説明

置換錫合金めっき皮膜の形成方法、置換錫合金めっき浴及びめっき性能の維持方法

【解決手段】基材上の銅又は銅合金上に、銀、ビスマス、パラジウム、インジウム、亜鉛及びアンチモンから選ばれる1種以上の添加金属を含む錫合金めっき皮膜を形成する際、温度10〜50℃の低温置換錫合金めっき浴中で、上記銅又は銅合金上に下地層を形成し、次いで、温度40〜80℃の高温置換錫合金めっき浴中で、上記下地層上に上層を形成することにより、上記下地層と上層とからなる置換錫合金めっき皮膜を形成する。
【効果】ウィスカの生成が抑制される錫合金めっき皮膜を、鉛フリーはんだに対して良好なはんだ濡れ性、はんだ接合性を与える均一性に優れた皮膜として形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板や電子部品の最終表面処理として好適な置換錫合金めっき皮膜の形成方法、この方法に用いる置換錫合金めっき浴、及び上記方法におけるめっき浴のめっき性能の維持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錫−鉛合金はんだの代替として鉛フリーはんだが種々提案されているが、各種基板上の被はんだ接合部に鉛フリーはんだを適用する場合、この被はんだ接合部に下地膜として形成される錫めっき皮膜には、はんだ濡れ性、はんだ接合性等のはんだに対する直接的な特性が要求される他、短絡の原因となるウィスカの生成が抑制されていることが求められている。これら特性を決定する重要な因子のひとつが、はんだ接合部の基材上に形成された錫めっき皮膜の均一性である。
【0003】
錫めっき皮膜の場合、ウィスカの生成を抑制するために、錫に他の金属成分を添加することがなされているが、銅等の基材上に、錫に第2、第3の金属成分を添加した錫合金めっき皮膜を形成する場合、実用上必要とされる所定の膜厚のめっき皮膜を形成すると、皮膜の膜厚分布がばらつき、均一な膜厚とならず、これが、はんだ接合性に影響を与える。また、鉛フリーはんだは、錫−鉛合金はんだより、はんだ濡れ性が劣り、これは下地膜である錫合金めっき皮膜がはんだと一緒に溶融することで改善されるが、膜厚が不均一な錫合金めっき皮膜は、はんだ濡れ性の低下も引き起こす。
【0004】
【特許文献1】特開2006−37227号公報
【特許文献2】特許第3314967号公報
【特許文献3】特開2002−317275号公報
【特許文献4】特表2004−534151号公報
【特許文献5】特許第3419995号公報
【特許文献6】特表2003−514120号公報
【特許文献7】特表2002−513090号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2002/0064676号明細書
【特許文献9】米国特許第6361823号明細書
【特許文献10】米国特許第6720499号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ウィスカの生成が抑制される錫合金めっき皮膜を、鉛フリーはんだに対して良好なはんだ濡れ性、はんだ接合性を与える均一性に優れた皮膜として形成することができる置換錫合金めっき皮膜の形成方法、この方法に用いる置換錫合金めっき浴、及び上記方法におけるめっき浴のめっき性能の維持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題を解決するため鋭意検討を行なった結果、基材上の銅又は銅合金上に、銀、ビスマス、パラジウム、インジウム、亜鉛及びアンチモンから選ばれる1種以上の添加金属を含む錫合金めっき皮膜を形成する際、まず、温度10〜50℃の低温置換錫合金めっき浴中で、上記銅又は銅合金上に下地層を形成し、次いで、上記低温置換錫合金めっき浴より高い、温度40〜80℃の高温置換錫合金めっき浴中で、上記下地層上に上層を形成することにより、ウィスカの生成が抑制される錫合金めっき皮膜を、鉛フリーはんだに対して良好なはんだ濡れ性、はんだ接合性を与える均一性に優れた皮膜として形成することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の置換錫合金めっき皮膜の形成方法、置換錫合金めっき浴及びめっき性能の維持方法を提供する。
[1] 基材上の銅又は銅合金上に、銀、ビスマス、パラジウム、インジウム、亜鉛及びアンチモンから選ばれる1種以上の添加金属を含む錫合金めっき皮膜を形成する方法であって、
温度10〜50℃の低温置換錫合金めっき浴中で、上記銅又は銅合金上に下地層を形成し、次いで、
温度40〜80℃の高温置換錫合金めっき浴中で、上記下地層上に上層を形成することにより、上記下地層と上層とからなる置換錫合金めっき皮膜を形成することを特徴とする置換錫合金めっき皮膜の形成方法。
[2] 上記置換錫合金めっき浴が、
(A)2価の錫化合物:錫基準で1〜50g/L、
(B)上記2価の錫化合物から生成する陰イオンと同一の陰イオンを与える酸:0.1〜5mol/L、
(C)チオ尿素:50〜250g/L、及び
(D)上記添加金属の化合物:添加金属基準で1〜1,000ppm
を含有することを特徴とする[1]記載の置換錫合金めっき皮膜の形成方法。
[3] 上記(D)成分の濃度が、添加金属基準で5〜80ppmであることを特徴とする[2]記載の置換錫合金めっき皮膜の形成方法。
[4] [1]記載の方法に用いる置換錫合金めっき浴であって、
(A)2価の錫化合物:錫基準で1〜50g/L、
(B)上記2価の錫化合物から生成する陰イオンと同一の陰イオンを与える酸:0.1〜5mol/L、
(C)チオ尿素:50〜250g/L、及び
(D)上記添加金属の化合物:添加金属基準で1〜1,000ppm
を含有することを特徴とする置換錫合金めっき浴。
[5] 上記(D)成分の濃度が、添加金属基準で5〜80ppmであることを特徴とする[4]記載の置換錫合金めっき浴。
[6] [2]又は[3]記載の方法においてめっきに供した置換錫合金めっき浴のめっき性能を維持する方法であって、置換によって溶出した上記めっき浴中の銅の濃度の増加に応じて、上記めっき浴に、(C)成分のチオ尿素を、その建浴時の濃度より所定濃度高い濃度となるように連続的又は断続的に添加することを特徴とするめっき性能の維持方法。
[7] 上記めっき浴に、(C)成分のチオ尿素と共に、(D)成分の添加金属の化合物を、その建浴時の濃度より所定濃度高い濃度となるように連続的又は断続的に添加することを特徴とする[6]記載のめっき性能の維持方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウィスカの生成が抑制される錫合金めっき皮膜を、鉛フリーはんだに対して良好なはんだ濡れ性、はんだ接合性を与える均一性に優れた皮膜として形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について更に詳述する。
本発明においては、基材上の銅又は銅合金上に、銀、ビスマス、パラジウム、インジウム、亜鉛及びアンチモンから選ばれる1種以上の添加金属を含む錫合金めっき皮膜を形成する。
【0010】
この際、まず、温度10〜50℃、好ましくは20〜40℃の低温置換錫合金めっき浴中で、銅又は銅合金上に置換錫ストライクめっきによって錫合金めっきの下地層を形成し、次いで、上記低温置換錫合金めっき浴より温度が高い、温度40〜80℃、好ましくは60〜80℃の高温置換錫合金めっき浴中で、上記下地層上に錫合金めっきの上層を形成する。
【0011】
低温でのストライクめっきでは、めっきがゆっくりと析出するため、薄くて緻密な下地層が形成される。その後、高温のめっきにより、めっき速度を上げて上層を形成することにより、効率よく実用上必要とされる膜厚の錫合金めっき皮膜を、緻密な錫合金下地層をベースとして均一な膜厚で形成することができる。このストライクめっき(低温めっき)を行わないと、析出反応にムラが生じ、膜厚分布が均一な錫合金めっき皮膜を形成することができず、また、十分な被覆性を得ることができない。
【0012】
本発明においては、下地層形成後、他の処理を施すことなく、直接高温置換錫合金めっき浴に浸漬して上記上層を形成することが可能である。
【0013】
これにより、下地層と同じ組成のめっき浴で上層を形成でき、下地層から上層へのめっき浴の切り替えによる不純物の持ち込み等の心配がなく、また、下地ストライクめっきと上層めっきの間で、水洗、酸洗などの処理をしないため、下地層の表面酸化を防ぐことができる。
【0014】
本発明に用いる置換錫合金めっき浴としては、(A)2価の錫化合物、(B)2価の錫化合物から生成する陰イオンと同一の陰イオンを与える酸、(C)チオ尿素、及び(D)添加金属(即ち、銀、ビスマス、パラジウム、インジウム、亜鉛及びアンチモンから選ばれる1種以上)の化合物を含有するものが好適である。
【0015】
(A)成分の2価の錫化合物としては、例えば、硫酸第1錫、塩化第1錫、メタンスルホン酸第1錫等の水溶性錫塩(第1錫塩)が挙げられ、(A)成分の濃度は錫基準で1〜50g/L、特に10〜30g/Lであることが好ましい。
【0016】
(B)成分の2価の錫化合物から生成する陰イオンと同一の陰イオンを与える酸としては、例えば、上記水溶性錫塩を構成する陰イオンを与える酸、具体的には、(A)成分として、硫酸第1錫を用いる場合は硫酸、塩化第1錫を用いる場合は塩酸、メタンスルホン酸第1錫を用いる場合はメタンスルホン酸の各々を用いる。(B)成分の濃度は0.1〜5mol/L、特に0.5〜2mol/Lであることが好ましい。
【0017】
(C)成分のチオ尿素の濃度は50〜250g/L、特に100〜200g/Lであることが好ましい。
【0018】
本発明において、錫合金めっき皮膜には錫以外の金属として、銀、ビスマス、パラジウム、インジウム、亜鉛及びアンチモンから選ばれる1種以上の添加金属が含まれるが、この置換錫合金めっき浴には、銀、ビスマス、パラジウム、インジウム、亜鉛又はアンチモンの化合物が含まれる。皮膜中に上記添加金属が共析することにより、ウィスカの生成が抑制される。また、基材の銅や銅合金の錫への拡散の進行を抑制することも可能となる。
【0019】
添加金属の化合物としては、各添加金属のメタンスルホン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等の水溶性塩や、各添加金属の酸化物などが挙げられる。
【0020】
金属種は必要に応じて適宜選択されるが、特に銀が好ましい。銀の場合、皮膜を構成する結晶が細かくなり、結晶が細かくなると皮膜が緻密になるので、基材の銅や銅合金の拡散がより抑制されることから好適である。また、下地膜である錫合金めっき皮膜に接合される鉛フリーはんだとしては、錫−銀−銅合金はんだが主流であり、錫−銀合金めっき皮膜が、組成が近いという観点からも望ましい。
【0021】
(D)成分の濃度は、添加金属総量基準で好ましくは1〜1,000ppm、より好ましくは5〜80ppm、更に好ましくは10〜60ppm、特に好ましくは15〜45ppmである。
【0022】
特に、置換錫−銀合金めっき浴の場合、錫より銀の方が析出しやすいので、液中銀濃度が高過ぎると、最初に銀が銅表面を覆ってしまって、錫が析出し難くなる。例えば、特許第3419995号公報(特許文献5)に記載されている発明においては、このような銀の優先析出を抑制するために安定度数の大きい非シアン錯化剤を加えているが、本発明の置換錫合金めっき浴では、特に、予めめっき浴中の銀濃度を80ppm以下にすることにより、銀の優先析出を減少させて、錫−銀合金めっき皮膜中の銀濃度を低く抑えることができ、特別な錯化剤を用いなくても安定的に、形成するめっき皮膜中の銀の割合(共析量)が10質量%以下、特に5質量%以下の錫−銀合金めっき皮膜を成膜することが可能である。なお、錫−銀合金めっき皮膜中の銀濃度はウィスカ抑制効果を発揮するために0.1質量%以上であることが好ましい。
【0023】
本発明の置換錫合金めっき浴には、酒石酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機カルボン酸及びそれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)などの錯化剤の1種もしくは2種以上を、例えば1〜500g/Lの濃度で添加することが可能である。また、本発明の置換錫合金めっき浴には、めっき浴中の2価の錫イオンが酸化して4価の錫イオンになるのを制御する目的で、次亜リン酸及びそれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)などの還元剤を、例えば1〜250g/Lの濃度で添加してもよい。
【0024】
本発明の置換錫合金めっき浴には、本発明の効果を損なわない程度に、上記成分以外に、析出する錫合金皮膜の結晶を微細化し、均一なめっき皮膜を得るために界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性のいずれも使用でき、その1種又は2種以上を添加できる。具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルアミンエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー界面活性剤、アルキルアミン、アルキルトリメチルアミン、アルキルジメチルアミン塩類などが挙げられる。
【0025】
本発明において、形成する錫合金めっき皮膜の膜厚は、通常、0.5〜2.0μm、特に0.9〜1.3μmであり、その内の低温ストライクめっきによる下地層の膜厚は0.2μm以下、特に、0.01〜0.1μmであることが好ましい。この場合、上記膜厚となるようにめっき時間(浸漬時間)が適宜設定されるが、一般的には下地層のめっき時間は2分以内、特に10秒〜1分、上層のめっき時間は5〜50分程度である。
【0026】
また、本発明において用いる置換錫合金めっき浴は、めっきに供すことにより、置換によって銅が溶出してめっき浴中の銅の濃度が徐々に上昇する。本発明において用いる置換錫合金めっき浴においては、銅の濃度が高濃度になると、めっき速度が徐々に低下するため、めっきを安定的に継続するためには、めっき浴成分の補給において、置換によって溶出しためっき浴中の銅の濃度の増加に応じて、(C)成分のチオ尿素を、その建浴時の濃度より所定濃度高い濃度となる(即ち、補給する(C)成分のチオ尿素の濃度が徐々に高くなる)ように連続的又は断続的に添加することが好ましい。これによって、めっき浴を繰り返し使用した場合であっても、めっき浴のめっき性能(めっき速度)を良好に維持することができ、例えば、めっき速度の変動を、建浴直後のめっき速度に対して±10%以内の変動幅で維持することができる。
【0027】
この場合、例えば、めっき浴中の銅濃度の増加分1g/L当り、チオ尿素を建浴時の濃度に対して2〜15%の割合で増加させることが好ましい。例えば、建浴時の銅濃度(即ち、0g/L)から、銅濃度が1g/Lとなった段階で、チオ尿素の濃度を建浴時(即ち、100%)の濃度から102〜115%、銅濃度が2g/Lとなった段階で、チオ尿素の濃度を建浴時(即ち、100%)の104〜130%とすることができ、更に、銅濃度がこれら以外の場合も同様の比率で増加させることができる。なお、通常、めっき浴は、銅濃度が10g/L以下において使用することが望ましい。
【0028】
また、本発明において用いる置換錫合金めっき浴においては、上述したようにめっき浴中の銅の濃度の増加に応じて(C)成分のチオ尿素の濃度を増大させた場合、析出する錫合金めっき皮膜中の添加金属の割合(共析量)が徐々に低下する傾向にある。そのため、めっきを繰り返す際に、錫合金めっき皮膜中の添加金属の割合を安定的に維持するためには、めっき浴成分の補給において、(C)成分のチオ尿素と共に、(D)成分の添加金属の化合物を、その建浴時の濃度より所定濃度高い濃度となる(即ち、補給する(D)成分の添加金属の化合物の濃度が徐々に高くなる)ように連続的又は断続的に添加することが好ましい。これによって、めっき浴を繰り返し使用した場合であっても、形成するめっき皮膜中の添加金属の割合(共析量)を安定に維持することができ、例えば、添加金属の割合(共析量)を建浴直後の添加金属の割合(共析量)を基準として±1質量%の範囲で維持することができる。
【0029】
更に、この場合、例えば、めっき浴中の銅濃度の増加分1g/L当り、添加金属の化合物を建浴時の濃度に対して0〜20%、特に0.1〜10%、とりわけ1〜5%の割合で増加させることが好ましい。例えば、建浴時の銅濃度(即ち、0g/L)から、銅濃度が1g/Lとなった段階で、添加金属の化合物の濃度を建浴時(即ち、100%)の100〜120%、特に100.1〜110%、とりわけ101〜105%、銅濃度が2g/Lとなった段階で、添加金属の化合物の濃度を建浴時(即ち、100%)の100〜140%、特に100.2〜120%、とりわけ102〜110%とすることができ、更に、銅濃度がこれら以外の場合も同様の比率で増加させることができる。
【0030】
なお、(C)成分のチオ尿素及び(D)成分の添加金属の化合物以外の補給は、建浴時の濃度を維持するよう一定濃度で管理することで、浴の性能を維持することができる。
【0031】
本発明は、HASL(ホット・エアー・ソルダー・レベリング)の代替となる鉛フリープリント基板用表面処理やPKG(パッケージ)基板のSOP(ソルダー オン パッド)下地処理として好適であり、配線材料として常用される銅、銅合金を基材として、置換錫合金めっきを施すことができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1〜3、比較例1]
下記浴組成1の置換錫合金めっき浴を用意し、低温浴と高温浴の双方に使用した。試料片として圧延銅板に、10μm程度の銅皮膜を硫酸銅電気めっき処理にて形成したものを使用した。試料片を脱脂及び酸洗浄処理した後、実施例1〜3では、まず低温置換錫合金めっき浴に浸漬し、次いで高温置換錫合金めっき浴に浸漬した。また、比較例1では低温置換錫合金めっき浴を使用せず、高温置換錫合金めっき浴のみの処理を行った。各浴の液温及び浸漬時間を表1に示した。なお、めっき時の析出速度、並びに得られた錫合金めっき皮膜の被覆性(膜厚分布)及びウィスカの発生の有無について評価した結果を表2に示した。
【0034】
<浴組成1>
メタンスルホン酸錫(Sn2+として) 25g/L
メタンスルホン酸 100g/L
酒石酸ナトリウム 100g/L
次亜リン酸ナトリウム 100g/L
チオ尿素 150g/L
硝酸銀(Ag+として) 50mg/L
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル 1g/L
【0035】
【表1】

【0036】
[実施例4、比較例2]
下記浴組成2の置換錫合金めっき浴を用意し、低温浴と高温浴の双方に使用した。試料片として圧延銅板に、10μm程度の銅皮膜を硫酸銅電気めっき処理にて形成したものを使用した。試料片を脱脂及び酸洗浄処理した後、実施例4では、まず低温置換錫合金めっき浴(30℃)に浸漬(1分)し、次いで高温置換錫合金めっき浴(70℃)に浸漬(10分)した。また、比較例2では逆に、まず高温置換錫合金めっき浴(70℃)に浸漬(10分)し、次いで低温置換錫合金めっき浴(30℃)に浸漬(1分)した。なお、めっき時の析出速度、並びに得られた錫合金めっき皮膜の被覆性(膜厚分布)及びウィスカの発生の有無について評価した結果を表2に示した。
【0037】
<浴組成2>
硫酸第一錫(Sn2+として) 25g/L
硫酸 100g/L
次亜リン酸 50g/L
クエン酸 100g/L
チオ尿素 100g/L
硫酸インジウム(In+として) 100mg/L
ラウリルアミン塩酸塩 1g/L
【0038】
[実施例5,6、比較例3,4]
下記浴組成3の置換錫合金めっき浴を用意し、低温浴と高温浴の双方に使用した。なお、各例の浴は、各々銀をAg+として40mg/L(実施例5)、80mg/L(実施例6)、1mg/L(比較例3)、500mg/L(比較例4)含んでいる。試料片として圧延銅板に、10μm程度の銅皮膜を硫酸銅電気めっき処理にて形成したものを使用した。試料片を脱脂及び酸洗浄処理した後、まず低温置換錫合金めっき浴(30℃)に浸漬(1分)し、次いで高温置換錫合金めっき浴(70℃)に浸漬(10分)した。なお、めっき時の析出速度、並びに得られた錫合金めっき皮膜の被覆性(膜厚分布)及びウィスカの発生の有無について評価した結果を表2に示した。
【0039】
<浴組成3>
塩化第一錫(Sn2+として) 25g/L
塩酸 50g/L
次亜リン酸ナトリウム 50g/L
コハク酸 100g/L
チオ尿素 150g/L
硝酸銀(Ag+として) 40mg/L(実施例5)、80mg/L(実施例6)、1mg/L(比較例3)、500mg/L(比較例4)
ステアリルアミン塩酸塩 2g/L
ポリオキシエチレンラウリルアミドエーテル 1g/L
【0040】
【表2】

【0041】
析出速度 ○:良好、△:遅いが時間をかければ可能、×:反応が途中で止まる
膜厚分布 ○:良好、×:局部的に薄い部分が存在する
ウィスカ ○:発生無し、×:発生あり。(30℃、60%RHの環境で6ヶ月放置)
【0042】
[参考例1〜3]
下記浴組成4の置換錫合金めっき浴を用意し、低温浴と高温浴の双方に使用した。試料片として圧延銅板に、10μm程度の銅皮膜を硫酸銅電気めっき処理にて形成したものを使用した。試料片を脱脂及び酸洗浄処理した後、まず低温置換錫合金めっき浴(30℃)に浸漬(1分)し、次いで高温置換錫合金めっき浴(60℃)に浸漬(15分)した。
【0043】
このめっき操作を繰り返し、低温置換錫合金めっき浴及び高温置換錫合金めっき浴において、各々めっき浴中の銅濃度が1g/L増加する毎に、チオ尿素及びメタンスルホン酸銀を表3〜5に示される濃度となるように添加した。参考例1においては表3に示されるように、チオ尿素及びメタンスルホン酸銀の濃度は増加させず、参考例2においては表4に示されるように、チオ尿素の濃度は増加させたが、メタンスルホン酸銀の濃度は増加させず、参考例3においては表5に示されるように、チオ尿素及びメタンスルホン酸銀双方の濃度を増加させた。なお、めっき処理を繰り返すことで消費された錫は適宜補給し、建浴濃度を維持した。また、その他の成分は汲み出しにより減少した分を補給することで建浴濃度を維持した。
【0044】
建浴直後及びめっき成分の添加直後の置換錫合金めっきにおけるめっき速度と得られた錫合金めっき皮膜中の銀濃度(共析量)を表3〜5に併記した。
【0045】
<浴組成4>
メタンスルホン酸錫(Sn2+として) 20g/L
メタンスルホン酸 100g/L
次亜リン酸アンモニウム 100g/L
リンゴ酸 100g/L
コハク酸 50g/L
チオ尿素 130g/L
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 30mg/L
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
上記結果から、本発明の置換錫合金めっき浴が、置換によって溶出した上記めっき浴中の銅の濃度の増加に応じて、めっき浴に、(C)成分のチオ尿素を、建浴時の濃度より所定濃度高い濃度となるように添加することにより、めっき浴を繰り返し使用した場合であっても、めっき浴のめっき性能(めっき速度)を良好に維持することができ、更に、(C)成分のチオ尿素と共に、(D)成分の添加金属の化合物を、建浴時の濃度より所定濃度高い濃度となるように添加することにより、めっき浴を繰り返し使用した場合であっても、形成するめっき皮膜中の添加金属の割合(共析量)を安定に維持することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の銅又は銅合金上に、銀、ビスマス、パラジウム、インジウム、亜鉛及びアンチモンから選ばれる1種以上の添加金属を含む錫合金めっき皮膜を形成する方法であって、
温度10〜50℃の低温置換錫合金めっき浴中で、上記銅又は銅合金上に下地層を形成し、次いで、
温度40〜80℃の高温置換錫合金めっき浴中で、上記下地層上に上層を形成することにより、上記下地層と上層とからなる置換錫合金めっき皮膜を形成することを特徴とする置換錫合金めっき皮膜の形成方法。
【請求項2】
上記置換錫合金めっき浴が、
(A)2価の錫化合物:錫基準で1〜50g/L、
(B)上記2価の錫化合物から生成する陰イオンと同一の陰イオンを与える酸:0.1〜5mol/L、
(C)チオ尿素:50〜250g/L、及び
(D)上記添加金属の化合物:添加金属基準で1〜1,000ppm
を含有することを特徴とする請求項1記載の置換錫合金めっき皮膜の形成方法。
【請求項3】
上記(D)成分の濃度が、添加金属基準で5〜80ppmであることを特徴とする請求項2記載の置換錫合金めっき皮膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法に用いる置換錫合金めっき浴であって、
(A)2価の錫化合物:錫基準で1〜50g/L、
(B)上記2価の錫化合物から生成する陰イオンと同一の陰イオンを与える酸:0.1〜5mol/L、
(C)チオ尿素:50〜250g/L、及び
(D)上記添加金属の化合物:添加金属基準で1〜1,000ppm
を含有することを特徴とする置換錫合金めっき浴。
【請求項5】
上記(D)成分の濃度が、添加金属基準で5〜80ppmであることを特徴とする請求項4記載の置換錫合金めっき浴。
【請求項6】
請求項2又は3記載の方法においてめっきに供した置換錫合金めっき浴のめっき性能を維持する方法であって、置換によって溶出した上記めっき浴中の銅の濃度の増加に応じて、上記めっき浴に、(C)成分のチオ尿素を、その建浴時の濃度より所定濃度高い濃度となるように連続的又は断続的に添加することを特徴とするめっき性能の維持方法。
【請求項7】
上記めっき浴に、(C)成分のチオ尿素と共に、(D)成分の添加金属の化合物を、その建浴時の濃度より所定濃度高い濃度となるように連続的又は断続的に添加することを特徴とする請求項6記載のめっき性能の維持方法。

【公開番号】特開2008−174817(P2008−174817A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11175(P2007−11175)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】