説明

耐光性に優れたオフセット印刷物及びその製造法

【課題】耐光性に優れたオフセット印刷物とその製造法を提供すること、また、従来から不適当とされてきたオフセット印刷物の屋外使用をも可能ならしめ、以て、オフセット印刷物の用途を拡大すること。
【解決手段】基材の被印刷面にオフセット印刷により少なくとも1層以上の印刷層が形成されてなるオフセット印刷物において、各印刷層を、2〜9μmの粒径の粒子から主として構成される顔料をインキ固形分重量比にて5〜35%の割合で含有するインキを用いて、少なくとも2μm以上の厚さにおいて形成すると共に、被印刷面に形成される少なくとも1層以上の印刷層の全体としての厚さが、4μm以上となるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性に優れたオフセット印刷物及びその製造法に係り、特に、高品質な絵柄を確保しつつ、耐光性に優れた印刷物を、オフセット印刷により得る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、単色印刷や多色印刷(例えば、カラー印刷)に、オフセット印刷を初めとして、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、デジタル印刷等の各種の印刷方式を適用して、目的とする印刷物が製造されて来ているが、その中でも、オフセット印刷は、その印刷速度が速く、生産性が高いことに加えて、細い絵柄を表現することが出来るために、高品質な絵柄の印刷物を容易に得ることが出来るという特徴を有しているところから、広く用いられて来ている。
【0003】
そして、そのような印刷物にあっては、通常の出版用、商業用、事務用等の各種の用途に用いられる他、包装用や、物品乃至は部材の表面化粧用、表示用等の産業用途にまで、広く用いられて来ているが、その中でも、屋外用のポスターや店頭商品のパッケージ、自動販売機の表示パネルや化粧パネル、自動車の内装部材における表示パネルや化粧パネル、家電製品における表示パネルや化粧パネル等においては、太陽光等の強い光の作用を受けて、印刷された絵柄(文字、図形等を含む)が褪せないように、充分な耐光性を有することが、要請されている。
【0004】
このため、印刷物の耐光性を向上せしめるべく、それぞれの印刷に用いられるインキの耐光性が検討され、特にそのようなインキにおける顔料として、耐光性に優れたものの使用が、一般に採用されて来ているのであるが、そのような耐光性に優れた顔料を用いた耐光性インキにて印刷した場合にあっても、オフセット印刷物は、他の印刷物とは異なり、充分な耐光性を有していないことが認められており、このため、屋外や自動車等の用途においては、従来から、不適当なものとして、その使用が避けられて来ている。
【0005】
尤も、オフセット印刷物にあっても、その耐光性を向上させる試みは、種々為されてきており、例えば、特開平11−58923号公報(特許文献1)においては、浸し水不要印刷版を用いる水無しオフセット印刷方法において、UVインキ、IRインキ、EBインキを用いて印刷することにより、水無し印刷の長所を失うことなく、生産性の向上及びヤレ紙の減少を図り、また調子が良好で、耐摩擦・耐光性・耐薬品性の点で、要求品質を充分に満たす印刷が可能であることが、明らかにされている。また、特開2001−240739号公報(特許文献2)においては、分子中にポリカーボネート鎖又はポリカーボネート鎖及びポリエステル鎖を含有する、平均粒子径が3.0μm以下であるポリウレタン樹脂エマルジョンを含んでなるオフセット印刷材料用樹脂組成物が、明らかにされ、これを用いることによって、耐候性、変色性に優れ、実用レベルの耐久性、生産性を有する高精細なオフセット印刷材料を提供し得ることが、明らかにされている。
【0006】
しかしながら、それら提案の技術は、何れも、オフセット印刷物の耐光性について触れてはいるものの、それを主たる目的とするものではないところから、本質的にオフセット印刷物の耐光性を向上せしめるものではなく、そのために、屋外用等の強い光が当る場所において用いられる場合や、高度の耐光性が要請される用途等に対しては、その適用が困難なものであったのである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−58923号公報
【特許文献2】特開2001−240739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、耐光性に著しく優れたオフセット印刷物と、その製造法を提供することにあり、また、従来から不適当とされてきたオフセット印刷物の屋外使用をも有利に可能ならしめ、以て、オフセット印刷物の用途を拡大することをも、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明にあっては、そのような課題を解決するために、基材の被印刷面にオフセット印刷により少なくとも1層以上の印刷層が形成されてなるオフセット印刷物であって、該印刷層が、2〜9μmの粒径の粒子から主として構成される顔料をインキ固形分重量比にて5〜35%の割合で含有するインキを用いて、少なくとも2μm以上の厚さにおいて形成されていると共に、前記被印刷面に形成される少なくとも1層以上の印刷層の全体としての厚さが、4μm以上となるように構成されていることを特徴とする耐光性に優れたオフセット印刷物を、その要旨とするものである。
【0010】
なお、このような本発明に従うオフセット印刷物の望ましい態様の一つによれば、前記オフセット印刷は、平版方式の印刷版を用いて実施されることとなる。
【0011】
また、本発明の望ましい態様の他の一つによれば、前記基材としては、プラスチックシートが用いられ、そして、その場合において、有利には、かかるプラスチックシートが透明又は半透明シートであり、且つその透明又は半透明シートの裏面側に、前記少なくとも1層以上の印刷層が形成されているものである。
【0012】
さらに、本発明にあっては、有利には、前記オフセット印刷されたプラスチックシートがプレス成形されて、目的とする形状に成形されている。
【0013】
そして、そのようなプレス成形されたオフセット印刷物においては、前記印刷層にて与えられる画像が、10〜30μmのスポット径を用いたFMスクリーニングにて表現されていることが、望ましいのである。
【0014】
また、本発明は、上述の如くして得られるオフセット印刷物を用い、その裏面側に、所定厚さの樹脂層が一体的に形成されていることを特徴とする表面化粧材をも、その要旨とするものである。
【0015】
さらに、本発明にあっては、基材の被印刷面に少なくとも1層以上の印刷層が形成されてなるオフセット印刷物を製造する方法であって、2〜9μmの粒径の粒子から主として構成される顔料をインキ固形分重量比にて5〜35%の割合で含有するインキを用いて、オフセット印刷により、前記印刷層を少なくとも2μm以上の厚さにおいて形成すると共に、前記被印刷面に形成される少なくとも1層以上の印刷層の全体としての厚さが、4μm以上となるように、前記オフセット印刷操作を実施することを特徴とする耐光性に優れたオフセット印刷物の製造法をも、その要旨の一つとしているのである。
【0016】
なお、かかる本発明に従うオフセット印刷物の製造法の望ましい態様の一つによれば、そのようなオフセット印刷が、平版方式の印刷版を用いて、実施されることとなる。
【0017】
また、本発明に従うオフセット印刷物の製造法の望ましい態様の他の一つによれば、前記オフセット印刷は、60m/分を超えない印刷速度にて実施されるものである。
【0018】
さらに、本発明に従うオフセット印刷物の製造法の望ましい別の態様によれば、前記オフセット印刷は、0.1mmよりも小さな印圧下において、実施されることとなる。
【0019】
加えて、本発明に従うオフセット印刷物の製造法においては、有利には、前記オフセット印刷にて、前記基材の被印刷面に、複数の印刷層が一体的に積層形成される一方、各印刷層の印刷毎に、印刷された印刷層の中間硬化処理乃至は中間乾燥処理が施されることとなる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明に従うオフセット印刷物にあっては、その印刷層が、2〜9μmの粒径の粒子から主として構成される顔料を、インキ固形分重量比にて、5〜35%の割合で含有するインキを用いると共に、少なくとも2μm以上の厚さにおいて、形成され、しかも、印刷層の合計厚さが4μm以上となるように構成されていることによって、その耐光性が著しく向上せしめられ得たのであり、以て、従来では困難視されていたオフセット印刷物の屋外適用が、有利に実現され得ることとなったのである。
【0021】
そして、その結果、かかるオフセット印刷物は、所定の形状にプレス成形されてなる成形品として、更にはそのようなオフセット印刷物の裏面側に、所定厚さの樹脂層が一体的に形成されてなる表面化粧材として、自動販売機等の屋外に配置される物品乃至は部材用に、また厳しい耐光性基準の要請される自動車の内装部材乃至は部品用等に、有利に用いられ得るのである。
【0022】
また、本発明に従うオフセット印刷物の製造法によれば、かかる優れた耐光性を有するオフセット印刷物が、従来からのオフセット印刷物の特徴である、高品質な絵柄を確保しつつ、生産性良く有利に得ることが出来る特徴を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
ところで、本発明に従うオフセット印刷物は、従来から公知のオフセット印刷機、例えば、オフセット枚葉印刷機やオフセット輪転印刷機等を用いて容易に得られるものであって、具体的には、図1に示されるように、版胴2、ゴムブランケット胴4及び圧胴6とから構成される印刷ユニットの一段乃至は複数段を有し、ゴムブランケット胴4と圧胴6との間にシート状の基材8を通すことにより、版胴2によって与えられる所定の画像(絵柄)が、基材8上に転移せしめられるようになっている印刷機が、用いられることとなる。また、そのような印刷機では、一段の印刷ユニットにて単色(一色)刷りが行われる一方、複数段の印刷ユニットにて多色刷り(カラー印刷)が行われたり、また基材8の片面のみのオフセット印刷である片面刷りや、その両面に対してオフセット印刷する両面刷りが、目的に応じて採用されることとなる。なお、そのような印刷ユニットにおいては、良く知られているように、湿し装置の湿しローラ10にて、所定量の水が版胴2上に供給されるようになっていると共に、インキ装置のインキローラ12からは、所定のインキが、版胴2上に供給されるようになっている。
【0024】
また、ここで、オフセット印刷される基材8としては、目的とするオフセット印刷物の用途に応じて、公知のものの中から、適宜に選択され、例えば、通常の印刷用紙の他、合成紙、プラスチックシート乃至はフィルム等を挙げることが出来る。その中でも、得られたオフセット印刷物を、所定の形状にプレス成形して、化粧シートや化粧パネル等として用いる場合にあっては、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリプロプレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル樹脂等から構成されるプラスチックシート乃至はフィルムが、好適に用いられることとなる。そして、このプラスチックシート乃至はフィルムは、有利には、透明又は半透明のシートとして用いられ、その裏面側に、前記少なくとも1層のオフセット印刷層が形成されることが望ましく、これによって印刷面の保護を図りつつ、オフセット印刷による高品質な画像にて、オフセット印刷物の商品価値が、有利に高められ得るのである。なお、この基材8の厚さとしても、適宜の厚さが採用され得、例えば10μm〜5mm程度の厚さにおいて、特に、30μm〜2mm程度の厚さにおいて、好適に用いられることとなる。
【0025】
そして、本発明にあっては、そのような基材8の一方の面又はその両方の面を被印刷面として、オフセット印刷により、少なくとも1層以上の印刷層を形成して、目的とするオフセット印刷物を得るものであるが、その際、かかる印刷層が、従来のオフセット印刷用のインキとは全く異なる、大粒径の顔料粒子を用いて得られたインキを用いて、少なくとも2μm以上の厚さにおいて形成されると共に、基材の被印刷面に形成される少なくとも1層以上の印刷層の合計厚さが4μm以上となるように構成することによって、優れた耐光性を有する絵柄乃至は画像として、効果的に形成され得るのである。
【0026】
すなわち、かかるオフセット印刷に用いられる特徴的なインキは、インキ中において、2〜9μmの粒径の粒子として存在するものにて主として構成される顔料を、インキ固形分重量比にて、5〜35%の割合で含有するものであり、その中でも、特に、3〜6μmの粒径の粒子から主として構成される顔料が、有利に用いられ、また顔料の含有量としては、インキ固形分重量比にて10〜30%の割合が、好適に採用されることとなる。ここで、「主として構成される」とは、規定された粒径範囲内の粒子が、インキ中において、全体の約60重量%以上、好ましくは80重量%以上の割合で存在することを意味するものである。また、ここで用いられる顔料粒子の粒径が小さくなり過ぎたり、その配合量が少なくなり過ぎると、形成される印刷層の耐光性を充分に向上せしめ得ない問題を生じる他、充分な色調を現出させることが困難となる問題を惹起するからであり、また顔料粒子の粒径が大きくなり過ぎたり、顔料配合量が多くなり過ぎると、オフセット印刷による印刷操作が困難となったり、絵柄の再現性が困難となる等の問題が惹起されるようになる。
【0027】
なお、そのような顔料としては、従来から印刷用顔料として知られている各種のものが適宜に選択されて用いられ得るものであり、一般的に用いられている無色又は有色の無機又は有機顔料であって、例えば、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、磁性酸化鉄等の無機顔料や、アゾ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料、及びカーボンブラック等を挙げることが出来る。そして、本発明においては、それら顔料の中でも、特に、耐光性に優れたものが、好適に用いられるのである。
【0028】
また、本発明に用いられるインキは、上記した顔料を所定割合において含有していると共に、従来の印刷インキと同様な配合成分、例えば、樹脂、溶剤、可塑剤、油等のビヒクルやワックス、金属石鹸、界面活性剤、ゲル化剤、安定剤、皮張り防止剤、消泡剤等の添加剤が、添加、含有せしめられて、自然乾燥型、熱風乾燥型、赤外線乾燥型等の乾燥型インキとして、或いは熱硬化型、紫外線硬化型(UV)、電子線硬化型(EB)、蒸気硬化型等の硬化型インキとして、調製されることとなる。
【0029】
そして、本発明にあっては、かくの如きインキを用いて、オフセット印刷することにより、所定の基材8の被印刷面上に、前記一段の印刷ユニットにて与えられる一つの印刷層が、少なくとも2μm以上の厚さにおいて形成され、更に、そのような印刷層の少なくとも1層以上にて構成される全印刷層の合計厚さが、4μm以上となるように構成され、これによって、印刷層の耐光性が飛躍的に向上せしめられ得ることとなるのである。特に、そのようなオフセット印刷にて形成される各印刷層の厚さを厚くすることが、その耐光性の向上に、有利に寄与し得ることとなるところから、本発明にあっては、特に、3μm以上、より望ましくは4μmの厚さにおいて、各印刷層を形成することが望ましいのであり、そして、全印刷層の合計厚さとしては、有利には、6μm以上、好ましくは8μm以上となるように、構成されるのである。
【0030】
なお、本発明に従うインキを用いて、オフセット印刷により形成される各印刷層の厚さが、2μmよりも薄くなっても、更に積層形成される全印刷層の合計厚さが、4μmよりも薄くなっても、印刷物に充分な耐光性を発揮させることが、困難となる。このため、印刷層が単一層として、基材8の被印刷面上に形成される場合にあっては、そのような単一層の印刷層の厚さが、少なくとも4μm以上となるように、構成されることとなる。
【0031】
ところで、かくの如き本発明に従うオフセット印刷物を製造するに際しては、前述したインキを用いて、公知の各種のオフセット印刷手法により、2μm以上の厚さの印刷層の少なくとも1層が、所定の基材8の被印刷面上に、全印刷層の合計厚さが4μm以上となるように形成されることとなるのであるが、特に本発明にあっては、そのような単独厚さの印刷層、更には合計厚さの印刷層を有利に形成し、精密な図柄の表現を得る点において、よく知られている平版方式の印刷版を用いたオフセット印刷手法が、好適に採用されることとなる。
【0032】
また、本発明において用いられるインキは、高粘度で、キレの良いものとなるところから、オフセット印刷操作は、有利には60m/分を越えない印刷速度、換言すれば図1においてゴムブランケット胴4と圧胴6とに挟まれて移動せしめられる基材8の通過速度において、実施されることが望ましいのであり、これによって、前記した厚い印刷層が、有利に形成され得るのである。なお、この印刷速度は、遅い方が厚い印刷層を形成する上において有利とはなるものの、印刷物の生産性が低下することに加えて、印刷機自体の能力から制約を受けることもあるところから、これらの点を勘案して、その下限が適宜に設定されることとなるが、一般的には20m/分程度、好ましくは25m/分程度が、その下限とされる。
【0033】
さらに、本発明に従うインキを用いて、目的とする厚さの印刷層をオフセット印刷するに際しては、有利には、0.1mmよりも小さな印圧下において、オフセット印刷が行われることとなる。このような印圧を採用することにより、厚い厚さを有するオフセット印刷層が、効果的に形成され得ることとなるのであり、特に、0.03mm〜0.08mmの印圧が、好適に採用され得るのである。なお、ここで、印圧とは、ゴムブランケット胴(4)と圧胴(6)との間の隙間と基材(8)の厚さとの関係において定められるものであって、一般に、後者の厚さから前者の隙間の値を減じてなる数値にて示され、本発明では、それが0.1mmよりも小さな値となるようにして、オフセット印刷が、有利に実施されるのである。
【0034】
加えて、本発明にあっては、かくの如きオフセット印刷にて、基材8の被印刷面に複数の印刷層が一体的に積層形成される場合において、その各印刷層の印刷毎に、印刷された印刷層の中間硬化処理乃至は中間乾燥処理が施されるようにする工程が、有利に採用されることとなる。尤も、オフセット印刷機における最終段の印刷ユニットを通過した基材8には、従来と同様な手段を採用して、所定の硬化処理乃至は乾燥処理が施され、そのような基材8の被印刷面に形成された少なくとも1層以上の印刷層が、最終的な固体皮膜として完成させられることとなってはいるが、前述のように、印刷された直後の印刷層を次の印刷工程に至る前に、ある程度の硬化処理乃至は乾燥処理を施すようにしておけば、そのような処理の施された印刷層の厚さを有利に保持し得て、その後の工程における薄肉化の現象を効果的に回避することが可能となるのであって、本発明においては、好適に採用される手段である。
【0035】
そして、このようにして得られたオフセット印刷物は、その優れた耐光性を利用して、特に、光の当る屋外用途において、好適に用いられ得るものであり、その使用形態としても、平面形態において用いられ得ることは勿論、基材がプラスチックシートである場合においては、目的とする形状にプレス成形されてなる成形品の形態において、表面化粧シート等として、所定の物品や部材の表面に一体的に配置、固定せしめられて、用いられることとなる。
【0036】
また、その際、成形角部における画像乃至は絵柄が間延びしないように、オフセット印刷層にて与えられる画像が、10〜30μmのスポット径を用いたFMスクリーニング(Frequency Modulation Screening)にて表現されるようにすることが、好適に採用されることとなる。なお、このFMスクリーニングは、画像の濃淡を、AMスクリーニングの如く、網点の大小で表現するのではなく、微細な点の面積で表現する方式であって、高密度で連続階調を美しく再現し得ると共に、不規則に点が配置されるために、モアレ等も出ず、細部の再現性が高まり、彩度の高い印刷色が表現可能となり、これによって、プレス成形されたオフセット印刷物の画像品質が、有利に高められ得るのである。
【0037】
ここで、オフセット印刷物の所定形状の成形品を得るには、上述の如きプレス成形手法が有利に採用されるところであるが、勿論、これに限定されるものではなく、他の公知の成形手法も適宜に採用可能である。例えば、真空成形、圧空成形、絞り成形等の手法を採用して、オフセット印刷物を、所望の形状に成形することが可能である。
【0038】
さらに、かかる本発明に従うオフセット印刷物は、印刷されたままのシート状の形態において、或いは前述の如くプレス成形されて、所定の形状が付与された成形品の形態において、その裏面側に、所定厚さの樹脂層を一体的に形成することによって、自動販売機の表示パネルや化粧パネル、また自動車の内装部材における表示パネルや化粧パネル、更には家電製品の表示パネルや化粧パネル等の表面化粧材として、好適に用いられることとなる。なお、そのような表面化粧材は、所定の成形金型の成形キャビティ内に、オフセット印刷物をセットせしめた状態において、従来と同様な樹脂の射出成形操作を実施する、所謂インサート成形によって、得られる樹脂成形品の表面に、オフセット印刷物が一体的に固着されてなる製品として、容易に得ることが出来る。
【0039】
このように、本発明に従うオフセット印刷物は、オフセット印刷が本来的に有する高い生産性の下に、優れた耐光性を有するものとして、得られるものであるところから、従来ではオフセット印刷製品の適用が困難視されていた分野、特に屋外用途の製品や、自動車等における高い耐光性の要請される製品等として、高い経済性をもって、有利に用いられ得ることとなったのである。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0041】
先ず、オフセット印刷に用いられる通常の製版設備を使用して、所定の絵柄見本から、20μmのスポット径を用いたFMスクリーニングを施した刷版を作製した。
【0042】
また、オフセット印刷に用いられる、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)からなる四色のインキを調製した。即ち、シアン(C)用インキとしては、3〜6μmの粒子から主としてなるフタロシアニン系顔料を、インキ固形分重量比にて、20〜22%の割合で含有するように、常法に従って紫外線硬化型インキとして調製し、またマゼンタ(M)用インキは、3〜6μmの粒子から主としてなるキナクリドン系顔料を用いて、それが、インキ固形分重量比にて23〜27%の割合で含有されるように、更にイエロー(Y)用インキは、3〜6μmの粒子から主としてなる不溶性アゾ系顔料を用いて、それが、インキ固形分重量比にて23〜27%の割合で含有されるように、更にまたブラック(K)用インキは、3〜6μmの粒子から主としてなるカーボンブラック顔料を用い、それが、インキ固形分重量比にて20〜23%の割合で含有されるように、それぞれ、従来と同様な構成の紫外線硬化型インキとして調製した。なお、それぞれのインキにおける顔料粒子の粒径は、試験体を溶媒で希釈した後、超音波洗浄器で2分間撹拌して、顔料を充分に分散させた状態において、島津製作所製粒度測定器:SALD−200V ERを用いて、測定した。
【0043】
次いで、かかる準備された刷版を、図1に示される如き印刷ユニットの四段を配置してなる構造の市販のオフセット印刷機にセットする一方、上記で調製された四種の紫外線硬化型インキを良く撹拌して、各印刷ユニットに、それぞれ投入した。そして、オフセット印刷機のインキローラを回転させ、各インキを練りながら、ローラ軸方向に均一に伸ばして、各インキが均一に供給されるようにした。
【0044】
また、オフセット印刷機における印圧を0.05mmにセットする一方、印刷速度が約56m/分となるように、各印刷ユニットにおけるゴムブランケット胴4と圧胴6との回転速度を調整し、更に、最終段の印刷ユニットの出側に配置された紫外線ランプの光量調整を行い、インキのキュアリングに必要な紫外線量が、最終段の印刷ユニットから送り出される印刷物に照射せしめられるようにした。
【0045】
そして、このように調整されたオフセット印刷機に、基材8として、0.2mmの厚さのポリカーボネートシートを、順次、通紙して、連続的にフルカラー印刷することにより、目標とする色調のオフセット印刷物を得た。
【0046】
かくして得られたオフセット印刷物について、その印刷層全体の合計厚さについて、Mitutoyo製測定機:ID−C112Cを用いて測定したところ、約5〜8μmであった。なお、それぞれの印刷ユニットにおいて印刷される印刷層の目標厚さは、単色ベタ印刷部分の評価において、2〜4μmであった。
【0047】
また、かくして得られたオフセット印刷物について、愛知県産業技術センターにて、スガ試験機(株)製の耐光試験機:FAL−3型を用い、600時間の耐光性試験を実施したところ、通常のオフセット印刷物(印刷層厚さ:約1μm)に比べて、極めて優れた耐光性を示し、屋外用途において、充分に実用に耐え得ることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】オフセット印刷機における印刷ユニットの一例を示す主要部説明図である。
【符号の説明】
【0049】
2 版胴 4 ゴムブランケット胴
6 圧胴 8 基材
10 湿しローラ 12 インキローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の被印刷面にオフセット印刷により少なくとも1層以上の印刷層が形成されてなるオフセット印刷物にして、
該印刷層が、2〜9μmの粒径の粒子から主として構成される顔料をインキ固形分重量比にて5〜35%の割合で含有するインキを用いて、少なくとも2μm以上の厚さにおいて形成されていると共に、前記被印刷面に形成される少なくとも1層以上の印刷層の全体としての厚さが、4μm以上となるように構成されていることを特徴とする耐光性に優れたオフセット印刷物。
【請求項2】
前記オフセット印刷が、平版方式の印刷版を用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載の耐光性に優れたオフセット印刷物。
【請求項3】
前記基材が、プラスチックシートであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐光性に優れたオフセット印刷物。
【請求項4】
前記プラスチックシートが透明又は半透明シートであり、且つ該透明又は半透明シートの裏面側に、前記少なくとも1層以上の印刷層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の耐光性に優れたオフセット印刷物。
【請求項5】
前記オフセット印刷されたプラスチックシートがプレス成形されて、目的とする形状に成形されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の耐光性に優れたオフセット印刷物。
【請求項6】
前記印刷層にて与えられる画像が、10〜30μmのスポット径を用いたFMスクリーニングにて表現されていることを特徴とする請求項5に記載の耐光性に優れたオフセット印刷物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載のオフセット印刷物を用い、その裏面側に、所定厚さの樹脂層が一体的に形成されていることを特徴とする表面化粧材。
【請求項8】
基材の被印刷面に少なくとも1層以上の印刷層が形成されてなるオフセット印刷物を製造する方法にして、
2〜9μmの粒径の粒子から主として構成される顔料をインキ固形分重量比にて5〜35%の割合で含有するインキを用いて、オフセット印刷により、前記印刷層を少なくとも2μm以上の厚さにおいて形成すると共に、
前記被印刷面に形成される少なくとも1層以上の印刷層の全体としての厚さが、4μm以上となるように、前記オフセット印刷操作を実施することを特徴とする耐光性に優れたオフセット印刷物の製造法。
【請求項9】
前記オフセット印刷が、平版方式の印刷版を用いて実施されることを特徴とする請求項8に記載の耐光性に優れたオフセット印刷物の製造法。
【請求項10】
前記オフセット印刷が、60m/分を超えない印刷速度にて実施されることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の耐光性に優れたオフセット印刷物の製造法。
【請求項11】
前記オフセット印刷が、0.1mmよりも小さな印圧下において、実施されることを特徴とする請求項8乃至請求項10の何れか一つに記載の耐光性に優れたオフセット印刷物の製造法。
【請求項12】
前記オフセット印刷にて、前記基材の被印刷面に、複数の印刷層が一体的に積層形成される一方、各印刷層の印刷毎に、印刷された印刷層の中間硬化処理乃至は中間乾燥処理が施されることを特徴とする請求項8乃至請求項11の何れか一つに記載の耐光性に優れたオフセット印刷物の製造法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−80591(P2008−80591A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261814(P2006−261814)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(503363909)大和グランド株式会社 (12)
【出願人】(393005381)小野塚印刷株式会社 (1)
【Fターム(参考)】