアンプルはただちに窒素ドライボックスに移された。ドライボックス内で、10,000 ppmのBHTを含む1.3グラムのTOMCATSが、3つのアンプルの各々に、首の部分に付着するTOMCATSの量を最小にするようにガラスピペットを用いて加えられた。3つのアンプルのひとつに、側腕と中隔キャップを備えたテフロン(登録商標)弁アセンブリが取り付けられた。メインバルブを閉じてアンプルアセンブリがドライボックスから取り出され、ガラス真空ラインに接続された。内容物を真空から隔離した状態でアンプルの底部を液体窒素で5分間冷却した。次に、アンプルを真空に開放して頭部スペースから窒素を排気した。排気されたアンプルを再び真空から切り離し、中隔キャップを通して130 sccmの酸素をアンプルに注入した。アンプルの底部を液体窒素でさらに5分間冷却して、頭部スペースから酸素を凝縮させた。この時点で、アンプルの首部分を水素−酸素トーチを用いて炎で封止した。こうして調製されたアンプルを90℃の実験室オーブンに入れた。試験を三重複で行うように、この手順を繰り返してさらに二つのアンプルを調製した。24時間後、アンプルをオーブンから取り出して、放置冷却し、ドライボックスに移した。アンプルを破って開き、液体サンプルをGC分析のために取りのけた。液体のGC分析は、最初のTOMCATSの量に比べて0.20%未満の平均劣化を示した。
【0070】
上述の試験が105℃と120℃において三重複で繰り返された。105℃と120℃では0.20%未満の劣化が観測された。結果は表2にまとめられている。
【0071】
【表2】

【0072】
本発明をいくつかの好ましい実施形態に関して説明したが、本発明の完全な範囲は特許請求の範囲によって確定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子材料の加工においてシリコン酸化物の化学気相堆積プロセスで用いられるシクロテトラシロキサンを重合に対して安定化する方法であって、
次式により表されるシクロテトラシロキサン:
【化1】

(式中、R1-7は個別に水素、通常の、枝分かれした、又は環式のC1-10アルキル基、及びC1-4アルコキシ基から成る群から選択される)に有効な量の酸化防止剤を与えることを含むシクロテトラシロキサンの安定化方法。
【請求項2】
電子材料の加工におけるシリコン酸化物の化学気相堆積プロセスで用いられるシクロテトラシロキサンを重合に対して安定化する方法であって、
次式により表されるシクロテトラシロキサン:
【化2】

(式中、R1-7は個別に水素、通常の、枝分かれした、又は環式のC1-10アルキル基、及びC1-4アルコキシ基から成る群から選択される)を提供することと、
そのシクロテトラシロキサンに酸化防止剤を加えることとを含むシクロテトラシロキサンの安定化方法。
【請求項3】
前記酸化防止剤が10〜10,000 ppm(wt.)の範囲の量で加えられる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化防止剤が10〜5,000 ppm(wt.)の範囲の量で加えられる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化防止剤が10〜2,000 ppm(wt.)の範囲の量で加えられる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化防止剤がフェノール化合物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
電子材料の加工においてシリコン酸化物の化学気相堆積プロセスで用いられる1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンを酸素、二酸化炭素、及び/又は三フッ化窒素によって引き起こされる重合に対して安定化する方法であって、
1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンに酸化防止剤を与えることを含む1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンの安定化方法。
【請求項8】
前記酸化防止剤がフェノール化合物を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
化学気相堆積プロセスで用いられ、そして長時間の加熱に対して安定化された組成物であって、
次式により表されるシクロテトラシロキサン:
【化3】

(式中、R1-7は個別に水素、通常の、枝分かれした、又は環式のC1-10アルキル基、及びC1-4アルコキシ基から成る群から選択される)、及び
酸化防止剤
を含む組成物。
【請求項10】
前記酸化防止剤が10〜10,000 ppm(wt.)の範囲にある、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記酸化防止剤が10〜5,000 ppm(wt.)の範囲にある、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記酸化防止剤が10〜2,000 ppm(wt.)の範囲にある、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンと酸化防止剤とを含んで成る、電子材料の加工における化学気相堆積プロセスでシリコン酸化物の前駆物質として用いられる、重合に対して安定化された1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンの組成物。

【公開番号】特開2009−102317(P2009−102317A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−265703(P2008−265703)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】