説明

老人性痴呆症治療剤

下記一般式〔1〕で表されるイミド誘導体を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。


式中、Zは式〔2〕


Dは式、−(CH)p−A−(CH)q−、Gは=N−、または−CH−等、Arは芳香族基、炭素異項環基等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は痴呆治療剤、より詳しくはイミド誘導体を有効成分とする痴呆治療剤に関するものである。
【背景技術】
老人性痴呆症は、アルツハイマー型痴呆症と脳血管性痴呆症とに大別され、両者で約80%を占めるといわれている。人口の急速な高齢化に伴い、患者数は増加傾向で、日本では65歳以上の約7%が痴呆症を有すると推定され、有効な治療薬の開発が急務であると考えられる。アルツハイマー型痴呆症は、老人斑と神経原線維変化を伴い、顕著な神経細胞死による脳萎縮を病理学的特徴とする痴呆症である。家族性アルツハイマー病においては、幾つかの遺伝子変異が同定され、有力な発症機序仮説が立てられているものの、大多数の症例は孤発性であり、依然として原因不明の疾患であるといえる。従って現時点では、神経変性を抑制する根本的治療法は存在しない。アルツハイマー型痴呆症は、記憶、見当識、注意などの認知機能障害を中核症状とし、抑うつ、攻撃行動、妄想などの精神症状・問題行動などの周辺症状を伴う。これら症状の対症療法として、唯一アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のみが臨床で用いられており、中核症状をはじめ周辺症状に対しても有効であることが報告されている。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、認知機能と関連の深いアセチルコリン神経細胞がアルツハイマー病で特に顕著に障害され、神経伝達物質アセチルコリンが減少しているのに対して、アセチルコリン分解酵素を阻害することにより神経伝達物質アセチルコリンを補充する療法である。
一方、脳血管性痴呆症は、脳血管障害が原因として発現する痴呆症のことであり 中核症状に対する治療薬が存在しないのが現状である。しかしながら近年、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の臨床試験が実施され、これら薬剤が脳血管性痴呆症に対しても有効性を示すことが明らかとなった。従って、脳血管性痴呆症においてもアセチルコリンエステラーゼ阻害剤などアルツハイマー病と同様の機序の治療薬が有用である可能性が考えられる。(例えば、臨床精神医学31(10):1189−1193(2002)))
一方、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用のないアルツハイマー型痴呆症と脳血管性痴呆症等の老人性痴呆症の有用な治療剤は知られていない。さらに、日本国特許第2800953号には優れた抗精神性作用および不安解消作用を有するイミド誘導体が報告されているが、それら誘導体が老人性痴呆症に効果があるか否かについて何ら記載されていない。
【発明の開示】
老人性痴呆症の治療剤を提供する。さらに詳しくは、老人性痴呆症の中核および周辺症状に有効な治療剤を提供する。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、老人性痴呆症の代表的な動物モデルである、アセチルコリン受容体遮断薬を作用させることによって作成された認知・記憶障害モデルにおいて、本発明のイミド化合物が治療効果を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)一般式〔1〕

{式中、Zは式〔2〕

(式中、Bはカルボニルまたはスルホニルを表す。R、R、R、Rは各々独立して水素原子あるいは低級アルキルを表す。ただし、RとRあるいはRとRが一緒になって炭化水素環を、またはRとRが一緒になって芳香族炭化水素環を形成してもよい。当該炭化水素環は低級アルキレンまたは酸素原子で架橋されてもよい。当該低級アルキレンおよび炭化水素環は少なくとも1つのアルキルで置換されてもよい。nは0または1を表す。)を表す。Dは式〔3〕

(式中、Aは低級アルキレンまたは酸素原子で架橋されてもよい炭化水素環を表す。当該低級アルキレンおよび炭化水素環は少なくとも1つのアルキルで置換されてもよい。p、qは各々0、1または2を表す。)を表す。GはN、CHあるいはCOHを、−Arは芳香族複素環基、芳香族炭化水素基、ベンゾイル、フェノキシあるいはフェニルチオを表すかまたはGは炭素原子を、−Arはビフェニルメチリデンを表す。当該芳香族複素環基、芳香族炭化水素基、ベンゾイル、フェノキシ、フェニルチオおよびビフェニルメチリデンは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子で置換されてもよい。}で表されるイミド誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
(2)認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である上記1記載の認知機能障害治療・予防剤。
(3)−Arは二環性の芳香族複素環基を表すか、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシあるいはフェニルチオを表し、GはN、CHあるいはCOHを表すかまたは−Arはビフェニルメチリデンを表し、Gは炭素原子を表す(当該二環性の芳香族複素環基、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシ、フェニルチオおよびビフェニルメチリデンは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子で置換されてもよい。)上記式1記載のイミド誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
(4)認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である上記3記載の認知機能障害治療・予防剤。
(5)−Arはベンゼン環と縮環した芳香族複素環基を表すか、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシまたはフェニルチオ(当該ベンゼン環と縮環した芳香族複素環基、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシおよびフェニルチオは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子により置換されてもよい。)を表し、GはN、CHまたはCOHを表す上記式1記載のイミド誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
(6)認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である上記5記載の認知機能障害治療・予防剤。
(7)Zが式〔4〕

(式中、−L−は単結合または二重結合を表す。Eは低級アルキルで置換されてもよい低級アルキレンまたは酸素原子を表す。Rは水素原子または低級アルキルを表す。Bは上記1記載の意味を表す。)、
式〔5〕

(式中、−L−、E、RおよびBは前記の意味を表す。)、式〔6〕

(式中、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15は各々水素原子または低級アルキルを、またはR、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15で隣接するふたつが結合して二重結合を表す。Bは前記の意味を表す。)、式〔7〕

(式中、R16、R17は各々独立して水素原子または低級アルキルを表すかまたはR16、R17は一緒になって飽和炭化水素環を表す。RおよびBは前記の意味を表す。)、または式〔8〕

(Bは前記の意味を表す。)を表す上記式1記載のイミド誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
(8)認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である上記7記載の認知機能障害治療・予防剤。
(9)式〔9〕

で表されるイミド誘導体又はその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
(10)認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である上記9記載の認知機能障害治療・予防剤。
(11)認知機能障害治療・予防剤が、アルツハイマー型痴呆症である上記2、4、6、8、10で表される認知機能障害治療・予防剤。
(12)認知機能障害治療・予防剤が、脳血管性痴呆症である上記2、4、6、8、10で表される認知機能障害治療・予防剤。
【図面の簡単な説明】
図1は、アセチルコリン受容体遮断薬であるスコポラミンを健忘誘発薬として用いたラット受動的回避反応試験(one step−through passive avoidance test)におけるイミド誘導体の効果を示したもので、トレーニング時の移動潜時(step−through latency)を示したものである(*:P<0.05 vs 0.5%MC+スコポラミン投与群(Steel’s test))。
図2は、アセチルコリン受容体遮断薬であるスコポラミンを健忘誘発薬として用いたラット受動的回避反応試験(one step−through passive avoidance test)におけるイミド誘導体の効果を示したもので、テスト時の移動潜時(step−through latency)を示したものである(*:P<0.05 vs 0.5%MC+スコポラミン投与群(Steel’s test)、#:P<0.01 vs 0.5%MC+生理食塩水投与群(Mann−Whitney test))。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の一般式〔1〕で表されるイミド誘導体の基について詳しく説明する。ZおよびAに於ける低級アルキレンとしては、例えば炭素数3個以下の基が挙げられ、具体的にはメチレン、エチレン、トリメチレン等が挙げられる。
ZおよびAに於ける炭化水素環としては、例えば炭素数7個以下のシクロアルカン、シクロアルケンが挙げられる。炭素数7個以下のシクロアルカンとしては例えばシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等が挙げられる。炭素数7個以下のシクロアルケンとしては例えばシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン等が挙げられる。
ZおよびAに於ける低級アルキレンあるいは酸素原子で架橋された炭化水素環としては例えば炭素数10個以下の環が挙げられ、具体的にはビシクロ〔1.1.1〕ペンタン、ビシクロ〔2.1.1〕ヘキサン、ビシクロ〔2.1.1〕ヘキサ−2−エン、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタ−2−エン、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン、ビシクロ〔2.2.2〕オクタ−2−エン、ビシクロ〔4.1.1〕オクタン、ビシクロ〔4.1.1〕オクタ−2−エン、ビシクロ〔4.1.1〕オクタ−3−エン、ビシクロ〔3.2.1〕オクタン、ビシクロ〔3.2.1〕オクタ−2−エン、ビシクロ〔3.2.1〕オクタ−3−エン、ビシクロ〔3.2.1〕オクタ−6−エン、ビシクロ〔3.2.2〕ノナン、ビシクロ〔3.2.2〕ノナ−2−エン、ビシクロ〔3.2.2〕ノナ−3−エン、ビシクロ〔3.2.2〕ノナ−6−エン、2−オキサビシクロ〔1.1.1〕ブタン、2−オキサビシクロ〔2.1.1〕ペンタン、2−オキサビシクロ〔2.1.1〕ペンタ−4−エン、7−オキサビシクロ〔2.2.1〕ヘキサン、7−オキサビシクロ〔2.2.1〕ヘキサ−2−エン、7−オキサビシクロ〔4.1.1〕ヘプタン、7−オキサビシクロ〔4.1.1〕ヘプタ−2−エン、7−オキサビシクロ〔4.1.1〕ヘプタ−3−エン、8−オキサビシクロ〔3.2.1〕ヘプタン、8−オキサビシクロ〔3.2.1〕ヘプタ−2−エン、8−オキサビシクロ〔3.2.1〕ヘプタ−3−エン、8−オキサビシクロ〔3.2.1〕ヘプタ−6−エン等が挙げられる。
Zに於ける芳香族炭化水素環としては例えば炭素数10個以下の基が挙げられ、具体的にはフェニル環、ナフチル環等が挙げられる。
Aに於ける炭化水素環の結合位置としては例えば−1,1−、−1,2−、−1,3−、−1,4−等が挙げられる。
−Arに於ける芳香族炭化水素基としては例えば炭素数10個以下の基が挙げられ、具体的にはフェニル、ナフチル等が挙げられる。−Arに於ける芳香族複素環基としては例えば単環の芳香族複素環基、二環性の芳香族複素環基が挙げられる。
単環の芳香族複素環基としては例えば炭素数6個以下の、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子または硫黄原子を1〜4個、同一あるいは相異って含む基が挙げられ、具体的にはピリジル、ピリミジニル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、フリル、イミダゾリル等が挙げられる。
二環性の芳香族複素環基としては例えば炭素数10個以下のヘテロ原子として窒素原子、酸素原子または硫黄原子を1〜5個同一あるいは相異って含む基が挙げられ、具体的にはベンズイソチアゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンズフリル、キノリル、イソキノリル、インドリル、インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズオキサゾリル等のベンゾローグ縮合環、ナフチリジニル、プテリジニル、チエノフラニル、イミダゾチオフェン−イル、イミダゾフラニル等が挙げられる。
アルキルとしては例えば炭素数6個以下の基が挙げられ、好ましくは炭素数4個以下の低級アルキルが挙げられ、具体的にはメチル、エチル、プロピル、2−プロピル、ブチル等が挙げられる。低級アルキルとしては例えば炭素数4個以下の基が挙げられ、具体的にはメチル、エチル、プロピル、2−プロピル、ブチル等が挙げられる。
低級アルコキシとしては例えば炭素数4個以下の基が挙げられ、具体的にはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、2−プロポキシ、ブトキシ等が挙げられる。
ハロゲン原子としては例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
本発明化合物〔1〕には立体異性体および(または)光学異性体が存在する。本発明においては、これらの異性体の混合物および単離された異性体を含む。
−Arで表される好ましい基としては、二環性の芳香族複素環基であるか、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシあるいはフェニルチオ(この際、GはN、CHあるいはCOHを表す。)またはビフェニルメチリデン(この際Gは炭素原子を表す。)(当該、二環性の芳香族複素環基、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシ、フェニルチオおよびビフェニルメチリデンは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子で置換されてもよい。)が挙げられる。
−Arで表される更に好ましい基としてはベンゾローグ縮合環、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシまたはフェニル(当該ベンゾローグ縮合環、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシおよびフェニルチオは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子で置換されてもよい。)が挙げられる。この際GはN、CHまたはCOHを表す。
−Arで表される更に好ましい基としては、具体的にはベンズイソチアゾリル、ベンズイソオキサゾリル、イソキノリル、ベンズフラニル、インダゾリルまたはインドリル(当該ベンズイソチアゾリル、ベンズイソオキサゾリル、イソキノリル、ベンズフラニル、インダゾリルおよびインドリルは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子で置換されてもよい。)が挙げられる。この際GはN、CHまたはCOHを表す。
Zで表される好ましい基としては式〔4〕

(式中−L−は単結合または二重結合を表す。Eは低級アルキルで置換されてもよい低級アルキレンまたは酸素原子を表す。Rは水素原子または低級アルキルを表す。Bはカルボニルまたはスルホニルを表す。)、式〔5〕

(式中、−L−、E、RおよびBは前記の意味を表す。)、式〔6〕

(式中、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15は各々水素原子または低級アルキルを、またはR、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15で隣接するふたつが結合して二重結合を表す。Bは前記の意味を表す。)、式〔7〕

(式中、R16、R17は各々独立して水素原子または低級アルキルを表すかまたはR16、R17は一緒になって飽和炭化水素環を表す。RおよびBは前記の意味を表す。)、または式〔8〕

(Bは前記の意味を表す。)で表される基等が挙げられる。
ここでR16とR17が一緒になって形成する飽和炭化水素環としては、例えば炭素数7個以下のシクロアルカンが挙げられ、具体的にはシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等が挙げられる。
Zで表される更に好ましい基としては式〔10〕

(式中−L’−は単結合を表す。Eは低級アルキルで置換されてもよい低級アルキレンまたは酸素原子を表す。Rは水素原子または低級アルキルを表す。Bはカルボニルまたはスルホニルを表す。)、式〔11〕

(式中、−L’−、E、RおよびBは前記の意味を表す。)、式〔12〕

(式中、R6’、R7’、R8’、R9’、R10’、R11’、R12’、R13’、R14’、R15’は各々水素原子または低級アルキルを表す。Bは前記の意味を表す。)、式〔7〕

(式中、R16、R17、RおよびBは前記の意味を表す。)、または式〔8〕

(Bは前記の意味を表す。)で表される基が挙げられる。
本発明におけるイミド誘導体及び酸付加塩は、例えば前記の日本国特許第2800953号1に記載された製法により製造することができる。
本発明におけるイミド誘導体は薬学的に許容しうる酸付加塩の型でも用いることができる。すなわち塩酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸、フマール酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸等の有機酸が付加塩形成用酸としてあげられる。
本発明の活性化合物であるイミド誘導体およびその薬学的に許容される酸付加塩は、個々の必要性に適応した投与量で普通の投与形態、例えば錠剤、カプセル錠、シロップ剤、懸濁液等の型で経口的に投与することができ、あるいはまたその溶液、乳剤、懸濁液、パッチ剤等の液剤の型にしたものを注射の型で非経口的に投与することができる。
また、前記の適当な投与剤形は許容される通常の担体、賦形剤、結合剤、安定化剤などに活性化合物を配合することにより製造することができる。また注射剤形で用いる場合には許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。
本発明治療剤の投与量、投与回数は、投与形態あるいは治療を要する疾病の病状の程度によって異なるが、例えば、イミド誘導体を成人1日当り1−200mgを1回または数回に分けて経口投与することができる。
本発明の治療剤が奏効する疾患としては、アルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症であるが、より詳しくは、多発梗塞性痴呆、脳梗塞による痴呆、Binswanger病、脳出血による痴呆、amyloid angiopathy、虚血性痴呆などを初めとする各種老人性痴呆症(レビー小体型痴呆、ピック病の痴呆、クロイツフェルト・ヤコブ病の痴呆、ハンチントン病の痴呆、パーキンソン病の痴呆など)を挙げることが出来る。また、本発明の治療剤は、アセチルコリン神経機能障害を伴う認知機能障害を改善する作用を持つので、老人性痴呆症以外に、外傷性認知機能障害、ダウン症候群の痴呆、統合失調症認知機能障害、あるいは何らかの原因でアセチルコリン神経機能障害を伴う認知機能障害の治療にも用いることができる
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
(方法)
7週齢のWistar系雄性ラットを使用した。薬剤として、(1R,2S,3R,4S)−N−[(1R,2R)−2−[4−(1,2−ベンズイソチアゾール−3−イル)−1−ピペラジニルメチル]−1−シクロヘキシルメチル]−2,3−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンジカルボキシイミド(化合物A)を0.5% Methyl Cellulose(MC)にて懸濁した。健忘誘発薬として、アセチルコリン受容体遮断薬であるスコポラミン(和光純薬製198−07901)を生理食塩水(テルモ製)に溶解した。化合物A3,30mg/kgとその対照薬として0.5%MCを受動回避反応課題におけるトレーニングの1時間前に経口投与し、スコポラミン0.5mg/kgまたはその対照薬として生理食塩水をトレーニングの30分前に皮下投与した。いずれも5mL/kgの投与液量とした。
ラット受動的回避反応試験(one step−through passive avoidance test)においては、実験装置として明暗箱と電気刺激装置とから構成される装置(小原医科産業株式会社製、PA−2030A)を利用し、以下のように実施した。すなわち、実験初日において、薬剤及び健忘誘発薬投与後、実験装置の明箱に、背を暗箱側に向けてラット入れ、その10秒後に明暗箱の境界に設けてあるギロチンドアを開けた。ラットが習性に従って暗箱に入った時点でギロチンドアを素早く閉め、暗箱入室から3秒後に、0.5mA、3秒間の電撃ショックを与えた。再度ギロチンドアを開け、ラットが自発的に明箱に戻ってからホームケージへ移した。ギロチンドアを開けた直後からラットが暗箱に入室するまでの時間を移動潜時(step−through latency)として測定した。300秒を超えても暗室へ入室しない動物については、トレーニングを終了し、トレーニング不成立として以下の試験から除外した。
実験2日目、トレーニングから約24時間後にテストを行った。テスト時の操作は、電撃ショックを与えない以外はトレーニング時と同様に実施した。テスト時の移動潜時(step−through latency)は最長300秒まで測定し、300秒を超えたものについては300秒とした。図1および図2は、受動回避反応課題を用いたスコポラミン誘発認知・記憶障害モデルにおける化合物A 3,30mg/kg経口投与時の作用を示したものである。図1はトレーニング時のstep−through latencyを示し、図2はテスト時のstep−through latencyを示す。一群15匹用い、データはmean±SEMを示した。
(結果)
健忘誘発薬スコポラミンはトレーニング時の移動潜時には影響を与えなかった。化合物Aは、3mg/kgにてトレーニング時の移動潜時をわずかに短縮した。テスト時において、スコポラミン投与群は、生理食塩水投与群に比べて、顕著に小さい移動潜時を示した(認知・記憶障害誘発作用)。化合物A 30mg/kgをスコポラミンと併用した群においては、移動潜時が顕著に延長した。すなわち、スコポラミンによる認知・記憶機能障害を改善する作用が化合物Aに認められた。このように、イミド誘導体にスコポラミン誘発の認知・記憶機能障害を改善しうる作用が見出された結果、老人性痴呆症の治療方法、ならびにそれを用いる治療剤を提供できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
本発明によって、イミド誘導体にスコポラミン誘発の認知・記憶機能障害を改善しうる作用が見出された結果、老人性痴呆症の治療方法、ならびにそれを用いる治療剤を提供できることが明らかとなった。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式〔1〕

{式中、Zは式〔2〕

(式中、Bはカルボニルまたはスルホニルを表す。R、R、R、Rは各々独立して水素原子あるいは低級アルキルを表す。ただし、RとRあるいはRとRが一緒になって炭化水素環を、またはRとRが一緒になって芳香族炭化水素環を形成してもよい。当該炭化水素環は低級アルキレンまたは酸素原子で架橋されてもよい。当該低級アルキレンおよび炭化水素環は少なくとも1つのアルキルで置換されてもよい。nは0または1を表す。)を表す。Dは式〔3〕

(式中、Aは低級アルキレンまたは酸素原子で架橋されてもよい炭化水素環を表す。当該低級アルキレンおよび炭化水素環は少なくとも1つのアルキルで置換されてもよい。p、qは各々0、1または2を表す。)を表す。GはN、CHあるいはCOHを、−Arは芳香族複素環基、芳香族炭化水素基、ベンゾイル、フェノキシあるいはフェニルチオを表すか、またはGは炭素原子を、−Arはビフェニルメチリデンを表す。当該芳香族複素環基、芳香族炭化水素基、ベンゾイル、フェノキシ、フェニルチオおよびビフェニルメチリデンは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子で置換されてもよい。}で表されるイミド誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
【請求項2】
認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である請求項1記載の認知機能障害治療・予防剤。
【請求項3】
−Arが二環性の芳香族複素環基、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシあるいはフェニルチオであり、GがN、CHあるいはCOHであるかまたは−Arがビフェニルメチリデンであり、Gが炭素原子である(当該二環性の芳香族複素環基、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシ、フェニルチオおよびビフェニルメチリデンは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子で置換されてもよい。)請求項1記載のイミド誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
【請求項4】
認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である請求項3記載の認知機能障害治療・予防剤。
【請求項5】
−Arがベンゼン環と縮環した芳香族複素環基、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシまたはフェニルチオ(当該ベンゼン環と縮環した芳香族複素環基、ナフチル、ベンゾイル、フェノキシおよびフェニルチオは少なくとも1つの低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン原子により置換されてもよい。)であり、GがN、CHまたはCOHである請求項1記載のイミド誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
【請求項6】
認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である請求項5記載の認知機能障害治療・予防剤。
【請求項7】
Zが式〔4〕

(式中、−L−は単結合または二重結合を表す。Eは低級アルキルで置換されてもよい低級アルキレンまたは酸素原子を表す。Rは水素原子または低級アルキルを表す。Bは請求項1記載の意味を表す。)、
式〔5〕

(式中、−L−、E、RおよびBは前記の意味を表す。)、式〔6〕

(式中、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15は各々水素原子または低級アルキルを、またはR、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15で隣接するふたつが結合して二重結合を表す。Bは前記の意味を表す。)、式〔7〕

(式中、R16、R17は各々独立して水素原子または低級アルキルを表すかまたはR16、R17は一緒になって飽和炭化水素環を表す。RおよびBは前記の意味を表す。)、または式〔8〕

(Bは前記の意味を表す。)である請求項1記載のイミド誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
【請求項8】
認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である請求項7記載の認知機能障害治療・予防剤。
【請求項9】
一般式[1]で表される化合物が式〔9〕

である請求項1記載のイミド誘導体又はその酸付加塩を有効成分とする認知機能障害治療・予防剤。
【請求項10】
認知機能障害治療・予防剤が、老人性痴呆症治療剤である請求項9記載の認知機能障害治療・予防剤。
【請求項11】
認知機能障害治療・予防剤が、アルツハイマー型痴呆症である請求項2、4、6、8、10いずれか記載の認知機能障害治療・予防剤。
【請求項12】
認知機能障害治療・予防剤が、脳血管性痴呆症である請求項項2、4、6、8、10いずれか記載の認知機能障害治療・予防剤。

【国際公開番号】WO2004/113333
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507314(P2005−507314)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009095
【国際出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】