羽根車及びそれを有するターボ機械
【課題】
ターボ機械が有する遠心羽根車または斜流羽根車において、2次流れを抑制してターボ機械の性能を向上させる。
【解決手段】
羽根車600は、ハブ板609と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根607とを有する。複数の羽根は、ハブ板と羽根とが直交し直線要素で構成された羽根を有する基準羽根車における各羽根の翼スパン高さ方向の複数の翼断面を曲線要素606の羽根となるように翼スパン高さ方向に積層して形成された形状を有している。翼断面の翼スパン高さ方向の積層においては、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ翼断面に付与するタンジェンシャルリーンおよびスイープの量を増大させる。
ターボ機械が有する遠心羽根車または斜流羽根車において、2次流れを抑制してターボ機械の性能を向上させる。
【解決手段】
羽根車600は、ハブ板609と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根607とを有する。複数の羽根は、ハブ板と羽根とが直交し直線要素で構成された羽根を有する基準羽根車における各羽根の翼スパン高さ方向の複数の翼断面を曲線要素606の羽根となるように翼スパン高さ方向に積層して形成された形状を有している。翼断面の翼スパン高さ方向の積層においては、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ翼断面に付与するタンジェンシャルリーンおよびスイープの量を増大させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心羽根車または斜流羽根車等の羽根車及びそれを有するターボ機械に係り、特に、遠心羽根車または斜流羽根車を有する圧縮機やブロア、ファン、ポンプ等の、作動流体にエネルギーを付与するターボ機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械の一種である多段圧縮機は、同一軸に取り付けられた多数の遠心羽根車または斜流羽根車と、各羽根車の下流側に併設されたディフューザ、リターンガイドベーンから構成される段落を積み重ねた形式となっている。この多段圧縮機に用いる羽根車は、多くの場合、翼を切削加工で製作している。羽根車を構成する翼の翼面形状を、直線要素の集合体として定義することが可能であれば、ミル等の棒状の切削工具を用いることが可能になる。その場合、加工具の側面を直線要素になる部分に回転させながら当接させ、羽根車の入口側から出口側になる方向へ、またはその逆方向にスライドさせながら切削する。これにより、効率的に加工できる。このように直線要素羽根車は製作性・加工性に富むので、遠心圧縮機では直線要素羽根車が多用される。
【0003】
直線要素羽根車を採用することは製作面からは有効な方法であるが、近年の羽根車性能のさらなる改善の要求のためには、羽根車の翼を直線要素の集合とする制約から解放し、自由曲面からなる翼面とし、翼間流れを緻密に制御する必要がある。以下、本発明においては、翼面が自由曲面からなる羽根車を曲線要素羽根車と呼ぶ。
【0004】
部分的に曲線要素を有する羽根車の例が、特許文献1や特許文献2に開示されている。特許文献1の羽根車は、羽根車のシュラウド側にシュラウド板(側板)を有さないオーブン形羽根車(以下、ハーフシュラウド羽根車とも称す)であり、特許文献2に記載の羽根車はシュラウド側にシュラウド板(側板)を有さない点は特許文献1と同じであるが、2枚の翼間にこれら翼よりも入口側寸法が短い翼を有する中間羽根付きハーフシュラウド羽根車である。なお、シュラウド側にシュラウド板(側板)を有する羽根車を、クローズド形羽根車(以下、フルシュラウド羽根車とも称す)と称す。
【0005】
特許文献2に記載の羽根車は曲線要素羽根車であり、翼型を形成するときには、翼の前縁近傍で翼断面をスパン方向に湾曲させた翼を積み上げて、曲線要素羽根車に用いる翼を形成している。これにより、低エネルギー流体が翼間流路の局所に蓄積するのを抑制し、圧縮機効率を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−90797号公報
【特許文献2】特許第4115180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1及び特許文献2では、ハーフシュラウド羽根車において、翼前縁周りを従来のものから変更することにより、圧縮機効率の改善を図っている。遠心羽根車や斜流羽根車で用いられるハーフシュラウド羽根車では翼先端漏れ流れが生じ、フルシュラウド羽根車では翼先端漏れ流れが生じない。したがって、ハーフシュラウド羽根車で最良であった翼形状であっても、翼間のフローパターンの違いにより、フルシュラウド羽根車で性能を改善しうる最適な曲線要素羽根車となる保証はない。すなわち、最適な曲線要素羽根車の翼形状は異なりうる。
【0008】
このように、フルシュラウド羽根車に適した曲線要素化の方法は、必ずしも明確ではない。しかしながら、上記のいずれの形態の羽根車であっても、無数にある曲線要素羽根の形成法に対して、真に性能向上につながる曲線要素化パターンはごく限定されたものであることは想像に難くなく、性能改善に結びつく曲線要素化のパターンを見出すことが必要となっている。
【0009】
本発明は上記従来技術の状況に鑑みなされたものであり、その目的はターボ機械が有する遠心羽根車または斜流羽根車において、ターボ機械の性能を向上させることにある。本発明の他の目的は、曲線要素羽根車の翼間の2次流れを効果的に抑制することにある。本発明のさらに他の目的は、曲線要素羽根車において、性能向上に結びつく最適な曲線要素化の方法、すなわち翼断面のスパン方向への積み重ねパターンを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、曲線要素羽根車を取り上げているので、初めに曲線要素羽根車について、必要な用語の定義等を以下に説明する。
[曲線要素羽根車]
羽根車のシュラウド面およびハブ面間を曲線で結び、この曲線を入口側から出口側まで、複数本配置して羽根を作成した羽根車を曲線要素羽根車と定義する。直線要素羽根車と対比する概念である。
【0011】
曲線要素羽根車の形状は、基準となる直線要素羽根車の翼形状を決定し、この直線要素羽根車について様々なスパン位置で翼断面を切り出す。その後、切り出した翼断面を直線移動や回転移動しまたは変形して、再度積み重ねる。これにより、自由曲面を有する曲線要素羽根車が得られる。この具体的方法を、図1および図2を参照しながら、以下に説明する。
【0012】
図1は、切り出した1個の翼断面を移動または変形させる方法を説明する図である。図1(a)は、円筒座標系で示した翼断面図である。スパン位置(図1(a)では紙面に直角な方向)は、任意位置である。図1(b)は、図1(a)で示した同じ翼を展開して、直交座標系となるようにしたもので、図の横軸は後述する子午面流線方向mであり、図の縦軸は周方向(θ方向)である。
【0013】
図2は、図1に示したような切り出した翼断面を積み重ねて、曲線要素羽根を形成する様子を示した斜視図である。この図2では、羽根車から羽根一枚分を取り出して示している。子午面(R−Z面)内において、着目する線素に沿ってハブ110から各翼断面までのスパン方向高さをh、ハブ110からシュラウド120までの線素に沿ったスパン方向の全高さをHとして、無次元翼高さh/Hを定義する。
[タンジェンシャルリーン]
羽根車の翼断面Vの形状を合同に保ったまま、周方向(θ方向)に移動させることであり、羽根車の回転方向に回転移動する場合を、正のタンジェンシャルリーンを付与すると定義する。
図1中では翼断面101から翼断面102への移動が、タンジェンシャルリーンである。このときの移動量は、円筒座標系(図1(a))で表せばδθ(rad)であり、直交座標系(図1(b))で表せば、縦軸方向の移動量δYである。
[翼弦]
翼断面Vにおいて、前縁202と後縁203を結ぶ線を翼弦Cと定義し、前縁202から後縁203に向かう方向を正とする。
[スイープ]
翼断面Vにおいて、後縁203の位置を固定し、翼弦Cの方向に翼断面Vのそり線を略相似に保ったまま変形させることである。正の翼弦方向に変形させることを正のスイープとする 。
【0014】
翼断面Vの形状、すなわち翼表面の輪郭形状そのものを相似変形させると翼厚thも変化するので、そり線Cのみを略相似に変形させ、翼厚thは任意に付与できる。なお、変形後の前縁202aは、変形前の翼弦Cの線上にある。図1では翼断面101から翼断面103への相似変形として示している。ここで、後縁203を固定したのは、羽根車外径R2を一定に保って理論ヘッドを大きく変化させないためであり、理論ヘッドを変化させてもよい場合には、必ずしも後縁203を一定位置とする必要はない。
【0015】
このような定義の下、本発明では上記目的を達成するために、ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、前記複数の羽根は、前記ハブ板と前記羽根とが直交し直線要素で構成された羽根を有する基準羽根車における各羽根の翼スパン高さ方向の複数の翼断面を曲線要素羽根となるように翼スパン高さ方向に積層して形成された形状を有しており、前記翼断面を羽根車の回転方向に回転移動させることを正のタンジェンシャルリーンを付与するとしたときに、前記翼断面の翼スパン高さ方向の積層においては、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ前記翼断面に付与するタンジェンシャルリーンの量を増大させている。
【0016】
そしてこの羽根車において、前記翼断面を翼弦下流方向に略相似的に変形移動させることを正のスイープを付与するとしたときに、前記翼断面の翼スパン高さ方向の積層においては、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ前記翼断面に付与するスイープの量を増大させるのがよく、前記タンジェンシャルリーンの付与量は、ハブ側の付与量がシュラウド側の付与量よりも大きく、かつ付与量の最大値はスパン中央よりもハブ側に近い翼スパン高さにあるのがよい。
【0017】
また、本発明では、ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、前記羽根の負圧面が前記ハブ板面と、または前記羽根の負圧面が反ハブ板側端部でこの羽根と対向する面との少なくともいずれかとなす角度が鈍角としている。
【0018】
そしてこの羽根車において、子午面内における前記ハブ板面または前記反ハブ板側端部でこの羽根と対向する面の少なくとも一方と前記羽根の前縁の稜線がなす角度を、前記羽根を含む側で鋭角とするのがよい。
【0019】
さらにまた、本発明では、ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、前記複数の羽根の形状は、翼スパン高さ方向に翼断面を積層して形成したものであってその積層の際に翼スパン高さ方向に曲線に沿って積層した曲線要素羽根であり、この羽根車を同一半径で展開した形状における前記羽根の負圧面は、翼スパン中央部よりもハブ板側で羽根車の回転方向に最も先行している。
【0020】
そして、上記いずれにおいても、前記羽根車が遠心羽根車または斜流羽根車であることが望ましい。
【0021】
さらに本発明は、ターボ機械が、上記のいずれかに記載した羽根車を少なくとも一つ以上備えるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、遠心羽根車または斜流羽根車において、羽根車出口の翼断面形状が回転方向に凸でかつシュラウド側をハブ側よりも後ろ側にしたので、翼間流路のコーナー部への低エネルギー流体の蓄積が促進される2次流れを抑制でき、ターボ機械の性能が向上する。また、上記羽根車を曲線要素羽根車とすれば、さらに2次流れを抑制できる形状とすることができ、ターボ機械の性能が向上する。さらにまた、スイープとタンジェンシャルリーンとの組み合わせにより、性能向上に結びつく最適な曲線要素化の方法、すなわち翼断面のスパン方向への積み重ねパターンを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る羽根車を説明するための子午面断面図およびその展開図である。
【図2】本発明に係る羽根車を説明するための斜視図である。
【図3】本発明に係る多段遠心圧縮機の一実施例の縦断面図である。
【図4】従来の遠心羽根車の一例の子午面断面図および斜視図である。
【図5】従来の遠心羽根車の他の例の子午面断面図および斜視図である。
【図6】本発明に係る遠心羽根車の一実施例の子午面断面図および斜視図である。
【図7】タンジェンシャルリーンの付与例を示す図である。
【図8】スイープの付与例を示す図である。
【図9】本発明に係る遠心羽根車の他の実施例の子午面断面図および斜視図である。
【図10】翼間流れを説明する図であり、羽根車の半径方向断面の周方向展開図である。
【図11】羽根前縁付け根部の流れを説明する図である。
【図12】本発明に係る羽根車の一実施例の効率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のいくつかの実施例について図面を用いて説明する。はじめに、ターボ機械の一例として、2段の遠心圧縮機について説明する。図3は、2段遠心圧縮機の縦断面図である。ここでは、多段遠心圧縮機300として2段遠心圧縮機を取り上げたが、本発明は遠心型羽根車または斜流型羽根車を用いた単段または多段のターボ機械に適用でき、特に2段遠心圧縮機に限るものではない。
【0025】
2段遠心圧縮機300は、初段301と第2段302とを備える。初段羽根車308および第2段羽根車311は、同一の回転軸303に取り付けられていて回転体を構成する。回転軸303や第1段、第2段羽根車308、311は圧縮機ケーシング306に収容されており、圧縮機ケーシング306に保持されたジャーナルベアリング304やスラストベアリング305により、回転自在に支持されている。
【0026】
初段羽根車308の下流側には、羽根車308で圧縮された作動ガスの圧力を回復し半径方向外向きの流れを形成するディフューザ309と、ディフューザ309で半径方向外向きにされた作動ガスの流れを半径方向内向きにして第2段羽根車311に導くリターンガイドベーン310とが配置されている。2段羽根車311の下流には同様にディフューザ312と、2段ディフューザ312で圧力上昇した作動ガスをまとめて機外へ送りだすためのコレクタまたはスクロールと呼ばれる回収手段313が配置されている。
【0027】
第1段羽根車308は、ハブ板308aと、シュラウド板308bと、ハブ板308aとシュラウド板308bとの間に周方向にほぼ等間隔に複数枚配置された羽根308cとを有している。同様に、第2段羽根車311は、ハブ板311aと、シュラウド板311bと、ハブ板311aとシュラウド板311bとの間に周方向にほぼ等間隔に複数枚配置された羽根311cとを有している。各羽根車308、311の入口側であって、シュラウド板308b、311b側の外周部にはマウスラビリンスシール315が、ハブ板308a、311aの背面側にはそれぞれステージラビリンスシール316とバランスラビリンスシール317が配置されている。
【0028】
吸込ノズル307から流入した作動ガスは、初段の羽根車308、羽根付きディフューザ309、リターンガイドベーン310、第2段の羽根車311、羽根付きディフューザ312の順に通過して、コレクタやスクロールといった回収手段313に導かれる。図3にはディフューザとして羽根付きディフューザを示してあるが、ベーンレスディフューザとしてもよい。
【0029】
図4に、以下の説明の便のために、従来技術である直線要素羽根車400を示す。図4(a)は子午面における羽根407のそり面を表している。そり面を構成するハブ側境界線401とシュラウド側境界線402と、その間に位置する5本の翼断面のそり線405が示されている。したがって、図4(a)では、合計7個の翼断面が用いられており、羽根車400の羽根407は、この7個の翼断面で特定される。403は羽根420の前縁であり、404は羽根407の後縁である。羽根車400で翼断面を積層するのに、複数の直線線素406を用いる。
【0030】
図4(b)に、羽根車400を斜視図で示す。羽根407の表面は、ハブ側境界401からシュラウド側境界402に向かう直線要素408の集合体として構成される。なお、直線要素を、図4(a)では直線要素406で、図4(b)では直線要素408で示している。図4(b)に示すような直線要素羽根車400では、翼間に形成される2次流れを緻密に制御することが困難である。
【0031】
図5に、直線要素羽根車500の他の従来例を示す。本羽根車500が図4に示す羽根車400と異なるのは、羽根507の前縁を1本の直線線素で構成するのではなく、隣り合う複数の直線線素521i(i=1、2、…)で形成される面を、子午面形状において入口側に凸になるようにカッティングしたことにある。すなわち、各翼断面における前縁をハブ側からシュラウド側に結んだ稜線503を、羽根高さ方向に湾曲させている。本従来例でも、図4に示した従来例の場合と同様に、翼断面505を直線要素506、508に沿って積み上げて羽根507を形成している。なお直線要素を、図5(a)では直線要素506で、図5(b)では直線要素508で示している。羽根車500では、翼前縁503付近の流れを若干制御できるが、翼間流路の特性は本質的に図4に示した羽根車400と変わらないので、2次流れを十分には制御できない。
【0032】
以下に、上記従来例と対比しながら、本発明のいくつかの実施例を、図6〜図12を用いて説明する。図6は、本発明に係る曲線要素羽根車の一実施例の図であり、図6(a)は曲線要素羽根車600の子午面(R−Z面)形状であり、図6(b)はその斜視図である。
【0033】
図6(a)において、曲線要素羽根車600では、ハブ側境界601とシュラウド側境界602とで流路610が区画される。この流路内610に、複数の曲線要素606を有する曲線要素羽根607が周方向に間隔をおいて配置される。この図6(a)では、羽根607は翼断面605で表されている。曲線要素606は、翼断面を積層するガイドとなる。なお曲線要素605は、後述するように(図9参照)、子午面投影図では直線要素のように見える場合もあるが、実際の形状では曲線となっている。
【0034】
図6(b)に示すように、曲線要素羽根車600では、ハブ板609の一方の表面上に複数の羽根607が周方向にほぼ等間隔で配置されている。そして、羽根607はハブ側境界601からシュラウド側境界602に向かって、曲線要素608に沿って翼断面が積み上げられ、羽根表面は自由曲面となっている。本発明では曲線要素を採用しているので、翼断面の積み上げの自由度が直線要素羽根車に比べて大きい。そのため、羽根表面を自在に傾斜させることができ、流体に与える力の方向、すなわち、翼間2次流れの制御が可能になる。
【0035】
この翼間流れを制御可能な曲線要素羽根車600の例を、図7及び図8を用いて説明する。図7は、タンジェンシャルリーンδYを付与した曲線要素羽根車600の例である。横軸は翼断面の回転移動量δYを翼弦Cで無次元化した値である。縦軸は無次元翼高さh/Hを示している。
【0036】
タンジェンシャルリーンδYの付与方法としては、対比基準であるハブ面に垂直な直線要素を有する直線要素羽根車に対して、ハブ側の翼断面およびシュラウド側の翼断面からスパン中間部の翼断面に向かう方向に、タンジェンシャルリーンδYを大きくしている。このようにタンジェンシャルリーンδYを羽根に付与すると、図6(b)に示すように、回転方向背面側(−方向)に位置する羽根607の負圧面は凹面となる。また、スパン方向中央側の翼断面ほど、ハブ側やシュラウド側の翼断面よりも回転方向に先行する(+方向)形状となる。この時、羽根607の負圧面がハブ面やシュラウド面となす角度は鈍角となる。
【0037】
図7に示すタンジェンシャルリーンδYの付与プロファイル701、702は、上記特徴を満足するように選択したもので、いずれも性能改善につながっている。ここで、プロファイル701は、タンジェンシャルリーンδYがハブ面とシュラウド面においてともに0であるから、周方向の翼断面位置が同じであり強度面に優れている。プロファイル702は、ハブ側のタンジェンシャルリーンδYよりもシュラウド側のタンジェンシャルリーンδYを大きくして、ハブ側の翼断面位置706をシュラウド側の翼断面位置707よりも回転方向に先行させ、プロファイル701よりも性能の向上を図ったものである。
【0038】
タンジェンシャルリーンδYを付与したプロファイル701、702ではともに、タンジェンシャルリーンが最大となる翼高さ方向位置705、708を、スパン中央よりもややハブ側に位置させている。この理由は、遠心羽根車や斜流羽根車の翼間コア流れの中心がハブ側よりに位置していることが多いことが知られており、この翼間コア流れの中心位置よりも上または下にある、コア流れから外れる部分で翼傾斜を大きくすることが効率向上に結びつくからである。なお、図7の横軸で示したタンジェンシャルリーンδYは絶対量が重要なのではなく、相対的な位置関係を上述の関係にすることが重要である。
【0039】
翼間流れを制御可能な曲線要素羽根車600の他の例を、図8を用いて説明する。図8は、スイープδMを付与した曲線要素羽根車600の例である。横軸は翼断面における前縁部の移動変形量δMを翼弦Cで無次元化した値である。縦軸は無次元翼高さh/Hを示している。本例では、ハブ側の翼断面およびシュラウド側の翼断面から翼スパン中間部の翼断面に向かう方向に、スイープδMを大きくしている。このようにスイープδMを羽根に付与すると、図6(b)に示すように、羽根607の前縁はスパン方向中央部が流れ方向下流側に向かって窪んだ形状となる。このとき、羽根607の前縁の稜線がハブ面やシュラウド面となす角度は、羽根を含む側で測って鋭角となる。
【0040】
図8には、スイープδMを付与した3種のプロファイル801、802、803を示している。これら3種のプロファイル801〜803は、いずれも上記のとおりにスイープδMが付与されている。スイープδMを付与したプロファイル801では、さらに、ハブ側とシュラウド側の翼断面位置を動かさすに羽根607の前縁中央部806を窪ませている。このプロファイル801は、既存の羽根車の前縁部を追加工するだけで実現できるので、近似した曲線要素羽根車を容易に製作できるという利点がある。
【0041】
スイープδMを付与したプロファイル802およびプロファイル803では、ハブ側スイープδMをシュラウド側スイープδMよりも相対的に小さくし、ハブ側の翼断面位置807をシュラウド側の翼断面位置808よりも上流側にせり出すようにしている。これにより、効率の向上を図っている。なお、プロファイル802とプロファイル803とでは、スパン中間部のプロファイルを異ならせている。その理由は、以下のとおりである。
【0042】
プロファイル802の最大スイープ位置809は、概略スパン中央高さに位置している。これに対して、プロファイル803の最大スイープ位置810は、スパン中央高さよりもハブ側よりである。プロファイル803の最大スイープ位置をこのように設定したのは、上述したように羽根車内の流れではコア流れがハブ側よりに位置しているので、このコア流れの偏りに対応するためである。
【0043】
羽根607へのスイープδMの付与分布をプロファイル802とプロファイル803で上記のように異ならせているが、この違いはコア流れが発達する前の羽根607の前縁周りにのみ現れるので、タンジェンシャルリーンδYを付与した場合ほど羽根車600の形状には顕著な差異はなく、性能面でもほぼ同程度である。この図8でも、横軸のスイープδMについては、絶対位置が重要なのではなく相対的な位置関係を上記関係とすることが重要である。
【0044】
図6に示した羽根車600では、タンジェンシャルリーンδYとスイープδMの双方が付与されており、最も高性能が期待される形状である。これに対して、上記タンジェンシャルリーンδYとスイープδMのいずれかを付与しても性能向上した羽根車が得られる。図9に、タンジェンシャルリーンδYのみを付与した羽根車900の例を示す。
【0045】
羽根車900では、ハブ側翼断面901とシュラウド側翼断面902間に、複数の羽根907が周方向にほぼ等間隔で配置されている。羽根前縁903から羽根後縁904までの間に複数本の曲線要素906が選ばれており、この曲線要素906に沿って翼断面905が積み重ねられている。
【0046】
本実施例の羽根車900にはスイープδMが付与されていないので、図9(a)では、曲線要素906の子午面投影図が直線になり、直線要素に沿って翼断面905を積層したように見える。しかしながら、タンジェンシャルリーンδYが適用されているので、図9(b)に示すように、羽根907の表面は周方向に湾曲し、曲線要素910から構成されているのがわかる。このとき、羽根車900の回転方向の裏側に相当する羽根907の負圧面では、ハブ面側の位置がシュラウド面側の位置よりも回転方向に先行(+方向)しており、かつ最も回転方向に先行する位置は、スパン方向中央部よりもややハブ面側である。
【0047】
次に、このように構成した本発明に係る曲線要素羽根車内の流れについて、図10および図11を用いて説明する。図10は、タンジェンシャルリーンδYを付与した効果を説明する図である。タンジェンシャルリーンδYが付与された羽根車1000では、隣り合う2枚の羽根1001間に翼間流路1010が形成される。図10は、羽根車1000の半径r(rは任意)の断面での翼間流路1010を示しており、下流側から見た図である。
【0048】
羽根1001には翼作用があるため、翼素渦による誘起速度1006、1007が発生し、翼回りに循環を形成する。誘起速度1006、1007は、圧力面1001においては紙面奥行き方向を向いており(誘起速度1006)、負圧面1002においては紙面手前方向を向いている(誘起速度1007)。
【0049】
流れが剥離しやすい負圧面1005が、ハブ板1002の表面と交差するコーナー部1008やシュラウド板1003の表面と交差するコーナー部1009において、誘起速度線の密度が低下して、誘起速度1007は小さくなる。すなわち、コーナー部1009の流れは減速し、圧力が高くなる。その結果、圧力面から負圧面に向かう2次流れ1011が抑制されて低エネルギー流体がコーナー部1009に集積するのが低減され、2次流れに起因する流動損失を低減することができる。
【0050】
図11は、図6(a)のA部の詳細を示す図であり、スイープδMの効果を説明する図である。なお、図6(a)のB部でも同様であるので、ここではA部について説明する。羽根車1100の前縁1101、1104が、シュラウド1110と交差する端部近傍での流入流れの偏向状況を模式的に示している。図11(a)は圧力面側の流れを説明する図であり、図11(b)は負圧面側の流れを説明する図である。なお、羽根車1100の前縁が1101、1104、ハブ面と交差する端部近傍でも、同様の流れが生じている。
【0051】
羽根1120の前縁1101、1104は、シュラウド側端面1121近傍で上流側にせり出すので、羽根1120の表面における等圧力線1102、1105は、下流側に凸に湾曲する。その結果、羽根1120の表面近傍に形成される境界層流れ1103、1106は、下流側に行くにつれシュラウド1110の表面から離れるように曲げられる。
【0052】
図11(b)には負圧面での流れを示しているので、前縁1104へ突入直後は負圧となってコーナー部であるシュラウド側端面1112に引き寄せられる。その後圧力面と同様に、コーナー部1112から離れる方向に曲げられる。このように、端面1112近傍に境界層流れが集積しにくくなる。図8に示したスイープδMのプロファイルを持つ羽根車において、前縁が上流側に凸となるスイープδMのプロファイルを与えると、境界層流れは図11とは逆方向に転向し、剥離を助長して損失を増大させる。
【0053】
タンジェンシャルリーンδYは、翼断面を周方向にずらして再積層する概念であるので、羽根の表面形状が前縁から後縁に至るまで変化するのに対して、スイープδMでは羽根が相似変形するので、前縁から後援までの中間部では表面形状がほとんど変化せず、前縁付近に外見上の変化が生じる。したがって、遠心羽根車や斜流羽根車の2次流れ制御においては、タンジェンシャルリーンδYの方がスイープδMよりも重要であり、この優先順位で適用する。したがって、スイープδMは2次的な作用であり、特に羽根前縁近傍の流れが重要になるような非設計点での性能の改善に有効である。すなわち、入射角が大きくなる非設計点では、前縁失速を起こしやすいが、スイープを適用すれば、失速を抑制しやすくなる。
【0054】
上記実施例に示したタンジェンシャルリーンδYとスイープδMを羽根車の羽根に付与したときに、圧縮機の性能曲線が変化する様子を図12に示す。この図12は流量に対する圧縮機の断熱効率を示す図である。横軸および縦軸は、比較基準となる直線要素羽根車の性能指標で無次元化した値である。曲線1201は、従来技術で基準となる直線要素羽根車の性能である。曲線1202は、図9に示した実施例についての性能曲線である。適切なタンジェンシャルリーンδYを羽根車の羽根に付与すると、設計点1204における断熱効率を改善できることが分かる。
【0055】
しかしながら、図9に示した実施例の羽根車では、効率改善効果は小流量域〜設計点流量域に限定され、大流量域では羽根車の性能の改善効果がほとんど見られない。一方、効率曲線1203は、図6に示した羽根車600についてのもので、タンジェンシャルリーンδYとスイープδMの両方を付与したものである。このように、タンジェンシャルリーンδYとスイープδMを適切に付与すれば、幅広い流量範囲において効率を改善することができる。
【0056】
以上述べたように、曲線要素羽根車においてタンジェンシャルリーンδYとスイープδMとを付与することにより、2次流れを抑制し段効率が改善された圧縮機を実現することができる。なお上記実施例では、タンジェンシャルリーンδYとスイープδMを羽根車に付与する場合について説明したが、本発明は上記実施例に限るものではない。すなわち、本発明の主旨は、翼断面を積み上げて形成した曲線要素羽根車の形状が、上記いずれかの実施例と同様な形状になればよく、その積み上げ方は必ずしもタンジェンシャルリーンδYやスイープδMによる必要はなく、翼弦方向への平行移動や径方向への平行移動、翼弦に垂直な方向への平行移動などの方法を用いることができる。
【0057】
さらに、上記各実施例で示した形状に示される特徴は、翼全体やスパン方向全体にあるのが最も好ましいが、ハブ側だけあるいはシュラウド側だけのように局所的な部位だけがそのような形状的特徴を有していても、効率改善の効果が得られる。
【符号の説明】
【0058】
101…翼断面、102、103…翼断面、201…翼断面、202、202a…前縁、203…後縁、300…多段遠心圧縮機、301…初段、302…第2段、303…回転軸、304…ジャーナルベアリング、305…スラストベアリング、306…圧縮機ケーシング、307…吸込ノズル、308…初段羽根車、308a…ハブ板、308b…シュラウド板、308c…羽根、309…初段ディフューザ、310…初段リターンガイドベーン、311…第2段羽根車、311a…ハブ板、311b…シュラウド板、311c…羽根、312…第2段ディフューザ、313…回収手段、315…マウスラビリンスシール、316…ステージラビリンスシール、317…バランスラビリンスシール、400…羽根車、401…ハブ側翼断面、402…シュラウド側翼断面、403…前縁、404…後縁、405…翼断面、406…直線要素、407…羽根、408…直線要素、500…羽根車、501…ハブ側翼断面、502…シュラウド側翼断面、503…前縁、504…後縁、505…翼断面、506…直線要素、507…羽根、508…直線要素、5211、5212…直線線素、600…羽根車、601…ハブ側翼断面、602…シュラウド側翼断面、603…前縁、604…後縁、605…翼断面、606…曲線要素、607…羽根、608…曲線要素、609…ハブ板、610…流路、701、702…タンジェンシャルリーン・プロファイル、703〜708…各点のプロファイル、801〜803…スイープ・プロファイル、804〜810…各点のプロファイル、900…羽根車、901…ハブ側翼断面、902…シュラウド側翼断面、903…前縁、904…後縁、905…翼断面、906…直線要素、907…羽根、908…曲線要素、1001…羽根、1002…ハブ板、1003…シュラウド板、1004…圧力面、1005…負圧面、1006、1007…誘起速度、1008、1009…コーナー部、1010…翼間流路、1011…2次流れ、1101…前縁、1102…等圧力線、1103…流線、1104…前縁、1105…等圧力線、1106…流線、1201〜1203…性能曲線。
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心羽根車または斜流羽根車等の羽根車及びそれを有するターボ機械に係り、特に、遠心羽根車または斜流羽根車を有する圧縮機やブロア、ファン、ポンプ等の、作動流体にエネルギーを付与するターボ機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械の一種である多段圧縮機は、同一軸に取り付けられた多数の遠心羽根車または斜流羽根車と、各羽根車の下流側に併設されたディフューザ、リターンガイドベーンから構成される段落を積み重ねた形式となっている。この多段圧縮機に用いる羽根車は、多くの場合、翼を切削加工で製作している。羽根車を構成する翼の翼面形状を、直線要素の集合体として定義することが可能であれば、ミル等の棒状の切削工具を用いることが可能になる。その場合、加工具の側面を直線要素になる部分に回転させながら当接させ、羽根車の入口側から出口側になる方向へ、またはその逆方向にスライドさせながら切削する。これにより、効率的に加工できる。このように直線要素羽根車は製作性・加工性に富むので、遠心圧縮機では直線要素羽根車が多用される。
【0003】
直線要素羽根車を採用することは製作面からは有効な方法であるが、近年の羽根車性能のさらなる改善の要求のためには、羽根車の翼を直線要素の集合とする制約から解放し、自由曲面からなる翼面とし、翼間流れを緻密に制御する必要がある。以下、本発明においては、翼面が自由曲面からなる羽根車を曲線要素羽根車と呼ぶ。
【0004】
部分的に曲線要素を有する羽根車の例が、特許文献1や特許文献2に開示されている。特許文献1の羽根車は、羽根車のシュラウド側にシュラウド板(側板)を有さないオーブン形羽根車(以下、ハーフシュラウド羽根車とも称す)であり、特許文献2に記載の羽根車はシュラウド側にシュラウド板(側板)を有さない点は特許文献1と同じであるが、2枚の翼間にこれら翼よりも入口側寸法が短い翼を有する中間羽根付きハーフシュラウド羽根車である。なお、シュラウド側にシュラウド板(側板)を有する羽根車を、クローズド形羽根車(以下、フルシュラウド羽根車とも称す)と称す。
【0005】
特許文献2に記載の羽根車は曲線要素羽根車であり、翼型を形成するときには、翼の前縁近傍で翼断面をスパン方向に湾曲させた翼を積み上げて、曲線要素羽根車に用いる翼を形成している。これにより、低エネルギー流体が翼間流路の局所に蓄積するのを抑制し、圧縮機効率を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−90797号公報
【特許文献2】特許第4115180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1及び特許文献2では、ハーフシュラウド羽根車において、翼前縁周りを従来のものから変更することにより、圧縮機効率の改善を図っている。遠心羽根車や斜流羽根車で用いられるハーフシュラウド羽根車では翼先端漏れ流れが生じ、フルシュラウド羽根車では翼先端漏れ流れが生じない。したがって、ハーフシュラウド羽根車で最良であった翼形状であっても、翼間のフローパターンの違いにより、フルシュラウド羽根車で性能を改善しうる最適な曲線要素羽根車となる保証はない。すなわち、最適な曲線要素羽根車の翼形状は異なりうる。
【0008】
このように、フルシュラウド羽根車に適した曲線要素化の方法は、必ずしも明確ではない。しかしながら、上記のいずれの形態の羽根車であっても、無数にある曲線要素羽根の形成法に対して、真に性能向上につながる曲線要素化パターンはごく限定されたものであることは想像に難くなく、性能改善に結びつく曲線要素化のパターンを見出すことが必要となっている。
【0009】
本発明は上記従来技術の状況に鑑みなされたものであり、その目的はターボ機械が有する遠心羽根車または斜流羽根車において、ターボ機械の性能を向上させることにある。本発明の他の目的は、曲線要素羽根車の翼間の2次流れを効果的に抑制することにある。本発明のさらに他の目的は、曲線要素羽根車において、性能向上に結びつく最適な曲線要素化の方法、すなわち翼断面のスパン方向への積み重ねパターンを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、曲線要素羽根車を取り上げているので、初めに曲線要素羽根車について、必要な用語の定義等を以下に説明する。
[曲線要素羽根車]
羽根車のシュラウド面およびハブ面間を曲線で結び、この曲線を入口側から出口側まで、複数本配置して羽根を作成した羽根車を曲線要素羽根車と定義する。直線要素羽根車と対比する概念である。
【0011】
曲線要素羽根車の形状は、基準となる直線要素羽根車の翼形状を決定し、この直線要素羽根車について様々なスパン位置で翼断面を切り出す。その後、切り出した翼断面を直線移動や回転移動しまたは変形して、再度積み重ねる。これにより、自由曲面を有する曲線要素羽根車が得られる。この具体的方法を、図1および図2を参照しながら、以下に説明する。
【0012】
図1は、切り出した1個の翼断面を移動または変形させる方法を説明する図である。図1(a)は、円筒座標系で示した翼断面図である。スパン位置(図1(a)では紙面に直角な方向)は、任意位置である。図1(b)は、図1(a)で示した同じ翼を展開して、直交座標系となるようにしたもので、図の横軸は後述する子午面流線方向mであり、図の縦軸は周方向(θ方向)である。
【0013】
図2は、図1に示したような切り出した翼断面を積み重ねて、曲線要素羽根を形成する様子を示した斜視図である。この図2では、羽根車から羽根一枚分を取り出して示している。子午面(R−Z面)内において、着目する線素に沿ってハブ110から各翼断面までのスパン方向高さをh、ハブ110からシュラウド120までの線素に沿ったスパン方向の全高さをHとして、無次元翼高さh/Hを定義する。
[タンジェンシャルリーン]
羽根車の翼断面Vの形状を合同に保ったまま、周方向(θ方向)に移動させることであり、羽根車の回転方向に回転移動する場合を、正のタンジェンシャルリーンを付与すると定義する。
図1中では翼断面101から翼断面102への移動が、タンジェンシャルリーンである。このときの移動量は、円筒座標系(図1(a))で表せばδθ(rad)であり、直交座標系(図1(b))で表せば、縦軸方向の移動量δYである。
[翼弦]
翼断面Vにおいて、前縁202と後縁203を結ぶ線を翼弦Cと定義し、前縁202から後縁203に向かう方向を正とする。
[スイープ]
翼断面Vにおいて、後縁203の位置を固定し、翼弦Cの方向に翼断面Vのそり線を略相似に保ったまま変形させることである。正の翼弦方向に変形させることを正のスイープとする 。
【0014】
翼断面Vの形状、すなわち翼表面の輪郭形状そのものを相似変形させると翼厚thも変化するので、そり線Cのみを略相似に変形させ、翼厚thは任意に付与できる。なお、変形後の前縁202aは、変形前の翼弦Cの線上にある。図1では翼断面101から翼断面103への相似変形として示している。ここで、後縁203を固定したのは、羽根車外径R2を一定に保って理論ヘッドを大きく変化させないためであり、理論ヘッドを変化させてもよい場合には、必ずしも後縁203を一定位置とする必要はない。
【0015】
このような定義の下、本発明では上記目的を達成するために、ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、前記複数の羽根は、前記ハブ板と前記羽根とが直交し直線要素で構成された羽根を有する基準羽根車における各羽根の翼スパン高さ方向の複数の翼断面を曲線要素羽根となるように翼スパン高さ方向に積層して形成された形状を有しており、前記翼断面を羽根車の回転方向に回転移動させることを正のタンジェンシャルリーンを付与するとしたときに、前記翼断面の翼スパン高さ方向の積層においては、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ前記翼断面に付与するタンジェンシャルリーンの量を増大させている。
【0016】
そしてこの羽根車において、前記翼断面を翼弦下流方向に略相似的に変形移動させることを正のスイープを付与するとしたときに、前記翼断面の翼スパン高さ方向の積層においては、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ前記翼断面に付与するスイープの量を増大させるのがよく、前記タンジェンシャルリーンの付与量は、ハブ側の付与量がシュラウド側の付与量よりも大きく、かつ付与量の最大値はスパン中央よりもハブ側に近い翼スパン高さにあるのがよい。
【0017】
また、本発明では、ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、前記羽根の負圧面が前記ハブ板面と、または前記羽根の負圧面が反ハブ板側端部でこの羽根と対向する面との少なくともいずれかとなす角度が鈍角としている。
【0018】
そしてこの羽根車において、子午面内における前記ハブ板面または前記反ハブ板側端部でこの羽根と対向する面の少なくとも一方と前記羽根の前縁の稜線がなす角度を、前記羽根を含む側で鋭角とするのがよい。
【0019】
さらにまた、本発明では、ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、前記複数の羽根の形状は、翼スパン高さ方向に翼断面を積層して形成したものであってその積層の際に翼スパン高さ方向に曲線に沿って積層した曲線要素羽根であり、この羽根車を同一半径で展開した形状における前記羽根の負圧面は、翼スパン中央部よりもハブ板側で羽根車の回転方向に最も先行している。
【0020】
そして、上記いずれにおいても、前記羽根車が遠心羽根車または斜流羽根車であることが望ましい。
【0021】
さらに本発明は、ターボ機械が、上記のいずれかに記載した羽根車を少なくとも一つ以上備えるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、遠心羽根車または斜流羽根車において、羽根車出口の翼断面形状が回転方向に凸でかつシュラウド側をハブ側よりも後ろ側にしたので、翼間流路のコーナー部への低エネルギー流体の蓄積が促進される2次流れを抑制でき、ターボ機械の性能が向上する。また、上記羽根車を曲線要素羽根車とすれば、さらに2次流れを抑制できる形状とすることができ、ターボ機械の性能が向上する。さらにまた、スイープとタンジェンシャルリーンとの組み合わせにより、性能向上に結びつく最適な曲線要素化の方法、すなわち翼断面のスパン方向への積み重ねパターンを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る羽根車を説明するための子午面断面図およびその展開図である。
【図2】本発明に係る羽根車を説明するための斜視図である。
【図3】本発明に係る多段遠心圧縮機の一実施例の縦断面図である。
【図4】従来の遠心羽根車の一例の子午面断面図および斜視図である。
【図5】従来の遠心羽根車の他の例の子午面断面図および斜視図である。
【図6】本発明に係る遠心羽根車の一実施例の子午面断面図および斜視図である。
【図7】タンジェンシャルリーンの付与例を示す図である。
【図8】スイープの付与例を示す図である。
【図9】本発明に係る遠心羽根車の他の実施例の子午面断面図および斜視図である。
【図10】翼間流れを説明する図であり、羽根車の半径方向断面の周方向展開図である。
【図11】羽根前縁付け根部の流れを説明する図である。
【図12】本発明に係る羽根車の一実施例の効率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のいくつかの実施例について図面を用いて説明する。はじめに、ターボ機械の一例として、2段の遠心圧縮機について説明する。図3は、2段遠心圧縮機の縦断面図である。ここでは、多段遠心圧縮機300として2段遠心圧縮機を取り上げたが、本発明は遠心型羽根車または斜流型羽根車を用いた単段または多段のターボ機械に適用でき、特に2段遠心圧縮機に限るものではない。
【0025】
2段遠心圧縮機300は、初段301と第2段302とを備える。初段羽根車308および第2段羽根車311は、同一の回転軸303に取り付けられていて回転体を構成する。回転軸303や第1段、第2段羽根車308、311は圧縮機ケーシング306に収容されており、圧縮機ケーシング306に保持されたジャーナルベアリング304やスラストベアリング305により、回転自在に支持されている。
【0026】
初段羽根車308の下流側には、羽根車308で圧縮された作動ガスの圧力を回復し半径方向外向きの流れを形成するディフューザ309と、ディフューザ309で半径方向外向きにされた作動ガスの流れを半径方向内向きにして第2段羽根車311に導くリターンガイドベーン310とが配置されている。2段羽根車311の下流には同様にディフューザ312と、2段ディフューザ312で圧力上昇した作動ガスをまとめて機外へ送りだすためのコレクタまたはスクロールと呼ばれる回収手段313が配置されている。
【0027】
第1段羽根車308は、ハブ板308aと、シュラウド板308bと、ハブ板308aとシュラウド板308bとの間に周方向にほぼ等間隔に複数枚配置された羽根308cとを有している。同様に、第2段羽根車311は、ハブ板311aと、シュラウド板311bと、ハブ板311aとシュラウド板311bとの間に周方向にほぼ等間隔に複数枚配置された羽根311cとを有している。各羽根車308、311の入口側であって、シュラウド板308b、311b側の外周部にはマウスラビリンスシール315が、ハブ板308a、311aの背面側にはそれぞれステージラビリンスシール316とバランスラビリンスシール317が配置されている。
【0028】
吸込ノズル307から流入した作動ガスは、初段の羽根車308、羽根付きディフューザ309、リターンガイドベーン310、第2段の羽根車311、羽根付きディフューザ312の順に通過して、コレクタやスクロールといった回収手段313に導かれる。図3にはディフューザとして羽根付きディフューザを示してあるが、ベーンレスディフューザとしてもよい。
【0029】
図4に、以下の説明の便のために、従来技術である直線要素羽根車400を示す。図4(a)は子午面における羽根407のそり面を表している。そり面を構成するハブ側境界線401とシュラウド側境界線402と、その間に位置する5本の翼断面のそり線405が示されている。したがって、図4(a)では、合計7個の翼断面が用いられており、羽根車400の羽根407は、この7個の翼断面で特定される。403は羽根420の前縁であり、404は羽根407の後縁である。羽根車400で翼断面を積層するのに、複数の直線線素406を用いる。
【0030】
図4(b)に、羽根車400を斜視図で示す。羽根407の表面は、ハブ側境界401からシュラウド側境界402に向かう直線要素408の集合体として構成される。なお、直線要素を、図4(a)では直線要素406で、図4(b)では直線要素408で示している。図4(b)に示すような直線要素羽根車400では、翼間に形成される2次流れを緻密に制御することが困難である。
【0031】
図5に、直線要素羽根車500の他の従来例を示す。本羽根車500が図4に示す羽根車400と異なるのは、羽根507の前縁を1本の直線線素で構成するのではなく、隣り合う複数の直線線素521i(i=1、2、…)で形成される面を、子午面形状において入口側に凸になるようにカッティングしたことにある。すなわち、各翼断面における前縁をハブ側からシュラウド側に結んだ稜線503を、羽根高さ方向に湾曲させている。本従来例でも、図4に示した従来例の場合と同様に、翼断面505を直線要素506、508に沿って積み上げて羽根507を形成している。なお直線要素を、図5(a)では直線要素506で、図5(b)では直線要素508で示している。羽根車500では、翼前縁503付近の流れを若干制御できるが、翼間流路の特性は本質的に図4に示した羽根車400と変わらないので、2次流れを十分には制御できない。
【0032】
以下に、上記従来例と対比しながら、本発明のいくつかの実施例を、図6〜図12を用いて説明する。図6は、本発明に係る曲線要素羽根車の一実施例の図であり、図6(a)は曲線要素羽根車600の子午面(R−Z面)形状であり、図6(b)はその斜視図である。
【0033】
図6(a)において、曲線要素羽根車600では、ハブ側境界601とシュラウド側境界602とで流路610が区画される。この流路内610に、複数の曲線要素606を有する曲線要素羽根607が周方向に間隔をおいて配置される。この図6(a)では、羽根607は翼断面605で表されている。曲線要素606は、翼断面を積層するガイドとなる。なお曲線要素605は、後述するように(図9参照)、子午面投影図では直線要素のように見える場合もあるが、実際の形状では曲線となっている。
【0034】
図6(b)に示すように、曲線要素羽根車600では、ハブ板609の一方の表面上に複数の羽根607が周方向にほぼ等間隔で配置されている。そして、羽根607はハブ側境界601からシュラウド側境界602に向かって、曲線要素608に沿って翼断面が積み上げられ、羽根表面は自由曲面となっている。本発明では曲線要素を採用しているので、翼断面の積み上げの自由度が直線要素羽根車に比べて大きい。そのため、羽根表面を自在に傾斜させることができ、流体に与える力の方向、すなわち、翼間2次流れの制御が可能になる。
【0035】
この翼間流れを制御可能な曲線要素羽根車600の例を、図7及び図8を用いて説明する。図7は、タンジェンシャルリーンδYを付与した曲線要素羽根車600の例である。横軸は翼断面の回転移動量δYを翼弦Cで無次元化した値である。縦軸は無次元翼高さh/Hを示している。
【0036】
タンジェンシャルリーンδYの付与方法としては、対比基準であるハブ面に垂直な直線要素を有する直線要素羽根車に対して、ハブ側の翼断面およびシュラウド側の翼断面からスパン中間部の翼断面に向かう方向に、タンジェンシャルリーンδYを大きくしている。このようにタンジェンシャルリーンδYを羽根に付与すると、図6(b)に示すように、回転方向背面側(−方向)に位置する羽根607の負圧面は凹面となる。また、スパン方向中央側の翼断面ほど、ハブ側やシュラウド側の翼断面よりも回転方向に先行する(+方向)形状となる。この時、羽根607の負圧面がハブ面やシュラウド面となす角度は鈍角となる。
【0037】
図7に示すタンジェンシャルリーンδYの付与プロファイル701、702は、上記特徴を満足するように選択したもので、いずれも性能改善につながっている。ここで、プロファイル701は、タンジェンシャルリーンδYがハブ面とシュラウド面においてともに0であるから、周方向の翼断面位置が同じであり強度面に優れている。プロファイル702は、ハブ側のタンジェンシャルリーンδYよりもシュラウド側のタンジェンシャルリーンδYを大きくして、ハブ側の翼断面位置706をシュラウド側の翼断面位置707よりも回転方向に先行させ、プロファイル701よりも性能の向上を図ったものである。
【0038】
タンジェンシャルリーンδYを付与したプロファイル701、702ではともに、タンジェンシャルリーンが最大となる翼高さ方向位置705、708を、スパン中央よりもややハブ側に位置させている。この理由は、遠心羽根車や斜流羽根車の翼間コア流れの中心がハブ側よりに位置していることが多いことが知られており、この翼間コア流れの中心位置よりも上または下にある、コア流れから外れる部分で翼傾斜を大きくすることが効率向上に結びつくからである。なお、図7の横軸で示したタンジェンシャルリーンδYは絶対量が重要なのではなく、相対的な位置関係を上述の関係にすることが重要である。
【0039】
翼間流れを制御可能な曲線要素羽根車600の他の例を、図8を用いて説明する。図8は、スイープδMを付与した曲線要素羽根車600の例である。横軸は翼断面における前縁部の移動変形量δMを翼弦Cで無次元化した値である。縦軸は無次元翼高さh/Hを示している。本例では、ハブ側の翼断面およびシュラウド側の翼断面から翼スパン中間部の翼断面に向かう方向に、スイープδMを大きくしている。このようにスイープδMを羽根に付与すると、図6(b)に示すように、羽根607の前縁はスパン方向中央部が流れ方向下流側に向かって窪んだ形状となる。このとき、羽根607の前縁の稜線がハブ面やシュラウド面となす角度は、羽根を含む側で測って鋭角となる。
【0040】
図8には、スイープδMを付与した3種のプロファイル801、802、803を示している。これら3種のプロファイル801〜803は、いずれも上記のとおりにスイープδMが付与されている。スイープδMを付与したプロファイル801では、さらに、ハブ側とシュラウド側の翼断面位置を動かさすに羽根607の前縁中央部806を窪ませている。このプロファイル801は、既存の羽根車の前縁部を追加工するだけで実現できるので、近似した曲線要素羽根車を容易に製作できるという利点がある。
【0041】
スイープδMを付与したプロファイル802およびプロファイル803では、ハブ側スイープδMをシュラウド側スイープδMよりも相対的に小さくし、ハブ側の翼断面位置807をシュラウド側の翼断面位置808よりも上流側にせり出すようにしている。これにより、効率の向上を図っている。なお、プロファイル802とプロファイル803とでは、スパン中間部のプロファイルを異ならせている。その理由は、以下のとおりである。
【0042】
プロファイル802の最大スイープ位置809は、概略スパン中央高さに位置している。これに対して、プロファイル803の最大スイープ位置810は、スパン中央高さよりもハブ側よりである。プロファイル803の最大スイープ位置をこのように設定したのは、上述したように羽根車内の流れではコア流れがハブ側よりに位置しているので、このコア流れの偏りに対応するためである。
【0043】
羽根607へのスイープδMの付与分布をプロファイル802とプロファイル803で上記のように異ならせているが、この違いはコア流れが発達する前の羽根607の前縁周りにのみ現れるので、タンジェンシャルリーンδYを付与した場合ほど羽根車600の形状には顕著な差異はなく、性能面でもほぼ同程度である。この図8でも、横軸のスイープδMについては、絶対位置が重要なのではなく相対的な位置関係を上記関係とすることが重要である。
【0044】
図6に示した羽根車600では、タンジェンシャルリーンδYとスイープδMの双方が付与されており、最も高性能が期待される形状である。これに対して、上記タンジェンシャルリーンδYとスイープδMのいずれかを付与しても性能向上した羽根車が得られる。図9に、タンジェンシャルリーンδYのみを付与した羽根車900の例を示す。
【0045】
羽根車900では、ハブ側翼断面901とシュラウド側翼断面902間に、複数の羽根907が周方向にほぼ等間隔で配置されている。羽根前縁903から羽根後縁904までの間に複数本の曲線要素906が選ばれており、この曲線要素906に沿って翼断面905が積み重ねられている。
【0046】
本実施例の羽根車900にはスイープδMが付与されていないので、図9(a)では、曲線要素906の子午面投影図が直線になり、直線要素に沿って翼断面905を積層したように見える。しかしながら、タンジェンシャルリーンδYが適用されているので、図9(b)に示すように、羽根907の表面は周方向に湾曲し、曲線要素910から構成されているのがわかる。このとき、羽根車900の回転方向の裏側に相当する羽根907の負圧面では、ハブ面側の位置がシュラウド面側の位置よりも回転方向に先行(+方向)しており、かつ最も回転方向に先行する位置は、スパン方向中央部よりもややハブ面側である。
【0047】
次に、このように構成した本発明に係る曲線要素羽根車内の流れについて、図10および図11を用いて説明する。図10は、タンジェンシャルリーンδYを付与した効果を説明する図である。タンジェンシャルリーンδYが付与された羽根車1000では、隣り合う2枚の羽根1001間に翼間流路1010が形成される。図10は、羽根車1000の半径r(rは任意)の断面での翼間流路1010を示しており、下流側から見た図である。
【0048】
羽根1001には翼作用があるため、翼素渦による誘起速度1006、1007が発生し、翼回りに循環を形成する。誘起速度1006、1007は、圧力面1001においては紙面奥行き方向を向いており(誘起速度1006)、負圧面1002においては紙面手前方向を向いている(誘起速度1007)。
【0049】
流れが剥離しやすい負圧面1005が、ハブ板1002の表面と交差するコーナー部1008やシュラウド板1003の表面と交差するコーナー部1009において、誘起速度線の密度が低下して、誘起速度1007は小さくなる。すなわち、コーナー部1009の流れは減速し、圧力が高くなる。その結果、圧力面から負圧面に向かう2次流れ1011が抑制されて低エネルギー流体がコーナー部1009に集積するのが低減され、2次流れに起因する流動損失を低減することができる。
【0050】
図11は、図6(a)のA部の詳細を示す図であり、スイープδMの効果を説明する図である。なお、図6(a)のB部でも同様であるので、ここではA部について説明する。羽根車1100の前縁1101、1104が、シュラウド1110と交差する端部近傍での流入流れの偏向状況を模式的に示している。図11(a)は圧力面側の流れを説明する図であり、図11(b)は負圧面側の流れを説明する図である。なお、羽根車1100の前縁が1101、1104、ハブ面と交差する端部近傍でも、同様の流れが生じている。
【0051】
羽根1120の前縁1101、1104は、シュラウド側端面1121近傍で上流側にせり出すので、羽根1120の表面における等圧力線1102、1105は、下流側に凸に湾曲する。その結果、羽根1120の表面近傍に形成される境界層流れ1103、1106は、下流側に行くにつれシュラウド1110の表面から離れるように曲げられる。
【0052】
図11(b)には負圧面での流れを示しているので、前縁1104へ突入直後は負圧となってコーナー部であるシュラウド側端面1112に引き寄せられる。その後圧力面と同様に、コーナー部1112から離れる方向に曲げられる。このように、端面1112近傍に境界層流れが集積しにくくなる。図8に示したスイープδMのプロファイルを持つ羽根車において、前縁が上流側に凸となるスイープδMのプロファイルを与えると、境界層流れは図11とは逆方向に転向し、剥離を助長して損失を増大させる。
【0053】
タンジェンシャルリーンδYは、翼断面を周方向にずらして再積層する概念であるので、羽根の表面形状が前縁から後縁に至るまで変化するのに対して、スイープδMでは羽根が相似変形するので、前縁から後援までの中間部では表面形状がほとんど変化せず、前縁付近に外見上の変化が生じる。したがって、遠心羽根車や斜流羽根車の2次流れ制御においては、タンジェンシャルリーンδYの方がスイープδMよりも重要であり、この優先順位で適用する。したがって、スイープδMは2次的な作用であり、特に羽根前縁近傍の流れが重要になるような非設計点での性能の改善に有効である。すなわち、入射角が大きくなる非設計点では、前縁失速を起こしやすいが、スイープを適用すれば、失速を抑制しやすくなる。
【0054】
上記実施例に示したタンジェンシャルリーンδYとスイープδMを羽根車の羽根に付与したときに、圧縮機の性能曲線が変化する様子を図12に示す。この図12は流量に対する圧縮機の断熱効率を示す図である。横軸および縦軸は、比較基準となる直線要素羽根車の性能指標で無次元化した値である。曲線1201は、従来技術で基準となる直線要素羽根車の性能である。曲線1202は、図9に示した実施例についての性能曲線である。適切なタンジェンシャルリーンδYを羽根車の羽根に付与すると、設計点1204における断熱効率を改善できることが分かる。
【0055】
しかしながら、図9に示した実施例の羽根車では、効率改善効果は小流量域〜設計点流量域に限定され、大流量域では羽根車の性能の改善効果がほとんど見られない。一方、効率曲線1203は、図6に示した羽根車600についてのもので、タンジェンシャルリーンδYとスイープδMの両方を付与したものである。このように、タンジェンシャルリーンδYとスイープδMを適切に付与すれば、幅広い流量範囲において効率を改善することができる。
【0056】
以上述べたように、曲線要素羽根車においてタンジェンシャルリーンδYとスイープδMとを付与することにより、2次流れを抑制し段効率が改善された圧縮機を実現することができる。なお上記実施例では、タンジェンシャルリーンδYとスイープδMを羽根車に付与する場合について説明したが、本発明は上記実施例に限るものではない。すなわち、本発明の主旨は、翼断面を積み上げて形成した曲線要素羽根車の形状が、上記いずれかの実施例と同様な形状になればよく、その積み上げ方は必ずしもタンジェンシャルリーンδYやスイープδMによる必要はなく、翼弦方向への平行移動や径方向への平行移動、翼弦に垂直な方向への平行移動などの方法を用いることができる。
【0057】
さらに、上記各実施例で示した形状に示される特徴は、翼全体やスパン方向全体にあるのが最も好ましいが、ハブ側だけあるいはシュラウド側だけのように局所的な部位だけがそのような形状的特徴を有していても、効率改善の効果が得られる。
【符号の説明】
【0058】
101…翼断面、102、103…翼断面、201…翼断面、202、202a…前縁、203…後縁、300…多段遠心圧縮機、301…初段、302…第2段、303…回転軸、304…ジャーナルベアリング、305…スラストベアリング、306…圧縮機ケーシング、307…吸込ノズル、308…初段羽根車、308a…ハブ板、308b…シュラウド板、308c…羽根、309…初段ディフューザ、310…初段リターンガイドベーン、311…第2段羽根車、311a…ハブ板、311b…シュラウド板、311c…羽根、312…第2段ディフューザ、313…回収手段、315…マウスラビリンスシール、316…ステージラビリンスシール、317…バランスラビリンスシール、400…羽根車、401…ハブ側翼断面、402…シュラウド側翼断面、403…前縁、404…後縁、405…翼断面、406…直線要素、407…羽根、408…直線要素、500…羽根車、501…ハブ側翼断面、502…シュラウド側翼断面、503…前縁、504…後縁、505…翼断面、506…直線要素、507…羽根、508…直線要素、5211、5212…直線線素、600…羽根車、601…ハブ側翼断面、602…シュラウド側翼断面、603…前縁、604…後縁、605…翼断面、606…曲線要素、607…羽根、608…曲線要素、609…ハブ板、610…流路、701、702…タンジェンシャルリーン・プロファイル、703〜708…各点のプロファイル、801〜803…スイープ・プロファイル、804〜810…各点のプロファイル、900…羽根車、901…ハブ側翼断面、902…シュラウド側翼断面、903…前縁、904…後縁、905…翼断面、906…直線要素、907…羽根、908…曲線要素、1001…羽根、1002…ハブ板、1003…シュラウド板、1004…圧力面、1005…負圧面、1006、1007…誘起速度、1008、1009…コーナー部、1010…翼間流路、1011…2次流れ、1101…前縁、1102…等圧力線、1103…流線、1104…前縁、1105…等圧力線、1106…流線、1201〜1203…性能曲線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、
前記複数の羽根は、前記ハブ板と前記羽根とが直交し直線要素で構成された羽根を有する基準羽根車における各羽根の翼スパン高さ方向の複数の翼断面を曲線要素羽根となるように翼スパン高さ方向に積層して形成された形状を有しており、
前記翼断面を羽根車の回転方向に回転移動させることを正のタンジェンシャルリーンを付与するとしたときに、
前記翼断面の翼スパン高さ方向の積層においては、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ前記翼断面に付与するタンジェンシャルリーンの量を増大させたことを特徴とする羽根車。
【請求項2】
前記翼断面を翼弦下流方向に略相似的に変形移動させることを正のスイープを付与するとしたときに、前記翼断面の翼スパン高さ方向の積層において、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ前記翼断面に付与するスイープの量を増大させたことを特徴とする請求項1に記載の羽根車。
【請求項3】
前記タンジェンシャルリーンの付与量は、ハブ側の付与量がシュラウド側の付与量よりも大きく、かつ付与量の最大値はスパン中央よりもハブ側に近い翼スパン高さにあることを特徴とする請求項1または2に記載の羽根車。
【請求項4】
ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、
前記羽根の負圧面が前記ハブ板面と、または前記羽根の負圧面が反ハブ板側端部でこの羽根と対向する面との少なくともいずれかとなす角度が鈍角であることを特徴とする羽根車。
【請求項5】
子午面内における前記ハブ板面または前記反ハブ板側端部でこの羽根と対向する面の少なくとも一方と前記羽根の前縁の稜線がなす角度を、前記羽根を含む側で鋭角としたことを特徴とする請求項4に記載の羽根車。
【請求項6】
ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、
前記複数の羽根の形状は、翼スパン高さ方向に翼断面を積層して形成したものであってその積層の際に翼スパン高さ方向に曲線に沿って積層した曲線要素羽根であり、
この羽根車を同一半径で展開した形状における前記羽根の負圧面は、翼スパン中央部よりもハブ板側で羽根車の回転方向に最も先行していることを特徴とする羽根車。
【請求項7】
前記羽根車が、遠心羽根車または斜流羽根車であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の羽根車。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載した羽根車を少なくとも一つ以上備えることを特徴とするターボ機械。
【請求項1】
ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、
前記複数の羽根は、前記ハブ板と前記羽根とが直交し直線要素で構成された羽根を有する基準羽根車における各羽根の翼スパン高さ方向の複数の翼断面を曲線要素羽根となるように翼スパン高さ方向に積層して形成された形状を有しており、
前記翼断面を羽根車の回転方向に回転移動させることを正のタンジェンシャルリーンを付与するとしたときに、
前記翼断面の翼スパン高さ方向の積層においては、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ前記翼断面に付与するタンジェンシャルリーンの量を増大させたことを特徴とする羽根車。
【請求項2】
前記翼断面を翼弦下流方向に略相似的に変形移動させることを正のスイープを付与するとしたときに、前記翼断面の翼スパン高さ方向の積層において、この羽根のハブ板側端および反ハブ板側端の少なくとも一方の端面からスパン中間部に向かうにつれ前記翼断面に付与するスイープの量を増大させたことを特徴とする請求項1に記載の羽根車。
【請求項3】
前記タンジェンシャルリーンの付与量は、ハブ側の付与量がシュラウド側の付与量よりも大きく、かつ付与量の最大値はスパン中央よりもハブ側に近い翼スパン高さにあることを特徴とする請求項1または2に記載の羽根車。
【請求項4】
ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、
前記羽根の負圧面が前記ハブ板面と、または前記羽根の負圧面が反ハブ板側端部でこの羽根と対向する面との少なくともいずれかとなす角度が鈍角であることを特徴とする羽根車。
【請求項5】
子午面内における前記ハブ板面または前記反ハブ板側端部でこの羽根と対向する面の少なくとも一方と前記羽根の前縁の稜線がなす角度を、前記羽根を含む側で鋭角としたことを特徴とする請求項4に記載の羽根車。
【請求項6】
ハブ板と、このハブ板の一方の表面側に周方向に間隔をおいて配置した複数の羽根とを有する羽根車において、
前記複数の羽根の形状は、翼スパン高さ方向に翼断面を積層して形成したものであってその積層の際に翼スパン高さ方向に曲線に沿って積層した曲線要素羽根であり、
この羽根車を同一半径で展開した形状における前記羽根の負圧面は、翼スパン中央部よりもハブ板側で羽根車の回転方向に最も先行していることを特徴とする羽根車。
【請求項7】
前記羽根車が、遠心羽根車または斜流羽根車であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の羽根車。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載した羽根車を少なくとも一つ以上備えることを特徴とするターボ機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−219779(P2012−219779A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89338(P2011−89338)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]