説明

耐候性、耐塗装剥離性に優れた鋼材の製造方法

【課題】 表面キズを防止した耐候性、耐塗装剥離性に優れた鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.01〜0.5%以下、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.2%およびN:0.001〜0.1%、O(酸素):0.005%以下、さらにSn:0.03〜0.20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブであって、Ni/Cuが0.5以下であるスラブの表面温度を1175〜1325℃に加熱した後、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち70%以上の圧延を終了し、700℃以上で圧延を終了させたのち、必要により、30℃/s以下の平均冷却速度で500℃以下の温度まで冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海浜地域や融雪塩が散布される地域等で飛来塩分量が多い環境下でもミニマムメンテナンス材料として使用することができる耐候性に優れた鋼材および耐塗装剥離性に優れた鋼材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、耐候性鋼材を大気腐食環境中に暴露すると、その表面に保護性のあるさび層が形成され、それ以降の鋼材腐食が抑制される。そのため、耐候性鋼材は、塗装せずに裸のまま使用できるミニマムメンテナンス鋼材として橋梁等の構造物に用いられている。
【0003】
ところが、海浜地域や、内陸部でも融雪塩が散布される地域等で飛来塩分量が多い地域では、鋼材表面に保護性のあるさび層が形成されず、腐食を抑制する効果はみられない。そのため、海浜部では、塗装なしで裸のままの耐候性鋼材を用いることができず、普通鋼に塗装を施して使用する普通鋼の塗装使用が一般的である。しかし、このような塗装使用の場合には、腐食による塗膜劣化のため約10年毎に再塗装する必要があり、そのため維持管理に要する費用は莫大なものとなる。
【0004】
近年、日本工業規格(JIS)で規格化された耐候性鋼(JIS G 3114 :溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材)は、飛来塩分量がNaClとして0.05mg/dm/day(0.05mdd)以上の地域、すなわち海浜地域では、ウロコ状錆や層状錆等の発生により腐食減量が大きいため、無塗装では使用できないことになっている(建設省土木研究所、(社)鋼材倶楽部、(社)日本橋梁建設協会:耐候性鋼の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XX)−無塗耐候性橋梁の設計・施工要領(改訂版−1993.3))。
【0005】
このため、海浜地域などの塩分の多い環境下では、通常普通鋼材に塗装を行って対処しているが、河口付近の海浜地域や融雪塩を撒く山間部等の道路に建設される橋梁は腐食が著しく、再塗装せざるを得ないのが現状である。これらの再塗装には多大な工数がかかることから、無塗装で使用できる鋼材への要望が強い。最近、Niを1−3%程度添加したNi系高耐候性鋼が開発されたが、飛来塩分量が0.3〜0.4 mddを越える地域では適用が難しいことが判明してきた。
【0006】
鋼材の腐食は、飛来塩分量が多くなるにしたがって激しくなるため、耐食性と経済性の観点からは、飛来塩分量に応じた耐候性鋼材が必要になる。また、橋梁といっても、使用される場所や部位により鋼材の腐食環境は同じではない。例えば、桁外部では、降雨、結露水および日照に曝される。一方、桁内部では、結露水に曝されるが雨掛かりはない。一般に、飛来塩分量が多い環境では、桁外部より桁内部の方が腐食が激しいと言われている。
【0007】
また、融雪塩を道路に撒く環境では、その塩が走行中の車に巻き上げられ、道路を支える橋梁に付着し、厳しい腐食環境となる。また海岸から少し離れた軒下等でも厳しい塩害環境に晒され、このような地域では飛来塩分量が1mdd以上の厳しい腐食環境になる。
【0008】
このような問題に対応するため、飛来塩分量が多い環境での腐食を防止する鋼材の開発が従来から進められており、特許文献1ではクロム(Cr)の含有量を増加させた耐候性鋼材、さらに特許文献2ではニッケル(Ni)含有量を増加させた耐候性鋼材等が提案されている。しかしながら、Crは、ある程度以下の飛来塩分量の領域においては耐候性を改善することができるものの、それを超える厳しい塩分環境においては逆に耐候性を劣化させる。
【0009】
一方、Ni含有量を増加させた場合、耐候性はある程度改善されるが、鋼材自体のコストが高くなり、橋梁等の用途に使用される材料としては高価なものになる。これを避けるため、Ni含有量を少なくすると、耐候性はさほど改善されず、飛来塩分量が多い場合には、鋼材の表面に層状の剥離さびが生成し腐食が著しく、長期間の使用に耐えられないという問題が生じる。
【特許文献1】特開平9−176790号公報
【特許文献2】特開平5−51668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明者らは、Snを添加した場合、飛来塩分量が多い環境で耐候性が著しく改善されることを見いだした。しかし、この場合、Niを添加すると、飛来塩分量が多い環境で耐候性の改善が認められないどころか、逆に劣化させる場合があることが判明した、すなわちNiはSnとの複合添加の改善効果がないことが判明し、特願2004−308446号に記載した鋼材を発明した。
【0011】
この鋼材は、船舶分野・橋梁分野における耐塗装剥離性改善にも効果を発揮することが分かっている。例えばタンカーや貨物輸送船等の船舶は、空荷の時でも船体が安定性するようバラストタンクに海水を注入積載している。海水は、鋼に対し腐食作用を有しており、バラストタンクを構成する鋼材の腐食を促進させる。このバラストタンクを構成する鋼材の腐食は、バラストタンク内に注入積載された海水が直接接するタンク内壁部ではそれほどでなく、海水面上の空間部分(気相部)に接する部分で激しいことが知られている。これは、空間部のタンク内壁が、常に湿潤状態にあり腐食を起こす(促進する)酸素が空気中から十分に供給され続けられることによる。このバラストタンク内壁面の腐食抑制対策としては、従来、タールエポキシ塗料をバラストタンクの内壁面に200μm程度と比較的厚い膜厚で被覆して防食することとしていた。しかし、この方法でも腐食環境が厳しく塗膜寿命も約10年と短く、補修塗装が必要になるという欠点を有している。この鋼材は、塗装の寿命を延長化し、補修塗装間隔を大きく延ばすという意味においても効果があり、橋梁に適用した場合でも同様に大きな効果が得られる。なお、本明細書では、そのような環境下での耐食性についても耐候性の1種として考えて、本発明を説明する。
【0012】
しかしながら、これらの鋼材はトランプエレメントと呼ばれるCu、Sn等、精錬除去が困難な元素が鋼材中に含まれ、圧延時鋼材表面にキズが発生することが問題であった。そのようなキズが発生すると、そのキズの箇所から腐食が拡大したり、またそれにより塗膜の剥離が促進されたりする。
【0013】
本発明は、従来の耐候性・耐塗装剥離性に優れた鋼材が内包する上述のような問題を解決すべく、延性など加工特性に優れ、表面キズを防止した耐候性、耐塗装剥離性に優れた鋼材の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、Cu,Snを含有する鋼材の熱間圧延に際しての表面温度の影響について検討を行った。その結果、圧延後の表面キズは、表面温度と大きく関係があり、ある温度域で加熱し、圧延すると、表面キズなく且つ耐食性、耐塗装剥離性、機械的特性、溶接性に優れた鋼材が得られることが判明した。
【0015】
すなわち、熱間圧延に際して表面温度範囲を1172〜1325℃に制御するとともに、900℃以上の温度域で全圧下量の70%以上を終了し、700℃以上で圧延を終了させることで、表面キズが防止できることが判明した。
【0016】
このメカニズムは不明であるが、Cu,Snの低融点物質生成と酸化による表面からのスケール生成・脱落との競争反応が生じ、結果的に表面キズが抑制されるものと推察される。
【0017】
なお、前述の特許出願にかかる鋼材の製造に際しては、圧延に際しての加熱温度が、低く、仕上げ温度についても650℃とかなり低くかったため、圧延キズの発生がかなり多くみられ、圧延後の手入れにかなりの工数を要しており、製造コストの高い鋼材と考えられていた。
【0018】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、下記の(1)〜(4)の鋼材の製造方法を要旨としている。
(1)質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.01〜0.5%以下、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.2%およびN:0.001〜0.1%、O(酸素)が0.005%以下、さらにSn:0.03〜0.20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブであって、Ni/Cuが0.5以下であるスラブの表面温度を1175〜1325℃に加熱した後、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち70%以上の圧延を終了し、700℃以上で圧延を終了させたのち、冷却することを特徴とする鋼材の製造方法。
【0019】
(2)質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.01〜0.5%以下、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.2%およびN:0.001〜0.1%、O(酸素)が0.005%以下、さらにSn:0.03〜0.20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブであって、Ni/Cuが0.5以下であるスラブの表面温度を1175〜1325℃に加熱した後、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち70%以上の圧延を終了し、700℃以上で圧延を終了させたのち、30℃/s以下の平均冷却速度で500℃以下の温度まで冷却することを特徴とする鋼材の製造方法。
【0020】
(3)700℃以上で圧延を終了させた後、500℃以下の温度まで冷却してから、650℃以下で熱処理することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材の製造方法。
(4)さらに、スラブが、質量%で、Ti:0.3%以下、Nb:0.1%以下、Mo:1.0%以下、Co:1.0以下、W:1.0%以下、V:1.0%以下、Ca:0.1%以下、Zr:0.2以下、B:0.01以下、Mg:0.1%以下およびREM:0.02%以下よりなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法によれば、耐候性(耐食性)、耐塗装剥離性に優れ、且つ表面性状のよい鋼材を得ることが可能であり、圧延後の表面手入れもない経済的な鋼材が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、耐食性、耐塗装剥離性に優れた鋼材の製造方法に関する発明であり、製造後、裸の状態、あるいは塗装して使われる厚板、建材等に広く使われるものであり、形状を特に限定されない。
【0023】
以下に、本発明を詳細に説明する。以下の説明において、合金元素の含有量「%」は、いずれも「質量%」を意味する。
本発明において採用するスラブ組成は次の通りである。
【0024】
C:0.001〜0.15%
Cは、鋼の強度を確保するために必要な合金元素であるが、多量に含有させると鋼材の溶接性が劣化する。したがって、C含有量は0.15%を上限とする。また、0.001%未満になると所定の強度が確保できないので、下限は0.001%とする。なお、望ましい範囲は、0.005%〜0.15%である。
【0025】
Si:2.5%以下
Siは、製鋼時の脱酸に必要な合金元素であるとともに、耐候性を向上させる元素である。2.5%を超えて含有させると、鋼の靱性が損なわれる。同様に脱酸剤として働くAlが含有している場合には、特にスラブ中に含有していなくてもよい。したがって、その含有量は2.5%以下とする。
【0026】
Mn:0.5〜2.5%以下
Mnは、低コストで鋼の強度を高める作用効果を有する元素であるが、Sと結合してMnSを形成し、このMnSが腐食の起点となり、耐食性、ひいては耐候性を劣化させる。鋼中S量が低い場合には、一般に高飛来塩分環境における耐候性を向上させる作用を有する。しかしながら、その機構は不明であるが、Niと共存する場合には2.5%を超えると耐候性が劣化する。したがって、その含有量は2.5%以下とする。望ましくは1.5%以下とする。なお、構造用鋼としての強度を維持するには0.5%以上含有させる。
【0027】
P:0.03%以下
Pは、不純物として含有し、耐候性を著しく向上させる元素である。しかし、過度に含有させると溶接性を劣化させる。したがって、その含有量は0.03%以下とする。下限は特に定めないが、耐候性向上効果を発揮させるために、0.005%以上含有させるのが望ましい。
【0028】
S:0.005%以下
Sは、不純物として含有し、Mnと結合して非金属介在物のMnSを形成して腐食の起点となり易く、耐候性を劣化させるので、できるだけ少なくする必要がある。したがって、その上限は0.005%とする。
【0029】
Cu:0.05〜1.0%
Cuは、耐候性を向上させる基本元素であり、0.05%以上含有させると耐候性が向上する。しかし、1.0%を超えて含有させても、その効果が飽和するだけでなく、脆化を起こす原因となる。したがって、その含有量は0.05〜1.0%とする。
【0030】
Ni:0.01〜0.5%(Ni/Cu:0.5以下)
Niは、飛来塩分量の多い環境下での耐食性(海浜耐候性)を著しく向上させる元素として従来から注目され、Ni系耐候性鋼として開発・実用化されている。しかし、理由は定かではないが、Snと複合添加した場合には、耐食性の改善効果が無く、むしろSnによる耐候性改善効果を低下させるという悪影響が現れる。このNiの悪影響は、Ni含有量が0.5%を超えるか、Cu含有量の1/2を超えると顕著になる。しかし、Cu添加による熱間加工性の劣化、いわゆるCu脆化を防止するため、0.01%以上のNiの添加は必要である。そのため、本発明では、Ni含有量は0.01〜0.5%のごく少ない量に制限し、かつNi/Cu質量比が0.5以下となるようにNiを添加する。高価なNi含有量が少なくてすむことは経済的にも有利である。好ましくは、Ni:0.01%以上、0.4%未満である。
【0031】
Cr:0.01〜3.0%
Crは、飛来塩分量がそれほど多くない環境において保護性さびによる耐食性の向上が期待できるが、飛来塩分量が多い環境において鋼のアノード溶解反応を促進し耐候性を劣化させる。ところが、SnやSbを含有する場合には、飛来塩分量が多い環境においてもCr含有による耐候性の向上効果が発揮される。この効果は含有量0.01%以上で発揮されるが、3.0%を超えると局部腐食感受性が高まるとともに溶接性が劣化する。したがって、Cr含有量は0.01〜3.0%とする。なお、含有量の望ましい範囲は0.5〜3.0%である。
【0032】
Al:0.003〜0.2%
Alは脱酸剤として添加される元素であり、その効果を確実に得るためには0.003%以上が必要である。一方、0.2%を超えると溶接性が低下する。このため、Al含有量は0.003〜0.2%とした。
【0033】
N:0.001〜0.1%
Nは不純物として存在する。Nは本発明では重要な元素であり、Cと同様に、Crと結合してCrNなどの窒化物として析出し、耐食性に有効な固溶Cr濃度を低下させて耐海水性を劣化させるだけでなく、靱性をも劣化させる。このため、N含有量は少なければ少ないほどよいが、0.001%未満とするには経済的コストが大きく、また、0.1%以下であればその有害性が小さく、許容できる。このため、N含有量は、0.001〜0.1%に制限する。好ましい上限は0.006%、より好ましい上限は0.004%である。
【0034】
O(酸素):0.005%以下
Oは不純物として存在する。Oは上記のNと同様に本発明では重要な元素であり、Cr含有鋼においては孔食の起点となりやすいCaO、MgO、Alなどの酸化物系非金属介在物を形成して耐食性を劣化させる。また、過剰なOは靱性・溶接性をも劣化させる。しかし、その含有量が0.005%までであれば影響が小さいので、0.005%以下とした。好ましいのは0.004%以下、より好ましいのは0.003%以下である。
【0035】
Sn:0.03〜0.20%
Snは、Sn2+となって溶解し、酸性塩化物溶液中でのインヒビター作用により腐食を抑制する作用を有する。また、Fe3+を速やかに還元させ、酸化剤としてのFe3+濃度を低減することにより、Fe3+の腐食促進作用を抑制するので、高飛来塩分環境における耐候性を向上させる。
【0036】
また、Snには鋼のアノード溶解反応を抑制し耐食性を向上させる作用もある。さらに、Snを含有することにより、飛来塩分が多い環境においてもCrの耐候性を向上させる効果が発揮される。これらの作用は0.03%以上の含有で顕著になり、0.2%を超えると機械的特性・溶接性の低下を招く原因となる。したがって、その含有量は0.03%〜0.2%とする。なお、含有量の望ましい範囲は0.03〜0.15%である。
【0037】
本発明の鋼材は、上記の合金元素の他に、さらにTi、Nb、Mo、Co,W、V、Ca、Zr、B,MgおよびREMよりなる群から選ばれた1種または2種以上を含有してもよい。これらの元素の含有量を前記のように限定した理由は、次の通りである。
【0038】
Ti:0.3%以下
Tiは、TiCを形成してCを固定し、クロム炭化物の形成を抑制して耐候性を向上させるとともに、TiSの形成により腐食の起点となるMnSの形成を抑える。しかし、0.3%を超えると、そのような効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇する。この効果は含有量が0.01%以上で現れる。したがって、Tiを含有させる場合、その含有量は0.3%以下、好ましくは0.01〜0.3%以下とする。
【0039】
Nb:0.1%以下
Nbには、Tiと同様、NbCを形成してクロム炭化物の形成を抑制して耐候性を向上させる効果がある。0.1%を超えると飽和する。この効果は含有量が0.01%以上で現れる。このため、Nbを含有させる場合、その含有量は、0.1%以下、好ましくは0.01〜0.1%以下とする。
【0040】
Mo:1.0%以下
Moは、溶解して酸素酸イオンMoO2−の形でさびに吸着し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐食性を向上させる元素である。鋼中における含有量が1.0%を超えると効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇する。0.01%以上になるとこの効果が得られる。したがって、Moを含有させる場合、その含有量は1.0%以下、好ましくは0.01〜1.0%とする。
【0041】
Co:1.0%以下
Coは、溶解してさび中に存在し、さびを緻密化することにより保護性を高め耐食性を向上させる。またと塗膜剥離時にもその保護性により剥離進展を抑制する効果がある。1.0%を超えると飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇する。この効果は含有量が0.01%以上で現れる。したがって、Coを含有させる場合、その含有量は1.0%以下、好ましくは0.01〜1.0%とする。
【0042】
W:1.0%以下
Wは、Moと同様、溶解して酸素酸イオンの形で存在し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐食性を向上させる。1.0%を超えると飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇する。この効果は含有量が0.01%以上で現れる。したがって、Wを含有させる場合、その含有量は1.0%以下、好ましくは0.01〜1.0%とする。
【0043】
V:1.0%以下
Vは、MoやWと同様、溶解して酸素酸イオンの形で存在し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐食性を向上させる。1.0%を超えると飽和する。この効果は0.01%以上含有させると現れる。したがって、Vを含有させる場合、その含有量は1.0%以下、好ましくは0.01〜1.0%とする。
【0044】
Ca:0.1%以下
Caは、鋼中に酸化物の形で存在し、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制して、腐食の促進を抑える作用を有している。0.1%を超えると飽和する。この効果は0.0001%以上含有させることにより得られる。したがって、Caを含有させる場合、その含有量は、0.1%以下、好ましくは0.0001〜0.1%以下とする。
【0045】
Zr:0.2%以下
Zrは、Tiと同様に、鋼中のSと結合することによりZrSを形成して、腐食の起点となるMnSの形成を抑制する、いわゆる形態調整の役割を担う。含有量が0.2%を超えると、効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇する。この効果はZrの含有量が0.01%以上で現れる。したがって、Zrを含有させる場合、その含有量は0.2%以下、好ましくは0.01〜0.2%とする。
【0046】
B:0.01%以下
Bは、鋼材の強度を上昇させる目的で含有させる元素である。その含有量が0.01%を越えると、鋼材の靭性が劣化する。しかし、Bの含有量が0.0003%未満では、鋼材の強度上昇効果が十分に認められない。したがって、Bを含有させる場合、その含有量は0.01%以下、好ましくは、0.0003%〜0.01%とする。
【0047】
Mg:0.1%以下
Mgは、Caと同様、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制し、耐食性を向上させる。0.1%を超えると飽和する。この効果は0.0001%以上含有させることにより得られる。したがって、Mgを含有させる場合、その含有量は、0.1%以下、好ましくは0.0001〜0.1%とする。
【0048】
REM:0.02%
REMは、鋼の溶接性を向上させる目的で含有させる。0.02%を超えると効果が飽和する。含有量が0.0001%以上でその効果を発揮する。このため、REMを含有させる場合には、その含有量は、0.02%以下、好ましくは0.0001〜0.02%とする。
【0049】
上記のような組成を含有するスラブは、慣用の方法で溶製され、例えば連続鋳造方法によりスラブが製造される。
熱間圧延を行うに当たり、スラブの表面温度は鋼表面でCu−Sn低融点成分とスケールの生成・脱落をバランスさせるために、1175℃以上とする。一方、スラブの表面温度が1325℃を超えるとスケール脱落による表面の形状が保てなくなり、且つスケールロスが大きくなるため経済的でない。したがって、スラブの表面温度は1175〜1325℃とする。
【0050】
表面温度は、放射温度計等一般の機器で測定することも可能である。スラブ加熱時の時間(在炉時間=予熱帯、加熱帯、均熱帯)と時間によって予め、計算により表面温度を予想制御することも可能であるが、炉で加熱する際の在炉時間は、通常の範囲の20分〜4時間で実施できる。
【0051】
スラブの加熱後は熱間圧延を行う。圧延は、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち70%以上の圧延を終了させるように行う。900℃以上での圧下量が70%未満の場合は、圧延に際して表面キズが発生し耐食性、耐塗装剥離性が劣化する。このとき、1パスあたりの圧下量は10%以下とすることが望ましい。さらに、圧延は700℃以上で圧延を終了させる。すなわち、圧延仕上温度を700℃以上とする。圧延仕上温度が700℃未満の場合は、表面キズが発生し耐食性、耐塗装剥離性が劣化する傾向がある。望ましくは750℃以上で圧延を終了させる。
【0052】
この後、圧延により得られた鋼材は冷却されるが、このとき冷却方法は空冷、水冷など特に問わない。しかし、鋼材は30℃/s以下の平均冷却速度で500℃以下の温度まで冷却することが好ましい。500℃を超える温度で30℃/s超の冷却速度で冷却を行うと、TiやNbの炭化物の析出が不十分となり、耐食性が劣化する傾向があるためである。
【0053】
以上の工程により得られた鋼材は、500℃以下の温度まで冷却後、650℃以下で熱処理することが好ましい。熱処理することにより鋼材に負荷された残留応力を除去することができる。
【0054】
さらにブラスト処理、一次防錆処理、塗装など、用途に応じて公知の処理が実施することが可能である。
本発明により製造される鋼材は、さらに耐候性を高める場合には、その表面を防食皮膜で覆うのが望ましい。ここで規定する防食皮膜とは、さび安定化処理膜、Znめっき、Alめっき、Zn−Alめっき等のめっき、Zn溶射、Al溶射等の金属溶射皮膜、ビニルブチラール系、エポキシ系、ウレタン系、フタル酸系などの一般の防食塗装等、鋼材の防食目的で施される皮膜を意味する。いずれの防食皮膜を施した場合であっても、優れた耐候性を有し高い防食性能を発揮することができる。
【0055】
上述の通り、本発明の鋼材は、飛来塩分量が多い環境下において優れた海浜耐候性を発揮するので、海浜地域や融雪塩が散布される地域における橋梁等の構造物に、塗装を必要としないミニマムメンテナンス材料として使用することができる。
【実施例】
【0056】
150kg真空溶解炉で表1のスラブ符号a〜oに示す化学組成を有するスラブを作製した。スラブは放射温度計によりその表面温度を測定しながら加熱し、所定の表面温度になった後、圧延を開始して長さ約1000mm×幅約150mm×厚さ約4mmの寸法の鋼板を形成した。鋼板は放冷、空冷または水冷により冷却し、その後、いくつかの鋼板については熱処理を施した。このときの鋼板の製造条件を表2に示す。
【0057】
鋼板から幅方向の中央部、長手方向2箇所の計3箇所から15mm×60mmのサンプルを切り出し、そのサンプルを光学顕微鏡により割れを評価した。具体的には、各サンプルの研磨後断面を180mm(=60mm×3)に渡り光学顕微鏡にて観察した。このとき、各サンプル10mm長を1つの試料とみなし、18個の試料のうち、割れ深さの大きい3個の試料の割れ深さの平均値を最大割れ深さとして評価した。また、同サンプルについて、エアースプレーにより変性エポキシ塗料(バンノー200:中国塗料製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗装した。鋼材素地に達する深さでクロスカットを入れてから、SAE J2334試験により評価した。なお、SAE J2334試験は、湿潤:50℃、100%RH、6時間;塩分付着:0.5%NaCl、0.1%CaCl、0.075%NaHCOの水溶液中に浸漬、0.25時間;乾燥:60℃、50%RH、17.75時間、を1サイクル(24時間)とした加速腐食試験である。(長野博夫、山下正人、内田仁著:環境材料学、共立出版(2004)、p.74)。この結果を合わせて表2に示す。
【0058】
本発明の製造方法により製造した鋼板(試験番号1〜15)は最大割れ深さはいずれも10μm程度であり、目視観察でもキズは認識されなかった。一方、スラブの表面温度が低いまま圧延を開始したもの(試験番号16〜18)は最大割れ深さが極めて大きくなり、目視観察でも明らかな割れが確認できた。また、900℃以上で70%以上の圧下を行わなかったもの(試験番号19)および圧延終了温度を700℃未満としたもの(試験番号20)は、試験番号16〜18の試料ほどではないものの、最大割れ深さが大きくなった。さらに、圧延終了後の冷却速度を大きくしたもの(試験番号21)は、最大割れ深さは小さかったが、SAE J2334試験の結果、塗膜剥離が大きく耐塗装剥離性に難があった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.01〜0.5%以下、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.2%およびN:0.001〜0.1%、O(酸素)が0.005%以下、さらにSn:0.03〜0.20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブであって、Ni/Cuが0.5以下であるスラブの表面温度を1175〜1325℃に加熱した後、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち70%以上の圧延を終了し、700℃以上で圧延を終了させたのち、冷却することを特徴とする鋼材の製造方法。
【請求項2】
質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.01〜0.5%以下、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.2%およびN:0.001〜0.1%、O(酸素)が0.005%以下、さらにSn:0.03〜0.20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブであって、Ni/Cuが0.5以下であるスラブの表面温度を1175〜1325℃に加熱した後、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち70%以上の圧延を終了し、700℃以上で圧延を終了させたのち、30℃/s以下の平均冷却速度で500℃以下の温度まで冷却することを特徴とする鋼材の製造方法。
【請求項3】
700℃以上で圧延を終了させた後、500℃以下の温度まで冷却してから、650℃以下で熱処理することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材の製造方法。
【請求項4】
さらに、スラブが、質量%で、Ti:0.3%以下、Nb:0.1%以下、Mo:1.0%以下、Co:1.0以下、W:1.0%以下、V:1.0%以下、Ca:0.1%以下、Zr:0.2以下、B:0.01以下、Mg:0.1%以下およびREM:0.02%以下よりなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼材の製造方法。

【公開番号】特開2007−270198(P2007−270198A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95068(P2006−95068)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】