説明

耐切創性繊維製品

【課題】 金属片や鋭利な刃物などによる切創事故を防止するのに十分な耐切創性を有し、しかも伸縮性、柔軟性、快適性に優れ、身体によくフィットして運動機能性にも優れた、高機能の繊維製品を提供すること。
【解決手段】 芯糸に弾性繊維を用い、それを捲回する鞘糸に高機能フィラメント糸の捲縮糸を用いてなる異種のカバリング糸AおよびBから構成されてなる繊維製品であって、前記カバリング糸Aは鞘糸がその仮撚り加工の加撚方向と正方向に加撚され、前記カバリング糸Bは鞘糸がその仮撚り加工の加撚方向と反対方向に加撚されており、カバリング糸Aが80〜0%、カバリング糸Bが20〜100%の比率で構成されていることを特徴とする繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐切創性、伸縮性、柔軟性に優れた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料や産業資材として広く用いられているナイロンやポリエステル繊維等の汎用熱可塑性合成繊維は柔軟で快適な衣料用繊維であるが、刃物類や剪断応力によって切れ易く、引裂かれたり、摩耗して穴開きしたりし易い。従ってこれらの汎用熱可塑性合成繊維は、身辺が危険に曝されるおそれの大きい場面で使用される衣料製品、例えば消防服、レーシングスーツ、製鉄用作業服または溶接用作業服、および作業用手袋などの防護用の繊維素材として適しているとはいえない。
【0003】
一方、硬い素材から得られるガラス繊維、セラミック繊維および金属繊維は、耐切断性に優れた素材であるが、屈曲耐性(柔軟性)が低く、軽量性にも欠ける。また、フィラメントの自由端が作業者や使用者の身体を刺す危険性があり、これまた防護用の繊維素材として適しているとはいえない。
【0004】
ナイロンやポリエステル繊維等の汎用熱可塑性合成繊維は約250℃前後で溶融するのに対して、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維またはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維等の高機能繊維は約250℃前後では溶融せず、その分解温度が約500℃前後と高温である。また、前記非耐熱性の汎用繊維であるナイロンやポリエステル繊維の限界酸素指数は約20前後であり、空気中でよく燃焼するのに対して、上記の高機能繊維の限界酸素指数は約25以上であって、空気中では熱源である炎を近づけることによって燃焼するが、炎を遠ざけると燃焼を続けることができない。
【0005】
このように、高機能繊維は一般に、耐熱性および難燃性に優れた素材である。それゆえに、例えば耐熱高機能繊維であるアラミド繊維は炎や高熱に曝される危険の大きい場面での衣料製品、例えば消防服、自動車レース用のレーシングスーツ、製鉄用作業服または溶接用作業服および手袋などの防護衣料として好んで用いられている。中でも、耐熱性とともに高強度特性をも併せ持ったパラ系アラミド繊維は、引裂き強さと耐熱性を要するスポーツ衣料や作業服、ロープ、タイヤコードなどに利用されており、また刃物によって切れにくいことから創傷防止のための作業用手袋などにも利用されている。
【0006】
しかし、これら高機能繊維を用いて衣料製品などの繊維製品を製造する際には、伸縮性のないフィラメント糸や紡績糸などの形態で該繊維が利用されているにすぎなかった。ところが、フィラメント糸や紡績糸などの伸縮性のない糸条を布地に加工し、消防服、レーシングスーツまたは作業服等の衣料製品を製造しても、該衣料製品の伸縮性が劣っているため、該衣料製品を着用した場合に着心地が悪く、また運動機能性に劣るという難点があった。同様に、伸縮性の無い糸条から作られた従来の作業用手袋は着用感が悪く、作業効率を低下させる原因となっていた。
【0007】
かかる市場の要求に鑑みて、アラミド繊維等の耐熱高機能繊維からなる耐熱性捲縮糸が提案された(特許文献1)。このような捲縮糸の出現によって、優れた耐熱性、難燃性、高強度特性のみならず、良好な伸縮伸張率および伸縮弾性率と優れた外観とを有し、毛羽や埃の発生しにくい糸が得られるようになった。その捲縮糸の応用例として、特許文献2〜3には、芯糸に弾性繊維を用い、鞘糸にアラミドフィラメント捲縮糸を用いてなるカバリング糸、およびそれを用いた編織物ならびに防護衣料が開示されている。
【0008】
一方、高強度かつ高弾性率の嵩高加工糸を用いた織編物からなる耐切創性手袋(特許文献4)、あるいは、高強度かつ高引張弾性率の繊維を使用した有機繊維糸条からなる布帛を積層した積層布帛で、目付200〜1000g/mで、かつBS EN388 6.2の試験方法においてLEVEL3以上の布帛を用いた耐切創性手袋(特許文献5)も提案されている。
【特許文献1】特開2001−248027号公報
【特許文献2】特開2003−193345号公報
【特許文献3】特開2003−193314号公報
【特許文献4】特開2001−303324号公報
【特許文献5】特開2005−42240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2〜3に開示されたカバリング糸からなる繊維製品は、従来のアラミド繊維製品に比べて伸縮性、耐熱性、強度およびフィット感などが改良されているが、耐切創性の点では不十分である。
【0010】
特許文献4に開示された、高強度かつ高弾性率の嵩高加工糸を用いた織編物からなる耐切創性手袋は、芯糸にポリウレタン弾性糸を用いているが、鞘糸に超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステルフィラメントの加工糸を用いているため、十分な耐切創性が得られ難い。
【0011】
また、特許文献5に記載されたカバリング加工糸は、芯糸として超高分子量ポリエチレン繊維またはナイロン繊維を用い、鞘糸としてポリエチレンテレフタレート繊維またはPBO繊維を用い、高強度繊維と汎用繊維を組合せることで衣類に伸縮性やフィット感を付与している。そのため伸縮性が不十分であり、また、カバリング加工糸単体では十分な耐切創性が得られないことから、該カバリング加工糸で形成した編物を2枚重ねにしたり、あるいはPBO繊維織物を下地にし積層して使用する必要がある。したがって、衣類の柔軟性やフィット感に劣る欠点がある。
【0012】
以上のように上記繊維製品のいずれにおいても、耐切創性と伸縮性、更には柔軟性、フィット感等の快適性を併せ持った繊維製品は得られていなかった。
【0013】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたもので、金属片や鋭利な刃物などによる切創事故を防止するのに十分な耐切創性を有し、しかも伸縮性、柔軟性、快適性に優れ、身体によくフィットして運動機能性にも優れた、高機能の繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、芯糸に弾性繊維を用い、鞘糸に高機能フィラメント糸の捲縮糸を用い、芯糸を捲回する鞘糸の加撚方向を該鞘糸の仮撚り加工の加撚方向と逆にしたカバリング糸Bを単独で、または、該カバリング糸Bと芯糸を捲回する鞘糸の捲回方法を該鞘糸の仮撚り加工の加撚方向と同じにしたカバリング糸Aを併用することにより、他の高強度布帛等との積層が不要で、それ自体で伸縮性を保持しつつ耐切創性が飛躍的に向上した繊維製品が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、芯糸に弾性繊維を用い、それを捲回する鞘糸に高機能フィラメント糸の捲縮糸を用いてなる異種のカバリング糸Aおよびカバリング糸B、またはカバリング糸Bのみから構成されてなる繊維製品であって、前記カバリング糸Aは鞘糸がその仮撚り加工の加撚方向と正方向に加撚されており、前記カバリング糸Bは鞘糸がその仮撚り加工の加撚方向と反対方向に加撚されていることを特徴とする繊維製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐切創性、伸縮性、柔軟性に加えて、機械的強度に優れ、身体によくフィットして運動機能性に優れ、毛羽や埃の発生しにくいボディスーツなどの繊維製品を提供することができる。本発明の繊維製品からなる衣類を着用することにより、金属片や鋭利な刃物などによる切創事故を回避することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の繊維製品は、芯糸に弾性繊維を用い、それを捲回する鞘糸に高機能フィラメント糸の捲縮糸を用いてなる、異種のカバリング糸Aおよびカバリング糸B、またはカバリング糸Bのみから構成されてなる繊維製品であって、前記カバリング糸Aは鞘糸がその仮撚り加工の加撚方向と正方向に加撚され、前記カバリング糸Bは鞘糸がその仮撚り加工の加撚方向と反対方向に加撚されているものである。
【0018】
すなわち、芯糸に弾性繊維を用い、高強度、高弾性率の高機能フィラメント糸の捲縮糸を鞘糸に利用すると、高伸縮性かつ高機能のカバリング糸を提供することができるが、さらに、該鞘糸の加撚方向を仮撚り加工の加撚方向と反対方向にしたカバリング糸Bを入れて編織物を構成することにより、高いレベルの耐切創性を有する繊維製品を提供することができる。つまり、仮撚り加工糸は、それの加撚方向にトルクを持っており(その度合を残留トルク撚り数で表す)、そのトルクを打ち消す方向に加撚された鞘糸を編織物に入れることで、耐切創性向上効果が発現する。なお、残留撚り数が大きいほどトルクが大きいことを意味する。
【0019】
本発明において、カバリング糸Aは、(A−1)仮撚り加工の加撚方向がSで、カバリング加工の加撚方向がS、または、(A−2)仮撚り加工の加撚方向がZで、カバリング加工の加撚方向がZのものが用いられる。一方、カバリング糸Bは、(B−1)仮撚り加工の加撚方向がSで、カバリング加工の加撚方向がZ、または、(B−2)仮撚り加工の加撚方向がZで、カバリング加工の加撚方向がSのものが用いられる。本発明の繊維製品では、上記のカバリング糸AとBの任意の組合せ、またはカバリング糸Bの単独あるいは組合せであればよい。
【0020】
以下、本発明の繊維製品について図を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の繊維製品で用いるカバリング糸の一例を示す概略側面図である。この図のカバリング糸(ハ)は、芯糸である弾性繊維(イ)の周りを、鞘糸である高機能フィラメント糸の捲縮糸(ロ)によって一重または二重に捲回されて被覆されているものである。
【0022】
捲回する鞘糸は仮撚り加工でZ撚り(またはS撚り)が掛けられたものである。カバリング糸Aは、芯糸(イ)の周りをZ撚り(またはS撚り)の鞘糸(ロ)が捲回被覆している。一方、カバリング糸Bは、芯糸(イ)の周りをS撚り(またはZ撚り)の鞘糸(ロ)が捲回被覆している。
【0023】
本発明の繊維製品で用いるカバリング糸AおよびBにおける芯糸は、弾性繊維である。なかでも高い伸縮性を持つポリウレタン系弾性繊維、特にウレタン系スパンデックスが好ましく使用される。
【0024】
上記のポリウレタン系弾性繊維としては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートを主体とするイソシアネートと多官能活性水素化合物を反応させて得られるポリウレタン重合体を紡糸して得られたものが好ましく使用される。
【0025】
前記ポリマージオールとしては、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンエーテルグリコールのようなポリエーテルグリコール類、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類の少なくとも一種とアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、β−メチルアジピン酸、イソフタル酸などのジカルボン酸の少なくとも一種を反応させて得られるポリエステルグリコール類、ポリカプロラクトングリコール、ポリヘキサメチレンジカーボネートグリコールのようなポリマージオールの一種または二種以上の混合物または共重合物が使用される。
【0026】
また、前記有機ジイソシアネートとしては、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのような有機ジイソシアネートの一種または二種以上の混合物が使用される。この場合、さらにトリイソシアネートを少量併用してもよい。
【0027】
また、前記多官能活性水素化合物としては、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4´−ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジン、1,4−ジアミノピペラジン、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水などの一種またはこれらの二種以上の混合物が使用される。
【0028】
これらの化合物には、所望により、モノアミン、モノアルコールのような停止剤を少量併用してもよい。また、2,6−ジテトラブチルパラクレゾール、亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、ヒドロキシベンゾフェノン系またはヒドロキシベンゾチアゾールなどの光吸収剤または紫外線吸収剤、1,1−ジアルキル置換セミカルバジド、ジチオカルバミン酸塩などのガス黄変、劣化防止剤、および酸化チタン、酸化亜鉛などの白色顔料を適宜配合してもよい。
【0029】
かかるポリウレタン系弾性繊維の繊度としては、11〜940デシテックス(以下、dtex)の範囲が好ましく、22〜310dtexの範囲がより好ましい。11dtex未満であるとカバリングおよび製編、製織工程で糸切れの原因となり、また、衣服を形成したとき、着用時のフィット性が十分なものを得ることができない。一方、940dtexを越えると、剛性が高く、柔軟性の求められる衣料には向かない。
【0030】
また、破断伸度は300%以上であることが好ましい。破断伸度が300%未満であると布帛を形成したとき十分な伸縮性を得ることができない。
【0031】
ポリウレタン系弾性繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、円形であっても扁平であってもよい。
【0032】
本発明の繊維製品で用いるカバリング糸AおよびBにおける鞘糸は、高強度かつ高弾性率の高機能フィラメント糸の捲縮糸である。かかる高機能フィラメント糸としては、JIS L 1013に基づいて測定される引張強度が10cN/dtex以上、好ましくは15cN/dtex以上であるという高引張特性と、JISL 1013に基づいて測定される引張り弾性率が400cN/dtex以上であるという高弾性率とを満足する繊維が好ましく使用される。引張強度が10cN/dtex以上、かつ、引張り弾性率が400cN/dtexの高機能フィラメント糸を用いることにより、高度の耐屈曲性と耐摩耗性をカバリング糸に付与することができる。
【0033】
かかる高機能フィラメント糸を構成する素材としては、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(例えば東洋紡株式会社製、商品名「ザイロン」)、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリアミドイミド繊維(例えばローヌプーラン社製、商品名「ケルメル」)、超高分子量ポリエチレン繊維(例えば東洋紡株式会社製、商品名「ダイニーマ」)、LCP(液晶ポリマー)繊維などが好ましく使用される。これらの繊維のなかでも、耐切創性に優れている点から、アラミド繊維が特に好ましく使用される。
【0034】
前記アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維があり、メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が使用される。また、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)およびコポリパラフェニレン−3,4'−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が使用される。これらの中でも、特に、高強度特性および高弾性率とともに耐切創性、耐熱性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましく使用される。
【0035】
かかる高機能フィラメント糸の捲縮糸は、編織物を形成したときの風合いがソフトであり、さらに伸縮性に優れるという観点から、高機能フィラメント糸に仮撚り加工を施した捲縮糸が、好ましく使用される。捲縮糸は、仮撚り加工(加撚→熱セット→解撚)まで加工していない加撚、熱セットのみのものや、仮撚り加工した糸を撚糸したもの、仮撚り加工した糸に熱セットをしたもの、または撚糸した糸を仮撚り加工したものであっても良い。
【0036】
かかる高機能フィラメント糸に捲縮を付与する方法としては、例えば、特開2001−248027号公報に開示されているように、高機能フィラメント糸に下記式(1)で表わされる撚り係数(K)16,000〜35,000の撚りを加え、次いで130〜250℃の高温高圧水蒸気または高温高圧水処理を行って撚りを固定し、撚りの固定された撚り糸を前記と反対方向に撚りを解撚する方法がある。
【0037】
K=t×D1/2 (1)
〔但し、tは撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(dtex)を表す。〕
【0038】
また、パラ系アラミド繊維フィラメント捲縮糸条は、つぎの方法でも得られる。すなわち、パラ系アラミド繊維糸条に下記式(2)で表される撚り係数(K)16,000〜35,000の撚りを加え、次いで例えば空気中で加熱などの方法を用いて乾燥することにより、撚りを固定した後、撚りの固定された撚り糸を前記と反対方向に解撚ことによって得られる。このとき、該パラ系アラミド繊維として、好ましくは水分率15%以上、より好ましくは25%以上、特に好ましくは30〜100%であるものを使用するのがよい。該パラ系アラミド繊維に撚りを加える前の水分率が15%未満では、良好な撚りのセット効果が得られず、一方撚りを加える前の水分率が100%を越えると、リング撚糸機やダブルツイスターで撚りをかけるときに、遠心力で糸条から水分が飛び散って撚糸機が水浸しになるなど環境や作業性に支障をきたす。
【0039】
K=t×Dw1/2 (2)
〔但し、tは撚り数(回/m)を表し、Dwは水分を含む繊度(dtex)を表す。〕
【0040】
この方法は、撚り−乾燥(撚り固定)−解撚を別々の工程で行ってもよいし、例えば仮撚り加工法のように連続的に行ってもよい。
【0041】
かかる高機能フィラメント捲縮糸の伸縮復元率は、望ましくは4〜80%である。伸縮復元率が4%未満では、編織物を形成したときの風合いにおいてソフト感が劣り、また80%以上ではポリウレタン系弾性繊維との調和が悪く、カバリング糸の外観に凹凸が発生して好ましくない。また、残留トルク撚り数は、20回/m以上が好ましい。
【0042】
本発明にかかる高機能フィラメント糸は、上記高機能フィラメント糸の1種類からなっていてもよいし、任意の2種以上の上記高機能フィラメント糸からなっていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル、ナイロン、ポリビニルアルコール系繊維など他の公知の繊維との混繊、交撚などによる複合糸としても使用することができる。
【0043】
高機能フィラメント糸の繊度、フィラメント数は、用途目的に応じ、耐切創性、伸縮性、柔軟性、風合い等を考慮して適宜選択すればよい。
【0044】
鞘糸の繊度は、用途目的に応じて20dtex以上1600dtex以下の範囲が好ましい。
【0045】
さらに鞘糸の単糸繊度は、用途に応じて0.1dtex以上10dtex以下の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.4dtex以上5dtex以下である。0.1dtex以下では、製糸効率が低くコストアップとなり、10dtex以上では剛性が高く、柔軟性の求められる衣料には向かない。
【0046】
本発明において用いるカバリング糸は、優れた伸縮性を得る観点から鞘糸が芯糸の回りを一重に被覆したものであってもよく、また、優れた被覆性を得る観点から鞘糸が芯糸の回りを二重に被覆したものであってもよい。
【0047】
次に、本発明で用いるカバリング糸の製造方法について説明する。図2は本発明で用いるカバリング糸の製造方法の一例を示す概略模式図である。
【0048】
本発明においては、弾性繊維を芯糸として用い、その上から前記高機能フィラメント糸の捲縮糸を鞘糸として、カバリング糸Aは該鞘糸が仮撚り加工の加撚方向と同一方向に加撚されるように、また、カバリング糸Bは該鞘糸が仮撚り加工の加撚方向と反対方向に加撚されるように、それぞれ被覆する。
【0049】
被覆の際には市販のカバリング機等が好ましく用いられる。
【0050】
図2は二重被覆の例であり、図2において、芯糸1として使用する弾性繊維は転がし給糸ローラ3により積極送りされ、フィードローラ4との間で1.2以上2.4以下の範囲でプレドラフトし、転がし給糸ローラ3とデリベリローラ11の間のドラフトが2.4以上4.0以下の範囲となるように設定するが好ましい。
【0051】
鞘糸は、市販の高速ワインダーにより、Hボビン2に巻き取られた後、図2のように下段スピンドル5および上段スピンドル7に設置され、スピンドルを回転させることによって芯糸に巻き付けられ、カバリング糸を形成する。
【0052】
得られたカバリング糸は、テイクアップローラ13によりチーズ14に巻き取られる。
【0053】
なお、一重カバリング糸を製造する際には、上段スピンドルまたは下段スピンドルのいずれか一方にHボビン1本を設置して、スピンドルを回転させることによって芯糸に鞘糸を巻き付ける。
【0054】
鞘糸を芯糸に被覆する際、鞘糸の撚り数は、鞘糸の番手により適宜選択すればよいが、100〜2000回/mの範囲とするのが好ましい。
【0055】
また、二重に被覆する場合、上撚りは、下撚りのトルクを打ち消す観点から、撚り方向が下撚りと逆方向であることが好ましく、また同様の観点から上撚りの撚数は、下撚りの撚数の0.7〜0.9倍の撚数であることが好ましい。
【0056】
本発明のカバリング糸である高い伸縮性と耐切創性をもつ高機能フィラメント糸条は、通常の方法により、編み地や織物に加工して、次のような繊維製品に有用である。たとえば、突起物や鋭利な破片などから人体を防護する作業用衣料、各種スポーツやアウトドア活動用の衣料素材として適しており、これらの衣料の表地および/または裏地、中地、あるいは下着として用いることができる。具体的には例えば、各種レーシングウエア、各種手袋や靴下、前掛け、腕カバー、スパッツ、出目帽などがある。
【0057】
本発明による繊維製品は、カバリング糸Bのみを用いても良いし、カバリング糸AとBの組合せであってもよい。すなわち、カバリング糸Aが80〜0%、カバリング糸Bが20〜100%の比率で構成されていることが好ましい。カバリング糸Bを前記範囲内で含む繊維製品とすることにより、本発明の目的とする高レベルの耐切創性を有する繊維製品を得ることができる。また、異種のカバリング糸A、Bを組合せて編織物を作製する場合、その組合せ配列方法は任意であり、カバリング糸Bが編織物中に適度に分散して存在している状態であればよい。
【0058】
また、本発明の繊維製品は、フィラメント糸条から成るカバリング糸から構成されるため、毛羽やほこりを発生する紡績糸製品と異なり、毛羽やほこりが問題となるクリーンルームや、精密機器の組み立て作業などにおける作業衣や、防護衣料にも有用である。
【0059】
さらに、樹脂補強材としても有用で、高い伸縮性と耐切創性をもつ高機能フィラメント糸条を編み地や織物に加工して、これにエラストマーを含浸させたり、エラストマーと張り合わせ接着することにより、伸縮性あるいは伸縮性と耐切創性を併せ持った膜材が得られる。例えば、列車や自動車などのエラストマーを用いた膜材の補強材として有用である。具体的には列車の車両と車両の連結幌、自動車の取り外し可能な幌などがあげられる。
【0060】
本発明による編み地や織物は、伸縮性があって、凹凸面に添い易いことから、タイミングベルトの歯の表面の摩耗を防止するために歯の表面に配置される補強布(カバリングクロス)など、産業用ゴム製品の補強材としても有用である。建築物や構造物などの補強材としても有用である。例えば列車の高架橋の柱、建築物の柱、道路床盤などを樹脂と高強度繊維を用いて補強することが行われている。補強面に凹凸がある場合、従来は伸縮性のない高機能フィラメント織物が用いられてきたが、凹凸面に密着しないために空気層や樹脂だまりが形成され補強効果を低減する原因となっていた。本発明の高い伸縮性をもつ耐熱高機能フィラメント糸条からなる編み地や織物を、このような補強における繊維補強材料として用いると、建築物や構造物などの補強部分の凹凸面に良く追随密着するので、空気層や樹脂だまりを生じることがない。
【0061】
なお、本発明でいう編織物とは、織物や編み物、組み紐などの組み物、ロープ、など糸条物から作られる布帛およびひも状物を意味するものである。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における各特性値の測定方法は次の通りである。
【0063】
[耐切創性(切れ難さCut resistance )]
英国規格BS EN388の試験方法に準拠して評価を行った。評価装置は、円形の刃を試験サンプルの上を走行方向と逆方向に回転させながら走らせ、試験サンプルを切断し、刃が試験サンプルを貫通するまでのカウント値を計測した。ブランクとして、目付540g/mの綿のキャンバス生地を使用し、試験サンプルとの切創LEVELを評価した。
綿のキャンバス生地からテストを開始し、綿のキャンバス生地と試験サンプルとを交互にカウント値を計測し、試験サンプル5回分のカウント値の計測を終えたら、最後に綿のキャンバス生地の6回目のカウント値を計測して、1回のテストを終了し、1つのIndex値を算出した。なお、試験サンプルは全てフリーな状態でセットした。
また、Index値は、次式により算出される。
Index値=(サンプルのカウント値+A)/A
A=(サンプルテスト前の綿布のカウント値+サンプルテスト後の綿布のカウント値)/2
【0064】
[引張強度]
JIS L 1013:1999 化学繊維フィラメント糸試験方法8.5.1に準じて測定した。
[引張弾性率]
JIS L 1013:1999 化学繊維フィラメント糸試験方法8.10に準じて測定した。
【0065】
[伸縮復元率]
JIS L 1013:1999 化学繊維フィラメント糸試験方法8.12に準じて測定した。
【0066】
[残留トルク撚り数]
試料に4.4cNの荷重を吊るし、糸長さ方向に1mの間隔に印を付けたのち、該試料を横方向に固定する。次いで、上記1m間隔の中央(50cm)に0.13cNの荷重W1 を吊るすことにより、図3のように試料の両端を中央で合わせ、試料が回転して止まるまでの回転数Nを検撚機で読み取る。その読み取った回転数Nを2倍して残留トルク撚数(回/m)とする。
【0067】
(実施例1〜4)
[カバリング糸Aの製造]
東レ・デュポン(株)製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条220dtex(商品名「ケブラー」、単糸繊度1.65dtex、引張強度20.3cN/dtex、引張弾性率499cN/dtex)にダブルツイスターでZ撚りを加えて、撚り数1685(回/m)の撚り糸を得た。
【0068】
このときの撚り係数は、上記式(1)で表され、K=25000である。
【0069】
これを飽和水蒸気処理設備に入れ、200℃の飽和水蒸気処理を15分間行って撚りセットを行った。冷却後、ダブルツイスターで逆よりをかけて撚り数をほぼ0まで解撚し捲縮糸条を得た。得られた捲縮糸の伸縮復元率は9.6%、残留トルク撚り数は96.4回/mであった。
【0070】
44dtexのポリウレタン系弾性繊維(オペロンテックス(株)製、商品名「ライクラ」)を芯糸とし、前記の得られた220dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントの捲縮糸を鞘糸として用い、図2に示されるカバリング工程を使用して、以下の条件でカバリング加工を施した。
【0071】
ドラフト:3.0倍
撚り数:Z400回/m
スピンドル回転数:5000rpm
巻取比:96.0%
【0072】
[カバリング糸Bの製造]
44dtexのポリウレタン系弾性繊維(オペロンテックス(株)製、商品名「ライクラ」)を芯糸とし、上記のカバリング糸Aの製造に用いたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントの捲縮糸を鞘糸として用い、図2に示されるカバリング工程を使用して、以下の条件でカバリング加工を施した。
【0073】
ドラフト:3.0倍
撚り数:S400回/m
スピンドル回転数:5000rpm
巻取比:96.0%
【0074】
得られた一重カバリング糸Aと一重カバリング糸Bを、表1に示す混率で、下記の編成条件により釜径30インチの編機を用いて丸編み組織を編成した。カバリング糸の配列方法は、表1に示した繰り返しとした。
(編成条件)
・使用編機:16ゲージ×釜径30インチ
・編組織 :スムース
・糸速 :68.5m/分
・張力 :約4g/本
・給糸本数:20本
・回転数 :11rpm
・幅出し :72cm
【0075】
【表1】

【0076】
(比較例1)
上記のカバリング糸Aのみを用いた以外は、実施例1と同様の方法により丸編み組織を編成した。
【0077】
実施例および比較例で得た布帛の性量と特性を表1にまとめて示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表1から明らかなように、カバリング糸Bを使用した本発明例の編み地は、耐切創性が良好であるのに対し、カバリング糸Bを使用していない比較例1の編み地は、耐切創性が劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明で用いるカバリング糸A、Bの一例を示す概略側面図である。
【図2】本発明で用いるカバリング糸の製造方法の一例を示す概略模式図である。
【図3】残留トルク撚り数の試験方法の説明図である。
【符号の説明】
【0081】
A:カバリング糸A,B:カバリング糸B,(イ):芯糸,(ロ):鞘糸,(ハ):カバリング糸
【0082】
1:芯糸
2:鞘糸
3:転がし給糸ローラ
4:フィードローラ
5:下段スピンドル
6:下段ベルト
7:上段スピンドル
8:上段ベルト
9:Hボビン
10:スネルガイド
11:デリベリローラ
12:ガイドバー
13:テイクアップローラ
14:チーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸に弾性繊維を用い、それを捲回する鞘糸に高機能フィラメント糸の捲縮糸を用いてなる異種のカバリング糸AおよびB、またはカバリング糸Bのみから構成されてなる繊維製品であって、前記カバリング糸Aは鞘糸がその仮撚り加工の加撚方向と正方向に加撚されており、前記カバリング糸Bは鞘糸がその仮撚り加工の加撚方向と反対方向に加撚されていることを特徴とする繊維製品。
【請求項2】
前記高機能フィラメント糸が、JIS L 1013に基づいて測定される引張強度が10cN/dtex以上で、かつ、JIS L 1013に基づいて測定される引張り弾性率が400cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
前記高機能フィラメント糸が、アラミド繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維製品。
【請求項4】
前記アラミド繊維が、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維であることを特徴とする請求項3に記載の繊維製品。
【請求項5】
前記弾性繊維が、ポリウレタン系弾性繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項6】
前記繊維製品が、編織物である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−9378(P2007−9378A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195074(P2005−195074)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【出願人】(505252540)コアテキスタイル有限会社 (2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】