説明

耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体

【課題】ハロゲン系腐食性ガス、プラズマ等に対する耐食性、かつ、耐熱衝撃性に優れており、半導体・液晶製造装置等、特に、プラズマ処理装置において導電性が求められる部材に好適に使用することができる耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体を提供する。
【解決手段】イットリアに、タングステンまたは/およびモリブデンがイットリアに対して50重量%以上300重量%以下分散し、開気孔率が0.2%以下、25℃での体積抵抗率が10-6Ω・cm以上10-1Ω・cm以下であり、少なくとも1個の通気孔を有するように構成されたセラミックス焼成体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体やフラットパネルディスプレイ(FPD)製造用エッチャー、CVD装置等のプラズマ処理装置の構成部材に好適に用いられる耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置のうち、プラズマプロセスが主流であるエッチング工程、CVD成膜工程、レジストを除去するアッシング工程における装置の部材は、反応性の高いフッ素、塩素等のハロゲン系腐食性ガスに曝される。
このため、上記のような工程でハロゲンプラズマに曝される部材には、高純度アルミナ、窒化アルミニウム、イットリア、YAG等のセラミックスが用いられている。
これらの中でも、ハロゲンガス等の腐食性ガスやプラズマに対する耐食性の高い材料として、特に、イットリアやYAG等のセラミックスが、プラズマ処理装置に用いられていた。
【0003】
しかしながら、これらの材料は、汎用のアルミナセラミックスに比べて、部材の作製・加工が困難であり、特に、大型製品や肉厚製品の作製は非常に困難であった。また、これらの材料は、強度においても劣っていた。
このため、アルマイト処理を施したアルミニウムや、アルミニウムとイットリア焼成体との複合材や、アルミニウム上に耐プラズマ性の高い膜、特に、イットリア溶射膜を形成したもの等、表面の耐食性を向上させた部材が広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−2101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなイットリア溶射膜で被覆した部材は、その溶射膜自体は、密着力が強く、耐プラズマ性に優れているものの、溶射膜は、噴射面に対向する面にのみ形成され、直径約1mmよりも小さな細孔等の溶射ノズルが届かない箇所、例えば、シャワープレートの通気孔等の内壁部や細部には、溶射膜を形成することは困難である。
このような孔の内壁面は、プラズマ処理において使用される際、プラズマによりエッチングされ、ダストを生じるおそれがある。
また、溶射膜は、焼成体よりも気孔率が高く、基材表面に付着している状態であり、プラズマに曝されると、膜剥離を生じるおそれもある。膜剥離が生じると、溶射膜自体がパーティクルとなり、さらに、露出したアルミニウム基材表面がプラズマと反応して、フッ化アルミニウム等のパーティクルを生じるおそれもある。
【0005】
また、イットリア単体の焼成体を部分的に使用する場合は、接着剤等を用いてイットリア焼成体を接合する接着工程を要するため、コストがかかり、また、接着剤には有機系バインダが含まれることから、接着剤由来のガスが発生する等の課題も有していた。
また、イットリア単体のセラミックスは、上述したように、金属アルミニウムやアルミナセラミックスと比較して、強度に劣り、製品が大型であるほど製造困難性が高くなり、高コストとなる。さらに、孔加工を施す場合、孔の機能面には問題はないが、強度面でアルミナセラミックスより劣ることから、使用時に熱応力による破損のおそれがある。
【0006】
また、アルミニウム等の金属部材をセラミックス部材に置換すると、導電性を有する金属から絶縁性のセラミックスへと電気的特性の大きな変化を伴うため、このような部材を使用する場合は、プロセスを大幅に変更しなければならない等の課題を有していた。
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、ハロゲン系腐食性ガス、プラズマ等に対する耐食性、かつ、耐熱衝撃性に優れており、半導体・液晶製造装置等、特に、プラズマ処理装置において導電性が求められる部材に好適に使用することができる耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体は、イットリアに、タングステンまたは/およびモリブデンがイットリアに対して50重量%以上300重量%以下分散し、開気孔率が0.2%以下、25℃での体積抵抗率が10-6Ω・cm以上10-1Ω・cm以下であり、少なくとも1個の通気孔を有することを特徴とする。
このようなセラミックス焼成体は、フッ素、塩素等のハロゲン系プラズマの耐食性に優れているというイットリアの特徴を維持しつつ、十分な強度、導電性を有しており、煩わしいチューニングを要することなく、アルミニウム等の金属部材の置換材料として適用することができ、また、溶射膜の形成等が困難な孔の内壁面や細部にも、導電性および耐プラズマ性を付与することができる。
【0009】
また、前記導電性セラミックス焼成体は、25℃での4点曲げ強度が140MPa以上であることが好ましい。
上記範囲の強度を有していれば、孔を有するようなプラズマ処理装置部材であっても、破損することなく、作製・加工を行うことができ、かつ、使用時においても十分な強度である。
【発明の効果】
【0010】
上述したとおり、本発明に係る耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体は、ハロゲン系腐食性ガス、プラズマ等に対する耐食性および耐熱衝撃性に優れた材料であり、半導体や液晶等の製造工程において、特に、プラズマ処理装置において導電性が求められる部材に好適に用いることができる。
特に、プラズマ処理装置内へ腐食性ガスを導入する通気孔を備えたシャワープレートやガス拡散プレート、ノズル等に好適に用いることができ、このような孔内部の放電によるエッチングの防止を図ることができる。
したがって、前記導電性セラミックス焼成体からなる部材を用いれば、ハロゲンプラズマプロセスにおいても、パーティクルの発生が抑制されるため、後の工程において製造されるデバイス等の歩留まり向上に寄与し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体は、イットリアに、タングステンまたは/およびモリブデンが分散しているものである。このタングステンまたはおよび/モリブデンの添加量は、イットリアに対して50重量%以上300重量%以下であり、また、前記焼成体は、開気孔率が0.2%以下、25℃での体積抵抗率が10-6Ω・cm以上10-1Ω・cm以下であり、少なくとも1個の通気孔を有することを特徴とする。
【0012】
上記のように、本発明に係る導電性セラミックス焼成体は、それ自体が耐プラズマ性を有するイットリアに、高融点金属であるタングステンまたは/およびモリブデンが添加されており、フッ素、塩素等のハロゲン系プラズマに対する耐食性に優れたものである。
また、イットリア結晶の周りにタングステンまたは/およびモリブデン粒子が点在していることにより、高温時のイットリア結晶の歪みおよび熱応力をタングステンまたは/およびモリブデン粒子が緩和するため、高い耐熱衝撃性が得られ、また、低抵抗化および強度の向上が図られる。
特に、タングステンまたは/およびモリブデンの添加量がイットリアに対して50重量%以上になると、サーメット状態となり、導電性を示すようになり、導電性セラミックスを作製することが可能となる。
【0013】
耐プラズマ性に優れたセラミックス焼成体とするためには、イットリアへの添加剤は、イットリアが有する優れた耐プラズマ性を損なわせたり、半導体製造上、好ましくない不純物元素を含むものであってはならない。K、Na等のアルカリ金属、Ni、Cu、Fe等の重金属は、半導体の汚染物質とされ、好ましくない。
しかしながら、重金属であっても、タングステン、モリブデンは、半導体製造装置における電極材としても使用されており、添加の有効性が認められる。
【0014】
本発明においては、タングステンまたは/およびモリブデンの添加量は、イットリアに対して、50重量%以上300重量%以下とする。
前記添加量が50重量%未満である場合、十分な導電性が得られない。
一方、前記添加量が300重量%を超える場合、耐プラズマ性が低下し、セラミックスの消耗により、パーティクルが発生しやすくなる。
【0015】
また、前記セラミックス焼成体は、開気孔率が0.2%以下と緻密質であることが好ましい。
前記開気孔率が0.2%を超える場合、該セラミックス焼成体をハロゲンプラズマ装置部材として用いた際、気孔に起因する該部材のエッチングの進行が加速され、パーティクルが発生しやすくなる。
【0016】
例えば、シャワープレートの通気孔は、通常、直径0.5mm以上であり、腐食性ガスが通気孔の内部でプラズマ励起されるため、この通気孔の内壁面はエッチングされやすい。
このため、アルミナセラミックスの場合には、エッチングによりパーティクルが発生しやすいが、イットリアセラミックスは、耐プラズマ性が、アルミナの10倍以上、すなわち、エッチング量が1/10以下であるため、イットリアを主成分に含むセラミックスは、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0017】
したがって、本発明によれば、十分な強度を有し、導電性を備え、かつ、イットリアセラミックスの優位性を兼ね備えたセラミックス焼成体が得られ、これを用いて、ガス孔を有するシャワープレートやガス拡散プレート、ノズル等の部材を作製すれば、パーティクルが発生し難く、耐久性に優れた部材とすることができる。
また、本発明に係るセラミックス焼成体による既存のアルミニウム部材からの置換も、チューニングを要することなく、比較的容易に行うことができる。
【0018】
上記のような本発明に係るセラミックス焼成体は、イットリアに、タングステンまたは/およびモリブデンをイットリアに対して50重量%以上300重量%以下添加した混合物を、水素等の還元性ガス雰囲気下、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下または真空中で、加圧焼成することにより製造することができる。
その具体的な製造方法の一例を以下に述べる。
【0019】
まず、純水中に純度99.9重量%イットリア原料粉末(平均粒径1〜10μm)、純度99重量%タングステン粉末または/およびモリブデン粉末(平均粒径0.2〜5.0μm)を添加し、樹脂ボールを用いて、ボールミルにて1時間以上混合し、均一に分散させ、スラリーを調製する。
得られたスラリーをスプレードライヤにて乾燥造粒し、造粒粉(平均粒径10〜50μm)を調製する。
前記造粒粉の調製は、イットリア原料粉末のみを上記と同様にして、スプレードライヤにて造粒した後、タングステン粉末または/およびモリブデン粉末とボールミルにて1時間以上混合することにより行うこともできる。
【0020】
次に、前記造粒粉を、金型に充填し、1t/cm2以上の圧力で、一軸プレス成形またはCIP成形を行う。得られた成形体は、必要に応じて、適宜加工する。
前記成形体を、窒化ホウ素コーティングしたカーボン製治具にセットし、アルゴン雰囲気下、ホットプレス焼成することにより、本発明に係るセラミックス焼成体が得られる。
あるいはまた、前記成形体は、アルゴンまたは水素雰囲気中、真空下にて1650〜1900℃で焼成することによっても、本発明に係るセラミックス焼成体が得られる。
【0021】
上記のようにして得られたセラミックス焼成体は、フッ素、塩素等のハロゲン系プラズマの耐食性に優れているというイットリアの特徴を維持しつつ、イットリア単体のセラミックスと比較して、熱衝撃性および強度の向上が図られ、かつ、導電性を有しているという特徴を有している。
前記導電性は、煩わしいチューニングを要することなく、既存のアルミニウム部材を置換して適用することができるようにする観点から、具体的には、25℃での体積抵抗率が10-6Ω・cm以上10-1Ω・cm以下であることが好ましい。
また、強度については、上記と同様の観点および部材の作製・加工容易性等の観点から、25℃での4点曲げ強度が140MPa以上であることが好ましい。
【0022】
このようなセラミックス焼成体は、半導体やFPD製造用エッチャー、CVD装置等のプラズマ処理装置において、局所的にエッチングされやすい部分にあり、かつ、導電性が必要とされる構成部材、具体的には、プラズマ処理装置内へ腐食性ガスを導入する通気孔を備えたシャワープレートやガス拡散プレート、ノズル等に好適に用いることができる。
特に、半導体ウエハ表面の成膜工程等における、CCl4、BCl3、HBr、CF4、C48、NF3、SF6等のハロゲン化合物プラズマガス、腐食性の強いClF3セルフクリーニングガスを用いる装置部材や、N2やO2を用いたスパッタ性の高いプラズマによりエッチングされやすい部材にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1〜4、比較例1〜4]
純度99.9重量%のイットリア原料粉末を純水中に撹拌しながら分散し、純度99重量%タングステン(W)粉末(平均粒径0.5〜2.0μm)を、添加量を変えて添加し、1時間以上撹拌してスラリーを調製した後、スプレードライヤにて造粒した。
得られた各造粒粉を、1.5t/cm2でCIP成形し、得られた成形体を、水素雰囲気下、1800℃で常圧焼成し、セラミックス焼成体を作製した。
【0024】
[実施例5,6、比較例5]
純度99.9重量%のイットリア原料粉末を純水中に撹拌しながら分散し、純度99重量%モリブデン(Mo)粉末(平均粒径0.5〜3.0μm)を、添加量を変えて添加し、1時間以上撹拌してスラリーを調製した後、スプレードライヤにて造粒した。
得られた各造粒粉を、0.5t/cm2で一軸プレス成形し、得られた成形体を、アルゴン雰囲気下、1700℃、圧力100kg/cm2でホットプレス焼成し、セラミックス焼成体を作製した。
【0025】
[比較例6]
純度99.9重量%のイットリア原料粉末を純水中に撹拌しながら分散し、1時間以上撹拌してスラリーを調製した後、スプレードライヤにて造粒した。
得られた造粒粉を、1.5t/cm2でCIP成形し、得られた成形体を、水素雰囲気下、1800℃で常圧焼成し、セラミックス焼成体を作製した。
【0026】
[比較例7]
純度99.5重量%のアルミナ原料粉末を純水中に撹拌しながら分散し、1時間以上撹拌してスラリーを調製した後、スプレードライヤにて造粒した。
得られた造粒粉を、1.0t/cm2でCIP成形し、得られた成形体を、大気中で、1700℃で常圧焼成し、セラミックス焼成体を作製した。
【0027】
[比較例8]
アルミニウム基材表面をアルマイト処理したもの(皮膜厚10〜30μm)を比較例8の試料とした。
【0028】
[比較例9]
アルミニウム表面にイットリア溶射膜(膜厚150〜250μm)を形成したものを比較例9の試料とした。
【0029】
上記実施例および比較例において得られた各焼成体、アルマイト処理したアルミニウム、イットリア溶射膜で被覆されたアルミニウムは、各種物性評価用試料に加工調製し、開気孔率測定(JIS R 1634準拠)、4点曲げ強度測定(JIS R 1601準拠;N=20p)、抵抗率測定(JIS K 6911、JIS K 7194)を行った。
【0030】
また、前記各焼成体、アルマイト処理したアルミニウム、イットリア溶射膜で被覆されたアルミニウムを、20mm×20mm×高さ2mmに加工し、表面にラップ加工を施し、鏡面研磨した試料を作製した。
この試料の半分をマスキングテープにて保護し、反応性イオンエッチング(RIE)方式のエッチング装置にセットした。CF4、O2雰囲気下、プラズマに3時間曝露した後、マスキングテープを剥がして表面の段差を測定し、時間当たりのエッチングレートを算出した。
【0031】
さらに、直径0.5mmの通気孔を50個有するシャワープレートを上記実施例および比較例の各方法にて作製し、エッチャーの上部電極にセットし、CF4、O2雰囲気下、プラズマガスをシャワープレートの通気孔を通じて8インチのシリコンウエハ上に供給して、放電し、レーザパーティクルカウンタにより、ウエハ上の0.2μm以上のパーティクル数を測定した。
【0032】
これらの物性評価結果を表1にまとめて示す。
なお、表1におけるエッチングレートは、純度99.9重量%のイットリアセラミックス焼成体(比較例6)のエッチングレートを1とした場合の相対比較値である。






【0033】
【表1】

【0034】
表1に示したように、本発明に係るセラミックス焼成体(実施例1〜6)は、導電性および強度特性に優れ、かつ、ハロゲンプラズマ装置部材として使用した際の通気孔内部での放電による部材のエッチングが抑制され、発生パーティクル数の低減化も図られるというすべての特性を兼ね備えたものであることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリアに、タングステンまたは/およびモリブデンがイットリアに対して50重量%以上300重量%以下分散し、開気孔率が0.2%以下、25℃での体積抵抗率が10-6Ω・cm以上10-1Ω・cm以下であり、少なくとも1個の通気孔を有することを特徴とする耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体。
【請求項2】
25℃での4点曲げ強度が140MPa以上であることを特徴とする請求項1記載の耐プラズマ性を有する導電性セラミックス焼成体。

【公開番号】特開2008−174800(P2008−174800A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9720(P2007−9720)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】