耐久性に優れる移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス
【課題】移動層方式の排ガス処理プロセスにて使用される、平均粒子径を大きくでき、且つ補充量が少ない活性コークスを提供することを目的とする。
【解決手段】石炭を主原料として製造された移動層方式の排ガス処理プロセスで使用される活性コークスであって、この活性コークスは、平均炭素粒子充填率が60%以上の表層部と、平均炭素粒子充填率が60%より小さい内層部を有する2層構造を有することを特徴とする。好ましくは、前記表層部と内層部との境界が活性コークスの半径の比率Rm/Riで0.5〜0.9の範囲である。但し、Rm:活性コークスの内層部の半径、Ri:活性コークスの半径である。
【解決手段】石炭を主原料として製造された移動層方式の排ガス処理プロセスで使用される活性コークスであって、この活性コークスは、平均炭素粒子充填率が60%以上の表層部と、平均炭素粒子充填率が60%より小さい内層部を有する2層構造を有することを特徴とする。好ましくは、前記表層部と内層部との境界が活性コークスの半径の比率Rm/Riで0.5〜0.9の範囲である。但し、Rm:活性コークスの内層部の半径、Ri:活性コークスの半径である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れた活性コークスに関し、特に、移動層方式の排ガス処理プロセスに使用される耐久性に優れた排ガス処理用活性コークスに関する。なお、本発明の活性コークスは、半成コークスや、粘結性石炭などの石炭を主原料とする炭素含有粒子を圧縮または押し出し成形し、炭化、賦活して製造された活性コークスの成形体を言うものとする。
【背景技術】
【0002】
化学、エネルギー、鉄鋼など、石油や石炭などの化石燃料を燃焼させる産業から排出される排ガス中には、硫黄酸化物、窒素酸化物などが多く含まれており、環境保護の観点からこれらの物質を除去し、環境中への放出を削減することが重要な課題となっている。排ガス中からこれらの硫黄酸化物や窒素酸化物を除去する排ガス処理技術、たとえば脱硫、脱硝技術には、多くの方法が開発されているが、活性コークスによる吸着作用、触媒作用を利用した移動層方式の乾式脱硫脱硝方法は、除去した硫黄酸化物や窒素酸化物の処理が湿式方式に比べて容易であるため多く採用されている。なお、この活性コークスは、工業用の活性コークスであり、主原料は、石炭(粘結性石炭)や半成コークスである。以下、排ガス処理プロセスとして乾式脱硫脱硝プロセスを例として説明するが、本願はこれに限定されるものではない。
移動層方式の乾式脱硫脱硝プロセスでは、活性コークスが乾式脱硝プロセス(反応塔)内を重力により下降移動しながら処理が進行する。その間の活性コークス同士の接触や装置壁と接触などにより活性コークスの表面が割れたり欠けたりする機械的なロス、いわゆるメカニカルロスのほかに、特に活性コークスを再生処理する工程でガス中のSOx或いはこれに混在する酸素との反応により、還元剤として消耗するケミカルロスのため、プロセスを通過した後の活性コークスはその粒径が減少する。粒径が小さくなった活性コークスや粉化した活性コークスを除去した後、必要により新しい活性コークスが補充追加されて、プロセス内に再度装入して使用するという循環使用がなされる。
しかしながら、繰り返しの使用により、移動層中の活性コークス全体としての平均粒子径は定常状態となるまで徐々に小さくなり、処理ガスの圧損が大きくなることは避けられない。
従って、これに適する活性コークスは、SOxの高吸着能、NOxのNH3添加下での高脱硝性を有するほか、移動層内での衝撃、磨耗による破壊及び、反応による粉化などを抑制するために高い耐久性が要求される。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1には、石炭を300〜600℃で低温乾留を施した半成コークスを主原料、粘結性の石炭を副原料として、結合剤と共に混合、炭化して賦活する活性炭の製造において、半成コークス原料用の石炭を、軟化溶融温度でのNMR測定結果から算出した易動性水素成分量が30%以下のものとすることにより、高強度、高吸着能を有する活性炭とすることが開示されている。
また、特許文献2には、揮発分が2.0%以上、固定炭素が87〜94%であって、さらにFe2O3+TiO2が0.7%以上、K2O+Na2O+MgOが0.3〜1.0%である活性炭が開示されている。
このように、これらの特許文献では高強度で、高吸着能を有する脱硫性能に優れ、移動層方式の乾式脱硫脱硝プロセスでの循環使用に耐え得るとされる活性炭の製造方法や、衝撃強度97%以上、ロガ強度96%以上、SO2吸着能70mg/gr以上、アンモニア添加下での脱硝率20%以上、粉化率1.0%以下の脱硫脱硝用活性炭が提案されている。
また、特許文献3には、ガソリンなどの揮発物質の気相吸着用の活性炭として、石炭を原料とする活性炭であって、硬度が90%以上、表面積が500〜1000m2/ccで、活性炭の表面に存在する細孔の直径が24〜60Åである容積が0.1cc/cc以上であり、活性炭の平均直径を0.5〜2.5mmとして通気圧損を高くしない活性炭が提案されている。
また、特許文献4には、大粒径の石炭粉と小粒径の石炭微粉とを混合してコークス基幹強度を保持すると共に、大粒径の石炭粉の周りに石炭微粉を接着するようにして内部細孔促進、表層強化を図ることが開示されている。
【特許文献1】特開2002−348111号公報
【特許文献2】特開2002−355557号公報
【特許文献3】特開平7−277716号公報
【特許文献4】特開平11−349317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜2で提案された活性コークスでは、移動層方式の排ガス処理プロセスでは、耐久性や圧損の低減に不十分であり、また、特許文献3の活性炭は移動層方式の排ガス処理プロセスを対象としたものではない。また、特許文献4では、径方向に粒子分布を制御し、強度分布を持たせることについては開示されていない。耐磨耗性を向上させることは可能であっても、排ガス処理プロセス内での平均粒子径を大きくすることは困難である。
発明者らは、耐久性に優れ、かつ圧損の少ない活性コークスを見出すために、これら活性コークスの耐久性、反応塔における圧損に与える要因等について、検討を行った。
【0005】
移動層方式の排ガス処理プロセス(例えば乾式脱硫脱硝プロセスの吸着塔)内には、1000トンないし4000トンの活性コークスが充填されており、これらの活性コークスは、吸着塔を移動通過後、抜き出され、再生、再装入の繰り返しを約50回から100回繰り返し、年単位の長時間を経て例えば、初期粒径(直径)Di:9.0〜9.5mmの状態から粒径1mm以下まで損耗していく。損耗して一定の粒径以下(通常Do:1.5mm未満)となった活性コークスは、プロセスから篩い除外され、その分量に見合う新しい活性コークスが補充される。これを繰り返すことにより、一定期間後には反応プロセス内の活性コークスの粒径は、ある定常状態の粒度分布に収束する。
本発明では、反応プロセスで収束状態(定常状態)となった状態でサンプリングされた活性コークスに対して、平均粒子径や粒子数比率などを調査し、活性コークスの特性を比較、評価している。以下の説明において、特に断らない限り、平均粒子径、粒子数比率などは上記の状態でサンプリングしたものにおける活性コークスの性状を言うものとする。
【0006】
ところで、上述のような移動層方式の排ガス処理プロセスには、通常、円柱体に成形された活性コークスが使用されることが多いので、本発明では、活性コークスは円柱体に成形されたものを例にとって説明する。すなわち、ケミカルロスやメカニカルロスは、円柱体の径方向のみならず軸方向にも進行するが、本発明の活性コークスの形状の評価においては、円柱体の直径を代表とし、粒子径として説明する。しかしながら、本発明の活性コークスは、円柱状に限るものではなく、球状、楕円体状でも良いことはいうまでもない。
【0007】
従来の各種の活性コークスS1,S2(初期粒径(直径)S1:Di:9.4mmおよびS2:Di:9.3mm)を移動層方式の反応塔に充填し、この反応塔内に燃焼排ガスを向流方式で通過させ、一定期間、循環使用した場合の活性コークスの損耗を、特に、粒径分布、平均粒子径、粒子数比率などに注目して調査した。
なお、本発明で言う“従来の活性コークス”(活性コークスS1,S2、従来の活性コークス(i)、(ii)など)とは、購入した市販の活性コークスを意味するものである。
【0008】
図15は、従来の活性コークスのS1,S2を脱硫脱硝プロセスにおいて一定期間使用した後の粒径分布および平均粒子径を示しているが、機械的な磨耗や化学的なロスにより平均粒子径は小さくなっている。
また、図16は、上記活性コークスS1,S2の粒子数比率、すなわち、一定期間使用後の粒径範囲毎の粒子数を初期の粒子数に対する比率で示したものであり、例えば300%とは、活性コークスが割れること等によって、その範囲の粒子数が3倍に増えていることを示す。図16から判るように、粒子数比率は、粒径の小さいものほど著るしく大きくなっている。この粒径分布の変化は、循環使用中に粒子が一様に摩耗して小径となるのみならず、粒子が途中で割れて小粒径化していることを示している。
【0009】
移動層方式の脱硫脱硝プロセスでは、ケミカルロスやメカニカルロスなどによる活性コークスの粒径の減少速度(以下、損耗速度とも言う)は、活性コークスの粒径が小さくなるほど、相対的に大きくなることが一般的に知られており、従って、使用中に割れて小粒径化すると補充量も増えることとなる。
【0010】
また、図17は、活性コークスの平均粒子径と脱硫脱硝プロセスの吸着塔(反応塔)における排ガスの圧損との関係を示したものであるが、平均粒子径が小さくなるほど吸着塔における排ガスの圧損が大きくなるため、活性コークスの平均粒子径が脱硫脱硝プロセスの操業に大きな影響を与えることが判る。
このことから、移動層方式の排ガス処理プロセスに使用するのに好適な、圧損が小さく、補充量も少なくてよい活性コークスは、損耗速度が小さく、割れ難く、かつ平均粒子径を大きく維持できる活性コークスとすることが重要であることが判った。
本発明は、このような、移動層方式の排ガス処理プロセスにて使用される、平均粒子径を大きく維持でき、且つ割れ難く補充量を少なくできる活性コークスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、まず、従来の活性コークスが割れ易く、割れることにより平均粒子径が小さくなってさらに損耗速度が早くなり、このため補充量が増大することに着目し、活性コークス自体の強度を大きくして、割れ難くすることの効果を解析により検討した。
すなわち、半径方向の強度を一様に強化した活性コークスは、i)途中で割れることはなく、ii)半径方向の損耗速度は一定であり、iii )損耗は半径方向にのみで生じると仮定すると、移動層方式の排ガス処理プロセスにおいて一定期間使用し、定常状態となった活性コークスの平均粒径は簡単な計算により求めることができる。
一個の活性コークスに注目して考えると、活性コークスの粒径は時間に比例して小さくなるが損耗は半径方向にしか生じないと仮定しているので、活性コークスの重量は粒径の二乗に比例することになる。
【0012】
上記の解析では、活性コークスの半径方向に一様に強度を高める、つまり、損耗速度はどの領域も同じ、すなわち1とし、活性コークスの初期粒径Diは9.5mmとし、篩で除去する寸法Doは1.5mm未満とした。
その結果、表1に示すように、平均粒子径は、7.14mmが得られた。
【0013】
一方、先に述べたように、従来の活性コークスを実際に移動層方式の脱硫脱硝プロセスで使用した場合、初期粒径Diが9.3mm(S2)の場合は、図15に示したように、平均粒子径は、7.3mm前後であり、解析において活性コークスの全体をほぼ一様に強化することを仮定した場合と大きく変わらない。すなわち、活性コークスの全体を一様に強化すれば割れが少なくなり、補充量を低減できるが、平均粒子径は従来と同程度であり、圧損をより小さくする効果を期待することはできないことが判った。
このため、次に本発明者らは、活性コークスの断面構造(ここでは、円柱状に成形した活性コークスを想定しており、断面構造は、円柱軸に垂直な断面である)に着目し、活性コークスの強度を半径方向に一様にするのではなく、半径方向に強度あるいは損耗速度の差を付けた2層構造(表層部と内層部)の活性コークスとした場合の平均粒子径について検討した。
【0014】
すなわち、活性コークスの半径方向に、損耗速度を変えた構造を有する活性コークスとした場合の平均粒子径の変化について解析を行ない検討した。
図1は、本発明の2層構造の活性コークスの中心軸に直角な断面の状況を示す模式図である。
この解析において活性コークス1を半径方向に表層部2と内層部3の二つの2区分とし、表層部の損耗速度1に対して、それより中心側(内層部)の損耗速度を1より大きいものとした。ここで損耗速度比=内層部の損耗速度/表層部の損耗速度と定義する。すなわち、損耗速度比が、5とは、内層部の損耗速度が表層部の損耗速度の5倍であることを示すものである。この損耗速度比は、後述するように活性コークスの圧潰強度などと関連するものである。また、表層部と内層部を区分する半径方向の境界位置4を変化させるものとした。なお、この境界位置4は、初期半径Riに対する内層部の半径Rmの比Rm/Riで示すことができる。
また、この解析では、上記と同様、初期粒径Diは、9.5mm、除去する篩径Doは1.5mmとした。
【0015】
活性コークスを2層構造とし、それぞれの層における強度は一様とした活性コークスにおいて、i)途中で割れることはなく、ii)それぞれの層内における半径方向の損耗速度は一定であり、iii )損耗は半径方向にのみで生じると仮定すると、移動層方式の排ガス処理プロセスにおいて一定期間使用し、定常状態となった活性コークスの平均粒径は簡単な計算により求めることができる。
すなわち、一個の活性コークスに注目して考えると、活性コークスの粒径は時間に比例して小さくなる(損耗する)が、損耗は半径方向に生じると仮定しているので、各粒径範囲に滞留する時間は損耗速度に反比例して短くなるが、各粒径範囲の個数比はこの滞在時間に比例する。すなわち、各粒径範囲での損耗速度と個数比の積は一定の値となる。この関係を用いて平均粒子径を求め、その結果を表1に示している。なお、比較のため、単層構造、すなわち、前述の損耗速度が、半径方向に一様である場合(損耗速度比1)の結果を表1に示す。
例えば、2層構造の活性コークスの表層部と内層部の境界位置を、粒径でDm=8mm(Rm=4mm)とし、損耗速度を表層部1、内層部4とした(損耗速度比4)活性コークスの例では、表1に示すように、平均粒子径は8.045mmであり、比較例として示した単層構造、すなわち損耗速度を一様に全て1とした場合の活性コークスの平均粒径7.14mmと比べ、平均粒径を大幅に増やすことができることがわかる。
【0016】
【表1】
【0017】
発明者らは、さらに、この解析において、損耗速度比を1.25〜16、すなわち表層部の損耗速度1に対して、内層部のそれを1.25〜16倍となる範囲まで変化させると共に、表層部と内層部との境界位置(Rm/Ri)を変化させ、それぞれの場合において平均粒子径を求めた。
【0018】
図2は、その結果を示すものであるが、損耗速度比が大きくなるほど、言い換えれば、内層部の損耗速度が表層部の損耗速度より大きいほど、平均粒子径は大きくなる傾向にあることが判る。また、平均粒子径は、表層部と内層部との損耗速度比の大きさおよび、表層部と内層部とを区分する境界位置によって変化することが判る。そして、平均粒子径が最大となる場合(最大平均粒径)の境界位置(以後、この境界位置を最適境界位置とも記す。)のRm/Riも、各損耗速度比により異なることが判る。
図2の結果にもとづき、損耗速度比と最大平均粒子径との関係を図3に示した。損耗速度比を大きくすると、すなわち、表層部の損耗速度に対して、内層部の損耗速度を大きくすると、平均粒子径を大きくすることができることが判る。
【0019】
また、図4は、最大の平均粒子径が得られる場合の表層部、内層部の境界位置(最適境界位置)のRm/Riと損耗速度比との関係を示すものである。なお、図4の横軸は、損耗速度比をその対数値で示している。
例えば、図3、図4から、損耗速度比が1.25の場合、最大平均粒子径は7.30mmであり、最適境界位置のRm/Riは0.78であるが、損耗速度比が8の場合、最大平均粒子径は8.36mmであり、最適境界位置のRm/Riは、ほぼ0.87となる。
【0020】
また、図4から判るように、最大の平均粒子径を与える場合の表層部と内層部とを区分する境界位置(最適境界位置)Rm/Riは、損耗速度比が大きくなるほど、大きくなる。すなわち、損耗速度比が大きい場合ほど、最適境界位置は表面に近くなっており、0.5〜0.9の範囲にあることが判る。
【0021】
発明者らは、活性コークスの初期粒径Diが、上記9.5mmの場合の他に、5.6mmの場合、及び15mmとした場合についても、同様の解析を行なったが、解析の結果によれば、平均粒子径が最大となる場合の境界位置(最適境界位置)は、損耗速度比により異なるものの、その範囲はほぼ0.5〜0.9の範囲にあると考えられ、活性コークスの初期粒径にはあまり影響されないことが判った。
【0022】
このように、活性コークスの表層部と内層部との2層構造とし、表層部の損耗速度に対して、内層部のそれを大きくする、すなわち、損耗速度比を1超とすることによって、平均粒子径を大きくすることができることが判った。
発明者らは、さらに上述の活性コークスの強度や損耗速度を制御する要素として、活性コークスの炭素粒子充填率を見出し、これが上記の特性に密接に関連することを確認した。すなわち、強度や損耗速度は、活性コークスの炭素粒子充填率を調整することによって、制御することが可能である。炭素粒子充填率を制御して活性コークスを試作、評価して、上記解析で得た知見を確認した結果、上述のように、活性コークスの構造を内層部の損耗速度を表層部の損耗速度に対して大きくした2層構造とし、かつ表層部を強化することにより、平均粒子径を大きくすることができ、かつ、割れ難い活性コークスを得ることを実現したのである。
【0023】
本発明は上記の知見に基づくものであり、以下を要旨とする。
(1)石炭を主原料として製造された移動層方式の排ガス処理プロセスで使用される活性コークスであって、該活性コークスは、平均炭素粒子充填率が60%以上である表層部と、平均炭素粒子充填率が60%未満の内層部とを有する2層構造を有することを特徴とする移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。
(2)前記活性コークスの表層部と内層部との境界が前記活性コークスの半径の比率Rm/Riで0.5〜0.9の範囲にあることを特徴とする(1)に記載の移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。ただし、Rm:活性コークスの内層の半径、Ri:活性コークスの半径である。
(3)前記活性コークスの内層部の平均炭素粒子充填率に対する表層部の平均炭素粒子充填率の比が、1.07以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、活性コークスの炭素粒子充填率を中心から表面まで一様に高くしたものではなく、活性コークスの表層部の炭素粒子充填率を、内層部より大きくした2層構造とし、かつ表層部の平均炭素粒子充填率を60%以上としたことによって、また好ましくは、表層部と内層部の境界を活性コークスの半径の比率Rm/Riで0.5〜0.9の範囲とすることによって、また、好ましくは、内層部の平均炭素粒子充填率に対する表層部の平均炭素粒子充填率の比率を1.07以上とすることによって、活性コークスを移動層内に充填して使用する際の磨耗や衝撃により活性コークスが割れて小径化することを抑制することができ、補充量を少なくすることができる。また、平均粒子径をより大きく維持することができるので、排ガス処理プロセス内での圧損を小さくすることができる。
すなわち、本発明の活性コークスは、表層部の平均炭素粒子充填率を内層部よりも高くした2層構造を有している。これによって、まず、表層部の強度を向上させ、割れ難くすると共に損耗速度を小さくすることができ、耐久性が向上し、活性コークスの補充率を小さくすることができる。次に、上述のように活性コークスの内層部の平均炭素粒子充填率は表層部より低くしていることによって、ある程度消耗が進んだ段階の比較的小径の活性コークスは、損耗速度が大きくなり速やかに損耗する。従って小径の粒子が長期間反応系内に滞留することが抑制され、すなわち平均粒子径を大きく維持することができる。本発明は、活性コークスを上述のような構造とすることによって、耐久性を確保すると共に、平均粒子径を大きくすると二つの目的を達成することができ、活性コークスの補充率を小さくするとともに、反応系内の圧損を小さくすることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明をさらに具体的に説明する。
本発明において、上述のような2層構造の活性コークスを具体的に実現するために、活性コークスの強度或いは損耗速度を反映させる制御指標として、活性コークスの断面構造における炭素粒子充填率を導入し、これと活性コークスの構造、強度、平均粒子径などの特性との関係を調査した。すなわち、炭素粒子充填率は、以下の方法によって得られたものとして定義する。
これは、活性コークス(円柱体)を樹脂に埋め込みし、活性コークスの円柱軸と垂直な断面を研磨し、この断面を倍率200倍で顕微鏡観察する。約500μm×300μmの視野につき実像と比較しながら、炭素粒子と気孔の2種になるよう256階調の最小頻度付近である200に階調を固定して、白黒で2値化し、気孔面積(最小単位1μm2)と炭素粒子(炭素マトリックス)面積を計測する。次に、炭素粒子充填率(%)=炭素粒子面積/(炭素粒子面積+気孔面積)×100として炭素粒子充填率を得るものである。
【0026】
活性コークス1個について、活性コークスの断面の中心から半径方向に約500μm幅毎に観察視野とし、例えば、直径9.5mmの活性コークスの場合は、9視野となる。ここで、図5は、一例として、粒径(直径)が9.5mmの活性コークスの軸方向に垂直な断面の視野の示す模式図であり、中心から左右の観察範囲(観察範囲(1)、観察範囲(2)における約500μm幅の毎の視野を示したものである。
【0027】
図6は、活性コークスの断面における表層部と内層部の視野で顕微鏡観察した状況を例示したものであり、(a)は実像、(b)は実像を白黒2値化した像である。この2値化像により、上記のような方法で炭素粒子充填率を求めることができる。
なお、平均炭素粒子充填率は、特に断らない限り、半径方向の一連の複数視野において測定した活性コークスの炭素粒子充填率の面積加重平均であり、例えば、図5に示した観察範囲(1)または、観察範囲(2)の各視野での炭素粒子充填率をその半径領域に応じて面積加重平均したものとする。
なお、炭素粒子充填率の調査においては、調査する活性コークスの個数は特に規定するものではなく、1個の活性コークスを調査すれば良いが、ある程度の変動を考慮して、5ないし10個程度を調査し、その平均値をそのロットの炭素粒子充填率とすることが好ましい。
【0028】
次に発明者らは、この炭素粒子充填率と強度(圧潰強度)及び損耗速度との関係を調査した。後述するように活性コークスの製造において、原料炭の粒度、あるいは、ダイス形状などの成形条件を変えることにより、半径方向にはほぼ一様な炭素粒子充填率を有する従来の単層構造および、表層部と内層部で炭素充填率が異なる2層構造の活性コークスを全体での平均炭素粒子充填率レベルを変えて試作し、圧潰強度試験によりその強度(圧潰強度)を測定した。平均炭素粒子充填率と圧潰強度との関係を図7に示す。
図7により、活性コークスの単純平均炭素粒子充填率と、強度(圧潰強度)とは、明瞭な相関関係があることが確認され、炭素粒子充填率が高いと、強度が向上することがわかった。
【0029】
移動層方式の排ガス処理における活性コークスの損耗速度は、活性コークスの強度と密接に関連することも知られており、従来から強度を向上させることは活性コークスの損耗を抑制するための重要な因子とされている。上述のように活性コークスの強度(圧潰強度)と平均炭素粒子充填率とが明確な相関関係があることが確認され、平均炭素粒子充填率は損耗速度にも密接に関連するものである。
【0030】
発明者らは、このことを確認するため活性コークスについて、平均炭素粒充填率が53.9%〜64.2%までの間で変化させた6種類の活性コークスを用いて、活性コークスの耐久性(耐摩耗性)を評価する後述の硫酸強度試験を行い、残留率がほぼ20質量%となるまでの繰り返し試験回数を調査した。平均炭素粒子充填率が53.9%(従来の活性コークスの平均炭素粒子充填率のレベル)の活性コークスの試験回数に対する他の活性コークスの試験回数の比を損耗速度比として耐久性を評価した。その結果を図8に示す。図8に示すように、炭素粒子充填率が高くなると損耗速度比が小さくなるという結果が得られた。図8から判るように、活性コークスの損耗速度比も炭素粒子充填率と密接に関連していることが確認された。炭素粒子充填率が高くなるということは、活性コークス内部の炭素粒子間が緻密に結合していることを意味し、これが強度を向上させ、同時に損耗も抑制する結果、損耗速度が小さくなるものと考える。
【0031】
以上のように、上述の炭素粒子充填率は、活性コークスの強度或いは損耗速度を制御、評価するための指標となることが確認された。本発明は、この炭素粒子充填率を用いて、2層構造の活性コークスの構造を制御して製造し、特性を評価するものである。
【0032】
発明者らは、従来から使用されている粒径9.4mmの活性コークス(単層構造)(i)及び(ii)の炭素粒子充填率を調査した。その結果を表2に示すが、中心から半径方向の4.5〜5mmのごく表面では、炭素粒子充填率が他の部分と比べてやや高いものの、半径方向にばらついており、活性コークス全体の平均値で約54〜55(%)である。
【0033】
次に、これらの従来の活性コークスの断面状況をベースとして、上述のような炭素粒子充填率が高い表層部と低い内層部を有する2層構造の活性コークスを試作した。先ず、炭素粒子充填率を区分する境界位置Rm/Riを変化させた活性コークス(a)、(b)、(c)、(d)を試作製造し、その強度特性(ロガ強度及び圧潰強度)を調査した。
試作した活性コークスの(a)、(b)、(c)、(d)の構造、性状(炭素粒子充填率、Rm/Ri比率)および、強度特性を表2に示す。なお、表2には比較のため、従来の活性コークス(単層構造)(i)及び(ii)も併記した。
【0034】
【表2】
【0035】
2層構造とした本発明の活性コークス(a)、(b)、(c)おいては、表層部と内層部との境界位置Rm/Riはそれぞれ異なるが、表層部の炭素粒子充填率は62〜65%、平均炭素粒子充填率は62〜63%であり、内層部の炭素粒子充填率は52〜59%、平均炭素粒子充填率は、57〜58%であった。また、活性コークス(d)では境界位置Rm/Riは0.74と、活性コークス(b)とほぼ同様であるが、表層部では炭素粒子充填率が59%前後、平均炭素粒子充填率が約59.6%であり、内層部では炭素粒子充填率が54〜57%で、平均炭素粒子充填率が55.6%であり、全体の平均炭素粒子充填率は57.2%であった。これに対し、従来の活性コークスは、前述のように表層部から内層部にかけて54〜59%とばらついており、平均炭素粒子充填率で54〜55%程度であった。
【0036】
本発明の活性コークス(a)〜(d)では表層部の炭素粒子充填率を内層部より高くした2層構造となっており、強度特性(圧潰強度)が従来のものより優れていることが判る。また、2層構造における表層部と内層部との境界位置、すなわち、Rm/Ri比を0.5〜0.9まで変化させたが、いずれの場合も従来の活性コークスである単層構造のものに比べて、強度特性(圧潰強度)が優れている。なお、ロガ強度は、(a)〜(d)および従来の(i)(ii)ともほぼ同じレベルであり、活性コークスの構造特性を十分反映しているとは言い難いことが判った。このことから以下の強度特性については、主に、圧潰強度により評価するものとする。
【0037】
また、活性コークス(a)〜(c)と(d)とを比較すると、(a)〜(c)の圧潰強度が、(d)に比べて明らかに高いことが判る。これは、表層部の平均炭素粒子充填率が(a)〜(c)は60%以上であるのに対して、(d)では60%未満と低いためと考えられる。このため、本発明においては、表層部の平均炭素粒子充填率は60%以上とするものである。
すなわち、活性コークスを割れ難くして損耗を少なくするためには、一定以上の圧潰強度を確保することが必要であるからである。
【0038】
2層構造における表層部と内層部との境界位置、すなわち、Rm/Riは特に限定するものではないが、0.9を超えると表層部が薄すぎ、十分な強度や損耗速度の改善効果を得ることが困難となり、一方、0.5未満では、改善効果も飽和し、内部まで高度に炭素粒子充填率を上げるには製造コストが増えるため、0.5〜0.9の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.75〜0.9の範囲である。
【0039】
また、2層構造の活性コークスの内層部の平均炭素粒子充填率に対する表層部の平均炭素粒子充填率の比は、1.07以上であることが好ましい。この比が1.07未満では、2層構造とした場合の強度や損耗速度の向上効果が小さくなるからである。
この比は、好ましくは1.06以上、さらに好ましくは、1.10以上である。
【0040】
一方、これに対し、従来の活性コークス(i)、(ii)は、炭素粒子充填率が表層部から内層部にかけてばらついた単層構造であり、全平均炭素粒子充填率は、本発明の活性コークスに比べて低いものである。なお、本発明の活性コークス(d)と従来の活性コークス(ii)は、全平均炭素粒子充填率が近似しているが、2層構造である活性コークス(d)は、強度特性(圧潰強度)が従来の活性コークス(ii)に比べて格段優れており、2層構造とした活性コークスが損耗速度等に関しても有利であることが判る。しかしながら、上述のように本発明の活性コークス(a)〜(c)に比べると圧潰強度が低く、耐久性はやや劣る。
【0041】
本発明の平均炭素粒子充填率が60%以上の表層部と60%未満の内層部の2層構造を有する活性コークスにおいては、表層部と内層部の境界位置Rm/Riは、炭素粒子充填比率の測定結果から以下のようにして求めるものとする。
成形した活性コークスの断面(軸方向に垂直な断面)について、図5に示したように中心から表面に向かって500μmの範囲ごとに、例えば、0〔中心〕〜0.5mm、0.5〜1.0mm、1.0〜1.5mm…として、炭素粒子充填率を測定する。なお、各範囲の半径の上限値をもって、その範囲の炭素粒子充填率の測定位置を代表させるものとする。すなわち各範囲の代表測定位置は、0.5mm、1.0mm、1.5mm…となる。
【0042】
次に、上記の500μm毎の測定位置に対して、表層と内層との境界を想定し(以下、これを想定境界位置とする)とし、これより中心側を内層部、表面側を表層部として、上記500μm毎に測定された上記炭素粒子充填率に基づいて、表層部、内層部の平均炭素粒子充填率を計算する。なお、この平均炭素粒子充填率の値は、前述のように面積加重平均値とする。
すなわち、想定境界位置を、中心側から表面側に順次ずらして(500μmづつずらすことになる。)、それぞれの想定境界位置での表層部、内層部の平均炭素粒子充填率を求める。中心側から設定した炭素粒子充填率の測定範囲が500μmに満たない場合は、その範囲は省略するものとする。最表層部(表面からほぼ0.1mm)は、成形過程でのダイスとの接触の影響、炭化過程における加熱などにより硬化し、炭素粒子充填率は他の部分よりも著しく高いことが多い。また、この範囲は厚さも極僅かであるため活性コークス粒子全体の耐久性、耐磨耗性を評価する場合に、この部分を除いても評価しても本発明の効果が損なわれることはないからである。なお、本発明では、表層とはこの最表層も含めて表層部と言うものであることは、言うまでもない。
【0043】
次に、上記表層部及び内層部の平均炭素粒子充填率に基づいて、各想定境界位置における平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比を計算する。そして、想定境界位置と平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比との関係において、(イ)平均炭素粒子充填率の表層部/内層部比に凸状の変曲点が認められた場合はその想定境界位置において、また、(ロ)変曲点が明確でない場合は平均炭素粒子充填率の表層部/内層部比に最大値が認められた想定境界位置において、表層部と内層部の平均炭素粒子充填率を計算し、表層部の平均炭素粒子充填率が60%以上であれば、その想定境界位置を本発明の2層構造の活性コークスの表層部と内層部の境界位置とする。すなわち、2層構造における表層部と内層部の真の境界位置では、平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比はその前後で大きく変わるからである。
【0044】
図9は、表2の本発明の活性コークス(b)の境界位置の設定を説明する図である。図9は、想定境界位置(Rm/Ri)と平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比および、平均炭素粒子充填率との関係を示したものである。
図9から判るように、想定境界位置Ri/Rmを中心部から表面側に移動させた場合、0.76の位置で上に凸の変曲点が存在している。また、この位置を境界とした場合の表層部の平均炭素粒子充填率は、60%以上となっており、この位置を表層部、内層部の境界位置と定めることができる。すなわち、本発明の2層構造を有する活性コークスであると判断できる。なお、変曲点が複数見られるような場合は、平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比が最も大きい想定境界位置を境界位置とし、2層構造と判定することができる。
【0045】
また、図10は、表2の本発明の活性コークス(a)の境界位置の設定を説明する図である。図10は、図9と同様、想定境界位置(Rm/Ri)と平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比および平均炭素粒子充填率との関係を示している。図10から判るように、想定境界位置(Rm/Ri)を中心部から表面側に移動させた場合、Rm/Riが0.86の位置で表層部/内層部の比が最大となり、また、この位置での表層部の平均炭素粒子充填率は60%以上となっており、この位置を表層部、内層部の境界位置とすることができる。活性コークス(a)の場合は、図9に示した活性コークス(b)のような想定境界位置(Rm/Ri)と平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比との間に上に凸となるような変曲点は見られないが、平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比が最大となる位置とその位置での平均炭素粒子充填率を考慮することにより、表層部と内層部との境界位置を設定することができる。
【0046】
このように活性コークスを、平均炭素粒子充填率60%以上と高くした表層部とこれより平均炭素粒子充填率の低い内層部とを有する2層構造とすることによって、強度が向上し、割れ難くなって損耗速度が改善され補充率を低減することができる。そしてさらに損耗が進んである程度小径となった時点では、炭素粒子充填率の低い内層部によって損耗が加速され、小粒径の粒子としてシステム内に滞留する時間が短縮される結果、移動層方式の排ガス処理プロセスで使用した場合、平均粒子径を大きく維持することができ、排ガスの圧損を小さくすることが可能となるのである。
【0047】
上述のように、本発明の2層構造とした活性コークスは、移動層方式の排ガス処理プロセスにおいて補充率を低減することができるとともに平均粒径を大きく維持することができ、プロセスにおける排ガスの圧損を低減する効果を有するものであるが、この活性コークスは、製造において炭素粒子充填率を調整することによって得ることができる。
図11は、本発明の活性コークスの製造工程の一例を示す図である。本発明の活性コークスは、石炭、すなわち原料としての半成コークスとする半成コークス用石炭および粘結性石炭を主原料とするものである。低温乾留処理を施して原料の半成コークスとする石炭は、低温乾留炉に装入され、通常、酸素濃度が1質量%以下で、300〜600℃、好ましくは、400〜550℃の加熱雰囲気中で、炉内滞留時間が15分〜150 分以下の条件にて予備乾留されて半成コークスとされる。この半成コークスを粉砕機に投入して粉砕後、半成コークス粉ホッパーに保管する。また、粘結性石炭も粉砕機に投入して粉砕後、粘結性石炭粉ホッパーに保管する。
【0048】
次いで粉砕した半成コークス粉と粘結性石炭粉を9:1〜5:5の割合でそれぞれのホッパーから切出し、混練機にて混練する。その際、結合剤として石炭系あるいは石油系の油と成形助剤として親水系のものを同時に加えて混練する。この混練したものを造粒機に導入して粒径5〜20mmφ、長さ5〜25mmの成形物(円柱体)とする。次いで、該成形物(粒)を炭化、賦活炉に装入し、蒸気を0.5〜1.5トン/トン- 活性コークス成形物(粒)、賦活が進行するように添加しつつ、1000〜1100℃の加熱ガスを炉内に送り、成形物(粒)を800〜950℃の温度で炉内滞留時間60分〜180分、炭化、賦活した後、冷却機で冷却する。その後篩い機にて、所定の粒径未満の活性コークス粉と所定粒径以上の活性コークス製品とに篩い分け、製品、即ち、揮発分0.5〜5.0質量%、固定炭素85〜94質量%を含有する活性コークスを得ることができる。
【0049】
本発明において、活性コークスの組成は特に限定するものではないが、通常、移動層方式の排ガス処理プロセス、たとえば、乾式脱硫脱硝プロセスに使用される活性コークスの組成となるようにすることが好ましく、例えば、揮発分2質量%以上、固定炭素が87〜94質量%を含有するものである。また、比表面積は50〜500m2/grとすることが好ましい。
【0050】
また、半成コークスおよび粘結性石炭の粉砕を制御して原料の粒度を調整すること、或いは、成形時の原料の粒度の配分などを調整すること、或いは、圧縮造粒機であるディスクペレッターを使用し、更にこのディスクペレッターのダイス孔の入側形状を変えること、あるいはこれらを組合せることによって、造粒成形物の炭素粒子充填率を調整すると共に表層部の充填密度を高めることで、本発明の2層構造の割れ難い活性コークスを得ることができる。
【0051】
以下に、本発明の2層構造を有する活性コークスの製造方法の一例について説明する。
半成コークス、粘結性石炭を100μm以下の粒子が90質量%以上となるように粉砕して原料粉体とした。成形方法としては、押し出し成形(例えば、押し出し造粒機など)よりも圧縮成形が好ましく、圧縮成形機として、例えばディスクペレッターを用いることが好ましい。この圧縮成形機は、筒状体の一方の端部側に複数のダイス孔を備えたブロック体を有しており、筒状体の他方の端部側から粉体原料が圧入される。これにより、このブロック体の一方の側(入側)からダイス孔に活性コークスの粉体原料を圧入され、他方の側(出側)から成形された活性コークスを押し出されるものである。
【0052】
このブロック体のダイス孔の形状は通常、入側から出側まで同径の円柱状であるが、本発明ではこのダイス孔の入側の形状を入側に開いた円錐台状とし、中間から出側を円柱状とした。さらに、この円錐台の円錐面を、円錐の軸方向(原料流入方向となる)が曲面で形成された曲面円錐台形状とした。このような形状のダイス孔とすると、原料粉体が圧縮されてダイス孔に流入する際に、原料流入部(入側)近傍の原料粉体に対して、応力がダイス孔の曲面円錐の壁面から、円周方向並びに半径方向に均一に加わる。このとき、ダイス孔の形状が上記のような曲面円錐形状であるため、原料粉体の圧縮変形量は表層部ほど大きくなる。その結果、成形された活性コークスの炭素粒子充填率を表層部は高く緻密にし、中心側(内層部)は低いものとすることができ、本発明のような2層構造の活性コークスとすることができる。
【0053】
また、半成コークス、粘結性石炭の粉砕粒度が従来のように200μm以下が90質量%以上では、1個の炭素粒子が大きいために、圧縮成形時にその炭素粒子が一部破壊されて空隙が発生し、炭素粒子充填率を制御することが難しい。このため、粉砕粒度を100μm以下が90質量%以上となるようにすることが好ましい。このように、原料粉体の粉砕粒度を100μm以下が90質量%以上となるように調整すること、圧縮成形として成形圧力を調整すること、圧縮成形において、入側を曲面円錐台形状としたダイス孔とすること、などの条件を組み合わせることにより、本発明の平均炭素粒子充填率の異なる2層構造の活性コークスを製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
半成コークス用の石炭として、固定炭素:40質量%、揮発成分(VM):35〜48質量%、灰分:10質量%以下、結晶水:6質量%以下の石炭を用い、これを低温乾留して得た半成コークス(固定炭素:65質量%以上、揮発成分(VM):15〜25質量%、灰分:10質量%以下)と、粘結性石炭(固定炭素:65質量%以上、揮発成分(VM):15〜25質量%、灰分:10質量%以下、結晶水:2.5質量%以下)および結合助剤(タールまたはタール精製品)を用い、半成コークスと粘結性石炭の粉砕粒度、及び半成コークス、粘結性石炭、および結合助剤の配合比率を調整して混合した。この混合原料をデイスクペレッターを用い、ダイス形状、押し出し圧力を調整して成形(造粒)し、表層部、内層部の炭素粒子充填率、表層部、内層部の境界位置を変えた成形物(粒)とした。成形物(粒)は、炭化・賦活炉に装入し、所定の温度・時間で炭化・賦活し、排ガス脱硫脱硝用の2層構造の活性コークスとした。
なお、炭化・賦活炉においては、成形物(粒)物トン当たり、1.0〜1.2トンの水蒸気を添加して賦活を進行させた。実施例1〜4、および比較例1の活性コークスの製造条件を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
得られた活性コークスについて、炭素粒子充填率、Rm/Riなどの構造性状のほか、圧潰強度、ロガ強度、など強度特性を測定した。なお、炭素粒子充填率は、実施例1〜4、比較例1〜3とも5個の平均値とした。これらの結果を表4に示す。
また、活性コークスの耐久性すなわち耐損耗性を評価するため、硫酸強度試験を行った。なお、これらの諸特性は、従来の活性コークス(単層構造)の比較例2(従来の活性コークス(i)),3(従来の活性コークス(ii))についても、比較のために確認した。
なお、得られた実施例1〜4、および比較例1の活性コークスの炭素含有量は、88〜94質量%、揮発分は0.8〜3.3質量%であり、また、比較例2,3の従来の活性コークスの炭素含有量は75〜85質量%、揮発分は1.2〜3.2質量%であり、いずれも通常のレベルであり、活性コークスとしての脱硫脱硝機能は問題ないものであった。
【0057】
なお、圧潰強度、ロガ強度、および比表面積の測定、および硫酸強度試験は、以下の方法によった。
【0058】
<圧潰強度>
圧潰強度の測定方法は、図18に示すように、圧縮強度測定試験器6(インテスコ製2000型)で、活性コークス(円柱体)1の円柱軸をアンビル5に水平に置き、クロスヘッド7の下降速度を0.5mm/minとして、圧縮破壊するものであり、圧縮破壊した際の最大荷重W(kgf)を活性コークスの縦断面積S=(直径:D)×(長さ:L)で除した値を圧潰強度とした。
【0059】
<ロガ強度>
図19に示すように、円筒の対角に2箇所の高さ30mmの邪魔板8を設置した回転円筒9(200mmφ×70mm)内に活性コークスサンプル30g装入、モーター10により50rpmの回転数で円筒9を1000回転させた。その後、活性コークスを取出し、3mmの篩にて微粉を除去し、投入活性コークス重量に対する3mm篩上の重量割合を求めた。
【0060】
<比表面積>
活性コークスの試料2gをメノウで磨り潰した粉末試料を測定用セル(モノソーブ:ユアサ アイオニックス社製)に入れ、350℃で1時間窒素気流したものを、本装置により窒素-Heガス連続流動法による吸着を行い、BET一点法による比表面積を算出した。
【0061】
<硫酸強度試験>
活性コークス30gを採取し、1)これを60質量%硫酸溶液中に室温で2時間浸漬して活性コークスに硫酸を吸着させる。2)活性コークスを硫酸溶液から引き上げた後120℃で2時間乾燥させ、水分を除去する。3)次いでこれを窒素雰囲気下で400℃、2時間の保持し、硫酸を除去する再生処理を行う。4)再生処理後の活性コークスを図22に示したロガ試験機に装入し、50rpmで20分回転させる。5)その後、活性コークスを取り出し、3mmの篩にて微紛を除去し、残留した3mm篩上の重量を測定し、6)採取重量30gに対する3mm篩上の重量割合を残留率として求める。7)1)〜6)の操作を繰返して試験を行ない、残留率が0質量%あるいは20質量%近くになるまでの繰り返して試験回数により、耐久性を評価する。繰返し回数が多いもの程、耐久性に優れるものである。
【0062】
これらの活性コークスを、製鉄用焼結鉱製造装置の排ガスを処理する移動層方式の乾式脱硫脱硝装置で使用し、月間の補充率及び平均粒子径を測定した。その結果を表4に併せて示す。なお、この間に処理した排ガス量は、90万Nm3/Hr〜100万Nm3/Hrであった。
【0063】
【表4】
【0064】
実施例1〜4は本発明の2層構造を有する活性コークスであり、表層部と内層部との境界位置を表層部から内層部側に変化させたものである。比較例1の活性コークスは、境界位置が実施例2とほぼ同じ2層構造であるが、表面層の平均炭素粒子充填率が60%未満の例を示しており、比較例2,3は従来の単層構造の活性コークスの例を示している。
【0065】
すなわち、実施例1では、表層部と内層部との境界Rm/Riが0.86であり、その平均炭素粒子充填率は表層部が62.7%、内層部57.6%であり、全平均の炭素粒子充填率58.6%に対して表層部が高くなっている。その表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差は、5.1%である。また、実施例2では、表層部と内層部との境界Rm/Riが0.76であり、実施例1に比べて境界位置が内層部側になっている。その平均炭素粒子充填率は表層部が63.3%、内層部58.1%であり、全平均の炭素粒子充填率60.1%に対して表層部が高くなっている。その表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差は、5.2%である。また、実施例3では、表層部と内層部との境界Rm/Riが0.54であり、実施例1,2に比べて境界位置がさらに内層部側になっている。その平均炭素粒子充填率は表層部が63.4%、内層部57.8%であり、全平均の炭素粒子充填率61.7%に対して表層部が高くなっている。その表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差は、5.6%である。
【0066】
実施例4は、表層部と内層部の境界Rm/Riが0.76と実施例2と同様であり、表層部の平均炭素粒子充填率は、内層部が56.8%、表層部が60.6%と表層部は60%を超えており、実施例1〜3と同様本発明の2層構造の活性コークスとなっている。なお、表層部の表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差は3.8%である。実施例4の表層部の平均炭素粒子充填率は、他の実施例1〜3に比べてやや、低く、表層部の表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差も、他の実施例に比べてやや小さいものである。
【0067】
強度特性に関しては、ロガ強度は、2層構造の比較例1や単層構造である比較例2,3の活性コークスと比べ、大差はないが、圧潰強度については、2層構造である実施例1〜4の活性コークスが格段に優れていることがわかる。また、2層構造の比較例1の活性コークスは、単層構造の比較例2,3に比べて、圧潰強度は高いものの、本発明の実施例の1〜4と比べると低い。このことは、平均粒子径を見ても明らかであり、本発明である実施例1〜4の活性コークスは、比較例1の2層構造の活性コークスや比較例2,3の従来の活性コークスよりも平均粒子径が大きく、損耗が小さくまた割れ難いことがわかる。また、2層構造の比較例1の活性コークスも、単層構造に比べて平均粒径は大きいものの、実施例1〜4に比べて平均粒子径が小さい。また、実施例1〜4の月間補充率は、比較例のそれよりも小さく、耐久性に優れたものであることがわかる。
【0068】
図12は、上記の乾式脱硫脱硝装置において表4の比較例2の従来の活性コークス(i)を使用し、途中から、実施例1、実施例2、実施例3、或いは実施例4および比較例1の活性コークスを補充するようにして切り替え、その後の補充量の変化を調査したものである。各月ごとに把握された各種の活性コークスの補充量に基づいて、月間補充率および累積補充率を求め、横軸を累積補充率、縦軸を月間補充率として示したものである。横軸は累積補充率であるが、各種の活性コークスに切り替えた後の時間の経緯を意味するものである。さらに、月間補充率が安定するには、累積補充率で100%以上となることが必要であることを示している。図12および表4から明らかなように本発明の活性コークス(実施例1〜4)を使用した場合は、比較例1や比較例2(従来の活性コークス(i))の活性コークスに比べて、月間補充率が明らかに低くなり、累積補充率も低いことがわかる。なお、月間補充率は、(月間の補充重量/脱硫脱硝装置の活性コークスの総重量)×100(%)として求めた。また、累積補充率は、(累積補充量/脱硫脱硝装置の活性コークスの総重量)×100(%)として求めた。
【0069】
図13は、表4の実施例1〜4および比較例2の活性コークスを用いた場合の硫酸強度試験の結果を示すものである。図13から判るように、実施例1〜4の本発明の活性コークスは、残留率0%に近くになるまでの試験回数が比較例2の従来の活性コークスに比べて多く、耐久性に優れていることが判る。
【0070】
図14(a),(b)は、実施例1〜4の本発明の活性コークス、および比較例として従来の活性コークス(比較例2)を、上記の乾式脱硫脱硝プロセスにおいて使用し、一定期間後にサンプリングした活性コークスの粒子数分布を示すものである。これらの図からわかるように、本発明の実施例の2層構造の活性コークスは、何れも粒子数比率が低く、従来の活性コークスと比べて割れ難くなっていることが明らかである。
【0071】
本発明においては、粒径(直径)を9mm程度の活性コークスを例として説明したが、本発明はこの粒径に限定されるものではなく、通常使用される粒径(直径)5〜15mm前後、好ましくは、5〜10mmの活性コークスにおいても同様の構造とすることにより、本発明の効果を得ることができることは言うまでもない。
【0072】
以上のように、本発明の2層構造の活性コークスは、移動層方式の脱硫脱硝プロセスにおいて使用した場合、割れ難く、平均粒子径を大きく維持でき、圧損を小さくすることができる。また、補充量を少なくできるという極めて優れた特性を有する。
本発明の活性コークスの表面に、すなわち表層部の外面に、排ガスとの反応性を向上させると共に、強度を向上させるために、最外層部としてナノカーボンなどの被覆層を形成してもよく、本発明の2層構造の活性コークスの効果が損なわれるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の2層構造の活性コークスの断面を示す模式図である。
【図2】活性コークスの平均粒子径、表層部と内層部の境界位置のRm/Ri、および損耗速度の解析の結果を示す図である。
【図3】損耗速度比と最大平均粒子径との関係を示す図である。
【図4】2層構造の活性コークスの最適境界位置のRm/Riと損耗速度比との関係を示す図である。
【図5】本発明における炭素粒子充填率の測定方法を示す活性コークスの断面の模式図である。
【図6】本発明の炭素粒子充填率の測定方法における視野像の一例を示す図であり、(a)は、実像、(b)は2値化像である。
【図7】本発明における炭素粒子充填比率と強度特性(圧潰強度)との関係を示す図である。
【図8】本発明における炭素粒子充填率と損耗速度比の関係を示す図である。
【図9】本発明の2層構造の活性コークスにおける表層部、内層部の境界位置の設定を説明する図である。
【図10】本発明の2層構造の活性コークスにおける表層部、内層部の境界位置の設定を説明する他の例を示す図である。
【図11】本発明の活性コークスの製造プロセスの例を説明するフロー概要図である。
【図12】乾式脱硫脱硝プロセスにおける本発明の活性コークスの補充率の変化を示す図である。
【図13】本発明の活性コークスの耐硫酸強度試験の結果を示す図である。
【図14】乾式脱硫脱硝プロセスにおける活性コークスの粒子数分布を示す図であり、それぞれ(a)は本発明の実施例1,2の、(b)は本発明の実施例3,4および比較例2の活性コークスの場合を示す。
【図15】従来の活性コークスの粒径分布(平均粒子径)を示す図である。
【図16】従来の活性コークスの粒子数分布を示す図である。
【図17】脱硫脱硝プロセスにおける排ガス圧損と平均粒子径との関係を示す図である。
【図18】活性コークスの圧潰強度を測定する装置を示す図である。
【図19】活性コークスのロガ強度を測定する装置を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 活性コークス
2 表層部
3 内層部
4 境界位置
5 アンビル
6 圧縮強度測定試験器
7 クロスヘッド
8 邪魔板
9 回転円筒
10 モーター
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れた活性コークスに関し、特に、移動層方式の排ガス処理プロセスに使用される耐久性に優れた排ガス処理用活性コークスに関する。なお、本発明の活性コークスは、半成コークスや、粘結性石炭などの石炭を主原料とする炭素含有粒子を圧縮または押し出し成形し、炭化、賦活して製造された活性コークスの成形体を言うものとする。
【背景技術】
【0002】
化学、エネルギー、鉄鋼など、石油や石炭などの化石燃料を燃焼させる産業から排出される排ガス中には、硫黄酸化物、窒素酸化物などが多く含まれており、環境保護の観点からこれらの物質を除去し、環境中への放出を削減することが重要な課題となっている。排ガス中からこれらの硫黄酸化物や窒素酸化物を除去する排ガス処理技術、たとえば脱硫、脱硝技術には、多くの方法が開発されているが、活性コークスによる吸着作用、触媒作用を利用した移動層方式の乾式脱硫脱硝方法は、除去した硫黄酸化物や窒素酸化物の処理が湿式方式に比べて容易であるため多く採用されている。なお、この活性コークスは、工業用の活性コークスであり、主原料は、石炭(粘結性石炭)や半成コークスである。以下、排ガス処理プロセスとして乾式脱硫脱硝プロセスを例として説明するが、本願はこれに限定されるものではない。
移動層方式の乾式脱硫脱硝プロセスでは、活性コークスが乾式脱硝プロセス(反応塔)内を重力により下降移動しながら処理が進行する。その間の活性コークス同士の接触や装置壁と接触などにより活性コークスの表面が割れたり欠けたりする機械的なロス、いわゆるメカニカルロスのほかに、特に活性コークスを再生処理する工程でガス中のSOx或いはこれに混在する酸素との反応により、還元剤として消耗するケミカルロスのため、プロセスを通過した後の活性コークスはその粒径が減少する。粒径が小さくなった活性コークスや粉化した活性コークスを除去した後、必要により新しい活性コークスが補充追加されて、プロセス内に再度装入して使用するという循環使用がなされる。
しかしながら、繰り返しの使用により、移動層中の活性コークス全体としての平均粒子径は定常状態となるまで徐々に小さくなり、処理ガスの圧損が大きくなることは避けられない。
従って、これに適する活性コークスは、SOxの高吸着能、NOxのNH3添加下での高脱硝性を有するほか、移動層内での衝撃、磨耗による破壊及び、反応による粉化などを抑制するために高い耐久性が要求される。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1には、石炭を300〜600℃で低温乾留を施した半成コークスを主原料、粘結性の石炭を副原料として、結合剤と共に混合、炭化して賦活する活性炭の製造において、半成コークス原料用の石炭を、軟化溶融温度でのNMR測定結果から算出した易動性水素成分量が30%以下のものとすることにより、高強度、高吸着能を有する活性炭とすることが開示されている。
また、特許文献2には、揮発分が2.0%以上、固定炭素が87〜94%であって、さらにFe2O3+TiO2が0.7%以上、K2O+Na2O+MgOが0.3〜1.0%である活性炭が開示されている。
このように、これらの特許文献では高強度で、高吸着能を有する脱硫性能に優れ、移動層方式の乾式脱硫脱硝プロセスでの循環使用に耐え得るとされる活性炭の製造方法や、衝撃強度97%以上、ロガ強度96%以上、SO2吸着能70mg/gr以上、アンモニア添加下での脱硝率20%以上、粉化率1.0%以下の脱硫脱硝用活性炭が提案されている。
また、特許文献3には、ガソリンなどの揮発物質の気相吸着用の活性炭として、石炭を原料とする活性炭であって、硬度が90%以上、表面積が500〜1000m2/ccで、活性炭の表面に存在する細孔の直径が24〜60Åである容積が0.1cc/cc以上であり、活性炭の平均直径を0.5〜2.5mmとして通気圧損を高くしない活性炭が提案されている。
また、特許文献4には、大粒径の石炭粉と小粒径の石炭微粉とを混合してコークス基幹強度を保持すると共に、大粒径の石炭粉の周りに石炭微粉を接着するようにして内部細孔促進、表層強化を図ることが開示されている。
【特許文献1】特開2002−348111号公報
【特許文献2】特開2002−355557号公報
【特許文献3】特開平7−277716号公報
【特許文献4】特開平11−349317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜2で提案された活性コークスでは、移動層方式の排ガス処理プロセスでは、耐久性や圧損の低減に不十分であり、また、特許文献3の活性炭は移動層方式の排ガス処理プロセスを対象としたものではない。また、特許文献4では、径方向に粒子分布を制御し、強度分布を持たせることについては開示されていない。耐磨耗性を向上させることは可能であっても、排ガス処理プロセス内での平均粒子径を大きくすることは困難である。
発明者らは、耐久性に優れ、かつ圧損の少ない活性コークスを見出すために、これら活性コークスの耐久性、反応塔における圧損に与える要因等について、検討を行った。
【0005】
移動層方式の排ガス処理プロセス(例えば乾式脱硫脱硝プロセスの吸着塔)内には、1000トンないし4000トンの活性コークスが充填されており、これらの活性コークスは、吸着塔を移動通過後、抜き出され、再生、再装入の繰り返しを約50回から100回繰り返し、年単位の長時間を経て例えば、初期粒径(直径)Di:9.0〜9.5mmの状態から粒径1mm以下まで損耗していく。損耗して一定の粒径以下(通常Do:1.5mm未満)となった活性コークスは、プロセスから篩い除外され、その分量に見合う新しい活性コークスが補充される。これを繰り返すことにより、一定期間後には反応プロセス内の活性コークスの粒径は、ある定常状態の粒度分布に収束する。
本発明では、反応プロセスで収束状態(定常状態)となった状態でサンプリングされた活性コークスに対して、平均粒子径や粒子数比率などを調査し、活性コークスの特性を比較、評価している。以下の説明において、特に断らない限り、平均粒子径、粒子数比率などは上記の状態でサンプリングしたものにおける活性コークスの性状を言うものとする。
【0006】
ところで、上述のような移動層方式の排ガス処理プロセスには、通常、円柱体に成形された活性コークスが使用されることが多いので、本発明では、活性コークスは円柱体に成形されたものを例にとって説明する。すなわち、ケミカルロスやメカニカルロスは、円柱体の径方向のみならず軸方向にも進行するが、本発明の活性コークスの形状の評価においては、円柱体の直径を代表とし、粒子径として説明する。しかしながら、本発明の活性コークスは、円柱状に限るものではなく、球状、楕円体状でも良いことはいうまでもない。
【0007】
従来の各種の活性コークスS1,S2(初期粒径(直径)S1:Di:9.4mmおよびS2:Di:9.3mm)を移動層方式の反応塔に充填し、この反応塔内に燃焼排ガスを向流方式で通過させ、一定期間、循環使用した場合の活性コークスの損耗を、特に、粒径分布、平均粒子径、粒子数比率などに注目して調査した。
なお、本発明で言う“従来の活性コークス”(活性コークスS1,S2、従来の活性コークス(i)、(ii)など)とは、購入した市販の活性コークスを意味するものである。
【0008】
図15は、従来の活性コークスのS1,S2を脱硫脱硝プロセスにおいて一定期間使用した後の粒径分布および平均粒子径を示しているが、機械的な磨耗や化学的なロスにより平均粒子径は小さくなっている。
また、図16は、上記活性コークスS1,S2の粒子数比率、すなわち、一定期間使用後の粒径範囲毎の粒子数を初期の粒子数に対する比率で示したものであり、例えば300%とは、活性コークスが割れること等によって、その範囲の粒子数が3倍に増えていることを示す。図16から判るように、粒子数比率は、粒径の小さいものほど著るしく大きくなっている。この粒径分布の変化は、循環使用中に粒子が一様に摩耗して小径となるのみならず、粒子が途中で割れて小粒径化していることを示している。
【0009】
移動層方式の脱硫脱硝プロセスでは、ケミカルロスやメカニカルロスなどによる活性コークスの粒径の減少速度(以下、損耗速度とも言う)は、活性コークスの粒径が小さくなるほど、相対的に大きくなることが一般的に知られており、従って、使用中に割れて小粒径化すると補充量も増えることとなる。
【0010】
また、図17は、活性コークスの平均粒子径と脱硫脱硝プロセスの吸着塔(反応塔)における排ガスの圧損との関係を示したものであるが、平均粒子径が小さくなるほど吸着塔における排ガスの圧損が大きくなるため、活性コークスの平均粒子径が脱硫脱硝プロセスの操業に大きな影響を与えることが判る。
このことから、移動層方式の排ガス処理プロセスに使用するのに好適な、圧損が小さく、補充量も少なくてよい活性コークスは、損耗速度が小さく、割れ難く、かつ平均粒子径を大きく維持できる活性コークスとすることが重要であることが判った。
本発明は、このような、移動層方式の排ガス処理プロセスにて使用される、平均粒子径を大きく維持でき、且つ割れ難く補充量を少なくできる活性コークスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、まず、従来の活性コークスが割れ易く、割れることにより平均粒子径が小さくなってさらに損耗速度が早くなり、このため補充量が増大することに着目し、活性コークス自体の強度を大きくして、割れ難くすることの効果を解析により検討した。
すなわち、半径方向の強度を一様に強化した活性コークスは、i)途中で割れることはなく、ii)半径方向の損耗速度は一定であり、iii )損耗は半径方向にのみで生じると仮定すると、移動層方式の排ガス処理プロセスにおいて一定期間使用し、定常状態となった活性コークスの平均粒径は簡単な計算により求めることができる。
一個の活性コークスに注目して考えると、活性コークスの粒径は時間に比例して小さくなるが損耗は半径方向にしか生じないと仮定しているので、活性コークスの重量は粒径の二乗に比例することになる。
【0012】
上記の解析では、活性コークスの半径方向に一様に強度を高める、つまり、損耗速度はどの領域も同じ、すなわち1とし、活性コークスの初期粒径Diは9.5mmとし、篩で除去する寸法Doは1.5mm未満とした。
その結果、表1に示すように、平均粒子径は、7.14mmが得られた。
【0013】
一方、先に述べたように、従来の活性コークスを実際に移動層方式の脱硫脱硝プロセスで使用した場合、初期粒径Diが9.3mm(S2)の場合は、図15に示したように、平均粒子径は、7.3mm前後であり、解析において活性コークスの全体をほぼ一様に強化することを仮定した場合と大きく変わらない。すなわち、活性コークスの全体を一様に強化すれば割れが少なくなり、補充量を低減できるが、平均粒子径は従来と同程度であり、圧損をより小さくする効果を期待することはできないことが判った。
このため、次に本発明者らは、活性コークスの断面構造(ここでは、円柱状に成形した活性コークスを想定しており、断面構造は、円柱軸に垂直な断面である)に着目し、活性コークスの強度を半径方向に一様にするのではなく、半径方向に強度あるいは損耗速度の差を付けた2層構造(表層部と内層部)の活性コークスとした場合の平均粒子径について検討した。
【0014】
すなわち、活性コークスの半径方向に、損耗速度を変えた構造を有する活性コークスとした場合の平均粒子径の変化について解析を行ない検討した。
図1は、本発明の2層構造の活性コークスの中心軸に直角な断面の状況を示す模式図である。
この解析において活性コークス1を半径方向に表層部2と内層部3の二つの2区分とし、表層部の損耗速度1に対して、それより中心側(内層部)の損耗速度を1より大きいものとした。ここで損耗速度比=内層部の損耗速度/表層部の損耗速度と定義する。すなわち、損耗速度比が、5とは、内層部の損耗速度が表層部の損耗速度の5倍であることを示すものである。この損耗速度比は、後述するように活性コークスの圧潰強度などと関連するものである。また、表層部と内層部を区分する半径方向の境界位置4を変化させるものとした。なお、この境界位置4は、初期半径Riに対する内層部の半径Rmの比Rm/Riで示すことができる。
また、この解析では、上記と同様、初期粒径Diは、9.5mm、除去する篩径Doは1.5mmとした。
【0015】
活性コークスを2層構造とし、それぞれの層における強度は一様とした活性コークスにおいて、i)途中で割れることはなく、ii)それぞれの層内における半径方向の損耗速度は一定であり、iii )損耗は半径方向にのみで生じると仮定すると、移動層方式の排ガス処理プロセスにおいて一定期間使用し、定常状態となった活性コークスの平均粒径は簡単な計算により求めることができる。
すなわち、一個の活性コークスに注目して考えると、活性コークスの粒径は時間に比例して小さくなる(損耗する)が、損耗は半径方向に生じると仮定しているので、各粒径範囲に滞留する時間は損耗速度に反比例して短くなるが、各粒径範囲の個数比はこの滞在時間に比例する。すなわち、各粒径範囲での損耗速度と個数比の積は一定の値となる。この関係を用いて平均粒子径を求め、その結果を表1に示している。なお、比較のため、単層構造、すなわち、前述の損耗速度が、半径方向に一様である場合(損耗速度比1)の結果を表1に示す。
例えば、2層構造の活性コークスの表層部と内層部の境界位置を、粒径でDm=8mm(Rm=4mm)とし、損耗速度を表層部1、内層部4とした(損耗速度比4)活性コークスの例では、表1に示すように、平均粒子径は8.045mmであり、比較例として示した単層構造、すなわち損耗速度を一様に全て1とした場合の活性コークスの平均粒径7.14mmと比べ、平均粒径を大幅に増やすことができることがわかる。
【0016】
【表1】
【0017】
発明者らは、さらに、この解析において、損耗速度比を1.25〜16、すなわち表層部の損耗速度1に対して、内層部のそれを1.25〜16倍となる範囲まで変化させると共に、表層部と内層部との境界位置(Rm/Ri)を変化させ、それぞれの場合において平均粒子径を求めた。
【0018】
図2は、その結果を示すものであるが、損耗速度比が大きくなるほど、言い換えれば、内層部の損耗速度が表層部の損耗速度より大きいほど、平均粒子径は大きくなる傾向にあることが判る。また、平均粒子径は、表層部と内層部との損耗速度比の大きさおよび、表層部と内層部とを区分する境界位置によって変化することが判る。そして、平均粒子径が最大となる場合(最大平均粒径)の境界位置(以後、この境界位置を最適境界位置とも記す。)のRm/Riも、各損耗速度比により異なることが判る。
図2の結果にもとづき、損耗速度比と最大平均粒子径との関係を図3に示した。損耗速度比を大きくすると、すなわち、表層部の損耗速度に対して、内層部の損耗速度を大きくすると、平均粒子径を大きくすることができることが判る。
【0019】
また、図4は、最大の平均粒子径が得られる場合の表層部、内層部の境界位置(最適境界位置)のRm/Riと損耗速度比との関係を示すものである。なお、図4の横軸は、損耗速度比をその対数値で示している。
例えば、図3、図4から、損耗速度比が1.25の場合、最大平均粒子径は7.30mmであり、最適境界位置のRm/Riは0.78であるが、損耗速度比が8の場合、最大平均粒子径は8.36mmであり、最適境界位置のRm/Riは、ほぼ0.87となる。
【0020】
また、図4から判るように、最大の平均粒子径を与える場合の表層部と内層部とを区分する境界位置(最適境界位置)Rm/Riは、損耗速度比が大きくなるほど、大きくなる。すなわち、損耗速度比が大きい場合ほど、最適境界位置は表面に近くなっており、0.5〜0.9の範囲にあることが判る。
【0021】
発明者らは、活性コークスの初期粒径Diが、上記9.5mmの場合の他に、5.6mmの場合、及び15mmとした場合についても、同様の解析を行なったが、解析の結果によれば、平均粒子径が最大となる場合の境界位置(最適境界位置)は、損耗速度比により異なるものの、その範囲はほぼ0.5〜0.9の範囲にあると考えられ、活性コークスの初期粒径にはあまり影響されないことが判った。
【0022】
このように、活性コークスの表層部と内層部との2層構造とし、表層部の損耗速度に対して、内層部のそれを大きくする、すなわち、損耗速度比を1超とすることによって、平均粒子径を大きくすることができることが判った。
発明者らは、さらに上述の活性コークスの強度や損耗速度を制御する要素として、活性コークスの炭素粒子充填率を見出し、これが上記の特性に密接に関連することを確認した。すなわち、強度や損耗速度は、活性コークスの炭素粒子充填率を調整することによって、制御することが可能である。炭素粒子充填率を制御して活性コークスを試作、評価して、上記解析で得た知見を確認した結果、上述のように、活性コークスの構造を内層部の損耗速度を表層部の損耗速度に対して大きくした2層構造とし、かつ表層部を強化することにより、平均粒子径を大きくすることができ、かつ、割れ難い活性コークスを得ることを実現したのである。
【0023】
本発明は上記の知見に基づくものであり、以下を要旨とする。
(1)石炭を主原料として製造された移動層方式の排ガス処理プロセスで使用される活性コークスであって、該活性コークスは、平均炭素粒子充填率が60%以上である表層部と、平均炭素粒子充填率が60%未満の内層部とを有する2層構造を有することを特徴とする移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。
(2)前記活性コークスの表層部と内層部との境界が前記活性コークスの半径の比率Rm/Riで0.5〜0.9の範囲にあることを特徴とする(1)に記載の移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。ただし、Rm:活性コークスの内層の半径、Ri:活性コークスの半径である。
(3)前記活性コークスの内層部の平均炭素粒子充填率に対する表層部の平均炭素粒子充填率の比が、1.07以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、活性コークスの炭素粒子充填率を中心から表面まで一様に高くしたものではなく、活性コークスの表層部の炭素粒子充填率を、内層部より大きくした2層構造とし、かつ表層部の平均炭素粒子充填率を60%以上としたことによって、また好ましくは、表層部と内層部の境界を活性コークスの半径の比率Rm/Riで0.5〜0.9の範囲とすることによって、また、好ましくは、内層部の平均炭素粒子充填率に対する表層部の平均炭素粒子充填率の比率を1.07以上とすることによって、活性コークスを移動層内に充填して使用する際の磨耗や衝撃により活性コークスが割れて小径化することを抑制することができ、補充量を少なくすることができる。また、平均粒子径をより大きく維持することができるので、排ガス処理プロセス内での圧損を小さくすることができる。
すなわち、本発明の活性コークスは、表層部の平均炭素粒子充填率を内層部よりも高くした2層構造を有している。これによって、まず、表層部の強度を向上させ、割れ難くすると共に損耗速度を小さくすることができ、耐久性が向上し、活性コークスの補充率を小さくすることができる。次に、上述のように活性コークスの内層部の平均炭素粒子充填率は表層部より低くしていることによって、ある程度消耗が進んだ段階の比較的小径の活性コークスは、損耗速度が大きくなり速やかに損耗する。従って小径の粒子が長期間反応系内に滞留することが抑制され、すなわち平均粒子径を大きく維持することができる。本発明は、活性コークスを上述のような構造とすることによって、耐久性を確保すると共に、平均粒子径を大きくすると二つの目的を達成することができ、活性コークスの補充率を小さくするとともに、反応系内の圧損を小さくすることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明をさらに具体的に説明する。
本発明において、上述のような2層構造の活性コークスを具体的に実現するために、活性コークスの強度或いは損耗速度を反映させる制御指標として、活性コークスの断面構造における炭素粒子充填率を導入し、これと活性コークスの構造、強度、平均粒子径などの特性との関係を調査した。すなわち、炭素粒子充填率は、以下の方法によって得られたものとして定義する。
これは、活性コークス(円柱体)を樹脂に埋め込みし、活性コークスの円柱軸と垂直な断面を研磨し、この断面を倍率200倍で顕微鏡観察する。約500μm×300μmの視野につき実像と比較しながら、炭素粒子と気孔の2種になるよう256階調の最小頻度付近である200に階調を固定して、白黒で2値化し、気孔面積(最小単位1μm2)と炭素粒子(炭素マトリックス)面積を計測する。次に、炭素粒子充填率(%)=炭素粒子面積/(炭素粒子面積+気孔面積)×100として炭素粒子充填率を得るものである。
【0026】
活性コークス1個について、活性コークスの断面の中心から半径方向に約500μm幅毎に観察視野とし、例えば、直径9.5mmの活性コークスの場合は、9視野となる。ここで、図5は、一例として、粒径(直径)が9.5mmの活性コークスの軸方向に垂直な断面の視野の示す模式図であり、中心から左右の観察範囲(観察範囲(1)、観察範囲(2)における約500μm幅の毎の視野を示したものである。
【0027】
図6は、活性コークスの断面における表層部と内層部の視野で顕微鏡観察した状況を例示したものであり、(a)は実像、(b)は実像を白黒2値化した像である。この2値化像により、上記のような方法で炭素粒子充填率を求めることができる。
なお、平均炭素粒子充填率は、特に断らない限り、半径方向の一連の複数視野において測定した活性コークスの炭素粒子充填率の面積加重平均であり、例えば、図5に示した観察範囲(1)または、観察範囲(2)の各視野での炭素粒子充填率をその半径領域に応じて面積加重平均したものとする。
なお、炭素粒子充填率の調査においては、調査する活性コークスの個数は特に規定するものではなく、1個の活性コークスを調査すれば良いが、ある程度の変動を考慮して、5ないし10個程度を調査し、その平均値をそのロットの炭素粒子充填率とすることが好ましい。
【0028】
次に発明者らは、この炭素粒子充填率と強度(圧潰強度)及び損耗速度との関係を調査した。後述するように活性コークスの製造において、原料炭の粒度、あるいは、ダイス形状などの成形条件を変えることにより、半径方向にはほぼ一様な炭素粒子充填率を有する従来の単層構造および、表層部と内層部で炭素充填率が異なる2層構造の活性コークスを全体での平均炭素粒子充填率レベルを変えて試作し、圧潰強度試験によりその強度(圧潰強度)を測定した。平均炭素粒子充填率と圧潰強度との関係を図7に示す。
図7により、活性コークスの単純平均炭素粒子充填率と、強度(圧潰強度)とは、明瞭な相関関係があることが確認され、炭素粒子充填率が高いと、強度が向上することがわかった。
【0029】
移動層方式の排ガス処理における活性コークスの損耗速度は、活性コークスの強度と密接に関連することも知られており、従来から強度を向上させることは活性コークスの損耗を抑制するための重要な因子とされている。上述のように活性コークスの強度(圧潰強度)と平均炭素粒子充填率とが明確な相関関係があることが確認され、平均炭素粒子充填率は損耗速度にも密接に関連するものである。
【0030】
発明者らは、このことを確認するため活性コークスについて、平均炭素粒充填率が53.9%〜64.2%までの間で変化させた6種類の活性コークスを用いて、活性コークスの耐久性(耐摩耗性)を評価する後述の硫酸強度試験を行い、残留率がほぼ20質量%となるまでの繰り返し試験回数を調査した。平均炭素粒子充填率が53.9%(従来の活性コークスの平均炭素粒子充填率のレベル)の活性コークスの試験回数に対する他の活性コークスの試験回数の比を損耗速度比として耐久性を評価した。その結果を図8に示す。図8に示すように、炭素粒子充填率が高くなると損耗速度比が小さくなるという結果が得られた。図8から判るように、活性コークスの損耗速度比も炭素粒子充填率と密接に関連していることが確認された。炭素粒子充填率が高くなるということは、活性コークス内部の炭素粒子間が緻密に結合していることを意味し、これが強度を向上させ、同時に損耗も抑制する結果、損耗速度が小さくなるものと考える。
【0031】
以上のように、上述の炭素粒子充填率は、活性コークスの強度或いは損耗速度を制御、評価するための指標となることが確認された。本発明は、この炭素粒子充填率を用いて、2層構造の活性コークスの構造を制御して製造し、特性を評価するものである。
【0032】
発明者らは、従来から使用されている粒径9.4mmの活性コークス(単層構造)(i)及び(ii)の炭素粒子充填率を調査した。その結果を表2に示すが、中心から半径方向の4.5〜5mmのごく表面では、炭素粒子充填率が他の部分と比べてやや高いものの、半径方向にばらついており、活性コークス全体の平均値で約54〜55(%)である。
【0033】
次に、これらの従来の活性コークスの断面状況をベースとして、上述のような炭素粒子充填率が高い表層部と低い内層部を有する2層構造の活性コークスを試作した。先ず、炭素粒子充填率を区分する境界位置Rm/Riを変化させた活性コークス(a)、(b)、(c)、(d)を試作製造し、その強度特性(ロガ強度及び圧潰強度)を調査した。
試作した活性コークスの(a)、(b)、(c)、(d)の構造、性状(炭素粒子充填率、Rm/Ri比率)および、強度特性を表2に示す。なお、表2には比較のため、従来の活性コークス(単層構造)(i)及び(ii)も併記した。
【0034】
【表2】
【0035】
2層構造とした本発明の活性コークス(a)、(b)、(c)おいては、表層部と内層部との境界位置Rm/Riはそれぞれ異なるが、表層部の炭素粒子充填率は62〜65%、平均炭素粒子充填率は62〜63%であり、内層部の炭素粒子充填率は52〜59%、平均炭素粒子充填率は、57〜58%であった。また、活性コークス(d)では境界位置Rm/Riは0.74と、活性コークス(b)とほぼ同様であるが、表層部では炭素粒子充填率が59%前後、平均炭素粒子充填率が約59.6%であり、内層部では炭素粒子充填率が54〜57%で、平均炭素粒子充填率が55.6%であり、全体の平均炭素粒子充填率は57.2%であった。これに対し、従来の活性コークスは、前述のように表層部から内層部にかけて54〜59%とばらついており、平均炭素粒子充填率で54〜55%程度であった。
【0036】
本発明の活性コークス(a)〜(d)では表層部の炭素粒子充填率を内層部より高くした2層構造となっており、強度特性(圧潰強度)が従来のものより優れていることが判る。また、2層構造における表層部と内層部との境界位置、すなわち、Rm/Ri比を0.5〜0.9まで変化させたが、いずれの場合も従来の活性コークスである単層構造のものに比べて、強度特性(圧潰強度)が優れている。なお、ロガ強度は、(a)〜(d)および従来の(i)(ii)ともほぼ同じレベルであり、活性コークスの構造特性を十分反映しているとは言い難いことが判った。このことから以下の強度特性については、主に、圧潰強度により評価するものとする。
【0037】
また、活性コークス(a)〜(c)と(d)とを比較すると、(a)〜(c)の圧潰強度が、(d)に比べて明らかに高いことが判る。これは、表層部の平均炭素粒子充填率が(a)〜(c)は60%以上であるのに対して、(d)では60%未満と低いためと考えられる。このため、本発明においては、表層部の平均炭素粒子充填率は60%以上とするものである。
すなわち、活性コークスを割れ難くして損耗を少なくするためには、一定以上の圧潰強度を確保することが必要であるからである。
【0038】
2層構造における表層部と内層部との境界位置、すなわち、Rm/Riは特に限定するものではないが、0.9を超えると表層部が薄すぎ、十分な強度や損耗速度の改善効果を得ることが困難となり、一方、0.5未満では、改善効果も飽和し、内部まで高度に炭素粒子充填率を上げるには製造コストが増えるため、0.5〜0.9の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.75〜0.9の範囲である。
【0039】
また、2層構造の活性コークスの内層部の平均炭素粒子充填率に対する表層部の平均炭素粒子充填率の比は、1.07以上であることが好ましい。この比が1.07未満では、2層構造とした場合の強度や損耗速度の向上効果が小さくなるからである。
この比は、好ましくは1.06以上、さらに好ましくは、1.10以上である。
【0040】
一方、これに対し、従来の活性コークス(i)、(ii)は、炭素粒子充填率が表層部から内層部にかけてばらついた単層構造であり、全平均炭素粒子充填率は、本発明の活性コークスに比べて低いものである。なお、本発明の活性コークス(d)と従来の活性コークス(ii)は、全平均炭素粒子充填率が近似しているが、2層構造である活性コークス(d)は、強度特性(圧潰強度)が従来の活性コークス(ii)に比べて格段優れており、2層構造とした活性コークスが損耗速度等に関しても有利であることが判る。しかしながら、上述のように本発明の活性コークス(a)〜(c)に比べると圧潰強度が低く、耐久性はやや劣る。
【0041】
本発明の平均炭素粒子充填率が60%以上の表層部と60%未満の内層部の2層構造を有する活性コークスにおいては、表層部と内層部の境界位置Rm/Riは、炭素粒子充填比率の測定結果から以下のようにして求めるものとする。
成形した活性コークスの断面(軸方向に垂直な断面)について、図5に示したように中心から表面に向かって500μmの範囲ごとに、例えば、0〔中心〕〜0.5mm、0.5〜1.0mm、1.0〜1.5mm…として、炭素粒子充填率を測定する。なお、各範囲の半径の上限値をもって、その範囲の炭素粒子充填率の測定位置を代表させるものとする。すなわち各範囲の代表測定位置は、0.5mm、1.0mm、1.5mm…となる。
【0042】
次に、上記の500μm毎の測定位置に対して、表層と内層との境界を想定し(以下、これを想定境界位置とする)とし、これより中心側を内層部、表面側を表層部として、上記500μm毎に測定された上記炭素粒子充填率に基づいて、表層部、内層部の平均炭素粒子充填率を計算する。なお、この平均炭素粒子充填率の値は、前述のように面積加重平均値とする。
すなわち、想定境界位置を、中心側から表面側に順次ずらして(500μmづつずらすことになる。)、それぞれの想定境界位置での表層部、内層部の平均炭素粒子充填率を求める。中心側から設定した炭素粒子充填率の測定範囲が500μmに満たない場合は、その範囲は省略するものとする。最表層部(表面からほぼ0.1mm)は、成形過程でのダイスとの接触の影響、炭化過程における加熱などにより硬化し、炭素粒子充填率は他の部分よりも著しく高いことが多い。また、この範囲は厚さも極僅かであるため活性コークス粒子全体の耐久性、耐磨耗性を評価する場合に、この部分を除いても評価しても本発明の効果が損なわれることはないからである。なお、本発明では、表層とはこの最表層も含めて表層部と言うものであることは、言うまでもない。
【0043】
次に、上記表層部及び内層部の平均炭素粒子充填率に基づいて、各想定境界位置における平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比を計算する。そして、想定境界位置と平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比との関係において、(イ)平均炭素粒子充填率の表層部/内層部比に凸状の変曲点が認められた場合はその想定境界位置において、また、(ロ)変曲点が明確でない場合は平均炭素粒子充填率の表層部/内層部比に最大値が認められた想定境界位置において、表層部と内層部の平均炭素粒子充填率を計算し、表層部の平均炭素粒子充填率が60%以上であれば、その想定境界位置を本発明の2層構造の活性コークスの表層部と内層部の境界位置とする。すなわち、2層構造における表層部と内層部の真の境界位置では、平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比はその前後で大きく変わるからである。
【0044】
図9は、表2の本発明の活性コークス(b)の境界位置の設定を説明する図である。図9は、想定境界位置(Rm/Ri)と平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比および、平均炭素粒子充填率との関係を示したものである。
図9から判るように、想定境界位置Ri/Rmを中心部から表面側に移動させた場合、0.76の位置で上に凸の変曲点が存在している。また、この位置を境界とした場合の表層部の平均炭素粒子充填率は、60%以上となっており、この位置を表層部、内層部の境界位置と定めることができる。すなわち、本発明の2層構造を有する活性コークスであると判断できる。なお、変曲点が複数見られるような場合は、平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比が最も大きい想定境界位置を境界位置とし、2層構造と判定することができる。
【0045】
また、図10は、表2の本発明の活性コークス(a)の境界位置の設定を説明する図である。図10は、図9と同様、想定境界位置(Rm/Ri)と平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比および平均炭素粒子充填率との関係を示している。図10から判るように、想定境界位置(Rm/Ri)を中心部から表面側に移動させた場合、Rm/Riが0.86の位置で表層部/内層部の比が最大となり、また、この位置での表層部の平均炭素粒子充填率は60%以上となっており、この位置を表層部、内層部の境界位置とすることができる。活性コークス(a)の場合は、図9に示した活性コークス(b)のような想定境界位置(Rm/Ri)と平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比との間に上に凸となるような変曲点は見られないが、平均炭素粒子充填率の表層部/内層部の比が最大となる位置とその位置での平均炭素粒子充填率を考慮することにより、表層部と内層部との境界位置を設定することができる。
【0046】
このように活性コークスを、平均炭素粒子充填率60%以上と高くした表層部とこれより平均炭素粒子充填率の低い内層部とを有する2層構造とすることによって、強度が向上し、割れ難くなって損耗速度が改善され補充率を低減することができる。そしてさらに損耗が進んである程度小径となった時点では、炭素粒子充填率の低い内層部によって損耗が加速され、小粒径の粒子としてシステム内に滞留する時間が短縮される結果、移動層方式の排ガス処理プロセスで使用した場合、平均粒子径を大きく維持することができ、排ガスの圧損を小さくすることが可能となるのである。
【0047】
上述のように、本発明の2層構造とした活性コークスは、移動層方式の排ガス処理プロセスにおいて補充率を低減することができるとともに平均粒径を大きく維持することができ、プロセスにおける排ガスの圧損を低減する効果を有するものであるが、この活性コークスは、製造において炭素粒子充填率を調整することによって得ることができる。
図11は、本発明の活性コークスの製造工程の一例を示す図である。本発明の活性コークスは、石炭、すなわち原料としての半成コークスとする半成コークス用石炭および粘結性石炭を主原料とするものである。低温乾留処理を施して原料の半成コークスとする石炭は、低温乾留炉に装入され、通常、酸素濃度が1質量%以下で、300〜600℃、好ましくは、400〜550℃の加熱雰囲気中で、炉内滞留時間が15分〜150 分以下の条件にて予備乾留されて半成コークスとされる。この半成コークスを粉砕機に投入して粉砕後、半成コークス粉ホッパーに保管する。また、粘結性石炭も粉砕機に投入して粉砕後、粘結性石炭粉ホッパーに保管する。
【0048】
次いで粉砕した半成コークス粉と粘結性石炭粉を9:1〜5:5の割合でそれぞれのホッパーから切出し、混練機にて混練する。その際、結合剤として石炭系あるいは石油系の油と成形助剤として親水系のものを同時に加えて混練する。この混練したものを造粒機に導入して粒径5〜20mmφ、長さ5〜25mmの成形物(円柱体)とする。次いで、該成形物(粒)を炭化、賦活炉に装入し、蒸気を0.5〜1.5トン/トン- 活性コークス成形物(粒)、賦活が進行するように添加しつつ、1000〜1100℃の加熱ガスを炉内に送り、成形物(粒)を800〜950℃の温度で炉内滞留時間60分〜180分、炭化、賦活した後、冷却機で冷却する。その後篩い機にて、所定の粒径未満の活性コークス粉と所定粒径以上の活性コークス製品とに篩い分け、製品、即ち、揮発分0.5〜5.0質量%、固定炭素85〜94質量%を含有する活性コークスを得ることができる。
【0049】
本発明において、活性コークスの組成は特に限定するものではないが、通常、移動層方式の排ガス処理プロセス、たとえば、乾式脱硫脱硝プロセスに使用される活性コークスの組成となるようにすることが好ましく、例えば、揮発分2質量%以上、固定炭素が87〜94質量%を含有するものである。また、比表面積は50〜500m2/grとすることが好ましい。
【0050】
また、半成コークスおよび粘結性石炭の粉砕を制御して原料の粒度を調整すること、或いは、成形時の原料の粒度の配分などを調整すること、或いは、圧縮造粒機であるディスクペレッターを使用し、更にこのディスクペレッターのダイス孔の入側形状を変えること、あるいはこれらを組合せることによって、造粒成形物の炭素粒子充填率を調整すると共に表層部の充填密度を高めることで、本発明の2層構造の割れ難い活性コークスを得ることができる。
【0051】
以下に、本発明の2層構造を有する活性コークスの製造方法の一例について説明する。
半成コークス、粘結性石炭を100μm以下の粒子が90質量%以上となるように粉砕して原料粉体とした。成形方法としては、押し出し成形(例えば、押し出し造粒機など)よりも圧縮成形が好ましく、圧縮成形機として、例えばディスクペレッターを用いることが好ましい。この圧縮成形機は、筒状体の一方の端部側に複数のダイス孔を備えたブロック体を有しており、筒状体の他方の端部側から粉体原料が圧入される。これにより、このブロック体の一方の側(入側)からダイス孔に活性コークスの粉体原料を圧入され、他方の側(出側)から成形された活性コークスを押し出されるものである。
【0052】
このブロック体のダイス孔の形状は通常、入側から出側まで同径の円柱状であるが、本発明ではこのダイス孔の入側の形状を入側に開いた円錐台状とし、中間から出側を円柱状とした。さらに、この円錐台の円錐面を、円錐の軸方向(原料流入方向となる)が曲面で形成された曲面円錐台形状とした。このような形状のダイス孔とすると、原料粉体が圧縮されてダイス孔に流入する際に、原料流入部(入側)近傍の原料粉体に対して、応力がダイス孔の曲面円錐の壁面から、円周方向並びに半径方向に均一に加わる。このとき、ダイス孔の形状が上記のような曲面円錐形状であるため、原料粉体の圧縮変形量は表層部ほど大きくなる。その結果、成形された活性コークスの炭素粒子充填率を表層部は高く緻密にし、中心側(内層部)は低いものとすることができ、本発明のような2層構造の活性コークスとすることができる。
【0053】
また、半成コークス、粘結性石炭の粉砕粒度が従来のように200μm以下が90質量%以上では、1個の炭素粒子が大きいために、圧縮成形時にその炭素粒子が一部破壊されて空隙が発生し、炭素粒子充填率を制御することが難しい。このため、粉砕粒度を100μm以下が90質量%以上となるようにすることが好ましい。このように、原料粉体の粉砕粒度を100μm以下が90質量%以上となるように調整すること、圧縮成形として成形圧力を調整すること、圧縮成形において、入側を曲面円錐台形状としたダイス孔とすること、などの条件を組み合わせることにより、本発明の平均炭素粒子充填率の異なる2層構造の活性コークスを製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
半成コークス用の石炭として、固定炭素:40質量%、揮発成分(VM):35〜48質量%、灰分:10質量%以下、結晶水:6質量%以下の石炭を用い、これを低温乾留して得た半成コークス(固定炭素:65質量%以上、揮発成分(VM):15〜25質量%、灰分:10質量%以下)と、粘結性石炭(固定炭素:65質量%以上、揮発成分(VM):15〜25質量%、灰分:10質量%以下、結晶水:2.5質量%以下)および結合助剤(タールまたはタール精製品)を用い、半成コークスと粘結性石炭の粉砕粒度、及び半成コークス、粘結性石炭、および結合助剤の配合比率を調整して混合した。この混合原料をデイスクペレッターを用い、ダイス形状、押し出し圧力を調整して成形(造粒)し、表層部、内層部の炭素粒子充填率、表層部、内層部の境界位置を変えた成形物(粒)とした。成形物(粒)は、炭化・賦活炉に装入し、所定の温度・時間で炭化・賦活し、排ガス脱硫脱硝用の2層構造の活性コークスとした。
なお、炭化・賦活炉においては、成形物(粒)物トン当たり、1.0〜1.2トンの水蒸気を添加して賦活を進行させた。実施例1〜4、および比較例1の活性コークスの製造条件を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
得られた活性コークスについて、炭素粒子充填率、Rm/Riなどの構造性状のほか、圧潰強度、ロガ強度、など強度特性を測定した。なお、炭素粒子充填率は、実施例1〜4、比較例1〜3とも5個の平均値とした。これらの結果を表4に示す。
また、活性コークスの耐久性すなわち耐損耗性を評価するため、硫酸強度試験を行った。なお、これらの諸特性は、従来の活性コークス(単層構造)の比較例2(従来の活性コークス(i)),3(従来の活性コークス(ii))についても、比較のために確認した。
なお、得られた実施例1〜4、および比較例1の活性コークスの炭素含有量は、88〜94質量%、揮発分は0.8〜3.3質量%であり、また、比較例2,3の従来の活性コークスの炭素含有量は75〜85質量%、揮発分は1.2〜3.2質量%であり、いずれも通常のレベルであり、活性コークスとしての脱硫脱硝機能は問題ないものであった。
【0057】
なお、圧潰強度、ロガ強度、および比表面積の測定、および硫酸強度試験は、以下の方法によった。
【0058】
<圧潰強度>
圧潰強度の測定方法は、図18に示すように、圧縮強度測定試験器6(インテスコ製2000型)で、活性コークス(円柱体)1の円柱軸をアンビル5に水平に置き、クロスヘッド7の下降速度を0.5mm/minとして、圧縮破壊するものであり、圧縮破壊した際の最大荷重W(kgf)を活性コークスの縦断面積S=(直径:D)×(長さ:L)で除した値を圧潰強度とした。
【0059】
<ロガ強度>
図19に示すように、円筒の対角に2箇所の高さ30mmの邪魔板8を設置した回転円筒9(200mmφ×70mm)内に活性コークスサンプル30g装入、モーター10により50rpmの回転数で円筒9を1000回転させた。その後、活性コークスを取出し、3mmの篩にて微粉を除去し、投入活性コークス重量に対する3mm篩上の重量割合を求めた。
【0060】
<比表面積>
活性コークスの試料2gをメノウで磨り潰した粉末試料を測定用セル(モノソーブ:ユアサ アイオニックス社製)に入れ、350℃で1時間窒素気流したものを、本装置により窒素-Heガス連続流動法による吸着を行い、BET一点法による比表面積を算出した。
【0061】
<硫酸強度試験>
活性コークス30gを採取し、1)これを60質量%硫酸溶液中に室温で2時間浸漬して活性コークスに硫酸を吸着させる。2)活性コークスを硫酸溶液から引き上げた後120℃で2時間乾燥させ、水分を除去する。3)次いでこれを窒素雰囲気下で400℃、2時間の保持し、硫酸を除去する再生処理を行う。4)再生処理後の活性コークスを図22に示したロガ試験機に装入し、50rpmで20分回転させる。5)その後、活性コークスを取り出し、3mmの篩にて微紛を除去し、残留した3mm篩上の重量を測定し、6)採取重量30gに対する3mm篩上の重量割合を残留率として求める。7)1)〜6)の操作を繰返して試験を行ない、残留率が0質量%あるいは20質量%近くになるまでの繰り返して試験回数により、耐久性を評価する。繰返し回数が多いもの程、耐久性に優れるものである。
【0062】
これらの活性コークスを、製鉄用焼結鉱製造装置の排ガスを処理する移動層方式の乾式脱硫脱硝装置で使用し、月間の補充率及び平均粒子径を測定した。その結果を表4に併せて示す。なお、この間に処理した排ガス量は、90万Nm3/Hr〜100万Nm3/Hrであった。
【0063】
【表4】
【0064】
実施例1〜4は本発明の2層構造を有する活性コークスであり、表層部と内層部との境界位置を表層部から内層部側に変化させたものである。比較例1の活性コークスは、境界位置が実施例2とほぼ同じ2層構造であるが、表面層の平均炭素粒子充填率が60%未満の例を示しており、比較例2,3は従来の単層構造の活性コークスの例を示している。
【0065】
すなわち、実施例1では、表層部と内層部との境界Rm/Riが0.86であり、その平均炭素粒子充填率は表層部が62.7%、内層部57.6%であり、全平均の炭素粒子充填率58.6%に対して表層部が高くなっている。その表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差は、5.1%である。また、実施例2では、表層部と内層部との境界Rm/Riが0.76であり、実施例1に比べて境界位置が内層部側になっている。その平均炭素粒子充填率は表層部が63.3%、内層部58.1%であり、全平均の炭素粒子充填率60.1%に対して表層部が高くなっている。その表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差は、5.2%である。また、実施例3では、表層部と内層部との境界Rm/Riが0.54であり、実施例1,2に比べて境界位置がさらに内層部側になっている。その平均炭素粒子充填率は表層部が63.4%、内層部57.8%であり、全平均の炭素粒子充填率61.7%に対して表層部が高くなっている。その表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差は、5.6%である。
【0066】
実施例4は、表層部と内層部の境界Rm/Riが0.76と実施例2と同様であり、表層部の平均炭素粒子充填率は、内層部が56.8%、表層部が60.6%と表層部は60%を超えており、実施例1〜3と同様本発明の2層構造の活性コークスとなっている。なお、表層部の表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差は3.8%である。実施例4の表層部の平均炭素粒子充填率は、他の実施例1〜3に比べてやや、低く、表層部の表層部と内層部の平均炭素粒子充填率の差も、他の実施例に比べてやや小さいものである。
【0067】
強度特性に関しては、ロガ強度は、2層構造の比較例1や単層構造である比較例2,3の活性コークスと比べ、大差はないが、圧潰強度については、2層構造である実施例1〜4の活性コークスが格段に優れていることがわかる。また、2層構造の比較例1の活性コークスは、単層構造の比較例2,3に比べて、圧潰強度は高いものの、本発明の実施例の1〜4と比べると低い。このことは、平均粒子径を見ても明らかであり、本発明である実施例1〜4の活性コークスは、比較例1の2層構造の活性コークスや比較例2,3の従来の活性コークスよりも平均粒子径が大きく、損耗が小さくまた割れ難いことがわかる。また、2層構造の比較例1の活性コークスも、単層構造に比べて平均粒径は大きいものの、実施例1〜4に比べて平均粒子径が小さい。また、実施例1〜4の月間補充率は、比較例のそれよりも小さく、耐久性に優れたものであることがわかる。
【0068】
図12は、上記の乾式脱硫脱硝装置において表4の比較例2の従来の活性コークス(i)を使用し、途中から、実施例1、実施例2、実施例3、或いは実施例4および比較例1の活性コークスを補充するようにして切り替え、その後の補充量の変化を調査したものである。各月ごとに把握された各種の活性コークスの補充量に基づいて、月間補充率および累積補充率を求め、横軸を累積補充率、縦軸を月間補充率として示したものである。横軸は累積補充率であるが、各種の活性コークスに切り替えた後の時間の経緯を意味するものである。さらに、月間補充率が安定するには、累積補充率で100%以上となることが必要であることを示している。図12および表4から明らかなように本発明の活性コークス(実施例1〜4)を使用した場合は、比較例1や比較例2(従来の活性コークス(i))の活性コークスに比べて、月間補充率が明らかに低くなり、累積補充率も低いことがわかる。なお、月間補充率は、(月間の補充重量/脱硫脱硝装置の活性コークスの総重量)×100(%)として求めた。また、累積補充率は、(累積補充量/脱硫脱硝装置の活性コークスの総重量)×100(%)として求めた。
【0069】
図13は、表4の実施例1〜4および比較例2の活性コークスを用いた場合の硫酸強度試験の結果を示すものである。図13から判るように、実施例1〜4の本発明の活性コークスは、残留率0%に近くになるまでの試験回数が比較例2の従来の活性コークスに比べて多く、耐久性に優れていることが判る。
【0070】
図14(a),(b)は、実施例1〜4の本発明の活性コークス、および比較例として従来の活性コークス(比較例2)を、上記の乾式脱硫脱硝プロセスにおいて使用し、一定期間後にサンプリングした活性コークスの粒子数分布を示すものである。これらの図からわかるように、本発明の実施例の2層構造の活性コークスは、何れも粒子数比率が低く、従来の活性コークスと比べて割れ難くなっていることが明らかである。
【0071】
本発明においては、粒径(直径)を9mm程度の活性コークスを例として説明したが、本発明はこの粒径に限定されるものではなく、通常使用される粒径(直径)5〜15mm前後、好ましくは、5〜10mmの活性コークスにおいても同様の構造とすることにより、本発明の効果を得ることができることは言うまでもない。
【0072】
以上のように、本発明の2層構造の活性コークスは、移動層方式の脱硫脱硝プロセスにおいて使用した場合、割れ難く、平均粒子径を大きく維持でき、圧損を小さくすることができる。また、補充量を少なくできるという極めて優れた特性を有する。
本発明の活性コークスの表面に、すなわち表層部の外面に、排ガスとの反応性を向上させると共に、強度を向上させるために、最外層部としてナノカーボンなどの被覆層を形成してもよく、本発明の2層構造の活性コークスの効果が損なわれるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の2層構造の活性コークスの断面を示す模式図である。
【図2】活性コークスの平均粒子径、表層部と内層部の境界位置のRm/Ri、および損耗速度の解析の結果を示す図である。
【図3】損耗速度比と最大平均粒子径との関係を示す図である。
【図4】2層構造の活性コークスの最適境界位置のRm/Riと損耗速度比との関係を示す図である。
【図5】本発明における炭素粒子充填率の測定方法を示す活性コークスの断面の模式図である。
【図6】本発明の炭素粒子充填率の測定方法における視野像の一例を示す図であり、(a)は、実像、(b)は2値化像である。
【図7】本発明における炭素粒子充填比率と強度特性(圧潰強度)との関係を示す図である。
【図8】本発明における炭素粒子充填率と損耗速度比の関係を示す図である。
【図9】本発明の2層構造の活性コークスにおける表層部、内層部の境界位置の設定を説明する図である。
【図10】本発明の2層構造の活性コークスにおける表層部、内層部の境界位置の設定を説明する他の例を示す図である。
【図11】本発明の活性コークスの製造プロセスの例を説明するフロー概要図である。
【図12】乾式脱硫脱硝プロセスにおける本発明の活性コークスの補充率の変化を示す図である。
【図13】本発明の活性コークスの耐硫酸強度試験の結果を示す図である。
【図14】乾式脱硫脱硝プロセスにおける活性コークスの粒子数分布を示す図であり、それぞれ(a)は本発明の実施例1,2の、(b)は本発明の実施例3,4および比較例2の活性コークスの場合を示す。
【図15】従来の活性コークスの粒径分布(平均粒子径)を示す図である。
【図16】従来の活性コークスの粒子数分布を示す図である。
【図17】脱硫脱硝プロセスにおける排ガス圧損と平均粒子径との関係を示す図である。
【図18】活性コークスの圧潰強度を測定する装置を示す図である。
【図19】活性コークスのロガ強度を測定する装置を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 活性コークス
2 表層部
3 内層部
4 境界位置
5 アンビル
6 圧縮強度測定試験器
7 クロスヘッド
8 邪魔板
9 回転円筒
10 モーター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を主原料として製造された移動層方式の排ガス処理プロセスで使用される活性コークスであって、該活性コークスは、平均炭素粒子充填率が60%以上の表層部と、平均炭素粒子充填率が60%未満の内層部とを有する2層構造を有することを特徴とする移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。
【請求項2】
前記活性コークスの表層部と内層部との境界が前記活性コークスの半径の比率Rm/Riで0.5〜0.9の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。ただし、Rm:活性コークスの内層部の半径、Ri:活性コークスの半径である。
【請求項3】
前記活性コークスの内層部の平均炭素粒子充填率に対する表層部の平均炭素粒子充填率の比が、1.07以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。
【請求項1】
石炭を主原料として製造された移動層方式の排ガス処理プロセスで使用される活性コークスであって、該活性コークスは、平均炭素粒子充填率が60%以上の表層部と、平均炭素粒子充填率が60%未満の内層部とを有する2層構造を有することを特徴とする移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。
【請求項2】
前記活性コークスの表層部と内層部との境界が前記活性コークスの半径の比率Rm/Riで0.5〜0.9の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。ただし、Rm:活性コークスの内層部の半径、Ri:活性コークスの半径である。
【請求項3】
前記活性コークスの内層部の平均炭素粒子充填率に対する表層部の平均炭素粒子充填率の比が、1.07以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の移動層方式の排ガス処理プロセス用活性コークス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図6】
【公開番号】特開2009−96712(P2009−96712A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244247(P2008−244247)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000203977)太平工業株式会社 (41)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000203977)太平工業株式会社 (41)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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