説明

義歯洗浄剤組成物

【課題】殺菌力に優れ、短時間で義歯を洗浄することができる義歯洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の義歯洗浄剤組成物は、全体の重量に対して0.0025重量%を超える配合量でN−ステアロイル−L−グルタミン酸の抗菌性金属塩を含む。抗菌性金属は、銀および銅からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらに、(A)過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、モノ過硫酸水素カリウムからなる群から選択される少なくとも1種の漂白剤:5重量%;(B)すくなくとも1種のアニオン界面活性剤:0.1〜10重量%;(C)少なくとも1種の有機酸:1〜60重量%;
(D)アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種:1〜60重量%の少なくとも1つをさらに含み、発泡性であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯の殺菌および洗浄のために用いられる義歯洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯の汚れは、食物残渣、デンチャープラーク、茶渋やタバコのヤニ等の着色物質、歯石等に起因し、これらを洗浄するために、ブラッシングおよび義歯洗浄剤による洗浄のいずれかまたはこれらの双方が行われる。
【0003】
こうした義歯の汚れの原因うち、デンチャープラークは微生物を多量に含むバイオフィルムであり、これを放置しておくと、歯石を形成し、義歯におけるデンチャープラークからの微生物の伝搬により、残存歯へのう蝕の発生、歯周病の助長、義歯性口内炎、カンジダ症、さらには、消化器および呼吸器系への感染症等の種々の疾患への危険が指摘されている。また、デンチャープラークの微生物が義歯の樹脂部分に入り込み義歯の樹脂部分を劣化させる原因にもなっている。したがって、デンチャープラークを十分に除去することは、義歯の使用者の健康維持および義歯の劣化を防止するために非常に重要である。しかしながら、一旦微生物が義歯の樹脂部分に入り込むと、洗浄剤による洗浄が樹脂部分に至らず、義歯の洗浄がより一層困難なものになっていた。
【0004】
通常、義歯の洗浄に用いられる義歯洗浄剤は、過炭酸、過ホウ酸等の漂白剤を主成分とし、界面活性剤、酵素、賦形剤、滑沢剤等が添加され、さらに、炭酸塩および有機酸が加えられて、溶解時に発泡するようにした発泡錠タイプのものである。また、過炭酸、過ホウ酸等の漂白剤はそれ自体殺菌作用を持つが、その効果は十分なものではないため、これに代えて、溶菌作用を持つ酵素や殺菌剤を用いたものが使用されることも多い。
【0005】
殺菌剤を含有する義歯洗浄剤として、特許文献1には、抗菌性金属イオンを担持させた無機物系担体を含有する義歯洗浄剤が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の無機物系担体に抗菌性金属を担持させた義歯洗浄剤では、殺菌に比較的長時間を要する、配合濃度によっては義歯の樹脂部に殺菌剤の白い粒子が吸着して残る等の問題があった。義歯洗浄剤による義歯の洗浄時間は、使用者によっても異なるが、一昼夜つけ置きしなければならないような長時間での洗浄よりも、義歯洗浄をより一層短時間で行えることが好まれる傾向にある。
【特許文献1】国際公開第99/56714号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、殺菌力に優れ、短時間で義歯を洗浄することができる義歯洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を行った結果、殺菌力に優れ、かつ、短時間で義歯を洗浄することができる義歯洗浄組成物を見出すに至った。
【0009】
すなわち、本発明の義歯洗浄剤組成物は、全体の重量に対して0.0025重量%を超える配合量でN−ステアロイル−L−グルタミン酸の抗菌性金属塩を含むことを特徴とするものである。
【0010】
N−ステアロイル−L−グルタミン酸の抗菌性金属塩は、抗菌性金属をイオン結合の形で保持しているため、金属イオンを遊離し易く、このために優れた抗菌力を示し、短時間で義歯を洗浄することができる。また、同抗菌性金属塩は、水中に分散させた場合に分散安定性に優れているため、義歯の樹脂上に粒子が沈着することがない。
【0011】
上記本発明の義歯洗浄剤組成物において、抗菌性金属が銀および銅からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
上記本発明の義歯洗浄剤組成物において、下記(A)〜(D)の少なくとも1つをさらに含み、発泡性であることが好ましい:
(A)過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、モノ過硫酸水素カリウムからなる群から選択される少なくとも1種の漂白剤:5重量%;
(B)すくなくとも1種のアニオン界面活性剤:0.1〜10重量%;
(C)少なくとも1種の有機酸:1〜60重量%;
(D)アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種:1〜60重量%。
【0013】
このようにして本発明の義歯洗浄剤組成物を発泡性にすれば、発泡により汚れを分散させることができ好ましい。
【0014】
本発明の義歯洗浄剤組成物は、使用に際しての利便性を向上させるため、ポリエチレングリコール、乳糖等の糖類、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の賦形剤を用いることにより錠剤にしてもよい。
【0015】
あるいは、本発明の義歯洗浄剤組成物は、二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムおよびケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種をさらに加えることにより、粉末状にしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の義歯洗浄剤組成物は、水への分散性の高いN−ステアロイル−L−グルタミン酸の抗菌性金属塩を全体の重量に対して0.0025重量%を超える配合量で含んでいるため、菌類、特に口腔内疾患の原因となりやすいガンジダ菌に対して、5分以内の極めて短時間に殺菌することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の義歯洗浄剤組成物について詳細に説明する。
【0018】
本発明は、義歯洗浄剤組成物は、N−ステアロイル−L−グルタミン酸の抗菌性金属塩(以下、簡単のため、「抗菌性金属塩」と称する)を抗菌剤として含んでいる。当該抗菌性金属は、銀および銅からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
抗菌性金属塩としては、抗菌性金属として銀および銅を含む5%の水分散物として入手可能なものが市販されている(サンギ社製:SS−5)。あるいは、市販のN−ステアロイル−L−グルタミン酸二ナトリウムと銀および/または銅とのイオン交換反応を行うことにより、銀および/または銅が所望の割合となっている塩を製造してもよい。
【0020】
抗菌性金属塩は、組成物全体の重量に対して0.0025重量%を超える配合量である必要がある。配合量が0.0025重量%以下である場合には、十分な殺菌効果を得ることができない。他方、製剤の安定性の面から、抗菌性金属塩の配合量は0.25重量%以下に設定することが好ましい。
【0021】
本発明の義歯洗浄剤組成物は、抗菌性金属塩のほか、(A)漂白剤、(B)アニオン界面活性剤、(C)有機酸および(D)アルカリ金属炭酸塩および/またはアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。
【0022】
(A)漂白剤としては、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、モノ過硫酸水素カリウムが挙げられ、これらは、単独もしくは複数種を組み合わせて添加され得る。その配合量は、プラークの分散効果を適切に得られるようにするために5重量%以上とすることが好ましい。また、その配合量は、保存安定性の点から70重量%以下であることが好ましい。本発明の組成物を錠剤とする場合には、錠剤の保存安定性の面から、漂白剤としては、(C)有機酸、(D)アルカリ金属炭酸塩および/またはアルカリ金属炭酸水素塩に対して不活性な硫酸ナトリウム等の成分によりコーティングしたものを使用することが望ましい。
【0023】
(B)アニオン界面活性剤としては、洗浄力の点でアルキル硫酸塩、アルキルサルコシン塩、アルキルアミノジ酢酸塩、アシルメチルタウリン酸、アルキルスルホ酢酸塩等が挙げられる。これらは単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの内、特には、起泡性および洗浄性の点からアルキル硫酸塩であるドデシル硫酸塩を配合することが好ましい。アニオン界面活性剤の配合量は、起泡性および洗浄性の点および水に溶解するのに長時間を要しないようにする点から、好ましくは0.1〜10重量%とされる。なお、溶解時間が短くするために、ドデシル硫酸塩は粉末よりもフレークまたは粗粒にすることが望ましい。
【0024】
(C)有機酸としては、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸が挙げられる。これらは単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、好ましくは1〜60重量%とされ、最終物のpHは5〜9に調整される。本発明の組成物を錠剤とする場合には、錠剤の保存安定性の点から有機酸としては、(A)漂白剤、(D)アルカリ金属炭酸塩および/またはアルカリ金属炭酸水素塩に対して不活性な硫酸ナトリウム等の成分でコーティングしたものを使用することが望ましい。
【0025】
(D)アルカリ金属炭酸塩および/またはアルカリ金属炭酸水素塩は、発泡剤であり、その配合量は好ましくは1〜60重量%とされ、最終物のpHは5〜9になるように調整される。アルカリ金属としてはナトリウムおよび/またはカリウムが用いられる。本発明の組成物を錠剤とする場合には、錠剤の保存安定性を高めるために、特には炭酸カリウムを10重量%以上配合することが望ましい。
【0026】
本発明の組成物は、錠剤または粉末状として用いられる。
【0027】
本発明の組成物を錠剤とする場合、用いられる賦形剤に特に限定はないが、例えば、ポリエチレングリコール、乳糖等の糖類、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0028】
本発明の組成物を粉末状とする場合、本発明の組成物の各成分を粉体原料と混合しこれをよく攪拌することにより粉末状の組成物が得られる。粉体原料は、液体状の成分を吸着する性質を有する必要があり、このような性質のものとしては、二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムおよびケイ酸アルミン酸マグネシウムが挙げられる。これらは、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、最終物を十分に粉末化する量だけ加える必要があり、その量は、使用する抗菌性金属塩の重量に対して等量〜10倍量である。配合量が等量に満たない場合は、粉末化しにくくなる。また、10倍程度の粉末原料を加えれば十分に粉末化することができるので、それ以上の配合量の粉末原料の添加は過剰であり意味がない。
【0029】
本発明の組成物は、上記成分のほか、最終物の安定性を阻害しない範囲で、滑沢剤、香料、崩壊剤、色素、洗浄助剤、増量剤等の成分をさらに配合されてもよい。
【0030】
滑沢剤に特に限定はなく、例えば、脂肪酸のアルカリ土類金属塩、ショ糖脂肪酸エステル等が好適なものとして挙げられる。
【0031】
香料に特に限定はなく、粉末化されたものが作業性の面から好ましい。
【0032】
酵素に特に限定はないが、例えば、プロテアーゼ、アミラーゼ、グルカナーゼ、ムタナーゼ、リパーゼ等が挙げられる。
【0033】
崩壊剤に特に限定はなく、例えば、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストリン等が挙げられる。
【0034】
洗浄助剤に特に限定はなく、例えば、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等の可溶化剤として作用するもの、ポリリン酸塩、グルコン酸塩、EDTA等のキレート効果のあるものが望ましいものとして挙げられる。
【0035】
本発明の組成物を実際に使用するに際して、本組成物を水に分散させた時の抗菌性金属塩の濃度は、0.00005重量%以上になるように設定されることが好ましい。抗菌性金属塩の濃度が0.00005重量%に満たない場合には殺菌効果が発揮されない。また、抗菌性金属塩の濃度が0.25重量%を超えても殺菌効果に変動はなく意味がないので、0.25重量%以下に設定することが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の組成物について具体例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
(殺菌剤としての評価)
それぞれ異なる量のN−ステアロイル−L−グルタミン酸の銀および銅塩(サンギ社製:SS−5)を所定量の水に分散させ、3種の濃度の分散液(0.0005%、0.00013%および0.00005%)を作製した。また、比較のため、銀をヒドロキシアパタイトに担持させた市販の殺菌剤の分散液(0.01%)、銀をリン酸ジルコニアに担持させた市販の殺菌剤の分散液(0.01%)を作製した。
【0038】
試験菌としては、カンジダ菌(Candida albicans、IFM-47259)およびミュータンス菌(Streptcoccus mutans、IFO-13955)を用いた。これらの菌を、10cfu/mLの濃度の菌液に調製した。
【0039】
上記の各殺菌剤分散液100mLに各菌液1mLを加え、その直後(5分以内)、15分後、30分後に、殺菌剤分散液を1mL採取し、これにLP(Lecithin Polysorbate)希釈液(和光純薬工業(株)製)の溶液9mLを加え、この液1mLについて混釈法(ミュータンス菌についてはSCD寒天培地、ガンジダ菌についてはPDA寒天培地)により菌数を測定した。培地にコロニーが検出されないものについては菌が死滅したものと判断し、下記基準で評価を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
評価基準
5分以内に菌が死滅したもの:◎
15分以内に菌が死滅したもの:○
30分以内に菌が死滅したもの:△
30分以内に菌が死滅しなかったもの:×
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、本発明に関わるN−ステアロイル−L−グルタミン酸の銀および銅塩は、銀担持ヒドロキシアパタイトおよび銀担持リン酸ジルコニアに比較して、格段に低濃度で殺菌効果を有することが確認された。また、N−ステアロイル−L−グルタミン酸の銀および銅塩の分散液であっても、その分散液中の濃度が0.00005%である場合には、殺菌力に問題があることも示された。
【0043】
(義歯洗浄剤組成物の作製)
下記表2および3に示す配分量がそれぞれ異なる実施例1〜5および比較例1〜5の各成分を均一に混合し、打錠機により圧縮して錠剤を作製した。このとき、N−ステアロイル−L−グルタミン酸の銀および銅塩は、水分散物であるため、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと予備混合され、次いでこれを粉末化した後にその他の成分と混合した。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
作製された各実施例1〜5および比較例1〜5の義歯洗浄剤を水に溶解させて2%分散液とし、これを上記の殺菌剤についての評価と同じ試験法および評価基準により比較した。その結果を、表4および5に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
表4および5に示すように、実施例1〜5の義歯洗浄剤は、比較例3の銀担持ヒドロキシアパタイトおよび比較例4の銀担持リン酸ジルコニアに比べて、短時間で格段に優れた殺菌力、特にガンジダ菌に対して優れた殺菌力を有していることが分かった。
【0050】
この結果、本発明に関わるN−ステアロイル−L−グルタミン酸の銀および銅塩は義歯洗浄用の殺菌剤として優れていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体の重量に対して0.0025重量%を超える配合量でN−ステアロイル−L−グルタミン酸の抗菌性金属塩を含むことを特徴とする義歯洗浄剤組成物。
【請求項2】
抗菌性金属が銀および銅からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の義歯洗浄剤組成物。
【請求項3】
下記(A)〜(D)の少なくとも1つをさらに含み、発泡性である、請求項1または2に記載の義歯洗浄剤組成物:
(A)過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、モノ過硫酸水素カリウムからなる群から選択される少なくとも1種の漂白剤:5重量%;
(B)すくなくとも1種のアニオン界面活性剤:0.1〜10重量%;
(C)少なくとも1種の有機酸:1〜60重量%;
(D)アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種:1〜60重量%。
【請求項4】
二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムおよびケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の義歯洗浄剤組成物。


【公開番号】特開2007−269633(P2007−269633A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93456(P2006−93456)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(500346419)ニッサン石鹸株式会社 (10)
【Fターム(参考)】